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58 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/17(土) 22:35:07 ID:adaBwzoE0
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――おまじないの効果は、それからすぐに現れた。
o川#゚〜゚)o「ぶーぶー、なんでキューちゃんが買い物しなきゃいけないのー」
o川#゚ぺ)o「キューちゃんガッコーでつかれてるんだから、ママが行けばいーのにー」
その日、キュートは伯母さん――母親に言われて、スーパーにお使いに出ていた。
買い物くらい文句を言わず行ってやればいいだろうとは思うのだが、まあ彼女はまだ中学生だ。
仕方がないといえば、仕方がないのだろう。
ともかく、文句を言いながらも出かけた先で、キュートは出会った。
誰にだって?
そんなこと言うまでもないだろう。
――彼にだよ。
( `ー´)「――牛乳と、卵と」
キュートの想い人。クラスの人気者。優しくて面倒見のいいネーノくん。
彼がどういうわけか、カートをひいて買い物に勤しんでいた。
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59 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/17(土) 22:36:25 ID:adaBwzoE0
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( `ー´)「あれ、素直?」
o川;゚ー゚)o !
(*`ー´)「素直も、買い物?」
彼はキュートに気づくなり、笑いかけた。
まるであの雨の日の続きのように。しばらく話していないことなど嘘のように、彼は自然とキュートに話しかけてきた。
o川;゚ー゚)o「そ、そうだけど。なんで……」
(*`ー´)「ああ、オレ? 今日は、夕飯買いに。
カーチャン遅いから、チビたちに飯食わせてやんなきゃいけないんじゃねーの」
彼のカートを見れば、卵や牛乳やひき肉、玉ねぎなどが入れられている。
それが出来合いの食事じゃなくて、料理の材料だというのは、普段手伝いをしないキュートでもわかった。
o川;゚ー゚)o「ご飯作るの?」
(; `ー´)「え、あ……簡単なやつだけ。
惣菜ばっかだと、弟食べないし。オレも飽きるから」
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60 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/17(土) 22:37:37 ID:adaBwzoE0
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頭を掻きながら、ネーノは肩をすくめる。
見慣れた制服ではなくて、薄緑のシャツという私服姿が新鮮で、キュートの胸はどきりとする。
制服じゃないネーノくんもかっこいいなぁ、とキュートはネーノの姿に見とれていた。
o川*゚ー゚)o「すごいなぁ、キューちゃんなんか自分のことだけでいっぱいなのに。
ネーノくんは人のことまで、考えられるんだもん」
――はっきりと言おう。キュートは完全に浮かれていた。
だからと言うべきか、やはりというべきか……彼女の思考はしっかりと回らなくなっていた。
彼女は自分でははっきりと意識しないまま、普段は絶対に言わないようなことを口にしていた。
o川*^ワ^)o「ネーノくんのそういうとこ、……好きだなぁ」
(///〜/)「――っ」
ネーノの顔が固まり、一瞬にして真っ赤に染まる。
キュートはその顔を見てはじめて、自分が何か妙なことを口走ったのだと気づいた。
しかし、浮かれきっていた彼女は自分が何を言っていたのかすら、わかってはいなかった。
(; `ー´)「……す、素直って、たまにすごいこと言うんじゃねーの。びっくりしたー」
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61 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/17(土) 22:39:23 ID:adaBwzoE0
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o川;゚ー゚)o「えー、何? キューちゃん変なこと言った?!」
ようやく平静をとりもどしたネーノの顔色を見て、首をひねりながらしばらく考えて。
やがて、キュートは自分が何をやらかしたのか気づく。
o川///)o「……ぁ」
キュートの顔は恥ずかしさで真っ赤に染まる。
恥ずかしさと混乱で吹き出す汗を拭いながら、キュートは慌てながらも声を上げる。
o川;゚д゚)o「根野くんのこと、名前で呼んじゃってた、ごめんねっ。
き、キューちゃんついうっかり」
その次の瞬間、それこそネーノは弾けるように笑い出した。
……何故かは言わなくてもわかるよな。
この場合、名前呼びかどうかは正直どうでも良かったということだ。
(つ゚`ー´)「いや、そっちはいいんだけど」
ネーノは笑いすぎて滲んだ涙を、手で拭いながら言った。
しばらく彼の口からは笑いが漏れていたが、ネーノはそれをなんとか抑える。
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62 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/17(土) 22:40:21 ID:adaBwzoE0
