- 115 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/18(日) 23:05:13 ID:fHkiEV2U0
-
彼の葬儀は、それからすぐに行われることになった。
私は仕事で身動きできないキュートの両親の代わりに、彼女を連れて彼の通夜に行ったよ。
会場にはキュートと同じ制服を着た少年や少女がたくさんいた。
彼らの顔は泣き顔だったり、怒り顔だったり、呆然とした顔だったりと様々だった。
(#;;; ― )(#´_ゝ`)
ヽiリ,,゚−゚ノi ( ; v ;)
――そんな彼らの姿を見て、私はようやく、「ああ、彼は死んだのか」と、理解した。
||‘‐‘;||レ「キュート!」
o川*゚−゚)o「カウガール……ちゃん……」
.
- 116 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/18(日) 23:07:57 ID:fHkiEV2U0
-
キュートの友人の少女と別れると、私はキュートを連れて記帳を済ませる。
そして、そのままと会場へと入った。
白い祭壇と、黒い服を来た人々の群れが私とキュートを出迎えた。
席につき、ふと親族の集まる席を見た私は、そこに子供の姿をみつけた。
少年が1人と、少女が2人。
――そして、気づいた。
2人の少女は、揃いの星の形の髪飾りをつけている。
キュートよりも少し小さな彼女たちは、一人が活発そうな少女で、もう一人はおとなしそうな少女だ。
( ・−・ )「……」
黒い服を着たおとなしそうな少女の顔には、感情らしい感情が浮かんでいない。
それで、わかってしまった。
キュートが一度見かけた。ネーノと一緒に歩いていた少女。
――それは、きっと彼女だ。
.
- 117 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/18(日) 23:09:13 ID:fHkiEV2U0
-
彼女は白い花で飾られた祭壇を、じっと無言で見つめていた。
川 ゚ -゚)「……」
私は少女の視線につられるようにして、祭壇をまじまじと眺め――そして、ふと気づいた。
祭壇の中央に添えられた黒い額縁。そこには、少年の写真が飾られている。
川 - ).。oO(ああ、彼が……)
私が、ネーノの顔を見たのは、それが最初で最後だった。
遺影として飾られた少年の顔はまだあどけなくて、キュートの言う様にかっこいいというより、かわいいという言葉のほうが似合う気がした。
目を細めて、口元を上にあげた表情は、――とてもいいことがあったんだって、伝わるような笑顔でな。
あんなふうに笑えるのならば、彼はさぞかし人気があったんだろうなぁと思わされた。
それくらい、彼の笑顔は印象的だった。
川 - ).。oO(だけど、彼はもう……)
祭壇の前に安置された棺。
そこにあの少年がいるのだとは、とてもじゃないが思えなかった。
.
- 118 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/18(日) 23:11:20 ID:fHkiEV2U0
-
――まるで、質の悪い冗談だ。
川 - ).。oO(なんで……)
交通事故なんて――、そう思った、その時。
私の耳はかすかに震える小さな声を捉えた。
( ・−・。)「……ネーノ、お兄ちゃん」
それは、親族席のあの少女から聞こえた。
おそらくは無意識のうちに出たその言葉は、周囲のざわめきに埋もれて他の誰にも届かなかった。
――だけど、私はそれで大体の事情を察してしまった。
親族席にいる少年と少女たちは、ネーノの弟や妹――「チビたち」だ。
そして、あの少女は彼の妹だ。
証拠なんて上等なものはない。
しかし、それが間違ってはいないだろうという確信に似た気持ちはあった。
.
- 119 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/18(日) 23:13:16 ID:fHkiEV2U0
-
根野ネーノ。
――彼が年齢に似合わず、女の子に優しかったのは、彼に妹――女の兄弟がいたからだ。
妹や弟の面倒を見る、優しいお兄ちゃん。
それが、ネーノ少年の素顔だったのだろう。
(*`ー´)「素直はさ、なんか妹みたいな感じがするから、嫌われてたらどうしようって思った」
いつか彼がキュートに言った言葉。
それは彼に妹がいるから出た言葉なのだろう。
彼には、物言わずに自分をじっと見上げてくるキュートの姿が自分の妹と重なって見えたのだろう。
それが、妹のような少女に向けた単なる優しさだったのか。それとも、そうではなかったのか、もう二度とわかならない。
.
