( ・∀・) 動悸だったようです

1 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/03(日) 21:12:19 ID:swvhkXko0

崩壊した研究所の廊下でイルカに出会った。
どこから来たのか尋ねると、PCからだという。インターネット? と聞き返して、即座に否定される。
彼は不機嫌そうに尾びれをくねらせながら、僕の周りの虚空を縫うようにして泳ぐ。

「そいつの生まれはOfficeさ」

なるほど、道理で泳ぎが野暮ったいわけだ。ひとり得心しつつ、僕は声の主へと顔を向ける。
分厚い眼鏡を掛けた白衣の男が苦笑しながら腕組みし、崩れかけた壁にもたれかかっていた。


(-@∀@)「よう、相変わらずの朝だな」

( ・∀・)「おはようというのが正しいのかも、もうわからないね」


壁に開いた大穴からのぞく空は、マーブリングされた絵の具のように光度が入り乱れ、明るくて暗い。
あの日以来、僕らが見上げる空模様は終始そんな感じで、今が昼なのか夜なのかも判然としない。


(-@∀@)「もう、随分と星座を見てないな……」

( ・∀・)「いつからそんなロマンチストに?」

(-@∀@)「最近宗旨替えしてな」

( ・∀・)「やれやれ……相変わらずの気分屋か」

2 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:17:52 ID:swvhkXko0

不遜にまとわりつくイルカの尾びれを手で避けて、僕らは廊下を抜けかつてのメインフロアへ。
視界が開け、差し渡し30m程のドーム状の円形空間が僕らを迎える。
荒廃した研究所の中にあって、ここはかつて僕らが一心に守り、研究開発に明け暮れた、ささやかな帝国だった。

(-@∀@)「ここはまだ比較的、昔のままに保たれてるな」

( ・∀・)「あんなものは無かっただろ」

(-@∀@)「これは手厳しい」


アサピーは両腕を開いて肩をすくめる。

感想を促すように、寂莫とした空間の中央に奇妙な装置群が展開している。

フロアの真ん中に据えられた、年代物のオープンカーにも似た何か。
そこへ向かって四方八方から幾重にもケーブルが伸び、様々な機材が骨董品じみた車と結びついている。
都市の中枢へ走るインフラのネットワークに見えないこともない。ただし、これは横の広がりに対して幾分か立体的だ。

車の原型はDKW 63年 1000SP カブリオレ だという。
勿論、僕の趣味ではない。

(-@∀@)「セクシーなファオルムが相変わらず光り輝いてるだろ?」

( ・∀・)「レプリカじゃないのか」

(-@∀@)「バカ言いなさんな、緻密な3D測定の果てにボディの形成は本物と寸分違わずさ」

( ・∀・)「素材は違うじゃないか」

(-@∀@)「野暮なやつめ……」


「無駄話をしてる暇があるなら少しは手伝えし」

3 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:19:47 ID:swvhkXko0

不意にどこかの機材の向こうから声がして、僕らは大体の方へむき直ると、ケーブルを引っ掛けないように慎重に歩を進める。
やがて、屈んだり跨いだりの挙句、ようやく奥に見えてきた銀色のキューブから、黒いハイネックの女性が這い出てくる。

