o川*゚ー゚)oは残像のようです ―2016 Remastered―

第二話 ため息つく顔は笑っている

43 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/12(火) 20:03:29 ID:l2A6C.So

窓際の列の、ちょうど真ん中の席から外を眺める。
校舎に半分ほど隠れてしまっているが、さっきの桜の木が見えた。
入学式の呼び出しを待つ教室は、想像していたよりもずっと静かだ。

「――なんだよな! それでさ――」

ときおり耳に入ってくる会話は、どれも親しげに聞こえる。
きっと同じ中学の知り合いや、友達に違いないだろう。
そうでもなければ入学早々、仲良さげに話しかけてくる人間なんていない。



o川*゚ぺ)o「ねーえー、ちょっとモララーこっち見てよー。
       こんな美少女と超至近距離で見つめ合って会話できるんだよ?
       それなのに外ばっか見てるってどういうことー?」



ひとつ前の席から振り返って、僕の机に突っ伏してすねているキュート以外は。

44 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/12(火) 20:06:13 ID:l2A6C.So
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o川*゚ー゚)oは残像のようです ―2016 Remastered―

第二話 ため息つく顔は笑っている













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45 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/12(火) 20:09:12 ID:l2A6C.So
〜〜〜〜〜〜

o川*゚ー゚)o「んーっ……なんで校長先生ってあんな長く話せるんだろうねー」

入学式を終えて、体育館からの帰り道。
大きく伸びをしたキュートが振り返って呟く。

( ・∀・)「それより男女に分かれて並んでたのに、なんでキュートが僕の前にいるのか。
      その理由の方がよっぽど気になるね」

o川*゚ー゚)o「バレた? てへっ」

自分の頭を軽く小突いて、ドジっ子だとでも言わんばかりのリアクションを取ってみせる。
誰も注意しないのはあまりに自然すぎたからか。
それとも、面倒くさいことになるのを察知したからか。

( ・∀・)「しょっぱなから好き勝手やってると友達出来ないぞ」

o川*゚ー゚)o「いーもん、モララーがいるもんっ」

あっさりそう言い放つと、前へと向き直る。
正直、たくさんいてくれた方が僕の負担も減ってありがたいんだけど。

( ・∀・)(あんま期待してないけどさ……)

列の前方へと視線を向け、ざっと後ろまで見渡してみる。
いろんな場所から来ているだけあって、同級生たちの人となりも様々だった。
この中に、どれだけ彼女を理解してくれる人間がいるだろうか。

46 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/12(火) 20:12:13 ID:l2A6C.So

〜〜〜〜〜〜

(゚、゚トソン「今日から皆さんの担任になります、トソンといいます。
       私も今年からこのVIP高校に赴任してきたので、皆さんと同じ一年生です。
       お互い助け合って学校生活を送っていきましょう」

教室に大きな拍手の音が鳴り響く。
トソン先生が若くて凛とした美人だからだろうか。
特に男子の拍手が大きく聞こえる。

(゚、゚トソン「それでは、出席を取るのも兼ねて自己紹介をしてもらおうと思います。
       名前を呼ばれたら立ち上がって返事と、趣味や特技を教えてください」

( ・∀・)(ついに来た……)

これからの高校生活を左右するといっても過言ではない自己紹介。
僕は当たり障りのない自己紹介をするとして。

o川*゚ー゚)o「トソン先生美人だねー、綺麗な人のお手本って感じ!
        キューちゃんかわいい系だから被らなくてよかったよー」

いまだに呑気に話しかけてくるキュートはどうしようか。

47 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/12(火) 20:15:15 ID:l2A6C.So

