('A`)百物語、のようです

幻の馬

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343 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 20:59:15 ID:alE8X3hE0
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暗闇の中に静寂が落ちる。
聞こえるのは、じぃじぃという虫の声だけ。
いつの間にか、ツンの話は止まっていた。


ξ  )ξ「……」


何か言おうと口を開いて、そのまま息を飲み込む。
飲み込んだ空気は熱く、体温をあげていく。
拭ききれなかった汗が、首を流れていく。


('A`)「……」


体にまとわりつく、湿った生ぬるい空気。
それが、どうしようもなく気持ち悪い。

345 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 21:01:10 ID:alE8X3hE0


……ツンの話で出た村はどうなのだろうかと、ふと思った。

あの美しい馬のいた村も、夏はこんな風に暑いのだろうか。
そこまで考えて、たぶん違うんだろうなと思った。

ツンの祖先が住むところは、海の向こうの遠い国なのだろう。
ツンと同じ金の髪の人々が暮らすその国は、きっと気候からして違う。
たとえ暑いとしても、この重く体にまとわりつくような暑苦しさじゃないのだろう。


('A`)(もっと、……涼しいんだろうな)


こことは全く違う、どこかの遠い国。
そんな国の人々が美しいと言うその馬は、一体どんな馬だったのだろう。
そして、どこへと消えてしまったのだろう。

謎めいた美しい生物。
その行き着く先が、野垂れ死になんてしょうもないものでなければいい、と思った。
幻の馬は、幻のまま。それがきっと、一番美しいのだろう。

346 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 21:03:26 ID:alE8X3hE0

川   )「不思議な話だな」

(    )「いいはなしだおー」

(    )「神がどうたらってのは、うさんくさいけどな」


……気づけば、話が盛り上がっていた。
さっきまではうるさいくらいに聞こえていた虫の声も、俺達の声にかき消されている。


(    )「僕は単に迷い馬だった説を推したいけど、無粋かな」

( ゚д゚ )「動物報恩譚……か。神仏援助のパターンのようでもあるが」

(;'A`)「頼むからミルナは、俺にもわかる言葉で喋ってくれ」


とりあえず話に混ざろう。
そう思って、一人真顔で難しそうな話をしているミルナに声をかける。
ミルナは俺の声に、パチパチとまばたきをすると、「ふむ」と口元に手を当てた。
周りはみんな適当に話しているのに、いちいち固っ苦しいやつである。

347 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 21:05:16 ID:alE8X3hE0

( ゚д゚ )「動物報恩譚は、ツルの恩返しとか、ぶんぶく茶釜のようなやつだ。
     神仏援助は……説話などによくある神様や仏様が助けてくれましたというやつか……?
     すまない。俺も専門ではないので、そう聞かれると上手く答えられない」

(;'A`)「お、おう……」


オマケに回答まで堅苦しいときた。
正直、そこまで詳しい説明を求めてなかったので、俺としても反応に困る。
何を言ってるか正直わからない所があったが、下手に聞いてまた説明されたら困る。
俺はちょっとした好奇心を満たすことよりも、いさぎよく黙る方を選択した。


