■( ^ω^)は取り憑くようです
└Scene 1
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2 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:06:02 ID:fho2WLMU0
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3 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:07:01 ID:fho2WLMU0
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(;^ω^)「僕と……お付き合いしてくれお!」
彼女と出会ったのは奇跡だ。ブーンはそう信じて疑わなかった。
大学に入ってすぐに出会い、それから長い期間をかけてお近づきになった。
ようやく告白ができたのは、社会人二年目の春。
ソーサック川沿いの、桜舞い散る堤の上でのことである。
ξ゚听)ξ「…………」
彼女は、すぐには返事をしなかった。
ブーンに対してはいつでも辛辣な言葉を投げかけていた彼女、名前はツン。
ブーンの脳裏には嫌な予感しか浮かばない。
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4 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:08:01 ID:fho2WLMU0
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自分の腕や足が震え始めるのがブーンにもわかった。
相手であるツンからは、さぞかし頼りなげに見えたことだろう。
ブーンには自信などまるでなかった。
でもどうしても、彼女に伝えたい想いだったのだ。
逃げ出したくなる気持ちを堪え、どうにか目だけは動かすまいとツンを見つめる。
返事を待つ時間は、異様なほど長く感じられた。
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5 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:09:02 ID:fho2WLMU0
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ξ゚听)ξ「いいわよ」
湧いていた不安を、彼女の声が掻き消してくれる。
(;^ω^)「え!?」
ξ;゚听)ξ「えって……そっちから言っておいて何驚いているのよ」
目を細めて、彼女がもっともな反論をする。
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6 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:10:07 ID:fho2WLMU0
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(;^ω^)「いやその……いいのかお。僕なんかが相手で」
ξ゚听)ξ「いいって思ったからOKしたのよ」
ξ゚ー゚)ξ
途端に、彼女の顔が綻ぶ。
ξ゚ー゚)ξ「まっかせなさいよ。あんたとの付き合い方、よくわかっているし。
あたしと付き合うからにはね、そのなよっとした性格矯正してやるから覚悟してね」
彼女の小さな握り拳が、その胸を大らかに叩いた。
くぐもった優しい音が、ブーンの耳に届けられる。
(;゚ω゚)「お、おお……」
不安がいつの間にか立ち去ってり、代わりに混乱が訪れていた。
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7 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:11:01 ID:fho2WLMU0
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その混乱も、徐々に薄れる。
ブーンはゆるやかに、自分が何を許されたのかを認識し始めた。
不意に、春の風が柔らかく二人を包み込む。
桜の花びらが、まるで二人を祝福するように踊っていた。
( ゚ω゚)「ツン、君は本当に――」
混乱が、晴れる。
一つの真実が、ブーンの口から解き放たれる。
「胸がないんだおnむgy」(゚ω(⊂ξ(゚△゚#ξ「矯正開始だおらあ!!」
.
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8 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:12:01 ID:fho2WLMU0
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ブーンとツンの恋愛はささやかな始まりを迎えた。
ふたりとも別々の会社に就職している。
だから、仕事の傍ら、休みの日に密かに落ちあい、一緒の時を過ごし始めた。
長期休暇はなかなか取れなかったので、派手に遊びまわることはなかった。
どちらかの家に赴いたり、街を歩いたり、それくらい。
幸い大きな街だったので、困ることは少なかった。
( ^ω^)「ツンー、今度は港のあたりを歩こうお!」
ξ゚听)ξ「うーん、あそこ工場地帯でしょ? 昼間に歩いてもつまんないわよ」
(*^ω^)「だったら夜景を見に行くお! 少し遠目から見れば綺麗だお!」
この手の試行錯誤は必須で、混み合えば混みあうほど盛り上がった。
あれもしたいこれもしたい、大したことないとわかっていながらも、ふたりともこぞって案を出し続けた。
夏が過ぎて、秋が過ぎても、変わらずに会い続ける。
ふたりにはそれで十分だったのである。
