2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです
( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )
  おしまいのあと



880 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/12/09(月) 20:03:33 ID:nnePnEts0


兄者と弟者の旅は終わった。
――かといえば、そうではなかった。

大市へと赴き、砂漠を進み、盗賊と戦う。
100年に一度とも言われる神秘と出会ったかと思えば、遺跡を探索し、命をとしてゴーレムと戦いを繰り広げる。
そして、竜の背に乗り、屋敷へと帰りつく。

思えば長い一日だが、話はそれで終わらなかった。
家へと帰った彼らを待ち構えていたのは、母者と姉者による説教という名の暴力と、大商隊出立の知らせだった。

彼ら兄弟は“流石”の街の住民だ。
街を束ねる母者の息子としての、義務もある。
だから、街にとって大きな出来事があれば、どれだけ疲れていても動かなければならない。

大商隊は年に三度、東方から西方、西方から東方へと大陸を横断する。
商人や護衛の数はかなり多く。それに加えて、大量の荷物と荷馬車。それに、ラクダや、安全を求めて多くの旅人が同行する。
膨れ上がったその規模は、下手な集落よりずっと大きい。
そんな彼らの出立となれば、街中総出の大騒ぎとなる。

流石の兄弟が一日のうちに体験した出来事は、本人たちにとっては人生観を変えるほどの大事件だった。
しかし、母者をはじめとする街の人々にとってもそうだったかと問われれば、否である。
結局、彼ら兄弟は休む暇もないまま、仕事へと駆り出された。


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881 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/12/09(月) 20:04:56 ID:nnePnEts0




そして、慌ただしい夜は明ける。



――これはいわゆる、後日談。
砂漠へと向けて大商隊は旅立ち、そして、穏やかで何でもない一日が始まる。




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882 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/12/09(月) 20:05:48 ID:nnePnEts0





( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )





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883 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/12/09(月) 20:06:28 ID:nnePnEts0





おしまいのあと。 いわゆる、後日談




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884 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 20:07:39 ID:nnePnEts0

市場のすぐ横にある大きな建物は、自警団の本部だ。

今そこには、黒い揃いの服を着た者達が勢ぞろいしていた。
晴れやかな顔をした者、床に倒れこみ惰眠をむさぼる者、疲れきった顔をした者などがあふれ、部屋は一種の混沌と化していた。
至るところから喜びの声や、雄叫びと、いびきの混じった音が響き渡る。


从*゚∀从「いやほぉぉ、飲むぜぇぇぇぇ!!!」

( ^Д^)「まだまだあるけど、とりあえずはこれで一段落ぅぅぅ!!!」


        イェーイ!

  ヾ从*゚∀从人(^Д^*)ノシ



大商隊を送り出した自警団員たちは、ひたすら浮かれ、舞い上がっていた。
お互いに肩を抱き、飛び回り、まだ昼前だというのに、机にはなみなみと注がれた酒や、沸かしたての茶がいたるところに並べられた。
普段は書類やら武器やらが並べられたその部屋は、今は飯屋や宿屋のような体をなしている。


(;´∀`)「おーい、まだ仕事は終わってないモナよー」


大商隊到来時における、治安の維持は彼ら自警団員にとって最大の仕事だ。
それに加えて、大商隊の到着時や、出立時の手伝い。役場や商人組合の手助けなど、普段はない仕事が押し寄せる。
彼ら自警団員は数日用意された休み以外は、ほとんど寝る間もなくこき使われていた。


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885 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 20:09:20 ID:nnePnEts0


(;´∀`)「あー、こりゃあ誰も聞いてないモナ」

爪'ー`)「ここんとこ、ろくに休む暇もなかったからな」


休みの団員まで駆りだされた夜通しの作業がようやく終わりを迎えた頃には、倒れこむ団員と叫びだす団員で阿鼻叫喚の地獄と化していた。
まだ辛うじてやる気のある団員が、本部へ団員をなんとか押しこみ、そして今の惨状がここにある。


(;Д; )「長かった。忙しすぎて死ぬかと思った」

从 ;∀从「荷運びにも、盗っ人や酔っぱらいにも、人とか物の整理や、母者様にも姉者様にも、天候にも負けなかったもんな。
      城門警備とか、ほんと一瞬の幻だったし。役場の連中とはケンカだし、酔っぱらいが盗賊化するし。
      がんばったよ、今期も本当にがんばったよ!!」

(;Д; )「ハインさん。オレ、一生ハインさんについていきます!!」

从*;∀从「よせやい、照れるじゃねぇかよ」


先輩も後輩も、老いも若きも、男も数は少ないが女も、果ては普段は仲が悪いもの同志までもが、楽しそうにはしゃぎ合っていた。
寝ているものは不幸にも踏まれ、何処から持ってきたのか次々と料理が運び込まれる。
誰もかもがこんな状態なものだから、何か騒ぎが起こったらどうするつもりかというモナーの心配は誰にも届かなかった。


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886 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 20:11:10 ID:nnePnEts0


( ; ゚¥゚)「あー、これは完全に、大仕事をやり終えておかしくなってますね。
       どうせ見るなら、麗しい女性同士の戯れの方がよかったものです」

爪;'ー`)「お前さんも、そうとう趣味が悪いねぇ」


(-、-*川.。oO


乱痴気騒ぎに参加しない面々も、昨夜から続く夜通しの作業で力が尽き気味だ。
そんな彼らを誘惑するように、食べ物の匂いが辺りに漂う。


从*-∀从「弟者の野郎には逃げられたが、こっちはこっちで楽しくやろうぜ!」

(-Д- )「弟者さん、ひと仕事終えたら今日は用事があるからですもんねぇ。冷たいですよ」

从*゚∀从ノ「まあいい、今日は飲むぜぇェェェ!!!」


(*^Д^)9m「いよっ、ハインさぁぁぁん!!!」


はしゃぐ団員の姿を眺めながら、モナーが一つ大きな息をついた。
やれやれと言わんばかりの表情は、それでも不快そうではなかった。


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887 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 20:13:22 ID:nnePnEts0


爪'ー`)「さてと、私も羽目を外してみようかね。
     モナーの旦那。旦那も、たまには飲んでみるかい?」

( ´∀`)「モナは酒はやらないから……」

(  ゚¥゚)「ああ、モナー氏は信仰の徒ですものね」


同僚の声にモナーは不敵な笑みを返すと、何やら大きなものの入った袋をひっぱりだす。
一体何かと年かさの男が見守れば、そこから出てきたのは水煙草のための器具だった。


爪*'ー`)「やるじゃないか、旦那も」

( ´∀`)「やっぱり、モナにはこれモナ」

爪'ー`)「ご相伴させてもらってもいいかな?」

(*´∀`)「いいモナよ。フォックスの旦那もイケる口モナ?」


(  ゚¥゚)「さてと、私は向こうでつまみ食いでもしてきましょうかね」


年長の男たちは顔を見合わせると、いそいそと準備にとりかかる。
そこに浮かぶ表情は完全に少年のそれだ。


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888 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 20:15:17 ID:nnePnEts0


( ´∀`)y‐~~ フゥ

爪'ー`)y‐「やはり、この瞬間こそが至高だな」

(*´∀`)y‐「モナモナ」


火を灯し、水で冷ました煙を吸う。
満足そうな顔で紫煙をくゆらせる二人の男のそばに、派手な足音を立てて人が押し寄せた。
何人かの顔が赤いのは、既に酒が回っているからだろう。


从*゚∀从「うぉ、いいな! ちぃとばかし、よこせよ!」

(*´∀`)「だめモナ。ハインは向こうで酒でも飲んでるモナ」

从*゚3从「ちぇー、しゃーねーな。
      オラッ、起きろやペニサス!!!」

(-、q;川「なぁにぃー、少しくらい寝させてよ。
      昨日は渡ちゃんと遊んでて、ぜんぜん寝てないのよー」


ヤーメーテー('、`;川⊂从*゚∀从 ヨッシャイクゾー


宴は続く。
――時は昼前。太陽は高く、酒宴はまだまだ始まったばかりだ。


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889 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 20:18:05 ID:nnePnEts0

広場からは少し離れた、職人街。
建物が密集したその一角に、ある工房があった。
細工物を扱うその小さな工房は、独立したばかりの若き職人モララーのものだった。

その工房に、少年の大きな声が響いた。


(#゚∀゚)「いいかげんにしろよ、このバカ! アホ! マヌケ!」

( ・∀・)「あーあー、聞こえないんだからなー。
      それ終わったら、井戸に水汲み行って来いよ!」


声を上げる少年の手には、拭き掃除に使ったらしいボロ布が一枚。
小さな工房の中は片付けられ、彼の間近にある机の上は綺麗に磨き上げられていた。
それは、少年が昨日から今日にかけて行った仕事の成果だった。


(#゚∀゚)「なんでお前のためなんかに働かなきゃなんないんだよ!」

  ∧_∧  ゴツン
 ( ・∀・)o彡゜  て
     (;>∀<)> そ アデッ


( -∀・)「なんでって、僕の丹精込めた大切な商品を盗んだからに決まってるだろ。
      あれを一つ作るまでに、僕が何日かけたのか知ってるのかい?」


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890 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 20:20:18 ID:nnePnEts0


(;>д<)「だからって、コキ使いすぎだろ!」

(σ・∀・)「そんなに不満なら、今から懲罰に切り替えてもらう?
       きっとムチ打ちか、死なない程度の日干しで済むと思うからな」

('(ii゚∀゚∩て「水くみだいすき!! ろーどーほーしサイコー!!!」


少年は壺を手に取ると、一目散へと出口に向けて走りだす。
この街にほとんど馴染みのない少年には、井戸の場所はわからない。
しかし、少年にとってはモララーの手から逃れることが最優先だった。


(*-∀-).。oO(くそう。水くみ行くふりして、逃げてやる。ばーか、ばーか!!)

