今日も何処かで誰かが世界を救っているようです

1 名前: ◆q3XheuOe12 投稿日:2016/04/03(日) 22:48:05 ID:VBbdKorg0
『第三次世界大戦の引き金となったのは、ナノマシンでした』

機械音声によるアナウンスが、床に、壁に、天井に反響する。

『クレイトロニクス。ナノマシン同士の連結によって自由自在に形状を変化させる物質。
 当初、それはただ所有者の想像した形状を映し出すだけの技術に過ぎませんでした』

一面白塗りのその空間には『継ぎ目』がなかった。

『ですがクレイトロニクスは『自己進化』したのです。
 ナノマシン自身が、より高性能なナノマシンを作り出し、
 形状のみならず、まさしく想像を実現する技術へと、発展した』

床も壁も天井も、窓や照明さえも、初めからそうであったかのように一つに繋がっていた。

『科学が人類の手を離れ、一人歩きを始めた。
 私達人類は、その事をただ喜び歓迎出来るほど、楽観的ではありませんでした。
 恐れてしまったのです』

その広い空間の中央には、ホログラム発生装置が設置されていた。
映し出されているのは――第三次世界大戦の様相。

『この技術を誰かが悪用すれば、簡単に世界を滅ぼしてしまえるのではないか。
 機械が知性を持って、人類を滅ぼし、また支配し始めるのではないかと。
 ――『想像』してしまった。そしてそれは、いとも容易く実現された』

無数のロボットが人類を圧倒する光景が、小さな子供がショックを受けない程度の表現で描写されていた。
人々が零す涙や嘆きから、新たなロボットが生まれ、彼らを取り囲んでいく。

『恐怖、怒り、恨み、悲しみ、疑心暗鬼……急速に伝染し、膨張する負の感情。
 その全てに、クレイトロニクスは形を与えていきました。
 人類は、自分達の絶望に飲み込まれてしまうかのように思われました』

2 名前: ◆q3XheuOe12[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 22:48:44 ID:VBbdKorg0
不意に、ホログラムの中で閃光が走った。
人の形をした青い雷光が、人類を包囲するロボットの一群を薙ぎ倒していた。

『ですが、そうはならなかった。映画の中から溢れ出てきたかのようなロボットの群れにも、
 この世界に形を得てしまった心に巣食う怪物にも、臆さない勇気を持つ者達が、人類にはまだ残っていました。
 クレイトロニクスは……彼らの気高い精神にも、形と力を与えたのです』

膝を屈していた人類の中から、一人また一人と立ち上がる様が映し出される。
ある者は紫色の霧を生み出してロボット達を溶かしていき、
ある者は筋骨隆々の姿を得て怪物を叩きのめしていく。
ある者は光り輝く剣と盾を以って、ある者は業火を、ある者は吹雪を生み出し、恐怖の象徴を打ち払っていく。

『そして彼ら……ヒーローの勇姿によって、人類は再び希望を抱く事が出来ました。
 恐怖を心から追い払い、脅威に立ち向かえるようになったのです。
 皆が勇気を持って戦い続け……気付けば、私達が生み出した敵はいなくなっていました』

ロボットと怪物がいなくなると、ヒーロー達は一箇所に集まり、ホログラムの外側へと視線を向けた。

『今ではクレイトロニクスに機能制限を設けるナノマシンが開発され、世界中に散布されています。
 ナノマシンは人々の想像ではなく、機械的なプログラムによってのみ制御されるようになりました。
 よって彼ら……ヒーロー達もその役目を終え……今では一般人として生きていると言われています』

そして小さく手を振ると、その状態で映像が静止し、ヒーロー達のシルエットロゴが形成された。

『彼らの事を、助けを求める心が生み出した『蜃気楼』《ミラージュ》だったと言う者もいます。
 ですが彼らが取り戻してくれたこの平和は……決して幻などではありません。
 彼らはきっと、本当にそこにいたのです。蜃気楼は、世界を救ってくれなどしないのですから』

電子音声によるアナウンスが終わった。
シルエットロゴ下部には『視聴には台座に設置されたボタンを押して下さい』と表示されている。

「……かっけえええええええ!ねえ兄ちゃん!今のもう一回見ようよ!もう一回!」

ホログラム発生装置の前で、小さな子供が高揚を抑え切れないと言った様子で叫んだ。
ナノマシンで構成された展覧ホールには殆ど声は響かない。
が、それでも多少の人目を集めた。

3 名前: ◆q3XheuOe12[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 22:49:18 ID:VBbdKorg0
「……見る訳ないだろ。こっちは学校の課題研究で来てるんだ。
 お母さんがうるさく言わなきゃお前を連れてくるつもりだってなかったし、さっさと全部見て回って帰るよ」

苦笑混じりの視線に晒された少年の兄が、うんざりとした口調で答えた。

「えー……つまんないなぁ。あ、じゃあさ!『ミラージュ』の中で誰が一番カッコいいと思う?
 僕はやっぱりブーンかなぁ。あの決めゼリフ……」

「やめてくれよ。ミラージュなんて存在する訳ないだろ。全部デタラメだよ」

食い下がる少年に、兄は溜息を吐いて向き直ってそう言った。

「いいか。どこの国でも、政府はミラージュに対する招集を呼びかけてる。国連もだ。
 戦争は終わっても、今でも治安の悪い所は幾らでもあるからな。
 でもそういう所に一回でもミラージュが来てくれたって聞いた事あるか?ないだろ」

