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376 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 22:02:45 ID:alE8X3hE0
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それから、おじいちゃんたちは少しだけいい子になったみたい。
他から見ると全然いい子じゃなかったみたいなんだけどね。
おばあちゃんが聞いた話では、なんというか……、「とんでもない、じいさんだった」みたい。
それからのことを少し話すわね。
おじいちゃんたちは、あの夜見かけた馬のことだけは村の誰にも話さなかった。
というよりも、話せなかったのね。
強盗の姿は見ていないって言っちゃったし、村人たちはあの馬は神様の使いなんだって信じきっている。
それに、話さなかったことを怒られるのも怖かったみたい。
だけど、おじいちゃんたちが馬のことを話したくなかったのはね。
単純に、あの馬が怖かったからなんだって。
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( ゚∀゚)「あいつ、なんだったんだろう」
(*゚∀゚)「兄ちゃんでもわかんないの?」
_
(; ゚∀゚)「バっ。オレみたいな大人でもわかんないことはあるっつーの」
おじいちゃんとお兄さんは、その後、こっそりと湖に見に行ったの。
ひょっとしたら、何かわかるんじゃないかって。
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377 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 22:04:09 ID:alE8X3hE0
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でもね、あの馬の痕跡はどこにもなかった。
強盗の姿も、血の跡さえも見つけられなかった。
それこそ幻のように……消えてしまったの。
(*゚∀゚)「なぁ、兄ちゃん」
_
( ゚∀゚)「どうした?」
(*゚∀゚)「オレたちあの夜、もしもさ」
おじいちゃんは、それから何度も考えたんだって。
強盗たちに出会った、あの夜。
あのキレイな馬に乗ったのが自分たちだったら……、どうなっていただろう、って。
もしからしたら悲鳴を残して消えていたのは、自分たちのほうなんじゃないかって。
……もしもの話だから、正解なんてないんだけどね。
_
( ゚∀゚)「そんなこと言うな。オレたちは何も見てないんだから」
(*゚∀゚)「……うん」
_
( ゚∀゚)「でもさ。一つだけ、約束してくれないか?」
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378 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 22:06:14 ID:alE8X3hE0
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そうだわ、話の最後にもう一つだけ加えておくわね。
家には変わった家訓があるの。
これまでの話と関係があるから言うんだけど、その家訓って言うのは――
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( ゚∀゚)「もう一度あの馬に会っても、ぜったいに乗るなよ」
――どんなに立派だったとしても、飼い主のわからない馬は絶対に乗るな、よ。
神様のお使いならいいけど、そうじゃなかったら怖いものね。
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379 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 22:08:21 ID:alE8X3hE0
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ツンの声が止まった。
しばらく待ってみたが、続きはないみたいだ。
ξ )ξ「……」
どこかでじぃじぃと虫が鳴いている。
ミミズだったか、オケラだったか。たぶん、そんな感じの虫の声。
さわがしいその声は、聞いているだけで耳が痛くなる。
('A`)「お前んち、家訓なんてあるのか?」
思ったことを、そのまま口にしてみる。
内容に意味はない。ただ、虫の声を聞いていたくなかっただけ。
反応がなかったり怒られるようなら、別のことを聞くつもりだった。
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380 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 22:10:15 ID:alE8X3hE0
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ξ )ξ「まぁ、ね」
川 )「言われてみれば珍しい気もするな」
( )「おっおっ、僕んちはないおー」
一度、口を開いてしまえば、どんどん会話が盛り上がっていく。
結局のところ、みんな話す機会を探していたのだ。
それはそうだろう。こんな顔も見えない和室でそろって黙っているのは辛い。
なんていったって、俺達は怖い話をしているのだから……。
虫の声は止まらない。だけど、遠くなった気がするのは、会話が盛り上がっているからだろう。
('A`)「……ふぅ」
ブーンたちの会話を聞きながら、ツンの話していた村では、こんな虫は鳴かないんだろうなと考えてみる。
美しい灰色の馬のいるところ。
霧のかかる深い森の奥に、湖が広がっている。そんな光景が、頭に浮かんだ。
……うん、悪くない。人生一度くらいはそんな国にいってみたいもんだ。
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381 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 22:12:16 ID:alE8X3hE0
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('A`)「そういやぁ、さっきの話だけど」
ξ )ξ「ストップ」
('A`;)「へ?」
金の髪と青い目の兄弟は、その後どうしたのだろうか?
