ξ゚听)ξ幽霊裁判が開廷するようです

番外編:連れ去り罪

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342 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 22:46:28 ID:rk55VhTcO


从´ヮ`;从ト「──鵜束様、大丈夫ですか……」

( ^ν^)「ああ」

 洞穴。
 狸娘の住み処だという岩屋に、ニュッは座っていた。

 真昼でも暗闇を湛える空洞の中、ランプの灯りが辺りを照らす。
 そのランプを、狸娘がニュッの腕に近付けた。

 肘の下から血が垂れている。
 他にも、頬や手首に擦り傷が出来ていた。

从´ヮ`;从ト「申し訳ございません、私の注意が足りないばかりに……」

( ^ν^)「注意してなかったのは俺の方だ」

 この洞穴へ向かう途中で、足場が崩れたのだ。
 大した高さから落ちたわけではないので怪我も軽く済んだが、
 責任でも感じているのか、狸娘は泣きそうな顔で、まるで大怪我でも負ったかのように扱ってくる。

343 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 22:47:18 ID:rk55VhTcO

从´ヮ`;从ト「少々お待ちください」

 ニュッに背を向け、彼女は脇に置かれた用箪笥を漁り出した。

 その背中から目線を下げて、ランプを観察する。
 複雑な細工が施されており、上等な品であるのが分かる。

 別の場所へ目を向ければ、和箪笥やら文机やら、高そうな調度品が揃っている。
 ニュッが座らされているのは布団の上なのだが、その布団も決して安物ではない。

( ^ν^)「……随分とご立派な暮らしぶりのようだな」

从´ヮ`从ト「昔は、時おり人間様を化かして高級品を得ていたものでした。
       おばけ法が制定されてからは出来なくなりましたので、
       昔のものを大事に使っております」

( ^ν^)「ふうん……」

 水瓶に浸した手拭いで傷口を拭い、狸娘は包帯やら何やらを膝の上に置いた。
 傷薬らしい瓶の蓋を開けようとしていたので、その手を包むように押さえる。

344 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 22:48:21 ID:rk55VhTcO

从´ヮ`*;从ト「きゃっ。ど、どうなさいました?」

( ^ν^)「手当ては後でいい」

从´ヮ`;从ト「しかし……」

 狸娘は首を傾けた状態でニュッの肘と顔を見比べ、やがて目を伏せ頷いた。
 薬と包帯を用箪笥に戻し、ニュッの隣に寄り添う。

 山の中は静かだが、洞窟の中ともなると、ますますひっそりしている。
 ひやりと冷えた空気が肌をくすぐり、その冷気から逃れるように、狸娘はニュッの肩に頭を凭れさせた。

 たおやかな手が、ニュッの手に重ねられる。

 ニュッが拒まずにいると、彼女の手はゆっくりと滑り、
 手首から腕を辿って、胸元に添える形で一旦止まった。

345 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 22:49:22 ID:rk55VhTcO

从´ヮ`*从ト「……鵜束様……ああ、私、こんな気持ちになったのは初めてでございます……。
       あなた様といると、どきどきして堪らなくって……」

 細い指がループタイの紐をなぞって上がる。
 留め具を撫で、それから、躊躇いがちにニュッの喉に触れた。
 首筋へと添えられた手に従い、ニュッは顔を傾ける。

 ランプの光を反射する狸娘の瞳は、熱に潤んでいた。

从´ヮ`*从ト「あなた様の命令ならば何だって聞きましょう。
       ですから、どうか私を──お傍に置いてくださいまし……」

 ニュッもまた、片手で狸娘の髪に触れ、頭のてっぺんで揺れる耳の付け根をそっとつまんだ。
 目尻を赤く染める彼女に、小さく笑いかける。


( ^ν^)「──2人きりになりゃあ、こうやって色仕掛けから始めんだろうなと思ってた」

从´ヮ`从ト「……鵜束様?」

346 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 22:51:12 ID:rk55VhTcO

( ^ν^)「本当に俺の言うこと聞くっつうんなら、まず嘘つくのをやめろ」

从´ヮ`从ト「何を……」

 手を離し、狸娘は僅かに距離をあけた。
 表情も、声も、訝しい。

 ニュッは耳から手を離さずに、口角を吊り上げる。
 強めに引くと、狸娘が悲鳴をあげた。

从´ヮ`;从ト「痛っ……!」

( ^ν^)「これ、狸の耳じゃねえな」

从´ヮ`;从ト「え……」

( ^ν^)「虎耳状斑がある」

从´ヮ`;从ト「こ、こじじょうはん……?」

347 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 22:52:48 ID:rk55VhTcO

( ^ν^)「トラだのライオンだの──ネコ科の動物の多くに見られる、
       耳の後ろの白い模様のことだ。
       狸はイヌ科だから、こんな風に白くはならねえ」