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( `ー´)「オレも、素直のそういうところは好きだよ」
――そして、彼は真面目くさった様子で告げた。
場所はスーパー。手に持っているのは、カートに買い物カゴという、ロマンの欠片もない姿。
しかし、そんなネーノの姿もキュートにとっては、白馬に乗りバラを手にした王子様にも見えた。
o川///)o「ふぅぇ? わっ?」
(*`ー´)「へへへ。お返しじゃねーの」
真っ赤になって立ちすくむキュートの横を、ネーノは早足で進んでいく。
カラカラとカートは床を滑り、ネーノは客の間をすり抜けて、遠く離れていく。
(*`ー´)「じゃあな、キュート。また明日、学校でー」
o川;゚ワ゚)o「じゃ、じゃーね! ね、ね」
o川//o/)o「ね、……ネーノくん」
ネーノに向けて、キュートは精一杯の勇気を振りしきって声を上げる。
その声がちゃんと彼のもとに届いたのかはわからない。
でも、最後に振り返ったネーノの顔も赤くなっているような気がして、それだけでキュートの胸はいっぱいになった。
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63 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/17(土) 22:44:56 ID:adaBwzoE0
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o川*゚ー゚)o「……すごい」
買い物を済ませて家に帰ったキュートは、興奮のまっただ中にいた。
おまじないを試してたったの一日、それだけでネーノとこんなに話せてしまった。
それに、ネーノは「キュート」と、名前まで呼んでくれた。
o川*>ワ<)o「おまじない効果あったよ、やったぁっ!」
それが嬉しくて、その夜は遅くまで眠れなかった。
ベットに飛び込み、スーパーでのやり取りを何度も思い返して、忘れないようにノートに書いて。
そのノートを見返すだけで、幸せになって、自然と笑いがこみ上げてきた――、そうだ。
o川*゚ー゚)o「ネーノくん、かっこよかったなぁ。きょーだいいるんだ」
私服姿、料理ができること、兄弟がいること――いろんなことが知れて、とっても幸せで。
このおまじないは本当に聞くんだと、キュートは嬉しくなった。
o川///)o「いっぱい、話しちゃった」
願いが叶うまでに必要な期間は、1ヶ月。
早く1ヶ月が過ぎて、ネーノくんと両思いなりますようにとキュートは願った。
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64 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/17(土) 22:46:47 ID:adaBwzoE0
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――それからの1ヶ月は、キュートにとっては長い、長いものだった。
早く願いが叶う日がくればいいのに、というキュートの思いとは裏腹に毎日はとてもゆっくりと過ぎた。
しかし、それは悪いことばかりではかなった。
体育大会や、テストという行事も会ったし、新しい友だちも増えた。
しかし、それ以上に――、
( `ー´)「素直、ちょっとちょっとー」
o川*゚−゚)o「……どうしたの、根野くん?」
(; `ー´)「裁縫道具とか持ってない?」
ネーノ少年と話せる機会が、少しだけ増えた。
あの雨の日や、スーパーの時みたいにとはいかないけれど、ネーノはキュートにちょくちょくと話しかけてくれるようになったそうだ。
o川*゚ワ゚)o「今日も、ちょっとだけだけどお話できた」
おまじないの人形のおかげで、ネーノとの距離が近づいている。
キュートはそれを私や友人に言いふらしたい気持ちでいっぱいだった。
だけど、おまじないでは人に話すことは禁じられていたから、キュートはぐっと我慢した。
おなじないの人形を誰にも見つからないように、大切に持ち歩きキュートは毎日を過ごした。
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65 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/17(土) 22:47:55 ID:adaBwzoE0
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――そして、1ヶ月がたった。
キュートがおまじないをはじめてから、ちょうど1ヶ月。
彼女はホームページにあった方法を守り続けた。
キュートの作ったおまじないの人形は誰にも見つからないまま、ついにおまじないの叶う日を迎えた。
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66 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/17(土) 22:52:01 ID:adaBwzoE0
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……しかし、現実というやつはそううまく行かないものだな。
おまじないがようやく叶うという、1ヶ月目の、その日。
たまたま、外出していたキュートは見てしまった。
( *・−) `ー´)
それは、楽しそうに通りを歩く彼と――キュートの知らない女の子の姿だった。
( `ー´)「 ?」
( ・−・ )「……」
(; `ー´)て「 !」
( ・−・ ) ?