兄は一息にそう続けると、弟に背を向け、別の展示物へと早足に歩いていってしまった。
壁から天井にまで続く大窓の外に見える、自由の女神像だ。
かつてはリバティ島に設置されていたそれは、今ではニューヨークの中心に立っていた。
掲げる灯火からは、天蓋のように地表を覆う金色の薄膜が広がっている。

大戦時、ニューヨークに向けて無数のミサイルが発射された事があった。
彼女はその時に、クレイトロニクスによって正の影響を受け、人々を守らんと動き出した。
自らの足でここまで歩いてきて、その手に掲げた黄金の灯火で空を覆い、死と破壊の雨を焼き払ったのだ。
窓の傍に設置されたプレートには、そう記されている。

「これだって、ただの嘘っぱちだ。戦争中にリバティ島ごと壊されて、
 仕方なくこっちに建て直したけど、こう説明した方が見栄えがいいってだけさ」

「でも、彼女は今でもニューヨークを守ってるじゃないか、ほら」

兄に追いついた弟が、女神の掲げる灯火を見上げ、指差して言い返す。

「ふん、あんなのただのバリア装置だ。女神が自分の意志で動き出した証拠になんかならないよ」

兄は弟の言葉を鼻で笑い飛ばした。
そしてまた次の展示物へ向かおうとして――弟に服の裾を掴まれた。

4 名前: ◆q3XheuOe12[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 22:50:02 ID:VBbdKorg0
「兄ちゃん、あれ……」

「しつこいなぁ。いい加減に……」

兄は眉を顰めて振り返り――弟が、何か呆然とした表情を浮かべている事に気付いた。
そして半ば無意識の内に頭上を見上げる。

バリアの上に、三つの人影が見えた。

「あれは……ミラージュのショボンだよ!それにモララーにハインリッヒも!
 ほら、やっぱりミラージュはいたんだよ!」

一人は上半身が裸の、筋骨隆々の大男。
一人は周囲に黒い霧を纏った、スーツ姿の細身の男。
一人は白衣と長い銀髪を揺らす女。

ショボン、モララー、ハインリッヒ――いずれも、大戦時にヒーローと呼ばれた者達だった。

「……本当に、いたのか。でも、何か変だぞ。
 あの三人、どう見たって同窓会の待ち合わせって雰囲気じゃない」

兄が怪訝そうに、そう呟いた。
ショボンと、モララーとハインリッヒは、睨み合っているように見えた。
それも、臨戦態勢で。

そしてそれは、決して見間違いではなかった。

ショボンは両拳を顎のやや前方で固め、膝を屈めた状態で相対する二人を見据えていた。
そして跳躍――その巨体を瞬きよりも速くモララーの懐へと潜り込ませた。
脇腹へと抉り込むように、左拳が唸る。

モララーは動かない。
ただ彼の周囲に蠢く黒霧が、漆黒のナノマシンがショボンの左腕に纏わり付く。
瞬間、モララーの肋骨を打ち砕く筈だった打撃が、まるで弾かれたように軌道が逸れた。
『重力子』の性質を持つナノマシンによる働きだった。

拳は空振りとなり――必然、ショボンの体勢が前方に崩れる。

間髪入れず、重力子がショボンの足を絡め取る。
たったそれだけで、強い力が加えられたかのように、筋骨逞しい大男が仰向けに倒れ込んだ。

5 名前: ◆q3XheuOe12[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 22:51:46 ID:VBbdKorg0
モララーがハインリッヒへ向けて、目配せをした。

ハインリッヒが首肯を返す。
瞬間、彼女の周囲に白い渦が幾つも生じた。
急速に自己複製、増殖を行ったナノマシンの群体だ。

渦はすぐに明確な形を得た。
大量の小型のミサイルが形成され――その弾頭が、ショボンに狙いを定めた。
そして、殺到。

凄まじい爆音が地上の展覧ホールにまで届いた。
目が眩むほどの爆炎がショボンの姿を塗り潰す。
ミサイルは更に生成を続けられていて、炸裂は絶え間なく続く。

ショボンは身動きが取れずにいた。
だがそれでいて、致命的なダメージを貰ってもいなかった。
ただ筋肉を固め、両腕で頭部を防護する。
驚異的な筋骨格とタフネスは、たったそれだけで炸裂の嵐を耐え凌いでいた。

ある種の膠着状態――だがそれは長くは続かなかった。
度重なる、一点に集中した衝撃に、彼らが足場にするバリアに亀裂が走った。

戦況を観察していたモララーが再びナノマシンを操作する。
重力子が彼の右手に収束し、巨大な鎚を形成。
彼はそれを一度肩に担ぐと、大振りで弧を描くように、ショボンへと振り下ろした。