( ・∀・)「坊主、それが終わったら。
      ちょっと道具をさわってみるか?」


内心で考えを巡らせる少年に向けて投げかけられたのは、彼にとって予想もしなかった言葉だった。
水汲みにかこつけて逃げようとしていた少年の足が、ふと止まる。
その顔には信じられないという驚きの色が浮かんでいた。


(;゚∀゚)「え゛?」


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891 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 20:22:27 ID:nnePnEts0


( ・∀・)「どうせ、商隊にくっついて来た宿なしだろう?
      その商隊も行っちゃって住むところもない、と」

(#゚∀゚)「な、それはお前が!」

( -∀・)σ「捕まったお前が悪い。盗っ人なんて、殺されたって文句は言えないんだからな。
       そもそも、この母者様のお膝元で盗みなんてしようとする方が馬鹿なんだよ」


モララーの言葉に、少年は悔しそうに顔を朱に染める。
そんな少年とは対照的に、モララーの表情は落ち着いていた。


( ・∀・)「まあ、細工でも何でもいいけど技さえ身につけりゃあ、少なくとも食うには困らないよ。
      こそ泥なんかよりも、そっちの方がよっぽど飯の種になるんだからな」


真っ黒い瞳で少年を見つめながら、モララーは淡々と話す。
モララーの常に笑顔を浮かべた口元は、その心情を容易に他人に読み取らせない。
それは人の女に手を出すのが好きという彼の悪癖によるものだったが、それを知らない少年にとっては恐怖そのものだった。


(;゚∀゚)「そ、そんなこと言ったってだまされねーぞ!」

( -∀・)「泥棒は嫌いだけど、この僕の細工に目をつけたのだけは褒めてやる。
      なんて言ったって僕の細工は、一流品だからな!」


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892 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 20:25:33 ID:nnePnEts0


(#゚∀゚)「な、なんだよ変なやつ!」


少年は必死に反抗するが、それは怯えた犬が吠えているのとそう変わらなかった。
それでも少年はなんとかモララーよりも優位に立とうと必死で声を上げ、続くモララーの言葉に息を呑んだ。


( ・∀・)「この僕が何を言いたいかというと。
      ……働きによっては弟子にしてやってもいいってこと」

(;゚∀゚)「え?」

( ・∀・)「まぁ、どうするかは坊主の自由。
      いっとくけど、僕は男には厳しいから、覚悟するといいからな!」

( ゚∀゚)「……」


モララーの真意は、少年にはわからなかった。
しかし、それは少年にとっては何年かぶりに人から向けられた、正真正銘の好意だった。
甘い言葉は、大抵ろくでもない結果にしかならない。そもそも、モララーは何を考えているのかわからない男だ。

それでも、彼の言葉は少年にとって純粋に嬉しかった。


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893 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 20:27:12 ID:nnePnEts0


(*゚∀゚)


少年の顔が赤く染まり、その顔に笑顔が浮かぶ。
どこか刺のあった顔つきは緩み、年相応の子供らしい顔つきとなる。
騙されるならそれでもいいやという思いで、少年は声を上げた。


(*゚∀゚)「師匠」

( ・∀・)「え?」



シショー ナニスレバイイー


                    チョ、オマエキガハヤインダカラナ


オマエジャナクテ、ツーダゾ!


                    ハイハイ



――それはまさしく、一人の職人の誕生の瞬間だった。


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894 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 20:29:10 ID:nnePnEts0

広場の一番奥にあるツン=デレ商会では、金の髪の娘が所在無さげにうろついていた。
彼女は同じ場所で行ったり来たりを繰り返し、苛立ったように両手をばたばたと動かした。


ξ#゚听)ξ「あー、もう気になる!!!」

ζ(゚ー゚;ζ「もー、お姉ちゃん少しは落ち着いてよ〜」


そう声を上げたのは、彼女と面差しがよく似た娘だ。
彼女――デレは、先程から所在無さ気にしている娘――ツンの妹である。


ξ#゚听)ξ「何であの二人は、連絡の一つも寄越さないのよ!」

ζ(゚、゚;ζ「荒れるなぁ、もぅ……」


ツンは昨夜からずっとこんな調子だった。
一応、仕事には出ているものの、ずっと上の空。
昨日、兄者と弟者を街から送り出した時はよかったのだが、それからいくらたっても帰宅の報がないと知ったとたん、ツンの様子はおかしくなってしまった。
兄弟とはそれほど縁のないデレからすれば、姉がどうしてこれだけ取り乱すのかわからない。


ξ;゚听)ξ「兄者も弟者も、大丈夫だったのかしら。
       ……ねぇ、デレ。食料は足りたかしら? 水はちゃんと多めにしたわよね!!」

ζ(´、`;ζ「落ち着こうよぉ、お姉ちゃんー」


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895 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 20:31:31 ID:nnePnEts0


ツンはひとしきり声をあげると、眉根を寄せ不安そうな表情になった。
いつもは毅然とした声は震え、今にも泣き出さんばかりだ。
そんな態度も、やっぱり姉らしくなくて。デレはこっそりと息をつく。


ζ(゚、゚;ζ.。oO(お姉ちゃん、私がいない時もこんな感じなのかな。
          ……遅くなる時は、気をつけよう)

ξ;゚听)ξ「本当に大丈夫かしら……」


そんな妹の内心には気づかずに、ツンは所在なさげに声を上げ続けている。
お客に対してはいつも愛想よく、しっかりしている姉だけに、その姿はデレにとってなかなか新鮮だ。


ξ;゚ぺ)ξ「……あいつら昔からよく厄介事に巻き込まれてたし。まさか」

ξ;゚听)ξ「何か事故とか、バケモノとか出てたらたらどうしよう。怪我とかしてないわよね?
       薬……薬を入れておけばよかった」


ξ; )ξ オロオロ


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896 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 20:33:18 ID:nnePnEts0


ツンは再び、その場をうろうろと歩き始める。
歩きながらも時折あげる「どうしよう」という声は、普段の彼女とは打って変わって弱気だ。


ζ(゚ー゚;ζ「お姉ちゃんって、意外と心配性だよねー。
       大丈夫だって。兄者さんはアレだったけど、弟者さんしっかりしてたし」

ξ#゚听)ξ「あの二人だから、心配なの!!
       兄者は気を抜くと変なものを追いかけてどこか行っちゃうし、弟者は昔っからすぐ泣くし」

ζ(゚、゚;ζ「……お姉ちゃんの考え過ぎじゃない?
       兄者さんならともかく、弟者さんが泣くなんて、ありえないよー。冷静でかっこいいもん。
       それに二人とも一応、大人の男の人だよね?」

ξ--)ξ「……」


デレのとりなしに、ツンは足を止めた。
見れば、顔に浮かんだ焦りの表情はいつの間にか消えている。


ζ(゚ー゚*ζ「お姉ちゃん、少しは落ち着いた?」


ツンはデレの言葉にしばらく黙り込んだ後に、ようやく口を開いた。
しかし、ツンの眉はひそめられ、顔にはいぶかしむような表情が浮かんでいる。


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897 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 20:35:23 ID:nnePnEts0

  _,
ξ;゚听)ξ「……デレ、まさかあの二人に惚れた?」

Σζ(゚、゚;ζ「お、お、お、お姉ちゃんしっかり!!!」


ξ;--)ξ「まさか、デレが。私のかわいいデレが、あんなのに惚れるなんて。
        でも、姉としては祝福しないわけには……。いやいやここは、止めるべきか」


ζ(゚、゚;ζ「お姉ちゃんがぜんぜん冷静じゃないってことはわかった。
       しっかりしてよ、お姉ちゃんー」

ξ;゚听)ξ「も、ものすごく冷静だし!」

ζ(-、-;ζ「えぇー」


ツンは冷静どころか、まともに頭が回っていない。こんな様子ではとてもじゃないが、仕事なんて任せられない。
デレは至極冷静に姉の今の状態を悟った。
もうこうなったら姉の心配事を解決しないことには、今後の仕事すべてに支障が出る。
そう理解したデレは、何とかして姉を普段の状態に戻せないかと計算を始めた。


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898 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 20:37:06 ID:nnePnEts0


ζ(゚、゚*ζ「……そんなに気になるなら、行ってみたら?」


――そして、計算の末に出されたのは、こんな言葉だった。


ξ;゚听)ξ「で、できるわけないじゃない。仕事中なのよ」

ζ(^ー^*ζ「ところがー、ここに流石邸へのお仕事があるんですー!
       流石邸の妹者お嬢様に、特別製のお菓子を手配!です」

ξ゚听)ξ「……あ」


デレの言葉に、ツンは不意をつかれたように声を上げた。
彼女の表情に驚きの色が浮かぶ。しかし、それはすぐに喜びの表情へと変わる。
それを好機とみたデレは、ツンの背中を押すように言葉を続ける。


ζ(゚ー゚*ζ「お姉ちゃんも、妹者お嬢様に何か用意してたよねー。
       それに、妹者お嬢様なら、兄者さんや弟者さんについてきっと知ってるんじゃないかなー?」

ξ*゚听)ξ「そっか、そうよね!!」


そう言うが早いが、ツンは棚から伝票を取り出すと凄まじい速さでめくりはじめる。
そして、お目当ての項目をみつけると、店の奥へと向かって駆け込んでいく。
出かけるための準備をしているのだろう。デレはそんなツンに向けて、イタズラっぽい笑顔を浮かべた。


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899 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 20:39:46 ID:nnePnEts0


ζ(゚ー゚*ζ「そうだ、お姉ちゃん!
       行くなら兄者さんに、今度一緒にお食事でもって伝えておいて」

ξ;゚听)ξて「まさか、デレ。本当に、バカ兄者に惚れ」

ζ(^ー^*ζ「ちがうってー、私と兄者さんと、弟者さんと。それからお姉ちゃんで行くの。
        うちのお姉ちゃんにこんなに心配かけたんだもの、兄者さんにはこれくらい奢ってもらわないと」

