o川*゚ー゚)oは残像のようです ―2016 Remastered―

第一話 ディスティニー感覚

1 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/06/28(火) 19:59:44 ID:4ZYT/PJ2


3 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/06/28(火) 20:03:23 ID:4ZYT/PJ2

( ・∀・)「ふいー、到着っと」

自転車のスタンドを下ろして、校門の前で一息つく。
すぐ横に置かれている『入学式』と書かれた大きな看板だけが、僕を出迎えてくれた。

( ・∀・)「しっかし……」

周囲には僕以外の人間はおろか、猫すらいない。
入学式の朝としてはなんとも異様な光景だ。

(;・∀・)「はあ……当たり前だよな……まだ六時半だし」

鞄から四つ折りにした入学式の案内を取り出す。
広げると、その真ん中には『新入生は午前八時に登校してください』と大きく書かれている。
ここにいる理由を思い出すと、幸せが逃げるとしても、深いため息を吐かずにはいられなかった。

4 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/06/28(火) 20:06:12 ID:4ZYT/PJ2
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o川*゚ー゚)oは残像のようです ―2016 Remastered―

第一話 ディスティニー感覚













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5 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/06/28(火) 20:09:11 ID:4ZYT/PJ2

――昨晩――

(;・∀・)『いやいや、全然大丈夫だって三十分も早く着くんだよ!?』

( ゜ω゜)『モララー、明日は入学式だお!?
      何が起きても変じゃない、そんな時代なのに覚悟が出来てないお!』

(;・∀・)『入学式に時代って関係あるの!?』

( ゜ω゜)『おっお、Tomorrow never knowsだお! とにかく明日は早く出るんだお!』

(;・∀・)『いま気付いたけど父さんさっきからミスチルっぽくない!?』

――――

6 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/06/28(火) 20:12:04 ID:4ZYT/PJ2

( ・∀・)「心配なのは分かるけど、早すぎだよ父さん……」

鬼のような形相で起こしにきた、今朝の父さんの顔を、僕は一生忘れないだろう。

やることもないまま、ぼーっと校門の前で立ち尽くす。
準備のためなのか、僕の横を在校生らしき人が通り過ぎて、校内に入っていった。

(;・∀・)(やばい、人に見られると結構恥ずかしい……)

いまさらになって羞恥心に目覚める。
もし同じ新入生にでも見られたら、

( ゚д゚ )『なにやってんだこいつ……』

という目で見られることは間違いない。
それだけはなんとしても避けたい。

( ・∀・)(どっかで暇をつぶそう……)

きょろきょろと周囲を見渡す。
白んだ空に照らされて、神秘的にも見える校舎。
その横に、一際目立つ色を見つけた。

タイミングを見計らったかのように、満開の桜色。
近づいてみると、それは校舎内でなく、隣接した小さな公園にあった。

7 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/06/28(火) 20:15:04 ID:4ZYT/PJ2

ちょうどいい。桜を眺めていれば一時間なんてすぐに過ぎそうだ。
自転車を入り口に止めて、その横の自販機で暇つぶしのお供を品定めする。

( ・∀・)「お、レモンスカッシュ」

スカッとした飲み物で気分を晴らせ。神様がそう言ってる気がした。
乱暴に落ちて来た缶を拾い上げて、慎重に蓋を開ける。
情けない音を出しながら炭酸が抜けたのを確認すると、プルタブを勢いよく起こした。

( ・∀・)(もうちょい炭酸飲料に親切設計な自販機ってないもんかな)

そんなことを考えながら、一口。
口に広がる爽やかな檸檬の味を楽しみつつ、頭上を見上げた。

( ・∀・)(綺麗だなー)

そこにあるはずの空を、桜色が飲み込んでいた。
満開まではもう少しかかる、とニュースで見た気がするのだけど。
おそらく、ここ数日で急に暖かくなったのが効いたのだろう。

( ・∀・)(ベンチにでも寝っ転がって見たら絶景なんだろうなー)

頭の中にその絶景を思い描いてみると、試したくて仕方なくなってきた。
多めにレモンスカッシュを口に含むと、公園の中へと歩を進めた。

8 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/06/28(火) 20:18:05 ID:4ZYT/PJ2

さほど広くない公園だから、ベンチは入り口からすぐそばにあった。
だけど、僕と同じことを考えていた人がいたようで、同年代らしき女の子が真ん中に座っていた。

( ・∀・)(ありゃりゃ……)

仕方ないけど奥のベンチへ行こう。そう思い歩き出そうとした矢先、あることに気付く。

( ・∀・)(あれ、うちの高校の制服だよな……?)