すでに何人かは自己紹介を終えていた。
この調子では、そう遠くないうちにキュートの番が回ってくる。
自己紹介の邪魔にならないように、小声で耳打ちする。

( ・∀・)「なあ、キュートはなんて自己紹介するんだ?」

o川*゚ー゚)o「えー? 残像のこと」

当たり前のように言ってのける。
どうも、よっぽど自慢の特技らしい。
しかし、それだけは言わせるわけにはいかない。

( ・∀・)「いや、それ以外で」

o川*゚ー゚)o「えーっと……思いつかない」

いままでどんな生活をしてきたら、残像以外思いつかなくなるんだろうか。

(;・∀・)「残像じゃいろいろまずいからさ、なんとか他の……」

o川*゚ぺ)o「別に言ってもいいじゃん、モララーのけちんぼ!
       わかった! キューちゃんを独り占めしたいんだなっ!
       草食系な顔して心はオオカミさんなのねっ!」

キュートは頬を膨らませると、自分の席の方へ向き直ってしまう。
どうやったら僕の発言をそんな都合よく捉えられるのか。
そんなことを考えてあきれ返っていたときだった。

48 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/12(火) 20:18:07 ID:l2A6C.So

(゚、゚トソン「それでは……素直キュートさん」

トソン先生の澄んだ声が、キュートの名前を呼んだ。

結局、キュートは聞く耳を持ってくれなかった。
こうなってしまったら、もう僕に出来ることはない。
あとは彼女の心変わりに祈るしかなかった。

(;・∀・)(頼む! 急に気が変わってくれ!)

効果があるかは分からないけど、両手を合わせて力を込めた。
椅子をがたんを鳴らして、キュートが勢いよく立ち上がる。
公園で聞いたのと同じ、よく通る声で自己紹介を始める。

o川*゚ー゚)o「素直キュート、シベリア中学出身でっす!」

(;>∀<)(神様あああああああっ!)

ぎゅっ、と目を閉じて、合わせて両手を額に当てて祈る。
ここまで真剣に、自分以外のために神様に祈ったのは初めてだった。

49 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/12(火) 20:21:08 ID:l2A6C.So

「特技は残像でっす!」

僕が目を閉じるか閉じないかという瞬間、床を強く蹴る音が。
そしてキュートの声が、はるか前方から聞こえた。

(;・∀・)「……」

おそろおそる目を開けると、飛び込んできたのは。



(゚、゚;トソン



唖然とした表情のトソン先生と。



o川*゚ー゚)o



その眼前に立つキュートの姿だった。

50 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/12(火) 20:24:10 ID:l2A6C.So

何が起こったのか、教室のみんなはまだ理解出来ていないのだろうか。
教室はキュートの声を最後に、完全な無音になった。
隣の教室の声が、はっきり聞き取れるほどに。

(;・∀・)(おいおい……洒落にならないぞ……)

誰かが騒ぎ出したら、みんな一斉にパニックになってもおかしくない。
そうなれば、キュートに危険が及ぶ可能性だってありえる。
そうなる前に僕がしなくてはいけないことは、ただひとつ。

(;・∀・)(キュートを連れて……ここから逃げる!)

そう思った瞬間、無意識のうちに僕の体は勢いよく立ち上がっていた。
誰よりも速く彼女の元へたどり着こうと、全力で床を蹴って駆け出していた。
味方として、大勢の敵から彼女を守るために。

(;・∀・)「キュー……」

僕に気付かせようと、名前を呼ぼうとしたときだった。

「すっげえええええええええええええええええええええええええ!!!」
「かっこいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
「かっこかわいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
「謎の美少女ktkr!! 戦いに巻き込まれてその中で愛が芽生えるフラグktkr!」

(;・∀・)「うぼあああああああああああ!!」

後ろから迫ってきた歓声と人の波に、僕は飲み込まれた。

51 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/12(火) 20:27:21 ID:l2A6C.So

(;・∀・)「なんだこれ……」

キュートのいた場所に出来た人混みを、僕は呆然と見ていることしかできなかった。
もう誰も机に座ってなんかいない。
クラス中の人間がキュートの元へ集まっていた。

「どうやったの!? いまのどうやったの!?」

「なんで出来るの!?」

「キュートさん可愛いね! 連絡先交換しようよ!」

中心にいるであろうキュートに、次々と質問が投げかけられる。
しかし、声と声が重なり合って、まともに聞き取れるのはごく一部だ。
静まり返っていた時間を取り戻すかのように、教室は喧騒に包まれていた。

