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1 名前: ◆39an787z3o [] 投稿日:2016/04/02(土) 21:32:55.743 ID:YYfpLl5c0
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ノパ听)「ミルナ! あの木のところまで競争だ!」
( ゚д゚ )「ガッテン!」
大人の膝ほどまでしか背丈のない二人が駆け出す。
小さな手足を必死に動かし走る姿は何とも愛らしい。
周りの大人は微笑ましげにそれを眺めていた。
ノパ听)「うおおおおおおお!」
( ゚д゚ )「うおおおおおおお!」
どたばたと駆ける方向。木の下には彼らより少しだけ大きな女の子が待っている。
黒く長い髪を風にたなびかせながら彼女は二人を待っていた。
彼らの姿が近づいてくると、彼女は片手を高々と掲げる。
その腕が降ろされたとき、二人に勝敗が言い渡されるのだ。
二人の心臓は走ったために起きる激しい鼓動だけではなく、
期待と希望に膨らむ鼓動も内包してリズムを刻む。
地面を抉りながら、彼らは木の真横を通り抜けた。
川 ゚ -゚)「――引き分け!」
彼女が高らかに告げたのは、
片方の勝ちでもなければ、片方の負けでもなかった。
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2 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/04/02(土) 21:34:52.300 ID:YYfpLl5c0
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ノパ听)「ミルナァ! 体力テストで勝負だあああ!」
( ゚д゚ )「受けて立ぁつ!」
高校生にもなって、同い年の男女が何をしているのだ、と思うことだろう。
彼らの同級生は思い続けて早二年と少し経った。
もはや二人のやりとりに関しては何も突っ込むまい、というのが暗黙の了解だ。
ノパ听)「まずは50m走!」
( ゚д゚ )「よしきた!」
先日行われた体力テストの結果が書かれた用紙を彼女が持ち出すと、
呼応するように男の方もポケットから折りたたまれた用紙を取り出す。
二人はまるで賞状のようにそれを目の前に掲げた。
ノパ听)「5秒31!」
( ゚д゚ )「5秒31!」
同時に叫ばれた秒数は見事に一致している。
寸分の狂いもない。
二人は互いにぐぬぬ、と顔を見合わせながらも、
すぐに気を取り直して次の種目へと移行していく。
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4 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/04/02(土) 21:36:15.664 ID:YYfpLl5c0
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( ゚д゚ )「握力!」
ノパ听)「おう!」
( ゚д゚ )「左右35!」
ノパ听)「左右35!」
( ゚д゚ )「またか!」
ノパ听)「まただ!!」
走り幅跳び、前屈、腕立て伏せ。
次々に種目は変わるが、
引き分けるという結果だけはどうにも変わらない。
ノパ听)「これで最後! シャトル・ラン!」
( ゚д゚ )「205回!」
ノパ听)「205回!」
頭を抱えた二人の呻きが中庭だけに留まらず、
校舎の中にまで響いていく。
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5 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/04/02(土) 21:38:13.874 ID:YYfpLl5c0
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VIP高等学校三年の名物コンビ。
家が隣同士の幼馴染。
幼稚園から高校までずっと一緒に上がってきた仲だ。
近所のみならず、同校出身者ならば、彼らのことを知らぬ者はいない。
彼らが名物コンビと呼ばれたのは何も高校生になってからのことではないのだ。
それこそ、幼稚園年中の頃には先生達から密かにそう呼ばれていた。
彼らの仲について問われたとき、知り合い一同はこぞって妙な呻き声を上げる。
良い、といえば良いのだろう。
共に登下校をし、同じ部活に入り、テスト前にはどちらかの家でテスト勉強をする。
仲が悪い、とは口が裂けてもいえない。
しかし、彼ら二人がごく普通の友情、もしくは愛情を育んでいるのか、
と問われれば、それもまた微妙な話であった。
二人はセットである。
だが、彼らは仲良く買い食いをして帰るわけでも、
昼食と一緒に食べるわけでも、休日に和気藹々と遊ぶわけでもない。
登下校の時間が同じだから、家の方向が同じだから、共に帰るだけ。
言葉を交わすのも、部活が同じなのも、一緒に勉強するのも、必要だからこそだ。
まだ齢18でしかない彼らにこのような言葉を当てはめていいものかどうかはわからないが、
周囲の人間達としてもその言葉しか彼ら二人を現すことができない、と考えている。
