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218 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/16(土) 22:49:50 ID:p/orKOsg0
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(´ ω `)「血だったと、思う」
そう、ショボンが言った時、とてもじゃないが実体験だとは思えなかった。
その声は落ち着きついていて、臨場感のかけらもなかったから。
だって、そうだろう。
つくり話だったとしたって、普通はもっと上手くやるもんだろう。
だけど、そうじゃなかった。
(;'A`)「……」
話が進むほどに、ショボンの声にははっきりとした熱がこもりだした。
落ち着いた話し方と、それとは裏腹の声の熱さ。そのチグハグさに、頭がくらりとした。
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220 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/16(土) 22:51:44 ID:p/orKOsg0
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('A`).。oO(血の跡に、人らしきもの……死体?)
ショボンの語った話は、本当なのだろうか。
天井から降ってきた何か。それが人間のカタチをしていたなんて……いくらなんでも見間違いだろう。
('A`;).。oO(見間違いだ、絶対)
それこそ、天井の破片か、動物か何か。
それがタイミングよく落ちてきたものだから、驚いたのだろう。
暗い廃墟の中なのだ、誰だって驚くに決まってる。
('A`ii).。oO(そうだ。死体なんて、あるはずがない)
そうに決まっている。
そんな怖いこと、実際に起こるはずがない。
そう自分を納得させようとした俺の脳裏に、引っかかるものがあった。
落ちてきたものは、きっと動物か天井か何かだろう。
だけど――、血はどうだろうか。
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221 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/16(土) 22:53:50 ID:p/orKOsg0
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俺はおそるおそる顔を上げた。
奥の部屋から漏れる蝋燭の光で、ぼんやりとしか見えない部屋に目を凝らす。
そこに脳内でタンスをおいて、布団を敷いてみる。
――そして、脳裏に血を描いてみる。
布団、タンス、それに天井。
下から上へ。噴水が水を噴き上げるように、真っ赤な血を思い描く。
吹き上がった血は天井を染め、布団と畳へと染みこんでいく。
血の持ち主を、想像してみる。
首から真っ赤な血を吹き出す誰か。
噴き上がる血はやがて収まり、そして倒れこむ。
ショボンの話に出ていた朝日は、助からないと言っていた。きっと、生きてはいないだろう。
( A iii).。oO(気持ち、悪い)
喉元に何かがせり上がってくる。
想像した血の赤さとむせ返る匂いに、吐き気がした。
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222 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/16(土) 22:55:20 ID:p/orKOsg0
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……そんなこと、あるはずがない。理性ではわかっている。
だけど、ショボンが語ったことが本当だったとすれば――、
何度も切りつけたような跡のあるタンス。
転がっていた日本刀。こびりついた血らしき形跡。
天井へと届きそうな、黒い跡。
――そこで起こったのは、殺人ではないのだろうか。
川 )「……本当に、見たのか?」
俺の考えを遮るように、クーの声がした。
俺は息を呑んで、ショボンのいる辺りを見据える。
今すぐに、ショボンの答えが聞きたかった。
俺はこれ以上、ショボンの見た光景を、それが意味する事態を考えたくなかったのかもしれない。
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223 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/16(土) 22:58:09 ID:p/orKOsg0
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作り話だと言ってくれれば、笑ってそれきっとでおしまいだ。
俺は安心して、次の話を聞くことができる。
だけど、
(´ ω `)「わからないよ。
だって、僕の頭はもう真っ白になっていたからね」
ショボンは、ひどくあっさりと言い放っていた。
(´ ω `)「本当は変色した雨漏りかカビか何かだったのかもしれない。
上から落ちてきた何かも、単に天井が崩れて落ちてきただけかもしれない。
――だけどさ、僕は。いや、確かに僕たちは見たんだ。それだけは本当だよ」
声が暗い部屋に響く。
――ショボンの言葉は、これまでの話を決して否定しない。
もしあの部屋で、ショボンが考えた通りのことが起こっていたとしたら、
天井から降ってきたものは、本当に死体だったのではないかと、ふと思ってしまう。