ξ゚听)ξ「……」


ツンはデレの言葉に、考えこむように足を止めた。
デレの位置からはツンの表情は見えない。
だけど、ツンが笑顔を浮かべたということが、デレにはなんとなくわかった。


ξ*゚听)ξ「そうね」


ツンの頬が、赤く色づく。
この砂漠には珍しい白い肌と相まって、彼女は何よりも魅力的だった。


ζ(゚、゚*ζ.。oO(お姉ちゃんって、けっこう面倒な性格だよね。やれやれ)


ツン=デレ商会から荷台を抱えたツンが外へと飛び出していったのは、それからほんの少ししてからだった。


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900 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 20:41:47 ID:nnePnEts0

  _
( ゚∀゚)「よう、ツンちゃん。今日はこれから遊びに行くの?」

ξ゚听)ξ「仕事よ、仕事!」


知り合いへの挨拶もそこそこに、彼女は歩き始める。
ツンの歩みは、はじめはゆっくりと。しかし、その足は徐々に早まり、とうとう走り始める。


( `ハ´)「おじょーちゃん、ウチの香辛料買うよろし!」

( ゚∋゚)「ヤキトリ クエ」

J(*'ー`)し「カーチャン特製、手作りパンもあるからねー」

从;'ー'从「ふぇぇー」


朝最後の稼ぎどきとばかりに盛り上がる露天の数々を抜け。
職人街の脇を駆け抜け、湖のすぐそばを通り過ぎるが、彼女の足はその速さを緩めない。


ξ*゚听)ξ「今度あったら、とっちめてやるんだから」


――目指すは流石邸。
腐れ縁の兄弟と、その妹の元へと彼女は急ぐ。


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901 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 20:43:37 ID:nnePnEts0
――――――――――――――――


“流石”の街から少し離れた、小さな町。
湖はない代わりに、大きな井戸がいくつかあるその町で一人の男が声を上げた。


<#ヽ`∀´>「アイゴー!!
       何でウリがかくも艱難辛苦をぉぉ――!!!」


そこは、東方の料理を出す食堂だった。
男とその連れの少女は、路銀を稼ぐべく昨夜からここでお世話になっていた。
叫び声を上げる男――ニダーの手には、湯気を立てる竹製の蒸籠が握られている。


(゚A゚# )「ニダやんうっさい!!」

ΣΓ<`Д´*;>Γ 「アイヤー!!」


少女の頭につけられた、真新しい花の飾りがきらりと輝く。
よく似合っている、とニダーが思ったその瞬間。少女の体から、ニダーめがけて蹴りが放たれていた。
宙を浮いた彼女の体は、見事にニダーの尻に強烈な一撃を加える。





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902 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 20:45:33 ID:nnePnEts0


(゚A゚* )「そないしゃべらはったら、お客さんたちに迷惑やろ!」

<`Д´*;>「のののののーちゃん!!」

(゚A゚# )「ウチらはろくな荷物もお金もないんよ。ここクビになったら、どないしはる気?
     大事なお金で、こないな花飾りなんて買うなんて、ニダやんはほんまにアホやなぁ」


昨日、襲いかかったはずの弟者に返り討ちにあった彼らは、この小さな町にたどり着いた。
大きな井戸のあるその町は小さかったが、それでもしっかりと施設がそろっている。
そこでニダーが真っ先にしたのは、髪飾りをのーへと買い与えることだった。
弟者によって壊されたのーの髪飾り。それによく似た花の飾りをニダーは選んだ。


<;ヽ`∀´>「アホってウリをそんな、無為無能、無芸無能の無知蒙昧みたいに」

(゚A゚* )「そんなむつかしいこと言わはっても、ウチはごまかされんよ」


それは、のーを守り切れなかったことに対する、彼なりの謝罪の気持ちだった。
のーも、それに気づいていたのかもしれない。
ニダーの無計画さを叱りながらも、贈り物の髪飾りを大切そうに身につけ続けている。


.

903 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 20:47:54 ID:nnePnEts0


(゚A゚# )「はよ、お客さんにこれ運ぶ!」

<ヽ`∀´>「ううっ……なんでウリがこんな薪水之労を……」

(゚A゚* )「ニダやんがアコギなことばっかしとるからや。
     これにこりたら、まっとうな仕事をせんとあかんよ」


東方の民は同胞には、寛容だ。
しかし、いつまでろくに働こうとしない者をいつまでも養ってくれるほどは甘くない。
ここから先の生活は、自分たちの力で成り立たせなければならないのだ。


(゚A゚* )「……あれが外れたら、まだいいお金になったんやけど」

<ヽ`∀´>「のーちゃん……」

( A  )「堪忍な、ニダやん」


少女の裾の下では、水晶がはめ込まれた腕輪が輝いている。
魔力を封じるこの銀の腕輪は、彼らが何を試しても外れなかった。
これがあるかぎり、のーは普通の少女と変わらない。魔法の使えない彼女は、単に口が達者なだけの足手まといだ。


<ヽ`―´>「……」

( A  )「ウチがいなければ、ニダやんはもっと楽に」


.

904 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 20:50:07 ID:nnePnEts0


<ヽ`∀´>「……ウリを見くびるのはのーちゃんでも、許さんニダ。
      ウリは才気煥発、全知全能の天才ニダ! ウリ一人でものーちゃんくらい、養えるニダ!!」

( A゚*)「……」


ニダーの手が、のーの頭に置かれる。
そのままぐりぐりと撫で回すと、あちちと声を上げながら蒸籠を抱え直す。


<ヽ`∀´>「ウリはウリのしたいことしかしないニダ!
      のーちゃんがなんと言ったって、絶対についてきてもらうニダ!!」

(゚A゚* )「ニダやん……」

<*ヽ`∀´>∩「まず手始めに、伝説の料理人としてのし上がるニダ!
        そうと決まったら、誠心誠意働くニダ!!」


のーが笑顔を浮かべるのを、ニダーは満足そうな顔で見た。


( ;曲;)「いい話じゃねぇか」

(;TДT)「……饅頭冷めてる」


小さな町の昼下がり。
元盗賊の男と、魔法使いだった少女の話は、まだまだ続きそうだ。


.

905 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 20:52:12 ID:nnePnEts0
――――――――――――――――


ソーサク遺跡の最奥部。
草がなびく草原に、幾人もの人影が集まっていた。
人影の中にはギコの他に、しぃやでぃの姉妹の姿もある。


(*゚ー゚)「ギコくん、こっちをお願い」

(,,゚Д゚)「わかった。ちょっと待ってろ!」


ギコは掛け声を上げると、岩を持ち上げる。
その岩の固まりは、ゴーレムの欠片だ。
見た目はただの岩と変わりないが、それが動き出したらどうなるかは考えるまでもなく明らかだ。


<_フ;゚ー゚)フ「重い」

(;=゚ω゚)ノ「しっかりだよぅ!」

('(;゚∀゚∩「……つかれたよ! たよ!」


ギコと同時に岩を持ち上げた男たちが、呻き声をあげる。
それを見て、しぃは少しだけ苦笑いを浮かべた。


(#゚;;-゚)「これが……動いた……の?」

(*゚−゚)「ええ、そうみたい」


.

906 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 20:54:53 ID:nnePnEts0


彼らは今、ソーサク遺跡にそびえ立つ神殿の再調査に来ていた。

ソーサク遺跡の中でも神殿と呼ばれる第一史跡は、真っ先に調査対象となった遺跡だ。
この最奥の間にもこれまで何度も調査の手が入り、大体調査し尽くしたと思われていた。
しかし、その考えは、昨日の兄者と弟者の一件で大きく崩れた。


(# ;;- )「……こんな、……こわいこと、……あったなんて」

(;=゚ω゚)ノ「で、でぃさんのせいじゃないよぅ」

('(;゚∀゚∩「でぃちゃん、元気だすよ! だすよ!」


そして、本日改めて調査した最奥の間は、かなり荒れ果てていた。
部屋の中にはゴーレムの欠片が散乱し、土や草は踏み荒らされ、血が染み込んでいる。
焼け焦げた最奥の壁、祭壇の周辺は割れた壺や燭台が散乱し、床に描かれた図式が刃物でめちゃめちゃにされている。

……神殿に据えられた鏡も壊されていたが、こちらについては弟者がやったと事前に聞いていたため、ギコもしぃも特に口にはしなかった。


<_フ;゚Д゚)フ「巻き込まれたの、母者様の息子だろ?
          すげぇ。母者様だけじゃなくて、息子も腕が立つんだな」

(# ;;- )「……」



.

907 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 20:56:47 ID:nnePnEts0


<_プー゚)フ「大丈夫だって、でぃちゃん。
        笑いながら帰ってったんだろう? しかも、竜に乗ってとか。大した野郎どもだぜ」

(# ;;- )「……でも、……私、……弟者さんにここは怖くない……って。
     それに、……ギコさん連れて行ったの……私っ」


沈み込んだでぃをなぐさめるように、調査隊の仲間たちが声を上げる。
だけど、でぃの言葉は弱々しく今にも泣き出さんばかりだ。


(,,゚Д゚)「元気を出せよ、でぃ。あんなことが起こるなんてだれも予想できん。
     大体悪いのはお前じゃなくて、どっちかって言うとあのクソ女の方で」

(*^ー^)「ギコくん?」

(,,;゚Д゚)「だってそうだろ? あの女のワガママさえなきゃ、俺だっていっしょに遺跡へ……」


(=゚ω゚)ノ「ギコはこーんな岩のかたまりと戦えるのかよぅ」

(,,; Д )「ぐ」


ギコはごにょごにょと言葉を返そうとしたが、思わぬ所から飛んできた声に声を失う。
悔しそうな表情を浮かべ、言葉を投げかけてきた相手――ぃょぅを睨むが、笑い声で返されてしまった。


.

