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53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/03/25(月) 20:20:34.04 ID:oUxuTfUO0
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川;゚ -゚)「…っ!」
( ´∀`)「目撃者、とは?」
( ><)「とある雑誌記者で、被告人のスキャンダルを企んでいたそうなんです」
(*゚ー゚)「エビフライデーの記者か……」
川 ゚ -゚)「…ん? エビフライデー?」
(*゚ー゚)「私のことをしつこくつけまわしてくる、ゴシップ誌です」
川 ゚ -゚)「ほう……、……?」
川;゚ -゚)「ま、待て! ということは――」
( ><)「トーゼン! 写真、とられてますよ。はい、これ」
川;゚ -゚)「(…… 『目撃者の写真』 ……!)」
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54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/03/25(月) 20:21:47.16 ID:oUxuTfUO0
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ワカンナインデスがにやにやしながら提示したそれには、
確かにしぃのものとわかる後ろ姿が写っていた。
写真の左半分が電柱であることから、例の雑誌記者の写真と見て間違いないだろう。
ギコ宅から、この記者とは反対の方向に走り去るしぃの後ろ姿が確認される。
そして問題は、その時刻だった。
( ><)「この写真を撮られたのは、18時の46分。記録に残ってるから、間違いないんです」
( ><)「これは、犯行をした証拠こそ写ってませんが、時刻そのものが立派な証拠となってるんです」
( ´∀`)「そういえば、先ほど……」
( ><)『死亡推定時刻は18時から19時、と解剖記録からわかったんですが……
犯行時刻は18時45分頃ではないか、という結果が捜査陣からあげられたんです』
( ´∀`)「……とありましたが、コレは……」
(=゚ω゚)ノ「そのことで、検察側からは更に一点、証拠を提出するよぅ」
川;゚ -゚)「(ま、まだ増えるのか……)」
.
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56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/03/25(月) 20:23:57.37 ID:oUxuTfUO0
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( ´∀`)「どれ。……すまーとふぉん……とやらですかな?」
(=゚ω゚)ノ「そうだよぅ。これとこの目撃者の写真が、
. “この犯行は被告人にしかできなかった” ことを証明するんだよぅ」
そう言っていようが提出したのは、薄い桃色が映えるスマートフォンだった。
それを見せられて、クールは更に嫌な予感がしてきた。
(=゚ω゚)ノ「これは、被告人――椎名しぃのスマホだよぅ。
. ちなみに、裁判長はスマホのことをどこまでご存じだよぅ?」
( ´∀`)「持ち歩くぱそこん、と聞いたことがありますな。最近私もはじめたのですよ」
(=゚ω゚)ノ「充分だよぅ。でも、重要なのはその多彩な機能じゃなくて…… “電話機能そのもの” なんですよぅ」
( ´∀`)「というと?」
(=゚ω゚)ノ「ちょっと、これを聞いてほしいですよぅ」
いようが言うと、ただでさえ静かだった法廷内が、いっそう静かになった。
息遣いや布擦れの音すら聞こえない。
いようが何かしたかと思うと、法廷内に、ややノイズ混じりの音が流れ始めた。
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57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/03/25(月) 20:25:10.85 ID:oUxuTfUO0
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『もしもし。俺だ、ギコ』
『すまんが、もう一度、俺の家に来てくれないか』
『……さっき、言い忘れたことがあったんだ』
『留守電でメッセージを入れるより、直接話したい』
『………待ってるぞ』
『キロク シマシタ
. 2ガツ14ニチ 18ジ36プン』
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58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/03/25(月) 20:27:05.79 ID:oUxuTfUO0