……そんなはず、ないのに。
(´-ω-`)「さてと、その後の話と行こうかな。
といっても、そこから先はもうオマケみたいなもんだけどね」
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224 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/16(土) 22:59:46 ID:p/orKOsg0
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僕たちは必死で、あの廃村から逃げた。
どうやって帰ったのかは、殆ど覚えてない。
あんなひどい道、よく無事に帰れたよなと自分でも思う。
途中で谷にでも落ちていたらと思うと、ゾッとする。
誰が運転したのかもあやふやだ。
覚えているのは、息が止まるかと思うくらい時間が長く感じたことだけ。
カーナビに道の表示が出た時、僕はやっと生き返った気がした。
(´・ω・`)「……町だ」
それから何とか、設楽場温泉にたどり着いて、最初に目についた交番に駆け込んだ。
そこにいたお巡りさんに、廃村で見たことをありのままに話した。
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225 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/16(土) 23:01:28 ID:p/orKOsg0
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(´・_・`)「夢でも見たんじゃない?」
イ从#゚ ー゚ノi、「ホントなんだって! あれはどうみたって事件があった感じだった!」
<_;プー゚)フ「さつじんじけんだって。絶対、ヤバイってこれ!!」
(´・_・`)「あのあたりに村なんてないって、何度も言ってるでしょ。
廃村も、現役の村も君たちの言う場所にはない。つまり君たちが言っていることは嘘ってこと」
イ从#゚Д゚ノi、「ちょっとは信じろー! 見に行くくらいしてくれたっていいじゃん!」
あの廃村はおかしかった。そうでなくても最後の屋敷の血の跡はただ事ではない。
それに最後に見かけたのが死体だったのなら、警察に知らせなくてはいけない。
僕らは必死だった。……だけど、僕らの言うことなんて、全然信じてもらえなかった。
(´・_・`)「君たち観光の人でしょ。困るんだよねぇ、目立ちたいからって。
それに君たちのいうことが本当だったとしたら不法侵入だよ。わかってる?」
イ从#゚−゚ノi、「ぐっ」
(;@∀@)「きっちゃん氏、落ち着くであります」
どれだけ説明しても話は通じず。
結局、僕たちは不法侵入に対するありがたいお説教を受けただけだった。
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226 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/16(土) 23:03:46 ID:p/orKOsg0
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流石にそれ以上粘る気にはなれなくて、僕たちは設楽場温泉を後にした。
体は汚れていたけど、あんなもの見た後でのん気に温泉に入るほどの度胸もなかったしね。
――それに、誰も口にしなかったけど、僕たちは気づいてしまったから。
『あのあたりに村なんてない』
『廃村も、現役の村も君たちの言う場所にはない。』
あの警官がいうことが本当だったとしたら。
僕らのいた村はいったい『どこ』だったんだろう――、って。
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227 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/16(土) 23:07:23 ID:p/orKOsg0
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(;'A`)「……一体、どういうことなんだ?」
(´ ω `)「さあね」
ショボンの声は落ち着いていた。
もしかしたら、この話を何度かしているのかもしれない。
だからこそ、ショボンはこんなにも落ち着いているのだろう。
(´ ω `)「僕には……いいや、僕たちにはさ。あの村が何だったのかわからないんだよ」
ξ )ξ「調べなかったの?」
(´ ω `)「もちろん調べたよ。
あそこで本当に事件が起こっていたなら、新聞記事になってなきゃおかしいからね。
きっちゃん先輩の号令で部員総出で、昔の新聞記事を探した」
でも、なかったというのか。
事件は記事にならなかったのか、それとも地元だけで小さく取り扱われたのか。
そもそも事件なんて起こっていなかったのかもしれないし、それとも山奥のことだから気付かれなかったのかもしれない。
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228 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/16(土) 23:10:51 ID:p/orKOsg0
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(´ ω `)「地図だって調べたし、昔の地図を出してもらって、そっちも見た。
ネットでも調べてみたけど、そっちも空振りだった。