908 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 20:59:04 ID:nnePnEts0


(,,;゚Д゚)「でもだな、オレがいるといないじゃ」

(*゚ー゚)「――ところで、ギコくん。
     でぃから聞いたんだけど、姉者に言われた『例のこと』って何かしら?」

(,,;゚Д゚)「え、あ?」


なおも何かを言おうとしたギコの言葉は、しぃの声によって遮られた。
しぃは普段と同じ穏やかな表情で話しかけている。口調だって普段と変わらない。
しかし、その声だけは刺々しかった。


(*^ー^)「ギコくん。何か隠していることがあるなら、私に教えてほしいなぁ。
     それとも、私たちには言えないことなのかしら?」


しぃは笑顔を浮かべた。
元から柔らかい印象のある彼女だが、笑みを浮かべると表情が幼くなり、柔らかい印象がさらに強くなる。
が、彼女がたった今浮かべている表情は、なぜかその柔らかさが見えない。
一体何故だろうと考え……、


(*^ワ^)「ねぇ、ギコくん」


ギコは悟る。……これは、怒っているときの顔だ。
しぃは確実に怒っている。そして、怒りだした女は大抵、手に負えない。


.

909 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 21:01:13 ID:nnePnEts0


(#;゚;;-゚)「……お姉……ちゃん……?」


姉の異変に気づいたのか、でぃは恐る恐る声を上げる。
しかし、しぃは妹に対して何の答えを返さなかった。
しぃの足元で、じゃりりと地面が音を立てる。



(,,;゚Д゚)「……」

(*^ワ^)「……」


('(゚∀゚∩「どうしたのかな? かな?」

<_フ;゚ー゚)フ「ちょ、なおるよは黙ってろって」


しぃとギコは無言で黙りこむ。
なぜだか知らないがしぃは怒っている。しかし、だからといって自分の秘密を暴露するほどギコは思い切りが良いわけではない。
そもそも話すにしても、これだけ人がいるとなると話せるものも話せない。

どうする、どうする俺!!――ギコはそう悩んだ末、


(,,;゚Д゚)「そ、そ、そういえばラクダの具合はどうだったかなー」


戦略的撤退を選択した。


.

910 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 21:03:13 ID:nnePnEts0

(#;゚;;-゚)「あ、……アラマキさんと、ナカジマさんなら……」


突然、ラクダと言い出したギコに、でぃは小さく声を上げる。
家畜の世話はみなで交代をしてやっているが、その中でも一番頻度が高いのが動物好きのでぃだった。
特に荒巻と、中嶋の二匹は昨日でぃが預かったばかりだ。彼らの様子ならば、でぃが一番詳しかった。


(,,;^Д^)「いやー、ちょっと様子でもみてこようかなぁ。
      あのがめついクソ女のことだから、ウチのラクダ返せって言いかねんからゴルァなー」

('(゚∀゚∩「わざとらしいよ! らしいよ!」

<_フ;゚ー゚)フ「あんにゃろ、逃げる気だぞ!」

(;=゚ω゚)ノ「つかまえるんだょう!」


ギコは言うが早いが、岩を放り投げ走りだした。
しぃや、仲間の男たちがギコを止めようと声を上げるが、ギコはそれを振り切り扉へ向かって駆け出す。
彼の足元で草が揺れ、涼しい風がギコの青い毛並みを揺らしていく。


(*゚ 、゚)「もう。逃げても、また後で顔を合わせるのに……。
     良くも悪くも正直なのよね、ギコくんって」


ギコの姿はもう扉の向こうへと消えていた。
ギコを追いかけて何人かが仕事を放り投げて出て行ったが、きっとギコには追いつけないだろう。


.

911 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 21:05:29 ID:nnePnEts0


(#;゚;;-゚)「……あのね、……お姉ちゃん」

(*゚ー゚)「ん? どうしたの、でぃ?」


扉に向けて軽く溜息をつくしぃに、でぃは恐る恐る声を上げた。
でぃにとって姉は、誰よりも綺麗で優しくて、そして引け目を感じる存在だ。
だから、でぃはしぃに話しかけようとすると、なかなか上手く声が出せない。
しぃだけではない。でぃはいつだって、人とうまく話すことが出来ないのだ。


(#゚;;-゚)「……ギコさん……ゆるしてあげて……」

(*゚ー゚)「どうして?」

(# ;;- )「……ギコさんは、……私を、……かばって……くれただけ……」

(*゚ー゚)「……そう?」

(#; ;;- )「そう。……それに、……お姉ちゃんも」


しぃはでぃの途切れ途切れの言葉を、聞いていた。
相槌をはさみながら、それでも急かすこと無く、彼女はただ妹の言葉が続くのを待った。
何度も言葉をつまらせながら、でぃは懸命にしぃへと訴えかける。


(#; ;;- )「……私が元気ないから……話、変えてくれた……ん、だよね…」


.

912 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 21:07:04 ID:nnePnEts0


でぃの言葉に、しぃは笑顔を浮かべる。
その表情はギコに向けていた時よりもずっと柔らかく、優しい瞳をしていた。


(*^ー^)「さあ、どうかしら?」

(#゚;;-゚)「……ありがとう、お姉ちゃん」

     
(*^ー^)ノ( ー;; #)


しぃは返事をする代わりに、妹の頭を撫でた。
でぃの口元がかすかに緩み、ぎこちない笑みを浮かべる。それを見て、しぃはさらに微笑んだ。


(#゚;;-゚)「あのね……私も、……アラマキさんのとこ、……行っていい?」

(;゚ー゚)「うーん。ギコくんも、エクストくんたちも行っちゃったから、しばらくは休憩のつもりだけど。
    ……でも、急にどうしたの?」

(#*゚;;-゚)「……みんなにね……庇われるだけじゃなくて……自分もがんばりたい、の。
     それに……兄者さんと弟者さんに、……アラマキさんたち頼まれたの……私、だから」


たどたどしいけれど、真剣にでぃは告げる。
緊張と興奮で顔を赤らめた彼女は、姉によく似ていた。


.

913 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 21:09:16 ID:nnePnEts0




神殿と呼ばれる建物から外に出た先。
調査隊が本部として利用する天幕から少し歩いた場所で、ラクダやロバは飼育されていた。
しぃの追求や、追いかけてきたエクストから見事に逃げ切ったギコは、一息つくとターバンを整えた。


( "ゞ)「よう、ギコ。どうした?」

(,,;゚Д゚)「どうしたもこうしたもあるか。いろいろ言われるから逃げてきた。交代だ交代!」
  _,
( "ゞ)「サボりの片棒は勘弁なんだが」


調査隊の一員でもある男はギコに悪態を付きながらも、大して不機嫌そうな様子ではなかった。
それどころか上機嫌な様子で、「後は任せた」と声を上げると、ギコが来た神殿の方に歩き始めた。


(,,゚Д゚)「俺はどっからやればいい?」

( "ゞ)「餌やっといて」

(,,;-Д-)「わかった。お前があっさり、交代するはずだ」


ソーサク遺跡には家畜の数が多い。
調査隊の面々の移動手段や運搬役として連れてきたものもいるが、大半は遺跡を調査するための条件として飼育しているものだ。
本部のそばに植えている植物同様、環境調査の一環らしいが、その数は増えに増え世話も大変になってきている。


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914 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 21:11:40 ID:nnePnEts0


( "ゞ)「あとは任せた」

(,,-Д-)「へいへーい」


男――デルタを送り出すと、ギコは並ぶラクダやロバの群れを眺めた。
威嚇しあったり、座り込んで眠っていたり、繋がれた紐から逃れようと動きまわったりと、家畜たちは思い思いの行動をとっている。
こいつら全部に餌をやるのかと、ギコは内心うんざりする。が、交代するといった以上は、サボるわけにも行かない。


(,,゚Д゚)「えっと、あらまきと、なかじま?……だったか?」


ここにいる家畜には識別表が付いている。
しかし、兄弟から預かった二頭のラクダにはそれが無いはずだ。
ギコはラクダたちに視線を走らせ、そして見つける。

荒巻と、中嶋。

二頭のラクダは、ラクダの中でも一際温厚そうな顔つきして、地べたに座り込んでいた。
そして、何をしているのかといえば、のんびりと眠りこけている。


(,,゚Д゚)「おーい、お前ら元気かー? 死んでないかー?」

/ ,' 3


ギコの声に、荒巻のほうが軽く目を開ける。
彼もしくは彼女は、しばらくギコの姿を眺めていたが、すぐに興味をなくしたかのように再び瞳を閉じる。



.

