今日も何処かで誰かが世界を救っているようです

21 名前: ◆q3XheuOe12[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 23:20:16 ID:VBbdKorg0
 
 

アメリカ合衆国国防総省本庁舎――ペンタゴンの階数は地上五階、地下二階の七階層だ。
公に開示されている情報の上では、だが。
ペンタゴンは元々第二次世界大戦時に建設された建物だ。
そしてその後は冷戦を通じて国防の要として使用されてきた。

つまり、あり得ないのだ。
建設当時、既にアメリカ合衆国には核兵器の着想があり、開発が進められていた。
冷戦期において、「そこ」は世界で最も核兵器が落とされる可能性の高い地点の一つだった。
にも関わらず、ペンタゴンの地下がたったの二階層しかないなどという事は、あり得ない。

ペンタゴン地下二階にあるデータセンター。
その中のサーバーの一つに、高度に隠蔽された開閉装置がある。
それを操作する事で、防音素材を挟んだ厚さ300mmの、床に偽装した隠し扉が開かれる。

そして数十メートルの階段を下ったその先に――ペンタゴン職員ですらその殆どが存在すら知らない、地下三階があった。
そこはこの国の『中枢』だった。

仮にペンタゴンに核兵器が落とされ、地上部分が完全に破壊されたとしても、
それと全く同時にホワイトハウスにも核が撃ち込まれ、大統領が死亡したとしても、
この地下三階さえ無事であれば、米軍の機能を十全に保ち、報復が可能になる。

米国や英国の原子力潜水艦の艦長は、本国との交信が不可能になり、
それが他国の侵略によるものであると判断された場合、独断による報復核を使用する事が出来る。

ペンタゴン地下三階の『中枢』は、それと性質を同じくするものだった。
違いがあるとすれば、原潜の『最終手段司令』と違い、この部屋はその存在すら公表されない。
つまり、抑止力ではない――純粋な、殲滅の為に存在するという事だ。

「……この中枢部は、1943年に作られた。大戦の佳境だ。
 今と違って、莫大な予算が使えたらしい。もっとも今でも、馬鹿にならない維持費がかかっているが……
 君達を招く為なら、それだけの金をかけてきた甲斐はあったな」

道案内を務めた国防長官が、ブーン達を振り返ってそう言った。
そして視線を前方へ――部屋の奥には、先客がいた。

22 名前: ◆q3XheuOe12[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 23:21:11 ID:VBbdKorg0
「大統領。彼らが来ました」

国防長官はその後ろ姿に声をかけると、そこから立ち去った。

大統領と呼ばれた男が、ブーン達を振り返る。

「よく来てくれたね。遠慮せず、掛けてくれたまえ」

大統領は、部屋の中央にある円卓に備えられた革の椅子を差した。

( ・∀・)「お目にかかれて光栄です、大統領」

モララーが椅子に腰掛ける前に、そう言った。

「よしてくれ。君達が次の大統領選に出馬したら、
 私に再選の目はないだろう。君達は、誰もが知るヒーローだ」

大統領は全員の着席を待ってから、自分も席に着く。
ブーン達を見据える双眸は――先ほどモララーに世辞を述べた時とは打って変わって、力強かった。

「その君達が、何故今まで世間から姿を眩ませていたのか。
 我々の、或いは、助けを求める人々の呼びかけを無視し続けたのか……その理由を聞かせて欲しい」

問いかけに、すぐには誰も声を発さなかった。
四人は互いに視線を交わし合って――ハインリッヒが、椅子に深く座り直しながら、溜息を吐いた。

从 ゚∀从 「いいぜ、私が説明する。ただし、結構長くなるぞ」

「構わない。お願いする」

从 ゚∀从 「じゃあ……まずは『クレイトロニクス』についてだな。
       クレイトロニクスは今現在、ほぼ完全に無力化されてる」

「ほぼ……と言うのは?」

从 ゚∀从 「ほぼってのは、実際に観測した訳じゃないからな。深い意味はねえ。
       ともかく私はモララー、ワタナベと『アンチクレイトロニクス』のナノマシンを開発して、
       それを製法と一緒に各国政府に送りつけたし、独自に世界中に散布もした。ここまでオーケイ?」

