( ^ω^)は取り憑くようです
Scene 4



214 名前: ◆MgfCBKfMmo[] 投稿日:2014/01/23(木) 20:30:51 ID:T.pTTd5A0
マリントン地域は、ニューソーク市の中央を流れるショーセッツ川の下流域に位置していた。
この川とソーサック川は、ニューソーク市の中央街を挟む形で流れており、市の象徴的な河川でもあった。

大型コンベンション・ホール『K・S・Kコンベンションセンター』は、マリントン地域の堤防の傍に位置していた。
そこにニューソーク市警警備部の人間がSPとして配備されたのは、今から6年前の冬の話である。

この日、K・S・Kコンベンションセンターには続々と人が集まりつつあった。
ニューソーク市議会にて大きな影響力を有する政治家、マリントンの特別講演が行われようとしていたためである。
予てより市の治安の悪化を嘆いていたマリントンは、治安良化の始まりとしてこの講演で自分の公式の声明を発表するらしかった。

それは、マリントンが市に蔓延る犯罪者たちの徹底弾圧を始めることを意味していた。
犯罪者やマフィア、暴力団といった反社会的な人たちからの反発があることは明らかだ。
対テロ対策として、マリントンは警察に自らの身の安全を保証するように要請したのである。

危険だと分かっているならばそのような面倒を起こすなと、市警に勤める誰もが思っていたが、警官の身分では反論はできない。
こうして寒空の下、低いモチベーションにしがみつくように
数十名の警備部の人間が同センターに派遣されることとなったのである。

215 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 20:32:32 ID:T.pTTd5A0
( ゚∋゚)「よう、相棒」

大柄な男が、玄関に現れた。警察の制服の上からでも、その張り具合から、筋骨隆々な様が伝わってくる。

( ゚∋゚)「コーヒー買ってきたぜ。温まろうじゃないか」

差し出された、安い缶コーヒー。
それを彼は受け取る。その冷たい手にまず彼は驚いた。
続いて、缶の温もりが彼の掌をじんわりと広がっていった。



(´・ω・`)「ありがとうクックル。もうしばらく頑張れそうだよ」



警備部の人員は、仕事があると毎度同じ面々が配備されることが多い。
理解し合える人々の方が、有事の際に連携が取れ、強固な警備が可能となるためだ。

ショボンとクックルもそのような経緯で顔見知りになっていた。
怪我や事故の多い警備部だが、幸いまだ二人とも大きな負傷は負っていなかった。

216 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 20:33:23 ID:T.pTTd5A0
( ゚∋゚)「俺達が入り口内の担当になるのは講演が始まる頃だったな。それまでは耐えるしかないか」

(´・ω・`)「やれやれ、これだけ人が来るのを見ていると、いつまでたっても終わらない気がしてくるよ。
       政治家の講演なんてどいつも大して変わらないというのに、よく集まるものだ」

( ゚∋゚)「マリントンはアピールに力を入れているから、民衆が感化されているのさ。
     西部のあのクズ共のの溜まり場を自分の名前に置き換えたり、よくやるよ」

その後も、政治家の愚痴を何度か言い合ったが、寒さが体力を奪うので、口数は減っていった。
入場者に目を光らせているが、怪しげな人物は目にはいらない。
持ち物検査等は入り口内の人間の仕事であり、ショボンたちは大雑把な一次審査と外の動きにだけ注意しておけばよかった。

開演の時間が迫るにつれ、入場する人の数も少なくなっていった。
もう5分もすれば、外の警備の必要性もなくなるだろう、そんなとき。

(´・ω・`)「……ん?」

217 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 20:34:21 ID:T.pTTd5A0
( ゚∋゚)「どうした?」

(´・ω・`)「いや、あそこの物陰で何かが動いた気がしてね」

センター前には駐車場があり、車が並べられている。その一つを、ショボンは指差していた。

( ゚∋゚)「風がゴミを運んでいたんじゃないか?」

(´・ω・`)「どうだろうか、生き物のように見えたけど……見てくるよ」

警備としては、わずかな変化も見逃すわけにはいかないとショボンは思った。
つかつかと車に歩み寄り、その後ろに首を伸ばす。

(´・ω・`)「……」



川  - )

まだ10代半ばと見える少女が一人、蹲っていた。
寒さのためだろうか、見窄らしい服装に包まれたその体は小刻みに震えてしまっている。

218 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 20:36:17 ID:T.pTTd5A0
マリントン地域からの子だろう、とショボンは直感した。

あの地域は昔から犯罪者集団の隠れ蓑としての性質を持っていた。
社会の黒い闇の部分。しかしその闇に、縋らざるを得ない人たちがいた。
国民の貧困層、特に、親に捨てられた子どもたちだ。

マリントンに蔓延っていた犯罪者集団は、世間からの風当たりこそ強かったものの
そのような身寄りのない子どもたちにとっては仕事と生活を保証してくれる養い手でもあった。

