(*^ω^)<20minutes challenge!

【初恋螺旋】

224 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/07/11(木) 03:41:38 ID:PVACIT/E0
【初恋螺旋】

賑やかな喧騒が、どこか遠くに聞こえる。
ここはサーカスの裏側。いわゆる楽屋とか呼ばれる、お客様には見せられない部分だ。

Σz ゚ー )リノ<やあ、ジョイナス。調子はどうだい?

部屋の中と外を区切る、垂れ幕を持ち上げて、スニフィは中にいたピエロに笑いかけた。

( 〈i〉ω〈i〉)<ギエ〜! そこは僕の……あれ、めずらしいお客さんだ日暮里

芸の練習中だったのだろう、大げさな悲鳴をあげていたピエロは、スニフィに気付くと急に声を低くした。
彼女はそれを見て、くすくすと笑う。

Σz ^ー )リ<また例の芸の練習かい? まったくキミはがんばりやさんだねえ

(;〈i〉ω〈i〉)<からかわないでほしい日暮里……結構難しいんだ日暮里。お客様に笑ってもらうのって

Σz ゚ー )リ<そうだね、”笑わせる”のは大変だろうねえ。その点、ボクなんて楽なものだよ―――

そう言って、スニフィは足元に落ちていた紙きれをひょい、と持ち上げるとそれを顔の前に持っていく。
そして、口をすぼめた。

ぼっ

Σz ^ー )リ<―――この通り、”驚かせる”のは一瞬ですむ。労力はキミの二分の一程度じゃないかな?

自らの口から出た炎で消し済みとなった紙きれをぽい、と宙に投げ捨て、彼女は笑った。

(;〈i〉ω〈i〉)<むー、相変わらず凄い手品だ日暮里……

Σz ^ー )リ<いや、簡単だよ。修得するまでの労力さえ惜しまなければ、誰にでもできる

腰に手を当てて、にこやかに少女は言う。
ピエロはそれを、尊敬しているような、あるいはただ呆れているだけのような表情で見ている。

(;〈i〉ω〈i〉)<……それができないから、結局みんな才能がどうとのとかいって、色々諦めるしかないんだ日暮里

Σz ゚ー )リ<うーん、そうかなあ。たしかに「みんな怠けすぎじゃない?」って思うことってあるけどね、結構

納得いかない、という風に首をかしげている少女に、ピエロは深々とため息を吐いた。

225 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/07/11(木) 03:43:31 ID:PVACIT/E0
少女―――酒蔵スニフィは、それなりに名の売れたマジシャンだった。
天才的な炎を用いたマジックは、かつてこのサーカスに多くの来客をもたらしたものだ。
『龍姫のスニフィ』かつて彼女は、そんなあだ名で呼ばれていた。

( 〈i〉ω〈i〉)<今日ここに顔を出したってことは、そろそろ復帰してくれるのか日暮里?

Σz -ー )リ<うーん……

言われて少女は、頬をぽりぽりとかいた。
ピエロはやっぱりため息を吐いた。お客さんの前では絶対に見せられない行動だが、ここは楽屋である。

( 〈i〉ω〈i〉)<……ラプチャーのことか日暮里?

Σz -ー )リ ……

( 〈i〉ω〈i〉) ……

気まずい沈黙が、テントの中に流れた。

ラプチャーというのは、すこし前までこのサーカスで働いていた芸人である。
筋骨隆々な見た目で、腕が片方しかなく、その一本しかない腕で様々な芸を編み出し、観客を魅了していた。
しかし、今ラプチャーはここには居ない。
片腕芸人ラプチャーは、自身の得意としていた一本腕逆立ち綱渡りの練習中、
うっかり手を滑らせてそのまま帰らぬ人となってしまったのだ。

Σz -ー )リ<彼は……

( 〈i〉ω〈i〉)<っぽり?

Σz -ー )リ<彼はボクの理想だった。片腕しかないというハンデをものともせず、
         ”誰にも真似できないこと”を、ずっと探求していた。

( 〈i〉ω〈i〉) ……

Σz ゚ー )リ<さっきも言ったけどボクの芸なんて、労力さえいとわなければ誰にだってできる。
         しかし、彼は違う。彼の芸は、彼にしかできなかった。
         片腕だから、とかじゃない。彼は、彼にしか持てない”輝き”を持っていた

( 〈i〉ω〈i〉)<……きみだって、それは持ってるんじゃないか日暮里?

Σz -ー )リ<残念ながら、それが持てないから、ボクはここにもどってこれないんだよ、ジョイナス。
         彼の穴埋めをしなくては、という責任感はある。でも、ボクの芸では足りなさすぎるんだ。

( 〈i〉ω〈i〉)<……そんなことは

Σz ゚ー )リ<いや、あるよ。鏡に映して自分の演技を見ても、ラプチャーの演技をみる時のような”ときめき”を感じないんだ

スニフィにきっぱりと断言されてしまって、またピエロは黙るしかなかった。

226 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/07/11(木) 03:45:23 ID:PVACIT/E0

Σz -ー )リ<あるいはこれは初恋の相手を思う乙女の気持ち、みたいなものなのかもしれない

(;〈i〉ω〈i〉)<はつこ……っぽり!?