川   )「馬の恩返しか、日頃の信仰のたまものというやつか」

(    )「どっちかというと、因果応報っぽい気がする……」

(    )「怪奇・消えた馬のミステリー、だと思うんだからな!」

(    )「きっと、神様の奇蹟だおー。ツンもそう言ってたし」


困る俺とは対照的に、クーたちはなにやら盛り上がっている。
同じ話を聞いていて、こうも意見が別れるもんなのか。
そう思うと楽しくて、俺もつい真剣に話を聞いていた。

348 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 21:07:08 ID:alE8X3hE0

ξ )ξ「……奇蹟か」


盛り上がる俺たちの中で、一人黙っていたツンがぽつりと声を上げた。
奇蹟。そう話したのはツンのはずなのに、その言葉はどこか納得していないように聞こえた。


ξ )ξ「あたしがこの話をしようって思ったのは、神様の奇蹟だからじゃないの」

川   )「……と、言うと?」


クーの問いかけに、少しの沈黙があった。
「えっと」とか、「あ」とかためらうような声が上がって、それからようやく決心したようにツンは声を話し始めた。


ξ゚听)ξ「ホントはね。この話、続きがあるの。
      こっちの話はあんまり好きじゃないから、話したくなかったんだけど……」


海の向こうの、幻の馬。
その話の続きが、ツンの口から語られようとしていた――。

349 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 21:09:11 ID:alE8X3hE0
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この話はおばあちゃんのご先祖様……おじいちゃんの話だって言ったでしょ。
おじいちゃんとお兄さんが、村に現れた馬に乗りたがっていたって話は、さっきしたわよね。


(*゚∀゚)「なー、乗せてくれよー」

£−ゞ−)「だめです」

(*゚∀゚)「けちー」

£;°ゞ°)「だめです」
  _
( ゚∀゚)「こっそり乗せるってのは、ダメなのか?」


どんなに頼んでもおじさんは、あの馬にだけは乗せてくれなかった。
それでもね。どうしても、おじいちゃんはあのキレイな馬に乗りたくてたまらなかったの。

350 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 21:11:20 ID:alE8X3hE0

  _
( ゚∀゚)「お前、今日も行くの?」

(*゚∀゚)「もっとお願いすれば、乗せてくれるかもしれないし!」
  _
( ゚∀゚)「そうかぁ?
     おじさんたちに頼んでもムダなんじゃねぇか?」

(#゚∀゚)「そんなことねーもん!」
  _
( -∀-)「あー、残念だなぁ。
      お前がそうやってノロノロしてるうちに、持ち主が来ちゃうんだろうなぁ」


だから、おじいちゃんは考えたらしいの。


(;゚∀゚)「え?」
  _
( ゚∀゚)「持ち主が来ちゃったら、もうあの馬を見ることもできなくなっちまうぞ」

(;゚〜゚)「……どうしたら、いいんだ?」

351 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 21:13:28 ID:alE8X3hE0

  _
( ゚∀゚)「なに、簡単なこった」


このまま、おじさんに頼んでもあの馬に乗ることはできない。
だったら、別の方法をとるしかない。
子どもだったおじいちゃんたちが思いつく方法なんて、そう大したことないわ。


  _
( ゚∀゚)「オレたちで、こっそり乗るんだ。あの馬に」


――おじいちゃんたちはね、自分たちだけであの馬に乗ることにしたの。
おじさんの家にこっそりと忍び込んでね。

352 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 21:15:14 ID:alE8X3hE0

……まぁ、普通に考えるとダメよね。

でも、幸か不幸か、おじいちゃんたちを止める人は誰もいなかった。
おじいちゃんは思い込んだら一直線なところもあったし、お兄さんも止めなかった。
本当はお兄さんのほうが馬に乗りたかったんじゃないかって、おばあちゃんは話してたけど、私もそう思うわ。


(*゚∀゚)「父ちゃんと、母ちゃんは……」
  _
( ゚∀゚)「寝てるぞ」

(;゚∀゚)「に、兄ちゃん!」
  _
( ゚∀゚)「じゃ、行くか」

(*゚∀゚)「うん!」


その日の夜、みんなが寝静まった時間。
おじいちゃんは、お兄さんといっしょに家を出たの。
家族にバレないように、こっそりとね。


(*゚∀゚)「うわー、楽しみ」
  _
( ゚∀゚)「デカイ声出すなよ。バレたら大変だからな」

353 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 21:17:15 ID:alE8X3hE0

子どもだけで夜の外出なんて、見つかったら怒られるどころじゃすまないわ。
だけど、おじいちゃんたちはそんなのへっちゃらだった。
それどころか、夜の冒険だーなんて気分で出かけたんだって。