床に放り捨てられた白衣を取り上げながら、文句が彼女の口をついて出る。


/ ゚、。 /「ファッキンシットだし、リアクターの電子制御がバグったし」

(-@∀@)「あーあー、昨日やっと微調整までこぎつけたのに……」

/ ゚、。 /「私のせいじゃないし!」

( ・∀・)「……所長達は今どの辺にいるかな?」

(-@∀@)「さてな、コイツが組み上がるまではなんとも言えん」

( ・∀・)「そっか……」


/ ゚、。 /「まったく、泣きつかれて渋々手伝ってる私が一番頑張ってるのはどういうことだし」

(-@∀@)「ヘイ、マイ ハニー 代わるよ」

/*`、、 /「ふふん、今更遅いんだし! ただ謝っても許してやらないんだし!」

/*`、、 /「膝まずいて許しを乞うんだし!」

(-@∀@)「イェス、ユア・ハイネス」


( ・∀・)「……」

4 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:21:16 ID:swvhkXko0

/*`、。 /「んん……?」

/ ゚、。 /「ああ、ナビゲーション周りまで反応が途絶えたし!」

( ・∀・)「おや……?」

(-@∀@)「ばかな、あれは昔ながらの確かな技術のはずだろ?」

/ ゚、。 /「現宇宙の崩壊は緩やかな小康状態だってモララーは言ってたし、それなのにだし!」


彼女の言う通り、目下、僕らの宇宙は崩壊の途上にある。
とはいっても、跡形もない消滅へ向かっているというよりは、何か別の宇宙(もの)になりかけているという方が感覚としては近い。
無数に存在する泡みたいな宇宙達がくっついたり離れたりして、なんだか全てがおかしなことになり始めてから、もう随分と経つ。


(; ・∀・)「僕のせいにしようっていうのか!? ドクオのレポートからの引用だって言ったじゃないか」

/ ゚、。 /「ドォクオォオオオオオ!!」

(; ・∀・)「所長と一緒だから! 居ないから!」


(;-@∀@)「おい待て、あれを見てみろ!」

5 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:22:51 ID:swvhkXko0

アサピーが指差す向こうに我らの耳目がさっと集まり、僕はその光景を出来る限り冷静に分析しようと務めた。
観察する所、おおよそ以下の様な状況であるとの合意が即座に得られ、僕らの間を衝撃が渡っていく。

イルカが空間に張り巡らされた無数のケーブルに絡まって、機材をなぎ倒しかけながら悶えていた。

既にかなりの数のケーブルが無残にも引き抜かれており、どれがどれに繋がっていたのやら窺い知れない。

(-@∀@)「……あのイルカ確かお前のペットだろ?」

(; ・∀・)!?

(; ・∀・)「バカなこと言うなよ! 誰もあんなもの飼ってやしないさ!」

(-@∀@)「……」

日常、空中でイルカを放し飼いにしている者が居ないことからも、僕のこの言は全く正しく、
だが、同僚はそんな議論は今更だと言わんばかりに、冷ややかな視線を寄越しながら続ける。

(-@∀@)「俺のPCには昔からOfficeが入ってなかった」

(-@∀@)「それに、アイツはお前になついている」

( ・∀・)「……この期に及んで僕に責任をなすりつけようと言うのか?」

(-@∀@)「罪の所在は最早、明ら……」


<オッホン!


(;-@∀@)

(; ・∀・)

6 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:23:53 ID:swvhkXko0

無論、フロアへのドアを閉め忘れた僕とアサピーが悪く、いや、あのイルカは半ば自然現象みたいなものだから、
ドアを閉めたぐらいでは無駄だったかもしれない。

出来ればそういうことにしておいて欲しい。僕らの明日の為にも。


(;-@∀@)コクコク

(; ・∀・)ウンウン


僕らは顔を見合わせて頷き合うと、恐る恐るダイオードの方へ振り返った。


/#゚、。-/


Oh... ソーリー、ユア・マジェスティ。


(-☆∀X)「DV、DVだろうこれは?」

( メ∀・)「さて、どうだろうか? 現宇宙において以前のような定義は……」

(-☆∀X)「御託はいい!」

7 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:25:17 ID:swvhkXko0

OfficeとかいうPCソフトから出てきた、電子世界のイルカが我が物顔でフロアを徘徊し、
同僚達は独り者の前で抜かりなくイチャついて、慣れ親しんだ研究所は崩壊しかけ、空は暗く明るい。
僕らがかつて知っていた世界はなにか別のものに作り変えられていく。

そして、そんな宇宙の何処かを我らが所長は放浪している。

だというのに、この発狂しかけの宇宙で僕はといえば、あの奇妙な車に色々と全てを賭けているという有様だ。
まったくふざけた時空間だここは。何かの冗談にしたって出来が悪い。

だから、僕は今日も開発している。
へんてこりんな発明を、少しばかり気の違った研究を、いかれた科学を。
勿論、この狂った宇宙を元に戻すために。







( ・∀・) 動悸だったようです

8 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:27:01 ID:swvhkXko0

さて、僕らの宇宙がどうしてこんな事になってしまったのかといえば、そこにはそれなりの出来事があったのだが、
ダイオード女史が件のケーブルパズルを解き終え、機材を再調整するまでの間、僕らはやることがない。


