o川*゚ー゚)oは残像のようです ―2016 Remastered―

第七話 一生消えぬ感覚

266 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/09/27(火) 21:06:02 ID:4mU/onyo

ベンチに座る僕を、一際強い風が撫でて、通り過ぎていった。
思わず身震いするほどの寒さは、冬がすぐそこまで迫っていることを予感させる。

(;-∀-)「コンポタにしとけばよかったかな……」

かたわらにふたつ並べた、レモンスカッシュの缶を見つめて呟く。
いくら初めて会ったときのことを思いだして買ってしまったけど、この寒さでは少し考え物だ。
ため息をついて、自販機の明かりに照らされるへと視線を移した。

( ・∀・)「まだ、来ないのかな」

普通に考えれば、待ちぼうけになる確率の方が高いだろう。
なにしろ、あの日から一回も学校には来ていないのだから。
そんな考えが頭をよぎって、再びため息をついたときだった。

( ・∀・)「……あ」

自販機の明かりに照らされながら公園に入ってくる、人影を見つけた。
僕は立ち上がって、のろのろと近づいていく。
やがて、はっきり顔が見える距離になり、僕はいつものように、彼女の名前を呼んだ。

( ・∀・)「よう、キュート」

o川*゚ー゚)o「……久しぶり、モララー」

電灯に照らされるキュートの顔は、前よりも痩せて見えた。

267 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/09/27(火) 21:10:16 ID:4mU/onyo
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o川*゚ー゚)oは残像のようです ―2016 Remastered―

第七話 一生消えぬ感覚













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268 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/09/27(火) 21:15:40 ID:4mU/onyo

o川*゚ー゚)o「びっくりしちゃったよ。届いたプリントの中に手紙、混じってるんだもん」

( ・∀・)「こうでもしないと、連絡取れないと思ったからさ」

o川*゚ー゚)o「書いてあったけど……頑張って連絡取ろうとしてくれたみたいだね」

ふたりでベンチまで歩いていき、僕は右、キュートは左の端に腰かけた。
僕らの間に挟まれたレモンスカッシュを、おもむろにキュートが手に取る。
寒いのに、と小声で呟いて笑みを浮かべてみせたけど、弱々しさは消えない。

( ・∀・)「そりゃ……心配だしさ。でも、元気でよかった」

o川*゚ー゚)o「ごめんね、心配かけて」

(;・∀・)「いや、いいんだ。うん……」

ぎこちない会話が途切れて、無言の時間が訪れる。
早く話せ、と催促するように風が吹いて、キュートの髪が揺れる。
見慣れた水色の髪留めは、見当たらなかった。

( ・∀・)「……髪留め、取ったんだな」

o川*゚ー゚)o「もう寒いからさ……首が冷たくなっちゃうよ」

269 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/09/27(火) 21:20:43 ID:4mU/onyo
なんとか会話のきっかけをつかむ事ができた。
そして、このチャンスを逃したら、もう二度と口を開けない気がした。

( ・∀・)「……なあ、キュート」

o川*゚ー゚)o「ん?」

恐る恐る名前を呼ぶと、キュートはくるりと僕の方に向いた。
一瞬、話を切り出すことを躊躇する。だけど、迷いを振り払うように口を動かし続ける。

(;・∀・)「どうして……どうして文化祭来なかったんだ?
        あんなに楽しみにしてたのに……それに、あれからずっと学校も……」

o川* − )o「モララーはさ、荒巻博士って知ってる?」

突然、目を逸らすように、表情が読み取れなくなるほどキュートはうつむいた。
そして、まったく関係のない話題を切り出した。

(;・∀・)「荒巻……?」

どうしてキュートがそんな話題を出したのかは分からない。
だけど、わざわざ僕に聞くのだから、何か関係があるのだろうと考えた。
記憶の引き出しを漁ると少し前に、その名前をニュースで耳にしたことを思い出した。