915 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 21:13:36 ID:nnePnEts0


(,,゚Д゚)「ま、死んではないみたいだな」


荒巻と中嶋は死んでないどころか、大いに暇を楽しんでいるようだ。
ざっと見た限りでは、おとなしい気性のようだし、他のラクダたちとも上手くやっていけるだろう。


(,,゚Д゚)「まぁ、気楽にやれや」


ギコはそう呟くと、空を見上げる。
最奥の間の柔らかい日差しと違って、外の日差しは暴力的なまで強い。
そんな日差しに焼かれながら、ギコはどうやってしぃをごまかそうと考え始める。


(,,;-Д-)「しぃのヤツ何が、『何か隠していることがあるなら、教えてほしいなぁ』だよ。
      言えるわけねぇだろうが、……」


(,,* Д)「しぃが好きだなんて……」


ボソリと呟いた、ギコの顔は赤い。
他人から見れば大したことのないことだが、ギコにとっては一世一代の問題だった。
できればしぃと所帯を持ちたいギコにとって、彼女への愛の告白はその後の人生を左右するものだ。


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916 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 21:15:32 ID:nnePnEts0

なのに、だ。

姉者はよりにもよって、ギコの一生の問題を、からかいのネタとして事あるごとに持ち出すのだ。
むしろ、この話をチラつかせれば、ギコが何でもいうことを聞くと思っているフシすらある。
それはギコにとって、どうしても我慢ならない事だった。


(,,;Д;)「畜生、俺のこの思いを散々弄びやがって」


姉者=流石。
あの女は悪魔だと、ギコは思う。
どれだけ乳がでかかろうが、腰は細いのに肉付きのいい尻と、むっちりとした太ももをしていようが、そんなのギコには関係ない。

そりゃあ、あの女の本性を知らないガキだった頃は、たしかに騙されかけたこともある。
しかし、そんなことは知ったことか。


( ,'3 )


荒巻が、そして中嶋が迷惑そうに鳴き声を上げたが、ギコの言葉は止まらない。


(,,#゚Д゚)「あのクソ女ぁぁぁぁぁっ!!!!!」


ソーサク遺跡の只中、砂埃によってくすみながらも、なお青い空にギコの声が響いた。


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917 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 21:18:16 ID:nnePnEts0
――――――――――――――――


∬´_ゝ`)「――何か今、妙な声が聞こえたような気がする」


“流石”の街で一際目を引く建物、流石邸の一角で女は呟いた。
波打つ豊かな髪に豊満な体つきをした彼女は、街を切り開いた女傑・母者=流石の最初の子供である。
名は、姉者=流石。兄者と弟者。そして、妹者の姉である彼女は、兄弟によく似た面差しの顔を少しだけ曇らせた。


|゚ノ ^∀^)「どうかしましたか〜、姉者様?」

∬´_ゝ`)「なんでもない。どうせ大したことじゃないわ」


彼女に声をかけたのは、金の髪に赤い髪留めをした女性だった。
レモナという彼女は、兄弟の妹である妹者の家庭教師を勤めている。
明るい顔をした彼女の頭の上で、白い猫の耳がピクリと揺れる。そんな彼女に向けて、姉者は声を上げた。


∬´_ゝ`)「そうだ。今日の午後からの、家庭教師はお休みね」

|゚ノ ^∀^)「あら、そうですか。いかがいたしました?」

∬´_ゝ`)「ああ、別に何か起こったわけでも、貴女の仕事ぶりに不満があるわけではないの」



.

918 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 21:21:46 ID:nnePnEts0


姉者の刺のある口ぶりに、レモナの表情が心なしかこわばる。
ともすると鋭い言葉を放つのは、姉者の悪い癖だった。
その傾向は、彼女と親しくなればなるほど強くなっていっている気がする。


|゚ノ;^∀^)「……そうでしたら、よいのですが」

∬´_ゝ`)「あら、ごめんね。本当に他意はないの」


姉者の真意を読み取ろうと、レモナは表情を引き締める。
しかし、彼女の顔は平然とした表情のままで、何の感情も読み取れない。


|゚ノ;^へ^)「ほんとですか?」

∬´_ゝ`)「ええ、本当よ」


レモナが恐る恐る口にした言葉は、姉者にある変化をもたらした。
姉者の口元が緩み、その顔に柔らかな笑顔が浮かんだのだ。
その笑顔に、レモナは今度こそ本当に息を呑んだ。

……姉者は普段、母者の後継者としての勤めからなのか、あまり感情を表情に出そうとはしない。
しかし、その時の彼女は本当に嬉しそうに、無邪気な子供のように笑って告げた。


∬*´_ゝ`)「だって今日は、妹者の――」


.

919 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 21:23:22 ID:nnePnEts0
――――――――――――――――


“流石”の街を取り仕切る役場は、火でも出たかのような大騒ぎだった。
大商隊こそ出立したものの盗賊への警戒や、天候悪化の場合の対処は絶やせない。
商隊が持ち込んだ物資の流通や、周辺の町への分配、通常業務への切り替えと、考えなければならないことも多い。

仕事はいくらでもあった。
しかし、それ以上に忙しさに拍車をかけているのは、ひとえに母者側の事情によるものだった。


 @@@
@#_、_@ 
 (  ノ`) 「今日は誰がなんと言おうとも、さっさと帰るよ!」


母者はこともあろうに、この状況の中で帰ると言い放ったのだ。
普段ならば、この役場には流石夫妻か姉者のうち誰かが滞在するようになっている。
しかし、今日に限っては流石家の者は誰も役場には残さないと言い放ったのだ。


(;´・ω・`)「これを夜までに片付けろなんて無理ですよぉぉ!!!」


母者の言葉が嘘ではないと示すように、共に朝まで働いていた姉者はすでに流石邸へと戻ってしまっている。
その中でもなんとか役場は動いていたが、とうとう忙しさに精根尽き果てたように、青年が嘆きの声を上げた。
困ったように下がった眉をしたこの青年は、若くして母者の仕事を支える補佐官の一人である。


.

920 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 21:26:13 ID:nnePnEts0


 @@@
@#_、_@ 
 (  ノ`) 「いいから手を動かしな!! 何のために、昨日休みをくれてやったんだい!!」

(;´・ω・`)「わかってますけど、無理なものは無理です!!」

(`-ω-´)「諦めろショボン。そんなことで、母者様が止まるはずがないだろう。
       儂らはおとなしく、街のために働くのみだ」

(;´-ω-`)「……父上」


なおも無理だと言い募る青年の肩を、よく似た面差しの年かさの男が叩く。
青年の父親でもある彼は、街の成立当初から母者を支える重鎮だった。
父親に諭されて、青年は半ば泣きながら仕事へと舞い戻っていく。


(;´-ω-`)「昨日はせっかく精霊様を見たっていうのに、ついてない」

(`・ω・´)「ショボン、次はこっちの書類だ!」

(´;ω;`)「はーい」


泣きながらも書類仕事をこなす青年や、他の役人たちの姿を見て、母者は大きく溜息をついた。
ここで働く者達は仕事ぶりは悪くはないのだが、根性のない者が多い。
これが文官のさがというものだろうかと考えてみるが、母者にはいまいち理解の及ばない領分だった。


.

921 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 21:28:45 ID:nnePnEts0

 @@@
@#_、_@ 
 (  ノ`) 「まったく。あたしらがいないと仕事の一つや二つ片付けられないっていうのかい」

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「母者さん、落ち着いて。
      みんな疲れちゃってるだけなんだよ」


そう漏らした母者をなだめたのは、彼女の夫である父者だった。
母者はその声に、じっと父者を睨みつけはじめた。
母者はこの街を作り上げた立役者であり、並みの兵士じゃ太刀打ちできないほどの腕の持ち主だ。
父者もそれは身にしみている。だから、彼女に睨みつけられるとわけもなく緊張するのが、彼の長年の習性だった。


 @@@
@ _、_@ 
 (   ノ`) 「……」

.彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「ど、どうしたのかな。母者さん……」


夫を睨みつけたまま何も言おうとしない母者に向けて、父者は恐る恐る声を上げた。
父者の顔色は悪く、その声はみっともないまでに震えていたが、それを笑うような輩はこの場にはいなかった。
彼らにとっても母者は頼りになる主であると同時に、恐ろしい存在なのであった。


.

922 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 21:30:28 ID:nnePnEts0


 @@@
@ _、_@ 
 (* ノ`) 「ダーリン。あんたって人は、本当にやさしいね」


そして、母者は沈黙の末にそう言った。
彼女の声は甘く、瞳も熱く潤んでいる。どうやら彼女は夫を睨みつけていたのではなくて、単に見惚れていたようだ。
母者のその言葉に、懸命に仕事をこなしていた何人かが、ぎょっとしたように目をむいた。


.彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「母者さん。ダーリンっていうのは、せめて二人っきりの時くらいに…… ヒトガミテルシ」


(´゚ω゚`).。oO(ダーリン!? ダーリンって)

(;`-ω-´)「息子よ。何が言いたいかはわかるが、決して口にはするな」

ハハ;ロ -ロ)ハ「……父者様スゴイ方、思マス」


彼らの驚きは、母者の「ダーリン」という言葉を父者自身が否定しなかったことによって、頂点に達した。
もはや仕事の手はとうの昔に止まっている。
黙り込んだ一同の心に浮かぶのはみな同じような言葉だったが、幸いな事に母者は気づかなかった。


.

923 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 21:32:05 ID:nnePnEts0


 @@@
@ _、_@ 
 (* ノ`) 「やだよぅ、恥ずかしいじゃないかい!」

.彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「は、はは……」


父者は妻の言葉に乾いた笑いを上げるが、助け舟を出すものは誰もいない。
誰もが流石の街を支配する女傑の、意外な姿に言葉を失っている。


 @@@
@#_、_@ 
 (  ノ`) 「にしても、いつになったら一段落つくのかねぇ。
       あたしゃさっさと帰りたいよ」


母者はひとしきり父者の背をバシバシと叩くと、ため息をついた。
もうそこには、少女のように顔を赤らめていた先ほどまでの面影はない。
母者は戦場に立つ武人のように毅然とした面持ちで、そこに立っている。


 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「大丈夫。みんなで力を合わせれば絶対にできるよ、母者さん」

 @@@
@ _、_@ 
 (   ノ`) 「そうだといいんだがね」


.