つまり「永遠のライバル」というやつだ。
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7 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/04/02(土) 21:40:10.343 ID:YYfpLl5c0
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ノパ听)「また引き分けかあああああああ!!」
三年二組、素直ヒート。
いつも快活。元気一杯に走りまわる姿がよく見られる。
陸上部に所属している彼女の俊足を知らぬ者はいない。
県大会に出場するほどの実力を持つ。
( ゚д゚ )「くっそお!」
三年五組、東風ミルナ。
普段は寡黙で、男気溢れる男だ。
彼がそれを崩すのは、ライバルたるヒートを目の前にした時のみ。
陸上部に所属し、知らぬ者のいない俊足を持っている。
当然、県大会にも出場し、毎回好成績を残している優等生だ。
今日も今日とて、二人は競い合う。
学校生活に関することから、私生活まで。
彼らが争わずにすむ事柄は殆どない。
ノパ听)「これで0勝0敗4万飛んで521引き分けだ!」
( ゚д゚ )「次こそは勝つ!」
日がな一日、年がら年中競い続けてはいるものの、
彼らの間に決着がついたことは一度たりともなかった。
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8 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/04/02(土) 21:42:13.850 ID:YYfpLl5c0
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全ての始まりは幼稚園の頃だ、と彼らは言う。
彼らは幼稚園からの帰り道、
ふと思いつき、競争をすることにしたらしい。
木の下に先についたほうが勝ち。
そんな、おかしなところのない、
誰でも一つや二つ持つ幼少期の思い出。
ヒートの姉、クールが審判を務め、
二人の結果を見守り、判決を下してくれた。
残酷なまでに公平な審判。
川 ゚ -゚)「――引き分け!」
高く響いたその声は、未だに二人を縛り付けている。
引き分けでは駄目だったのだ。
どちらか片方が泣くことになったとしても、
勝敗は決するべきであった。
そうすれば、彼らが未だに競い続けることはなかったのだ。
意地をはり続けてきた結果、
最早、どちらかが勝者となり、敗者となるまで、
勝負の舞台から降りることはできなくなっていた。
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9 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/04/02(土) 21:44:23.873 ID:YYfpLl5c0
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二人が県大会へ出場した際に、
新聞部がとったインタビュー記事などは、
同学年連中には伝説として面白おかしく崇め奉られている。
記者は二人に同じ質問を投げた。
早く走るために必要なものは? という、ごく普通の問いかけだ。
問題は、返ってきた答えにある。
ノパ听)「競う相手。
私にとってのミルナのような」
( ゚д゚ )「競う相手。
オレにとってのヒートのような」
まさかここまで同じとは、と
作成段階に入った時点で新聞部連中は大笑いだったという。
さらに、製作を進めていくと出るわ出るわ同回答。
結局、完成品を眺めてみると、別々にインタビューをとったとは思えない、
また、別の人間への問いかけとは思えないような、
コピペ感丸出しの記事になってしまった。
流石にそのまま学校新聞として貼りだすのには迷いがあったらしいが、
最終的には半笑いを浮かべた状態で、通常の倍もの数を刷り上げ、
各学年の掲示板のみならず、正門や下足室、職員室前に購買にまで貼りだしたあたり、
新聞部の性格が良く滲み出た事件だったともいえる。
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10 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/04/02(土) 21:46:20.566 ID:YYfpLl5c0
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ヒートとミルナが同じクラスになったことは一度もない。
一年生時は偶然によるものだっただろうけれど、
次の年からは教師陣による意図のもと、
別のクラスになっているのは間違いなかった。
何せ、別のクラスにしていても二人はうるさい。
普段は口数の少ないミルナだが、ヒートを前にしたときのうるささといったら、
選挙カー以上の不快感を生み出すのだから驚きだ。
ノパ听)「小テストの点数で勝負だあああ!!」
( ゚д゚ )「いや、オレんとこまだやってないから」
ノパ听)「なぜだああああああ!!」
(#゚д゚ )「知るか! 時間割の関係だ!