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(=゚ω゚)ノ「……もう一度流すかよぅ?」
( ´∀`)「いえ、結構です。しかし、これはいったい……?」
(=゚ω゚)ノ「 『留守電のメッセージ』 だよぅ。今の声の主が、被害者だよぅ。
. どうやら被害者は、なにか用があって被告人を呼び出したそうなんですよぅ」
川 ゚ -゚)「ま、待った!」
(=゚ω゚)ノ「なんだよぅ?」
川;゚ -゚)「それは、ひ、被害者の携帯電話の発信履歴と
. 照らし合わせたが上での、しょ…そう、証拠なのか?」
(=゚ω゚)ノ「……」
川 ゚ -゚)「(…なんだ?)」
クールはたどたどしい口調で、その点を訊いた。
ただの時間稼ぎのつもりで、だ。
しかし、いようは黙った。
クールは「いい線を衝いていたのか?」と思った。
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60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/03/25(月) 20:28:22.99 ID:oUxuTfUO0
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(=゚ω゚)ノ「…刑事」
( ><)「はッ! 目下捜索中なんです!」
川 ゚ -゚)「…… “捜索中” ?」
予想外の言葉を放たれ、クールは復唱して訊いた。
「ええ」と、ワカンナインデスは首肯した。
( ><)「きっと、被害者の携帯電話のデータが見られるのを恐れて
被告人が捨てたものだと思われるんです」
(=゚ω゚)ノ「 『目撃者の写真』 を見てもわかるように、
. 被告人には被害者のケータイを捨てる機会はあったよぅ。
. 動機を悟られないために、と考えれば、辻褄が合うよぅ」
川 ゚ -゚)「(…… 『紛失した携帯電話』 か。覚えておこう)」
(=゚ω゚)ノ「いいかよぅ?」
川;゚ -゚)「あ、えっと…はい」
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61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/03/25(月) 20:29:33.03 ID:oUxuTfUO0
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「よし」と言って、いようは本題に戻った。
(=゚ω゚)ノ「そして、こちらの問題もやはり 『時刻』 ですよぅ」
( ´∀`)「時刻…?」
(=゚ω゚)ノ「事件当日の、18時36分……」
(=゚ω゚)ノ「この証拠によって “このときまで被害者は生きていた” ということが証明されたよぅ」
(=゚ω゚)ノ「また一方で、この 『目撃者の写真』 により、被告人が逃げ出したのが18時46分だとわかってるよぅ」
(=゚ω゚)ノ「この間に犯行を行えたのは……」
(=゚ω゚)ノ「椎名、しぃ!」
(=゚ω゚)ノ「あなたしか、ありえないんだよぅ!」
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64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/03/25(月) 20:30:49.61 ID:oUxuTfUO0
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いようは、そう言っては弁護席の前で座るしぃに指を突きつけた。
当のしぃはうつむいているも、どこか生気が感じられなかった。
川 ゚ -゚)「異議あり!」
川 ゚ -゚)「そ、その……」
(=゚ω゚)ノ「?」
川;゚ -゚)「……コホン」
川;゚ -゚)「………その時間帯に被告人が被害者宅を訪れた
. というだけで犯人だ、というのは、いささかトッピすぎやしないか……な?」
( ><)「訊かれても困るんです」
( ´∀`)「しかし、それはもっともです。ただの状況証拠にすぎませんからね」
川 ゚ -゚)「(ホッ)」
裁判長がクールに助勢する。
しかし、いようはククク、と不敵に笑んだ。
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66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/03/25(月) 20:31:53.72 ID:oUxuTfUO0
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(=゚ω゚)ノ「ったく、弁護人も人が悪いよぅ」
川 ゚ -゚)「…」
(=゚ω゚)ノ「 “それだけではない” ……それをよく知っているのは、あなたじゃないかよぅ?」
( ´∀`)「……ということは、ある、のですね?」
( ´∀`)「…… “決定的な証拠” が」
(=゚ω゚)ノ「当然だよぅ。先に外側から固めて、確実に被告人の罪を立証しようとしてたんだよぅ」