- 120 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/18(日) 23:15:37 ID:fHkiEV2U0
-
o川 ゚−゚)o「クー、お姉ちゃん?」
川 ゚ -゚)「いや、何でもない」
あの少女が妹かもしれないとは、言えなかったよ。
だって、そうだろう?
全てはもう終わってしまった、後なんだ。
それをいまさら告げて、どうなる。
川 - )「……」
――だって、彼はもういない。
ネーノと少女が一緒にいた時に話しかけておけば。
もしくは、おまじないに頼らないで、さっさと告白していれば。なんて、
(*`ー´)" o川*^ー^)o
そんな夢想に、もう意味は無いのだから――。
.
- 121 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/18(日) 23:17:13 ID:fHkiEV2U0
-
そして、通夜が始まり、私は異変に気づいた。
――何かがおかしい。
そう疑問に思った理由は、すぐにわかった。
.
- 122 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/18(日) 23:20:02 ID:fHkiEV2U0
-
私はそれほど経験がないのだが、通夜では普通、顔を見てやってくださいと言って故人の顔を見せるだろう。
でも、それがないんだ。
遺体の安置された棺は確かにある。
しかし、その棺の扉はしっかりと打ち付けられて、開かないようにされていた。
まるで、そこに遺体なんてないような扱い。
彼はまだ死んでいないのではないかという錯覚を起こさせてしまいそうな式だった。
でも、違った。
私はこれまで彼の死を、ごく普通の交通事故だと思っていた。
しかし、それは大きな間違いだった。
彼の遺体はそこに確かにあったのだ。
ただそれは、……人に見せられる状態ではなかった。
.
- 123 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/18(日) 23:22:48 ID:fHkiEV2U0
-
(同し同 )「一体、どうなってるのかね? 故人の顔を見せてくれって言っても、全然見せてくれん。
マサシさん。あんたは何も知らんのかね」
(;・`ー・´)「それは……」
手洗いに行こうとたまたま席を外した私は、口さがない親族の話を聞いてしまった。
酔っていたらしい彼らの話によると、……ネーノの死体はそれはもうひどい状態だったらしい。
(;・`Д・´)「あれはひどかった。母親なんかは倒れちまったよ、かわいそうに」
彼をはねた運転手はな。
通報や救急車を呼ぶこともせずに、逃げてしまったらしい。
それだけではない。運転手はネーノの体をよりにもよって道路からは見えない、斜面の下に突き落した。
……そして、そのまま逃げた。
ネーノの帰りが遅いことを心配した祖父が、近所の男たちと彼の姿を探し始めた頃にはもうとっくに手遅れになっていた。
(同し同;)「……ああ、夏だし腐」
(;-`Д・´)q「それだけじゃなくて……」
川 ゚ -゚)「……」
.
- 124 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/18(日) 23:24:55 ID:fHkiEV2U0
-
(;-`Д-´)q「誰にも言うんじゃないぞ……」
(同し同;)「誰にもってそりゃあ、大袈裟な」
(#・`―・´)「大ゲサなくらいでいいんだよ」
親戚らしい中年の男は辺りを見回し、声をひそめた。
しかし、元の声が大きいせいで、多少声を押さえた程度では何も変わらなった。
( ・`Д・´)「ネーノはな……」
男の話す声は少し離れた場所にいた私の元まで届き――、そして、私はネーノ少年に何が起こったかを知った。
( -`Д-´)「 」
誰にも見つかること無く数日間その場に放置された、彼の遺体はな、
野犬によって食い荒らされていて、原型をとどめていなかった。
噛まれ、食いちぎられ、爪によってひきさかれて――ひどい状態だったそうだよ。
持っていかれてしまったのか、見つからないパーツもあるのだと、親族の男は語った。
そう。それはまるで、――
.