その女の子は、星の形の髪飾りをつけた、おとなしそうな子だった。
表情のあまりない彼女の口元にはかすかに笑みが浮かんでいて、それがとてもかわいらしかったそうだ。
ネーノのほうが一方的に話して、女の子はじっとネーノを姿を見つめる。
会話はほとんどなかったけれども、それでも二人は楽しそうだった――と、後にキュートは語った。
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67 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/17(土) 22:53:50 ID:adaBwzoE0
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o川*゚−゚)o「……」
その時、キュートは頭が真っ白になったのだという。
自分の見たものが信じられなくて。
でも、見なかったことにしようとしても、頭のなかから二人の姿は消えてくれない。
「どうして」という気持ちと、
「やっぱり」という気持ちが混ざり合って、キュートは自分が立っているのかどうかもわからなくなった。
( *・−) `ー´)
二人は仲良く話しながら、去っていく。
キュートがそこにいることには、気づかない。
しかし、もし彼らが仮に気づいたとしても、キュートには何て話せばいいのかなんてわからない。
付き合っているの、と聞けばいいのだろうか?
おめでとう、とでもいえばいいのだろうか?
彼女がいるなら言え、と怒鳴ればいいのだろうか?
少し話せるようにはなったとはいえ、ネーノにろくに話しかけることすら出来ないキュートに、そんなことできるはずがない。
o川 − )o「……」
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69 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/17(土) 22:54:53 ID:adaBwzoE0
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話しかけることが出来ないから、キュートはおまじないに頼った。
絶対に叶うと信じていたわけじゃない。
――だけど、こんなのはあんまりだ。
よりにもよって、効果が出るというこの日に、こんな光景を見せつけなくてもいいじゃないか。
o川 − )o「……どうして」
泣き出しそうになるのを、大声を上げそうにあげそうになるのを何とかこらえて、キュートは家まで帰り着いた。
部屋に入り、鞄からおなじないの人形を取り出す。
三ヶ月の間、大切にしてきた人形はいつもと何も変わらない様子でそこにあった。
o川#゚−゚)o「こんな、おまじないなんてっ!」
キュートは、ずっと大切にしてきたおまじないの人形の腕を掴みあげた。
ネーノに似せようと懸命に作った顔、それを見ているだけでどうしても憎らしくなって、
キュートは手にした人形を、
机に、
叩きつけ――
,
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70 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/17(土) 22:56:09 ID:adaBwzoE0
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――ようとして、踏みとどまった。
この人形は一生懸命作り上げた、キュートとネーノをつなぐ絆だ。
だから、想いが叶わないとしても、それを自分の手で壊すなんてしたくないと思ったんだろうな。
:: o川 − )o ::「……みたい」
人形の腕を掴んだまま、振り下ろすことも出来ずに、キュートは震えた。
腕がぐにゃりと曲がり人形の体がぷらりと垂れるが、その時のキュートは気にもとめなかった。
o川*;−;)o「ばかみたい」
涙で瞳がいっぱいになり、限界を超えて溜まった涙が一粒、二粒とこぼれ落ちていく。
一度、決壊してしまえばもう、涙は止まらない。
o川 ;д;)o「キューちゃん、ばかみたいだよぉ……」
キュートが声を上げて泣き始めるのに、時間はかからなかった。
.