  _
(* ゚∀゚)「ドキドキするな」

(*゚∀゚)「兄ちゃんも? オレもオレも!」


事件なんてもう何年も起こったことのないような平和なところだったし、危険な獣は人里には出てこない。
だから、おじいちゃんたちも特に心配することなく夜道を歩いていたわ。


外は静かで、月がとてもキレイだった。
……一体、どんな夜だったのかしらね。おばあちゃんは、この話をするたびにそう言ってた。
あたしもそう思うわ。もし、あたしがその場にいたなら、どんな気持ちになったのかしら。

わくわく、したのかな。
それとも、怖くって何度も後ろを振り返りながら歩いたのかしら。
おじいちゃんはひょっとしたら、お兄さんの手をつなぎながら歩いたのかもしれないわね。

354 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 21:19:29 ID:alE8X3hE0


……話がそれちゃったわね。


おじいちゃんとお兄さんは、あのキレイな馬を目指して歩いたわ。
おじさんの家は、村の外れにあるって言ったでしょ。
だから、家は少し遠かった。



強盗?

……

……そうね。二人は何事もなかったわ。
それこそ神様のおかげ、ってやつね。

355 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 21:21:55 ID:alE8X3hE0

えっと。とにかく、二人は夜道を歩いていたの。
途中からは民家もなくなり暗い道が続くだけだったから、二人は話しながら歩いていたみたい。


(*゚∀゚)「馬、起きてるかなぁ」
  _
(* ゚∀゚)「起きてなかったら、起こしてやろうぜ」


おじさんの家まであと少しというところだったわ。
大声が、二人の耳に聞こえたの。



    「あぁああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


切羽詰まったような、尋常じゃない声。
聞くだけでぞっとしてしまうような、そんな声だったそうよ。

356 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 21:23:30 ID:alE8X3hE0


(;゚∀゚)「に、にいちゃん!」
  _
(; ゚∀゚)「大丈夫だ! 兄ちゃんがいるから」


その声を聞いた時は、生きた気がしなかった。
おじいちゃんは死ぬまで、その時のことをこう話し続けたそうよ。
だからお前も、不用意に夜道を歩くんじゃないぞ、って。

……おばあちゃんも、何度もそう言い聞かされて育ったんだって。
だから、おばあちゃんは今でも夜道が少しだけ怖いそうよ。


あたしも、その場に居合わせたらそうだったかもね。
……まあ、ここで百物語なんてしてるあたしが言うのもなんだけど。

357 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 21:25:16 ID:alE8X3hE0

ぞっとするような声は、一瞬だけでは終わらなかった。
消えるどころか、どんどんひどくなっていくようだった。

はじめは何の声なのか理解できなかったおじいちゃんも、聞くうちにそれが男の悲鳴だって気づいたの。
低い男の声。
そして、それは一人だけの声じゃなかった。


(;゚∀゚)「兄ちゃん!」
  _
(; ゚∀゚)「落ち着け、大丈夫だ!」


男の悲鳴が、少なくとも一人以上。
何かが起こっていることは、間違いなかった。

  _
(; ∀ )「……何なんだよぉ」

(;゚∀゚)「……ぅ」


その声がどこから響いてくるか、おじいちゃんたちははじめわからなかった。
でもそれが、道の先から聞こえることに気づいて、ぞっとしたそうよ。
夜道に何かよくわかないものがいる。

358 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 21:27:09 ID:alE8X3hE0

――そして、それはどんどんと、近づいてくるみたいだった。


    「           れぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

    「    い!        !!!」



そして、おじいちゃんたちは気づいたの。
聞こえるのは男たちの声だけじゃない、って。
闇の向こうから聞こえる声。そこに、聞き慣れた音が混ざっていた。


聞こえるその声は、荒い息遣いと、いななき。
それから、それに紛れて聞こえてくるのは……何かが、走る音。



(*゚∀゚)「あ」



そして、おじいちゃんたちは見たの。

359 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 21:29:10 ID:alE8X3hE0


馬だった。


二人がこれまで見た中で。
いいえ、二人のそれから先の人生を含めても、最も美しい馬。


月の光をそのまま集めたような、黄金のたてがみ。
キラキラと輝く毛並みは、どんな布や毛皮よりもつややかで美しい銀の色。
吸い込まれそうな黒い大きな瞳には、星の光が散っていた……ようだったわ。