「あぁ、続けてくれ」

23 名前: ◆q3XheuOe12[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 23:22:19 ID:VBbdKorg0
从 ゚∀从 「よし……だが、そうだな。インフルエンザが毎年流行する理由って、知ってるか?」

「……いや。生憎だが」

从 ゚∀从 「変異するからだ。人間の免疫機能がウィルスに合った形の抗体を作っても、
       その翌年にはウィルスは僅かにだが形状を変化させている。
       だから既存の抗体は役に立たず……インフルエンザは毎年流行する」

大統領が、眉を顰めた。

「まさか……」

从 ゚∀从 「そういうこった。アンチクレイトロニクスは、変異した後の、
       既にクレイトロニクスではないナノマシンまでは駆逐出来なかった」

ハインリッヒがナノマシンを操作して、小さな地球儀を作り出した。
それを円卓の上に置いて、指先で回転させる。

从 ゚∀从 「あの大戦の置き土産が、今でも世界中に眠ってるのさ」

「……だが、それなら尚更、何故我々の呼びかけを?
 それが本当なら、国家を上げて……いや、国連の最重要課題に認定すべきだ」

从 ゚∀从 「……物によっちゃ、この国を、この世界すら吹っ飛ばしちまえる魔法のオモチャを、
      アンタ他の国と一緒に仲良く探せるか?
       もしそれを見つけたとして、ポケットにこっそり仕舞っちまわないと誓えるか?」

「それは……出来ない。我が国の国防を考えるなら、そんな物は独占してしまうべきだ」

从 ゚∀从 「だよな。それが大統領として、国として正しいスタンスだ。
       だから私達も、どこの国の呼びかけにも応じなかった。
       つーか、今言った事だって全部アンタは既に知ってて、こっそり探し続けてる可能性だってあるしな」

「それは、ない。大統領と国家の名誉にかけて。……少なくとも、私の目が届く範囲ではだが」

从 ゚∀从 「なら、いいんだが。ま、そんなとこだな」

ハインリッヒは椅子に浅く座り直し、背もたれに体を預けた。
暫しの静寂が、場を支配した。

24 名前: ◆q3XheuOe12[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 23:23:35 ID:VBbdKorg0
「……しかし、だとすれば何故君達は今更になって、公の場に姿を?」

( ^ω^)「盛大な勘違いと内輪揉めの末になりゆきで……」

ブーンが、小声で呟いた。
直後にモララーの操作した重力子が靴の形を得て、彼の右足を踏みつける。
殆ど同時にショボンがナノマシンで増強された筋骨格で、彼の左足を踏みつけた。
声にならない悲鳴が上がった。

「……なんだって?」

( ・∀・)「いえ、お気になさらず。彼の得意のジャパニーズジョークですよ」

モララーが平然と、さも何も無かったかのように笑顔を浮かべた。

( ・∀・)「我々が公の場に出てきたのは……まぁ、いずれはそうする必要があったからですよ。
      たまたまその時が今日だっただけです。
      自由の女神、彼女が掲げる自由の灯火……実はあれも『遺産』の一つでしてね」

「彼女が……?大戦時に彼女が自ら動いたと言うのは……」

( ・∀・)「ただの都市伝説ではなかったみたいですね。それはともかく……彼女は、今までのスタンスでは扱いが難しい。
      アレがエジプトの古代遺跡に眠る王のミイラなら、忍び込んで叩き割って終わりですが、
      彼女はこの国の、掛け替えのない象徴です。破壊するのも、盗み出すのも、剣呑だ」

大統領は暫し黙り込んで、何かを考えているようだった。

「……我々と、君達の間に、妥協点はあるのか?」

そして、そう尋ねた。
モララーも、同じくらいの沈黙を取った。

( ・∀・)「『遺産』を巡る上でと言うのなら、ありませんね。我々の目的は、世界の守護です。
      我々は、自由の女神の灯火を回収させて欲しいとお願いをする。
      そして例えそれが拒否されようとも、私達はそれを実行します」

ですが、と彼は言葉を繋ぐ。

( ・∀・)「その反面、私達は無闇に国家と険悪な関係になりたくはないとも思っている。
      出来る事なら……お願いし、お願いされる関係でありたいと」

25 名前: ◆q3XheuOe12[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 23:25:24 ID:VBbdKorg0
モララーがハインリッヒに目配せをする。
彼女は彼が言わんとする事をすぐに理解したようで、ナノマシンを操作。
小型のホログラム・タブレットを形成し、机の上を滑らせるように大統領へ渡す。