270 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/09/27(火) 21:26:41 ID:4mU/onyo

o川* − )o「すごい発明だけど、なかなか成果が出なかった時期があってね。
          十六年前、すぐに成果を出さないと研究の支援を打ち切られちゃうって話が出たの。
          でも、成果って言われても、まさか開発中の薬を患者に投与するわけにはいかないでしょ?」

( ・∀・)「それじゃ、どうしたんだよ?」

o川* − )o「健康な状態でも投与すれば、筋肉にある程度作用することはわかってた。
          だけど、臨床試験の被験者を募集している時間はなかった」

そこまで話して、一度、話が切られる。
縮こまるようにますますうつむいて、一呼吸置いてから、キュートは話を再開した。

o川* − )o「……だから、博士は最終手段を取った」

(;・∀・)「最終……手段?」

o川* − )o「研究に参加していた研究員を、臨床試験の被験者にしたの」

(;・∀・)「え……」

僕には、その行為が許されることなのか、否かは分からない。
ただ、最終手段というくらいだから、普通はあり得ないことなんだろうと思った。

271 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/09/27(火) 21:32:13 ID:4mU/onyo

o川* − )o「研究の存続に関わる事態だったから、誰も反対しなかった。
          そうして、SNOCは参加していた研究員全員に投与されたの」

( ・∀・)「それで……結果は?」

o川* − )o「投与された結果、予想されていた範囲内の筋力の増加が観測されたよ。
          ……たったひとり、なにも変化も見られなかった例外を覗いてね」

話の途中、キュートがためらうように、一瞬黙り込む。
再び口を開いてから紡がれた例外、という言葉に、不穏な気配を感じた。

o川* − )o「その研究員には、再びSNOCが投与されたの。
          そして直後に、研究員の妊娠が発覚した。
          発覚当時の胎児の月齢は5週。ちょうど……手足が、形成され始めるころだった」

急にキュートの口調がスムーズさを取り戻す。
まるで、早く喋り終わってしまいたいと言わんばかりに。

o川* − )o「そして、投与されたSNOCはすべて、胎児に吸収されていた」

最後の言葉を聞き、心臓が潰れそうなほどに大きく脈を打った。
僕の頭の中を、いままでの会話から導き出された、ひとつの仮定が埋め尽くす。

(;・∀・)「待て……よ、それって……まさか……!」

o川* − )o「たぶん……モララーの想像通り」

272 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/09/27(火) 21:37:27 ID:4mU/onyo
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o川* − )o「研究員の名前は素直クール……わたしのお母さんだよ」














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273 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/09/27(火) 21:42:10 ID:4mU/onyo

(;・∀・)「……っ」

o川* − )o「薬の投与はただちに中止されて、精密な超音波検査が毎週行われた。
          幸い、わたしは異常も見られないまま育って、元気に生まれてきたよ」

戸惑い、言葉を失う僕を尻目に、キュートは話を続ける。
わずかに見える口元は、さっきにも増してせわしなく動いていた。

o川* − )o「でも、わたしって生まれて半年で、立ち上がって歩くどころか走り始めたんだって。
          びっくりして調べてみたら、異常に足の筋力が発達してたみたい」

(;・∀・)「……だから、キュートはあんなことができるのか?」

やっと絞り出した言葉は、なんとも無神経な質問だった。
だけど、キュートは意に介さず、まるで他人事のように返答する。

o川* − )o「うん、正解。大きくなっていくにつれて、どんどん人間離れしていってね。
          世間で言う中学生になったころかな。いまみたいに残像しか残らなくなったのは」

