■( ^ω^)は取り憑くようです
└Scene 2
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59 名前: ◆MgfCBKfMmo[] 投稿日:2014/01/08(水) 22:08:12 ID:wbrnvMHg0
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18歳のとき、ブーンはニューソーク市立の大学に入学した。
アスキー通りといった中心地からは離れているものの、市内でもかなり古く、広大な敷地を持つ大学だった。
早々に新入生の歓迎パーティが開かれ、ブーンもそこに出席した。
盛大にご馳走が振る舞われる宴会。1時間もすぎれば、だいたい会場でグループが出来上がっている。
ブーンはというと、出会ったばかりの若者たちと集まって、お酒を飲み合い遊んでいた。
(|!^ω^)「おえ……そろそろ休むお」
真面目に飲酒をするのは初めての機会だった。
お酒が自分に合わないことを理解したブーンは、その場にいた人たちを適当にあしらって外へ出る。
今となっては顔も覚えていない人たちだ。
宴会場は学校のすぐ傍で、ソーサック川沿いの通りに面していた。
パーティはどう見積もってもあと1時間は続くだろう。それまで川辺りで涼もうか。
痛む頭を抑えつつも、通りを横切り、堤を登った。
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60 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:09:16 ID:wbrnvMHg0
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眼下臨める川は、向こう岸の都心部からの光に照らされていた。
アスキー通りを含む市の中心地が、その光源となっている。原色の入り混じった節操のない光の帯だった。
堤防を降りれば小道にたどり着く。
洪水防止のための仕組みの上に空いたスペースを、散歩道に整備したものだ。
ところどころにベンチや小屋が置かれている。夜景を鑑賞したり、くつろぐことができる場所となっていた。
やや肌寒い風が吹き抜けていて、酒気が流されていく。ブーンは心地よく思った。
立ち止まって深く呼吸したのち、座れる場所がないかなと首を動かした。
ξ--)ξ
近くにあった、木造の簡易な小屋の中。
テーブルに向かい合う形で置かれている、長椅子の上。
彼女はそこに座っていた。
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61 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:10:16 ID:wbrnvMHg0
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目を閉じているから、眠っているのだろうかとはじめのうちブーンは思った。
でもそれは違った。眉間をつまむ彼女の指がじりじりと動くのが見えたからだ。
もう片方の手には携帯端末が握られている。耳からは離れているから、通話は終わっていたのだろう。
ついさっき通話を終え、その結果苦悶している。そう見て取れた。
ξ 凵@)ξグスッ
ひとつ鼻をすすると、彼女は一層強く歯噛みし始めた。
「なんで……」という、か細い震え声がその口から出てくる。誰に向けたものでもないつぶやき。
それから、彼女は顔を下に向け、腕を組んで頭を覆ってしまった。
(|!^ω^)「…………」
彼女を見るのは初めてだったし。同じ大学かどうかも、そのときにはわからないでいた。
ほうっておくこともできたのだけど、どうしてかブーンの視線は、彼女から離れないでいた。
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62 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:11:21 ID:wbrnvMHg0
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気になるから――簡単に言ってしまえばそうなのだろう。
彼女が何に苦しんでいるのかわからない。
だけどどうにか力になれないだろうか。
( ^ω^)「大丈夫ですかお?」
気になったから、声をかけてみることにした。
彼女からの反応は鈍かったものの、ゆっくりと顔を持ち上げてくれた。
ξ;凵G)ξ「ふえ?」
ぐしゃっと潰れた顔が現れたときには、さすがにブーンも驚いた。
そのときの彼女の姿は、これから先何年も、ブーンの頭から離れることはなかった。
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63 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:12:15 ID:wbrnvMHg0
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結局、パーティには戻れなかった。
後から主催者に多額の金額を請求されて、
これはひょっとして騙されているんじゃないかと思うこともあった。
しかし、残念ながら
今となっては誰が主催だったかも、ブーンは忘れてしまっていた。
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64 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:13:25 ID:wbrnvMHg0
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∇∇∇ ∇∇∇
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∇ ∇
( ^ω^)は取り憑くようです
Scene 2. そしたら彼は取り憑きました
∇ ∇
∇∇ ∇∇
∇∇∇ ∇∇∇
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65 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:14:16 ID:wbrnvMHg0
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(#゚ω゚)「ふっざけんなこの野郎!」