一際大きな衝撃音と、破砕音。
それらと共にバリアが破れ、ショボンの体が地上へと叩き落とされた。
ショボンは展覧ホールのガラスを突き破り、そのまま一秒足らずで床に激突した。

二人の兄弟は、目の前に降ってきた彼の体を、唖然として見下ろしていた。

(´・ω・`)「いてて……まったく容赦ないなぁ二人とも」

ショボンは右手で頭を抑えながら上体を起こし、そこで傍にいた兄弟に気付いた。

(´・ω・`)「おっと……兄弟揃って歴史のお勉強かい?騒がしくしちゃってごめんよ」

咄嗟に冗談めかしてそう声をかけるが――二人の、特に弟の方の不安げな表情は変わらない。

「……なんで、ミラージュ同士が戦ってるの?」

6 名前: ◆q3XheuOe12[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 22:54:01 ID:VBbdKorg0
少年の問に、ショボンは困ったように眉根を寄せて、頭を掻いた。
文字通り子供騙しの回答をする事は容易い。
だがそれが、この場においてヒーローがするべき事なのか――彼はそうは思わなかった。

(´・ω・`)「それは……」

言葉を紡ぎかけた彼を、上方からの強烈な衝撃が再び床に叩き伏せた。
バリアの上から飛び降りてきたモララーが、ショボンの頭部を踏みつけたのだ。
無論、重力子を纏った状態で。

「……随分余裕だね、わざわざ降りてくるなんて」

ショボンが顔面を床にめり込ませたまま、呟いた。

( ・∀・)「そういう訳じゃないさ」

モララーはショボンの頭上から飛び降りると同時にナノマシンを操作。
黒い粒子群がショボンの四肢に纏わりつき、枷を形成する。
凝縮された重力子が、彼の屈強を極める筋骨格が床に伏せ続ける事を強いていた。

( ・∀・)「ただどちらか一人は、君を抑えている必要があるだけだ」

ショボンが起き上がる事の出来ないまま、首だけを動かして、まだバリアの上にいるハインリッヒを見た。

ハインリッヒは、バリアの上をゆっくりと歩く。
そして女神の掲げる灯火を真下に見下ろせる位置で、足を止めた。

ハインリッヒが口角を吊り上げた。
直後、彼女の眼前でナノマシン群が発生。
女の右眼部を覆うように、機械然とした片眼鏡が構築される。

从 ゚∀从 「……素晴らしいな」

彼女はそれを通して、灯火――金色に輝くナノマシンの集合体をまじまじと見つめた。

从 ゚∀从 「この灯火はただのバリア発生装置じゃない。
       クレイトロニクスによって『形を与えられた自由』……。
       『機能制限が掛けられる前の』、しかもあらゆる形態、機能に変化可能な大戦の遺産だ」

彼女は戦前、ナノマシン研究の第一人者だった。
そして今では『ナノマシンの更なる進化』の求道者と化していた。
即ち『想像を実現するナノマシン』の先を自らの手で作り出したい、と。

7 名前: ◆q3XheuOe12[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 22:56:00 ID:VBbdKorg0
想像の先。
人間自身すら知覚していない、精神の奥底――集合無意識。
即ち、神。

神話という空想に塗り固められる前の、原初の神の姿を映すナノマシン。
それがハインリッヒの理想だった。
その実現の為なら、彼女はどんな犠牲や悪行をも厭わない。

彼女は宗教家ではない。
ただ神の存在を明らかにする事で、己の科学が至高のものであると証明したいだけなのだ。

故に、彼女は厭わない。
集合無意識を映し出すナノマシンが、この世に『あの世』を招き入れてしまう危険を秘めている事さえも。

ハインリッヒの足元に、ナノマシンが小さな筒状の機械を形成した。
筒から突き出される鋸刃がバリアをゆっくりと、だが着実に切削していき――穴を開けた。
小さな、だがナノマシンが通過するには十分過ぎる穴が。

从 ゚∀从 「待ってろよ、可愛い可愛いナノマシンちゃん。
                      アップグレード
      もうすぐ私がこの手で、お前を神様にしてやるからな」

ハインリッヒが右手を灯火に翳す。
彼女の操るナノマシンが、灯火を覆う、卵のような収容器を形成していく。

「――そんなに神様に会いたきゃ、せめて自分一人で会いに行って欲しいもんだお」

不意に、彼女の背後から声がした。
ハインリッヒの表情が強張る。同時に右手にナノマシンが集結し小型ブラスターを形成。
そのまま反射的に振り返り――女神像の冠の上に、人の形をした雷光が立っていた。

( ^ω^)「世界を救いに来たお。秒速200kmでね」

雷光は右手の人差し指で銃を模って、ハインリッヒに向けていた。

ハインリッヒの視界に青い稲妻が閃いた。
短い悲鳴を上げて、彼女はその場に跪く。

从#゚∀从 「い……ってえなコラ!不意打ちかましやがって!」

ハインリッヒが膝を突いたまま、顔を上げ、悪態を吐く。

从#゚∀从 「テメェそれがヒーローのする事かよ!ブーン!」

( ^ω^)「勿論違うお。だから撃つ前に一声かけたんだお」

雷光は、平然と答えた。

8 名前: ◆q3XheuOe12[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 22:57:47 ID:VBbdKorg0
从#゚∀从 「なるほどな!そりゃご丁寧にどうも!テメェぶっ殺してやる!」