 ──強い力で、ニュッの手が叩き落とされた。

 狸娘は、はっとした顔でニュッの手を見下ろし、すぐに先のような困り顔になった。
 反対にニュッは笑みを深める。

从´ヮ`;从ト「み、耳が痛くて、思わず叩いてしまいました……ごめんなさい……。
       ……それで、えっと、私の耳の裏が白い──のでしたね?
       自分の耳の裏など見たことがないので分かりませんが、
       たまたま、そういう毛色になっているだけではありませんか?」

( ^ν^)「素直にゃ認めねえか。
       足跡の話もしてやろうか?」

从´ヮ`;从ト「足跡が何だというのです」

348 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 22:54:58 ID:rk55VhTcO

( ^ν^)「さっき俺が見た足跡はどうやらお前のものらしいが、
       あれには爪の跡がなかった」

从´ヮ`;从ト「……」

( ^ν^)「ネコ科の動物は爪をしまえるから爪の跡がつかねえが、
       イヌ科の動物は爪が出っぱなしだからな、足跡には爪の形も残る。
       さっきも言ったが狸はイヌ科だ」

从´ヮ`;从ト「鵜束様が──見逃しただけでしょう。
       でなければ、私以外の者もあそこを通っていたのかもしれません」

( ^ν^)「足跡はこの洞穴の方向から来てたぞ。
       それでも認められないなら、ここの出入口の地面を見てこようか。
       お前の住み処なんだから、そこにあるのはお前の足跡だろう」

从´ヮ`;从ト「それは……」

( ^ν^)「まあそんな面倒なことしなくても、
       お前が今すぐ俺の目の前で元の姿に戻ればいい話なんだが」

 狸娘は俯き、黙った。
 諦めたか。つまらない。

 しかしニュッが身じろぎすると、はたと顔を上げ、腕に縋りついた。

349 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 22:57:13 ID:rk55VhTcO

从´ヮ`;从ト「私の名前を見たでしょう! たしかに『狸』と書いてありました!
       人間様はあまり実感がないでしょうが、我ら妖魔にとって、
       名というのは存在そのものを表していて──」

( ^ν^)「本来『狸』という字に『タヌキ』って意味は無い」

 ──肘の傷口に狸娘の指先が食い込み、顔を顰めた。

 狸娘の瞳はニュッの口元に向けて据えられ、ぴくりとも動かなかった。

( ^ν^)「元々あの字はヤマネコ辺りを指すものだ。
       ──実際、仙狸っつう妖怪がいるが、それは山猫の妖怪だし」

从´ヮ`从ト「……」

 耳が揺れる。
 ニュッが喋るごとに、彼女の目から温度が失せていく。
 愉快だ。この変わり身。あの生意気な中学生を思い出す。

( ^ν^)「さて、ここで疑問が湧くな?
       何でお前が俺らに素性を隠そうとしたか、だ」

351 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 22:59:39 ID:rk55VhTcO

( ^ν^)「無意味に嘘をついてもメリットがない。
       ならば、自分をタヌキだと偽る必要があったから、そうしたわけだ。
       じゃあ何故その必要があったか……」

从´ヮ`从ト「……鵜束様、先程より饒舌でいらっしゃいますのね」

( ^ν^)「悪いな、楽しくて仕方ねえんだ。
       ……お前は、タヌキでなければならなかった──いや、タヌキでもキツネでもいいが、
       『ヤマネコであってはいけなかった』んだ」

( ^ν^)「山に入ったネーノが迷い家に遭遇した。
       迷い家から子犬を連れ帰ったために、ネーノは富を得た。
       ──そういう『設定』になってたからな」