闇の世界に子どもたちが足を踏み入れる、目を背けたくなる事実だが、現実として黙認されている節もあった。
そうしなければ、子どもたちは死ぬ一方でしか無いのだから。

その秩序が、マリントンの政策により一挙に崩れた。

溢れかえった貧しい子たちはマリントンの作り上げた特別養護ホームに収容される扱いになっていたが
ある程度成熟した子どもが今更取ってつけたような家族ごっこに馴染めるはずもない。
この震えている少女ほどの年頃なら、なおさらだろう。

結果、マリントン地域中にたくさんの貧しい子が散り、細々と生活を送る羽目になっていたのである。

219 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 20:37:24 ID:T.pTTd5A0



川#゚ -゚) キッ


鋭い目が、ショボンに突き刺さる。敵意を感じながらも、ショボンは目を離さないでいた。

世間一般から見れば、彼女のような子は自ら進んで社会からドロップアウトした人間でしかない。
蔑まれる生活を送ってきたのだろう。
彼女が世の中を恨み、状態的に睨みを効かせるのは致し方のないことだ。

そうショボンは考え、彼女を咎めることはしなかった。


川;゚ -゚)「う……」

突然、彼女の顔が青ざめる。
その顔が下を向き、何度か咳を繰り返した。

220 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 20:38:50 ID:T.pTTd5A0
どうしたのかと、ショボンはややうろたえがちに声をかける。

(´・ω・`)「寒いのかい?」

川;゚ -゚)「…………うん」

消え入るような返答だった。

憐憫の情が、ショボンには湧いてくる。

この子にはなんの罪もない。
ただ貧しくて、必死に生きてきただけにすぎない。
それなのに、こんな時代になってまで、寒さに苦しまなければならない。

せめて、彼女に暖をとらせよう。
どこか落ち着いていられる、暖かい場所はないものだろうか。

「ふむ……」と言い、思案を巡らせると、すぐに答えに辿り着いた。

221 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 20:40:17 ID:T.pTTd5A0
後方のK・S・Kコンベンションセンターをショボンは指し示した。

少女がそれにつられて、建物に目を向けるのがわかる。

人もいっぱいいるし、暖房だってついている。
少女一人が紛れ込んでも、誰も気にもとめないだろう。

少女の目線がショボンに戻ってきたので、ショボンはにやりと歯を見せた。

(´・ω・`)「君、名前は?」

川 ゚ -゚)「…………クー」

(´・ω・`)「そうか、クーさん。ひとつ提案なんだが」


(´・ω・`)「あの中に入ってみるかい?」

222 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 20:41:49 ID:T.pTTd5A0
川;゚ -゚)「え、いいの?」

すぐに、彼女が飛びついてきた。
目を剥いて、ショボンの発言の真意を図ろうとしている。

川;゚ -゚)「でも警備がたくさんいるよ?」

(´・ω・`)「ふふ、それは僕の仲間だ。もう少ししたら入り口の担当が僕になる。
       一緒に警備する相棒も、頼み事にはすごく弱いやつなんだ。だから、きっと大丈夫さ」

本当はいけないことだろう。でも、この子は政治家の気まぐれで被害を被っただけだ。
そんな子の、今晩の夜風を凌ぐ場所くらい、作ってあげてもいいだろう。
ついでにマリントンに風邪でも移してやれれば、なおさらいいのに、と心の中で毒づいた。


川;゚ -゚)「あ……ありがとうございます」


少女がぺこりと頭を下げるのを、ショボンは細い目で見つめていた。

223 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 20:43:09 ID:T.pTTd5A0
数分後、講演が始まると、担当が変わった。
ショボンとクックルが、入り口の中の係。

クックルに事情を話したら、苦笑いしながらも、「しょうがないな」と言ってくれた。


その少し後に彼女は来た。


外の警備に呼び止められているのを、ショボンが口出しして止める。



それから、そっと彼女を会場の中へと誘導してあげた。


会場の扉をゆっくり閉め、満足そうな表情で帰ってくるショボンを
相棒のクックルが不思議そうな顔で見つめていたが
ショボンは特に何も答えず、柔らかく微笑むばかりであった。



∇∇∇

224 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 20:44:08 ID:T.pTTd5A0
∇∇∇                                                  ∇∇∇
∇∇                                                      ∇∇
∇                                                          ∇





                   ( ^ω^)は取り憑くようです




                       Scene 4. ようやく彼らはつながりました





∇                                                          ∇
∇∇                                                      ∇∇
∇∇∇                                                  ∇∇∇

226 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 20:45:40 ID:T.pTTd5A0
バーカウンターに、ふたりは移動した。
ブーンが客側、ショボンがバーテン側。

飲み物は、水だけにした。

( ^ω^)「……落ち着きましたかお?」

(´・ω・`)「ああ、だいぶね。取り乱してすまなかった」

数分前に、ショボンは狼狽してディスプレイを叩き続けていた。
それをブーンが無理やりバーへ移動させた。

興奮冷めやらないショボンに対し、注文することで、なんとかその気を休めることに成功したのである。


( ^ω^)「……それで、ショボンさん。さっそく本題に入らせていただきますお」

ブーンがいうと、ショボンも「うん」とこたえ、待ち構えてくれる。
ブーンは一呼吸置いてから話し始めた。

227 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 20:47:24 ID:T.pTTd5A0
( ^ω^)「ショボンさんは、あの画面に映った人を知っているんですかお?」