怒号――同時にハインリッヒのナノマシンが大気中に溢れ、渦を巻く。
渦はすぐに形を得た。ミサイルだ。
そして噴射音――無数の弾頭が白煙の尾を引いて、雷光へと殺到する。

( ^ω^)「おいおい、久しぶりに会ったってのにとんだご挨拶だおね」

迫り来る脅威に、しかし雷光は動じなかった。
身動き一つ、取らなかった。
必要がなかったのだ。

ミサイルは、その全てが彼に辿り着く前に空中で制止されていた。
不可視の電磁力の壁が、雷光を覆うように展開されていた。

雷光が銃を模ったままの右手を、視界の左から右へと滑らせた。
同時にその指先から微細な電流が放たれ――ミサイル群を撫でる。

瞬間、全ての弾頭に新たな動作が刷り込まれた。
電磁力の防壁が消失し――ミサイルは再び動き出す。
軌道を反転させ、標的をハインリッヒに改めて。

从;゚∀从 「あっ、汚えぞテメ……!」

直後に響いた爆音が、悪態を掻き消した。



( ・∀・)「……ハインリッヒめ、何をもたついて……いや、彼女を責めるのは筋違いか」

上空の戦況を見上げていたモララーが、小さくぼやいた。

( ・∀・)「ブーンが相手では、彼女では相性が悪すぎる……」

加勢が必要か、と彼は判断した。
だがその為にはまずショボンを無力化する必要がある。
同じミラージュ――かつての仲間を過剰に傷めつけるつもりはなかったが、こうなってしまっては仕方がない。

そうしてモララーはショボンへと視線を戻して――自分の眼前に聳え立つ彼と、目があった。

( ;・∀・)「なっ……」

(´・ω・`)「ごめんよ。こんな事は、ホントはしたくないんだけど」

直後に暴風の如き右拳が、モララーの胸部側面を捉えた。
咄嗟に為された重力子による防御がまるで存在しなかったかのように、彼の体は女神像の足元にまで弾き飛ばされた。

9 名前: ◆q3XheuOe12[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 22:58:43 ID:VBbdKorg0
上空から、白い巨大な卵のような何かが、落ちてくる。
ハインリッヒがナノマシンで形成した緩衝材だ。
彼女がブーンに対して相性が悪いと判断したのは、モララーだけではない。

ハインリッヒ自身もまた、同じ判断をした。
彼女の操るナノマシンが持つ性質は『工場』。
彼女が脳内で図面を引いた機械や材質を、ナノマシンは完全に再現出来る。

それはつまり、あらゆる攻防に『作成時間』が伴うという事だ。
ブーンの『雷光』を相手取るには、彼女のナノマシンは遅すぎる。

緩衝材が地面に落下し、その衝撃を分散する為に四散した。

从 ゚∀从 「手ぇ貸せ旦那!ブーンが来やがった!私じゃ相性が……って、アンタもやられてんのかよ!」

白衣と銀髪と煤まみれにしたハインリッヒが、すぐ隣でぶっ倒れたモララーを見て叫んだ。

( ^ω^)「……これで決着、でいいんじゃないかお」

雷光がハインリッヒの正面に降り立って、そう言った。
ショボンも展覧ホールから、二人の傍にまで既に距離を詰めていた。

人の形をした雷光が、明滅する。
そうしてゆっくりと光が収まっていき――雷は、青年になった。
青年――ブーンは、モララーとハインリッヒをまっすぐに見据えていた。

( ^ω^)「モララーさん、ハインリッヒさん、なんでなんだお?」

そして、問いを発した。

( ^ω^)「あなた達の様子がおかしいって、ずっと前からショボンに相談をされてたお。
      だからちょっと、あなた達の研究所に忍び込んだ。
      もし何もなかったら、久しぶりに顔を見に来たって言うつもりで」

ブーンの視線には、稲光のような、冷たい鋭さが宿っていた。

10 名前: ◆q3XheuOe12[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 23:00:25 ID:VBbdKorg0
( ^ω^)「だけどあなた達はいなかった。僕を出迎えてくれたのは厳重な警備システムだけで……
      それを突破した先には、あなた達が集合無意識を映し出すナノマシンの研究をしていた痕跡があった。
      慌てて、ショボンに連絡を取ったお」

从 ゚∀从 「……だから言っただろ、モララー。データを削除すんじゃなくて研究所ごとぶっ飛ばすべきだって」

( ^ω^)「なんでなんだお。そんな物を作り出したら、今度こそこの世界が形を保っていられるか、分からないのに」

その眼光を見て、モララーが笑った。

( ・∀・)「そんな怖い目をするなよ、ブーン君。君らしくないぞ」

( ^ω^)「モララーさん、僕は冗談を交わすつもりは……」

( ・∀・)「ところで君、戦争が終わってから一度くらいは故郷に帰ったのかい?
      話を聞くに、今でもヒーロー活動に勤しんでいるみたいだが。
      折角世界を救ったんだ。君が守った街並みを見て、助けた人達に会ってこようとは思わなかったのかね」