- 125 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/18(日) 23:27:30 ID:fHkiEV2U0
-
猫の爪に、牙に
引き裂かれ
食い破られた
――おまじないの、人形のように。
.
- 126 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/18(日) 23:29:22 ID:fHkiEV2U0
-
o
ゝ;:ヽ-‐―r;;, 。
,,_____冫;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:\ ,,,,,,,, o /
"`ヽ;:;:;;;:::;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:从 (;:;:;:;:ヾ-r
〈;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:) 0 ソ;:;:;:;:;:;:;:}
,,__);:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:ノ ゞイ"ヾ,:;:,ソ
(;:;:ノr-´^~;;r-ー⌒` ,.、
" ,,,, _;:;:⌒ゝソ;:/
(;:;:丿 (;:;:;:;:;:;:;:;:;:)
ヾ;;;;;;;;;;;;/; \
´ /;:ノ 。 。
()
.
- 127 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/18(日) 23:31:23 ID:fHkiEV2U0
-
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
川 - )「……私の話はここまでだ」
そして、クーは静かに話を締めくくった。
誰も、何も語らなかった。
その場に残るのは闇と、水の中にいるような息苦しさだけだ。
( )「……」
ξ )ξ「……っ」
あまりにも思い雰囲気に、俺は作り話なんだろうという言葉を慌てて飲み込んだ。
クーの言葉は真剣で、怖いくらいだった。
とてもじゃないが作り話をしているようには見えない。
だから、嘘だろうと問いかけるかわりに、俺は違うことを聞くことにした。
.
- 128 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/18(日) 23:33:08 ID:fHkiEV2U0
-
('A`)「クーは本当のところは、おまじないのせいだと思っているのか?」
それは、俺がクーの話の中で一番気になっていたことだった。
もし、おまじないのせいでないのだとしたら、ネーノという中学生に起こった事態は、単なる事故だ。
しかし、キュートという女の子が試したおまじないのせいだとしたら、それはまるで……
川 - )「……私には、わからない。
だけど、おまじないなんて関係なかったと、思いたい」
話をする間、ずっと理知的だったクーの声がはじめて震える。
思うことは素直に口に出せても、冷静な態度を常に保っている、クー。
彼女の声がはじめて、大きな感情の色をあらわにする。
.
- 129 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/18(日) 23:35:41 ID:fHkiEV2U0
-
川# - )「……だって、そうじゃないか。
私がそうだと言ってやらなければ、キュートは!」
それは、怒りだった。
冷静で理知的な彼女らしくない。
理解の及ばない出来事に対する、怒りの感情。
彼女は吼えるように声を上げ、
――そこから先の言葉を、口にしなかった。
川# - )「……」
でも、何が言いたかったのかは、この場にいる全員に伝わったと思う。
そうでなきゃ、嘘だ。
だって、いくらクーでも言えるはずがないだろう。
.
- 130 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/18(日) 23:37:49 ID:fHkiEV2U0
-
中学生。
同級生に恋をした、それだけの女の子。
o川*- -)o「根野 ネーノくんと、両思いになれますように」
彼女の好意が、小さなおまじないが、何の悪意もないままに、彼女の一番大好きな人を、
――呪い殺した、なんて。
.
- 131 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/18(日) 23:39:31 ID:fHkiEV2U0
-
暗い部屋には沈黙が横たわっている。
今度こそ誰もが、口を開こうとはしなかった。
川 - )「……話し終えたら、蝋燭を消すんだったな」
それを遮ったのは、クー自身の声だった。
クーは先程までの怒りが嘘の様に静かな声で言った。
そこにはもう、激しい感情の名残は見えない。
(;'A`)「あ、ああ」
( ゚д゚ )「蝋燭は、二つ向こうの和室にある。
ふすまは開いているから、明るい方に進んでくれ」
川 - )「わかった」
ミルナの声が途切れると同時に、人が立ち上がる気配がした。
クーの着ている白いブラウスが動くのがぼんやりと見える。
足元を確かめるように、クーはゆっくりと部屋の外へとむけて進んでいく。
川 ゚ -゚)「――また、な」
――そして彼女は、開け放たれた襖の向こうへと消えた。
.