とっとと帰れ!」
教室にやってきたヒートを追い返すのは日常茶飯事で、
クラスメイトとしては、どうせ引き分けるのだから
放課後にまとめて結果発表をしてしまえばいいのに、と思わずにはいられない。
せめて、どちらか片方が脳筋でもう片方が頭脳派であるならば良かったのだが、
残念ながら彼らはどちらも完全なる脳筋であった。
寡黙なミルナは一見すると勉強ができそうだが、
実際のところ、テストの点はボロボロで、ギリギリの赤点回避が常だったりする。
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12 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/04/02(土) 21:48:26.463 ID:YYfpLl5c0
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テスト期間が終わり、答案用紙が返却される頃になると、
ミルナのクラス、もしくはヒートのクラスにて、
50点未満の悲しい暴露大会が始まるのがお約束となっている。
それを聞き、ある者は情けない、と涙を流し、
またある者は自分以下がいる、と胸を撫で下ろすのだ。
ミセ*゚ー゚)リ「ヒートちゃん、どうだった?」
体力テストの結果を携え、意気揚々とクラスを出て行き、
授業開始直前になって帰ってきたヒートへ声をかける。
ノハ;゚听)「また全部引き分けだった……」
肩を落として帰ってきている姿を見れば、
結果など一目瞭然だったのだが、形式美としては聞いておかねばなるまい。
中学時代からヒートと友人関係を築いているミセリはケラケラと笑い声を上げた。
ミセ*゚ー゚)リ「だと思ったー」
ノパ听)「だが、次こそは!」
ミセ*゚ー゚)リ「それ、百回以上確実に聞いてる。
耳タコだよぉ」
ノパ听)「私は負けんぞおおおおお!!」
ミセ;゚ー゚)リ「ちょっ、音量音量」
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13 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/04/02(土) 21:50:26.845 ID:YYfpLl5c0
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ノパ听)「次の大勝負は中間テストだ」
ミセ*゚ー゚)リ「どーせ、小テストやら競争やら早食いやらするんでしょ」
ノパ听)「勿論!」
ミセ*゚д゚)リ「はぁ……。
あんた達ってマジで成長しないよねぇ」
ノパ听)「身長体重の競い合いはしないぞ。
それは不公平だからな!!」
ミセ*゚ー゚)リ「知ってる」
それなりに友人をしてきているミセリとしては、
年頃の乙女らしく恋話をしてみたり、
帰り道にクレープを食べたりしてみたいのだが、
どうにもヒートにはその気が全くない。
女子力を磨く暇があるのならば、
勝負のための力を養う、という気概が透けて見えるどころか、
眼前に押し付けられそうな勢いで存在している。
ミセ*゚ー゚)リ「あ、でもさぁ」
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14 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/04/02(土) 21:52:15.543 ID:YYfpLl5c0
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( ^ω^)「ヒートは帰ったのかお?」
( ゚д゚ )「あぁ」
( ^ω^)「それにしても、相変わらず凄かったおねぇ」
( ゚д゚ )「うるさくしてスマン」
( ^ω^)「別にいいお。慣れっこだお」
寡黙に戻ったミルナへ話しかけているのは、
小学校時代からの友人であるブーンだ。
ヒートのやかましさも、
それに対応する時のみテンションが上がるのか騒がしくなるミルナにも慣れている。
( ^ω^)「それにしても、ヒートは凄いお。
男子の中でも運動神経の良いミルナと引き分けるなんて」
( -д- )「体力馬鹿なだけだ」
( ^ω^)「うかうかしてたら本当に負けちゃうお」
( ゚д゚ )「それだけはない。
運動でも、勉強でも、オレは絶対に負けん」
( ^ω^)「じゃあ、今度のは丁度いい機会おね」
( ゚д゚ )「ん?」
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15 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/04/02(土) 21:54:09.471 ID:YYfpLl5c0
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ミセ*゚ー゚)リ「運動会。今度は別の組でしょ(だお)?」(^ω^ )
( ゚д゚ ) !
ノパ听) !