モララーはブーンの言葉を遮って、更に続けた。
ブーンは――答えない。

( ・∀・)「なぁ、ブーン君。君のその名前は、ヒーローとしての呼び名だろう?
      かつての仲間のよしみだ。君の本名を、教えてはくれまいか」

モララーは答えを待たずに、更に言葉を続けた。

( ・∀・)「……君『も』思い出せないんだろう?生まれ育った町の名も。家族や友人の顔も。自分の名前さえも」

ブーンが、双眸を細めた。
それが言葉を伴わない、だが何よりも雄弁な答えだった。

( ・∀・)「……君は、全身を電気エネルギーのように変化させられる。
      ショボン君もその筋骨格は明らかに常識の外にある」

モララーが仰向けに倒れた姿勢のまま、右手を掲げ、重力子を生み出した。

( ・∀・)「私やハインリッヒだって、このナノマシンはどこから発生させているんだと思う?
      質量保存の法則は?エネルギー保存の法則はどうなっている?
      簡単な話だ。私達も、君達も、既に体の組成からして、ヒーローでなかった頃とは別物だってだけの事だ」

そして、嘲笑を零した。

11 名前: ◆q3XheuOe12[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 23:01:54 ID:VBbdKorg0
( ・∀・)「私達は、ナノマシンに作り変えられたのさ。体だけじゃない。
      ヒーローに郷愁はいらない。ヒーローに、付きっきりで守りたくなる人はいらない。
      だから、忘れさせられた」

重力子が彼の右手の中で球体を形成した。

( ・∀・)「それだけじゃない。人格さえもが、私達が気づかない内に変化しているだろう。
      ブーン君……君はあの戦争の中で、きっと何もかもを守りたいと願ったんだろう。
      だから、ナノマシンは君にその力を与えた。秒速200kmでどこへでも行ける力を」

その球体が、ゆっくりと、縮小しつつあった。

( ・∀・)「だが、どうしたものだ。そんな優しい君が……さっきはハインリッヒ君を危うく殺す所だったじゃないか。
      そして今も、私を殺そうとしている。あの戦争で薙ぎ倒し、スクラップにしたロボットのように。
      ショボン君もだ。こんな事はしたくないと言いつつも……あの一撃は防御が間に合わなければ私は死んでいたぞ」

モララーは、かつては大企業の社長であり、天才的なシステムエンジニアだった。
ハインリッヒが作るナノマシンをハードとすれば、彼が組み立てるプログラムはソフトだ。
クレイトロニクスというあらゆる意味で人類史に残る大発明は、彼なしでは実現しなかった。

彼は自分が天才である事を自認していた。
自分が人類に、科学に、無限大の進歩を施せる存在であると信じていた。

だから彼は大戦の最中、自分は決して死ねないと思っていた。
この戦争を好転させる為には、そしてその後の社会を立て直す為には、自分という存在が必要不可欠だと思っていた。

( ・∀・)「ナノマシンは、私達をただの一色に染め上げてくれやがったのさ」

自分の存在は、『何よりも重い』とすら思っていた。
想像を映し出すナノマシンは、それを現実に反映した。

( ・∀・)「そして私は、私を失ってしまった事が我慢ならないんだよ。他ならぬナノマシンの力によってね」

モララーの手中で、重力子は更に再生成と凝縮を繰り返していた。
その事にブーンとショボンが気付く。
ブーンの体が雷光と化し、ショボンの大腿筋が隆起する――だが既に遅い。

( ・∀・)「私は、私を取り戻す為ならなんだってするだろう。
      集合無意識を掘り起こして、神をこの世に引きずり下す事だって、厭わない。
      ……いや、厭えないんだ」

「それ」は既に完成していた。
極めて強力な、空気や塵を巻き込んだ重力球。
もしもモララーがその重力を、不意に解除したらどうなるか。

答えは――強大な反作用のみがその場に残る。
つまり、炸裂するのだ。
それは宇宙空間で起これば、超新星爆発と呼ばれる現象だった。

13 名前: ◆q3XheuOe12[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 23:03:36 ID:VBbdKorg0
从 ゚∀从 「まっ、そういうこった。私だって、ちょっと前までは私が作ったナノマシンのせいで
       戦争が起きたんだって、密かに悩んだりしてた筈なんだけどな。
      そういうの、もうよく思い出せねえんだよなぁ。私がそうなる事を、望んだのかもしんねーけどさ」

ハインリッヒが、そう言いながら白衣の下の黒いシャツをたくし上げた。
曝け出された白い肌の奥から、時計の針が刻むような音が聞こえた。

モララーの言葉通り、彼らの体はナノマシンに組成を変化させられている。
故に、『工場』は体内でも稼働可能なのだ。
ハインリッヒが腹の底に何を形成したのか――ブーンもショボンも、容易く想像が出来た。

( ・∀・)「……決着をつけようか。もっとも……どう足掻いても君達に勝ちの目はないがね。
      私が勝てば、私の勝ちで、君達の負けだ。
      私が負ければ……君達が私達を殺せば、君達も「こっち側」の仲間入りだ」