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71 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/17(土) 22:57:54 ID:adaBwzoE0
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そして、
――異変が起こったのは、その翌日だった。
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72 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/17(土) 22:59:19 ID:adaBwzoE0
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o川;゚ー゚)o「……」
次の日、登校したキュートは教室で信じられないものを見た。
( `ー´)「……」
その日、二時間ほど遅刻してきたネーノの腕は、ギプスで固められ白い包帯が巻かれていた。
ひと目で大事だとわかる怪我に、クラスは大騒ぎになった。
お調子者なんかは、鬼の首を取ったように大騒ぎをしたと言う。
(#;;;゚∀゚)「よお。ネーノちゃん、どうしたんだ?
何、ケンカ? やられたんなら俺がほーふくに行ってやるゼ」
(; `ー´)「ちがうちがう。ちょっとドジふんだんじゃねーの」
(#;;n゚∀゚)n「かっこいいこと、いうじゃんかよー。ヒュー、かっこいいねぇネーノちゃん」
しかし、クラスのざわめきも、ネーノの言葉もキュートの耳には入らなかった。
キュートの視線は、ネーノの腕。その包帯とギプスにじっと注がれている。
大怪我をしたネーノ、その怪我をしたその患部は……。
o川;゚ー゚)o.。oO(左手)
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73 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/17(土) 23:01:08 ID:adaBwzoE0
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(#;;;゚∀゚)「で、相手ダレ? どこ中?」
(; `ー´)「……滑り台。弟と遊んでて、落ちたの。
弟ブジだったからいいけど、もうさんざんじゃねーの」
(#;;;゚∀゚)「すべり台、すげぇぇぇ。やべぇぇぇぇ!!!」
左腕、そして大怪我。
目の前で起こっている事態に、――キュートは、何か引っ掛かりを覚えたのだそうだ。
o川;゚ぺ)o.。oO(なんだろう、すごく)
はっきりとは、思い出せない。
だけど、キュートには確かに覚えがある。
なんだろう。何でこんなにも嫌な予感がするんだろう、とキュートはわけもわからないままに焦りを覚えた。
o川;゚ー゚)o「……」
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74 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/17(土) 23:03:29 ID:adaBwzoE0
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キュートは考えた。
滑り台、怪我、左腕、ネーノ……昨日の彼女、ダメだったおまじない。
そして、――おまじないの人形。
ネーノの髪を手に入れ、制服のボタンを拾い、そして、彼の名前を書いた紙を中に入れた、それ。
彼に似せて作った、手作りの人形。
キュートの、一ヶ月以上に渡る思いの結晶。
o川; ー )o「あ」
昨日の晩、ショックを受けたキュートは、腹立ちまぎれにその人形を掴んだ。
強い力を込めて、机に叩きつけようとして、そしてできなかった。
握った力で、人形の腕はぐにゃりと曲がった。
o川; − )o.。oO(わかった、わかっちゃった)
その時。
キュートが掴んでいたのは、人形の――左腕だった。
o川;゚−゚)o.。oO(いっしょだ、キューちゃんがつかんだとこと)
そして、ネーノが怪我をした場所も左腕。
――二つの場所は、寸分違わず同じだった。
.
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75 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/17(土) 23:05:13 ID:adaBwzoE0
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普通なら、偶然だと思って気にもとめないだろう?