そう思って、口にした言葉はツン本人によってあっさりと止められた。
なんでだ? さっきは普通に話してたのに、どうしてここで止められたのかわからない。
ξ )ξ「その声、ドクオでしょ。これ以上は聞かないわよ。
どうせまた人の話に文句言うんでしょ。知ってるんだからね」
('A`)「へ?」
ξ )ξ「何だその話とか、ウサンクサイとか言う気でしょ。
その手には乗らないんだから」
返ってきた言葉は理不尽の塊だった。
ツンの言葉に心当たりがないわけではない。ホラーじゃないとか、ついさっきも言った記憶があるし。
だからといって、この扱いは許されるものだろうか。いや、そうではないと言いたい。
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382 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 22:14:28 ID:alE8X3hE0
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(;'A`)「あのなぁ……」
川 )「ツンも、そう言ってやるな。怪談の後のやりとりは怖い話の定番だろ」
ξ; )ξ「い、イヤよ!」
( )「妙にゴネるな」
ξ; )ξ「ここで話なんかして、怖くなっちゃったら……蝋燭消しに行けないじゃない!」
ツンの叫ぶような言葉に、部屋の空気が一気に変わった。
一言で言うのならば、こいつをどうやってからかってやろう。
ツンは必死なのか、自分が怖いのがイヤなんて弱点をさらけ出したのに気づいていない。
( )「へぇぇぇぇ。こわいんだ。へぇぇぇぇ?」
ξ; )ξ「な、なによ!」
川 ) 「ほう。ツンは怖い話は平気だと思ってたが」
ξ; )ξ「へいき、……よ」
( )「これまでわりと乗り気だったもんね」
川 ) 「しかし、一人になるのは怖いのか。そうかそうか」
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383 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 22:16:26 ID:alE8X3hE0
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さっそく3人くらいが、ツンをからかっている。
そういえば、最初の方も聞くのは平気だけど、話すのは苦手って感じのことを言ってた気がする。
気が強いように見えるが、自分が怖い目にあうのはダメだったのか。人間意外な弱点があるもんである。
怖いなら怖いで、素直に言えばいいのに。
ξ# )ξ「行けるわよ! だって、怖くないもの!
一人だって……一人だって平気だもん!」
('A`)「ついて行ってやろうか?」
ξ# )ξ「見てなさいよ!」
(;'A`)「おい……いいのか?」
助け舟でも出してやろうと言った言葉は、あっさりと拒否されてしまった。
暗闇の中で、ツンの立ち上がる音がする。
そのままドスドスと足音を立てながら、ツンの姿が消える。
……大丈夫だろうな、あれ?
