-
414 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 21:38:11 ID:4Pykjo5k0
-
濡れた服が、べたりと体に張りつく。
汗だか、さっきむせた飲み物だかで濡れたそれは、生ぬるくて気持ち悪い。
服を引っ張って体からはがしてみても、手を放すだけでぺたりとまた張り付いてくるから最悪だ。
(;'A`)「あつい」
( )「だおねー」
つい口にした言葉に、返事の声が上がる。
相手の顔は――見えない。
ξ )ξ「何度くらいあるのかしら?」
川 )「予報だと熱帯夜にはならないそうだが、あてが外れたようだな」
部屋の中からいくつも声がする。
だけど、その顔もやっぱり見えない。せいぜい、俺の正面に座るミルナの顔が見えるくらいだ。
-
415 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 21:38:52 ID:4Pykjo5k0
-
畳のにおいのする和室は、闇の中に沈んでいる。
それでもなんとなく輪郭が見えるのは、二間先にある蝋燭のおかげだろう。
( ゚д゚ )「冷房をかけるか?」
( )「僕はもうちょっとつけずに粘りたいな。
……せっかくの、百物語だし」
( )「冷房なんかつけたら、台無しなんだからな!」
広い和室の中は、じとりとした熱がこもっている。
昼間にくらべればはるかにましだが、暑いことには変わりない。
それでも、誰一人として冷房をつけろと言わないのは、俺たちが怖い話をしているからだろう。
――そう。俺たちは今、百物語をしている。
.
-
416 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 21:42:56 ID:4Pykjo5k0
-
百物語。
怪談話を百話して、蝋燭を一本ずつ消していくっていう夏の怪談の定番。
会場は、ミルナの爺さんの家を借りた。
新月の夜に、三間続きの和室。
一番奥の部屋には、百本の蝋燭を並べた大きな火鉢。
( ゚д゚ )「冷房はこのままにしておく。だが、水分だけは摂取してくれ。
必要ならば取ってくる」
川 )「気を使わせてすまないな、ミルナ」
( ゚д゚ )「気にするな。俺もいい経験をさせてもらっている」
――とまあ、一見本格的なんだが実はそうでもない。
ミルナとミルナの婆様が差し入れてくれたり、コンビニで買い出しした食べ物や飲み物が、部屋には転がっている。
ブーンなんかは携帯で人を呼んでたし、途中参加も退出も自由という何でもありの仕様。
本格的な百物語とは、ほど遠い仕上がりだった。
.
-
417 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 21:43:46 ID:4Pykjo5k0
-
それでも、――思うのだ。
(;'A`)「……」
( )「どうした、ドクオ?」
(;'A`)「なんだかんだ言って、雰囲気あるなって。
なんかが出てきても、おかしくなさそうだ」
( )「なに言ってるのさ」
相手の顔も見えない、暗い部屋。
冷房のかかっていない、知らない部屋にじっと座っていると、
ここは本当にミルナの爺さんの家で、すぐそばに座っているのが本当に知り合いなのかもわからなくなる。
-
418 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 21:47:30 ID:4Pykjo5k0
-
長く話しすぎたせいで、雰囲気に飲まれ過ぎている。
そうなのはわかっているんだが、不思議な何かの存在をつい信じてしまいそうになる。
( )「そんなの、今にはじまったことじゃないだろ」
('A`)「そうなんだが……でも、」
声の聞こえてきた方に、顔を向ける。
そこにいる顔は、やっぱり見えない。
相手の顔が見えない。たったそれだけなのに、なんだか不安になるのは、俺がビビっているせいなんだろう。
( )「……ドクオ?」
(;'A`)「お、おう?」
( )「ぶつぶつ言ってないで、次の話をはじめよう?」
(;'A`)「あ、ああ。そうだな」
( )「やーい、怒られてやんの」
-
419 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 21:48:20 ID:4Pykjo5k0
-
反対の方から聞こえる声の先には、誰かがいるらしき暗闇。
馬鹿にするような声の主も、当然ながら顔が見えない。男なのか女なのか、それさえもわからない。
川 )「主役が呆けていては話しにならないからな」
( )「準備はできたかお?」
凛とした声。これは誰かわかる。ずっと聞いていたくなるような美しい、クーの声。
それから、特徴的な語尾はブーン。
でも、二人の姿は見えなくて――、
ξ )ξ「次は、ドクオの番よ」
('A`)「え?」
ξ )ξ「聞いてた? ドクオの順番だって、言ってるんだけど」
女の声が聴こえる。
姿の見えない影が、俺に順番と囁い――、じゅんばん?