ブーンが言っているのは、先ほどまでディスプレイに表示されていた、長い黒髪の女性のことだ。

年齢は20代前半といったところか。ブーンたちと同じくらいか、それよりも若く見えた。

(´・ω・`)「……彼女と出会ったのは、6年前の冬だ。1月だったかな」

ショボンは一瞬遠くを見る目になり、それからふっと頬を緩ませた。
昔を回顧する人が、時折みせる表情だった。


(´・ω・`)「私はね、実はニューソーク市警の警備部に所属していたんだ」


( ^ω^)「え? 警察だったんですかお?」

驚いた後に、ブーンは「だからか」と呟いた。
ショボンがマンションの間取りに詳しかったこと、犯人グループの狙いを冷静に分析していたこと。
これらは全て、ショボンが犯罪と近い距離で生活を送っていたからこその洞察力だったのだろう。

228 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 20:49:19 ID:T.pTTd5A0
納得顔のブーンを見て、ショボンは「そうだよ」と一言添える。

(´・ω・`)「それでね、6年前の冬、K・S・Kコンベンションセンターという場所で銃撃テロが行われたんだ。
       僕もそこに配属されていたんだけど、そのことは、覚えているかな?」

( ^ω^)「ああ、それは……」

時代はかなり遡るが、大きな事件だったので、ニュースやネットでも度々話題に上ることがあった。
一般人であるブーンでも、すぐに思い出せることができたぐらいに。


政治家マリントン銃撃テロ事件。

市政のために革新的な政策を次々と打ち出していた政治家マリントンが、講演の最中に狙撃された。
突然の停電で誰もが油断している隙をつかれたのである。
なお、後に配電管に時限爆弾の仕掛けの痕跡が発見され、この犯行が綿密な計画の末になされたとわかった。

229 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 20:50:15 ID:T.pTTd5A0
予備電源の点灯により犯人はすぐに見つかったが、犯人は簡単には捕まらなかった。
彼は警備の人間を一人巻き込んだ後、その場で自殺したのである。
その後の調べにより、犯人は市内の過激派テログループの一員であることが判明した。

運良く生き延びたマリントンだったが、それまでの好戦的とも言える政策が人命を脅かしたのだという非難を浴び
次々と味方が反対派へと流れていったために、政治の表舞台から姿を消すことになった。


これが6年前の銃撃テロの、一般報道で知られる概要である。



(´・ω・`)「その事件で、暴れる犯人の凶弾により死亡した警備の人間、それが僕だよ」



突然の告白に、ブーンは目をむいた。

230 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 20:52:06 ID:T.pTTd5A0
(;^ω^)「そうだったんですかお……」

ニュースになるほどの大事件。
その被害者に、このような形で出くわすとは、まさしく思いもよらなかった。

対するショボンは、なんてことはないといった風に身を竦めている。

(´-ω-`)「うん。びっくりしたね。まさかあっさり死んじゃうとはね」

どう答えていいかわからず、ブーンは返す言葉をやや悩んだ。

( ^ω^)「……それが無念で、未練になったんですかお」

しみじみとブーンは言うも、それに、「いや」とショボンが応える。

231 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 20:54:14 ID:T.pTTd5A0
(´・ω・`)「あの事件の犯人に未練はないよ。僕を殺したやつは死んでいるしね。
       僕が未だに気になり続けているのは、そのとき出会った女の子のことさ」

( ^ω^)「女の子……ひょっとしてそれが、さっきディスプレイに映っていた子ですかお?」

(´・ω・`)「そうだ。名前をクーという」


ショボンの顔が、また少しだけ綻んだ。


(´・ω・`)「見た目は大人びたが、すぐにわかったよ。
       彼女は当時社会問題となっていた、マリントン地域の貧しいスラムの子どもだった。
       6年前のあの日、K・S・Kコンベンションセンターの前で、寒さに震えている彼女に出会ったんだよ」

232 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 20:56:00 ID:T.pTTd5A0
(´・ω・`)「僕は彼女を暖めたいと思ってね、中へ引き入れた。
       そのあとで、事件が起こり、逃げようとする犯人の取り押さえようとする中、彼女を見つけた。
       犯人もまた、震える彼女の方を向いた。そうしたらニヤつくのが僕から見えたんだ」


顔の緩みは消える。
真顔になって、それから彼の瞼が閉じられた。


(´-ω-`)「ぞっとしたね。とっさに僕は彼女を守ろうとして身体を飛び込ませたんだ。
       弾が飛んできて、僕の剥き出しの首元にあたった。
       血が、どっと噴出す感触があって、僕の視界はすぐに暗くなった」


(´-ω-`)「……それで、目が覚めたらここにいた」

低いトーンで、ショボンの話が終わる。
死の経緯を淡々と話せるあたりに、ショボンのこちらへ来てからの長大な時間の経過を感じさせた。

233 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 20:58:55 ID:T.pTTd5A0
( ^ω^)「だから、『彼女を庇って死んだ』ということですかお」