朝日なんかはかなりしつこく調べていて、よその図書館の資料を取り寄せたりしてたんだよ」
('A`)「それでもなかったのか」
(´ ω `)「残念ながら」
長い溜息が聞こえた。
だけど、ショボンの声の調子は、いつもと変わらない。
見たと思ったものが幻だった。気のせいだという失望はどこにも感じられない。
(´ ω `)「でも、確かにあの村はあって、人がいたはずなんだ。
写真だって残ってるし。それに、僕は気づいてしまったんだから」
( )「何にだお? 他に見た人がいたのかお」
その問いかけに、「そうじゃない」とショボンは答えた。
ショボンの声には、少し前にも感じた熱のようなものが微かにちらついていた。
(´ ω `)「朝日が、祠で『今でもちゃんと人の手が入っている』って言っていただろう?」
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229 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/16(土) 23:13:50 ID:p/orKOsg0
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思い出す。
確かに朝日というやつは、人の手が入っていると言っていた。
(´ ω `)「それに、僕たちがあの廃村の入り口で見た、花。
お地蔵さんに供えられたあの花束ってさ、造花じゃなくて切り花だったんだ」
川 )「……花」
('A`)「花がどうしたんだ?」
(´ ω `)「花ってさ、長持ちしないものだよね」
その言葉に、俺は息を止めた。
ショボンの話の中で何度か出たそれ。
これまで全く意識していなかったそれが、急に嫌な色を帯びたような気がした。
(´ ω `)「だったらさ、それって僕達があの廃村につくすぐ前に、あの村に行った誰がいたってことだよね。
地図にも新聞にも載っていない廃屋だらけの村に、今も通っている誰かが。ついさっきまでいたんだ」
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230 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/16(土) 23:15:58 ID:p/orKOsg0
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ああ、そうだこれも言っておかないと。
僕たちがあの廃村にたどり着いてから、数週間後のことだけど。
エクスト、あの廃村にまた行ったらしいんだ。
友達を何人か連れて、今度は地図とかいろいろ持って行ったらしい。
<_フ;ー )フ「 っ」
だけどさ、
どれだけ探しても、あの廃村は見つからなかったんだって。
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231 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/16(土) 23:17:19 ID:p/orKOsg0
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ねえ、みんなどう思う?
僕たちが言ったのは何処だったのかな。
あれは全部、幻で僕たちは夢を見ているだけだったのかな。
それとも――、
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232 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/16(土) 23:19:29 ID:p/orKOsg0
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('A`)「……」
ショボンの声に、俺は息を呑んだ。
気づけば周りはシンと静まり返り、誰も言葉を口にしなかった。
――なにか、最後にものすごい爆弾を放り込まれたような気がする。
ショボンの話ではエクストってやつは、いわゆる馬鹿っぽいヤツだった。
話を盛り上げるために嘘を付いているという可能性もないとは言えない。むしろ、そっちの可能性のほうが高いだろう。
だけど……、これまでの話を聞いていると、とても嘘だと思えなかった。
(´ ω `)「杉沢村って知ってる? 有名な都市伝説でさ。
昔、東北で『一人の村人が突然発狂し、村民全員を殺して自らも命を絶つ』って事件が起きたと言われてる村なんだ。
まあ、あくまでも都市伝説だから、そんな村は実際に存在しないらしいんだけどね」
シンと静まり返った部屋の中で、ショボンはポツリと声を上げた。
杉沢村という言葉は聞いたことがないけど、昔そんな事件があったとテレビで見たような気がする。
だけど、どうしてそんな話をショボンはするのだろう。
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234 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/16(土) 23:21:21 ID:p/orKOsg0
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川 - )「ふむ。その話なら聞いたことがあるな。
時空の歪みの中にあって、現われたり消えたりするとかなんとか」
(;゚д゚ )「なんだそれは?」
ξ; )ξ「時空の歪みって言うと、一気に胡散臭くなるわね」
いつの間にかその場の空気は明るくなっていた。
俺の疑問など気づかないように、みんなは楽しそうに話を続けている。