今、順番って言ったか?
-
420 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 21:51:51 ID:4Pykjo5k0
-
順番
この状況で、順番って言ったら……何の順番だ?
('A`)「すまん。もう一度言ってくれ」
ξ )ξ「はぁ!? アンタ、あたしに何回言わせる気よ。
順番って、言ったら決まってるでしょ!」
(;'A`)「ええと、」
( ゚д゚ )「次に怪談を話すのはドクオだと、津出は言っている」
状況がわからない俺に、ミルナが説明をしてくれる。
怖い話をする順番。
百物語で、順番と言ったら確かにそうだ。
-
421 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 21:53:57 ID:4Pykjo5k0
-
だが、待ってくれ。
準備なんてぜんぜんできていない。
俺はさっきまで、全然別のことを考えていた。
部屋に雰囲気ありすぎて正直ビビる。
一言で言うとしょうもないことこの上ないが、そっちに夢中になりすぎて、次に何を話すかなんてまったく考えていない。
それなのに、急に順番を回されても困る。
川 )「ドクオはしばらく話をしていなかったし、ちょうどいいだろう」
ξ )ξ「今さら、話せないなんて言わないわよね?」
(;゚A゚)「ぐぬっ」
-
422 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 21:56:45 ID:4Pykjo5k0
-
…
………
やべぇ。
なんっにも思いつかねぇ。
考えようとすればするほど、頭から消えていく。
(゚A゚)(考えろ。考えろ、俺!!!)
どうした、俺。
俺なら怖い話の1つや2つ余裕で思いつくだろう。
ネットで見たうさんくさい都市伝説を思い出せ、異次元に繋がった廃村とか……
……これ、ショボンが話したな。
なんか、あるだろう。
オバケ、オバケが出るやつ……この際、妖怪とかそんなんでいい。
-
423 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 21:57:51 ID:4Pykjo5k0
-
ξ )ξ「つまんなかったら承知しないわよ」
推定ツンらしき女の、機嫌を悪くしたらしき声が聞こえる。
さっき順番の話を何度もさせたせいか。それとも、俺がなかなか怖い話をはじめないせいか……。
不機嫌の原因はなんとなく想像がつくが、今は正直それどころじゃない。
川 ) 「厳しいな」
ξ )ξ「あたり前でしょ。あたしの番のときに、コイツ文句を言いまくったのよ」
(;'A`)「ゔっ!!」
なんか今、予想しなかった答えが聞こえた気がする。
確かに俺は、誰かが話すたびにツッコミをいれていた。
ホラーじゃないとか、怖い話じゃないとか……言ったか。言った気がするな。
だが、今ここでその話を出してこなくたっていいじゃないか!!