(´-ω-`)「うん」

( ^ω^)「じゃあ、ショボンさんの未練は……彼女のこと」

(´-ω-`)「そうだと思う。事件そのものへの興味はすっかり薄れてしまったというのに
       どうしてか未だに、彼女の姿が頭から離れないでいるんだ。
       彼女は今どうしているのか、あのときの事件がトラウマになってはいないか、そんなことばかりが気がかりなんだ」

ショボンはまだ目を開こうとしない。

(´-ω-`)「それが、せっかく見つけられたと思ったら、はっきりと命を狙われているなんてね。
       結構ショックが大きいみたいだ。すっかり狼狽えてしまった。さっきはカッコ悪い姿を見せてしまって申し訳なかったね」

234 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 21:00:02 ID:T.pTTd5A0
ディスプレイを叩いたことを言っているのだろう。
もうブーンはそんなもの、気にしてなどいないというのに。

疲れきった気持ちが、言葉にありありと乗っかっていた。

ブーンはその顔を見つめ、思案を巡らせる。

( ^ω^)「確かめられなかったんですかお?
      クーさんに取り憑けば、彼女がどうしているかとか、わかったんじゃ」

ブーンの言葉を遮って、ショボンが短く鼻で笑う。
別にブーンを嘲ったわけでもないだろう。どちらかといえば、自分自身を嘲っている、そんな調子だ。


(´ ω `)「……これもまた、恥ずかしいお話なんだけどね。
       僕と彼女は、ただの一度も、触れ合ったことさえ無かったんだよ」


言葉尻が、微かに震えていた。

235 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 21:01:00 ID:T.pTTd5A0
(´ ω `)「おかしな話だ。心に残っているのがほとんど縁のない子のことばかりなんて。
       おかげで僕は未練を晴らせず、6年もこの空間に閉じ込められることになってしまった。
       たまにここで見かける人を助けつつ、こっそりクーの情報も仕入れようとしていたんだけどね、それもここまで来たら無意味だ」

(´ ω `)「僕にできることは、ここでひたすら彼女に謝ることだけだったのさ。
       あんな怖い目に合わせてしまって申し訳ない。
       僕があのとき誘わなければ人が死ぬ姿なんて見なくてすんだのに、ってね」


( ^ω^)「…………」

気持ちを吐露するショボン。
その顔は俯いている。
カウンターについている腕が、微かな震えを帯びていた。

彼の悔しさが、どうしようもなかった無念が、そこには表れていた。

236 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 21:02:57 ID:T.pTTd5A0
思えばこの場所に来たときから、ショボンの表情には悲しみが湛えられていた。
ブーンはその悲しみの内容をようやく知ることができたわけである。

彼にどのような言葉をかけてやればいいのだろう。
ブーンは逡巡する。

自分はまだ【狭間の世界】に来たばかりだ。
初めてその世界の性質を知った時は、動揺して拒んでいた。
しかしそれからショボンの協力を得て未練を晴らそうとしている。

今にして思えば。、どれほど運の良い話だったのだろう。
自分にはちゃんと、この世界を出る糸口があるのだ。

それに対してショボンには手がかりがなかった。
動揺なんて嫌というほどしたことだろう。

いや、そもそもショボンにはこの世界を説明してくれるナビゲーターだっていなかったはずだ。
状況は、自分より過酷だったはずである。

237 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 21:04:21 ID:T.pTTd5A0
その彼を単純に慰めることなんてできない。
「辛かったね」などという安易な同情を向けることなんてできない。
ブーンはそう、自制を働かせる。


だけど、その一方で、湧き上がる気持ちがあった。

慰めや同情とは違う。
もっと熱く、明確な行動的意思に基づいた気持ち。


(#^ω^)「ショボンさん!」

大声を出し、カウンターを掌で叩いた。ショボンの顔が少しだけ持ち上がり、ブーンへ向けられる。
彼の目がじんわり充血していることがわかったが、ブーンは怯むこと無く言葉を続けた。


(#^ω^)「あの若者たちは、ツンを襲った悪人ですお。
      そいつらの仲間が、今度は僕の恩人であるショボンさんの大事な人を狙っていますお」

238 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 21:05:56 ID:T.pTTd5A0
ショボンを成仏させる手がかりは、今自分たちの目の前に現れた。
ツンの追っていく最中に、垣間見ることができた。


これはショボンにとっての、巡り巡ってきたチャンスなんだ。
ここまで自分に協力してくれたショボンが、助かるための。
彼の未練を晴らすための。


(#^ω^)「ここまできたら、僕はもう放ってなんかいられないですお!
      みんなみんな、僕にとっては未練に変わりないですお!」


息を吸い込み、気合を入れる。
一際大きな声で、ブーンは自分の決意を口にする。


(#^ω^)「一緒にクーさんも助けましょうお! 
       それで、奴らを捕まえて、ショボンさんの未練を晴らすんですお!
       僕達ふたりならきっとできますお!」

239 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 21:06:59 ID:T.pTTd5A0
語気を荒げながらも、はっきりと宣言する。
乱れない力強い目で、ブーンはショボンを見つめていた。