「地面を思いっきりばーんっ!!! って蹴るの!」

「もうこれで歩けなくなっても構わないという覚悟したからっ!」

「こらー! いくらキューちゃんがかわいいからってあんまりがっついたら……めっ!」

それでも、キュートが慣れた様子で質問を捌く声が、ときおり聞こえてくる。
どうやらすべての質問を聞き分けて答えているらしい。

(;・∀・)(聖徳太子の専売特許が……)

52 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/12(火) 20:30:20 ID:l2A6C.So

(゚、゚;トソン「な、なななななんですかあの子は……」

完全にパニック状態のトソン先生が、僕に問いかける。
さっきまでのクールな雰囲気はすっかり失せてしまっている。

(;・∀・)「あ……ちょっと残像が出せるらしいです……」

我ながら何を言ってるんだろう、とは思うけど、こう説明するしかなかった。

(゚、゚;トソン「そそそそんなことありえなくぁwせdrftgyふじこ」

(;・∀・)「先生えええええええ! 気をしっかり持って!」

卒倒してしまった先生を慌てて支える。
こんなことになるなら、もっと遠まわしに説明すればよかったかもしれない。

(;・∀・)「ど、どうしよう……」

先生はこの調子だとしばらく目を覚まさないだろう。

「頑張って能力に目覚めるので付き合ってください!」

「女の子同士でも構わないと思います!」

(;・∀・)「……」

そうなると、質問タイムを終わらせる人がいない。

53 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/12(火) 20:33:12 ID:l2A6C.So

(;・∀・)「とりあえず先生を保健室に連れていこう……」

かなり予想外だったけど、キュートもあの様子なら大丈夫だろう。
賑わう人混みを横目に、先生をおぶって教室を出た。

〜〜〜〜〜〜

「キューちゃんお昼食べよー!」

o川*゚ー゚)o「いいよー!」

キュートの席に椅子と昼食を持った女の子たちが集まってくる。
そして、楽しげな声がすぐに飛び交い始めた。
これが噂のガールズトークというやつだろうか。

( ・∀・)「……」

その様子を眺めながら、パンを頬張る。
ふと、窓の外へ視線を移してみた。
公園の桜の木は、すっかり新緑に染まっていた。



あの波乱の入学式から、一ヶ月が経っていた。

54 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/12(火) 20:37:05 ID:l2A6C.So

「おいおい、なーに枯れてるんだよ?」

後ろから聞こえた声に振り返ると、鮮やかな金髪が視界の隅で揺れた。
こんな派手な頭をした知り合いなんて、僕はひとりしか知らない。

( ・∀・)「……なんだ、ジョルジュか」
  _
( ゚∀゚)「んな心底どうでもよさそうに言うなよ」

そう言いながら、ジョルジュは近くの誰もいない席から椅子を持ってくる。
そして、僕の机の横までやってくると、どっかりと腰掛けた。



( ・∀・)「お前は僕よりキュート目当てだろ……」
  _
( ゚∀゚)「いやいや、ちゃんとモララー目当てだぜ?
      ただ、ときどきキューちゃんに目がいっちまうだけだ」

(;・∀・)「さっきから話しかけるとき以外はずっとキュート見てるくせに!」

話すのが得意じゃないから、こうやってよく喋ってくれるのはありがたいのだけど。

55 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/12(火) 20:39:09 ID:l2A6C.So
  _
( ゚∀゚)「しっかしまあ……」

( ・∀・)「なんだよ?」

キュートの背中を見つめながら、ジョルジュが呟く。
ついに話しかけるときも僕を見なくなったか。

  _
( ゚∀゚)「最近はキューちゃんといっしょにいないよな。
      これじゃせっかくモララーと仲良くなったのに、キューちゃんとお近づきになれないぜ……」

(;・∀・)「やっぱりキュート目当てじゃんか!」
  _
( ゚∀゚)「いや、モララーはいいやつだし、好きだぜ?
      でも、キューちゃんの方がもっと好きなだけだ」