叫んで、ブーンはショボンに拳を振るう。
足で地面をける感触も無く、本当の意味でブーンはショボンに飛びかかっていた。
対するショボンはというと、がっかりした面持ちをしていた。
(´・ω・`)「せっかくおとなしくしてくれていると思ったのになあ」
言って、ひらりと身をかわす。ブーンの拳は空を切り、バランスが崩れた。
(#゚ω゚)「くっそ、この」
怒りは収まらなかった。
いきなり人の前に現れて、『お前は死んでいる』などと言われ、いい気分になる人はいない。
それ以外にも、腹をたてる理由があった。
こんなところにいるはずじゃないんだ。
自分はあの公園で待っていなくちゃならないんだ。
それなのに、死んでいるだなんて、よくもそんなことを――
こうした憤慨により、ブーンの内心は荒れていたのである。
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66 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:15:24 ID:wbrnvMHg0
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(´・ω・`)「落ち着いてくれ。殴ったところで私は痛くも痒くもないんだ」
暴れまわるブーンを前にしては、ショボンの様子は淡々としすぎていた。
そのために、ブーンの神経が逆撫でられる。
再びショボンを襲おうともがいたが、身体はなかなかいうことをきいてくれない。
この半身だけの身体に慣れていないことをブーンは痛感した。
ショボンが「ふう」と一息つく。
(´・ω・`)「僕達の今の状態はとても曖昧なんだ。この場所自体が現実とはかけ離れているからね。
よし、気分転換にここがいかに不可思議かを実例紹介してやろう。見ていなさい」
ブーンが鼻息荒く腕をバタバタふるうのを傍目に、ショボンは白い大地に両手をついた。
「えいっ」と気のない掛け声がして、とたんに大地が盛り上がる。
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67 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:16:17 ID:wbrnvMHg0
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(;゚ω゚)「え……」
こみ上げていた怒りが、薄れていく。
関心が目の前の現象に移ったからだ。
(;^ω^)「な、なんだお!?」
あっけにとられるブーンをよそに、白い地面がうねうねと動き始める。
理解を超えた光景を目の当たりにし、感情が追いつかなくなった。
白い地面は、思ったより柔らかいものだったのだろうか。
それが、かたまって、跳ねて、うごめく。
見た目では、紙粘土のようだ。見えない手でこねられているような様相を呈する。
ものの数秒で、形作られたのは、バーカウンターだった。
ご丁寧にワインセラーまで置かれている。
真っ白なので、着色前の模型のようにも見えた。バーの模型なんてものがあるのかはわからなかった。
とにもかくにも、地平線まで見える地に、バーの内装だけが鎮座している。
そのことは、異様というよりほかなかった。
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68 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:17:27 ID:wbrnvMHg0
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(´・ω・`)「椅子が足らないや」
そう言うと、ショボンは一度指を鳴らす。
白の地面が盛り上がって、カウンターに向かう形でひとつ丸椅子が現れた。
(´・ω・`)「お望みなら色合いも素材も変えられるよ。どれがいい?」
ブーンに何も言わせないまま、指が二度、三度、何度となく鳴らされる。
そのたびにカウンターが変化していく。黒、赤、メタリック、もこもこの何か――
(;^ω^)「待ってくださいお!」
ひたすらに置いて行かれる空気に嫌気が差して、ブーンが声を出した。
(´・ω・`)「あ、これね」
ショボンはその言葉を自分の質問への答えと受け取ったらしい。
バーカウンターは、木造のアンティークなものにおちつく。
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69 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:18:29 ID:wbrnvMHg0
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(;^ω^)「いや、別にカウンターはどうでもいいんですお」
はっきり言ってしまうと、ショボンは息を呑み、タレがちの眉が一層斜めになる。
思いの外ショックだったらしいが、構わずブーンは話を続けた。
(;^ω^)「なんでそんなふうに変化させられるんですかお。まるで魔法じゃないですかお」
(´・ω・`)「そんな大層なもんじゃないよ。曖昧な存在は適当に姿を変えられる。
君も数年この空間にいればできるようになるよ。まあ、それがお望みならばだけど」
さらりと言ってのけると、ショボンはふわふわ浮かんで、カウンターの内側に赴く。
バーテンがいるべき位置だ。客は一名。ブーンだけ。
(´・ω・`)「さて、注文を聞こうか」
(;^ω^)「……」
(´・ω・`)「酒は嫌いか。それじゃあミルクだな」
(;^ω^)「そういう意味じゃなくて! 確かにお酒は苦手ですけど」
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70 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:19:15 ID:wbrnvMHg0
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慌てて口をはさみ、頭を捻って言葉を探す。
目の前で起きているのは明らかに超常現象だ。
このショボンという男にしたって、普通ではない。
この状況をなんとか飲み込むために、納得できる説明が必要だとブーンは考えた。
( ^ω^)「もう少し細かく事情を聞いて構わないですかお?