モララーが、笑った。
疲れ果てた男が溜息を吐くかのような、退廃的な笑みだった。

極限状況――戦いの、勝敗の、生と死の臨界点。
その真っ只中で、ブーンは、ショボンを見た。

ショボンもまた、ブーンに視線を向けていた。
双眸には――既に決意の、覚悟の光が宿っていた。
ショボンが自身と同じ結論に達した事を理解して、ブーンは小さく頷いた。

そして二人は、身体を構築するナノマシンを操作。
眩い青の稲光が、岩山と見紛うほどの筋肉が――音もなく鎮まって、力を失った。

モララーが、全く予想外の出来事に、目を見開いた。

( ・∀・)「馬鹿な。一体、何を……」

( ^ω^)「逆だお、モララーさん。どう足掻いても勝ちの目がないのは……あなた達の方だ」

青年が――太めで、優しげな目をした、『ブーン』ではない青年が、そう言った。

14 名前: ◆q3XheuOe12[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 23:05:02 ID:VBbdKorg0
(´・ω・`)「僕らは、殺さないよ。絶対にあなた達を殺したりしない。
      例え僕らが死んだ後で、あなた達が世界を滅ぼすとしても。
      だから僕らが、あなた達に殺されれば……それはナノマシンが、僕らを縛り切れなかったって事だ」

もう一人――ただ背が高いだけの、たれ眉で気の弱そうな、『ショボン』ではない青年が、そう続けた。

( ^ω^)「もし、僕達があなた達に殺されずに済んだのなら……
      やっぱりナノマシンは、僕達の在り方を完全には決められないって事だお。
      どっちにしたって……あなた達は、「こっち側」に帰ってこれる」

( ・∀・)「っ、そんなものはただの言葉遊びだ!
       私達は体組織をナノマシンに置換され、それは脳にさえ至っているんだ!抗える訳がない!」

( ^ω^)「だとしたら、僕らはやっぱりあなた達を殺す筈だお。
      だからそんな風に、狼狽えたりする必要なんてない……違うかお?」

モララーは更に言葉を返そうとして、しかし出来なかった。
右手の中で凝縮を続けた重力球の反作用が、彼自身ですら抑えられない域にまで達したのだ。
つまり、臨界を迎えた。

そして――超新星が、炸裂した。
発生した衝撃波が、二人の青年を、ハインリッヒを、モララー自身さえもを吹き飛ばす。
ナノマシンで構築された継ぎ目のない地面が力任せに抉られる。

本来なら――齎される破壊は、その程度で済む筈がなかった。
極小規模とは言え地表で再現された超新星爆発は、
何の防御策も取らなかった二人の青年をただの気体に変えてしまう筈だった。
すぐ傍にある展覧ホールも、容易く崩落させてしまう筈だった。

だが炸裂の寸前、モララーはナノマシンを操作――衝撃波の『通り道』を作った。
重力球を覆う砲身を作り出す事で、衝撃波に指向性を与えたのだ。

ハインリッヒも、自身の体内に形成していた爆弾を分解――体外で再構築。
同時に緩衝材を形成し爆風に指向性を与える事で、『通り道』を補強した。

そうする事で衝撃の殆どは、上空へと逃されたのだ。

結果として――四人は五体満足のまま、それぞれ別々の方向で、地面に仰向けに倒れていた。

15 名前: ◆q3XheuOe12[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 23:07:28 ID:VBbdKorg0
( ・∀・)「……たまたまだ、こんなものは」

モララーが、小さく呟いた。

( ・∀・)「無抵抗の、かつての仲間を殺める……そんなものは、私の重んじる『私』じゃない。
      だがそれをしなければ、『私』を取り戻す為の手立てに辿りつけない。
      その二律背反に……ナノマシンがエラーを起こした。ただそれだけの、再現性があるかも分からない、偶然だ」

( ^ω^)「まだ、そんな事を……言ってるのかお。
       あんたは、自分で選んだんだお。僕達を殺さないって。
       ナノマシンの力じゃなく、自分の意志で」

青年が、全身を痛みに侵されながらも、立ち上がった。

( ^ω^)「またあんたが世界を滅ぼそうとしたら、僕は何度だって同じ事をするお。
      何度やったって、あんたは、僕を殺そうとなんてしない!」

(#・∀・)「世界の危機を……軽く見るなよヒーロー!君を殺さず、目的を達成する術など幾らでもあるんだ!
       そう!私があの少年達を人質に取ったら、君はどうするつもりだ!
       何も出来まい!そうなってからでは遅いんだ!」

モララーが感情を顕にして、展覧ホールを――未だ逃げ出さずにそこにいた二人の兄弟を指差して怒鳴った。
その言葉に、青年も奥歯を怒りに噛み締め、怒号を放たんと深く息を吸い込んだ。

(#^ω^)「いい加減にしやがれお!さっきから、口を開けば勝てない理由ばかり連ねて!言い訳して!
       それこそあんたらしくない!僕達らしくないお!
       僕達は、ロボットの大群にも、どんな怪物にも、ビビったりしなかった!違うかお!」