- 132 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/18(日) 23:42:06 ID:fHkiEV2U0
-
( )「……まるで、呪いだね。丑の刻の藁人形みたいだ」
( )「おまじないが、呪いにか……」
クーが去って気が緩んだのか、暗闇の中で誰かがそう言った。
それは俺が思っていても、口にしなかった言葉だった。
( ゚д゚ )「……おまじないを漢字で書くとどうなるか、知ってるか?」
そして、その声に触発されたのかミルナがポツリと声を上げた。
これまでの話とはまったく関係ない言葉に、周囲がざわめき声があがる。
ξ )ξ「……おまじないに漢字なんてあるの?」
( )「ひらがなじゃないのかお?」
( )「うーん。漢字かぁ、僕にはわからないな。正解は?」
その言葉に、ミルナは目を閉じた。
それから、空中に字を書く素振りをしながら、答えを口にした。
.
- 133 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/18(日) 23:44:32 ID:fHkiEV2U0
-
( -д- )「――御呪い、だ」
.
- 134 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/18(日) 23:46:25 ID:fHkiEV2U0
-
( ゚д゚ )「おまじないと呪いは、本質的には同じ行為なんだ」
ミルナは淡々と話し続ける。
その顔に浮かぶのは、いつものミルナと同じ感情の読み取れない表情だ。
( ゚д゚ )「誰かを手に入れたいという願いは、裏を返せば相手を自分の思う通りに相手を支配したいということだ。
そこに、対象となる相手の意志など関係ない。いや、むしろ邪魔なだけだ」
ξ )ξ「いくらなんでも言い過ぎよ」
( ゚д゚ )「でも、そうだろう。
おまじないとは、例え相手に好きな人がいようとお構いなしに、自分へ気持ちを向けさせるためのものなのだろう?」
ξ# )ξ「でも、それは――」
興奮したような激しいツンの声が、止まる。
考えをまとめているのか、それともクーに声が声が伝わるのを恐れたのか、彼女はしばらく唸り声を上げて、
――結局、その言葉を口に押し込んだ。
ξ )ξ 「……」
.
- 135 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/18(日) 23:48:32 ID:fHkiEV2U0
-
誰も話さなくなった部屋に沈黙が落ちる。
俺も、周りのやつらと同じように黙りこみ――、
ふと、
「ネーノくんのそういうとこ、……好きだなぁ」
「……す、素直って、たまにすごいこと言うんじゃねーの。びっくりしたー」
「えー、何? キューちゃん変なこと言った?!」
女の子と、男の声が聞いた様な気がした。
楽しそうな、声。
不思議と、いちゃつくやつは滅べという気持ちにはなれなかった。
……むしろ、このまま続けばいいと思ってしまった。
「オレも、素直のそういうところは好きだよ」
「ふぅぇ? わっ?」
「へへへ。お返しじゃねーの」
女の子と、男の声は続く。
――俺はなんだか二度と取り返せないものを見たような気がして、ただ無性に悲しかった。
.
- 136 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/18(日) 23:50:12 ID:fHkiEV2U0
-
部屋の空気が一瞬大きく揺らぎ、闇がまた一つ濃くなる。
クーが蝋燭を一つ消したのだろう。
……気づけば、あの声は声はもう聞こえなくなっていた。
( )「さて、続きをはじめようか」
百物語の蝋燭は、まだ残っている。
全ての蝋燭が消えた時、どんな闇が待つのか。
俺は、まだ知らない――。
.
- 137 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/18(日) 23:51:40 ID:fHkiEV2U0
-
('A`)百物語、のようです
御呪いの話 了
(
)
i フッ
|_|
.