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9 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:13:05 ID:fho2WLMU0
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時が流れた。
ブーンとツンが付き合い始めて、もうすぐ一年。
肌寒さがまだまだ残る、3月。
ふたりの暮らす、ここ、ニューソーク市の一角。
物語は、静かに始まる。
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10 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:14:07 ID:fho2WLMU0
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∇∇∇ ∇∇∇
∇∇ ∇∇
∇ ∇
( ^ω^)は取り憑くようです
Scene 1. こうして彼は死にました
∇ ∇
∇∇ ∇∇
∇∇∇ ∇∇∇
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11 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:15:38 ID:fho2WLMU0
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ニューソーク市は人口800万人を超える大都市である。
数百年前に船商人の交易場として栄えたこの街は、社会の変化を受けながらも強靭なる成長をし続けてきた。
その結果、多くのビジネス、政治、ポップカルチャーの集結地として世界的にも有名な街となった。
現在でも、この国の都市では1,2を争う地位を獲得しており、世界の景気の後退と裏腹になお隆盛を誇っている。
市の中央を伸びる大街道を、人々はアスキー通りと呼んでいた。
通りの周辺には各国からのファッション、フード、アートのお店が立ち並んでおり、昼も夜も人で賑わっている。
このアスキー通り沿いの街並みは、古くから、良くも悪くも市の顔と呼ばれている。
ニューソーク市の表も裏も見える場所。
人と人とのぶつかり合いが喧騒や芸術を生みだしてきたのである。
(;^ω^)「ああ、えらいところに来ちゃったお」
目の前の人混みを見て、ブーンは頭をくらくらとさせていた。
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12 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:16:31 ID:fho2WLMU0
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普段、ブーンはアスキー通りを歩かない。
人混みも喧騒も、どちらかといえば苦手だったからである。
嬉しい事に、その苦手意識にはツンも同意してくれていた。
だからツンと一緒に歩くときも、人の集まりすぎる場所は避けるようにしてこれた。
しかし、今日だけはそういうわけにはいかない。
この華やかな場所に来てどうしてもやりたいことが、ブーンにはあったのである。
人々に何度も肩をどつかれながら、いそいそと足を進めていく。
やがて辿り着いた目的地は、ビルとビルの合間にある広々とした空間だった。
ビルの間に忽然と姿を現す芝生。
街を行き交う人達の憩いのスペースとして、普段から活用されている広場だ。
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13 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:17:39 ID:fho2WLMU0
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『アスキー芸術広場』というのが正式名称である。
何代か前の市長が『街に憩いを』というスローガンのもとで創りだした広場なのだが
市長が保有する膨大な石像芸術作品の、とりあえずの置き場所にすぎない、という噂もあったりした。
その原因は、大理石をこねくり回したような工作物だ。
芝生の上に、それらは秩序もなく点在し、存在感を放っている。
作品の付近には、必ずベンチが配置されていた。
座っている間に鑑賞してください、そんな意図が読み取れる。
実際には、あんまりのんびり椅子に座って石を眺めている人はいなかったが。
それではベンチは何に使われているかというと、殆どの場合待ち合わせ場所として使われていた。
アスキー通りを歩くなら、ひとまずここに集合するべきだ。
そんな共通意識が人々にはあり、ブーンもそのとおりにここへとやってきていたのである。
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14 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:19:37 ID:fho2WLMU0
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広場の中央に、一際長く、複雑に絡み合ったダークブラウンの時計塔がそびえ立っている。
遠目から見れば、空間を下地にチョコペンをくるくると操って作られた筋のようにも見えた。
どこか異国のアーティストが作った渾身の作品らしい。
作品のひとつなので、根本にはやはりベンチがある。
しかしここで屯する人の数は他のベンチとは比べ物にならなかった。
( ^ω^)「座れねえお」
群れる人々に聞こえない程度に、こっそり悪態をつく。
これからこの群れの中に入る、そう考えるだけでため息が漏れる。
こんなことなら、もう少し調べてから集合場所を決めればよかった。
しかし、今更変えたりするのも悪いだろう。