从´ヮ`从ト「鵜束様」

 幾分か低めた声に遮られる。
 既に、先までの熱っぽさは鳴りを潜めていた。

 傷口を抉るように、また指先に力が込められる。
 ニュッが痛みに呻くと、狸娘は表情を緩めてみせた。

352 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 23:00:46 ID:rk55VhTcO

从´ヮ`从ト「今、この状況で……よくもまあ、それほどお喋り出来ること」

( ^ν^)「……お前は俺に危害を加えられない」

从´ヮ`从ト「どうして決めつけられますの」

( ^ν^)「俺とお前が一緒に山に行くことを、第三者に知られてる。
       山に行った俺が無事に帰らなければ、お前が怪しまれるのは明白だろう」

 狸娘はしばし目を閉じ、それから、満面の笑みでこちらの顔を覗き込んだ。
 じくじくと傷が痛む。平素ならば引っ叩くところだが、
 今は、そうしてはならない。

354 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 23:01:57 ID:rk55VhTcO

从´ヮ`从ト「嫌なお方。
       でもね鵜束様、この山には、私以外の妖怪だっていますのよ。
       狐にでも頼んで、鵜束様に化けてもらうことも出来ましょう」

( ^ν^)「それも無理だな。
       山を出た後に、照屋に血を飲ませてやると約束した。
       血を吸われれば一発でバレるぞ」

从´ヮ`从ト「鵜束様になりすました狐に、こう命令させましょうか?
       『他の人間の血を吸っていいぞ』、なんて」

( ^ν^)「……あー……そりゃ手放しで受け入れるだろうな、あの馬鹿なら」

 参ったな、と呟き、頭を掻く。
 狸娘はおかしそうに笑うと、ニュッに寄り掛かり、口を大きく開いた。
 口の端で、牙がきらりと光る。

 首を噛まれるのは慣れているが、まあ、噛み方が違うだろう。

从´ヮ`从ト「考えが足りませんでしたのね……可哀想な人」

( ^ν^)「いや、まあ、どのみち助かる気ではいるんだがな」

从´ヮ`从ト「強がり」

 馬鹿みたい。

 狸娘がそう呟いた、──

355 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 23:02:46 ID:rk55VhTcO


 そのときである。


ζ(゚Д゚*;ζ「ごは─────ん!!」


 馬鹿が馬鹿な掛け声と共に飛び込んできた。


.

356 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 23:04:26 ID:rk55VhTcO

从´ヮ`;从ト「なっ!?」

ζ(゚Д゚;ζ「あ!? ……はっ!?
      あっ……ちくしょう!! ニュッさんの匂いですか!!」

( ^ν^)「遅ぇしうるせえし最悪な登場だな」

从´ヮ`;从ト「あっ!!」

 意識が逸れた隙に、狸娘を突き飛ばした。
 俯せに倒れた彼女の腕を、後ろ手に掴む。

357 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 23:05:07 ID:rk55VhTcO

( ^ν^)「照屋」

ζ(゚、゚;ζ「くっそ……くっそう!! 血の匂いを辿ってみれば正体がニュッさんとは!
      怪我をした登山者に優しい眼差しで近付き
      『あらあら痛そうですね、つば付ければ治りますよ』ってな流れで血を舐めてあげる計画がぁあ……!!」

(#^ν^)「照屋ァ!!」

ζ(゚、゚;ζ「あっ、はい。何でしょう」

(#^ν^)「手錠しろ手錠!」

ζ(゚、゚;ζ「え……──わ、分ッかりました!」

 行動は早い。
 言われた通りに、デレは手錠符を狸娘の両手首に巻きつけた。

 よく分かりませんが拘束札じゃなくていいんですか、と問うデレに、首を横に振る。
 まだ話は終わっていない。

 狸娘はしばらくもがき、やがて諦めたか、おとなしくなった。
 それを放って、首を傾げるデレに一連の事情を説明しておく。

358 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 23:06:32 ID:rk55VhTcO

ζ(゚、゚;ζ「──はあ、ヤマネコ……?
      あ、そうだニュッさん、さっきニューソさんから電話がありました」

( ^ν^)「何て言ってた」

ζ(゚、゚*ζ「ネーノさんの口座を調べたら、ここ半年の間に結構な額が何度か入ってたそうです」

( ^ν^)「半年な……。
       ネーノは、一ヶ月前に犬を拾ってから昇給やら宝くじやらで金が舞い込んだと言ってたんだよな?」

ζ(゚、゚*ζ「でもよくよく調べてみると、そんな事実はなかったんですって。
      出どころ不明のお金がたくさん……」

( ^ν^)「この山で稼いだだけだろ」

ζ(゚、゚*ζ「山?」

359 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 23:07:34 ID:rk55VhTcO

( ^ν^)「えげつねえ商売だ。
       ──半人半獣の化け物を作って、売りさばいてたってとこか」

ζ(゚、゚;ζ「作っ……」

从´ヮ`从ト「……」

 デレは絶句し、狸娘を凝視し、それからニュッを見た。
 何かに気付いたような顔だった。

ζ(゚、゚;ζ「……ニューソさんからの報告がもう一つあります。
      ヴィップ町の方に確認をとってみたところ──
      あの、詐欺罪の証人として呼ばれたっていう少年は、
      このN県からA県に流れ着いたんだそうです」