(;・∀・)「弁明になってない!ぜんっぜんなってない!」

最近はキュートといっしょにいない、というのは本当だ。
入学式での一件以来、キュートはあっという間にクラスの人気者になった。
彼女の周りに人だかりが絶えなくなるまで、そう時間はかからなかった。

最初は僕といっしょに昼食を食べたりしていた。
だけどいまは、もっぱら女友達と食べるようになっている。
キュートと接する時間は、目に見えて減っていた。

56 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/12(火) 20:42:22 ID:l2A6C.So
  _
( ゚∀゚)「そんなモララー大好きっ子な俺から、言いたいことがある」

ジョルジュが急に真面目な顔になって、話を切り出した。

( ・∀・)「……?」
  _
( ゚∀゚)「お前が枯れてるって言ったろ? 別に冗談で言ったわけじゃないぜ」

何を言ってるのか、いまいち分からない。
それを知ってか知らずか、ジョルジュは話を続ける。
  _
( ゚∀゚)「最近のモララーは何か違うんだ。
      何が違うか、って聞かれても上手くは言えないけどな。
      ただな、キューちゃんといっしょにいなくなったころから、そんな感じがする」

( ・∀・)「……」

そんなことはないと思ってはいても、どうしてか口には出せなかった。
騒がしい教室の中で、僕らの間にだけ静寂が訪れる。
  _
( ゚∀゚)「ま、俺にはそう見えるってだけだ」

しばらく経って、ジョルジュはそう言って話を切り上げた。
真面目だった顔は早々に崩れ、いまはニヤニヤしながらキュートの背中を見ている。

57 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/12(火) 20:45:07 ID:l2A6C.So

特に何もすることがないので、僕もなんとなくキュートの方へ視線を向ける。
栗色の髪の向こうに、楽しそうに喋る横顔がちらりと見えた。

( ・∀・)「……」

僕はどうして、ジョルジュに何も言えなかったんだろう。
そんなことはない、と口に出せば、すべて否定してしまうからだろうか。

( ・∀・)「……」

僕は何を否定することを恐れたんだ。
僕が最近枯れているということか。
枯れていないとしても、何か違うということか。

( ・∀・)        o川*゚ー゚)o

キュートといっしょにいなくなったころから、ということか。
否定してしまえば、キュートがいなくても平気だということになってしまうからか。

59 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/12(火) 20:48:10 ID:l2A6C.So

「あー、ジョルジュがニヤニヤしながらこっち見てるー」

「やーらしー」

前から聞こえてきた声に、ふと我に帰る。
キュートといっしょにいた女の子たちがこちらを見ていた。

  _
( ゚∀゚)「いやいや、誤解だって。別にいやらしいことは考えてない。
      ついみんなのかわいらしさに見惚れてしまっていたんだ」

「どーせキューちゃんばっか見てたんでしょ? ちぇー」

十割が嘘でできている、ジョルジュの軽妙な言い訳が炸裂する。
もちろん通用せず、女の子のひとりがつまらなさそうに唇を尖らせた。
これもジョルジュの端正な顔立ちと、明るい性格の為せる技か。

o川*゚ー゚)o「こーらー、キューちゃんはいくらでも見つめていいよ?
        でも、キューちゃんのお友達に迷惑かけちゃ、めっ!」

当の本人は相変わらずの鬱陶しさを発揮している。
この性格で同性と仲良くなれるものなんだろうか。
女の友情というのは、かなりどす黒いイメージがあるのだけど。

o川*゚ー゚)o「お? もしかしてモララーも見惚れちゃってた系?」

ジョルジュたちのやり取りを横目に見ていた僕に、キュートが話しかけてきた。

60 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/12(火) 20:51:13 ID:l2A6C.So