すでに待ち合わせ時間は迫っている。
待ち合わせ相手である、ツンに、面倒をかけるわけにはいかない。
そう考えて、なんとか座れないかと、ブーンは足を動かし始めた。
∇∇∇
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17 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:22:45 ID:fho2WLMU0
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ξ゚听)ξ「来月、アスキー通りに行こうよ」
( ^ω^)「え? あそこにいくのかお? 混んでいるからいやなんじゃ」
ξ゚听)ξ「一度くらいいいじゃない! 子どもじゃないんだし」
ξ///)ξ「そ、それにほら、もうすぐ一周年だし」
(*^ω^)「あ……」
ξ///)ξ「さあ、はやく計画立てよ!」
ひと月も前に、そうして話し合いが行われた。
ブーンと一緒にアスキー通りを歩くこと。
一周年記念にと、ツンはそのデートを望んで提案したのである。
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18 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:24:16 ID:fho2WLMU0
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彼女の想いを汲み、ブーンも真剣に計画を練った。
ふたりで待ち合わせしてからどこを歩こう。どのお店を見てどの劇場に入ろう。
最後は夜景を見たい。いつか見た港の、キラキラ煌く夜景。
プランは紙にも書いたし、頭にも叩きこんだ。
忘れるなんてもってのほか、ツンをエスコートして歩くんだ。
とにもかくにも、始まりはこの時計台なのだろう。そう聞いたことがあるのだから。
∇∇∇
(;^ω^)「やっぱり座れそうにないお」
一回り歩いて確認したものの、ベンチは人々が溢れかえっており、わずかな隙間もない。
休日なうえに、学生の休みの時期とも重なっているのも分が悪かった。
仕方ない、とブーンはつぶやく。
それからなるべく時計台に近づく。人々の邪魔にならない程度に。
時計塔が見える位置にいればなんとかなるだろう。
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19 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:25:47 ID:fho2WLMU0
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やがて数メートル離れた小さな木を見つけた。
寄りかかって待っていれば、体力はそれほど消耗しないだろう。
( ^ω^)「ふう……」
木に凭れかかって、一息。
人々の喧騒を聞き流し、再びプランに思考を寄せる。
時計を確認して、その時を待った。
待ち合わせは、14時。
今の時刻は――13時30分。
十分な時間だ。ブーンはほっとする。
30分も待てば、今までのどのデートの待ち合わせもうまくいった。
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20 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:26:31 ID:fho2WLMU0
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とにかく、待つ。
ブーンは両足を地について腕を組み、空を仰いだ。
厚い雲に覆われた、重苦しい灰色の空だった。
∇∇∇
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21 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:27:21 ID:fho2WLMU0
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「ねえねえ、このニュース見た!?」
甲高い声がブーンの耳に届く。
自分に向けられたものではない。
屯している若者たちうちの、誰かが言ったのだろう。
ニュース、という言葉が気になって、ベンチに目を向けた。
*(‘‘)*「なんかー、セントラウンジ・パーク貯水池に人が飛び込んだんだって」
小柄な少女が、携帯端末を片手にはしゃいでいる。ニュースサイトを見ていたらしい。
('、`*川「えー、なにそれこわーい、自殺とか?」
隣にいる赤ら顔の女性が大げさに身を反らして言葉を返した。
*(‘‘)*「そうは書いてないよー、猫を助けようとしたみたい」
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22 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:28:22 ID:fho2WLMU0
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「でもね、でもね!」と、少女は興奮気味に手振りを交える。
*(‘‘)*「そのあとその助けた人がいなくなっちゃったんだって!」
('、`*川「え? なんで?」
*(‘‘)*「わかんなーい、溺れちゃったのかも」
('、`*川「うわー、やっぱり怖い話じゃーん」
彼女たちの態度に、ブーンは眉を顰めた。
双方がきいきいと話している。本当に怖がっているのかどうかは怪しいと思った。
所詮彼女たちにとって、他人の事件や事故は興奮の材料でしかないのだろう。
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23 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:29:34 ID:fho2WLMU0