運動会。
小中高と行われる恒例行事の中で、
悲しいかなミルナとヒートは常に同じ組に振り分けられていた。
騎馬戦などでは個人点を用いて勝負することができたが、
いずれも悲しみの同点。
普段の勝負事に他人を巻き込むのは忍びないと思い、
過去から今まで、彼らは一対一の戦いのみを行ってきた。
だが、今回、偶数奇数で分けられる運動会の組み分けでは、
二組であるヒートは紅組へ。
五組であるミルナは白組へと振り分けられる。
つまり、初の団体戦、というわけだ。
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16 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/04/02(土) 21:56:11.685 ID:YYfpLl5c0
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ノパ听)「やるぞやるぞやるぞおおおお!!
私は! 絶対に! 勝つ!!」
ミセ*゚ー゚)リ「おーおー、頼りにしてますよ、ヒートさん」
ノパ听)「任せておけええええええ!!」
気合充分。
雄たけびを上げるヒートを目に、
授業の準備を始めていたクラスメイト達に一抹の不安がよぎる。
( ・∀・)「……今まで、素直と東風に勝敗がついたことって」
ζ(゚ー゚*ζ「ないねー」
从 ゚∀从「ヤッベ。
白組の奴と引き分けか?」
('A`)「別に勝てなくてもいいけど、
引き分けは何か嫌だなぁ……」
ジンクスでもなんでもなく、
ミルナとヒートは引き分ける、という事実が同級生達には根付いている。
たかが運動会。されど運動会。
高校三年生。最後の最後で
勝敗の決まらぬぐだぐだとした終わり方はしたくない。
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17 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/04/02(土) 21:58:11.291 ID:YYfpLl5c0
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紅組こと、二組が盛り上がっている中、
当然のごとく五組も殺意と熱気を孕んだ盛り上がりを見せつつあった。
( ^ω^)「これは、ボクらも頑張らないといけないおね」
( ゚д゚ )「頼むぞ! オレにできることならなんでもする!
応援もするし、体作りにも付き合うからな!」
珍しいことに、ヒートが近くにいないにも拘らず、
ミルナは拳を作り、声を荒げていた。
団体戦だからといって、彼の闘争心は衰えを見せることはないようだ。
_
( ゚∀゚)「ノーサンキューだ馬鹿野郎」
⌒*リ´・-・リ「でも、負けたくは、ない、かな……」
ξ゚听)ξ「やるからには勝つ! そうでしょ?」
(´<_` )「遊びであろうと全力で挑まないと楽しくないしな」
クラスメイト達もミルナのやる気に後押しされ、
行事ごと、という考え方から、勝負事、という考えに変わっていく。
身体能力を競い合う運動会ではあるが、
それだけで勝てると思うほど、勝負の世界は甘くない。
クラスメイトを含めた同学年一同、
伊達にミルナとヒートの争いを見てきたわけではないのだ。
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19 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:00:21.113 ID:YYfpLl5c0
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かくして、両陣営による戦術合戦が始まることとなった。
( ・∀・)「えー、まず、東風と素直は極力同じ競技に出さない、
という方向で白組と協定を結ぶことになりました」
ノハ;゚听)「えええええええ」
ミセ;゚ー゚)リ「あんたらが出て引き分け合戦になったら、
それこそ決着つかないわよ?」
ノハ;゚听)「そ、それは困る!