間違いない。僕のブレザーにあるものと同じ校章も入っている。
制服が真新しく見えるのは、きっと新入生だからだろう。

( ・∀・)(どんな子だろう……)

その場で立ち止まって、彼女の横顔を注視する。
しかし、肩まで伸びた栗色の髪に阻まれて、その表情は分からなかった。
正面に回り込もうかと考えたが、不審者扱いされる可能性に気付いて思いとどまる。

( ・∀・)(奥に行くときにちょっと見てみるか……)

もう可愛い可愛くないの問題ではなく、意地だ。
僕と同じように、こんな早い時間に、僕と同じことを考えてたやつの顔を見てみたい。それだけだ。

意を決して、右足を踏み出した。
一歩、また一歩と近付いていく。
あと片手で数えるくらい近付けば顔が見える、というときだった。

(;・∀・)「っ!?」

9 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/06/28(火) 20:21:16 ID:4ZYT/PJ2

足音に気付いたのか、女の子は僕の方へと顔を向けた。
いや、正確には僕のことを見ていたわけじゃなかった。





o川*゚ー゚)o



彼女はただ、桜色が舞うのを見ていた。



(*・∀・)(か、可愛い……)

思わず見入って、立ち止まってしまう。
丸くて大きな黒い瞳は、夜の海を連想させる。
髪の毛にいくつも付いた桜の花びらすら、僕には装飾品のように見えた。

そこまで考えて、僕が次の褒め言葉を探していたときだった。

o川*゚ー゚)o「あ」

( ・∀・)「」

短く発せられた驚嘆の声とともに、ぴたり、と視線が重なった。

( ・∀・)

10 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/06/28(火) 20:24:42 ID:4ZYT/PJ2

(;・∀・)(やっべえええ気付かれたあああああ!!!)

o川*゚ぺ)o「むう……」

さながら名探偵のように、あごに手を添え、唇をへの字にして僕を見つめてくる。
見つめてくる、というより観察してくる、と言った方がいいだろうか。
瞳がせわしなく上下しては、ときどき何かを考えるように首をかしげる。

(;・∀・)(やばいやばいめっちゃ見られてるめっちゃ見られてる)

このままでは、
『入学式当日の早朝から人気のない公園で女の子をずっと観察してニヤニヤしてた変態』
というレッテルを張られたまま三年間を過ごす羽目になりかねない。

(;・∀・)(弁解するんだ! 唸れ、僕の脳細胞!)

血の気の引くような浮遊感を抑えて、頭の中の引き出しを開けたり閉めたり。
それでも、とても彼女が納得してくれるような言葉が見つからない。
それもそうか。こんなときに使うための言葉なんて、わざわざ考えておくわけないんだから。

o川*゚ー゚)o「わかったぞっ!」

(;・∀・)「ひゅえっ!?」

そう言って急に立ち上がった彼女に驚き、思わず情けない声が漏れた。
そんな僕の態度を意に介さず、勢いよく人さし指で僕を指し示す女の子。
漫画ならばビシッと擬音が当てられそうな勢いだ。

11 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/06/28(火) 20:27:37 ID:4ZYT/PJ2

o川*゚ー゚)o「君はわたしと同じVIP高校の新入生だな!?
        そしてわたしと同じく昨日寝れなくなっちゃって、散歩してたらここに来た!
        そしたらなんと、公園に絶世の美少女キューちゃんの姿が!
        ついつい磁石のように吸い寄せられて見とれちゃってたわけね!
        あ、キューちゃんってのはわたしのことね」

( ・∀・)「」

落ち着け、落ち着くんだ僕。両親や身近な友人の顔を思い浮かべるんだ。
変態に加えて、通り魔のレッテルまで張られるようなことがあったらみんなが悲しむ。
必死で自分を殺している間も、女の子は僕の周りをくるくる歩きながら話を続ける。

o川*゚ー゚)o「おお! 言葉も出ないくらいキューちゃんの推理は御名答だったようね!
        大丈夫、君くらいの歳だったらキューちゃんにメロメロになるのはしょうがないよ。
        だからそれを悔やむことなんてないって。さあ、笑って……えーと、名前知らないや」