ふと、キュートの言い回しに違和感を覚えた。

(;・∀・)「世間で言うって……まるで自分が世間の中学生じゃないような言い方だな」

274 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/09/27(火) 21:49:02 ID:4mU/onyo

o川* − )o「……行ってないんだよね、学校」

( ・∀・)「え?」

ぼそりとキュートが呟いた言葉に、思わず気の抜けた声が出てしまう。
一瞬、自分の耳がおかしくなったのかと考えた。

o川* − )o「まともに学校行ったの、高校が初めてなんだ」

(;・∀・)「そんな馬鹿な! 普通は……」

o川* − )o「普通じゃないんだよ」

僕の言葉を、感情のこもっていない声でキュートが遮った。

o川* − )o「どこから聞いたのかわからないけど、国の偉い人がわたしのことを知ったらしくて。
          身体能力の詳しいデータを取ることになったの……」

(;・∀・)「それじゃ……そんなの、実験動物みたいじゃないか……」

悪い冗談であって欲しい。そんな思いが頭の中を埋め尽くしていく。
だけど、願いもむなしく、キュートは淡々と自分の過去を語り続ける。

o川* − )o「実際、そんな感じだったんだ。ずっと研究所で暮らして、何時間もデータの測定をして。
          籍だけ置いて学校にも行かないで、同年代の子がやるような勉強も全部研究所でやって」

275 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/09/27(火) 21:54:05 ID:4mU/onyo

(;・∀・)「……」

o川* − )o「残像が出せるようになったころからね、いままで上がり続けていた身体能力も頭打ちになったの。
          普通だったら成長期って、そんなことないんだろうけど」

氷柱のような冷たく鋭い何かに、心臓を刺し貫かれたような感覚。
まるで自分のことのように、胸が痛くて、辛くて、悲しかった。

o川* − )o「そしたら去年さ、博士がわたしに普通の生活をさせようっていう提案を出したの」

( ・∀・)「それと研究にどんな関係があるんだ?」

o川* − )o「博士が言うには、心と体は密接に繋がっているらしいの。
          だから、精神的な変化を促すことで身体能力にも変化が見られるはずなんだって」

(;・∀・)「その考え、分からなくもないけどさ……」

根拠は分からないけど、確かによく耳にする理論だ。
科学者が提唱するあたり、科学的な立証でもあるのだろうか。

276 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/09/27(火) 22:02:56 ID:4mU/onyo

o川* − )o「特に変化がないままで、研究も行き詰まり始めいてたから、提案が通ったんだ。
          とは言っても、けっこう反対意見もあったみたいだけどね」

( ・∀・)「それで学校に行くことになったのか……」

o川* − )o「データの測定は続いてたから、早く帰らないといけなかったけどね」

キュートの言葉には心当たりがあった。
体育祭のときに言っていた『家の手伝い』。
さすがに事実をそのまま伝えることはできないから、ああ言っていたのだろう。

o川* − )o「入学式の日、待ちきれなくて夜も明けないうちに起きちゃった。
          それから、空が明るくなってきたころに家を出てさ。たくさん寄り道しながら登校したよ。
          それでもやっぱり早すぎて、学校入れなくて。ここに座って、時間つぶしてた」

( ・∀・)「……」

入学式の日は、僕もはっきり覚えている。
早く来てしまって、なんとなくこの公園に立ち寄ったことを。
そして、桜色の空を見上げているキュートの姿を。

277 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/09/27(火) 22:10:25 ID:4mU/onyo

o川* − )o「そしたら、モララーと出会った」

o川* − )o「初めて同年代の子と、男の子と話した。初めて友達ができた。すっごい……嬉しかったよ」

キュートは少しだけ顔を上げて、僕の方へ向き直った。
そして、ひと言ひと言、噛みしめるように呟く。

( ・∀・)「僕も……嬉しかった」

o川* ー )o「そっかぁ、よかった」

わずかに見える口元が緩んで、キュートが優しい声で呟く。
最初に見せた笑顔よりずっと、ずっと嬉しそうだった。

o川* ー )o「初めて授業を受けた。初めておしゃべりしながらお昼を食べた。初めて先生に怒られた。
       ほんとは全部当たり前のことなんだろうけど、新鮮だった」