360 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 23:08:31 ID:rk55VhTcO

ζ(゚、゚;ζ「もしかして、その子もここで?」

( ^ν^)「多分。管理が行き届かなくて逃げられたのか、
       それとも売られた先から逃げ出したのか──まあ知ったこっちゃねえが」

 あの少年には、おばけとしての面と、人間としての面があった。
 つまりはどちらの血も入っている。

 犬の妖怪と人間によって作られた子供だ。
 どうやったか知らないが、上手いこと互いの要素を半々の割合にして。

 人間としての血があるから、普通のおばけのように姿を消すことが出来ない。
 霊感がない者にも視認することが出来る。
 ──誰にでも見える、化け物。欲しがる人間はきっといる。

 この山で、狸娘を始めとした妖怪達はそういった化け物を生み、売っていたのだ。

361 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 23:09:26 ID:rk55VhTcO

 デレは口元に手を当て、眉間に深い皺を刻んだ。

ζ(゚、゚*ζ「ネーノさんは……」

( ^ν^)「協力者だな。種を提供してたのか、それとも流通の確保か、はたまた両方か。
       あいつ1人で出来るとは思えねえし、人間の協力者は他にもいるだろうよ」

从´ヮ`从ト「……推測ばかり話していますけれど……
       ネーノさんが連れ帰った子供には人間の血が入っていないと、説明しましたでしょう」

( ^ν^)「あのガキの血を一滴もらって、照屋に舐めさせりゃ分かる」

ζ(゚、゚;ζ「そりゃ分かりますけど、ちょっとやだなあ……」

 狸娘が舌打ちし、目を逸らした。
 観念したような表情。ぞくぞくする。
 これが堪らないのだ。犯罪者が逃げ場をなくして屈する姿が。

ζ(゚、゚*ζ「……こういうときのニュッさんの顔が、一番悪人くさい」

 自覚はしている。

 携帯電話を見てみると今度は普通に電源が入ったので、にやつきながら警察へ連絡を入れた。



*****

362 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 23:10:02 ID:rk55VhTcO



( ^ν^)「──ネーノはとんでもねえ小心者だったわけだ。
       金儲けに参加したはいいが、良心が痛んだのか
       ガキを一匹連れ帰っちまった」

 夕方。N地検。
 執務室の椅子に腰掛けたニュッが、書類をぱらぱらめくりながら言った。
 首筋に噛みつきながら、デレはそれに耳を傾ける。

363 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 23:11:17 ID:rk55VhTcO

( ^ν^)「が、結局は恐くなり──警察に駆け込んだ」

ζ(゚、゚*ζ「のこのこと山に返しに行けば、リコさん達からお仕置きされかねませんからね」

( ^ν^)「で、小心者のネーノは保身のために嘘をついた。
       『たまたま山に入ったら迷い家があって、そこから犬を連れ去った』ってな」


 収入の増加により、暮らしぶりもそれなりのものだった。
 そこを突かれたときに備え、ネーノは「迷い家に行った」ともとれる嘘をついたのだ。
 迷い家から犬を連れ帰ったおかげで幸運が舞い込んだのだ、と思わせるために。


ζ(゚、゚*ζ「山を調べられたらネーノさんだって困るでしょうにねえ……」

( ^ν^)「おばけ法のことは碌に知らなかったんだろ。
       自首する前に神社に行ってたくらいだから」


 そして、その件を耳にした狸娘がネーノと子供の回収に向かった。
 警察が嗅ぎつける前に、「自分が化かしたせいだ」「子供を返してもらえればそれで済ませる」と言って
 内々に事を終わらせたかったのだろう。

364 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 23:14:08 ID:rk55VhTcO

ζ(゚、゚*ζ「リコさんはどうしてタヌキのふりをしたんです?」

( ^ν^)「ネーノが迷い家に行った設定にしちまったからだ」

ζ(゚、゚*ζ「……あ、そっか。
      リコさんとしては、仲間の子供が連れ去られたってだけのシンプルな話で済ませたかったんですもんね。
      だとすると迷い家の話は余計だから──」