やっぱりいろいろ気になるんですお。こんな、不思議なものを目の前で見ちゃったからには」
(´・ω・`)「ああ。もちろん、構わないよ。もう暴れたりしないと約束してくれたらね」
物腰柔らかく、ショボンがすすめてくる。
すでにブーンには、暴れる気などさらさらなかった。
呆気に取られているというのもあったし、自分がまっとうな人間でないという実感もある。
なにより、ショボンがそれほど悪人とも思えなかった。
冷静に話を聞いてみるべきだろう。
首を横に振ると、ショボンがほっとしたように肩を落とした。
殴られても痛くないと言いつつ、緊張はしていたようだ。
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71 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:20:16 ID:wbrnvMHg0
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ブーンが席に座る間に、ショボンはワインセラーの前で何度か指をパチパチ鳴らした。
飲み物を準備しているらしい。音が弾けると、棚の中にボトルが生えてくる。
頼んでいなかったが、本当にミルクを用意してくれていることがブーンにも遠目からわかった。
ブーンは肘をカウンターに乗せる。すると、身体が支えを得て安定した。
上半身が人間と同じだからだろう。そのことがブーンの胸を温める。
自分が死んだとなかなか納得できていなかったから、人間らしい振る舞いができたことにほっとしたのである。
ショボンがグラスを手に振り返ったとき、ブーンは口を開いた。
( ^ω^)「僕は本当に死んだんですかお?」
(´・ω・`)「うん」
(;^ω^)「…………」
即答されて、引きつるブーンの前にグラスが置かれる。中のミルクがたぷりと揺れた。
飲み物にすぐに手を付ける気にはなれず、ブーンは質問を続ける。
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72 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:21:14 ID:wbrnvMHg0
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( ^ω^)「あの、シベリアステートビルの瓦礫のせいですかお」
(´・ω・`)「たぶんね。君が死んだとき、君の身体周辺の景色を見ることができたのだけど
瓦礫が降り注いで燃え上がって、結構な騒ぎになっていたよ」
やや気になる物言いだったものの、瓦礫が落ちるのをブーンも実際に目撃していたので
ショボンの発言は信頼できる情報なのだろうと思った。
そう思い至ったからこそ、ブーンの気持ちは深く沈み込む。
(; ω )「…………そうですかお」
自分は本当に死んだのか。
認めてしまうと、なおのこと辛い。
言葉は続けられなくなって、ブーンは項垂れる。
喉の奥に様々な言葉が上り、這い出てこようとする。
だけどうまくまとめることができなくて、吐き気を感じるばかりになってしまった。
その様子を見かねてか、ショボンが「あー」と言う。
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73 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:22:17 ID:wbrnvMHg0
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(´・ω・`)「死んでしまってはいる。でもね、君はまだ中途半端な位置にいるんだ」
引っかかる物言いに、ブーンは再び顔を上げた。
( ^ω^)「中途半端?」
(´・ω・`)「うん」
それから、ショボンは長々と説明を続けた。
(´・ω・`)「ここはね、あの世とこの世の狭間。
あ、もちろんこの言い方は現実世界から見た言い方だよ。他にうまい言い方が無くてね」
ショボンがまず、腕を伸ばして上を指した。
(´・ω・`)「人が死んだらあの世に行く。行ったことがないので詳しくは知らないけど、なんとなくわかるでしょ?