( ・∀・)「どれがどれだか分かる?」

(-@∀@)「まるでわからん」

( ・∀・)「だよなあ」

(-@∀@)「そもそも我々が繋いだわけでもなし、わからなくても仕方ないな」


/#゚、。#/




( メ∀X)

(-☆∀メ)


そういった複雑な事情もあり、まあ現状を解説したり、僕の華麗なる遍歴を披露するにやぶさかではない。
決して、役立たずであるとか、他力本願だとかそういうことではないのだ。

だからしばらくの間、お時間など頂戴したい。
もっとも、時間という概念を使うのが現状適切なのかすら、今の僕らにはわからないのだけれども。

9 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:33:40 ID:swvhkXko0

僕がこんなことを始めたのは二年くらい前のある日で、正確な日時は今となってはもう思い出せない。
大半のデータは宇宙の変容と共にいずこかへと消失し、要するに混乱のどさくさに紛れてどこかに埋もれてしまった。

その日、いつものように上司に呼び出された先で、突然に言い渡された転属。
あまりに突拍子もないことで、ひどい話だなと感想を思いつくまもなく僻地行きのシャトルに揺られており、
つまり僕は、虚を突かれた。

その任地もさることながら一番の問題は仕事の内容で、それは有り体に言えば産業スパイだった。


( ゚д゚ ) 「敵対勢力の背後に、尋常ならざる開発力を持った研究機関が存在する」

( ・∀・)「はぁ」

( ゚д゚ ) 「彼らは極小規模でありながら、この戦争の趨勢すら変えてしまいかねないほどの影響力を有している」

( ゚д゚ ) 「君にはそれを探って貰いたい」

( ・∀・)「……」


一般に、研究開発というものは投じた金額と時間、陣容がモノを言う。
勿論、運なども関係しているのが、ここでは測定できないパラメータは無視してもよいだろう。

だから、これは生意気な研究員を閑職へ追いやる際に使う、新手の定型文か何かだと僕は思っていた。
でも、そんな研究所は確かに存在した。地の果てにぽつんと。

10 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 23:04:28 ID:swvhkXko0

“H.M.S.研究所”


从 ゚∀从

遠未来的な宇宙船にも似た建物から出てきたのは、銀髪赤眼白衣の女性。
不遜な笑みを顔に貼り付けて、僕を品定めするように見上げていた。

从 ゚∀从「何だお前は、ピザの宅配か?」

( ・∀・)「いえ、研究員を募集していると聞いて応募に来た者ですが……」


从 ゚∀从

( ・∀・)(フリーズした)


从*゚∀从「ほ、本当か!?」

(; ・∀・)「えっ、まあそうですけど……」


从*゚∀从「しっしっし、ちょうどいいところに来たな! 人手が足りなくて困っていたんだ!」

(; ・∀・)「はぁ」

从*゚∀从「ほら早く中に入れよ!」

11 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 23:06:24 ID:swvhkXko0

予想だにしない好感触に僕はうろたえた。これは何かの罠か、初対面でこの反応はあまりに不自然だろう。
それほど人材が居ないのか、そんな埒の開かない思考が駆け巡る。
しかし、生来の事なかれ主義ということもあり、流れに身を任せた。ここへの転属と同様に。


これが我らが所長と僕のファースト・コンタクトということになる。
事の起こりは大体にしてそんな感じだった。

後に判明することだが、彼女は科学者などという結構な代物ではありえなかった。
僕のちっぽけな脳みそで彼女を表現しうる最適な一文は、つまりこうなる。

、、、
天災マッド・サイエンティスト。



うず高く積み上げられた用途不明の装置たちをかきわけて、僕はその日、研究所の一員になった。



从*゚∀从「しっしっし……」

12 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 23:07:49 ID:swvhkXko0

( ・∀・)「まずは面接ですか?」

从*゚∀从「いや、もう採用だから」

(; ・∀・)!?