(´ ω `)「まあ、所詮はうわさ。胡散臭い都市伝説だけどね。
でもさ、僕たちがたどり着いた廃村もそこと同じだと思うと面白くない?」
そんな中で聞こえた、ショボンの声は変わっていた。
語尾がかすかに消える気弱そうな声でも、落ち着いた声とも違っていた。
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235 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/16(土) 23:23:28 ID:p/orKOsg0
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(*´ ω `)「あの廃村でさ、頭のおかしくなった誰かが村人を殺して回ったんだ。
そいつは村で暴れまわって、いろんな家を襲った挙句に、あの屋敷で誰かを殺したんだ」
('A`)「……」
(*´ ω `)「だからあの村には人がいない。
殺人鬼から逃げるために全てを置いて逃げたのかな。だって、そうじゃなきゃ家にお金なんて残さないよね」
ショボンは語り続ける。
熱に浮かされたように、血なまぐさい話を口にする。
(*´ ω `)「――それとも」
――その声は、場違いなほど嬉しそうで。
(*´^ω^)「みんな死んじゃったから、あの村は歴史から消されちゃったのかな?
それで生き残りか、親戚がたまに花を添えるために通ってるんだ。
――ねえ、みんなはどう思う?」
俺は、思わず耳をふさぎたくなった。
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236 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/16(土) 23:25:14 ID:p/orKOsg0
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(*´ ω `)「ああ、あの村についてなにか知ってることがあったら教えてよ。
僕はそれが知りたいってのもあって、この話をしたんだから」
誰も何も言わない。
ショボンの声だけが、暗い部屋に響き渡っている。
その言葉は、楽しくてたまらないと言っているようにも聞こえた。
(´ ω `)「僕の話はこれで終わり」
――そして、ショボンは満足そうに語り終えると、腰を上げた。
蝋燭を消しに行くのだろう。ならば、この話は本当におしまいだ。
ショボンの姿が暗がりの中へと消えていく。俺はその足音をじっと聞いていた。
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237 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/16(土) 23:27:17 ID:p/orKOsg0
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いつのまにか、首を汗が伝っていた。
空気はどろりと淀んでいて、水槽の中にいるようだった。
だけど、頭の一部だけが凍りついたように固まっている。
ショボンの声が、頭から消えない。
……ショボンは、どうしてあんなに楽しそうだったのだろう。
人が殺されたかもしれないと言ったショボン、楽しそうだったショボン。
自分の見たかもしれない事件を、死体を、心の底から嬉しそうに語ったショボン。
(*´^ω^)
暗がりの中ではっきりと見えた笑顔が、頭のなかに焼き付いている。
よく知ったはずの笑顔が、今はどうしようもなく気持ち悪かった。
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238 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/16(土) 23:29:27 ID:p/orKOsg0
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( )「……終わりかお」
( ゚д゚ )「そうだな」
ささやくようなその声に、ふと我に返る。
(;'A`)「……っ」
――百物語は続いている。
それは、俺一人が耳をふさいだところで何も変わらない。
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239 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/16(土) 23:31:15 ID:p/orKOsg0
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( )「次は誰の番?」
顔も見えない誰かの声。
その声に導かれるように、俺は声を上げた。
('A`)「――次は、」
――そして、暗闇の中、次の話がはじまる。
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240 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/16(土) 23:32:02 ID:p/orKOsg0
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('A`)百物語、のようです
廃村ツアー 了
(
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i フッ
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