しかし、引き分けると決まったわけでは!」
ζ(゚ー゚*ζ「大体決まってるから。
残念だけど、最後に勝つためと思って我慢して。ね?」
ノハ;゚听)「うううう……」
真っ先に決まったのは、
誰をどの競技にぶち込むかではなく、
引き分けをひたすらに繰り返している二人を引き離す方法だった。
いくら戦術を練ったところで、
各人が体を鍛えたところで、
前線で戦うことになるであろう人物達が引き分けばかりを生み出していては、
決着がつくものもつかなくなってしまう。
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20 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:02:26.828 ID:YYfpLl5c0
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从 ゚∀从「いつもは笑って見てるだけのアタシらだけど、
お前を勝利に導く。信じろ!」
ノパ听)「ハインリッヒ……!」
二人は固く手を握り合う。
平素は不良として、座学だけではなく、
体育の授業もサボりがちなハインリッヒだが、
今回ばかりは真面目に参加するつもりらしい。
ヒートは爛々とした目で彼女を見つめる。
授業こそ不真面目であるが、
教師陣との鬼ごっこに興じるハインリッヒの脚力は並ではない。
今度の運動会において、大きな戦力になること間違いなしだ。
勝負事となると俄然やる気を出してきた彼女に
クラスメイト達は呆れ顔を見せつつも、
ハインリッヒの参戦を心強いと思わないでもなかった。
ノパ听)「そうだ。ありがとうついでに一つ、
お願いを聞いてはくれないだろうか」
从 ゚∀从「あ?」
ノパ听)「耳をこちらに……」
思わず周囲が耳を傾けるが、
こしょこしょと告げられた内緒話は、
彼女達以外の耳には届かなかった。
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21 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:04:17.226 ID:YYfpLl5c0
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(´<_` )「では、続いて、競技に誰を入れるか、だな」
ξ;゚听)ξ「あまり自信ないから玉入れとか希望」
_
( ゚∀゚)「玉入れは全員参加の競技だろ」
( ^ω^)「ボクは足にも多少自信があるお。
徒競走とかリレー希望だおー!」
わいわいがやがやと騒ぎながら、
着々と出場競技が決まっていく。
出場数に上限はないものの、
一人一つ以上の競技に参加することが義務付けられているので、
どれだけ頑張っても一人三つまでが限度になる。
⌒*リ´・-・リ「ダンスも一応、点になるんだっけ?」
ξ゚听)ξ「なら頑張らないとね!」
(´<_` )「応援も入るぞ。
ミルナ、走りはお前に託すからな」
( ゚д゚ )「任せろ」
( ^ω^)「こんな早くからワクワクが止まらない運動会は始めてだお」
( -д- )「感謝する。
これでようやく決着をつけることができそうだ」
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22 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:06:21.189 ID:YYfpLl5c0
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( ^ω^)「それにしても、本当に長いこと勝負し続けてるおね。
よくもまあ、飽きもせず……」
( ゚д゚ )「色々あるんだよ」
ミルナは手に顎を乗せ、気だるげな顔を見せる。
さぞおモテになるのでしょうね、と言ってやりたくなるほど、
その仕草は様になっていた。
ただ、常日頃、ヒートとの様子を校内の全員が目撃しているため、
今のところミルナが女子に言い寄られたことは一度もない。
彼が薔薇色の青春を送るためには、
まずヒートとの勝負に向ける執着心を排除しなければならないだろう。
( ^ω^)「格好つけて言ってるけど、
幼稚園のときの勝負だお?」
( ゚д゚ )「そりゃそうだけど、オレにとっちゃ大切なことなんだよ」
( ^ω^)「して、それは?」
( ゚д゚ )「……別に」
( ^ω^)「出たー! お前の寡黙キャラ!
そこは言ってもよくないかお?
ボクらもそろそろ長い付き合いだお?」
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24 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:08:05.531 ID:YYfpLl5c0
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今まで、幾度となく聞き出そうとしては失敗を繰り返してきた。
だが、今、団体戦を前に、士気を高める意味合いでも
ミルナの持つ確執とやらを聞いておくのは悪くない手のはずだ。
現に、ミルナは気づいていないが、
クラス中の人間が二人の会話に聞き耳をたてている。
絶対に聞き出せ、という殺気にも似た圧力をブーンはひしひしと感じていた。
ミッションに失敗すれば、ミルナもろともブーンの命も危ない。