从*゚∀从「アタシはこの研究所の所長ハインだ、よろしくな!」

(; ・∀・)「は、はぁ、モララーといいます、よろしく」


从*゚∀从「では早速だが、君に任務を与えよう!」

从*゚∀从「当面は私の助手をやってもらう」

( ・∀・)「なるほど」

从*゚∀从「まずはこのテレポーテーション装置のテストだ!」

从 ゚∀从「動物実験を行うべしとの声が高かったのだが……」

(;-@∀@)「うっ……」

13 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 23:09:20 ID:swvhkXko0

从 -∀从「人の都合で宇宙に動物が投射された歴史を鑑みても、あまりに残酷だとアタシは思う」

从 ゚∀从「人間の都合なればこそ、受け持つのは人間で無くてはならない」

( ・∀・)「なるほど一理ありますね、それで僕は何を手伝えば?」

(;-@∀@)

从 ゚∀从「最初の生体転送実験の被験体だ」


( ・∀・)

当然、好感触の裏には理由がある。僕は生来の気質が災いしてまんまと、絡め取られてしまったのだ。
それはまあ、人材も払底するわけである。早い話が人体実験ではないか。


(; ・∀・)「なにをいってるんだな?」

( ´∀`)「頑張ってくれたまえモナ!」

(; ・∀・)「一度も、予備実験さえやってないんでしょ?」

从 ゚∀从「生体ではやってないな」

('A`)「まあ、これが助手の仕事だから……」

(;-@∀@)「ああ……」

(; ・∀・)「むちゃくちゃだ!」

14 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 23:29:22 ID:swvhkXko0

(;-@∀@)「前のやつもすぐ辞めたんだ」

( ´∀`)「所長の助手はは鬼門モナ」

('A`)「だが、誰かを生け贄に捧げなければ世界が危うい」


(; ・∀・)!?

(;-@∀@)「考えてもみろ、所内で実験ができなくなったらどうなるか……」

( ´∀`)「この世界が実験されてしまうモナモナ」

('A`)「世界を救えるのはお前しか居ないんだ!」


(; ・∀・)「何ってるんだお前ら! 人事だと思って!」

( ´∀`)「馬鹿言うなモナ、お前が消えたら次はアサピー辺りが実験されてしまうモナ」

(;-@∀@)

(; ・∀・)「えぇ……」

从 ゚∀从「安心しろ理論上は無害安全だ!」


どうでもいいような世辞と半ば脅迫じみた文言、それに産業スパイという当初任務もあって、
結局この日、初の生体テレポーテーションは現実のものとなった。

15 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/03(日) 23:30:53 ID:swvhkXko0

それからというもの、僕はこのいかれた天災……、天才所長の下で働くことに。

あるときは新開発の発明の被験体になかけ、危うく、そして当然のように、人体実験が行われてしまい、

从*゚∀从「動くなよ〜、動くと色々と保証ができなくなるぜ〜」

(; ・∀・)「いったい何の保証なんですか?」

( ´∀`)「元に戻れるかどうかの保証モナ」

(; ・∀・)!?

从*゚∀从「しっしっし、そういう捉え方もあるかもなぁ〜」

(; ・∀・)「うわぁああああ!!」



 ハ ハ
(; ・∀・)「……あの、この耳どうしたら直るんですか?」

从 -∀从「お前が動くからー」

 ハ ハ
(; ・∀・)「そう言う問題じゃないでしょ!?」

16 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/03(日) 23:32:02 ID:swvhkXko0

またある時は、突如として発生したバイオハザードに、否応なしに巻き込まれる哀れな一般人であり、

(;-@∀@)「おい、さっさと起きろ!」

( -∀-)「うーん、あと五分だけ……」

(;-@∀@)「ちんたらしてると死ぬぞ! 」


(; ・∀・)「えぇ!?」

(;-@∀@)「未知のバイオテロだ! 発生源は地下二階、生物研究ブロック」

( ・∀・)「何だ、ここは三階ですよ?」

(;-@∀@)「既に三階以外は全滅した」


( ・∀・)


(;-@∀@)「所長がまたよく分からん微小生物を作り出した挙句、うっかり容器に戻し忘れたらしい!」

(; ・∀・)「全滅って?」

(;-@∀@)「ドクオとモナーはもう死んだ、いや多分生きてるけど色々ともうマズイ」

(;-@∀@)「奴らは喋って歩く鉱物になった」


(; ・∀・)!?