ξ )ξ「謝るなら今のうちよ」
(; ω )「あうあう」
(; )「あー」
-
424 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 21:59:09 ID:4Pykjo5k0
-
ツンの声が上る。
カーチャンが説教をはじめる前みたいな声に、冷や汗しか出ない。
蝋燭を消しにいくのを怖がっていたときのかわいげは、どこに行ったんだ。
(;゚A゚)「あ、う、う、うー」
口を開いても、無意味な音しか出てこない。
あ、い、う――と声を出しながら、それっぽい単語を頭にひたすら浮かべる。
(;゚A゚)「あー」
アンデス。あんこう。アンタレス。
なんか、それっぽいが、怖い話っぽいワードがなんにも出てこない。
(;'A`)「い、いー、いー……じゃなかった」
イもだめ。
イカのおすしとかいう、わけのわからん単語しか出ない。
こうなった次、ウだ。ウに賭けるしかない。だめだったら、ア行のほかの言葉で……
-
425 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 22:00:43 ID:4Pykjo5k0
-
(;゚A゚)「う。うー、う、うちゅうじん」
それは、まさに天からのひらめきだった。
漫画なら電球がぱっと光りがつく感じ。神からの贈り物。むしろ、俺こそが神。
そう自慢したくなるくらい、その瞬間の俺は冴えまくっていた。
( )「宇宙人?」
川 )「ほう?」
宇宙人。
とっさに、思いついたにしてはすばらしい言葉だった。
聞こえてくる声の反応は、そんなに悪くない。
(;'∀`)「宇宙人! そう、宇宙人だ!」
もう、こうなったらこのまま突っ走るしかない。
大丈夫。1話だけだ。
ちゃっちゃと適当に話して、次のヤツに順番を回せばいい。
息を吸って、吐く。
そして俺は、人影に向かって高らかに声を上げた。
.
-
426 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 22:02:37 ID:4Pykjo5k0
-
(;゚A゚)「宇宙人はな。いるんだよ!」
.
-
427 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 22:03:33 ID:4Pykjo5k0
-
('A`)百物語、のようです
宇宙人あらわる!
.,、
(i,)
|_|
.
-
428 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 22:04:46 ID:4Pykjo5k0
-
( )「な、なんだって――!?」
ξ )ξ「ねぇ、それってあり?
ありなの? 百物語よこれ」
俺の会心の一言に、ざわざわとした声が上がる。
機嫌が悪かったツンでさえ、困るか慌てているらしかった。
('A`)b「ふっ。アリに決まってるだろ。
宇宙の大いなる神秘。ロマンの塊。宇宙人! オカ研だって大好きだろ」
( )「オカ研じゃなくて、元写真部だよ。
まぁ、たしかに、好きそうなやつはいるけど……」
(*'A`)「よし聞いたかツン! 宇宙人はな……ありなんだよ」
ξ )ξ「でも、宇宙人なんて……」
俺の主張にツンはぐうの音も出ないようだ。
あの圧倒的不利からの逆転勝利に、喜びと興奮が止まらない。
やるな俺。今なら、漫画やアニメみたいに高笑いができそうだ。
-
429 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 22:06:01 ID:4Pykjo5k0
-
ξ )ξ「宇宙人なんて……話が思いつかないから、適当に言ったんでしょ!」
( )「話が思いつかないからって、最悪なんだからな!」
(;'A`)「う……」
俺の喜びは一瞬で散った。
奇跡の逆転は、一言でまたひっくり返されてしまった。
たしかに。宇宙人はその場の思いつきだ、だからってその言い方はないだろ。
( )「ドクオなら、もっと別の話をすると思ってたのにな」
(#'A`)「宇宙人なめんな! この俺がなんかスゲー感じの話をしてやるよ!」
ξ )ξ「ふ、ふんっ! だったら、やってみなさいよ。
宇宙人で、とびきりの怖い話をね!」
頭の中のどこかで、やめるなら今のうちだぞという声がする。
宇宙人でゴリ押しなんてできるはずがねぇ――なんていう、弱気な考えも浮かぶ。
だけど、俺は。そんな冷静な言葉に、納得できるほど大人じゃなかった。
-
430 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 22:07:22 ID:4Pykjo5k0
-
(#゚A゚)「上等だ、ゴルァァァァァ!!!」
ξ# )ξ「言ったわね! 今さら、ナシなんて絶対に言わさないわよ!」
宇宙人上等。
俺は宇宙人で、ここにいる全員がビビる話をしてやる!
見てろよツン。それに、……ええと、まぁいいや。そこにいる誰か!