(=゚ω゚)ノ「それを今から、引き続き刑事に証言してもらうよぅ。まかせたよぅ?」
( ><)「ガッテン!」
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67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/03/25(月) 20:33:10.59 ID:oUxuTfUO0
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川 ゚ -゚)「……」
(* - )
クールは、しぃを見る。
先ほどまでの明るい様子とは違い、どこか憂えているように見えた。
しかし、そんな彼女の様子など、クール以外誰も気に留めない。
ワカンナインデスは、相変わらずな様子で証言を再開させた。
( ><)「 『目撃者の写真』 と 『留守電のメッセージ』 から、犯行時刻は特定されたも同然なんです」
( ><)「だからこそ、この証拠品の持つチカラが、ゼッタイとなるんですよ」
( ><)「……コレ、です」
( ´∀`)「これは……ずばり?」
( ><)「 『拳銃』 ですよ、モチロン」
川;゚ -゚)「(……くッ!)」
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69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/03/25(月) 20:37:09.54 ID:oUxuTfUO0
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ワカンナインデスは、ビニル袋に入った拳銃を提示した。
ちいさいが、しかし人間相手であれば殺傷力に問題はないであろうものだ。
その拳銃の持つ意味を、ワカンナインデスが説明しはじめた。
( ><)「現場に放り出されていたんですがねえ。
この拳銃の柄には、ちゃあんと残ってたんですよ……」
( ><)「被告人の指紋が、ね!」
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70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/03/25(月) 20:39:09.24 ID:oUxuTfUO0
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川;゚ -゚)「…ッ」
( ´∀`)「な、なんと!」
傍聴人が、そのことを聞いて、小声で話し始める。
その内容だが、どれも、「やっぱりしぃが殺したんだよ」などといった、
彼女の有罪を肯定するものばかりだった。
その言葉だけでしぃ本人には精神的ダメージを与えられるので、弁護側はいっそう不利となる。
クールは更にいっそう、苦い顔を浮かべた。
――彼女が、開廷前から憂えていた理由。
凶器の拳銃には、しぃの指紋がついていたのだ。
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72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/03/25(月) 20:40:13.25 ID:oUxuTfUO0
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( ><)「トーゼン、現場で見つかった二つの弾丸は、この拳銃から撃たれたものとなってます」
( ><)「センジョーコン?が一致したので、間違いないんです!」
川 ゚ -゚)「( “線条痕” ……おなじみ、だな)」
発砲するさい、弾丸は銃のなかにあるライフルラインを通る。
それによって、弾丸はちいさな傷を負うのだ。
それを線条痕と言い、その傷跡を調べれば、その弾丸がどの銃から撃たれたものかがわかる。
川;゚ -゚)「(しかし……これはまずいぞ)」
クールが憂慮している間も、法廷内では検察側優勢の空気が漂っていた。
裁判長が数回手を叩いて、そのざわめきを宥める。
しかしそれでも、空気が変わることはなかった。
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74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/03/25(月) 20:41:23.94 ID:oUxuTfUO0
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( ><)「以上のことを踏まえて、もう一度あらましを言うんです」
( ><)「まず、被害者は18時36分に、被告人を呼び出すべく、留守電にメッセージを残した」
( ><)「そして被害者宅を訪れた被告人は、被害者に先導されてリビングに向かうが――」
( ><)「リビングに入ったと同時に、被告人が一発目を撃った!