( ^ν^)「自分達が化かした、ってことにするしかなかった。
       屋敷まで出すような化かし方をするっつったら、狐狸の類だ」

ζ(゚、゚*ζ「化け猫よりは、化けダヌキでいる方が説得力があったんですね」

( ^ν^)「しかもヤマネコとなると、物珍しさから興味を持たれてあれこれ調べられかねない。
       タヌキの方が色々都合が良かった」


 担当検事であったニューソではなくニュッの方に声をかけたのは、何てことはない、
 ニュッの方が有名だったからだ。
 腹黒陰険人格破綻検事。そんな風に。

 そういう人間ならば欲まみれだろうと狸娘は考えた。
 まずは気のある素振りで擦り寄った。これで言うことを聞かせて、
 ニュッの口ぎきでネーノと子供を解放させれば、もう用済み──の筈だった。

365 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 23:17:32 ID:rk55VhTcO

ζ(゚ー゚*ζ「でもニュッさんって捻くれまくってますからね……まったく靡かない上に、
      いらんことを嗅ぎ回り始めたもんだから、リコさんも焦ったでしょう」

( ^ν^)「だから次は、洞穴で本格的な色仕掛けでもって俺を引き込もうとした。
       それが駄目なら次は金でもちらつかせたんだろうが」

 実際、洞穴を調べると大量の現金が出てきた。
 まさか葉っぱになるのではないかとも思ったが、本物だった。

ζ(゚ー゚*ζ「良かったですねーニュッさん。山に行くことをニューソさんに言っといて。
      でなければ山に入った瞬間にリコさんに殺されてたかもしれませんよ」

( ^ν^)「結局殺される直前まで行ってたけどな」

366 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 23:18:28 ID:rk55VhTcO

ζ(゚、゚#ζ「あっ、そうだニュッさん、あれのために血を出し渋りましたね?
      危なくなったら血の匂いで私を呼ぶために……」

( ^ν^)「もうちょい探りを入れるためには、一旦お前と別行動をとる必要があったからなあ。
       保険だ保険。どうせ携帯は使わせてもらえねえだろうと踏んでたし」

ζ(゚、゚#ζ「考えがあるんなら最初に言ってくださいよ、もうっ!
      こんな血のために必死になって馬鹿みたいですよ。あー不味い不味い!」

 話しながら休み休み血を吸っていたデレが、ようやく離れた。
 ボタンを留め、ループタイを締め直す。

 豆乳のパックにストローを刺して、ふと、ニュッは机の端に目をやった。

( ^ν^)「その筒、いつまで持ってんだ」

ζ(゚ー゚;ζ「えっ」ドキーン

 デレが水汲みに使った竹筒が机に置かれている。
 被疑者の私物なのだから返しておけと言ったのに、
 何故かそれを拒んで、ここまで持ってきたのである。

367 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 23:20:38 ID:rk55VhTcO

ζ(゚ー゚;ζ「いや、ちょっとね、ほら、湧き水って美味しそうじゃないですか、だから、勿体なくて、ね」

( ^ν^)「……飲め」

ζ(゚ー゚;ζ「えっえっ」

( ^ν^)「美味そうだっつうんなら飲めよ」

ζ(゚ー゚;ζ「えっえっえっ」

( ^ν^)「……元はといやァ、俺に飲ませるために汲んできたんだよなあ……。
       毒でも入れてんじゃねえのか? あ? だから鑑識に調べられたら困るってか?」