(;・∀・)「系も何も、最初っから見惚れてません!」
  _
( ゚∀゚)「すっかり夢中でぼーっとしてたくせに」

(;・∀・)「考えごとしてただけだ!」

ジョルジュが意地の悪い笑みを浮かべながら、僕を巻き添えにしようとしてくる。
勘弁してくれ。僕はお前みたいに顔も良くなければ、社交的でもないんだ。
女子から好意的な反応ばかり返ってくるような人種じゃないんだ。

o川*゚ー゚)o「な〜に考えてたのかにゃ〜?」
  _
( ゚∀゚)「『僕、キューちゃんがいないとさみちいよぉ〜』とかじゃね?」

(;・∀・)「僕の心の内を捏造するなあああっ!」

ジョルジュとまったく同じ笑みを浮かべたキュートが、わざとらしく聞いてくる。
それに僕の声真似だろうか、妙に甲高い声でふざけた返答をするジョルジュ。

o川*゚ー゚)o「やっぱりかー、でも仕方ないね。
        モララーはもうキューちゃんなしじゃ生きていけない体だもんね」
  _
(;゚∀゚)「Oh……Morara is not cherry boy……」

(#・∀・)「しれっと誤解を招くような発言をするなあああああ!!」

61 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/12(火) 20:54:32 ID:l2A6C.So

o川*^ー^)o「あははは、ゴメンゴメン」
  _
( ゚∀゚)「可愛いフリしてモララー割とやるもんだねと〜♪アハハハハハ」

(;・∀・)「戻ってこいジョルジュううううう!!」

キュートと関わると、途端に僕の日常は賑やかになる。
僕が否定したくなかった何かの、輪郭に触れたような気がした。

( ・∀・)「……」

o川*゚ー゚)o「……」

〜〜〜〜〜〜

(゚、゚トソン「それではこれでHRを終わります」

トソン先生の声を皮切りに、教室の静寂が破られる。
入学してすぐのころ、騒ぎすぎたキュートに先生が本気で怒って以来、HRはずっとこんな調子だ。

( ・∀・)(キュートを誘って帰るか……)

元々はキュートが、

o川*゚ー゚)o『キューちゃん美少女だからなにかあったら困るでしょ!?
        だからいっしょに帰ろうよ! ポロリもあるかもよ!?』

とか言っていたから渋々いっしょに帰っていた。
しかし、最近は女友達数人と帰るようになっていた。

62 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/12(火) 20:57:09 ID:l2A6C.So

それはそれでよかった。よかったんだけど。

(;・∀・)(ジョルジュのせいだ……)

昼間のジョルジュの指摘のせいか、何だかもやもやする。
その正体を確かめるには、キュートと接触するのが手っ取り早い。
そう結論付けて、放課後に至ったわけだ。

( ・∀・)「なあ、キュート」

o川*゚ー゚)o「なあに? 写真なら撮っていいけど売っちゃダメだよ?」

帰り支度をしているキュートに声をかける。
反応はしてくれたけど、余計かつイラッとくるひと言が付いてきた。
いつもならツッコんでやるけど、今回は話をさっさと進めたいから無視する。

( ・∀・)「何も予定が無いならいっしょに」

「キューちゃんいっしょに帰ろー!」

「駅前の美味しいスイーツのお店行こう!?」

「こないだ雑誌に出てたとこ! 行きたいって言ってたよね?」

僕の声は、割って入ってきた、より大きな声にかき消された。

63 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/12(火) 21:00:14 ID:l2A6C.So

「あ、ごめんモララーくん。なにか話してた?」

(;・∀・)「ああ、いや……いいんだ。たいした用事じゃなかったし」

勢いに気圧されて、ついそう答えてしまった。
みんなそれを聞いて満足したのか。
キュートを囲んで、早く行こうと催促する。

o川;゚ー゚)o「え……あ……」

キュートは困ったように僕を見つめながら、半ば強引に連れていかれてしまった。
その姿が教室のドアの向こうに消えてから、誰にも聞こえないように呟く。

( ・∀・)「……ひとりで帰るか」

きっとこれでよかったんだろう。そうに決まっている。
気の合う女友達を大事にすることは、間違ってなどいない。
あれこれ考える前に、鞄を肩に抱えて教室を出た。

( ・∀・)(綺麗だ……)