しかしそれは被害者に命中せず、台所にあった花瓶に直撃」
( ><)「ベランダに逃げようとした被告人を後ろからもう一度撃ち――
……被害者は、儚くなって、おしまいなんです」
( ><)「慌てて、被告人は被害者宅から逃走。
18時46分、目撃者が写真とともにそれを見ました」
( ><)「……そうそう。これが、その台所の上にあった 『割れた花瓶』 です。
置かれていたところに跡があったから、
少なくとも一日は 『上画面』 の位置にあったと思われるんです。
あ、花はなかったんです」
ワカンナインデスは、大きな袋に入ったそれを提示した。
裁判長が受理したところで、ワカンナインデスの語調は戻る。
( ><)「どうです? これは、被告人が犯人じゃないとありえない犯行なんです」
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75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/03/25(月) 20:44:00.50 ID:oUxuTfUO0
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そう締めくくって、ワカンナインデスは口を閉じた。
クールが冷や汗を流す一方で、裁判長は何度も繰り返しうなずいていた。
裁判長の心証は、弁護側にとってよくない方向に動いたようだ。
( ´∀`)「よく、わかりました。確かに椎名さんにしか犯行はできないようですね」
川;゚ -゚)「い、異議ありっ!」
(=゚ω゚)ノ「……ちなみに、むやみに異議を唱えたら、その分ペナルティーを与えるよぅ」
川;゚ -゚)「…?」
(=゚ω゚)ノ「序審法廷制度にとって、遅延行為は一番のタブーなんだよぅ。
. だから、コンキョのない異議や指摘を繰り返したら、その時点で判決を下してもらうんだよぅ」
川;゚ -゚)「………くッ」
( ´∀`)「ちなみに、今の異議は?」
川;゚ -゚)「……まだ、弁護側には尋問の権利が残っている、ということだ」
( ´∀`)「シゴクもっともです。では、尋問に移りましょう」
( ><)「かかってこいなんです!」
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76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/03/25(月) 20:45:11.84 ID:oUxuTfUO0
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川;゚ -゚)「(……ついに、尋問だな)」
川;゚ -゚)「(だ、大丈夫……だよな?)」
川 ゚ -゚)「(とりあえず、大量に証拠品が出てきたから……情報をまとめるとしよう)」
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77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/03/25(月) 20:46:30.73 ID:oUxuTfUO0
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まず、問題となるのは 『拳銃』 だ。
拳銃にはしぃの指紋が残っている。
撃たれた弾は二発だけ、と資料には記されているように、
現場では二発、確かに発砲が確認されている。
一発が、台所の上にあった花瓶に直撃。
花瓶は硬かった、加えて微妙に掠めるように着弾したため、
弾丸は軌跡を大きくずらされ、近くに転がったらしい。
もう一発は、血を伴ってはソファーにめり込んでいた。
しぃが廊下からリビングに入って、ギコがベランダへ逃げようとするのを阻止して撃った――
この流れとなんら食い違いのなさそうな、弾丸だ。
『解剖記録』 も、また重要なデータである。
司法解剖による死亡推定時刻は、18時から19時。
後頭部を銃で撃たれたことで即死したようだが、
ほかにも額に殴打された痕が残っている、とある。
『拳銃』 だけなら「偶然触っただけ」などで言い逃れができたかもしれないが、
それを不可能にさせるのが、「犯行における時間的猶予」だった。
ギコがしぃを呼び出した18時36分から、『目撃者の写真』 で証明されている46分までの間。
その間に、しぃはギコ宅に足を運んでいる、というのだ。
弁護する立場でありながら、どうもしぃが無実であるとは思えなかった。
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79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/03/25(月) 20:47:56.54 ID:oUxuTfUO0
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川 ゚ -゚)「(……こんなものだろう)」
( ><)「どうしたんです? 降参ですか?」
『上画面』 、『解剖記録』 、『留守電のメッセージ』 、
『目撃者の写真』 、『割れた花瓶』 、そして『拳銃』 。
いきなり、どんと証拠が舞い込んできたなあ、とクールは思った。
それも、弁護側にとって不利でしかないようなものばかりだ。
しかし
川 ゚ -゚)「証言を聞いていて、気になったことがある」
( ><)「なんでも訊いてほしいんです!」
素直クールは、弁護士なのだ。
たとえどんな苦境に立たされていても、
彼女は弁護士である以上、歩みを止めるわけにはいかないのだ。
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80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/03/25(月) 20:49:13.08 ID:oUxuTfUO0
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川 ゚ -゚)「 『留守電のメッセージ』 だが……つまり、これは 『留守電』 なのだ」
( ><)「それがどうしたんですか」
川 ゚ -゚)「留守電につながった、ということは、被告人はすぐに電話をとれなかった、ということ」
川 ゚ -゚)「しかし、そこから十分以内に被告人は被害者宅を訪れ、殺害を済ませた、となる」