    ,ハiヽ..   
  ノ" ,,'' ヽミ
. (。,,/ )  ヽミ〜─〜⌒ヾミミミミ彡
     ノ             )
    ( 、 ..)___彡(  ,,.ノ
   //( ノ     ノ.ノ (
   //  \Yフ .. 〆 .い
  .(ノ      くノ   //
             くノ


360 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 21:31:23 ID:alE8X3hE0


おじいちゃんは、恐怖を一瞬忘れた。
お兄さんも信じられないって顔で、その現実とは思えないくらい美しい生き物を見たわ。


(* ∀ )「……すごい」


それは、おじいちゃんがどうしても乗りたいと思っていた、あの馬だったわ。

361 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 21:33:18 ID:alE8X3hE0


乗ってみたい。
何が何でも、あの美しい生き物に乗ってみたい。
たとえ、どんなことが起きても。



(* ∀ )「ああ、いいなぁ……」



おじいちゃんは。いいえ、おじいちゃんだけじゃなくて、お兄さんもそう思ったの。
さっき怖いって思ったのが嘘のように、その馬の方へ向かって走ろうとして……、


( `v´)「助けてくれぇぇぇぇぇ! おい、そこのガキッ!」



……聞こえてきた声が、おじいちゃんたちを現実に引き戻したの。

362 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 21:35:20 ID:alE8X3hE0

おじいちゃんたちは気づいていなかったけど、あの馬には人が乗っていたの。
見覚えのない男だった。
それが二人。遠くてはっきりとは見えなかったけど、それがよそ者だってことだけははっきりとわかった。


(●冊●)「ガキだ!」

( `v´)「おい、お前っ。お前らっ!!!」


  _
(; ∀ )「――っ」


得体のしれないよそ者が、あの馬に乗っている。
それもこんな時間に。
事情のわからないおじいちゃんたちにも、それが異常なことだってわかったわ。


(;゚∀゚)「兄ちゃん!」
  _
(; ∀ )「お前は下がってろ!」


馬はこちらに、走ってくる。
それは全力に近いスピードだった。
なのに、その馬はおじいちゃんたちを見てもスピードを落とそうとしないの。
それどころか、かえって足を早めたようだった。

363 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 21:37:11 ID:alE8X3hE0


(;゚∀゚)「馬行っちゃうよ!」
  _
(# ゚∀゚)「いいからっ!!!」


お兄さんはおじいちゃんを掴むと、走りだしたわ。
思いっきり飛んで、それからの道の外の草むらに身を投げたの。


(#゚∀゚)「なんだよ、兄ちゃん!」
  _
(# ゚∀゚)「おとなしくしとけ!」


馬がその場を駆け抜けていったのは、ちょうどその時だったわ。
少しもスピードを落とさず。おじいちゃんたちがいた、その場所を走っていったの。
お兄さんが動いていなかったら。
いいえ、あと少しお兄さんの動きが遅かったら。