(;´・ω・`)「…………お前」



(´-ω-`)



(´-ω-`) フッ



柔らかな笑みが、彼の顔をじんわりと満たす。

240 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 21:08:32 ID:T.pTTd5A0
(´-ω-`)「ありがとう」



なんの飾りもない、質素な言葉。
だけど、それまでに表れていた疲れは、そこには感じられない。

確固たる意思を持った人が有する強さ。
ショボンもまた、ブーンと同じようにそれを抱き始めていたのである。


ブーンは「よしっ」と雄々しく掛け声を発する。

(#^ω^)「そうと決まれば、取り憑き再開ですお!」

(´・ω・`)「!…………ああっ!」


バーを後にし、ふたりの霊魂は再び、白い大地の椅子へと向かっていった。



∇∇∇

241 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 21:09:47 ID:T.pTTd5A0
ニューソーク市総合病院は、ニューソーク市でも随一の規模を誇る病院である。

警察機関との関り合いも深く、事件で負傷した警察官や民間人、
そして時には緊急の医療を必要とする囚人が運ばれることもあった。
最後のケースが起きたときは、秘密裏に事が運び、民間人に扮した警備も付されることとなる。

そのうち、民間人が入院する棟の一室に彼女はいた。


ξ--)ξ


ξ--)ξそ「ん……」


ξ゚听)ξ パチ


意識が戻るとすぐに、彼女は上半身を起こした。
目を数度瞬かせて、視線をゆっくり動かす。

242 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 21:10:51 ID:T.pTTd5A0
目に写ったのは、自分が寝ている大きめのベッドと、薄いベージュ色の毛布。
ベッドを包むように敷かれている黄色いカーテン。清潔な印象をあたえる白い壁。

そして、脇に佇むさっぱりとした顔つきの男。


( ・∀・)「おー、起きたね!」


軽やかな口調で、男はツンに語りかけてきた。

( -∀-)「やーよかったー。
      ずっとここにいるわけにもいかないし、どうしようかと思っていたんだ」

素直に安堵していることが、口調から伺えた。

次いで、その人が目を見開き輝かせて、ツンに声をかける。

( ・∀・)「どう、気分は平気かい? 何か聞きたいことはある?」

243 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 21:11:54 ID:T.pTTd5A0
状況の飲み込めていないツンは、「えっと」と返答を詰まらせた。

ξ;゚听)ξ「あ……あの、気分は多分平気です。えっと、まずあなたは誰ですか?」

( ・∀・)「ああ、申し遅れたね。
      僕はニューソーク市警の巡査のモララーだよ。マリントン地域の交番に勤務しているんだ」

マリントン地域という言葉を聞いて、ツンははっとする。

ξ゚听)ξ「それじゃ、ひょっとしてあなたが私をここまで運んだんですか?」

( ・∀・)「うん。交番の前で、君が意識を失ってしまったものだからね」

ξ--)ξ「ありがとうございます」

( ・∀・)「いえいえ。そうとう疲れていたみたいだけど、何かあったのかい?」

ξ゚听)ξ「あ……それは」

244 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 21:12:55 ID:T.pTTd5A0
ツンは自分が、監禁されていたこと、そしてその監禁場所から逃げてきたことを簡潔に述べた。
事件性を帯びた内容のため、モララーの表情は驚いたものから一転、真剣なものになる。
交番前まで辿り着いた経緯を聞き終えて、モララーは眉を顰めた。
  _,
( ・∀・)「結局、どうして監禁されたのかはわからないのかい?」

ξ;゚听)ξ「ええ……突然だったもので」
  _,
( ・∀・)「思い当たる節は?」

ξ;゚听)ξ「…………」

ツンの目が、モララーから離れて何もない空間を泳ぎ始める。
何かを判断しかねているように。

モララーは眉の形を変えず、ツンの表情を観察し続けていた。

やがて、意を決したかのごとく、ツンが口を開く。

245 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 21:14:14 ID:T.pTTd5A0
ξ;゚听)ξ「や、やっぱり私は思い当たらないです」
  _,
( ・∀・)「本当に?」

ξ;゚听)ξ「ええ」

  _,
( ・∀・)「……」


( -∀-)ゞ「……うーん。となると単なる金銭目的かなあ。でも財布はあるしなあ」


ξ゚听)ξそ「あ、私の持ち物あるんですか?」

とっさに、ツンはそのワードに飛びついた。

246 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 21:15:16 ID:T.pTTd5A0
( ・∀・)⊃「枕元の台に置いてあるよ」

手で示されたのは、ツンの後ろ側。首をひねり、確認する。

台の上にいくつかのものが並べられていた。
特に財布と携帯端末が置かれていることに、ツンは胸を撫で下ろす。

ξ゚听)ξ「ああ、良かった」

( ・∀・)「携帯の再起動も終わっているよ」

「ありがとうございます」と再度彼女は言い、急いで携帯に手を伸ばす。

ξ゚听)ξ「あれ?」

( ・∀・)「ん? どうしたの?」

ξ゚听)ξ「いえ……実は彼氏と待ち合わせしていて。
      ずっと待たせてしまっているからきっと連絡が溜まっていると思っていたんです。
      でも今見たら何も連絡が入っていないから、おかしいなって」