川 ゚ -゚)「…… “時間がかみ合わない” のだよ」
クールは落ち着いた声で、そう言った。
すると、前で落ち込んでいたしぃが、顔をあげては振り向き、横目でクールのほうを見た。
そのときの顔は、開廷前のそれに戻っていた。
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81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/03/25(月) 20:50:19.24 ID:oUxuTfUO0
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(*゚ー゚)「…」
川 ゚ -゚)「…?」
(*゚ー゚)「いまのツッコミ、かっこよかったです」
川 ゚ -゚)「……」
川* - )「…ま、まあ……こんなものさ」
照れて、クールは顔をうつむけた。
その間、法廷内の人がまた、弁護席を注視していた。
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83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/03/25(月) 20:51:12.69 ID:oUxuTfUO0
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( ><)「ええと……」
( ´∀`)「つまり、どういうことですかな?」
川 ゚ -゚)「まず、大前提として、犯行は 『留守電のメッセージ』 、つまり36分以降に行われたのだ。
しかし、一方で 『目撃者の写真』 にあるように、それは46分で終わっている」
川 ゚ -゚)「当時、被告人が家にいたとしたら……留守電を確認して、被害者宅に向かって……」
川;゚ -゚)「それだと、被害者宅に向かうまでに
. もっと時間を食うことが予想されるのでは、ない……ので、は…?」
(;*゚ー゚)「(最後まで自信もって!)」
やはり、“初” の弁護士なのだ――
そう思ってしぃが不安がったが、しかしクールの示した疑問はもっともだった。
しぃとて、ギコから呼び出されるということを予測していたわけではない。
むしろ予想外のことだったに違いないのだ、彼女を呼び出したのが “留守電” である以上は。
しかも、もし犯人がしぃだったとすると、彼女はそれを知ってから十分以内に現場を訪れて
銃を二回撃つ犯行をこなし、そのまま逃げ去っている。
予想外だった呼び出しの対応にしては、いささか「速すぎる」犯行じゃないか――
そう思ったがうえでの、弁護側の指摘だった。
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86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/03/25(月) 20:52:40.23 ID:oUxuTfUO0
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しかし。
ワカンナインデスは得意げな顔をして「やれやれなんです」と言った。
( ><)「あなた、依頼人と打ち合わせしたんですか?」
川 ゚ -゚)「…え?」
( ><)「この時間帯、被告人がいた場所。
それが、いまの指摘にカンペキな答えを示すんです」
( ´∀`)「それは話が早い。どこにいた、というのですかな?」
( ><)「近所のお菓子屋さんなんです。
18時36分、その店の防犯カメラに被告人が映っていたことが確認されてます」
( ´∀`)「? しかし、それがなんの――」
( ><)「そして、捜査陣、それも女性二人に協力してもらったんですが……」
( ><)「被害者宅からこのお菓子屋さんまで……徒歩五分。
信号もないし、走ればもっと短い時間で済むんですよ」
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87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/03/25(月) 20:54:06.14 ID:oUxuTfUO0
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( ´∀`)「…! なるほど」
(=゚ω゚)ノ「だから、被告人が店でその留守電を確認してから被害者宅に向かい、
. 犯行に及んで逃走――は、時間的に充分可能だったんですよぅ」
( ´∀`)「 『防犯カメラの映像』 、これは犯行が時間的に可能だったことを示す証拠となりますね。
受理しましょう」
川;゚ -゚)「(また証拠を増やしてしまった……!)」
その映像を法廷内のモニターに映し、皆で確認する。
確かにそこには、店内を歩き回るしぃの姿、
そしてスマートフォンを手に取る姿までもが映っていた。
18時37分、留守電に気づいたしぃは、すぐさま店を出た。
ここで防犯カメラの映像は終わっている。
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89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/03/25(月) 20:55:32.24 ID:oUxuTfUO0
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( ><)「これで、弁護側の疑問には答えたんです。まだなにか、ありますか?」
川;゚ -゚)「ね、捏造じゃないんだろうな?」
( ><)
( ;><)「――ハア!? ぼ、僕が捏造したとでも言うんですか!?」
(=゚ω゚)ノ「異議ありィ! いまの発言は、検察側に対する冒涜ですよぅ!」
( ´∀`)「素直さん。認めたくない気持ちはわかりますが、
ちゃんと受け止めないと弁護士は務まりませんよ」
川;゚ -゚)「す、すまない」
(=゚ω゚)ノ「ちなみに、当時店内にいた店員からも証言をもらってるよぅ。
. 被告人はアイドル。ファンだった店員は、彼女が店を出る時間帯まで把握していたよぅ。
. その結果、『防犯カメラの映像』 と証言内容が合致していたよぅ」
( ´∀`)「素直さん、ナットクしましたか?」
川;゚ -゚)「………一応」
.