キュートは思い出を語り続けるのを止めない。
僕だって全部見てきて、全部覚えているのに。

278 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/09/27(火) 22:15:59 ID:4mU/onyo

もう会えないから、ずっと覚えていて欲しい、とでも思っているのだろうか。

o川* ー )o「初めて友達のことを心配した。初めて友達と、モララーといっしょに帰った」

( ・∀・)「うん」

もしもそう思っているなら、いますぐやめて欲しかった。

o川* ー )o「初めて学校行事に参加した。初めて男の子に、モララーに抱きついた」

( ・∀・)「うん……」

思い出だけが残されても、いまの僕には無意味だ。

o川* ー )o「初めてモララーと一緒にテスト勉強した。初めてモララーに押し倒された……初めて、ドキドキした」

( -∀-)「……うん」

僕はキュートといっしょに、思い出を増やしていきたい。

o川* - )o「初めてモララーと出かけた。初めてモララーと海に行った。初めて、モララーとデートした」

( -∀-)「……」

279 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/09/27(火) 22:22:51 ID:4mU/onyo
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o川* - )o「モララーといると楽しかった。ずっと忘れたくないくらい、忘れられないくらい楽しかった」







僕は、好きな人といっしょに、思い出を増やして生きたい。










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280 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/09/27(火) 22:28:53 ID:4mU/onyo

o川* − )o「でも、もうおしまい」

ベンチからおもむろにキュートが立ちあがって、僕の方へ振り返る。
そして、さっきまでと変わらない穏やかな声で、終わりを告げた。
耳を塞いで逃げ出したくなる衝動に襲われる。

o川* − )o「博士が亡くなって、反対派だった人が研究を引き継いだの。
          だから、二度と学校にも行けない。モララーとも会えない」

(;・∀・)「あのとき呼び出されたのは……それが理由か?」

誰もいない教室に、ひとりでたたずむキュートの姿が脳裏に蘇る。
いまになって、あのとき顔に飛んできたのが涙だったのだと気付いた。

o川* ー )o「うん、正解。さすがモララー、物わかりがいいっ」

再び笑みを浮かべて、キュートが僕の肩をばしばしと叩く。
口元は綻ぶというより、歪んでいるように見えた。
本心から笑っていないと、簡単に分かってしまう。

o川* − )o「学校に行かなくなってからは、いままでと変わらない生活してるんだ。
          ただ測定されるのを待つだけ。ずっと続けてきた、慣れた生活」

o川* − )o「慣れていたはずなんだけどね、すごいつまらないの。
          ……変だよね。それが普通だったのに」

281 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/09/27(火) 22:34:12 ID:4mU/onyo

( ・∀・)「キュート……」

o川* − )o「いままでが普通じゃないって知ったから……かなぁ……」

キュートの肩がふるふると小刻みに震え始める。
小さく白い手が、余った袖を握りしめているのが見えた。

o川*;д;)o「なんでっ、わたし……普通じゃないんだろ……」

o川*;д;)o「ふ、普通がよかった……わたしだって……みっ、んなみたいに……」

言葉を何度も詰まらせて、しゃくりあげながら話し続ける。
電灯に照らされて綺羅綺羅と輝く涙が、前髪の向こう側から次々とこぼれていった。

o川*;д;)o「学校だっていっ、行きたいし……遊びたいっ、しぃ……恋し、しだいのに……っ!」

鼻をすする音が、嗚咽を上げる音が、静かな公園に響く。
せき止められていた感情が溢れ続ける音というのは、こういう音なんだろうか。

(;・∀・)「……」

o川*;д;)o「ごんなにっ、辛いなら……ふっ、普通なんて知らな、きゃよがったぁ……!」

その言葉を最後に、キュートは顔を両手で覆って、何も語らなくなった。
聞こえてくるのは、子供のように泣きじゃくる声だけだった。

282 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/09/27(火) 22:47:00 ID:4mU/onyo