ζ(゚ー゚;ζ「ちッがッ……ど、毒じゃないですけどお!」

(#^ν^)「じゃないですけど何だ。やっぱ何か入ってんなテメェ……」

ζ(゚ー゚;ζ「わ、私はですね! 私なりに! ニュッさんのためを! 思って!」

(#^ν^)「ぜってえ飲ますぜってえ飲ます口開けろホラ開けろ開けろ」

ζ(;、;*ζ「いやあああああ!! ごめんなさああああい!!」

{;´ウ`}「ちょっちょっちょっ何やってんのニュッ君!! 駄目!! 警察呼ぶよ!!」

(#^ν^)「あ?」

 床に引き倒したデレに馬乗りになっていたニュッは、
 ドアを開けて叫ぶニューソを睨みつけた。

368 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 23:21:34 ID:rk55VhTcO

 瞬時に抜け出したデレが竹筒を奪い、中身を窓から外へぶち撒ける。
 そのまま窓枠に縋りつき泣きじゃくるデレに、ニューソが駆け寄った。

ζ(;、;*ζ「死ぬかと思った……」

{;´ウ`}「ニュッ君……」

(#^ν^)「死ぬかと思うようなもん入れてやがったのかよ」

ζ(;、;*ζ「死なないけど……死ぬかと思った……」ウッウッ

 いったい何を入れたのだ。
 締め上げて訊くべきか。

 拳を鳴らしていると、視界に紙の束が入り込んだ。
 ニューソが、両手いっぱいに抱えた資料を差し出してきたのだ。

369 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 23:23:33 ID:rk55VhTcO

{;´ウ`}「何があったのか知らないけど、機嫌直してよニュッ君。はい、これ」

( ^ν^)「なんだよ」

{´ウ`}「今回の事件、ニュッ君に引き継ぎ。
     僕はサポートに回るから」

ζ(ぅ、゚*ζ「え……いいんですかニューソさん。
       この件はたくさんのおばけや人間が関わっているであろう大事件ですよ。
       解決に導けば超々お手柄の筈です」

{´ウ`}「だってニュッ君が真相を暴いたんだから。
     ならニュッ君に任せるべきかなって。
     頑張ろうね、出連弁護士を見返そうよ」

370 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 23:24:47 ID:rk55VhTcO

( ^ν^)「初めてお前が輝いて見える。感謝を込めてこき使ってやるから頑張れサポート。
       あーヤッベ、テンション上がってきた」

{´ウ`}「うん……僕はもう後悔し始めてる……」

 ばしばしニューソの背中を叩き、受け取った資料を机に乗せる。
 その束を見ていると、わくわくというかぞくぞくというか、ひどく落ち着かなくなってきた。

 昨年の8月、そして今年2月。
 二度の失敗以来、地味でつまらぬ事件ばかり押しつけられてきた。
 ここらで一発当てて、名誉挽回汚名返上といこうではないか。

 必ずおばけ法通信に載る。
 あの弁護士がそれを見たら、どんな顔をするだろう。
 そんなことを考え、勢いのままに豆乳を一気に飲み干した。

371 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 23:27:55 ID:rk55VhTcO

ζ(´、`*ζ「……はあ、この件でまた私とニュッさんがコンビとして周知されていくんですね……。
       私、もう一生ニュッさんの血を飲むしかないんでしょうか……」

ζ(´、`*ζ「……ん?」

ζ(´、`*ζ(ニュッさん華麗に解決→地位が上がる→金と地位に目がない女共が寄ってくる
       →ニュッさん空前絶後の大モテ→結婚→私とのコンビ解消→新しいパートナー来る→大勝利)

{´ウ`}「それで、ここの資料のー……」

ζ(゚ー゚*ζ「さあああああ頑張りましょうねニュッさん!!
      私も全身全霊手伝いますから!! ファイト!!」

Σ{;´ウ`}「えっ何」ビクッ

ζ(゚ー゚*ζ「まずはリーダーや発案者が誰だったのか洗わなければいけませんね!
      リコさんに名前を与えた法師とやらが怪しい気がします!
      さっそく捜査行ってきますね! それではまた後で!」

( ^ν^)「しばらく帰らなくていいぞ」

 敬礼をかまし、デレは猛然と飛び出していった。
 たまに、情緒不安定なのではないかと思うことがある。

 まあ──いちおう、仕事は出来る女だ。
 それなりに信頼していないわけでもない、と言い切れなくもない。
 しばらくは傍に置いて、こき使ってやるつもりだ。役に立つ内は。

 何せ本人が山で言ったではないか、酷使しろと。
 本人の要望なのだから正当な扱いの筈だ。

372 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 23:28:49 ID:rk55VhTcO

{´ウ`}「仲いいねえ」

( ^ν^)「仲いいのかこれ」

{´ウ`}「ニュッ君みたいな奴と上手くやれるの、デレさんくらいだよね」

( ^ν^)「それが親父が息子に言うことかよ」

{´ウ`}「親父だからだよ」

 ニューソが笑う。
 本当に血が繋がっているのか非常に怪しい男の足を蹴って、ニュッはファイルに手を伸ばした。


.

373 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 23:30:32 ID:rk55VhTcO





{´ウ`}「そうだ、時間できたら一緒に飲みに行こうよ。久しぶりに」

( ^ν^)「ぜっっっっってえ行かねえ」



番外編:終わり

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