――おじいちゃんたちは、きっと大怪我か、下手をしたら死んでいたかもしれない。

364 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 21:39:38 ID:alE8X3hE0


(;゚∀゚)「……っ、なんで」


だけどね。
それよりも怖かったのは、馬に乗っている大人がそれを止めようともしなかったこと。

  _
(# ゚∀゚)「アブねぇぞ!!!」


……ううん。それも違うかもしれない。
本当は、馬に乗っている二人組も止めようとしていたのかもしれないわね。
でも、そうはしなかった。できなかったの。


(iii ゙v゙)「俺を助けろっ!」

(●冊●)「止めろ! 止めてくれっ!!」


大声が響いた。
その声は、おじいちゃんたちに言い続けていた。

365 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 21:41:43 ID:alE8X3hE0


「嫌だ」

「しにたくない!」

「たすけてくれ」


聞き取れたのはそれだけ。
あとは、馬の叫ぶような鳴き声と、意味をなさない声でかき消された。


……あっという間の出来事だった。


止めようって思うよりも早く、その馬は駆け抜けていったの。
信じられないくらいの速さだった。
あんなに速い馬は、後にも先にも見たことがなかったって。

366 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 21:43:25 ID:alE8X3hE0



(li ゚∀゚)「……なに?」
  _
(; ∀ )「暴れ馬だ」


それが暴れ馬だったんだって、気づいたのはそのすぐ後だった。
馬に乗っていたのが誰かはわからない。
だけど、ひょっとしたらあの馬の持ち主だったのかもしれない。
雰囲気が雰囲気だったし、何か事故が起こったんじゃないかって、二人は慌てたそうよ。


(;゚∀゚)「おいかけよう!」
  _
(; ゚∀゚)「……ああ」


何がなんだかわからないまま、二人は馬を追いかけることにしたわ。
馬は村ではなくて、森へと続く方向へ道を変えたから、二人は夢中で追いかけたわ。
道はどんどん、村から離れていく。
それにだんだん周りが暗くなっていくようで、二人は怖くなったわ。

  _
(; ゚∀゚)「クソッ。どこに行ったんだ!」

367 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 21:45:44 ID:alE8X3hE0

そして、馬の姿はとうとう見えなくなって。
――遠くで、ものすごい悲鳴が上がって。それっきり何も聞こえなくなった。

  _
(; ゚∀゚)「……っ」

(;゚∀゚)「兄ちゃん……」


おじいちゃんとお兄さんはそれでもなんとか、追いかけたの。
悪いことが起きたのは、間違いなかった。
もしかしたらそれは自分たちが止められなかったせいじゃないか。そう思うと、すごく怖かったんだって。

  _
(; ゚∀゚)「……こっちか?」


おじいちゃんたちは、追いかけて……。
だけど、湖に行き当たった辺りで完全に見失ってしまったの。

369 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/08/19(金) 21:50:04 ID:alE8X3hE0


(*゚∀゚)「ここ」
  _
(; ゚∀゚)「湖、だな」


馬の鳴き声も、悲鳴ももう聞こえない。
月があると言っても、夜の暗さでほとんど見えない。
これ以上進むと先は森。


(;゚∀゚)「兄ちゃん」
  _
(; ゚∀゚)「……」


夜の森に入るのがどんなに危険なことかは、おじいちゃんたちもわかっていたわ。
おじさんの家にこっそりと遊びに行くのとは違う。
森には危険な獣もいる。死ぬことだって、あるかもしれない。

おじいちゃんたちはこれ以上、進めなくなって。ふと、そこで異変を感じたの。
……血、らしい匂い。
それが、どこからか漂ってくるの。

この場所で何かが起こった。それだけは、確実だったわ。

370 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 21:50:53 ID:alE8X3hE0


悪いことが起こっている。


::(;゚∀゚)::「……あ、」
  _
( ゚∀゚)「戻るぞ。人を呼ぼう」

::(; ∀ )::「でも、怪我とかしてたら……」
  _
(# ゚∀゚)「俺たちじゃ何もできないだろ。
     それに、二人じゃどこにいるかも探せない」


だけど、二人だけじゃどうにもならないことは、おじいちゃんたちにもわかっていた。
それでもおじいちゃんたちは、辺りをもう少しだけ探したわ。
森へは入らず、湖の周りを二人は歩き回った。

  _
( ゚∀゚)「もう、終わりだ」

(* ∀ )「……うん」


それでも、馬も。馬に乗っていた人の姿も、どこにも見つけられなかった。
どこから血の匂いがしたのかもわからなかった。でも、それでよかったのかもしれないわね。
血にひきつけられた獣に鉢合わせる可能性もあったから。