(;-@∀@)「問題はそこじゃない微小生物が下水を通じて市街に漏れだす可能性がある」

(; ・∀・)「ばかな!」

(;-@∀@)「さっさと防護服を着ろ! この研究所を完全に隔離する!」

17 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/03(日) 23:32:44 ID:swvhkXko0

メガデス級の大失敗に終わった実験の後始末に追われたりしながら、

(; ・∀・)「えーこの度は我らが研究所の実験失敗に際し甚大な被害が出たことをお詫びしたく……」


从*゚∀从「なかなかの謝罪会見だった!」

( ・∀・)「はい……」

从*゚∀从「後詰にお前が居ると思うと、今まで以上に伸び伸び研究ができて楽しいぞ!」

(; ・∀・)(こっちはあまり楽しくないんですがね……)

从*゚∀从「アタシの助手だけのことはあるな!」

( ・∀・)「……」


所長が開発した用途不明の製品を売り込む営業に方々を飛び回り、

|::━◎┥

( ФωФ)「何に使うのこれ?」

( ・∀・)「不審者撃退用の防犯ロボットですね」

( ФωФ)「縮退炉搭載って書いてあるんだけど」

( ・∀・)

( ФωФ)「ちょっと怖いよね〜、人工ブラックホールってことでしょ?」


(; ・∀・)

18 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/03(日) 23:34:21 ID:swvhkXko0

息を切らし、ストレス性と思われる動悸に再三悩まされながら、我が身可愛さに日々気をもんでいた。

(; ・∀・)ハァハァ……

それでも僕は言われるままに、律儀にスパイ活動をこなし、情報を収集したりせっせとレポートを提出したりしていた。


・交友関係調査

( ・∀・)「どういう人だと思います?」

(゚、゚トソン「素敵な科学者ですよ、研究熱心で独創的でしかも美人」

( ФωФ)「仕様書通りに作ってくれれば買うんだけどねえ」

川 ゚ -゚)「子供の頃、一緒に裏山を灰にした仲さ」

(’e’)「まあ、一応はライバルかな、いつか鼻を明かしてやるんだ」

(*゚ー゚)「最近ますます生き生きしてるのよね、いい助手が見つかったとかで」

(*゚ー゚)「前の人はすぐ辞めちゃったみたいだけど」


( ・∀・)「そうですか……」

19 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/03(日) 23:36:22 ID:swvhkXko0

・レポート


ミルナ:それでどうだ進捗は

モララー:所長の助手をやっています

ミルナ:そうか、よくぞ入り込んでくれた

モララー:あの、いい加減チャットで報告させるのやめてくれませんかね

モララー:どういう機密管理のやり方してるんですか?

ミルナ:これが一番楽なのだ


(#・∀・)「……」


モララー:この前、入力中に端末を覗かれそうになったんですよ?

ミルナ:善処してくれたまえ

20 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/03(日) 23:37:22 ID:swvhkXko0

モララー:あんた真面目にやる気あんのかよ!

ミルナ:上の方針に文句があるなら正規の手続きで申し立てを

モララー:もういいです……

ミルナ:研究所が何をやってどういう実情なのかはまあわかった、後はもっと所長のパーソナルなところを頼む

(; ・∀・)「冗談ではない! この状況でもっと情報をよこせだと?」

<うるせーぞ!

(・∀・ )

(; ・∀・)

さらなるスパイ活動、プライベートで親密になれとでもいうのか。
ただでさえこの上なく厄介な日々の業務に加え、そんなことが出来るわけないではないか。

もっと言えばあのイカレ科学者には公私の区別なんてものはない。
研究所に住みついて、好き勝手に四六時中わけのわからぬ研究に没頭しているのだ。

21 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/03(日) 23:38:43 ID:swvhkXko0