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384 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 22:18:26 ID:alE8X3hE0
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(; )「行っちゃったお……」
川 )「あの様子だと、しばらくかかりそうだな」
( )「あれ絶対に、びびってたよな? な?」
なんだかんだで盛り上がっていた部屋も、すぐに静かになる。
静かになってしまえば、あとは苦しくなるような闇。
じぃじぃ。じぃじぃ。じぃじぃ。
神経にさわる音は耳につき、湿った熱い空気は体を焼いていく。
熱い。
体の中から水という水が汗で流れて、からからに枯れていくみたいだ。
('A`)(……水)
飲み物を求めて、手を伸ばす。
これまで飲んでいたぬるいジュースの入ったペットボトルがあるが、全力で避ける。
こいつを飲んだところで、のどの渇きが増えるだけだ。せめて、冷たいものを……
暗闇の中を手探りで動かし、冷たい何かに触れる。
この冷たさは、きっと飲み物だ。俺は手を伸ばしてそれをつかむ。
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385 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 22:21:21 ID:alE8X3hE0
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川 )「そういえば、ドクオは何を話そうとしていたんだ?」
(;'A`)「は?」
( ゚д゚ )「そういえば。津出の話に何かあったのか?」
ようやく飲み物をつかんだ手が止まる。
慌てて顔をあげると、ミルナの白い顔がこっちをじっと見ていた。
あまりまばたきをしないミルナの目がこちらを向くと、妙に迫力がある。
こっち見るなと言いかけてから、自分が質問されていることにようやく気づいた。
(;'A`)「いや、単に何だったんだろうなって思っただけだ。
強盗と、馬が消えたって言ってだろ。なんか、理由があるんじゃないかって」
あわてて出した返事に、ミルナが小さく頷く。
表情はちっとも変えないまま、ミルナは「ああ」と返事をした。
( ゚д゚ )「……もしかしたら、河童かもしれないな」
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386 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 22:22:22 ID:alE8X3hE0
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('A`)「……」
ミルナの口から、変な言葉が聞こえた。
冗談もろくに言えない固っ苦しいやつの口から。しかも、真顔で。
(;'A`)「もう一度、言ってくれ」
( ゚д゚ )「河童ではないかと、言った」
(;'A`)「カッパ」
( ゚д゚ )「そう。その河童だ」
カッパ。
妖怪の出てくるマンガやらなんやらで、真っ先に出てくる妖怪。
ヤツが出てくる子供向けの怖い本を、大昔に何冊も読んだことがある。
( )「え? カッパってキュウリを食べるやつだおね。カッパ巻きとかの。
あれって、安くてお腹たまっていいおね」
( )「相撲とったりするやつだろ?」
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387 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 22:24:11 ID:alE8X3hE0
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やっぱり、聞き間違いじゃないよな。
川とか池とかにいる。頭に皿を乗っけた妖怪。
いかにも日本って感じのメジャー妖怪様だ。それが、なんでツンの話と関係あるんだ?
(;'A`)「いや、カッパが何かはわかるんだが……」
( ゚д゚ )「続きを聞いてみたところ、馬の恩返しでも神や仏の力でもなさそうなのでな。
津出の話に合いそうなものを考えていたのだが……」
( )「それが、どうして河童に……」
( ゚д゚ )「最後に、湖が出てきただろう?」
川 )「ああ、なるほど。それで河童か」
ミルナとクーだけはなにやら納得しているようだが、俺は話についていけない。
他の奴らはと見回してみるが、手にしたものもろくに見えない暗さの中では無意味だと気づく。
( )「お……?」
( )「ええと……」
ただ見えない代わりに、耳が戸惑うような声を拾う。
どうやら困っているのは、俺一人じゃないようだ。
それはそうだろう。そもそも、どういう理由で河童がでてきたのか、さっぱりわからない。
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388 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 22:26:15 ID:alE8X3hE0
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( ゚д゚ )「河童にまつわる伝承の一つに、馬を水中に引き込むというものがある。
失敗したという話の方が多いのだがな」
( )「そうなのかお?」
川 )「泳いでいる人を水中に引き込んで、溺れさせるっていうのもあるな。
ヤツは人の尻子玉も食うしな。ゆるキャラっぽいわりに、凶暴なやつだ」
( ゚д゚ )「馬の妖怪の話は、あまり聞かない。ツンの話の条件に一致するものとなると尚更な。
ならば、馬を襲う妖怪はなんだったかと考えてみた。
それで、河童が一番条件に合うと思ったのだが……」
バケモノなのは馬でも強盗でもない、別のモノ。
なるほど。そういう話なら納得だ。
だけど、それが河童ということだけが納得できない。
('A`)「そこは普通に、馬がバケモノって話でいいんじゃねぇか?