校門を出たところで、空を見上げてみた。
真っ赤な夕日が、目に沁みるほどに輝いていた。

64 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/12(火) 21:03:20 ID:l2A6C.So

おもむろに夕日の方へと歩き出す。
目的は公園前の自販機のレモンスカッシュだ。
晴れない気分を、文字通りスカッとさせてくれるだろう。

「おーい!!!」

そんなことを考えていた矢先に、背後から聞き覚えがある声が聞こえた。
直後、一陣の風と共に、何か柔らかいものが背中にぶつかる。
そして、首に回された白い腕と、耳のすぐ横から聞こえる声は。





o川*゚ー゚)o「つっかまえた! ふいー、間に合ってよかったー!」

キュートのものだった。

65 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/12(火) 21:06:13 ID:l2A6C.So

身長の関係上、必然的に僕は後ろへのけぞるような体勢になる。
しかし、そんなことはお構いなしと言わんばかりに、キュートはまくしたてる。

o川*゚ー゚)o「いやね、さっきなに言おうとしてたか気になって気になって。
        それにお昼も元気無さそうで変だなって思ってたし。
        だから今日はゴメンってお誘い断って追いかけてきちゃった」

そう話すキュートの吐息は少しばかり荒れている。
そんなに急いで追いかけてきたんだろうか。
たったそれだけのことを言うために。

o川*゚ー゚)o「それで? このキューちゃんにどんな恋の相談?
        実はキュートのことが……なんて展開でもオッケーだよっ!」

(  ∀ )「……なんで」

o川*゚ー゚)o「ふぇ?」

(  ∀ )「なんで僕なんか追いかけてきたんだよ。
         他に仲のいいやつなんてたくさんいるだろ。
         そっちを大事にした方がいいよ」

人の気も知らずにいつも通りのキュートにいらついて、語気が強くなってしまう。
それを聞いたキュートは、首に回した腕をほどくと、僕の正面に回ってきた。

o川*゚ー゚)o「なんでって……モララーはわたしの味方でしょ?」

(  ∀ )「……ああ」

もう必要ないだろうけど、と続けようとしたときだった。

67 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/12(火) 21:09:08 ID:l2A6C.So

o川*゚ー゚)o「だったらわたしもモララーの味方だよ。味方が困ってたら助けるでしょ?
        まあ、そもそも困ってるのか全然わからないけど」

( ・∀・)「……」

o川*゚ー゚)o「んー、それにモララーは他の人と違うってゆーか……」

o川*^ー^)o「うまく言えないけど……特別だよ」

ひとしきり悩んで見せたあと、満面の笑みでそう言い切った。
この一ヶ月で僕はすっかり忘れていたようだ。キュートはバカなんだ。
特別な、大切な人間のためなら、損得も考えずに動いてしまうような。

そして、どうやら僕は、彼女にとって特別な存在だったらしい。

( ・∀・)「……キュート」

o川;゚ー゚)o「ま、またプロポーズ?」

( ・∀・)「ありがとう。悩みなら……もう解決したよ」

o川;゚ー゚)o「えー? キューちゃんなにもしてないよ?」

分からなくても、確かにしてくれたよ。

68 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/12(火) 21:12:29 ID:l2A6C.So

「お礼にレモンスカッシュおごってやるよ」

「も、もしかしてあとで『代金は体で払ってもらうぜ……ぐへへ』とか?」

「はあ……何をどうしたら、そんな結論になるんだよ?」

「……ぷぷっ」

「いや、いまの言葉のどこに笑う要素があった?」

「モララーって変だね」

「なんで?」

「だって……」








「ため息ついてるのに笑ってるんだもん」

69 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/12(火) 21:15:05 ID:l2A6C.So
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o川*゚ー゚)oは残像のようです ―2016 Remastered―

第二話 ため息つく顔は笑っている

おわり












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