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彼女たちだけじゃない。
世の中の大勢の人がそうなのだ。
ニュースを見て、事件があれば楽しそうに語り合い、あることないこと騒ぎ立てる。
渦中の人たちが、どんな思いでいるのかなんて、気にも留めずに――
( ^ω^)「よくないお」
首を左右に小さく振って、思考を遮った。
暗い方へ考えたって楽しいことなんかない。
特にこんな、せっかくの日を、暗い気持ちで過ごしたくはない。
ツンと会うのだから、もう少し楽しいことを思い出そう。
記憶を巡ることを楽しんでいたら、少女たちの会話は自然と彼の耳に届かなくなった。
∇∇∇
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24 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:30:50 ID:fho2WLMU0
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時計の長針が「0」に迫ろうとしたとき、呼びかける声があった。
「ブーンさん」
ブーンは俯いていた顔を弾かせ、目線を泳がせる。
疲れからうとうとしていたことに気づいて、ブーンはぞっとした。
ツンが来たのだろうかと思ったのだが、どうも彼女の姿は見当たらない。
困惑しながらも徐々に、自分の前に立つ一人の小さな女性に意識が向けられる。
その顔に見覚えがあることを、次第にブーンは思い出した。
(*゚ー゚)「お久しぶりです!」
朗らかに言って、女性は笑いかけてくる。
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26 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:32:35 ID:fho2WLMU0
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( ^ω^)「あなたは確か……しぃさん?」
(*゚ー゚)「そうそう、覚えていてくれたんだ! 嬉しい!」
(;^ω^)「お、おう」
そんなに率直に喜ばれると、ついさっきまで顔を忘れていたなんて、とても言い出せない。
しぃは、ツンの姉だった。
( ^ω^)「ええと、しぃさんどうしてここにいるんだお? 誰かと待ち合わせかお?」
(*゚ー゚)「うーん、待ち合わせ自体は会っているけど、ここじゃなくて、モリタポリタン美術館なの。
ここは仕事の関係で立ち寄っただけ。どうしても済ませてくれって言われちゃっててね。面倒だったなあ」
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27 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:33:35 ID:fho2WLMU0
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(*^ω^)「おっお、でもこれからお楽しみじゃないのかお?」
(;゚ー゚)「あー、いや」
しぃが若干顔を強ばらせる。
てっきりデートだろうと思っていたブーンは、きょとんとして顔の緩みを打ち消した。
(;^ω^)「なんか、聞いちゃいけない話でしたかお?」
(;゚ー゚)「ううん! そういうんじゃないよ!
ただちょっと、相手のことを考えると秘密にしておきたいんだ。ごめんね」
しぃの曖昧で口早な答え方はブーンの興味を引き立てたが、
格別詮索したいわけでもなかったので、ブーンはぼんやり微笑んでこの話を終わらせた。
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28 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:34:34 ID:fho2WLMU0
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(*゚ー゚)「それより、ブーンさんこそ待ち合わせでしょ!」
自分への追求が終わった途端に、しぃが思い切り良く追求してくる。
「え?」と面食らうブーンを見据えて、彼女の顔がにんまりと形を変えた。
(*゚ー゚)「ツンちゃんでしょ? ツンちゃんなんでしょ! デート? デート!?」
(;^ω^)「ちょ、おま!」
(*゚ー゚)「もうすぐ一年目だものね! あの意固地なツンちゃんに彼氏ができて本当に嬉しかったなー。
私はもう最初からずっとあなたたちのこと応援しているんだからね!
で、何用意してるの? プレゼントとか、デートコースは? あ、もしかしてもうプロポーズの」
(;^ω^)「あうあう、待ってくださいお、早口すぎますお!」
両手を前に突き立てて、しぃとの間に壁を作る。
しぃはまったく意に介さずに目を輝かせていた。
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29 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:35:35 ID:fho2WLMU0
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(;^ω^)「まあ、いろいろ考えてはいますお」
諦めて、仕方なくブーンはそれだけ伝える。
ぼんやりとした答えのはずなのに、しぃはこれでもかとばかりに口を開けて喜びを表現してくれた。
その勢いでまた何事か質問する姿が容易に想像できる。
「いやいや!」と、ブーンは手を振りまくってそれを防いだ。
(;^ω^)「ご報告は後でしますから、とりあえず今は勘弁して下さいお」
(*゚ー゚)「ええ、わかったわ! 楽しみにしてる!