いや、他にバケモノがいるっつーならそれでもいいが、カッパとかじゃなくてもっとこう……」
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389 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 22:28:50 ID:alE8X3hE0
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遠い、海の向こうの国。
馬が当たり前に生活に溶け込む、平和な村。
そんな村で起きた謎めいた事件の原因が……なぜカッパ。
バケモノのせいだってのなら、まだいい。
でもそこは、妖精とかモンスターとか雰囲気にあったものがよかった。
( )「馬。馬で湖なら……ケルピーとか、水の精っぽいものとか?」
('A`)「そう! それだよ!
なんだよ、カッパって。なんで急にベタな昔話になってるんだよ」
ケルピー。
どこかのゲームで敵として出てきた、水の馬のモンスター。
ええと、馬の体に魚の尻尾がついてるやつ……だったか?
……でも、尻尾? 例の馬の尻尾って、ツンの話に出てきたっけ?
( ゚д゚ )「ケルピー?」
( )「ええと、」
( )「人を食うん……だっけ?」
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390 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 22:30:11 ID:alE8X3hE0
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( )「見た目は普通の馬なんだけど、背に乗った人を水中に引きずり込んで、溺れ死にさせてから食べるんだよ。
でも、内臓だけは食べないから水の上に浮かんでくるって話」
( ゚д゚ )「ふむ。はじめて聞くな。勉強不足を実感するばかりだ」
親切な誰かが、ケルピーについての説明をしてくれている。
俺の全然知らない話だけど、ゲームに出てくる奴とはやっぱり違うんだろうか。
それにしても。内臓とかいちいちグロいな。
まあ。それでも、さっきのカッパ説よりはよっぽどそれっぽい。
( )「有名なのはケルピーだけど、似たような伝承はいろんなところにあるみたいだよ。
水の精のネッキとか。こっちは馬だけじゃなくて、人間の姿にもなるみたいだけど」
川 )「オカ研の人間は言うことが違うな」
( )「……オカ研じゃないんだけど。まぁ、いいや」
カッパよりも納得できる答えが出たことに安心して、俺は握ったままになっていた冷たいものを確かめる。
自販機でたまに見かける小さなパック。
さっき、ミルナとミルナの婆様が差し入れにと、持ってきてくれたジュースだろう。
握りつぶさないように気をつけながら、ついているストローの袋を外す。
見えないストローの差込口を指で探り、ストローを刺す。
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391 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 22:32:51 ID:alE8X3hE0
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( )「僕はやっぱり、神様のおかげで。
みんなどこかで平和に暮らしているのがいいお〜」
川 )「強盗が平和に暮らしましたはダメな気がするが」
( )「えー。死んじゃうのはよくないお」
( )「それなら、馬をめぐる醜い争いの末に殺し合いのほうが、怖くていいと思うんだからな」
( ゚д゚ )「まぁ、水妖のたぐいや事件より、事故の可能性の方が高いのだろうがな」
川 )「それを言い出したら、村人たちの調査不足もあるだろうな」
( )「夢がないお〜」
気がついたら、最初の話が終わった時と同じように解釈や仮説が乱立している。
あの時も、馬の話か、神や仏の奇跡だか、強盗の因果応報な失敗談で話が別れたんだったか。
同じ話を聞いているはずなのに、そうだとは思えないくらい答えがバラバラだ。
ツンの話が下手だったというわけではないんだが、どうしてこうなったのだろう?
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392 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 22:35:10 ID:alE8X3hE0
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('A`)「そういえば、ミルナはなんで妖怪説なんて考えてたんだ?