( ・∀・)「なあ……キュート」

o川*;д;)o「うえぇぇぇっ……!」

答えられるような状態ではないだろう。
それでも僕はキュートにどうしても聞きたいことが、言いたいことがあった。

( ・∀・)「本当に、そう思ってるのか? 普通の人のことなんて知りたくなかったのか?」

o川*;д;)o「っふぅ……ひぐっ……っ」

キュートは泣き声を噛み殺そうとしているけど、それでもまだ答える余裕は出そうにない。
聞こえているのが分かった僕は、そのまま話を続けた。

( ・∀・)「キュートが普通に暮らして知ったことは、全部要らないことだったのか?」

o川*;д;)o「はっ……っ」

さっきの言葉は本心ではなく、気の迷いだと分かっている。
それでも、僕は衝動を抑えることができなかった。
ベンチから立ちあがり、キュートの眼前まで近寄って、問いかける。



(  ∀ )「僕のことも……知らない方がよかったのか?
         キュートにとって……僕は要らないやつだったのか?」

283 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/09/27(火) 22:52:14 ID:4mU/onyo
例え本心でなかったとしても、いっしょに泣きたいくらいに悲しかった。
僕のことをそんな風には思っていないと、はっきりと聞きたかった。
我ながら子供で、意地の悪い人間だな、と心の中だけで吐き捨てる。

o川* − )o「……ずるい」

ふと、囁くような小さい声が聞こえて、胸に何かがぶつかった。
視線を落とすと、僕の胸にキュートの顔がうずめられていた。
背中に回された腕には、痛いほどに力を込められている。

o川* − )o「そんな風に言われて……うん、なんて言えるわけないじゃん……」

顔を上げることなく、顔を押し付けたまま涙声でキュートは答えた。
乱暴に扱えば壊れてしまいそうなほど華奢な肩が、再び震えだす。

o川*;д;)o「モララーのこと……好きな人のこと!!! 知れてよかったに決まってるじゃん!!!」

( ‐∀‐)「……」

キュートは近所迷惑なんて考えないほど大きな声で叫んだ。
想像を越えた返答に、心がとても暖かくなる感覚がする。
だけど、いまは自分のことよりキュートを落ち着かせる方が優先だ。

284 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/09/27(火) 23:00:30 ID:4mU/onyo

o川*;д;)o「ぁ……」

左手を腰のに回して、優しく抱き寄せる。
そして、右手でゆっくりと頭を撫でてやった。

( -∀-)「普通って幸せなことかもしれないけど、まだ知らないキュートだけの幸せもきっとあるさ。
      もし、見つからないって言うなら、いっしょに探すから。ずっといっしょにいて探してやるから」

( -∀-)「だから、普通なんて知らなきゃよかったなんて言うなよ。
      自分の過去を、いまの自分を否定なんてするなよ」

僕の腕の中で、キュートは無言で何度も何度も頷いていた。

〜〜〜〜〜〜

o川*゚ー゚)o「ありがと……もう大丈夫」

( ・∀・)「そっか……だったらいいけど」

落ち着きを取り戻したキュートは、目を拭いながら僕から離れた。
僕を真っ直ぐに見つめる表情は、いつものキュートに戻っていた。

285 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/09/27(火) 23:06:03 ID:4mU/onyo

o川*゚ー゚)o「ねえ、モララー」

( ・∀・)「ん、どうした?」

o川*゚ー゚)o「さっき言ってくれたこと、ほんと?」

小首をかしげて、覗きこむようにして僕に尋ねてくる。
思い返すと、よくもあんな臭い台詞を言ったものだ。

(;-∀-)「ああ……本当だよ」

o川*^ー^)o「わかった。それだけ聞きたかったの」

キュートが満足そうな顔で頷く。
自分も僕のことを好きだと言ったくせに、この態度の差はなんなんだろうか。

o川*゚ー゚)o「もう帰らなきゃ……脱走してきたし、絶対怒られるなぁ」

(;・∀・)「なんか……ごめん」

ちらりと時計を見たキュートが呑気に言う。
よく考えれば外出禁止の身だ。きっといまごろは大騒ぎになっているはずだ。

286 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/09/27(火) 23:11:17 ID:4mU/onyo