その日限りで僕はスパイを辞め、一切の連絡を絶った。
信じて送り出した部下からの連絡が途絶えた上司は、職務に疑問をいだいて退職してしまったとかなんとか。


研究所の同僚たちは、素晴らしい助手が来たと手放しで僕を褒め称えたが、
こいつは間違っても、助手なんてものではあり得なかった。

しかしまあ、彼らの言い振りもわからなくはない。
僕がこの研究所に来る以前、誰がその役回りをしていたのか考えると、僕だって同情の涙を流さずにはいられない。

その頃、頻繁に頬を伝っていたのは、後悔として知られる液体だったけれども。


('A`)「おまえ、よくウチに来ようと思ったな」

( ・∀・)「ええまあ、前の職場の上司に紹介されて……」

('A`)「成り行きに任せたか」

( ・∀・)「まあ、そんなところですね」

(-@∀@)「後悔してるんじゃないか?」

( ・∀・)「まあ、多少は……」

( ´∀`)「当然モナ、所長は顔が良いだけの悪魔モナ」

从*゚∀从「しっしっし……聞こえてるぜ!」


(; ´∀`)「モナモナ……」

22 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/03(日) 23:45:15 ID:swvhkXko0

次の日、新発明の実験体にされたのは、僕ではなくモナーだった。

それでも不思議と人望のある人で、彼女の助手以外は概ね上手くやっていたという。
その理由は僕にも思い当たる節がある。
所長が繰り出す人騒がせな発明はいつも想像の埒外にあって、傍から眺める分にはとても楽しい。


やがて、そんなことでも繰り返せば耐性はつくものらしく、
所長に鍛えられた僕はいつしか、ただの便利な実験要員ではなくなった。
研究開発や実験方法の選定過程にまで関与するようになり、ある種の保護者みたいなものを気取るまでになっていた。

どうやらそれは、方向性は違えど所長の方も同様で、僕をお気に入りの犬か何かのように扱う。
ふり返って見ると、やや歪でありながら、
共依存以上の何かしらの関係性がそこには合ったように思うのだが、どうも自信がない。


そして、他に行く宛もなく一年半が過ぎようとしていた頃、
最早定例となったこれらの騒動が、ついに宇宙規模の災厄へと発展したのである。
年末恒例の成果発表会。ようするに新発明を見せ合いっこしながら年越しをするというイベントでことは起こった。

23 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/03(日) 23:47:34 ID:swvhkXko0

(-@∀@)「今年も波乱万丈の一年だったな」

('A`)「何もない毎日、終わるためだけに始まった無為な一年だった…ウツダシノウ……」

( ´∀`)「恒例の発表会モナ」

             △
( ・ o ・)。O ◯ ( ・∀・)


(-@∀@)「モララーのやつ、魂が抜けてるぜ!」

('A`)「なんとも非科学的なやつだ」

( ´∀`)「魂の統一理論を構築する機会モナ」

('A`)「おっ、実験体にしちまうか?」


(-@∀@)「いや、彼は英雄だよ 労をねぎらってソファにでも寝かせておこう」

( ´∀`)「仕方ないモナ、サンドバッグは必要モナ」

('A`)「それもそうだな」

24 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/03(日) 23:50:18 ID:swvhkXko0

从 ゚∀从「おっ、揃ってるな! じゃあ始めようぜ!」

('A`)「見てくれよこの眼鏡を、新開発の秘密兵器さ」


( ´∀`)「地味モナ」

(-@∀@)「俺が開発した車のがイケてるな」

(゚A゚)「何だとこいつは最高の性能なんだぞ!」


( ´∀`)「きっと物質透視眼鏡モナ」

(-@∀@)「覗きかよ!」

('A`)「……」


( ´∀`)「ドクオは出鼻をくじかれたモナ」

从 ゚∀从「では俺から行くか!」

(;-@∀@)「いきなり所長か……」

25 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/03(日) 23:51:44 ID:swvhkXko0

从 ゚∀从 オホン!

从 ゚∀从「かねてより懸案の議題だった、お年玉を永遠にもらい続ける方法についてだが……」

(;-@∀@)「誰がどこで懸案してた議題だよ……」

( ´∀`)「また妙な思いつきが始まったモナ」

从 ゚∀从「それがついにブレイクスルーした」


('A`)

( ´∀`)

(;-@∀@)

           △
―――。O ◯ ( ・∀・)―――!?