普通そこは、モンスターとかじゃねぇの? 外国なんだし」
ミルナが、目を少しだけ大きく見開く。
ほとんど表情を変えないミルナにしては珍しい変化だ。
( ゚д゚ )「日本の話じゃなかったのか? 江戸くらいの」
……ストローに口をつけようとした動きを、止めた。
ミルナが何を言ったのか、一瞬、理解できなかった。
('A`)「外国だろ……?」
( )「あ、僕も西洋あたりだと思った」
川 )「私はどちらかというと、日本か。河童説はなかなか斬新だった」
( )「僕はどっちでもいいお!」
話が合わない。
同じ話をしていたはずなのに、致命的にズレている。
話の結末も同じだ。
馬のせいなのか、それとも水に潜む何かのせいなのか。似たようでいながら、その答えは完全に違っている。
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393 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 22:36:16 ID:alE8X3hE0
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(;'A`)「え、でも。ツンのばーちゃんって」
金の髪のツン。
白い肌に、青い目をした、人形のような見た目の少女。
日本生まれで日本育ちの日本人で、気さくで、話しやすくて。たまに、めんどくさくなる普通の女子。
矛盾するようでいて、ちっとも矛盾しない不思議な友人。
川 )「母方の祖母はたしかに、海外に暮らしているらしい。
だが、父方の祖母は日本人だな」
( )「あれ。じゃあ、この話?」
どっちだ。
外国と日本。
同じ話でも、国が違うだけでその結末は完全に変わる。
(;'A`)「……」
わかったつもりになっていた話が、たったの一言で崩れていく。
今まで俺は、何をわかったつもりで聞いていたのだろう。
なぜ、なんの疑いもなく、外国の話なのだと思っていたのだろう。
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394 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 22:38:09 ID:alE8X3hE0
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( )「不思議だおね〜」
心臓が、嫌に早くなっている。
気づけば、口の中がカラカラで痛いくらいだ。
そういえば、さっき俺は飲み物を口にしようとしていた。
飲んで一息つけば、このわけのわからない焦りも落ち着くだろう。
( )「どっちにしろ、強盗は死んだんだと思うな。僕は」
その声が、なぜか耳に残った。
不思議と賛成する気にも、反対する気にもなれなかった。
なぜだろう? そう思いながら、指でストローを探り、口をつける。
パックの中から冷たい液体を吸い上げて……
(li A )「げっ……あ゙っ」
咳き込んだ。
溢れかえった液体が、口元を濡らしていく。
鼻や器官に水が入り込んで、一瞬、息ができなくなる。
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395 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 22:40:11 ID:alE8X3hE0
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( ゚д゚ )「おい、大丈夫か」
(li A )「ぐ、あ……」
( )「ドクオ、どうしたお!?」
咳き込んで、鼻と器官に入り込んだ水を吐き出す。
息が苦しくて、涙が出る。
子どもの頃に、溺れたことを思い出す。
あの時感じたのと、同じ感じ。
……地上にいるのに、溺れている。そう錯覚してしまいそうな苦しさ。
(li A )「……お茶」
川 )「ああ、むせたのか。慌てて飲むからだぞ」
口の中にあふれる苦いそれは、水ではなくてお茶のはずだ。
……だけど、一瞬。
生臭い、味がしたのだ。
汚い川の水が口に入った時のような、藻のような嫌な味が。
(li A )「そうじゃなくて、これ……お茶だよな」
( ゚д゚ )「そのはずだが」
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396 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 22:42:12 ID:alE8X3hE0
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冷たいミルナの手が、俺の手からパックを取る。
それを顔に近づけて、パックの匂いを嗅いだようだった。
( ゚д゚ )「烏龍茶のようだな。
……すまない。賞味期限が近かったのかもしれない」
( )「味はどうだった?」
( )「サイナンだったおね」
息が苦しい。
首元を伝うのは、汗なのかお茶なのか……それとも、どこかの川の水なのかわからない。
じぃじぃと遠くから音が聞こえる。
(li'A`)「おぼれる、かと思っ、」
( )「タオルは……あった。これ、使って」
(li'A`)「助かる」
タオルで口元と体を拭い、陸に上げられた魚のようにぜいぜいと息をする。
体の中でまだ水が暴れまわっているようだ。
溺れるのは苦しい。それで、死んだやつだっている。
……胸が痛い。
あの強盗たちはこんな風に、溺れて死んだのだろうか。
それとも、無事に生きていたのか。