( ^ω^)「ほらほら、白状するお。
言えば楽になるおー」
(//д//)「……こ、こういうことは、軽々しく口にすることじゃない」
( ^ω^)「お?」
見る見るうちにミルナの顔が赤く染まっていく。
年頃の男子生徒の顔が赤くなる理由など、
数えられるくらいしか存在していない。
何かに失敗したときか、
恋心を表に出すとき。
その二つだ。
( ^ω^)「ま、まさか……」
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25 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:10:24.514 ID:YYfpLl5c0
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ブーンは声を震わせる。
まさか、とは思う。
しかしながら、ミルナとて一男子。
(//д//)「ただ、まあ、なんだ」
ミルナは真っ赤な顔で、
小さく小さく、ともすれば聞き逃してしまいそうな声量を零す。
(//д//)「惚れた女には、勝つところを見せたい、だろ?」
三年五組に、衝撃、走る。
誰もが目を見開き、
無遠慮にミルナをその目に収めた。
( ゚ω゚)「えっ。マ、マジなのか、お……?」
奴も男。
惚れた女がいることに不思議はないが、
幼少期からの想いを一途に持ち続けていると、
誰が想像できたであろうか。
正直なところ、てっきり、ヒートとの勝負に一生涯を賭けた
クレイジー野郎だとばかり思っていたことは否定できない。
そんなミルナが、顔を真っ赤にし、
好いた惚れたを口にしたのだ。
青天の霹靂もいいところだった。
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26 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:12:23.583 ID:YYfpLl5c0
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(//д//)「ちゃんと、格好つけられるくらいにらなんとな」
つまり、ヒートとの勝負に勝たなければ、
片思いに決着もつけられない、というわけだ。
( ^ω^)「……わかったお」
( ゚д゚ )「ん?」
ブーンは静かに頷いた。
( ^ω^)「お前の気持ち、必ず勝利にまで運んでやるお」
その目には、真っ直ぐな意思が宿っていた。
馬鹿だ、朴念仁だ、とばかり思っていた友のため、
彼の想いを成就させるため、この運動会、負けるわけにはいかない。
ξ゚听)ξ「勝つわよ!」
⌒*リ´・-・リ「おー!」
(´<_` )「やるぞ!」
_
( ゚∀゚)「紅をボッコボコにしてやるよ!」
クラスの心が一つになる。
他人の恋愛沙汰なんぞ、普段ならば興味もわかないが、
ことミルナともなれば話は変わる。
今まで浮いた話の一つもなかった彼のために、
クラスメイト達はよりいっそ作戦を練る頭を働かせるのであった。
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27 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:14:11.717 ID:YYfpLl5c0
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( ゚д゚ )「お前は何に出るんだ?」
出場競技が全て決定した日の放課後、
ミルナは常日頃と変わらず陸上部で活動に励み、
同部活に所属しているヒートと帰り道を共にしていた。
夏へ近づいていく季節。
日が落ちるのはずいぶんと遅くなっているが、
彼らが家路につく頃には街灯が地面を照らす程度には暗くなっている。
ノパ听)「混合リレーの第一走者と、徒競走、借り物競争。
被ることはないと聞いているが、そっちは?」
( ゚д゚ )「混合リレーの第四走者と騎馬戦、障害物競走だ」
ノパ听)「個人戦で決着をつけることができないのは残念だな」
( ゚д゚ )「だが、みんながオレ達の勝負に付き合ってくれているんだ。
文句は言えまい」
ノパ听)「まぁな」
一対一の勝負という魅力はあるものの、
引き分けの回数が五桁を記録している現状で贅沢は言えない。
また、言うつもりもない。
ノハ*゚听)「嬉しいことだ」
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28 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:16:16.257 ID:YYfpLl5c0
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( ゚д゚ )「オレ達は良い友達を持ったな」
ミルナは笑う。
自分達がいつまでも引きずり続けているちっぽけな勝負事に、
総勢六十人、もしかすると、クラスや学年も超えた人数が協力してくれるかもしれないのだ。
喜ばずにいられるはずがない。
ノパ听)「ほえ面かくなよ?」
( ゚д゚ )「お前こそ。
三桁の人間が生き証人になるんだからな」
この勝負に関わった全員が、
二人の勝敗を見届ける証人となる。
これほど盛大で、確実な決着のつき方はそうないだろう。
ノパ听)「わかっているさ。
あと、運動会まで一ヶ月以上。
みんなが放課後まで残って色々練習してくれている」