924 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 21:34:10 ID:nnePnEts0


母者は腕を組んで唸り声をあげる。
言葉だけ聞くと諦めているようにも見えるが、彼女の立ち姿は誰よりも自信に満ちていて、諦めなど微塵も感じられなかった。


 @@@
@#_、_@ 
 (  ノ`) 「まあ、無理だと言われたって帰るんだがな」

.彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「それはもうちょっと頑張ってからにしよう、母者さん」


父者が恐る恐る上げた声に、母者が「がはは」と笑い声をあげた。
ひとしきり笑うと、母者は「わかってるよ」と声を上げ、書類に印章を押した。


 @@@
@#_、_@ 
 (  ノ`) 「アタシが仕事放り投げたとあっちゃ、大騒ぎだからね。
       こうなったら意地でも終わらせて、晩までには帰るよ」

 彡⌒ミ
(*´_ゝ`)「そうだね、母者さん。だって、今日は――」


父者の嬉しそうな声が、部屋に響く。
その言葉は慌ただしい役場の中に一時の癒やしをもたらしたそうだが、真偽は明らかではない。



.

925 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 21:37:25 ID:nnePnEts0
――――――――――――――――


“流石”の街でも、盗賊だった男と魔法使いだった少女がいる町でもない、どこか。
そこに、女が一人立っていた。


川 ゚ -゚)「ふむ」


肌を覆い隠すゆったりとした濃紺色の服に、そろいのヴェール。
流れる黒髪は絹のように艷やかで、瞳は夜空を切り取ったような漆黒。
顔の半ばを隠しながらも、それは美しい女だった。


川 ゚ -゚)「大団円というやつだな。いささかつまらん結末だ」


“流石”の街よりも遥かに大きくて華やかな町並み。
人であふれる市の雑踏の中に立ちながらも、彼女の周りはひどく静かだった。
これだけ美しい女ならいくらでも人目をひきそうなのに、誰ひとりとして彼女に目を留めるものはいない。


川 - -)「せっかく魔力封じをくれてやったのに、あんなつまらん使い方をするとはな。
      まったく、期待はずれもいいところだ」


女は全てを見ていたかの様に語る。否、彼女には全てが見えていた。
彼女の首元や手元を彩る銀の装飾品が揺れる。
その中の一つ。静かに光を放つのは、彼女が弟者に手渡し、盗賊の少女に嵌められた腕輪と瓜二つだ。

魔神の持ち物とも呼ばれる腕輪。
それが、彼女の腕の中でひっそりと輝いている。


.

926 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 21:39:16 ID:nnePnEts0


川 ゚ -゚)「魔力で動くゴーレムは、魔力封じを使えば瓦解する。
     使いようによっては、魔力を食う砂クジラにも対抗できただろうに、あいつらは」

川  - )「まぁ。一番面白い使い道は……」


腕輪を撫でていた女の口元が釣り上がる。
くつくつと声を上げて笑うが、誰一人として彼女に目を留めるものはいなかった。


川 ー )「あの半分が片割れに使っていたら、だな。
     アレの存在は不安定だ。外部から強い干渉を加えれば、どう崩壊したか」


女は笑いながら、露天に飾られた鏡へ触れる。
客が商品に触れたというのに、店主は素知らぬ顔であらぬ方向を見ている。
まるで、女の存在そのものが見えていないようだった。


川 ゚ -゚)「まあ、いいさ。退屈しのぎにはなった」


気づけば、女の姿は消えていた。
単に人混みに紛れたのか、それともどこかへ去っていったのか。
あとに残るのは市の賑やかな雑踏と、露天に飾られた鏡だけ。


飾られた鏡。
――その鏡面がちゃぽんと揺れたことに、気づいた者はいない。


.

927 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 21:41:18 ID:nnePnEts0


――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――





そして、流石邸の一角。
中庭を望む露台の上に、彼ら兄弟はいた。




.

928 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 21:43:58 ID:nnePnEts0

体の色と背格好以外は、全て一緒の双子の兄弟。
魂を共有する、できそこないの一人。


( ´_ゝ`)


片や、肉体的には二歳年下となる兄、兄者=流石。
寝間着同然の格好をした彼は、薄水色の毛並みを風になびかせながら長椅子に横になっていた。


(´<_` )


もう一人は、片割れを自分と解する弟、弟者=流石。
兄とは対照的に、豪奢な服をきっちりと着た彼は、背を伸ばして椅子に座っていた。


l从・∀・ノ!リ人


そして、そんな彼ら二人のそばを動きまわる青い髪の少女は、妹者=流石。
まだ十にも満たない彼女は、彼ら双子の最愛の妹であった。


.

929 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 21:45:34 ID:nnePnEts0


秋になったとはいえ、まだ鋭い日差しは、じりじりと体を焦がしていく。
それでも風の通る日陰にいれば、熱も少しずつ引いていく。


( -_ゝ-).。oO


昨夜から今朝にかけて、“流石”の街に住む男たちは総出で夜通し働いていた。
それは、兄者も弟者も例外ではない。
だから、横になっていた兄者の瞳が徐々に落ちはじめたのは、仕方の無いことだった。


l从・∀・#ノ!リ人「おきるのじゃー!!!」


といっても、この小さな妹にそれは通じなかった。
昨日、弟者と遊びそこねた妹者は、今日一日、大好きな兄たちと遊べるはずだった。
しかし、急遽決まった大商隊の出立という一大行事によって邪魔されてしまった。
結局、妹者が兄たちとちゃんと顔を合わせることが出来たのはようやく昼に差し掛かるというこの時間で、彼女はひどくご立腹だった。


l从・д・#ノ!リ人「おーきーるーのじゃー」


(く_゚(⊂(<_`#) ドゲシ


.

930 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 21:47:57 ID:nnePnEts0


弟者の拳が、もう半ば夢の国へと入りかけていた兄者を殴りつける。
その衝撃で、兄者は慌てて跳ね起きた。


(;´_ゝ`)>「え、え、何で殴られてるの俺?!」


ヾ(#`_ゝ´)ノ「もうちょっと寝かせてくれたっていいじゃないか、弟者のケチ!」

(´<_`#)「妹者の前でよく寝れたものだな」


l从・∀・#ノ!リ人「妹者はぷんぷんなのじゃー!!」


( ´_ゝ`)て


不満の声をあげようとしていた兄者の表情が、妹者の声に凍りつく。
兄者の耳はしょんぼりと下がり、顔の前に掲げた両手はぶるぶると震える。
その末に、なんとか妹に向けた声は情けないほどに震えていた。


(ノ;´_ゝ`)ノ「と、時にもちつけ妹者。話し合えば分かり合える」

(´<_` )「落ち着いてないのは、兄者の件について」


.

931 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 21:49:34 ID:nnePnEts0


(;´_ゝ`)「昨日はあれから母者と姉者相手にラスボス戦をやって、それから徹夜で星読みで寝てないんだぞ。
      っていうか、アレだけ必死だったゴーレムちゃんの後に、まだラスボスがいるなんてこの世は地獄か」


兄者はまるで言い訳のように昨夜の出来事を話す。
竜――ピンクたんに乗って街まで帰って来れたのまではよかったが、そこから先が大変だった。
庭への立ち入りと、花を踏みつぶした件と、妹者への口止め。それから、無断で遠くまで外出したこと。
それに加えて、ギコやしぃに迷惑をかけ、遺跡をめちゃめちゃにしたことまでもがバレてしまい、兄弟は母と姉から折檻を受ける羽目になった。

兄者にとっては、夜通しの仕事よりも母者や姉者と対峙することの方が辛かったのだが、それを言い出すと家にいる姉者に聞きつけられかねない。
なので、兄者はぐっと堪えることにした。


l从・〜・ノ!リ人「妹者も母者たちに怒られたからいっしょなのじゃー」

(;´_ゝ`)「怒ら……そうか」


昨夜の地獄と姉者に思いを馳せていた兄者は、妹者の声にはっとする。
そうだ。この妹は、自分が軽い気持ちでした口止めを律儀に守って、母者に叱られたのだった。


( ´_ゝ`)「ごめんな、妹者。俺が余計なこと頼んだばっかりに、」



ヨシヨシ( ´_ゝ`)ノl从>〜<*ノ!リ人 キャーナノジャー



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932 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 21:52:12 ID:nnePnEts0


l从・∀・*ノ!リ人「なでなでされたし、あやまってくれたから、ゆるすのじゃー
         でも、次はないからカクゴするのじゃよ!」

(*´_ゝ`)「流石だよな、妹者。妹者たんマジかわいい」

(´<_` )「兄者は、本当に妹者に大甘だよな」


( ´_ゝ`)>「褒めても、何も出ないからな」


兄と妹の様子を黙って眺めていた、弟者がぽつりと言う。
妹者に甘いのは弟者自身も同じなのだが、幸か不幸かそのときの彼は気づかなかった。
一方の兄者は弟の言葉を深く追求せず、いつもと同じ表情で「えっへん」とわざわざ口に出して返事をした。
それに、弟者は「褒めてない」と言葉を返すと、大きく溜息をつく。


(´<_` )「そういえば、兄者よ。兄者は先程、寝てないと言ったな」

( ´_ゝ`)「そう。だから、お兄ちゃんは眠いというわけだ」

(´<_` )「俺は兄者が明け方、しっかり寝ていたと聞いているのだが」


<(;´_ゝ`)>「……な、なぜそれを」


兄者の言葉は、弟者の言葉を認めたも同然だった。
顔からは冷や汗が流れ、動揺しているのはどう見ても明らかだった。


.

933 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 21:54:25 ID:nnePnEts0


l从・∀・ノ!リ人「妹者なのじゃ。
         妹者はちゃんと朝お勉強したのに、おっきい兄者はひどいのじゃよー」

(-<_- )「こっちは夜通し荷物運んで、酔っぱらいをぶん殴って、人を誘導して、労働に勤しんだというのに。
      飲み会だのなんなので騒ぐ奴らを押しのけて帰るのが、どれだけ大変だったか」


(;´_ゝ`)「……」


妹と弟の言葉に、兄者はぐっと息を呑んだ。
二人の言葉はどこからどう見ても正論。兄者には返す言葉もない。


(´<_` )「時に兄者、言いたいことは?」


問い詰める側である弟者は、その表情を消した。
しかし、その顔は追い詰められた時の無表情とは違い、瞳がいたずらっぽく輝いている。
それを瞬時に見て取って、兄者はやれやれと笑った。


( ´_ゝ`)「弟者さんは、ずいぶんと楽しそうで」

(´<_` )「何のことだか」


.