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397 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 22:44:04 ID:alE8X3hE0
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――なんとなく、
彼らは死んでしまったのではないか、と思った。
こんなふうに溺れて、苦しんで死んだ。そう思った。
('A`)「……ふぅ」
なんとか呼吸を落ち着かせて、一息つく。
じとりとした熱い闇は、湿気を含んでいる。
まるでぬるい、水の中にいるようだ。
このままここにいれば、さっきのように溺れてしまいそうだった。
口の中にさっきの生臭い味が蘇ったような気がして、慌てて首を振った。
……こんなことを考えてしまうのも、さっきのお茶とツンの話のせいだ。
('A`)「……」
ツンの話の真相を、俺達は知らない。
幻のように謎めいた、美しい馬と、強盗と、少年たちの話。
遠い国のことなのか、それともこの国のことなのか……真相はきっとツンだけが知っている。
いや、ひょっとしたら。ツンも知らないのかもしれない。
確かめたい、と思った。
だけど、確かめたくない自分もそこにいた。
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398 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 22:46:13 ID:alE8X3hE0
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ξ )ξ「……みんな。クー? いるわよ、ね」
ツンが戻ってきたのは、それからすぐ。
何か怖いことでもあったのか、その声はどことなく弱々しい。
( )「おかえりだお、ツン。クーもみんなもここにいるお」
川 )「不幸な事故はあったけどな」
ξ; )ξ「……じ、事故って何よ」
川 )「それはだな……」
ξ; )ξ「イヤ! やっぱ、聞きたくない!」
物音がして、それからやっとツンが席につくのを感じる。
このまま問いかけたら、ツンはあの話の続きをしてくれるだろうか。
それとも、幻は幻のまま。その正体を知らないほうがいいのか。
俺は少しだけ悩んで、結局、口は開かなかった。
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399 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 22:49:16 ID:alE8X3hE0
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ξ )ξ「さあ、続きをはじめましょ。質問タイムはナシで!」
( )「えー」
ξ# )ξ「いいの。ナシと言ったらナシなの!」
暗闇の中で、ツンの金の髪が揺れる。
今ははっきりとは見えないが、その目は青の色をしているのだろう。
暗い闇の中で、彼女の瞳を思う。
キラキラと光を返す、青い色。
それはまるで湖の色のようだ。
引きずり込まれたら、決して上がってこれない深い深い水の色。
鳥の声も無い、夜の森。その中にぽっかりと広がる霧に飲まれた、深い青の湖。
あるいは、じとりとした暑く湿った空気の。山の合間にひっそりとある、冷たい水の湧く場所。
( )「――だって。次は誰が話す?」
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400 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 22:51:36 ID:alE8X3hE0
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溺れて死んだ男は、たぶんいたのだろう。
彼らが死んだ。その理由だけを、俺達は知らない。
単なる事故か。
それとも、人の知らない何かによるものか――。
人を食う水馬か、馬を水に引き込む妖か。
('A`)(それとも別の、何かか……)
あの一瞬味わった、生臭い水の味を思う。
溺れるような感覚。もう二度と戻ってくることができない、深い水の底。
男二人を引きずり込んだ何かが、本当にいるのなら……、
それは、きっと湖の中にいる。
河童、ケルピー、水精、水妖――、
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401 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 22:53:08 ID:alE8X3hE0
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言えるのは一つ。
水の中に潜むモノは、思った以上に多いようだ――。
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402 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 22:54:14 ID:alE8X3hE0
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('A`)百物語、のようです
幻の馬。あるいは、水妖の話 了
(
)
i フッ
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.