気味が悪いと思うことはあっても、せいぜいそのくらいだ。
しかし、キュートはそうは思わなかった。
なんてったって、キュートの試したのは、とってもよくきくおまじないだ。
だから、何かの間違いで大変な事になってしまったのかもしれない――そう、考えたのだな。
o川; − )o「……どうしよう」
彼女の呟いた焦りの声は、教室に小さく響いた。
だけど、クラスの人気者の怪我で騒然とした教室では、誰も気づかない。
(#´_ゝ`)「ぎゃーぎゃー、うるせー」
⊂(#;;;゚∀゚)⊃「いやいや、オレ静かだよ。すっげぇ静かなの!! うっひょー!!!」
(; `ー´)「ああ、もう。ちょっとは落ち着いたほうがいいんじゃねーの?!」
ネーノ少年の怪我は純粋な事故だ。
キュートだって本当は、偶然が重なったのだと、わかっている。
だけど、どうしても――、
ネーノの怪我はおまじないのせいではないか、という思いはキュートの中から消えなかった。
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76 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/17(土) 23:07:16 ID:adaBwzoE0
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学校が終わり家に帰っても、キュートの頭はネーノの怪我のことでいっぱいだった。
女の子と一緒だった、ネーノ。
ネーノは多分その後すぐ彼女と別れて、弟の面倒を見ている間に怪我をしたのだろう。
ギプスを巻かなきゃいけないくらいの大怪我。
それが、おまじないのせいだとしたら……、
o川*゚−゚)o「……どうしよう」
ネーノと両思いになるための、おまじない。
準備をして、願いを込めて――1ヶ月間ずっと、楽しみにしてきたおまじない。
o川 − )o「でも、何で……」
キュートは人形を手に取る。
キュートが試したのは、『彼を自分のものにする』ためのおまじないだ。
恋愛をかなえるための、おなじないが、どうしてこんなことになったのかわかならい。
でも、
キュートは手にしたおまじないの人形を、そっと見る。
ネーノに似せて、キュートが縫い上げた人形。
それが急に怖いものになってしまったような気がして、キュートはぎゅっと目を閉じた。
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77 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/17(土) 23:08:12 ID:adaBwzoE0
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ネーノが怪我をしてから、数週間。
その間、キュートは彼の顔をまともに見ることが出来なかった。
o川 − )o「……」
彼の顔が見えるたびに、白い包帯とギプスが目に入り、おまじないのことを思い出してしまう。
それで、落ち込んで後悔する。
しかし、それでもネーノの姿が気になって、そのたびに彼の包帯を見て後悔するという日々を、キュートは続けていた。
( `―´)「……」
( ´_ゝ`)「どうした?」
(; `ー´)「いいや、別になんでもないんじゃねーの」
ネーノの怪我が起こったあの日以降、何もおかしなことは起こらなかった。
かわりに二人が両思いになるということもなかったが、キュートはそれでもよかった。
その時のキュートにとってはむしろ、おまじないが効いていないとわかる方が安心できた。
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78 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/17(土) 23:10:37 ID:adaBwzoE0
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……おまじないの人形は、自分の部屋に置くことにした。
ネーノの怪我のことがあって以来、キュートは人形を持ち歩く気にもなれなかった。
かといって、捨てるのも怖かったし、自分の作ったものだから、少しだけ愛着もあった。
だから、人形の置き場として部屋はちょうどよかった。
ここなら、誰かに見つかるなんてこともないし、落とすこともない。
o川*゚−゚)o「……もう何も、起こらないといいなぁ」
おまじないが気のせいだとわかったら、私に相談しようと、彼女は思っていたそうだ。
逆におまじないのせいだった場合でも、相談するつもりだったのだそうだが、その時の彼女はまだ私に相談をしなかった。
家族や友達にも相談できないまま、キュートは一人悩み続けていたらしい。
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79 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/17(土) 23:11:18 ID:adaBwzoE0
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――それでも日々は過ぎる。
テストが終わると、半日授業がはじまる。
半日授業の日程に慣れたかと思えば、すぐに終業式だ。
そして、終業式が始まり。彼女は中学校生活はじめての夏休みを迎えることになった。
その頃にはキュートも少し落ち着き、これまでのことは考えすぎだったのだと思える様になっていた。
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80 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/17(土) 23:12:55 ID:adaBwzoE0
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( ´_ゝ`)「ようやく休みか。長かったな」
(#;;;゚∀゚)「なーなー、お前ら休みはどうすんの? セミ? セミとか取っちゃう?