だけど――ときにはあの世に一気に行けずに、この【狭間の世界】で立ち往生しちゃう人がいる」
上を向いていた指に、片方の手のひらが押し当てられる。
腕が押し戻されて、ブーンの目の高さまで落ちてきた。
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74 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:23:17 ID:wbrnvMHg0
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(´・ω・`)「なんでかというと、心がまだ現実世界に繋がっているからだ。
つまり、『未練』があるんだ。そいつがあの世への道を塞いでしまっている。
だけど身体は死んでいるから現実世界にも戻れない。そんな人が、この【狭間の世界】にやってくる」
ショボンの片腕がゆっくりと横に払われる。
バーの外の空間を示しているのだろう。この白黒の、【狭間の世界】そのものを。
あの世とこの世の狭間にいる。
突飛な話だが、今のこのフワフワした状態の説明に不思議とマッチしている、そうブーンは思った。
(´・ω・`)「君も、何か未練んがあるのだろう?」
問いかけられたときには、ブーンもすでに思い当たっていた。
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75 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:24:15 ID:wbrnvMHg0
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( ω )「未練……」
ブーンは、つぶやく。
゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙
ξ゚听)ξ
゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙
――――ツン。
未練といえば彼女しかいない。
思い浮かべた途端に、猛烈な感情がこみ上げてくる。
( ω )「あ……ありますお。もちろん」
短めに答えた。
あんまり話し続けると、嗚咽でかき乱されてしまいそうだった。
感情を無理やり、押し込める。
(´・ω・`)「ふむ……そうか」
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76 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:25:23 ID:wbrnvMHg0
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ショボンは顎を擦って目線を上に向ける。
続ける言葉を迷っているように見受けられた。
ややあって、ショボンが発言する。
(´・ω・`)「辛いかもしれないけど、率直に言うよ」
(´・ω・`)「その未練があるかぎり、君は成仏できずここを彷徨うことになる」
(|!^ω^)「え……」
まさかと思って聞き返したものの、ここでもまたすばやく、ショボンはこくりと頷いた。
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77 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:26:18 ID:wbrnvMHg0
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(´・ω・`)「そうだ。現実にもあの世にもいられないまま、エネルギーが尽き果てるまでここにいることになる」
(|!^ω^)「い、嫌だお! そんなの!!」
反射的にブーンは叫んだ。
首を外に向けると、真っ白な大地が目に映る。
この広大な場所で、ぽつんと存在し続ける。
考えただけでも寒気がする。
(´・ω・`)「嫌かい?」
(|!^ω^)「そんなの、当たり前じゃないですかお!」
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78 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:27:12 ID:wbrnvMHg0
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(´・ω・`)「……ちなみにどうやっても5,6年もすればエネルギー切れであの世に行けるよ」
急に話が切り替わって、ブーンは目を瞬いた。
(;^ω^)「そうなのですかお?」
(´・ω・`)「そう。僕が今それを実感しているからね」
ショボンの手のひらが、自らの胸に触れた。
「あ……」と、今更ながらもブーンは気づく。
この世界にいるということは……ショボンもまた、自分と同じ存在なのだ。
( ^ω^)「ショボンさんも、何か未練を残して死んでしまった人なんですかお」
(´・ω・`)「うん。もうここには6年ほどいるかな」
軽々と、彼は言ってのける。
何もない6年を想像して、ブーンは身を強ばらせた。
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79 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:28:16 ID:wbrnvMHg0
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(´・ω・`)「そんなに怖いかい?」
(;^ω^)「あ、いえ」
否定しようとしたものの、うまく言葉が続けられない。
その姿を見て、ショボンが力のない微笑みを浮かべた。
(´・ω・`)「あのね、何もずっと一人っていうわけじゃないんだ。
君や僕のように、【狭間の世界】に来てしまった人はそれなりにいる。
そういう人たちと話し合って未練を消すお手伝いをすることもあったんだよ」
(´-ω-`)「まあ、それでも6年間のうち、9割は独りでいたかな。ははは」
ショボンが目を閉じると、目尻の皺が際立った。
疲れ果てている。長い深い悲しみのせいで――
そう訴えかけてきているように、ブーンには見えた。
その悲しみが、6年の空白によるものなのか、
あるいはまた別の原因によるものなのかは、そのときのブーンにはわからなかった。
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80 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:29:23 ID:wbrnvMHg0
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( ^ω^)「……6年ということは、ショボンさんは、もうすぐ成仏するんですかお?」
途切れた話を戻す。
ショボンは「ん?」といって、目を開いた。
(´・ω・`)「ああ、そうだと思うよ。これだけ長くいるとだいたい感覚でわかるね。
なるべくエネルギーを使わないようにしているが、もってあと数日といったところだろう」
言って、それからわずかに上を仰ぎ見る。
遠くの何かに語りかけるかのように。
(´・ω・`)「でもね……私はできるだけ長く、ここに残っていたいんだ」
ブーンにとって、それは不可解な言葉だった。
ショボンはこの空間にいて、つらいと思わないというのか。
その意味を込めて首を傾げると、ショボンにもその意図が伝わったようで、彼は言葉を続け始めた。
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81 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:30:31 ID:wbrnvMHg0
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(´・ω・`)「『未練』というものを考えてご覧。
それは何かしら現実世界で持ち合わせた、悩みや苦しみ、後悔の名残だろう?