(#・∀・)「」

女の子を本気殴ってやりたいと思ったのは、生まれて初めてだった。

o川*゚ー゚)o「うひゃあ、顔がこわいこわい」

(#・∀・)「とりあえずひっぱたかせろ」

o川*゚ー゚)o「もーう、イライラしたからってそんなことしちゃ……めっ! だぞ?」

苛立ちの原因はおちょくるような笑顔で、下から覗きこんでくる。

(#・∀・)「ええい! このままじゃらちが開かない!」

12 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/06/28(火) 20:30:09 ID:4ZYT/PJ2
こんなふざけた誤解をされたままで、向こうのペースに巻き込まれたままで黙っていられるか。
話を真面目に聞いてもらうときに、うろちょろとされては困る。
僕はまだくるくる歩いている女の子の肩を掴むべく、手を伸ばした。

o川*゚ー゚)o「んにゃ?」



しかし、伸ばした手は。



(;・∀・)「っ!?」



女の子の肩に触れたかと思うと。



(;・∀・)「うおっ!?」



そのまま、すり抜けた。

13 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/06/28(火) 20:33:18 ID:4ZYT/PJ2
(;・∀・)「……え?」

あっけにとられていると、視界を舞い上がった花びらで埋めるほどの強い風が吹いた。

(;‐∀・)「くっ……」

思わず一瞬だけ目を閉じる。
次に目を開いたときには、質量を持たない女の子は消えていた。

o川*゚ー゚)o

そして、その数メートルほど奥で、女の子はしてやったりと言わんばかりの表情を浮かべている。
体のあちこちを彩る桜色が、確かにそこに存在することを示していた。

(;・∀・)「き、君……いったい何なんだよ!? 幽霊か何かなのか!?」

混乱する頭でなんとか絞り出した言葉がそれだった。
本来なら、初対面の相手にこんなことを言うのは失礼極まりないだろう。
だけど、こんな状況で常識を考えること自体が無駄だと思った。

(;・∀・)「……」

o川*゚ー゚)o「……」

つかの間の静寂のあと、女の子は言い放った。
こういうときはそうするのが当たり前だ、と言わんばかりに。

o川*゚ー゚)o「初対面なんだから自己紹介するのが先でしょ!
        わたしはさっきしたから今度は君の番ねっ! はい、どうぞっ!」

14 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/06/28(火) 20:36:09 ID:4ZYT/PJ2

まともな自己紹介なんて何ひとつされた覚えなんてない。
そう言ってやりたかったけど、目の前の最重要懸案の方がいまの僕には大切だと思った。
愚痴をぐいっと飲み込んで、いままでで一番大きな声で自己紹介をする。

(;・∀・)「僕の名前はモララー!今年からVIP高校の一年生だ!
       さあ、僕は自分のことを教えたぞ! 今度は君の番だ!」

最初に女の子を見たときのように注視する。
あのときと違うのは、得体のしれない彼女への恐れを抱いているということ。
そんな僕の心情を知ってか知らずか。

o川*^ー^)o「あ、ごめんね! わたしちゃんと自己紹介してなかった気がする!
        んじゃ、改めて……わたしの名前は素直キュート! キューちゃんって呼んでね!」

にいっ、と唇の端を吊り上げて、本当に楽しそうに笑った。

o川*^ー^)o「でー、モララーと同じVIP高校の一年生! よろぴくっ!」

まるで親しい友人に向けられているかのような、そんな笑顔。

o川*゚ー゚)o「そんなキューちゃんの特技は―――――」

公園に明るく響いていた声が、途切れ。
笑顔のままで動きが、止まり。
僕の正面から、一陣の風が吹いた瞬間。

o川*゚ー゚)o「残像を作ること、でっす!」

女の子は、キュートは、僕の目と鼻の先に現われた。

15 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/06/28(火) 20:39:07 ID:4ZYT/PJ2

(;・∀・)「……」

自然と全身の力が抜けて、地面にどさり、と座りこんでしまう。
きっと、僕の体は、この非日常から逃げることを諦めたんだろう。

(;・∀・)「は、ははは……」

しばらく経って頭も受け入れる準備が整ったのか、ようやく声が出た。
これが笑うしかない、って状況か。身を持って知ったよ。

o川*゚ー゚)o「もしもーし、だいじょーぶ?」

その状況を作り出した張本人は、いたって普通に僕に語りかけてくる。

(;・∀・)「ギリギリ……大丈夫かな」

o川*゚ー゚)o「そんなに驚いた?」

(;・∀・)「生身の人間が残像作っていたら、誰だってこうなるよ……」

o川;゚д゚)o「えー? 見た人はみんなすごーい、とかかっこいー、とか言ってくれたよ?」

そっちの方が異常なんじゃないか、とでも言いたげな目で見てくる。
キュートは幸いにも、周囲の理解を得られて生きてこれたらしい。
しかし、高校生にもなれば、残像が作れるような人間の異常性を誰もが理解するだろう。