( ´_ゝ`)「テメェはガキか」
休みの間の予定で賑わう教室の中で、キュートはぼんやりとしていた。
キュートにとっても夏休みは楽しみだ。しかし、ネーノと会えなくなるのだけが、気がかりだった。
||‘‐‘||レ「楽しみね、夏休み」
o川*゚−゚)o「……うん」
||‘‐‘||レ「もう、キュートは元気ないぞー」
キュートの友達も、キュートの異変には気づいていたんだろうな。
……彼女には後ほど会ったが、とてもいい子だったよ。
o川*゚ー゚)o「カウガールちゃんとも、あんまり会えなくなるなぁと思って」
||‘‐‘*||レ「ああもう、キュートはかわいいんだから。大丈夫、いっぱい遊ぼうね」
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81 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/17(土) 23:14:46 ID:adaBwzoE0
-
教室の中は、夏休みを前にして浮かれて切っていた。
それは、ネーノも同様のようだった。
( l v l)ネーノ ハ?
( `ー´)「夏休みは、ずっと爺ちゃん家。
この腕じゃプールにも入れないから部活にも参加できないし、しかたねーんじゃねーの」
( `〜´)「あー、泳ぎたかったなぁ」
包帯のない方の腕を泳ぐように振り回して、少年は嘆いた。
といっても、彼の口調はふざけていたし、表情も明るかったから、クラスの中からは笑いが漏れた。
治ったらプール行こうぜという声が上がり、それにネーノも行く行くーと陽気に返す。
(*`ー´)「お土産買ってくるから、楽しみにしてるんじゃねーの!」
(#;;;゚∀゚)「よし、言ったな! 約束は守れよ―」
( l v l)ミヤゲ
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi 「お土産!?」
その後、通知表をもらい賑やかな空気のまま、夏休み前最後の一日は終わった。
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82 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/17(土) 23:17:47 ID:adaBwzoE0
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||‘‐‘||レ「じゃあ、私。部室に顔出してから帰るから」
o川;゚〜゚)o「えー、ほんと? いっしょに帰れると思ったのに」
||‐。-*||レ「今日のところはあきらめてくださーい」
教室では何組みかのグループができ、夏休みの計画を立てている。
キュートと友人の彼女もその例にもれず教室に残っていたが、それもすぐにお開きになった。
o川;゚ー゚)o「じゃあじゃあ、途中までいっしょに行こ?」
||‘‐‘*||レ「もー、キュートは本当にあまえんぼさんねぇ〜」
廊下を歩き、キュートは友達と別れる。
一人になるのはさみしいけれども、そう我儘ばかりは言ってはいけないとキュートは我慢した。
o||‘ー‘||レ「じゃあ、電話するからー」
o川*゚ー゚)o「キューちゃんも電話するねー」
他に帰る相手もいないので、彼女と別れた後はキュート一人だ。
キュートは学校を出ると、家へと向かって歩き始める。
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83 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/17(土) 23:19:03 ID:adaBwzoE0
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――その途中で、キュートは誰かに名前を呼ばれたそうだ。
だれだろう? と思って、キュートは振り返って、
(; `ー´)「素直ーっ!」
そこにネーノがいることにとても驚いた。
教室で夏休みの話題に花を咲かせていたはずの彼が、そこにいる。
キュートの名前を呼んで、走り寄ってくる。
o川;゚ー゚)o「ね、ネー……根野くん!?」
(*`ー´)「よかったー、追いついたんじゃねーの」
彼はほっとしたように息をつくと、そのままキュートの隣に並んだ。
ネーノの顔には教室で見せるような、笑顔が浮かんでいる。
( `ー´)「素直にちょっと聞きたいことがあってさ」
o川 ゚−゚)o「……うん」