体中を奇妙な感覚が這いまわる。
冷たい汗が背中を流れ、悪寒に身震いしながらも、僕はある疑惑を得た。

でかいのが来る。

26 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/03(日) 23:53:21 ID:swvhkXko0

第一級アラートが脳内でけたたましくなり響き、魂は即座に体に引き戻され、僕は双眸を見開く。
かすれた視界の向うに、手振り身振りで熱を振るう所長が浮かび上がった。


从 ゚∀从「永遠のお年玉、それは在りし日に全人類がかつて一度は夢見た桃源郷だ」

('A`)「はじまったな……!」

(-@∀@)「何がだよ!?」

( ´∀`)「我らが所長の革命モナ」

(;-@∀@)「えぇ……?」

从*゚∀从「今こそ約束の地へ!」


続く演説を耳に入れ、疑惑を確信に変えると、僕はソファーから跳ね起き、大慌てで所長に歩み寄る。
何かに躓いた勢いそのままに、フロア中央に転がり込みながら辺りを見回す。

皆一様に、とうとう気でも狂ったか、前々からいつかこうなるとは思っていたなどと書かれた顔を、
床に倒れ伏した僕に向けていた。

( ´∀`)

('A`)

(-@∀@)


(; ・∀・)クッ!

27 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/03(日) 23:56:27 ID:swvhkXko0

だが、負けじと自らを奮い立たせ、哀れみと好奇の視線をかきわけて僕は前進した。
ことの重大さを解さない俗物どもを尻目に、大股で所長に詰め寄る。
いったい何を発明したんだ、と。

それは当然、気の違った科学に決まっている。


从*゚∀从「へへへ……」


どこか明後日の方向に加速しはじめた宇宙を後に残し、彼女は晴れやかな笑みとともに、いかれた発明品を取り出す。
なぜかと問う向きもあるだろう。僕だって知りたい。

どうしてそうも厄介な発明をし続けるのか。

テレポーテーション装置、二次元没入型体感マシン、生体組み換え溶液
縮退炉搭載防犯ロボ、人を鉱物化させる微小生物、と枚挙に暇はない。

28 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/04(月) 00:00:37 ID:mrGsDj9g0

从*゚∀从 「永久にお年玉をもらい続ける方法……つまり毎日が1月1日になればいいのさ!」

その一言は巨大な衝撃となって僕らの間を駆け抜けた。
にわかに場はどよめきだし、幾つか勘のいい顔が青ざめる。


   エターナルハッピーニューイヤーエンジン
    永 久 お 年 玉 機 関
  Eternal Happy NewYear Engine


大胆かつ精緻にイカれた頭脳によって導き出される孤高の理論。
超科学と園児並の発想をそれぞれの手に携え、双剣のドン・キホーテが既存の物理法則を切り裂いてゆく。

無論、ここでは僕らがサンチョ・パンサということになる。

(;-@∀@)「前々から いや、出会った瞬間からおかしいとは思っていたが、ここまでのイカレだったとは……」

( ´∀`)?

('A`)?

(; ・∀・)(ばかな、こいつら何故気が付かない!)

グローバル経済とか、尻に敷かれたおっさんの財布事情とか、そういうことをどう考えているのか。
もらう側には結構なことだが与える側はどうだ、毎日が1月1日ということは給料日が永遠に来ないのだ。
日々の暮らしをどうやって守ればいいんだ!

29 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/04(月) 00:02:27 ID:mrGsDj9g0

発明した当の本人は言うまでもなく、そんな凡百の世界に思い至らない残りの二人も、
僕からすれば想像を絶する知能の持ち主である。要するに阿呆だ、こいつらは。

( ´∀`)ワクワク

('A`)テカテカ

(; ・∀・)「……」


(;-@∀@)「やめろ! このイカレ銀髪ビッチ!」

从*゚∀从「そぉれ〜 ポチッとな!」

だが無情にもスイッチは押されてしまう、なぜかって、実際に動いて効果が確認されなきゃ発明したとはいえないからさ。
唸りを上げるE.H.N.Y.E. 他方、顔面蒼白の研究員はついに泡を吹いて倒れ始めた。

(-@∀@)「あばばばばばば」

('∀`)

新婚を鼻にかけていたアサピーが水揚げされた魚のようにフロアでのたうちまわり、
ドクオがみたこともない晴れやかな笑みを浮かべる。

だが待って欲しい、君もお年玉をもらえる立場ではないだろう。
大体、この研究所にはお年玉を貰えるようなのは、居ないじゃないか!

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