私の『未練』もおそらくそれなんだ。後悔が、罪の意識となって、私をここに縛り付けている」
(´・ω・`)「簡単に晴らせる代物でもないし、何より私は、その苦しみを忘れたいと思っていない。
出来る限りこの狭間に彷徨い続け、後悔し続けることが、せめてもの償いだと思っているんだ」
目尻の皺を見たときに感じた深い悲しみが、ブーンに思い起こされた。
そこに見えたものこそが、彼の『未練』そのものだったのだろう。
ショボンという人間の一片を耳にした、そんな気がした。
(´・ω・`)「君のはどうだい? どんな『未練』なのか、聞いてもいいのかな?」
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82 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:31:24 ID:wbrnvMHg0
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話がブーンに振られると、ブーンは「えっと」と声を漏らす。
自分の心に問いただす。
自分の未練――ツンのこと――を、忘れたいなんて思わない。
もしまだ許されるならば、彼女のことをまだ想っていたい。
たとえ人の身体が無くなったとしても。
再び、感情がこみ上げてくる。
先ほどは堪えた気持ちを、今こそゆっくり吐き出していく。
( ω )「…………プロポーズ、するはずだったんですお」
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83 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:33:18 ID:wbrnvMHg0
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予想したとおり、言葉尻が震えてしまった。
それでも構わず話を続ける。
( ;ω;)「ツンとは、大学一年生のときに知り合ったんですお。
初めて見た時、彼女は泣いていて。その様子が、とても気になって。
僕は彼女に声をかけて、話をしてみたんですお」
新年会のパーティの夜。
ニューソック川の川沿いの小屋の中。
泣いている彼女と出会ったときのこと。
( ;ω;)「彼女のお姉さんは何か事件に巻き込まれたらしくて、そのせいで周りの人に悪い噂を立てられていたんですお。
それをツンはずっと気に病んでいて。あのときもそのことに関して良くない連絡が来たらしく、荒んでいて……」
( ;ω;)「大まかな話だけしてくれたんですけど、それでもとても重たい話でしたお。
だけど、僕はどうしても彼女を気楽にさせてあげたいと思って、真剣に聞いて、受け答えをし続けましたお。
そうしたら、最後の最後に彼女が、笑ってくれて」
( ;ω;)「『この話を他人にしたのはあなたが初めて。またお話しましょう』って」
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84 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:34:17 ID:wbrnvMHg0
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また会うことができる。
彼女はブーンと会うことを望んでいる。
そのことが、ブーンに例えようのない幸福感をもたらした。
( ;ω;)「それから、彼女との友人関係が始まりましたお。
思えばこのときには、もう僕は彼女のことが好きだったんですお。
彼女の笑顔が大好きだったんですお」
ブーンは一呼吸をおいた。
すでに嗚咽もまじり、息も続きにくくなっていた。
でも、どうしても話したい。
そう思い、ミルクを一口飲んで、話を続けた。
( ;ω;)「ようやく告白できたのは、去年のことですお。そして一年付き合って、今日になって。
プロポーズのためにデートコースやプレゼントまで用意して、公園で待っていましたお。
そうしたら爆発が起きて……やっと、やっと彼女に想いを伝えられると思ったのに」
( ;ω;)「僕は本気で彼女を愛していて、本気で一緒に暮らしたいと思っているんだと、
そう、伝えられると思ったのに……なんでこんなことに……」
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85 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:35:18 ID:wbrnvMHg0
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ミルクに伸びようとする手が、途中で止まった。
ひどく震えていて、この手で持ったらきっと中身がこぼれてしまうと、朧げながらにブーンは自らを制していた。
その手は、方向を変え、ブーンの顔に押し当てられ、ひたすら涙を拭うのに使われた。
止めどなく流れてくる涙が、彼の手を溢れ落ち、カウンターにも滴っていく。
(´・ω・`)「…………彼女のことが、未練なんだね」
ショボンが静かに言う。ブーンの耳に、その音は染み渡った。
ブーンは鼻をすすりながらも、ひとつ大きく頷いた。
( つω;)「せめて、どうしてあの待ち合わせ場所にいなかったのかは知りたいですお。
いつもの彼女なら待ち合わせに遅れることなんてなかったのに。
どうしてあのとき、遅れてしまったのか。その理由だけでも知りたいですお」
死んでしまった悔しさが、ブーンの言葉を濁らせた。
あのとき、15分ほど待ち合わせ時間が過ぎていた。
その間にツンに何が起こっていたのか、今を持って、ブーンは知らない。
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86 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:36:17 ID:wbrnvMHg0
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(´・ω・`)「ふむ……」
ショボンが小さく唸る。
ブーンの話を聞いて、感慨に耽っているように、ブーンには見えた。
ところが、どうもそうではないようだった。
ショボンは眉根を寄せ、考え事をしている。
(´・ω・`)「晴らせないことも、ないか……?」
誰に問いかけるでもなく、ショボンがつぶやく。
ブーンもその言葉に気づいて、涙を拭って彼に意識を向けた。
それから短く息を吸って、ブーンへ視線を送る。
(´・ω・`)「……君はまだ、死んだばかりだろう?」
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87 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:37:17 ID:wbrnvMHg0
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( ;ω;)?