247 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 21:16:52 ID:T.pTTd5A0
メールを送れない事情でもあるのだろうか。

病院だし、通話は控えたほうがいいだろう。
とりあえずメールだけでも。

そう思って、ツンはメールボックスの操作を続け、一通のメールを送った。

しかし、すぐに返ってきてしまう。
『相手に届きませんでした』のメッセージを添えて。

ξ;゚听)ξ「あれ?」

もう二回、三回と送るが結果は同じ。
いったいどうしたのだろう、ブーンの携帯端末が壊れでもしたのだろうか。

そう彼女は怪訝に思いながら、ひとまず諦めて、別のメールを確認する。

248 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 21:18:37 ID:T.pTTd5A0
と、ここでモララーが質問をする。

( ・∀・)「待ち合わせ場所に向かっている途中で捕まったのかい?」

ξ゚听)ξ「あー、いえ、実は先に別の用事を済ませようとしていたんです。
      姉の方の、その、元カレさんに話したいことがあったんで」

答えながらも、操作は続く。

携帯端末のメールボックスに溜まっていたメールのうち、一番最近のものが選択される。
メール内容が見えたが、ツンはすぐにそれをスクロールさせてしまう。

結局一番最後に添付されていた画像だけが、表示された。






やや骨張った頬と、鋭い目つきが特徴的な男。

モララーには、ツンの手により、その画像は見えなかった。

249 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 21:21:06 ID:T.pTTd5A0
見えたのは、【俯瞰】している別の世界の霊魂だけ。



(´・ω・`)“しぃという人のメールに添付されていたようだけど”

( ^ω^)“しぃっていうのは、ツンの姉のことだお。
      話からして、この人がしぃさんの元カレさんなのかも知れないですお”

(´・ω・`)“君は見たことなかったのかい?”

(;^ω^)“実はあんまり深くしぃさんの事情を知っていたわけじゃないんですお。
      元カレさんが世間で酷い悪い扱いをされていて、そのせいでしぃさんと長く会えない場所にいくことになって、突然別れてしまったとしか。
      あんまり知ってほしくもないようなんで、僕からは大して追求しなかったんですお”

( ^ω^)“ただ、最近復縁しそうとだけ、ツンから聞いていたんですお”



( ・∀・)「それじゃ、その場所は詳しく教えてもらえるかな?」

250 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 21:22:36 ID:T.pTTd5A0
ξ;゚听)ξそ「え? どうしてですか?」

( ・∀・)「その地域一帯を調べれば、君を捕まえた犯人グループがどんな連中か割り出せると思うんだ」

ξ;゚听)ξ「……実は少し記憶が曖昧になっていまして。
       もう少ししたら思い出すかもしれないのですけど」


( -∀-)「ふむ……それなら仕方ないか」

潔く言うと、モララーはすっくと立ち上がる。

( ・∀・)「時間をおいて、また来るとするよ。
      僕のアドレスを教えるから、また何かあったら連絡をしてくれ」



(´・ω・`)“おい、あれやるぞ”

( ^ω^)“あいさー”

251 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 21:23:59 ID:T.pTTd5A0
モララーがツンの携帯端末を受け取り、自分のアドレスを打ち込んでいる間。



                       \ ,,_人、ノヽ,,/
                        )      (
          ━━━━━━━━━  ξ゚听)ξ  ━━━━━━━━━
                        )      (
                       /^⌒`Y´^Y`\



ξ゚听)ξ「おっお」

と、ツンの意識が変わり、その腕がモララーへと伸びる。

( ・∀・)「ん?」

ξ゚ー゚)ξ「握手してくださいお!」

(;・∀・)「え。このタイミングで?」

ξ゚ー゚)ξ「お礼ですお!」

252 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 21:25:48 ID:T.pTTd5A0
動揺しながらも、モララーは作業する手を休め、片手を伸ばす。
ツンの掌と、モララーのそれが合わせられる。

あとは



                       \ ,,_人、ノヽ,,/
                        )      (
          ━━━━━━━━━  ( ・∀・)  ━━━━━━━━━
                        )      (
                       /^⌒`Y´^Y`\



                        Σξ゚听)ξ



この通り。



ξ;゚听)ξ「またぼんやりしちゃってた。あら、なんで握手?」

( ・∀・)「おっおっ、入力終わっているお。どうぞだお」

253 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 21:27:02 ID:T.pTTd5A0
渡された携帯端末を、ツンは手に取る。
ブーンの霊魂の入ったモララーは、にんまりしながらツンに「さよならだおー」と告げ、そそくさと退出する。



後に残されたツンは、若干気にかかるような素振りをみせながらも、


ξ゚听)ξ「……行ってくれた」


と、ほっと息をついていた。

それは、あまりに小さい言葉だったから、上の世界の人にも気づかれてはいなかった。



∇∇∇

254 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 21:28:08 ID:T.pTTd5A0
( ・∀・)「さてと、あとは警察に通報だお」