それじゃ、私はそろそろ地下鉄乗らないとだから」
淀みなく元気いっぱいのまま言うと、しぃは軽やかな足取りでその場を去っていった。
ブーンの目には、その姿が、くるくると空を舞う花弁のように思われた。
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30 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:36:43 ID:fho2WLMU0
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(;^ω^)「やれやれ」
体力の消耗を感じる。
いいか悪いかは別として、しぃが疲れる人であることは間違いなかった。
しぃは、どこまでも女性らしい女性だった。
それに対し、妹に当たるツンは大抵の人に刺々しく接し、女々しいことを好ましく思わない人だ。
だから、しぃとツンは一見そりが合わないようにも思える。
でも、実際にはふたりは仲がいい。
ブーンは何度も姉妹の触れ合う姿を見たことがあった。
最初のうちはそれを不思議だなと思っていたが、付き合ううちにひらめいたことがあった。
あの姉妹は、つまるところバランスがいいのである。
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31 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:37:39 ID:fho2WLMU0
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例えばきっちりした人ばかりで付き合うとする。
すると、他の人に負けないようにとひたすらきっちりし始め、次第に精神的に疲れてしまう。
その代わり、ルーズな人をひとりでも混ぜあわせてみる。
すると、仲間内でメリハリが生まれ、ほどほどに自分らしく生きようという余裕ができあがる。
世の中同じ人ばかりでは、うまく付き合えないものなのだ。
時計の針だって、長針、短針、秒針みんなばらばら。
だからこそ時計としてしっかり機能するのである。
( ^ω^)「あれ?」
時計に思考が及んだところで、違和感に気づく。
はっと時計塔を振り返る。今の時刻は何時だったろう。
みると、14時を10分もオーバーしていた。
ツンが遅刻するなんて、今までになかったことだ。
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32 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:38:40 ID:fho2WLMU0
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何かあったのだろうか。
そんな疑問が、居心地悪く胸中に生まれた。
不安から、ブーンは上着のポケットに手を入れる。
ごそごそと手を動かしたのち、そこにあるものを取り出した。
青い四角いケース。
それが何であるか、多分しぃのように関心ある人なら、すぐにわかったことだろう。
つまみを押すと、留め具が外れる。
やけにゆるやかに、箱の上方が傾いて、中にあるものが露わとなった。
上品に煌めくプラチナリング。
ブーンの財産を大いに削って購入されたそれは、今日ツンに渡される予定のものだ。
付き合って一周年の日、彼女への最高のプレゼントとして。
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33 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:39:34 ID:fho2WLMU0
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指輪を見ると、自然と心が落ち着いた。
自分のこれまでの努力、ツンのために尽くしてきたこと
その結晶が今、彼の手に置かれていた。
ふと、疑問が浮かぶ。
彼女はこれを喜ぶだろうか。
もしかしたら、今までの付き合いを通して、自分を嫌に思ったりしていないだろうか。
いや――すぐに反論が心に浮かぶ。
だからなんだ。
自分は彼女と一緒になりたい。そう決めて、今まで頑張ってきたんだ。
うまくいくかどうかはわからない。でも、やらなきゃならないことなのだ。
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34 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:40:50 ID:fho2WLMU0
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指輪が再び、箱の中に収めた。
ポケットに、それをしまう。
時計を見れば、もう15分にまで進んでいる。
ツンはまだ来ない。
しかしもう焦るつもりはない。
ツンだって何か用事がるかもしれない。
そこで何かしらトラブルでもあれば、時間も長引くだろう。
だったらその用事が無事に終わることを祈るだけ。
それが自分にできる最善だ。
ブーンは足をしかと伸ばし、上を見上げた。
相変わらず曇り空だが、若干薄くなったようにも見える。
このまま晴れれば、もっといい。気分がスカッとするだろう。
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35 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:41:39 ID:fho2WLMU0
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ゆっくり彼女を待とう。
慌てたところで何も変わらない。
上に聳え伸びる、シベリアステートビルの屋上付近を見つめながら
ブーンは自分に言い聞かせた。
ツンとは必ず会える。
この世にいるのだから。
生きている限り必ず会えるのだから――
.