質問の意図はわからなかった。
( ;ω;)「それは、多分。僕の記憶も少しはあるし、ショボンさんが見た通りなら」
ブーンは首を縦に振る。
ショボンはまた「ふむ」と唸った。
(´・ω・`)「私はね、さっきも言ったように、ここへ来た人の成仏のお手伝いをして過ごしていた。
そのとき使っていた手法が、君にとって役に立つかもしれない」
ショボンの指が、一本突き立てられる。
ブーンが見ているうちに、その指が下へと向けられた。
白い地面へ、まっすぐに。
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88 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:38:20 ID:wbrnvMHg0
-
.
(´・ω・`)「もし君がまだ、エネルギーに満ちあふれているならば――
現実世界に降りて、人に取り憑くことができるんだよ」
.
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89 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:39:34 ID:wbrnvMHg0
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( ;ω;)「……取り憑く?」
突拍子のない言葉を耳にし、涙が途切れた。
(;^ω^)「まさか、幽霊とかお化けみたいに、人の身体に乗り込めるんですかお?」
(´・ω・`)「乗り込むか。どうだろう。
僕が見ている様子では、乗り込むというよりお借りするといったほうが近いかな」
(´・ω・`)「君が取り憑いている間、元の人の意識は眠る。
君はその代わりにその人の身体を操れるんだ」
(;^ω^)「そんなこと、どうやって」
(´・ω・`)「それはやってみたらわかるよ。もちろん死んでいるわけだから、いろいろ制限があるけどね」
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90 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:40:21 ID:wbrnvMHg0
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(´・ω・`)「それで、どうだい。興味はないかい?
もしそのツンという子に取り憑いたら、彼女がどんな様子なのかわかるんじゃないかな」
ショボンの言葉が、ブーンをハッとさせる。
ツンがどうして待ち合わせに来れなかったのか、その理由がわかるかもしれない。
ブーンの興味がふつふつと湧き、目を見開かせた。
ショボンの案に、乗ろうとする。
ところが、別の気持ちが湧いてきた。
【狭間の世界】に長年暮らしているショボンに対する気後れだ。
( ^ω^)「いいんですかお? そんなふうに協力してもらって。
その……ショボンさんは未練を消せないのに」
すると、ショボンはやや眉を吊り上げて反応した。
(´・ω・`)「言ったろう? 僕は未練を消したくないんだ」
(;^ω^)「で、でも」
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91 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:41:15 ID:wbrnvMHg0
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(´-ω-`)=3
ショボンが大きな溜息をつくので、ブーンの言葉が途切れる。
(´・ω・`)「あのね、僕が人の未練を晴らしていたのは趣味とか、癖みたいなものだ。
困っている人を見ると助けてあげたくなる性分なんだよ。現実世界にいた頃からね」
(´・ω・`)「だから、もし君が困っているならそれを助けてあげたい。それだけなんだ。
必要なのは僕への気遣いじゃなく、君がどうしたいか、だよ」
別に難しいことを言っているわけでもない。
『人を助けたい』なんて、陳腐とも捉えられかねない言葉だ。
でも、それにもかかわらずショボンの言葉は、とても力強かった。
ショボンが本心で語っていることが、ブーンにはよくわかった。
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92 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:43:01 ID:wbrnvMHg0
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(´・ω・`)「改めて、聞くよ。僕の提案に乗るかい?」
ショボンがまた、質問する。
ブーンは、一呼吸おいて、それから質問に答える。
( ^ω^)「…………知りたい、ですお」
ショボンの首が縦にふられた。
「任せてくれ」と、彼は小さく続ける。
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93 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:44:06 ID:wbrnvMHg0
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(´・ω・`)「一応確認なんだけど、君はその子に触ったことがあるよね?」
「え?」ときょとんとしつつも、ブーンは肯定する。
(´・ω・`)「良かった。取り憑くことができるのは、君の霊魂が入った身体で触ったことのある人だけなんだ。
触ったことがあるくらい親密な関係の人でないと、その身体にお邪魔できないんだよ」
( ^ω^)「……よくご存知ですお」
(´・ω・`)「長年の研究の成果だよ」
これが先ほど言っていた『いろいろある制限』のひとつなのだろう。
ブーンは真剣に受け止め、頭に入れた。
( ^ω^)「他にどんな制限があるんですかお?