モララーの身体は病院を出て、近くの公園に足を運ぶ。
職場である交番の場所もよくわからないので、ひと目につかない場所に行くことにしたのである。

ベンチに座って、モララーの携帯を眺める。
普通に通報用の番号にかけようと最初は思っていたが、ふと思いついて、アドレス帳を覗いてみることにする。
そこには警察関係者の名前で溢れていた。

モララーは几帳面だったようで、各人物の年齢、誕生日、役職名までが事細かにプロフィールに登録されている。
せっかく自分も警察の姿になっているのだし、こっちで通報したほうが信憑性や迅速性が増すかもしれない。
思惑が浮かび、登録欄から最も位の高い役職名を探す。


やがて見つけたのは、警察学校の教官の肩書を持つ人物だ。
名前を見ると、『クックル』と書かれていた。

255 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 21:29:33 ID:T.pTTd5A0
(´・ω・`)“む、ひょっとして警備部のクックルか?”

( ・∀・)“知っているんですかお?”

(´・ω・`)“懐かしいなあ、生前のときのパートナーだよ。よく出世したものだ。
       教官の仕事は、経験を積んだ成績優秀な現職の警官が受け持つんだよ”

( ・∀・)“ほえー、それじゃ今かけるのにもちょうどいいお!”



モララーの指が勢い良く俊敏に動き、電話が繋がる。
耳に押し当てると、すでに相手が電話に出たところだった。


( ゚∋゚)『モララーか。随分久しぶりに電話をかけてきたな。
     しかしどうした? 今は仕事中だろ?』


やや声を潜めている。
ちなみにこのクックルの声は、【狭間の世界】のショボンには届いていない。

256 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 21:30:42 ID:T.pTTd5A0
( ・∀・)「クックルさん、クーという方、ご存じですかお?」

これだけで、すぐに事情が伝わると思っていたわけではない。
話の導入として付した、お飾りの言葉にすぎなかった。

しかし、


(;゚∋゚)『!?』


予想外にも、クックルが息を呑んだ。

( ・∀・)「え?」

(;゚∋゚)『新米巡査に過ぎないお前が、どこでその話を』

257 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 21:32:23 ID:T.pTTd5A0
(;・∀・)「あ、いえその」

うろたえながら、考える。
知っている経緯は当然完全には話すわけにはいかない。
ある程度暈して話を進め無くてはならない。

( ・∀・)「匿名の通報があったんですお。その人が危ないって」

(;゚∋゚)『匿名の、だと……』

低く長い唸声が挟まれた。

(;・∀・)「むしろ、何かやばい事件の話でももちあがっているんですかお?」

モララーの中にいるブーンは、クックルの返答を静かに待つか迷ったが
自分の残り時間を無駄にしたくないとも思い、自ら声をかけて催促した。

258 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 21:33:19 ID:T.pTTd5A0
(;゚∋゚)『……そのうち、本部の方から連絡がいくと思うが、ほかならぬ教え子のお前からの頼みだ。
     そのような通報を受けたわけだし、気になるだろう。一度しか言わないからよく聞けよ』

前置きを入れ、クックルが続ける。

( ゚∋゚)『……ニューソーク市被害者の会という団体があることを知っているか?』

控えめなトーンで、クックルが質問してくる。

聞き覚えはあった。

ニューソーク市の犯罪の規模や数が拡大し、市警もその処置に手一杯になる一方で、
犯罪被害者の方々はしばしば、自分たちが蔑ろに扱われているという意識を抱くようになった。

そのような犯罪被害者が、「被害者権利の確立」「犯罪者の徹底糾弾」「罪なき被害者の支援」等を掲げて設立した民間団体
それが『ニューソーク市被害者の会』である。

事件が起こるたびに意見を公開したり、一部メンバーがテレビに出演して討論したり
被害者という言葉が飛び交う場所に自ら飛び込み、活動を行うことで、近年存在感を増している組織でもあった。

( ・∀・)「噂には聞いたことありますお」

259 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 21:34:43 ID:T.pTTd5A0
( ゚∋゚)『なら話は早いな』

一呼吸置いてから、クックルが続ける。


( ゚∋゚)『クーは、あの団体の設立メンバーの一人だ』


(;・∀・)「え、そうなんですかお?」

( ゚∋゚)『それで今、とある事件の捜査会議が終わったばかりでな。
     その団体との関係が考えられるという話題が持ち上がっていたんだ』

( ・∀・)「そうですかお……それで、その事件とは?」



( ゚∋゚)『……二時間ほど前に、シベリアステートビルで爆発が起きたろう』

260 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 21:36:27 ID:T.pTTd5A0
(;・∀・)「なっ!」


耳にして、胸がざわついた。


ここで、どうしてあのビルの名前が出てくるのだ。
あの、自分の命を奪った爆発事故が起きた場所の名前が。


(;・∀・)「お、起きましたお。でも、それが何なのですかお?」

あの爆発が何らかの事件の結果である可能性。
どうしてそれを思わなかったのだろう、とブーンは驚愕する。


自分は、ひょっとして何かに巻き込まれて死んだのか?

自分でもそれと気づかないまま?