そして彼はモララーへと駆け寄り――その横面を、生身のままで殴りつけた。

(#・∀・)「この……青臭い、ガキンチョの、分からず屋め!」

モララーは歯を食い縛ってそれを耐え――そのままブーンの頬を殴り返した。

(#^ω^)「分からず屋はどっちだお!」

(#・∀・)「君に決まっているだろうが!いつ爆発するか分からない核爆弾を、
       君は知り合いだってだけで処分しまいとしているんだぞ!」

(#^ω^)「あぁそうだお!だからやっぱり、僕はヒーローに、ナノマシンに縛られてなんかいないお!」

(#・∀・)「私を見ろ!その状態が永遠に続くと、誰にも証明出来はしないんだよ!」

二人は、ナノマシンを使おうとはしなかった。
ただ言葉を投げつけ――その度に、握り拳を振り回すだけだった。

その様を、ショボンとハインリッヒは傍観していた。
それから殆ど同じタイミングで、二人は目を見合わせた。
そして、呆れたように笑った。

16 名前: ◆q3XheuOe12[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 23:09:15 ID:VBbdKorg0
(´・ω・`)「……もう、いいんじゃない、ブーン。モララーさん。
      今の二人は、どう見たってナノマシンに支配されたヒーローとは程遠いよ」

从 ゚∀从 「そうだぜ、旦那。アンタもアタシも、いつか自分が世界を滅ぼしちまわないかってビビってたけどよ。
      今のアンタ、どう見たってターミネーターには見えないぜ。溶鉱炉へ飛び込む必要は、無さそうだ」

二人の声に制止されたモララーが、肩で息をしながらそちらへ振り返った。

( ・∀・)「ハインリッヒ……君まで、馬鹿な事を……。
      世界が滅ぶか、否かなんだ。可能性は……0%でなければならない」

彼は皆に――そして自分自身に言い聞かせるように、言葉を紡いだ。

と、不意に彼の後ろ頭を、何かがつついた。
図らずも前に転びかけるくらいの、強めの力だった。
モララーは眉を顰め、それから溜息を吐いて、今度はブーンへと振り返った。

( ・∀・)「ブーン君、確かに君は良い友人だよ。だが、こればかりはおふざけでお流れに出来る話では……」

振り返った視線の先で、自由の女神像が屈み込んで彼を見下ろしていた。

( ;・∀・)「な……」

唖然として言葉を失ったモララーに、女神像は確かに微笑みかけた。
そして彼らの頭上で、右手の松明を一振りする。
黄金色の火の粉が――『自由』のナノマシンが降り注ぐ。
それはモララーとハインリッヒの体に触れると、まるで彼らに溶け込むようにして、消えた。

女神像はその様を見届けると小さく頷いた。
それからモララーの額を優しく、極めて優しく指で小突き、立ち上がる。
そして再び松明を掲げ――動かなくなった。

( ^ω^)「……ほら、女神様も言ってるお。これでもう言い訳出来ないぞって」

ブーンが、眼の前で起きた出来事に呆れ混じりの笑みを零して、そう言った。
モララーも、数秒の間を置いて、吹き出すように同じ笑いを零す。

( ・∀・)「これで……一件落着か?冗談だろ。私がどんな思いで……」

右手を額に当てて、首を左右に振って、それから彼はブーン達を見た。

( ・∀・)「いや……こんなもの、だったか。世界の危機なんて」

( ^ω^)「そうだお。こんくらいのノリで救えなきゃ、世界なんてとっくの昔に滅んでるお」

ブーンの言葉に、モララーはもう一度、憑き物が落ちたように笑った。

17 名前: ◆q3XheuOe12[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 23:12:22 ID:VBbdKorg0
(´・ω・`)「……で、これからどうするんだい。政府の招集を無視しといて、
      市の公共施設を巻き込んでミラージュが大喧嘩なんて……どう考えたってマズイよ」

( ^ω^)「そりゃ……あー……うん、逃げるしかないお。秒速200kmで……」

ショボンの問いを受けて展覧ホールに視線を向けたブーンの視界に、二人の少年が映った。
ミラージュを信じて、最後の最後まで逃げようとしなかった少年の視線がブーンに刺さる。

( ^ω^)「……ってのも、ヒーロー的には無しだおね」

从 ゚∀从 「まー、いいんじゃねーの。その内政府とコンタクト取らなきゃやり難い案件も出てくるだろうとは思ってたし」

( ・∀・)「……そうだな。それがたまたま、今日になっただけと思おう。それと、ハインリッヒ。紙とペンを作ってくれ」

从 ゚∀从 「あん?別にいいけど……なんでそんなモンを」

( ・∀・)「そりゃ君……彼らにはショッキングな光景を見せてしまったからね。埋め合わせが必要だろう」

从 ゚∀从 「……あぁ、そういう」

ハインリッヒは得心して色紙とペンを作り出し――モララーが少年達に手招きをする。

弟は、今の今まで眼の前で繰り広げられた破壊の嵐などもう忘れてしまったかのように、彼に駆け寄った。
兄もそんな弟に溜息を吐いてから、その後を追った。

(´・ω・`)「やぁ、さっきはお騒がせして悪かったね。もし良ければ、お詫びに……」

「ミラージュ同士が戦ってた理由は、もういいよ。
 でも……なんでずっと、姿を表さなかったんだよ。
 政府も……政府だけじゃない。誰だって、アンタ達を呼んでたのに」