二人は完全にどうしようもなくなって、村へと戻ることにしたの。

371 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 21:52:41 ID:alE8X3hE0


早く村へと帰って、誰かにこのことを伝えないと。
二人の頭はそのことでいっぱいだった。

だから、二人は慌てて村へと帰って――、

  _
(; ゚∀゚)「大変だ!」

£;°ゞ°)「ああ! 君たちは無事だったんですね」


――村が大変なことになっていたのを、知ったの。

372 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 21:55:28 ID:alE8X3hE0


原因は、強盗が現れたことだったわ。

村はずれにあるおじさんの家が強盗に襲われて、村で預かっていた馬と金品を奪ったの。
盗まれたものは幸い返ってきたけれど、馬だけは帰ってこなかった。
そう。さっき話した強盗騒ぎね。


£;°ゞ°)「……生きた心地がしませんでした」

从゚×ナ;从「大丈夫?」


おじさんたち一家が助けられたあと、村の大人が集まって大騒ぎになったの。
強盗たちは村にも来るんじゃないか。他にも、被害はあるんじゃないかって。
その中で、おじいちゃんたち兄弟がいないことがわかったの。

……子どもが襲われたかもしれない。
おじいちゃんの家族と、村の大人たちはもう心配どころの騒ぎじゃなかったわ。


(;゚∀゚)「え?」
  _
(; ゚∀゚)「オレたちは平気だけど」


大人たちの様子が変なことに、おじいちゃんたちもようやく気づいたの。
夜中に外を走っていたあの美しい馬。そして、そこに乗っていたよそ者。
賢かったあの馬が暴れていたのは何故なのか……。

373 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 21:56:27 ID:alE8X3hE0

自分たちが見かけたあの男たちが、強盗だったんじゃないか。
そう、答えが出るのはすぐだった。

゙゙(; ゚━゚)「怪しい男の二人連れを見なかったか?」


(;゚∀゚)「……兄ちゃん」


大人たちに聞かれて、おじいちゃんは怖くなったの。
話の中でしか聞いたことのない強盗がいたこと。その強盗に自分たちが会っていたこと。

一歩、間違ったら。自分たちは、殺されていた。
そのことが今更わかって、おじいちゃんの体はガクガク震えたわ。
だけど、おじいちゃんには、それよりももっと怖いことがあった。


゙゙(; ゚━゚)「上の坊主はどうだ?」
  _
(; ゚∀゚)「……」


その怖いはずの強盗は……もっと別のものを怖がっていた。

374 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 21:58:33 ID:alE8X3hE0


助けてくれ、と。
しにたくない、という声を聞いた。


あれから強盗たちの姿は消えてしまった。
最後に聞いた、悲鳴が耳を離れない。


  _
(; ゚∀゚)「知らない」

(;゚∀゚)「……」
  _
(; ∀ )「オレたちは何も見なかった」



……大怪我をしたか、獣に襲われたか。
ひょっとしたら、湖に落ちたのかもしれない。
そのどれだとしても。無事だとは思えなかった。


美しい馬。
狂ったように暴れまわった、あの姿。
あのとき嗅いだ、血の匂いがまだ残っている気がした。

375 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2016/08/19(金) 22:00:25 ID:alE8X3hE0

£;−ゞ−)「よ、かった……」

从゚×ナ;从「てっきり、ウチに来たもんとばかり……」

£;°ゞ°)「こんなことになるのなら、君たちをあの馬に乗せてあげればよかった」


おじいちゃんたちは、その後ものすごく怒られた。
だけど、強盗にもあわず無事だったことには、泣いて喜ばれたって聞いたわ。
その優しい言葉と、それから自分が本当に危なかったんだという恐怖で、おじいちゃんたちは泣いて謝ったんだって。

  _
( ;∀;)「……ごめん。ごめんなさい」

(;゚∀゚)「う」


(*;∀;)「うわぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

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