( )「は、はわわわわだお!」
川 )「いいぞ。もっとやれ」
(; )「いいのかなぁ、これ。ドクオ、大丈夫?」
息を吸って、吐く。
覚悟は決まった。正直、なんも思いつかんが、男にはやらなきゃならないときがある。
( ゚д゚ )「ドクオ。話してくれるか?」
('A`)「ああ」
――そして、俺は口を開いた。
.
-
431 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 22:08:10 ID:4Pykjo5k0
-
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
('A`)「宇宙人ってのはな、本当にいるんだよ」
.
-
432 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 22:10:10 ID:4Pykjo5k0
-
('A`)「宇宙人は……」
(;'A`)「……」
(;゚A゚)「う、宇宙人」
俺は口を開いた。
.
-
433 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 22:11:33 ID:4Pykjo5k0
-
(;'∀`)(やべぇ!! なんも思いつかねぇ!!!!)
口を開いてみたのはいいが、何にも言葉がでてこない。
脳内検索をしてみても、宇宙人の話なんてほとんど出てこない。
そもそも、宇宙人って、怖いんだっけ?
( ゚д゚ )「どうした?」
円盤。UFO。タコ型火星人。
両手を男に引っ張られる、グレイだっけ? なんか、アメリカの陰謀っぽいやつ。
それから、美少女とかロボとか宇宙戦艦の出て来るアニメがたくさん。あれに宇宙人はいたんだっけか?
織姫彦星は……流石に、宇宙人じゃないよな。宇宙っぽいけど。
(;'A`)「なんでもない」
( )「……」
川 )「どんな話が来るのか、楽しみだな」
(; )「ええと、ドクオ? 無理はしないでね……?」
(;゚A゚)「……」
-
434 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 22:12:28 ID:4Pykjo5k0
-
頭の中にある、宇宙っぽい知識をひっくり返してみる。
いくつか浮かんでくる単語はあるが、うさんくさかったり、そもそも宇宙人とそんなに関係ない言葉しか出てこない。
ホラー。ホラーで、宇宙人っぽいやつ。
なんかあるだろ。宇宙は広いんだ。宇宙人だって、いっぱいいるだろ!
(;゚A゚)「宇宙人っていっぱいいるよな?」
( )「そうだおね! 僕、宇宙戦争っぽいの好きだお!
いろんな宇宙人とかメカが出たり、ビームっぽいサーベルとかで戦うんだお!」
(;゚A゚)「そういうのも、……あるよな」
宇宙戦争。映画かなんかか?
あー、そんな話もあった気がする。
そういうワクワクするのもいいけど、今はなんかホラーでエグい感じで……エロとかグロとか。
……グロ?
なんか、映画であったような気がする。
宇宙からの侵略とか。そんな感じのやつ。
-
435 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 22:13:37 ID:4Pykjo5k0
-
(;'A`)「ええと、俺が話す宇宙人っていうのはな。いるんだ」
ξ )ξ「でも、証明されてないわよね」
(;'A`)そ「そりゃあ、気づかれてないからだよ!
宇宙人はたしかにいて、地球にも来ているんだ!」
ξ )ξ「宇宙人が地球にいるっていうなら、なんで見つかってないのよ!」
さっき散々調子に乗ったせいか、ツンがやたらと食い下がってくる。
まだ考え中なんだから、黙ってろ! ……なんてことは、当然言えない。
俺は知っている話を語っているはずなんだから、ここでボロを出すのはマズイ。
ツンをごまかすためにも、何か話さなければいけない。
だけど、思いつく話はない。
……どうする?