事実、二人が部活動を終える少し前まで、
帰宅部として二年間を過ごしていたはずの友人達が、
ダンスの練習や応援の練習をしていた姿があった。
過去の運動会も、それなりの盛り上がりを見せていたものの、
ここまで全員が全員、熱心になっている場面は見たことがない。
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30 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:18:29.185 ID:YYfpLl5c0
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全ては、ミルナとヒート。
そして、紅組と白組の雌雄を決するため。
ノパ听)「引き分けなんぞ許されんな」
( -д- )「……だな」
懸命になってくれているクラスメイトのために。
彼らの努力に報いるために。
何より、過去から続く勝負に終わりを告げるために。
ノパ听)「土日は走りこみでもするかぁ!」
( ゚д゚ )「そりゃいつものことだろ。
オレは障害物をこなす練習をしないとな」
ノパ听)「いつもの公園でいいだろ。
平均台もあるし。袋は私が適当なのを持っていってやる」
( ゚д゚ )「サンキュ」
例年、VIP高校の障害物競走は、
平均台とハードル、網抜けと袋に足を突っ込んで跳ねながら前へ進む、
といった四種類の障害による構成だ。
練習をするのであれば、最低限、平均台のようなものがある場所がいい。
幸いにして彼らが普段から利用している大きな公園には、
そういった遊具が存在していたし、大きなズタ袋ならば用意できないことはない。
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31 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:20:26.239 ID:YYfpLl5c0
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ノパ听)「その代わり、私に付き合って競争しろよ」
( ゚д゚ )「4万飛んで542回目の勝負だな」
ノパ听)「運動会を前に決着をつけてしまうのは申し訳ないが、
私は負けんぞ」
( ゚д゚ )「そりゃこっちの台詞だ」
二人は口角を上げながら楽しげに言葉を投げつけあう。
彼らの自宅が視界に入り始めた頃、不意に背後から声がかけられた。
川 ゚ -゚)「やあ、そっちも今帰りか?」
夜の闇に紛れることのない黒髪を腰の辺りまで伸ばした女性は、
ヒートの二つ年上の実姉、素直クールだ。
現在、大学二年生。近場の大学を選んだらしく、今も実家暮らしを継続している。
ノパ听)「部活帰りだ!」
川 ゚ -゚)「お疲れ様」
( ゚д゚ )「こんばんは。クールさん」
川 ゚ー゚)「こんばんは。
うちの妹の騎士を務めてもらって悪いな」
二人に近づいたクールは、
ニヤリ、と笑いながら茶化すように言う。
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32 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:22:18.228 ID:YYfpLl5c0
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(//д//)「そ、そんなんじゃありませんよ」
ノパ听)「こいつに守られるほど弱くないぞー」
顔を真っ赤にするミルナには気づいていないのか、
ヒートは唇を尖らせてクールに抗議を入れる。
守り守られの立場では不満が大きすぎたのだ。
彼女にとって、ミルナは隣に立つライバルであって、
目の前の敵から身を呈して守ってくれる騎士様ではないし、
あってはならない。
(#゚д゚ )「頼まれても守らんから安心しろ」
ノパ听)「それは安心だ!!」
川 ゚ -゚)「ほらほら、喧嘩しない」
クールが二人の間に身を滑らせる。
一歩分開いていたはずの距離が急激に縮められ、
零距離にクールの胸や背中が割り込んできた状態だ。
ノハ#゚听)「……クー姉、胸」
珍しく小さく、低い声がヒートの喉から漏れ出た。
年の差だけでは説明のつかない胸囲の格差に対する怒りや恨みの塊が
そのまま声になって出てきたかのような重みと冷たさがある。
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33 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:24:08.220 ID:YYfpLl5c0
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川 ゚ -゚)「ん?」
ノハ#゚听)「もう!」
ヒートは一歩後ろに後ずさる。
見れば、ミルナはとっくに後ろへ下がっていたらしく、
呆れた顔をしてヒートを眺めていた。
_,
( ゚д゚ )「普通にお前が離れればそれで済んだだろうに」
ノハ#゚听)「うっさい!」
何か負けるような気がしたのだ。
精神的なものが。
( ゚д゚ )「オレは先に帰るからな」
ノパ听)「方向一緒だろ」
頭を下げ、先に帰ろうとするミルナの後をヒートが追う。
そんな彼女に笑みを向けつつ、クールも彼らに続く。
暗闇の中、薄明かりの電灯が彼ら三人分の影を作り出していた。