色紙にペンを走らせようとしたショボンに、兄が尋ねた。
問い詰めるような、責めるようなとすら形容出来る声色だった。

彼は、ヒーローなんて、ミラージュなんていないと思っていた。
だからこそ――ヒーローが強く求められている事も知っていた。
その願いを、ヒーロー達が無視し続けた理由を、聞かずにはいられなかった。

(´・ω・`)「……世界を、救っていたんだ」

「世界を?……でも、もう戦争は終わってるじゃないか」

(´・ω・`)「うん……ごめんよ。全部を説明する事は、出来ないんだ」

ショボンは眉尻を下げて、困ったように謝った。
その様を見ると、兄はもうそれ以上の追求をしようとは思えなかった。

18 名前: ◆q3XheuOe12[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 23:17:05 ID:VBbdKorg0
と、不意に彼らの頭上から、羽ばたきのような音が聞こえてくる。
空を見上げると、十を超える軍用のヘリコプターが、バリアの上に接近しているのが見えた。

(´・ω・`)「もう行かないと」
 
ショボンはその場に膝を突いて、目の前の少年の両肩に手を乗せた。

(´・ω・`)「君が求める答えは、あげられなかったかもしれない。けどこれだけは忘れないで欲しいんだ。
      僕らは、ずっとこの世界を守ってきた。そしてこれからも守っていく。
      僕らは……正義は、この世界に確かに存在してるんだ。蜃気楼なんかじゃない」

そう言うとショボンは立ち上がって、少年から一歩離れた。
そして手を一振りしてから、膝を屈め――同時に筋肉が隆起し、跳躍。
バリアの上にまで一飛びで辿り着いた。

从 ゚∀从 「ま、要はあの筋肉ダルマにぶん殴られたくなかったら、真っ当に生きろよってこった」

ハインリッヒが乱暴な言葉でそう続けて――その背部にジェットパックが形成される。

( ・∀・)「私達が言うのもなんだがね。まぁ、程々で構わないよ。
      世の中、往々にして悪党の方が強くなりがちだ。そういう連中と戦う事を、強いたい訳じゃない。
      彼が言いたかったのは……要はこの世界に失望する事なく生きて欲しい、という事だろう」

モララーも重力子を身に纏い、二人は宙へと浮き上がる。
最後に残ったブーンは――急ぎ気味に二枚の色紙にペンを走らせていた。

19 名前: ◆q3XheuOe12[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 23:17:26 ID:VBbdKorg0
( ^ω^)「はい、これ」

そしてそれを兄弟へと手渡す。
兄に渡された色紙には、11桁の数字が記されていた。

「これって……」

( ^ω^)「モララーさんにバレたら、きっとヒーローが個人を贔屓してどうするって怒られちゃうけどね。
      でも、君はきっと、それを正しく使ってくれるお」

「それ……もしかしてブーンの電話番号!?ちょっと、僕にも見せてよ!」

「馬鹿言え。お前はどうせ友達に自慢する為だけにヒーローを呼びつけるから駄目だよ」

「うっ……し、しないよそんな事!」

「ふん、どうだか」

兄弟のやり取りにブーンは小さく笑いを零して、上空を見上げる。
ショボン達が手招きしている様子が見えた。

( ^ω^)「もし、ヒーローの助けが必要になったら、呼んでくれお」

ブーンは、もう一度視線を二人の兄弟に戻す。

( ^ω^)「秒速200qで、助けに来るお」

20 名前: ◆q3XheuOe12[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 23:19:20 ID:VBbdKorg0
瞬間、ブーンの体が地から天へと逆巻く雷と化した。
一瞬にも満たない内にバリアの外側にまで到達し、そのまま、既に仲間達が乗り込んだヘリへと飛び込む。

( ^ω^)「お待たせだお」

ブーンの声に、ヘリのパイロットが後部座席を振り返る。
四人全員が搭乗している事を確認すると、彼は視線を前に戻した。

『現場にいたミラージュ四名、全員搭乗しました。移動を開始します』

パイロットは無線にそう報告――そしてヘリが移動を開始する。

( ^ω^)「あー……これ、どこに向かってるんだお?」

ブーンが誰にともなく尋ねた。
モララーが彼に視線を向けた。

( ・∀・)「……バージニアだそうだ」

( ^ω^)「なるほど、バージニア……って、どこなんだお?」

予想出来ていた反応に、モララーが深い溜息を吐いた。

( ・∀・)「ワシントンDCの南西。ニューヨークから、軍用のヘリなら……一時間半ってところか」

( ^ω^)「えー、結構遠いお。なんでそんなとこに?」

( ・∀・)「バージニアには、ペンタゴンがある。国防総省本庁舎……」

モララーはそこで一度言葉を区切り、一拍置いてから続きを紡ぐ。

( ・∀・)「そこで、プレシデントがお待ちだそうだ」



【第一章 了】

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