17 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/06/28(火) 20:42:06 ID:4ZYT/PJ2

( ・∀・)「……」

o川*゚ー゚)o「どーした? 真面目な顔しちゃって……あ、分かったぞ!
       これからキューちゃんに愛の告白をするつも」

( ・∀・)「キュート」

誰もやらないかもしれない。
それでも、誰かがやらないといけない。

o川;゚ー゚)o「や、やだなぁ……本気で?」

だったらそれは、いの一番に関わってしまった僕が、やらなければならないのかもしれない。
例え、ほんの少しの差だとしても、いま一番そばにいる僕が。

( ・∀・)「君のそばにいようと思う」

o川*゚ー゚)o「……へ?」

( ・∀・)「正直、いまのところ君のことは嫌いだ。
      でも、ろくに理解もしないで結論付けるなんてことはしたくない。
      だから、いまは暫定的にだけど、君のそばで……君の味方でいようと思う」

18 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/06/28(火) 20:45:03 ID:4ZYT/PJ2

なんか、すごいことを言っている気がする。

o川;゚ー゚)o「ぷ……プロポーズ……?」

( ・∀・)

(;・∀・)

やっぱり、すごいどころかとんでもないことを言っていた気がする。

(* ∀ )「うおああああああああああ!!!!」

o川;゚ー゚)o「ちょ、ちょっとモ」

(* ∀ )「忘れろおおおお!! 忘れてくれええええええ!!」
       いやもう死ぬ! 君を殺して僕も死ぬ!」

風邪でも引いたかのように顔が熱くなる。
なんだか全身がむずがゆくて仕方ない。
これがいわゆる黒歴史ってやつなのか。

o川*^ー^)o「ぷっ……ぷぷぷ」

(* ∀ )「いやあああああ! 笑っちゃやらあああああ!」

o川*^ー^)o「あはははははは! モララーって面白い!」

19 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/06/28(火) 20:48:08 ID:4ZYT/PJ2

(* ∀ )「らめええええええ……え?」

ふと聞こえたキュートの言葉。
面白いってどういう意味だ。黒歴史的な意味か。

o川*^ー^)o「びっくりした顔したり、真面目な顔したり、恥ずかしがったり……見てて全然飽きないよ!」

(*・∀・)「は、恥ずかしがってるの見て笑ってたんじゃないの……?」

顔を見るとまた悶えてしまいそうだから、視線を逸らしながら尋ねる。

o川*゚ー゚)o「笑えないよ……」

初めて聞く、トーンの低い声で答えるキュート。
真面目な雰囲気に違和感を覚えて、おそるおそる彼女の顔を見てみる。



o川* д )o「あ、あんな真面目な顔で言われて……笑えるわけない、じゃん……?」

きっと、いまの僕と同じくらい顔を赤く染めて、今度はキュートが視線を逸らした。
照れ隠しなのか、ぽりぽりと頬をかきながら。

20 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/06/28(火) 20:51:05 ID:4ZYT/PJ2

(* ∀ )「〜〜〜〜!!」

さっきとは違うむずがゆさが僕を襲う。
耳たぶが赤く染まる音が聞こえたような気がした。

o川* д )o「けけ、結構言われて恥ずかしかったんだよっ!
          いくらキューちゃんがっ、かわ、かっか可愛いからってさー! もー!」

顔は赤いままだけど、キュートの声の調子は元に戻っていた。

o川;゚д゚)o「この話はもうおしまい! ね!」

(;・∀・)「う、うん……そうしよう。それがいい……」

ようやく落ち着いてきて、お互いにまともに喋れるようになってきた。

o川*゚ー゚)o「いやー、でもキューちゃんびっくりだよー」

( ・∀・)「何が?」



o川*゚ー゚)o「ひとめ惚れされたと思ったらまさかのプロポーズだもん」

( ・∀・)「」

21 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/06/28(火) 20:54:05 ID:4ZYT/PJ2