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98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/03/25(月) 21:06:48.69 ID:oUxuTfUO0
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(=゚ω゚)ノ「で、もう尋問はおしまいかよぅ?」
川;゚ -゚)「え、えっとだな……その。」
(=゚ω゚)ノ「無理して訊く必要もないんだよぅ。無いなら無い、って言ってほしいよぅ」
川 ゚ -゚)「ちなみに、無いと言ったら?」
( ´∀`)「即有罪」
川;゚ -゚)「ある! まだ、尋問は終わってない!」
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101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/03/25(月) 21:08:38.88 ID:oUxuTfUO0
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(;*゚ー゚)「べべ、弁護士さん…っ。なにか、ないんですか?」
川;゚ -゚)「……なにか、とは」
開廷後まだ数十分ほどしか経っていないのにもかかわらず、
もう絶望しか見えない窮地にこの二人は立たされていた。
犯行そのものは、可能だった。
アイドルという身分だけで動機はあったも同然。
犯行に使われた拳銃にはしぃの指紋が。
二つの証拠により、犯行時刻まで特定されている。
こんな状況で、新米であり “初” のクールはなにをすればいいかわからなくなっていた。
その周章は目の前にいるしぃにも伝わったようで、
人事ではないしぃはクール以上に冷静を欠いていた。
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104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/03/25(月) 21:10:41.68 ID:oUxuTfUO0
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(;*゚ー゚)「私は……殺して、ない………。ほんとう、なんです」
川;゚ -゚)「しかし、こんなに証拠があっては……」
(;*゚ー゚)「……私には、わからないけど、」
川;゚ -゚)「…?」
(;*゚ー゚)「私は……やってない」
(*゚ー゚)「……だから。 “証拠のうちどれかはニセモノである” ……そう、思うんです」
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105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/03/25(月) 21:13:10.66 ID:oUxuTfUO0
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川;゚ -゚)「でも、検察側が捏造するなど……」
(*゚ー゚)「そうじゃなくって」
川 ゚ -゚)「…?」
(*゚ー゚)「 “見方が違う” …んだと、思います」
川 ゚ -゚)「見方?」
(*゚ー゚)「私は、殺して……ない」
(*゚ー゚)「でも、証拠品の数々がそれを示してる」
(*゚ー゚)「だとすると……」
(;*゚ー゚)「………アレ。なんて言えばいいんだろう……」
川 ゚ -゚)「…」
川 ゚ -゚)「………ダマされている……?」
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107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/03/25(月) 21:15:17.51 ID:oUxuTfUO0
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(*゚ー゚)「! そう、それです!」
(*゚ー゚)「 “これは被告人が殺した何よりの証拠である” ……ってのは、
その証拠品にとって数ある見方のうちの一つに過ぎない……だから」
(*゚ー゚)「なんとか “違う。これは実はこういう意味だったのだ” とか言って、
テキトーにそれらしいデマカセでも言えば、たぶん……なんとか、なります」
川 ゚ -゚)「……」
しぃが、まくし立てるように、且つ小声で言ってくる。
それを聞き終えて、クールは腕を組み、「フム」と今しがたの言葉をまとめてみた。
すると、畢竟なにをすればいいのか、がわかった。