ステージの上でもないのに、大げさに驚くピエロに、少女は首を傾げる。
それに対しピエロは「いいから続けて」と、続きをうながした。

Σz ゚ー )リ<う、うん。実際にはボクの芸は、もうラプチャーを超えたのかもしれない。
         でも、女の子にとってのかなわなかった初恋の相手が、ずっと”一番良い物”として記憶に残り続けるように、
         はじめてときめきを感じた”ボクの中の彼の芸”をボクは永遠に超えられないんじゃないか……そんな気がするんだ

静かな声で言い終ると、スニフィはピエロの方を見た。
ピエロは、なぜだかほっとしたような顔をしていて、だから彼女は再び首を傾げた。

Σz -ー )リ<うーんと、変な話をしちゃったような気がするね。
         ごめんね、今日はこれで失礼させて……

( 〈i〉ω〈i〉)<やっぱり、スニフィは帰ってくるべきだ日暮里!

Σz;゚ー )リ<え?

ピエロは少女の肩を掴んで、真剣な表情で言った。

( 〈i〉ω〈i〉)<スニフィは自分の芸に”ときめき”を感じないかもしれないけど、
              お客さんはそうじゃない日暮里。スニフィの芸が”初恋”で、
              ずっとスニフィの芸に”ときめいて”いるお客さんはいっぱいいる日暮里!

Σz;゚ー )リ<じょ、ジョイナス? いや、そう言ってくれるのはうれしいけど、でも―――

( 〈i〉ω〈i〉)<自信がないのは分かる日暮里。ラプチャーが死んだショックがあるのも分かる。
              でも、お客さんやそれに、僕も。きみの芸に”初恋”をして、きみの芸が”一番良い物”で、
              きみの芸を待っている。そんな奴もいる日暮里! だから―――

気付けば、ピエロの肩が震えていた。

::( 〈 〉ω〈 〉):<―――だから、戻ってきてほしい日暮里。きみを目指す、ぼくの為にも

Σz;゚ー )リ

227 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/07/11(木) 03:47:54 ID:PVACIT/E0

Σz;゚ー )リ

Σz -ー )リ

Σz ゚ー )リ

Σz ゚ー )リ<ごめんね、ジョイナス。ボクはやっぱりまだ戻れない

( 〈 〉ω〈 〉) !

Σz ゚ー )リ<”初恋”の話は、物の例えだよ。
        ボクはやっぱりまだ、ラプチャーの芸を超えられたとは思えないし、だから、まだ帰らない。

少女は、ピエロに背を向けて歩きだした。
ピエロは、黙ってそれを見ている。

と、ふいに少女は立ち止まり、思い出したように言った。

Σz ゚ー )リ<そうそう、そういえば生前のラプチャーにもしたことがあるんだ、”初恋”の話

( 〈i〉ω〈i〉) ?

Σz ゚ー )リ<そのとき、彼はこう言っていた。「自分にもそういうものがあるかもしれない」と。
         それに対して、ボクは「それは一体誰の、どんな芸なのか」って聞いたんだ。
         そしたら、なんて答えたと思う?

びっ、と彼女はピエロのほうを指さした。

Σz ゚ー )リ9m<彼はこう言ってたんだ。「面白いピエロがいたんだ、隻腕になった俺に始めて笑顔をくれた」って

(;〈i〉ω〈i〉) !!

228 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/07/11(木) 03:48:49 ID:PVACIT/E0

Σz ^ー )リ<わかるかい、ジョイナス。彼の”初恋”はキミだったのさ。
         だから、ボクはキミに会いに来たんだ。彼の”初恋”の芸を見れば、
         彼を超えるヒントが得られるかもって思ってね

「ただ、面白いことに、キミの初恋はボクだった」と、彼女は少し照れくさそうに言って

Σz*^ー )リ<とんだ初恋スパイラルだね。”初恋”の人の”初恋”を追いかけて、結局ボクは自分の芸に戻って来てしまった。
        だからボクは、自分の芸を見つめ直すことにするよ。そして、いつかこのサーカスに戻ってくる
        だから、今日のところは失礼するよ

スニフィの足元から、ぼっ、と炎が上がった。
それはたちまち彼女を覆い隠し、そして炎が消えたとき、彼女の姿はそこにはなかった。
『龍姫のスニフィ』お得意の消失マジックだ。

(;〈i〉ω〈i〉) ……

ピエロは、しばらくその場で、ぼーっと突っ立っていることしかできなかった。

( 〈i〉ω〈i〉)=3 

しかし、しばらくして、一つため息を吐くと、彼は楽屋に帰って行った。
こうしては居られない。彼女が戻ってきたとき、サーカスの看板として恥ずかしい芸はできないのだ。

ただ、彼は少しだけ残念でもあった。

(*〈-〉ω〈-〉)(半分は、告白のつもりだったんだけど……)

やはり、初恋はかなわないものなのだろうか?
そんなことを思いながら、ピエロは練習を再開したのだった。

     +┗(⌒)(^^)おしまい(^^)(⌒)┛+

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