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36 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:43:13 ID:fho2WLMU0
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突然、ビル上階の壁が砕け散った。
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38 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:44:25 ID:fho2WLMU0
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事件は一瞬だった。
ガラスや壁の破片が空中へ放り出される。
焼き菓子が割れるように。
遠くに見えていたから、警戒なんてできなかった。
広場の誰もが油断していたことだろう。
音が降り注ぐまでに、ラグがあった。
その劈けるような轟音は、
上階の可愛らしい破裂とは容易に結びつかなかった。
広場の人が慌て始める。
みんな、ひとまずは音の大きさに驚いたのだろう。
すぐに音源が上にあると気づくことができた人は少なかった。
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39 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:45:09 ID:fho2WLMU0
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破片がだんだんと大きくなるように見えた。
いや――
加速度的に大きくなるそれを眺め、ブーンは自分の認識を改める。
破片じゃない。
これは瓦礫だ。
衝撃を受けて落ちてきた、硬い大きな瓦礫なんだ。
ブーンは強烈に理解する。
女性の叫び声が聞こえる。
ベンチのうちの誰かだろう。
それが、恐怖の押し寄せるきっかけとなった。
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40 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:45:52 ID:fho2WLMU0
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目の前の現実が意味を持ち、神経を襲い掛かってくる。
途轍もない混乱が来訪し、脳をぐちゃぐちゃにかきまぜていく。
叫ぼう、叫ばなきゃ。逃げなきゃ。
慌てた思考で足を動かそうとするも、
その頃にはすでに
眼前の景色は真っ暗に染まっていた。
∇∇∇
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42 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:46:45 ID:fho2WLMU0
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目が、覚めた。
上空は真っ暗だ。
本当にそれは空なのだろうか、ブーンは怪しんだ。
星ひとつだって見えなかったからだ。
起き上がろうとして、まず上半身を持ち上げようとするも、妙に手応えがない。
それにもかかわらず、いつのまにか体はしっかり立っていた。
体全体が浮かんでいるような心地がする。
ぼんやりした頭が、だんだんと認識の範囲を広げてく。
目の前には白い大地が広がっていた。
土かどうかも怪しい、無機質な白。
それがずっと広く続き、遠くのほうで黒い空と境界線をなしている。
果てしない景色だった。
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43 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:47:27 ID:fho2WLMU0
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「起きたかい」
(;^ω^)「!!」
耳元で声がして、ブーンは飛び上がった。
警戒しつつ、顔を見やる。
男がいた。大柄な男だ。
体全体がよれよれの灰色のコートに包まれている。
顔もまた膨れがちであり、それなりの皺が目に入った。初老なのだろう。
タレがちの眉の下に、きょろっとした目があった。それが妙に不釣り合いで、印象深かった。
(´・ω・`)「もう観察はすんだかい」
男の口から、淡々としたセリフが綴られる。
ブーンが状況を認識するのを待っていたのだろう。
余裕ある態度が、今のブーンにはあまり快くはなかった。
自分は何も、わけがわかっていないというのに。
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44 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:48:24 ID:fho2WLMU0
-
(;^ω^)「僕は、どうしてここにいるんですかお? あなたは誰ですかお」
至極当然の質問だと、ブーンは言いながら思った。
それにもかかわらず。相手の顔は冷たい。
答えることにうんざりしている、そんな様子だった。
ややあって、男は指を一本、顔の前にたてる。
何が起こるのかという不安を抱きながら、ブーンはそれをまじまじと見つめた。
男の指が、傾き、下へ動かされる。
それにしたがってブーンの視線も移動する。
向けられたのは、男の足元。
( ^ω^)「あ……」
すぐに、気づいた。
男には足がない。
ももの当たりから色が薄れ、膝より下は完全に見えなくなってしまっている。
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45 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:49:21 ID:fho2WLMU0
-
(´・ω・`)「君もだよ」
男の指がまっすぐブーンに向けられる。
「え!」と、驚きながらブーンは顔をかがめた。
自分の足が、男と同じように薄れている。
先ほど浮いているように感じたが、その感じ方は正しかった。
自分は今、浮かんでいる。
疑問が、次々と湧いてくる。
しかし、ブーンが顔をあげた途端に、男は首を横に振ってみせた。
(´・ω・`)「理解は難しいだろうけど、黙って聞いてくれるかな」
話を続けることができないまま、ブーンは口を閉じた。
その姿を見て、男も納得したように首をうんうんと上下させる。
(´・ω・`)「よろしい。暴れないだけいい子だ。
私の名前はショボンという。君みたいな人とはよく会うんだよ」
一旦言葉が切られる。
彼は笑いもせず、ただ悲しそうに、ブーンを見つめていた。
再び、言葉が続けられる。
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46 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:50:23 ID:fho2WLMU0
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(´・ω・`)「ここはあの世とこの世の狭間。
君はさっき、瓦礫に潰されて死んだのさ」
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47 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 00:51:37 ID:fho2WLMU0
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(;゚ω゚)「……は?」
そんな単純な驚きしか、すぐには出すことができなかった。
ブーン
死亡時刻 14時17分
∇To be continued...∇
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