それってまさか、最初に僕がキュートを見ていたときの。

(;・∀・)「ちがっ……あれはっ、そっちが勝手にひとめ惚れだと勘違いして……!」

o川*゚ー゚)o「いいんだよ、モララー。人を好きになるのは全然恥ずかしいことじゃないんだよ!」

(* ∀ )「だああああああ!!! 違う、惚れてない!」

o川*^ー^)o「わー、照れてる照れてるー!」

(* ∀ )「えええええええい! 話を聞けえええええ!」

キュートは冷やかすような口調で煽りながら、走って僕から遠ざかっていく。
その生意気な口を塞ぐべく、レモンスカッシュを放り投げて追いかける。

(* ∀ )「大体な、僕は同じ時間を共有して、少しずつ心の距離を近づけていくタイプ……
        って、何言わせるんだああああ!」

o川*゚ー゚)o「そっちが勝手に言ってるんじゃーん!」

(* ∀ )「うっ、うるさい! 捕まえ」

言い終わる直前で、強い風が吹く。

o川*^ー^)o「ざんねーん! モララーが捕まえたキューちゃんは残像でしたー!」

(* ∀ )「うわああああ! むかつくうううううう!」

23 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/06/28(火) 20:57:03 ID:4ZYT/PJ2

どれだけの間、そうやっておちょくられていただろう。
ふと、聞こえてきたチャイムを合図に鬼ごっこは中断された。
思わずその場に座り込んで、天を仰ぐ。

o川*゚ー゚)o「おおう、もうこんな時間!」

(;・∀・)「なんでっ……呼吸ひとつ乱れてないんだよ……」

肩で息をしている僕とはまるで対照的だ。
何回も残像で逃げていたから、僕より運動量は圧倒的に多いはずなのに。

o川*^ー^)o「ふははは、モララーとは鍛え方が違うのでっす!」

腰に手を当てて胸を張り、したり顔でキュートは答える。
そう言われると、僕にも男としてのプライドがある。
ひとまず顔を下に向けて、呼吸を整え言い返す。

(;・∀・)「くっそ……そのうち絶対捕まえてやるからな……ってあれ?」

顔を上げると、さっきまでそこにいたはずのキュートはいなかった。
周囲を見渡してみても、どこにもいない。その事実を確認した瞬間だった。

o川*゚ー゚)o「キューちゃんフリーズ!」

背後から聞こえたキュートの声と同時に、冷たい何かが僕の首筋に押し当てられた。

(;・∀・)「ひょおおおおおお!!!」

24 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/06/28(火) 21:00:07 ID:4ZYT/PJ2

反射的に前方へわたわたと逃げ出すと、後ろから笑い声が聞こえてきた。
面白くて仕方ない、とでも言わんばかりの大きな笑い声。
振り返ると、両手にレモンスカッシュを持ったキュートが立っていた。

(;・∀・)「いきなり何するんだよ!」

o川*゚ー゚)o「あー、そんなこと言っていいのかなー?
        キューちゃんが、おごりで、買ってきてあげたのに?」

自分の名前と、おごったという部分を強調して尋ねてくる。
そう言われたら返す反応なんて、自然と限られてくるじゃないか。

(;・∀・)「……ごめんなさい、ありがたくいただきたいと思います」

o川*^ー^)o「むふふ、よろしい」

悪代官のような声を出しながら、右手に持ったレモンスカッシュを差し出してくる。
さしずめいまの僕は越後屋だろうか。なんてどうでもいいことを考えつつ、それを受け取った。

o川*゚ー゚)o「おぬしもワルよのう、モララー」

(;・∀・)「いつの間にジュースもらうのが罪になったんだよ、この国は」

o川*゚ぺ)o「ノリ悪いなー、もー」

25 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/06/28(火) 21:03:11 ID:4ZYT/PJ2

そう言いながら、自分のレモンスカッシュを開けるキュート。
しかし、開けた瞬間に中身が噴水のように溢れだしてきた。

o川;゚д゚)o「うひゃあっ! モララー! ヘルプミー!」

キュートが僕に助けを求めている間に、噴き出す勢いは治まった。
だけど、ずっと缶を持っていたせいで、彼女の両手はひどく濡れてしまっている。

o川;゚д゚)o「あうう……」

(;・∀・)「あーらら、ひどいなこれは。手洗ってきた方がいいぞ」

わかった、と言ってキュートは小走りで水道まで向かっていった。
その背中を見送って、自分のレモンスカッシュに視線を落とす。

( ・∀・)(買ってきたらしい時間からして、あのスピードで往復したんだろうな……)