川;゚ -゚)「……わ、私に、ハッタリをかけろというのか!?」
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109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/03/25(月) 21:17:24.17 ID:oUxuTfUO0
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(=゚ω゚)ノ「……あの。さすがに、法廷を無視してひそひそ話されると、こっちもハラが立つよぅ」
( ´∀`)「一応、あなたは “初” ということで今回は大目に見てますが……」
川 ゚ -゚)「……フッ。ちょっと、ジジツ関係を確認していただけだ」
( ´∀`)「ほう! して、そのジジツ関係、とは?」
川 ゚ -゚)「証拠品の “見方” を、ちょっと……ね」
(=゚ω゚)ノ「……まさか、また『捏造だー』とか言わないよぅ?」
川 ゚ -゚)「まさか。というのも、まだ開廷したばかりだというのに
大量の証拠品があがったのでね。一つひとつを検討したい。
……弁護側は、そう考えている」
( ´∀`)「 “初” にして、実にサマになっている弁護。……ムム、これは化けるかもしれませんねえ」
(=゚ω゚)ノ「いいよぅ。その度胸に免じて、いまの遅延行為は見逃してあげるよぅ」
川 ゚ -゚)「ははは」
川 ゚ -゚)
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111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/03/25(月) 21:18:57.01 ID:oUxuTfUO0
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川;゚ -゚)「(……こうなったら、まずはハッタリで凌ぐしかない!)」
クールは破れかぶれになりながら、証拠品を見つめなおした。
いま手元にある証拠品やデータは、以下の十個だ。
『上画面』 。
弾痕の場所が記されている。
『解剖記録』 。
18時から19時までの間に、後頭部から発砲され即死。
額に生前できてまもない打撲の痕が確認されている。
『拳銃』 。
二発撃った形跡が。
柄にはしぃの指紋が残っている。
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114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/03/25(月) 21:20:16.76 ID:oUxuTfUO0
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『割れた花瓶』 。
キッチンに置かれていた、一度目の発砲により割れた花瓶。
花が生けられていた痕跡はないが、一日以上は『上画面』の位置にあった。
『留守電のメッセージ』 。
18時36分のギコのメッセージが残されている。
内容はしぃを呼び出すもの。
『目撃者の写真』 。
週刊エビフライデーの記者が18時46分に撮った写真。
しぃがギコ宅から逃げる後ろ姿を激写。
『防犯カメラの映像』 。
18時37分にしぃが菓子屋を出ていく様が映されている。
そのとき勤めていた店員の証言とも合致。
『紛失した携帯電話』 。
猫乃ギコの携帯電話は現場から発見されなかった。
逃走のさいにしぃが捨てたものと考えられている。
『弁護士バッジ』 。
クールの歯形が少し残っている。
『しぃのブロマイド』 。
水着姿のしぃが半目で写っている。
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118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/03/25(月) 21:22:55.68 ID:oUxuTfUO0
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川 ゚ -゚)
川 ゚ -゚)「……」
川 ゚ -゚)「(……カンペキすぎる)」
カンペキ、といっても、プラスの意味ではなかった。
「カンペキにしぃの犯行を立証している」という意味である。
(=゚ω゚)ノ「どうしたよぅ?」
川 ゚ -゚)「あ…そ、そうだな」
――しかし、ここで苦境を感じているのを顔にすれば、「即有罪」となるだろう。
それだけは、弁護士として避けなければならない。
クールは、勝手に動く口と手に命運を預けるしかなかった。
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