僕がツンの現状を知るのに関わりそうなことでは……」
もし彼女の状況を確認するのに支障が出るならば、検討しなおさなければならない。
だからショボンから、聞けることは聞こうと思った。
(´・ω・`)「ふむむ、少し確認するならそこまで気にしなくていいと思うけど。
あえて言うなら、【狭間の世界】に来たばかりの霊魂ならば、現実世界で総計100分まで人に取り憑くことができる。
それ以上の時間を使えばエネルギーを使い果たし、君は成仏してしまう」
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94 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:45:01 ID:wbrnvMHg0
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100分――【狭間の世界】で5,6年過ごせることと比べれば、ずいぶんと短く聞こえる。
現実世界で生きることは、それだけエネルギーを使うことなのだろう。
(´・ω・`)「あとは……そうだな。同じ人には連続で15分までしか取り憑けない」
(;^ω^)「15分!?」
さらに時間が短くなり、思わずブーンは声を上げる。
(;^ω^)「な、なんでですかお?」
(´・ω・`)「昔、僕が手助けした人の中に、15分以上他人に取り憑いた者がいた」
そのときを思い出そうとしているのか、あるいは嫌な思い出だったからか
ショボンは話し声のトーンを落とした。
(´・ω・`)「それでね、取り憑いた霊魂は戻ってこれたんだが、取り憑かれた体の方は意識を取り戻さなかった」
(;^ω^)「え……」
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95 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:46:00 ID:wbrnvMHg0
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(´・ω・`)「たぶんだけど、15分も別の霊魂に取り憑かれたら、身体が元の霊魂を受け付けなくなってしまうんだと思う」
(;^ω^)「つまり……連続で15分間取り憑かれた人は、死ぬ?」
(´-ω-`)「植物人間かな。意識が戻らないことを現実世界ではそう呼ぶ」
(;^ω^)「…………」
突然別人の人格になったと思ったら、ぱたりと倒れてそのままになる人間。
そんな情景を想像して、絶句する。
間違ってもツンをそんな状態にするわけにはいかない。
冷や汗をかきながら、ブーンは心に刻み込んだ。
ショボンから思いつく説明はここまでだったようで、話が途切れた。
ブーンは半分以下になったミルクを眺めながら、他に聞くことはないか思案し始める。
程なく、先程からショボンの説明の中で気になる点があることに気づいた。
「そういえば」と、言葉を続ける。
( ^ω^)「ここから現実世界を見ることってできるんですかお?
ショボンさんは、取り憑かれた人が意識を取り戻さないのを『見た』って言いましたけど……
そういえば僕のことも、『瓦礫に潰される僕を見た』って言いましたおね?」
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96 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:47:12 ID:wbrnvMHg0
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(´・ω・`)「ああ、それか。良い質問だな」
勿体つけたように、大きくショボンは頷いた。
(´・ω・`)「僕達霊魂は、一度取り憑いた人間のことを監視できるんだ。僕はこれを【俯瞰】と呼んでいる」
( ^ω^)「【俯瞰】?」
(´・ω・`)「見ていてくれ。そのほうが理解が早いだろう」
言って、ショボンはワインセラーの方に顔を向け、指を鳴らした。
突然、空間に四角い平面が浮かび上がり、ワインセラーを覆い隠す。
ブーンが驚いている暇もない。白い大地が変化したときと同じように、その形成はあっという間のことだった。
まるでディスプレイのようなそれは、ぷつりと音を鳴らすと、映像が現れる。
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97 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:48:10 ID:wbrnvMHg0
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灰色の無機質な箱が見える。
小さなロッカーのようなものだ。
(´・ω・`)「さっき、触れた人には取り憑くことができると言ったね」
取り憑くことについて、ショボンが言った内容だ。
彼は触れるという行為が『縁』の象徴だと言っていた。
そのことを思い出して、ブーンはこくりと首肯する。
(´・ω・`)「それは霊魂でも同じことだ。霊魂同士が触れ合えば、相手の元いた身体に取り憑くことができる」
ショボンの指が、また下へ向けられる。
ブーンはそれを聞いて不思議に思った。
( ^ω^)「あれ、ここに来るのは死んだ人だけじゃないんですかお?」
(´・ω・`)「うん、死んでいる。だから結果が少し変わってくる。
きちんとした生体ではないものに取り憑くと、霊魂はすぐにこっちの世界に戻ってきてしまうんだ」
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98 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:50:38 ID:wbrnvMHg0