o川*^ー^)o「ううん、いいの。久しぶりに会えたから、いくら怒られても幸せ」

(;・∀・)「そ、そういうものなんだ……?」

o川*^ー^)o「うん、そういうもの」

キュートはニヤニヤという擬音がぴったりの笑顔を浮かべる。
そして、ポケットから髪留めを取り出すと、髪をいつものふたつ結びにまとめてみせた。

o川*^ー^)o「どう?」

( ・∀・)「……その方がキュートらしくって、いいかな」

o川*^ー^)o「えへへへへ……」

(;・∀・)「なんだよ気持ち悪い……大丈夫か? 送っていくか?」

o川*゚ー゚)o「だいじょぶだいじょぶ、モーマンタイ」

(;・∀・)「分かった……」

お気楽な口調で、キュートが手を振って公園の出口へと歩いていく。
とりあえず出口までは付いていこうと思い、僕も少し後ろを歩く。

287 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/09/27(火) 23:25:34 ID:4mU/onyo

o川*゚ー゚)o「……」

( ・∀・)「キュート? どうしたんだ立ち止まっ――」

突然、キュートが立ち止まって振り返る。
理由を聞こうとしたその瞬間、キュートの姿が眼前に現れた。
そして、伸びてきた手になすすべなく襟首が掴まれる。

(;・∀・)「!?」


すべてが、スローモーションに見える。


巻き起こった風になびく、色素の薄いキュートの髪も。


その髪が電灯の明かりに照らされて、綺羅綺羅と輝く光も。


閉じられたまぶたから伸びる、まだ涙に濡れたキュートの長いまつ毛も。

288 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/09/27(火) 23:30:55 ID:4mU/onyo
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気付けば、いままで感じたことのない柔らかさと熱が、唇に重ねられていた。














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289 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/09/27(火) 23:39:43 ID:4mU/onyo

o川* ー )o「んっ……」

唇越しに漏れた、キュートの声。
襟首を掴まれて、少し前かがみになったまま固定されている。
柔らかさはまだ、僕の唇に触れている。

(* ∀ )「……っ」

視界を埋め尽くすキュートの顔が少しふらつく。
反射的に肩を抱いてやると、ぴたりと収まった。

o川* д )o「ふぁ……」

どれくらい時間が経っただろうか。
砂糖をまぶしたような甘い声を出して、キュートの顔が離れる。
どうやら背伸びをしていたらしく、離れた途端にストンと身長が縮んだ。

o川* д )o「……」

うつむいたその顔を呆然と眺めていると、キュートはいきなり顔を上げた。
そして、普段から想像もできないほどにどもりながら、

o川* д )o「ま、まっ、またねっ!」

それだけ言って踵を返すと、残像だけを残して消え去った。
ひとり立ち尽くし、夢心地なまま残像を見つめる。

夜の帳の中でも分かるほど、その顔は真っ赤に染まっていた。

290 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/09/27(火) 23:41:46 ID:4mU/onyo

「……」

「……」

「……いま、何された?」

「キュートの顔が近付いてきて……」

「それから、それ、から……」

「キュートの顔が目の前にあって……」

「顔が離れて……」

「……」

「……」

「顔真っ赤のキュートが急いで帰って……」

「……」

「……」





(* ∀ )「こんなの、ずるいだろ……馬鹿……」

291 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/09/27(火) 23:42:40 ID:4mU/onyo
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o川*゚ー゚)oは残像のようです ―2016 Remastered―

第七話 一生消えぬ感覚

おわり












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