934 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 21:56:21 ID:nnePnEts0



ol从・〜・ノ!リ人o「おっきい兄者に、ちっちゃい兄者ー、そろそろ妹者はあそびたいのじゃー」


妹の声に兄二人は会話を止め、全く同時に「ふむ」と頷いた。
兄者は妹者に笑顔を浮かべ、弟者の口元が少しだけ緩む。


( ´_ゝ`)「妹者よ、何をして遊びたいのだ?
      今日はこのお兄ちゃんと、弟者ができる限り相手をしてやろう」

l从>∀<*ノ!リ人「砂山つぶしっこするのじゃー」

(´<_`; )「……砂山だと」


「砂山潰し」とは、砂漠もしくは砂地でやる遊びだ。
やるためには、妹者を流石邸から連れ出す必要がある。姉者や母者がそれを許すとは思えない。
そして、兄者も弟者も昨日、無断で街の外に遠征したことで散々怒られた身。昨日の今日で遠くに出る許可はおりないだろう。

(; ´_ゝ`)「そういうのは、母者か姉者のお許しのある時にしてくれ。オレ カ ゙コロサレル
      おうちか、近場でできるものにしなさい。メッ!!」

l从・д・`ノ!リ人「えー、つまんないのじゃー」

(´<_` )「それならば、質問あてっこはどうだ? よく市場の子供がやっているぞ」


兄者を助けるように、弟者が言う。
「質問あてっこ」は、いくつか質問をして、相手の考えていることを当てる遊びだ。
この遊びならば今すぐできるし、面倒な許可も体力も必要ない。と、弟者は考えていた。


.

935 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 21:58:46 ID:nnePnEts0

l从・д・´ノ!リ人「おっきー兄者は妹者の知らないことばっか言ってイジワルするから、やんないのじゃー」

(´<_` )「……」


弟者が無言で、兄へと視線を向ける。
弟者は何も言わなかったが、兄者はその視線を受けて「ぐぬ」と奇声を発した。


( ´_ゝ`)「……時に弟者よ。視線がとても冷たい気がするのだが」

(´<_` )「気のせいだ、兄者。俺は大人げないなど思ってはいない」

(; ´_ゝ`)「思ってるんだな」


兄者の問いかけに、弟者は言葉を返さなかった。
かわりに妹者へと視線を向けると、兄者に対するのとは打って変わって優しい口調で言う。


(´<_` )「人形遊びはどうだ?」

l从・〜・ノ!リ人「人形あそびさんは一人でもできるのじゃー。
         妹者は兄者たちといっしょじゃないと、できないことがいいのじゃー」

(´<_` )「そうか。ならば、点数をつけるような遊びにするか」


(;´_ゝ`)「……あれ、俺は無視?」


.

936 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 22:00:16 ID:nnePnEts0


l从・∀・*ノ!リ人「点数……だったら、ビーズとばしっこがいいのじゃー!」

(´<_` )「ビーズが必要になるが、妹者は持ってるか?」

ol从>∀<ノ!リ人o「妹者、いっぱいもってるのじゃー!!
          持ってくるから、まっててなのじゃー!!!」


元気よく返事をすると、妹者は立ち上がる。
そのまま兄者や弟者が止めるまもなく、屋内へと走り寄っていく。


( ´_ゝ`)「流石だよな、弟者。今日の予定があっさり決まったぞ」

(´<_` )「流石に今日一日ビーズ遊びは御免こうむりたいが、とりあえずはだな」

( ´_ゝ`)b「……ところで、弟者。そろそろだと思うのだが」


妹者を見送っていた兄者が、ふいに声をひそめた。
その顔に浮かぶのは真面目な表情。それを見た弟者は、兄者が何を言いたいのか瞬時に悟る。


(´<_` )"


弟者が小さく頷くと、隣の部屋に用意していた大きな籠を露台の隅へと運ぶ。
「準備万端だな」と、それを見た兄者は呟いた。


.

937 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 22:02:33 ID:nnePnEts0




l从>∀<ノ!リ人「ビーズさんみっけたのじゃー!」


それから、しばらくして足音を立てながら妹者が現れた。
その手に抱えられた大きな袋には、ビーズが沢山入っているのだろう。
妹者は走りながらも何度も、袋を抱え直している。


(´<_` ;)「転ぶなよ、妹者」

l从・∀・ノ!リ人「だいじょーぶ、だいじょーぶなのじゃ!」


妹者は危なげなく、露台に出ると椅子に袋を置いた。
どさりという重い音がして、椅子が揺れる。
どうやら、妹者は相当張り切っているらしい。走ってあがった息を落ち着け、妹者はじっと二人の兄の顔を見た。


l从・∀・*ノ!リ人「あっそぶのじゃ、おっきい兄者にちっちゃい兄者!」

(*´_ゝ`)「おお、ご苦労だったな、妹者たん!
       ところで、遊ぶ前に一つ俺と弟者から話があるのだが」

l从・∀・;ノ!リ人「……」


話があるという言葉に、妹者の笑顔が固まる。
妹者は兄者が話しの続きをするよりも前に、妹者は両手を耳にやって首を横にふった。
そのまま、絶対聞かないぞとばかりに両目を閉じる。


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938 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 22:04:44 ID:nnePnEts0


ol从>へ<;ノ!リ人o「あそばないって話しなら聞かないのじゃ! 妹者はぜったい、あそぶのじゃ!」

(; ´_ゝ`)「いや、そうではないのだが」

l从・へ<;ノ!リ人「……だったら、聞くのじゃ」


片目だけをそろりと開け、妹者はそう口にする。
その言葉に、兄者は弟者はおかしくてたまらないと言った調子で、同時に顔を崩す。
そして、二人は言った――


( ´_ゝ`)「お誕生日おめでとう、妹者」(´<_` )


意識するまでもなく、その声はピッタリと重なっていた。
弟者が隅に置いた籠から、箱を取り出す。
そして、それをそっと妹者に手渡した。


l从・∀・ノ!リ人「これ……」


妹者はきょとんとした顔で箱を見ていたが、小さな手を動かしてそれを開く。
木で作られた小箱、その中には透き通る一輪の花が飾られていた。
ガラス細工のような花は、見つめていると色が少しずつ変わっていく。



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939 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 22:06:13 ID:nnePnEts0


それは昨日、二人がソーサク遺跡で手に入れた花だった。
ゴーレムや、弟者たちが暴れても散らなかったその花は、今は妹者の手の中で可憐に咲き誇っている。
派手さはない、可愛らしい花。
その花はどんな金細工や宝石よりも、妹者に似合っていた。


l从・∀・*ノ!リ人


妹者の頬が赤く染まる。
じっと花を眺めて、空に透かして見せて、興奮したようになんども「おぉ」と声を上げる。
キラキラと輝く瞳が、彼女が何よりもこの贈り物を気に入ったことを示していた。


l从・∀・*ノ!リ人「ありがとうなのじゃ。すっごく、すっごく」


じっと花を見つめていた瞳が兄者を、そして弟者の姿を見た。
何度も「すっごくすっごくを」を繰り返して、妹者は二人の兄にむけて言葉を紡ぐ。


l从^∀^*ノ!リ人「うれしいのじゃ!!!!」


――そして浮かんだ笑顔は、兄者と弟者の疲れと苦労を吹き飛ばすような威力だった。


.

940 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 22:08:24 ID:nnePnEts0


(*´_ゝ`)「時に弟者、我らが妹がものすごく可愛いのだが」

(´<_` )「何を言う、兄者」


(´<_`*)「言われなくても、そんなことは知っている」


兄者と弟者は顔を見合わせ、はしゃぎ合う。
その喜びようは、自分たちのほうが贈り物を受け取ったかのようだった。
そして、彼らは同時に声を上げ、お互いをたたえ合った。


( ´_ゝ`)「流石だよな、弟者」

(´<_` )「流石だよな、兄者」


( ´_ゝ`)b グッ d(´<_` )


l从・∀・;ノ!リ人「あー、妹者もやるー!! まぜるのじゃー!!!」


.

941 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 22:10:21 ID:nnePnEts0

      グッ          グッ
( ´_ゝ`)b dl从・∀・*ノ!リ人b d(´<_` )


三人で格好を付けると同時に、妹者が笑い声を上げる。
その笑い声に答えるように兄者も笑い、少し遅れて弟者も口元に笑みを浮かべる。
兄者は笑ったまま、「そうだ」と声を上げると、籠の方へと妹者を誘った。


( ´_ゝ`)「ちなみに、こっちが妹者が昨日見たがってた、魔法石板な」

l从・∀・*ノ!リ人「おおー、なのじゃ」


籠の中には二枚の魔法石板が入っていた。
兄者はそれを指さしながら、「これは水の魔法が刻まれててなぁ」などと妹者に説明する。
妹者は腕を伸ばして石板に触れようとするが、その手は兄者の手によって遮られた。


l从・∀・#ノ!リ人「なんでさわったらだめなのじゃー! つまんないのじゃ!」

(<_゚  )「……」

(;´_ゝ`)「……弟者が怒るから、見るだけなー。
      ついでに、弟者さんがすっごぉぉぉく怖い目で見てるので、俺も触ることが出来ません」

(-<_- )) コクリ


.