(;'A`)「そりゃぁ……」
( )「なに?」
……こうなったら、もう。
何か適当にでっち上げるしか、道はない。
-
436 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 22:15:10 ID:4Pykjo5k0
-
その場で話を考えて、作る。
宇宙人で、ホラーっぽくって、百物語っぽい話を今から考える。
大丈夫。一話だけだ。
百話あるんだ。一話くらい、俺が作った適当な話があってもバレはしない。
だから、がんばれ俺! なんかそれっぽい設定を、でっち上げるんだ。映画っぽい感じで。
(;'A`)「……人間を乗っ取ってるからに決まってるだろ?」
……言ってしまった。
言ってしまったからには、もう引き返せない。
ここから先は、俺が話を作るしかない。
話が行き詰まらないように、なんとか時間を稼ぎつつ頑張るしかない。
-
437 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 22:16:17 ID:4Pykjo5k0
-
( ゚д゚ )「乗っ取る?」
( )「へぇ」
('A`)「そう。そうなんだ!」
宇宙人の出てる映画で、人間を乗っ取ったり操ったりしているやつがあったはず。
そういう感じなら、宇宙人が地球にとけ込んでいても不思議じゃないだろう。
(-A-)「宇宙人は人間の体を乗っ取る。
だから、人間を乗っ取る前の純粋な宇宙人は、ほとんど目撃されないんだ」
よし。これで、それっぽい。
あとは、この宇宙人が地球を侵略していることにでもすれば……
-
438 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 22:18:07 ID:4Pykjo5k0
-
( )「その宇宙人、なんていうの?」
('A`)「ん?」
( )「名前だよ。名前。わかってないなら、どういう宇宙人か分類が聞きたいな。
タコ型? それとも、グレイ? 人間を操ったり寄生するタイプなら、そのどれとも違うのかな?」
(;'A`)「……」
( )「僕、そっちはそんなに詳しくないんだけど。宇宙人って、ロマンがあるよね。
それでドクオの話している宇宙人なんだけど……」
(;'A`)「……」
早口で話しかけられて、俺は黙り込む。
俺が黙っていても、声はひたすら宇宙人について語っている。
ツンみたいに疑われるのも嫌だが、こう喰い付かれても困るな。
( )「僕は異型タイプの宇宙人だと思ってるんだけど」
-
439 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 22:19:40 ID:4Pykjo5k0
-
ξ )ξ「ストップ。ドクオの話が止まっちゃってるでしょ」
( )「ごめん。つい……」
(;'A`)「名前。名前かぁ。なんだったかなぁ……」
ツンの声が、いつまでも続きそうな宇宙人トークを遮る。
いつもならよくやったと言っているところだけど、今日に限っては余計なことをしやがってと思う。
何しろ話がぜんぜん思いつかないのだ。
静かになった声の主……たぶん、ショボンに向けて、俺は時間稼ぎの言葉をとりあえず放つ。
宇宙人。
宇宙人の話をやるなら、たしかにそれっぽい名称は必要だ。
そのへんの設定はここで考えておかないと、確かに困るな。
(;'A`)「うーん……」
火星人はメジャーすぎだから却下。
金星とかも、地球から近すぎる。ここでうっかり話に出して、ショボンにつっこまれたら大惨事だ。
どこか遠い星。というふわっとした感じにしておこう。
-
440 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 22:20:23 ID:4Pykjo5k0
-
(;'A`)「ここよりもずっと、遠くにある星から来た……」
なんかカタカナの名前。
すぐに覚えられて、間違えなさそうな簡単な名前で。既存のやつと被らないネーミング。
……無理だろ。これ。
(;'A`)「今思い出す……そう……」
ξ )ξ「ねぇ、いるの? そんな宇宙人」
(#'A`)「ど忘れしただけだ! ええと、」
オリジナル。オリジナル……
……だめだ。肝心なところで出てこない。
仕方ない。とりあえず「星人」ってつけて宇宙っぽくするっきゃない。
(;'A`)「バルタンじゃなくて、ダダじゃなくて、キングギド、いや、キ……えーと……そう!」
-
441 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 22:21:23 ID:4Pykjo5k0
-
(;゚A゚)「き……キリン。麒麟っ! そう麒麟星人だ!!!」
.