( ・∀・)「我々が回収した『遺産』の内、世界にとって脅威でしかないものは破壊しています。
      ですが『遺産』の中には汎用的な科学技術として再現可能なものもある。
      それがなくとも、私とハインリッヒは……自分で言うのもなんですが、天才科学者だ」

大統領はホログラム・タブレットを操作しながら、無言で、小さく何度か頷いた。

「……分かった。今後、合衆国内でのミラージュの活動を我々は黙認しよう。
 その代わり……この旧式クレイトロニクスの効率的製法を譲って欲しい」

( ・∀・)「おや、随分控えめな物をお選びになりましたね」

「今この国に常温核融合炉を導入して何になる。
 プログラムした形状を再現するだけのクレイトロニクスでも、建物や道を作るだけなら十二分だ。
 迅速な復興、再建……今この国に最も必要なものだ」

( ・∀・)「なるほど……では、取引は成立……ですね」

「あぁ、君達の貴重な時間を、この国の為に割いてくれた事を感謝するよ」

モララーが頷き、ブーン達に視線を配る。
もうこの場に留まる必要はない――皆が席を立ち、出口へと歩き出した。

「……おっと、最後にもう一つ、聞かせてくれないか」

大統領の声に、上りの階段に足をかけたモララーが振り返る。

「彼女の掲げる灯火……アレは、どういう扱いになるのかな?
 破壊されるのか、科学技術として解析されるのか、それとも……」

その問いに、モララーは、すぐには答えを返さなかった。
より正確には、返せなかったのだ。

それはつまり、問いの答えが『どう答えるべきか迷うようなもの』であるという事だ。
少なくとも「破壊する」だとか「解析する」ではない。

大統領はその事をすぐに察した。
モララーもまた、それを悟られたであろう事を察した。

26 名前: ◆q3XheuOe12[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 23:26:21 ID:VBbdKorg0
( ・∀・)「……アレは、破壊しません。解析も、恐らくはそもそも不可能ですが……余計な刺激を与えない為に行いません。
      アレはただ、『保管』します。いつか、我々の力が及ばず……世界がどうしようもなく壊れてしまった時。
      或いは……そうなる未来が確定した時の為に」

それはつまり――こういう事だ。
ミラージュはどこの国であれ、『遺産』を保持する事は認めない。
だが彼ら自身は、世界を滅ぼし得る力を秘めた『遺産』を、独自に保有するのだ、と。

その事実は、使いようによってはミラージュを悪の組織に仕立て上げる事すら可能な爆弾だった。
かつてアメリカが、イラク戦争においてかの国は大量破壊兵器を保持していると嘯いたように。

故にモララーはその事実を、尋ねられない限りは明かさないつもりでいた。
しかし、相手も一国の元首――隠しおおせる事は出来なかった。

これでアメリカは、『ミラージュを押し潰す口実』というカードを手にした。
無論、滅多な事ではその手札を切られる事はないだろう。
だが外交や取引を行う上で、可能性とは、そこにあるだけで意味があるのだ。
相手にも対抗して切る手札があるというだけで、不公平な取引はし難くなる。

そうでなくとも――がむしゃらに『戦争』を仕掛ければ、アメリカには確かな優位点がある。
「何も知らずに、ただ任務としてミラージュに襲い来る兵士」を、彼らは殺す事は出来ないのだから。

「それは、良かった。灯火だけとは言え、あの像はアメリカの象徴だ。破壊されてしまうのは忍びない」

大統領が、不敵に微笑んだ。
モララーも、笑みを浮かべた。大統領のそれとは違って――苦味を帯びた笑みだった。

「君達とは、良きパートナーでありたいものだな」

( ・∀・)「……ですね。そのタブレットは差し上げますよ。我々とのホットラインです」


27 名前: ◆q3XheuOe12[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 23:27:32 ID:VBbdKorg0



みたいな感じの長編が書きたかったんだけど時間が足りませんでした!
なのでここで終わりです!ブン動会終わったら続き書きたいね!じゃあね!

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