942 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 22:12:40 ID:nnePnEts0


l从-へ-ノ!リ人「ちっちゃい兄者のけちー」

(´<_` )「ダメなものはダメだ」


妹者の声にも、弟者は折れようとはしない。
それでも、魔法に関するものをすぐに壊そうとしていた昨日に比べると、大きな進歩だ。


(;´_ゝ`)「……弟者よー。もうそろそろ、魔法嫌いを克服するいい機会なのでは?
      魔法も、精霊も、不思議なものも怖くないぞ。うん」

(´<_`#)「兄者は、もう少し危機管理というものを覚えろ」

( ´_ゝ`)「へいへーい、わかってますよ」


ビクッ(;´_ゝ`)て と(´<_`#)


l从・∀・#ノ!リ人「おっきい兄者も、ちっちゃい兄者も、めーっなのじゃー!!!」


兄者と弟者。それから、妹者の話し声は尽きること無い。
籠をしまい、袋の中からビーズを選ぶ、それだけのことでも次々と言葉を交わしはしゃぎ合う。


.

943 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 22:15:00 ID:nnePnEts0

( ´_ゝ`)「じゃあ、遊びますか!」

l从・∀・*ノ!リ人「妹者が勝つまでやるのじゃー!!!」

∩(; ´_ゝ`)∩「なんと!」


太陽はまだ高く、寝るまで時間はたっぷりある。
父者と母者が帰宅すれば、そこからはじまるのは家族勢ぞろいでのお祝いだ。


(´<_` )「あきらめろ、兄者。今日は妹者が主役だ」

l从>∀<ノ!リ人「なのじゃー!」

(#´_ゝ`)つ「漢、兄者! ゲームといえど、手は抜かんからな!」


だけど、今は兄妹三人だけの時間。
ゲームをして、笑い合って、それからご飯とおやつを食べよう。
それからブーンや、ついでにドクオにも今日のことを話してやろう。

――これからのことを考える弟者の口元に浮かぶのは、柔らかな笑みだ。
今日も忙しい、一日になりそうだ。


(´<_` )「――ああ、平和だな」


空は高く、柔らかくふく風が、弟者の薄緑の毛並みを揺らしていく。
彼らの楽しそうな笑い声は、いつまでもいつまでも響いていた。


.

944 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 22:17:04 ID:nnePnEts0

――――――――――――――――


流石邸の屋根の上。
そこに兄妹たちの姿を見守る、二つの姿があった。
人よりも遥かに小さな体。背には透き通る羽。


( ^ω^)「おー、楽しそうだおー」

('A`)「だな」


それは、ブーンとドクオ。二人の精霊の姿だった。


( ´ω`)「ブーンもいっしょにあそびたいお……」

('A`)「弟者のヤロウは兄妹水入らずなんだから、ぜってー来るなとぬかしやがったが。
   ……それじゃあつまんねぇよな」

(;^ω^)「お?」

('A`)ノ「オレたちも、妹ちゃんを祝ってやろうぜ」


露台を見下ろしながら、ドクオはニヤリと笑う。
細い手を伸ばして、指さしたのは今まさに兄妹たちのいる場所。


(*'A`)「見てな」


.

945 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 22:19:06 ID:nnePnEts0


ドクオは伸ばした指を上下へ、それから左右へと動かす。
指の動きに従うように、露台に落ちていた影が淡く薄くなっていく。


(*^ω^)「おお!!」

(*'∀`)「ドクオ様の本気を見やがれってんだ!」


ドクオが再び指を動かすと、椅子の影だけが伸び色を濃くした。
薄い影の中に落ちる、濃い影。
それはドクオの指の動きにしたがって、山の形へと変わった。


(*'∀`)ノ「どうだ」

(*^ω^)「すっごい、すっごいお!」


それは、ドクオの意志によって自在に動く影絵だった。
影の中に作られた空に、雲が流れる。
蝶が飛び、影の草むらに花が咲き乱れていく。

――それに、最初に気づいたのは妹者だった。


l从・∀・ノ!リ人「……お花なのじゃ!」


.

946 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 22:21:05 ID:nnePnEts0


(´<_` )「花?」

(*´_ゝ`)「……ああ、これはドクオか」


次に兄者が気付き、それに遅れて弟者もようやく何が起きているのかが悟った様だった。
影が動き様々な景色を作り出す。
その姿に兄者は笑い、妹者は目を奪われ、見とれている。
神秘の類が嫌いな弟者もこの時ばかりは、何も口を出さなかった。

――そんな兄妹たちの姿を遠くから眺めて、ドクオは心底満足そうな笑みを浮かべた。


(*^ω^)「やったおドクオ! 楽しいみたいだお!」

(*'A`)b「物より思い出。最高な贈り物だろ!」


ドクオの言葉に嬉しそうにしていた、ブーンの表情が曇る。
ブーン自身は気づいていないようだったが、隣ではしゃいでいたドクオはブーンが何を考えているのかすぐに理解した。


(;^ω^)「むむむ、だお……」

(;'A`)「おいおい、無理はしなくてもいいんだぜ」


おそらくブーンは、自分も妹者に何かをしようと思っているのだろう。
しかし、相手は精霊を見ることも出来なければ、声を聞いたり、気配を感じることさえ出来ない。
どう考えても無茶だ。ドクオはそう思い、ブーンをどうやって慰めるべきか考え始める。


.

947 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 22:23:18 ID:nnePnEts0


( ^ω^) !


しかし、ブーンの顔はすぐに明るくなった。
何かを考えついたのか、ブーンの顔に赤みがさす。


(*^ω^)「じゃあ、ブーンもいくお!!」

('A`)「……行くって、どういうことだ?」


ブーンは息を吸うと、魔力を巡らせはじめる。
その目は兄者たちのいる露台ではなくて、中庭を見下ろしている。
精霊であるブーンの様子に呼応してか、風がざわざわと騒ぎ出すのにドクオは気づいた。


(;'A`)「おい、ブーン」

(*^ω^) 《吹き上がるお!》


ブーンが魔法を使うと同時に、一際大きな風が吹いた。
風は中庭の植物たちを揺らし、土を舞い上げ、中庭にある小さな泉まで到達した。
魔力を纏った風が、泉の水を吹き上げていく。

舞い上がった水は太陽の光を浴び、飛沫を散らしながら落ちてくる。
それはまるで、雨のようだった。


.

948 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 22:25:26 ID:nnePnEts0


l从・∀・*ノ!リ人「わぁぁぁぁ」


そして、その雨がやんだ後、空に浮かんだのは――虹だった。


l从・∀・*ノ!リ人「すっごいのじゃ、あれは何なのじゃ!!」

( ´_ゝ`)>「虹か!? 妹者、さっきの影といい、すっごいものをもらったな」

(´<_` )「あれはブーンか」


太陽の光を受けて、吹き上がった水の飛沫が七色に輝く虹を浮かびあがらせていた。
露台から見える範囲に掛けられた小さな虹。
それは、まぎれもなくブーンから妹者へと向けられた贈り物だった。


l从・∀・*ノ!リ人「にじ。あれが、にじ」


兄者は空を見上げる。
弟者もまた虹をじっと見上げる。その口元には、かすかな笑みが浮かんでいた。


l从・∀・*ノ!リ人「はじめて、みたのじゃ」


妹者は贈り物を、見上げる。
妹者の頬は真っ赤に染まり、その目は食い入るように虹を追う。

砂漠にかかる虹。

彼女は初めて見る不思議な光景を、じっと見つめ続けた。


.

949 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 22:27:39 ID:nnePnEts0


(*'A`)b「やるじゃねーか。虹なんてよく思いついたな」

(*^ω^)「アニジャとオトジャは昨日、虹にすっごくよろこんでたお
       だから、きっとよろこぶって思ったんだお!」


興奮したような妹者の声に、ドクオとブーンは満足そうに顔を見合わせた。
女の子が一人、喜んでいる。それだけなのに、ブーンの心は暖かくて、とてもうきうきした。


(*^ω^)「世界って、とっても楽しかったんだお」

('A`)「おいおい、いくらなんでも大袈裟じゃねぇか?」


今日は、昨日と違って冒険をしたわけでもない。
それでも、昨日と同じくらいにブーンの気持ちは晴れやかで、楽しかった。


l从>∀<*ノ!リ人「精霊さーんありがとうなのじゃぁぁぁー!!!!」


(*'∀`)(^ω^*)


露台から、まだ小さな女の子のお礼の声が響く。
自分たちの贈り物を受け取った女の子の顔は、嬉しそうな笑顔だ。
それだけで、ブーンは居ても立ってもいられなくなった。


.

950 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 22:30:36 ID:nnePnEts0


(*^ω^)「ブーンもいっしょにあそぶおー!」

('A`)「おい待て、オレもまぜろ!!」


とうとう我慢しきれなくなったブーンが、屋根から飛び降りた。
それを見ていたドクオも、不格好ながらも羽を動かし追いかけはじめる。

光をまき散らしながら、精霊たちは飛ぶ。
目指すは双子の兄弟と、その小さな妹の所。


(*´_ゝ`)l从・∀・*ノ!リ人(´<_` )


露台に三人と二人の精霊の声が響く。
彼らの盛り上がりは、ブーンたちが混ざっても変わらない。
兄者やブーンが話し、精霊たちの声を弟者が伝える。妹者はそれに、「おお」と息を呑む。
彼らはいつまでも、楽しそうに話し続けた。


⊂二(*^ω^)二⊃(´<_` )


(*´_ゝ`)σ(;'A`)ノ  l从・∀・*ノ!リ人


彼らの日々はこれから先もずっと続いていく。
たとえ今日という日が終わっても。日は昇り、何かが起こり、そして日常は続いていく。


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951 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 22:32:04 ID:nnePnEts0





季節は、秋。
まもなく砂漠にも、短い冬がやって来る――。




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952 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/09(月) 22:33:05 ID:nnePnEts0




おしまい



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<<<おまけ劇場 その7あとがき>>>

トップ2012秋ラノベ祭り投下作品一覧( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )おしまいのあと
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