おまじないのことじゃないかと思い、キュートは体を固くする。
――しかし、ネーノが口にしたのは、まったく関係のない言葉だった。
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84 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/17(土) 23:20:53 ID:adaBwzoE0
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( `ー´)「素直は創作公園の夏祭りって行く?」
o川;゚−゚)o「うん。いちおー」
(*`ー´)「じゃあさ、一緒にいかない?」
ネーノの言葉の意味を、キュートはしばし考える。
しかし、その言葉を理解した瞬間。キュートは真っ赤になった。
これは、いわゆるデートのお誘いではないか……そう、思ったわけだな。
o川////)o「……お祭りって、2人で?」
(; `―´)て「えっ?」
ネーノは驚いたような声を上げ、しばらくした後に顔を真っ赤にした。
怪我をしたままの両手を体の前で振り、ネーノは慌てて声を上げる。
(;//д/)「い、いや。みんなで!! みんなで、なんじゃねーの!!
ついさっき、教室でそんな話題になって!!!」
o川;///)o「そ、そ、そうだよねぇー!
えへへー、キ、キューちゃん、かっかんちがいしちゃったー」
(;//―/)「そ、そ、そうなんじゃねーの!!」
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85 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/17(土) 23:22:47 ID:adaBwzoE0
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2人は互いに声を上げ、ぎくしゃくと笑いあった――そうだ。
しばらく、そうやって言い訳ともつかない不自然な会話を続けた後に、ネーノはノートの切れっ端と鉛筆を取り出した。
(; `ー´)「連絡するから、電話番号教えてほしいんじゃねーの」
o川;゚ワ゚)o「う、……うん。わかったー」
( `ー´)「じゃあ、これがオレん家の番号」
電話番号をお互いに交換し終える頃には、二人の間の空気はすっかり元通りになっていた。
キュートはそれに寂しさを覚えると同時に、少しだけほっとしたそうだ。
ネーノとちゃんと話すのは、彼が怪我をした日以来のことだった。
( *― )「……まぁ、2人で行くってのも、悪くはなかったんじゃねーの」
o川*゚ー゚)o「え?」
ネーノがふともらした言葉に、キュートは息を呑んだ。
それはなんだかドキドキするような言葉のような気がして、キュートは小さく聞き返した。
……しかし、彼女が声を上げたときにはもう、彼はいつもの明るい調子に戻っていた。
(*`ー´)「なんでもない。じゃ、そのうち電話するからー!!」
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86 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/17(土) 23:24:15 ID:adaBwzoE0
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そう言ってネーノは、キュートに背を向ける。
突然の行動に驚くキュートに向けて、彼は軽く手を振ってみせると「学校」と小さく告げた。
( `ー´)「話し合いの途中で抜けてきちゃったから戻るんじゃねーの」
o川;゚ー゚)o「……わざわざ、来てくれたの?」
(*`ー´)「オレも素直と遊びに行きたし、気にしなくてもいいんじゃねーの!」
なんでもないことのように言ってのけて、ネーノは笑った。
学校の外まで追いかけて来て、わざわざ話しをしてくれる。
それが特別なことのような気がして、キュートの顔は熱くて息も詰まりそうになる。
( `ー´)「お祭り、一緒に行こうな」
o川////)o「……」
それでも、ネーノの最後の言葉にキュートは最高の笑顔でうなずいた。
o川*゚ワ゚)o「うん!」
ネーノが嬉しそうに笑うのを、キュートは見た。
キュートはそれが嬉しくて、ネーノの姿が見えなくなるまで手を振り続けた……。
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