-
442 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 22:22:11 ID:4Pykjo5k0
-
麒麟。
ビールとかについてる、なんかかっこいい神獣。
フェニックス星人とか、鳳凰星人とか、ヒュドラ星人とかのほうがかっこいいかもしれないが、とっさに考えたにしては上出来だ。
(*'A`)「そう。その宇宙人は麒麟星人って言ってな」
ξ )ξ「きりん……」
川 )「ふむ。キリンか」
( ゚д゚ )「きりん、キリン、麒麟……キリンか?」
なかなかいい思いつきだと思ったんだが、周りの反応がなんか微妙だ。
驚いている……にしては、少し違う感じの声で、「きりん、きりん」と呟く声が聴こえる。
なんだ。なんか、マズイ言葉でも言った、か?
( )「なんか、かわいい名前だお!!」
( )「キリンって、動物園みたいじゃないか!」
(;'A`)「あ」
-
443 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 22:23:49 ID:4Pykjo5k0
-
のんびりとした声。それからその次に起こった爆笑に、俺の頭が一気に冷える。
心臓がバクバクして、頭がグラグラする。
そうだ。キリンと言ったら、動物園の人気者が出てくるほうが普通だ。
なんで、伝説の神獣・麒麟なんて思った!
黄色い体に長い首のキリンさんなんて、アホ丸出しじゃないか!
( )「ふうん。キリン星人なのか。
キリン座とかあったから、そっち系なのかな? それとも特殊ないわれがあったりとか?」
(;'∀`)「ええと、どうなんだろうな?」
( ゚д゚ )「ふむ。キリン星人という名称に意味が」
川 )「キリン星人。あなどれないな」
やべぇ。キリン星人という単語が思いの外馴染んでいる。
いまさら、やっぱ違いましたなんて言えない空気だ。
というか、キリン星人のインパクトが強すぎて、他の名前をつけてもキリン星人にすぐ戻ってしまいそうだ。
-
444 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 22:26:04 ID:4Pykjo5k0
-
ξ )ξ「で、そのキリン星人がどうしたの? 話の続きは?」
下手なことを言ったら真っ先に否定しそうなツンまで、キリン星人をあっさりと受け入れている。
すげぇなキリン星人。
みんな最初の驚きどこにやったんだよ。
アホ丸出しとか思った、俺のほうがアホだった気さえしてくる。
(;'A`)「そ、そうだな。
キリン星人は、人間を乗っ取って、その体に潜んでるんだ」
ξ )ξ「潜んでるって、それどうしてわかるの?
見た目は人間……なんでしょ? 宇宙人がいるってどうしてわかるのよ」
川 )「確かに見た目が人間なら、宇宙人の存在は他の者にはわからないな」
なんか正論が聞こえる。
そうだよなぁ、宇宙人が体を乗っ取るって言っても、乗っ取られたやつしかそんなことわかんねぇよな。
こういう時って、どういうパターンが王道なんだ?
(;'∀`)「普通に考えりゃあそうだよな」
-
445 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 22:26:56 ID:4Pykjo5k0
-
( )「そこは何かあるんだよ! 映画とかだとこういう場合、ささいなきっかけで主人公が気づくんだ」
( )「きっかけ、ねぇ? あるの? そんなの」
映画とか、雑誌ってこういう時どうだっけ?
そもそもこういう宇宙人系の映画って、しっかり見たことないんだよなぁ。
ええと。目がやばいとか、動きが変とか、頭がなんか受信しちゃってる感じだったり、わかりやすく体が変形してる……とかか?
……うーん。
一番わかりやすいのは、体が変形してるパターンだよな。
なんか生えてるとか、増えてるとか、見るからに変だって分かる感じの……。
(;'∀`)「キリン星人にのっとられたやつってのは、普通とは違うんだよ」
( ゚д゚ )「どこが違うんだ」
(;'∀`)「それはな……」
考えついたところまで話してみたが、その先が思いつかない。
キリン星人だろ。
キリン星人っぽい感じで、明らかに変だとわかると言ったら……。