261 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 21:38:49 ID:T.pTTd5A0
ブーンの霊魂の興奮が、モララーの心臓の動きを加速させる。

思いもよらない自分の死因への肉薄。
彼は今、クックルの返答を耳を集中させて待っていた。


( ゚∋゚)『爆破されたシベリアステートビルの部屋は、某財団の元オフィスだったんだ』

クックルがあげた財団の名前は、ブーンでさえも名前を知っている有名な団体のものだった。

( ゚∋゚)『その財団だが、実は被害者の会に秘密裏に資金援助を行っている。
     まあ、別に犯罪をしているわけでもないし、ある程度精通している人なら知り得た情報だけどな』

( ゚∋゚)『シベリアステートビル爆発後、犯行声明のようなものは出されていないし、警察本部も犯人の動機にそうとう手を焼いている。
     ほとんど唯一と言ってもいい手がかりが、爆破場所のあのオフィス。犯人は財団に関係のある人物かもしれない。
     そこでその関係の一つを洗っていたんだが、その中の有力候補として被害者の会の名前が上げられたんだ』

262 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 21:40:21 ID:T.pTTd5A0
( ゚∋゚)『さっきお前が言っていた匿名の情報と掛けあわせれば、被害者の会メンバーのクーが狙われる可能性も考えられる。
     今から本部にはこれないか? この情報を伝えないといけないんだが』

(;・∀・)「う……すみませんお。僕はいけないですお。クックルさん、お願いできますかお?」

時間を考えれば、本部まで赴いている暇はない。
今電話で聞いたことを、向こうの世界で待っているショボンに早く伝えてやらなければ。
それに、自分の残り時間のこともある。

自分には関係ないことだとわかっていながらも、ブーンはクックルに対して心から謝っていた。

( ゚∋゚)『む、そうか。じゃあ俺から伝えておくよ』

意外にもクックルは、格別何も咎めなかった。
ブーンは「ほっ」と安心の声を漏らす。

263 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 21:41:40 ID:T.pTTd5A0
( ・∀・)「ありがとうございますお」


( ゚∋゚)『いや、なに。いいんだ』


電話越しに、クックルの微笑む吐息が聞こえた気がした。
不思議に思って、ブーンは耳をそばだてる。



( ^∋^)『俺は人からの頼まれごとに弱いんだ。昔からな』



そんなことをいうクックルの口調は、どことなく寂しさを滲ませていたが
聞いている側にとっては、やや引っかかる物言い、というだけにすぎなかった。

264 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 21:42:38 ID:T.pTTd5A0
( ゚∋゚)『そうだ、捜査会議で上げられていた爆破事件の容疑者の画像データ、見たいか?』

切ろうとしたところで、突然クックルが提案した。

( ・∀・)「いいんですかお?」

( ゚∋゚)『情報を提供してくれたお礼だ。役に立つかはわからんがな』

確かに、交番勤務のモララーが爆破事件の容疑者を追い詰めるということはないだろう。
それでも、中にいるブーンは、好奇心から、クックルの質問に「いいですお」と答えた。
自分を死に追いやった人は、気になるものだった。



電話が切られて、数秒後。

携帯端末が震え、データの受信を知らせる。

開き、メールボックスをチェックすると、文章と画像が表示された。

265 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 21:43:47 ID:T.pTTd5A0
――――――――――――――――――

from Cockle


鑑識が現場の爆発物の欠片と、過去の犯罪のデータベースを照合して見つけたんだ。


こいつは6年前のK・S・Kコンベンションセンターでも同様の爆弾を用いていたらしい。


最近出所したばかりであることも、上層部に興味を抱かせる一因になっている。


反省などせずに、また元の犯行グループと連絡を取っていたんじゃないかってな。


なんにせよ、これがそいつの顔写真だ。

266 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 21:45:09 ID:T.pTTd5A0







名前はギコという。
気になったら、自分でも調べてみるといい。

今日は連絡、ありがとな。


.――――――――――――――――――

267 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 21:47:35 ID:T.pTTd5A0
(;・∀・)「…………は?」


画像がもたらした意味を、はっきり理解するまでに時間を要した。


どうしてこの人物の顔を、再び目にすることになったのか。


文章にさえも、思わぬ文字が綴られている。

K・S・Kコンベンションセンターの名前を聞いたのは、ついさっき、【狭間の世界】でのことだ。

ショボンが死んだ事件の現場。


そこに、ギコが関わっている。

しぃさんの元カレ。


その妹であるツンは、彼に会おうとしたときに監禁されている。

268 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 21:50:21 ID:T.pTTd5A0
(;・∀・)「なんでだお!?」


今日、生きている間、そして死んでから目にしてきたたくさんの人達。
その顔がふわふわと浮かび上がる。

無秩序に出会ってきた人物達だ。






彼らが、意味をなして、見えない糸で繋がっていく。

269 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/23(木) 21:52:22 ID:T.pTTd5A0
                      人と人とは、無意識のうちに結ばれている。



                           袖触れ合うも多生の縁。



                ブーンは、自分が今まで何も知らなかったことを思い知らされた。






                       残り時間 65分31秒





                                                ∇To be continued...∇



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