だとすれば、当然中身は激しく振られる。
つまり、いっしょに持ってきたこれも危ない。
その証拠に、アルミ缶のはずなのに、力いっぱい缶を握ってもへこみもしない。

(;・∀・)(飲みたい……喉カラッカラだし……)

制服に被害が及ぶのを覚悟の上で、喉の渇きを癒すか否か。
小さいようで、非常に重要な決断を迫られていた。

〜〜〜〜〜〜

26 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/06/28(火) 21:06:04 ID:4ZYT/PJ2

o川*゚ー゚)o「〜♪」

水道のそばでは、まだキュートが鼻歌を歌いながら缶を拭いていた。
どれくらい僕が判断を迷っていたかは知らないけど、結構な時間が経っているはずだ。
女の子というのは、手を洗うだけでもそんなに時間がかかる生き物なのだろうか。

( ・∀・)「……」

o川*゚ー゚)o「ん、どうしたの?」

( ・∀・)「ああ……ちょっとね……」

o川;゚д゚)o「んげっ! モララーもびちょびちょ……」

僕の状況を見るなり、キュートは慌てて蛇口のそばから離れた。
数分前の彼女同様、僕の両手もレモンスカッシュまみれになっていた。

( ・∀・)「ふふふ……でも僕の卓越した炭酸抜きテクニックでどうにか半分は死守したよ……」

o川;゚ー゚)o「……なんかすごいやり切った感が出てるよ」

慎重に慎重を重ねて、少しずつ炭酸を抜いていった結果。
約半分の尊い犠牲の果てに、掴んだ勝利だった。

27 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/06/28(火) 21:09:05 ID:4ZYT/PJ2

( ・∀・)「さて……」

手と缶を綺麗に洗って、待ちに待った水分補給をしようとしたときだった。

o川*゚ー゚)o「タンマタンマ! その前にやることがあるでしょ!」

そう言ってキュートは、自分の缶を僕の目の前に持ってきた。

o川*゚ー゚)o「まずはカンパイでしょ!」

( ・∀・)「……なんで?」

o川*゚ー゚)o「そりゃー、ふたりの新しい門出に、だよっ!」

その言葉を聞いて、頭の中にひとつの結論が浮かんだ。

( ・∀・)「……ふたつ買ってきたのってそのため?」

o川*^ー^)o「そのとーりっ!」

思えば、息ひとつ乱してなかったキュートが水分を補給する必要なんてどこにもない。
中身が溢れてきたときも、ずっと持っている必要だってなかったのに。

28 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/06/28(火) 21:12:16 ID:4ZYT/PJ2

( ・∀・)「バカだなぁ、本当にバカだ」

o川*゚ぺ)o「むー! ひどーい!」

( ・∀・)「だから、やっぱり誰かがそばで見といてやらないとな」

そう言って、キュートがやってみせたように缶を差し出す。

o川*^ー^)o「……えへへ」

少し遅れてキュートの缶と僕の缶がかしん、と音を立ててぶつかった。
同時に口を付けて一気に飲み干したあと、公園の時計を見たキュートが言った。

o川*゚ー゚)o「そろそろ行こっ! もうすぐ時間だし!」

( ・∀・)「そうだね、さすがにこの時間なら大丈夫だろうし」

空き缶をゴミ箱に捨てると、キュートは軽やかな足取りで公園の出口へと向かっていく。
僕も彼女の背中を追いかけて歩き出す。真新しいローファーは、家を出たときより少し軽くなった気がした。

30 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/06/28(火) 21:16:02 ID:4ZYT/PJ2
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o川*゚ー゚)oは残像のようです ―2016 Remastered―

第一話 ディスティニー感覚

おわり












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32 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/06/28(火) 21:24:52 ID:4ZYT/PJ2
以上で今回の投下を終了します。

この作品は2010年に投下された『o川*゚ー゚)oは残像のようです』を改稿したものです。
AAや誤字脱字、地の文の細かな表現の変更はありますが、話の内容そのものの変更や追加はありません。
その代わりといってはなんですが挿絵があります。

このリマスター版は隔週で火曜20時から投下していく予定です。次回は7月12日20時となります。
私用や制作作業の都合で予定に変更があった場合はお知らせします。

また、このリマスター版のメイキングをブログで随時公開していきます。
没になった絵やラフや、ちょっとした裏話が見れます。
興味のある方はhttp://afterimage411.blog.fc2.com/までどうぞ。

最後になりましたが、質問や感想のある方は気軽に書いていってください。

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