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ショボンの指が、くるくると回りながら上へと上昇した。
霊魂が【狭間の世界】に戻ることを表していたのだろう。
ブーンはそれを律儀に目で追う。
ショボンの話が続く。
(´・ω・`)「で、だ。一旦そうして取り憑くと、その人の身体の半径3メートル以内を【俯瞰】できるようになる。
一度取り憑いた身体と僅かながらに縁が結ばれているから起こる現象だと僕は見ている」
( ^ω^)「それで、監視できると……それも研究の成果ですかお?」
(´・ω・`)「そうだね。今この映像に映っているのも、そうして一度取り憑いたことのある人間のものなんだよ」
(;^ω^)「人間って……ここに映っているの、箱ですお?」
(´・ω・`)「うん。ちなみに一番最近取り憑いた人のものだ」
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99 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:51:55 ID:wbrnvMHg0
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一番最近。
その発言と、ショボンが自分の死因を知っていることが、ブーンの頭のなかで符合する。
嫌な想像が一気に浮かび上がってきた。
(;^ω^)「ま、まさか僕の!?」
(´・ω・`)「その通り」
ショボンの口角が一段と釣り上がった。
呆然とした後、ブーンは顔をしかめる。
(´・ω・`)「さっき一瞬取り憑いて状況を確認したんだ。一瞬ね。そのとき死因を知ったから君に教えることができた」
(;^ω^)「もしかして、ここで人を見つけるたびに同じことをしているんですかお?」
(´・ω・`)「うん。気になるだろう?」
(;^ω^)「うーん、まあ……」
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100 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:52:40 ID:wbrnvMHg0
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(´・ω・`)「君の死体は今、霊安室に保管されているようだね。無事回収されてよかったじゃないか。
もし粉微塵にされて、およそ生物と言えない形になっていたら取り憑けないし、【俯瞰】もできないからね」
あの小さな箱の中に自分の身体が収められている。
粉微塵ではないにしても、いくらか折れ曲がっていることが想像できた。
それがいいことなのか悪いことなのか、ブーンには判別しかねた。
さすがにやり過ぎたと思ったのか、ショボンが「済まない」と詫びて、顔をうつむかせる。
ブーンとしては今更な反応だった。
(´・ω・`)「まあ、現実世界を見れた理由はこれさ。
そのツンという子を調べる上で、もしかしたら必要かもね」
それからすぐ、ショボンは指を鳴らし、ディスプレイが閉じられる。
隠れていたワインセラーが、再び顔を出した。
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101 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:53:39 ID:wbrnvMHg0
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(´・ω・`)「さて、説明はもういいだろう。
さっそく君の未練を晴らそうじゃないか」
ショボンが手のひらを打ち付け、やる気をアピールし始める。
(´・ω・`)「ふふ、久しぶりに腕がなるなあ」
人助けを心底楽しんでいる、そんなショボンの気概を感じ
今更ながら、心配する必要は無かったんだと、ブーンは気付かされた。
∇∇∇
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102 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:54:36 ID:wbrnvMHg0
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バーから数メートルほど離れた場所で、ショボンが地面に手を触れる。
大地がうごめき、出来上がったのは、ひとつの椅子だ。
妙に物々しく、光沢を発し、細々とした彩色も施されている。
例えるなら、SF映画に出てくる宇宙船の座席だ。
( ^ω^)「ずいぶん凝ってますおー」
(´・ω・`)「今日は宇宙のインスピレーションがあったんだ」
(;^ω^)「で、何か意味があるんですかお?」
(´・ω・`)「ただのお飾りさ。効果は同じだ。ほら、座って」
促されるままに、ブーンはその椅子に座った。
やや仰角なので、視界の半分以上を黒い空が占める。
黒一色がこれほど不気味なものなのかと、ブーンは改めて思った。
これからどんな体験をするのだろうか。
そんな想像により、ブーンの胸が高鳴りだす。
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103 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:56:05 ID:wbrnvMHg0
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(´・ω・`)「取り憑く方法は簡単だ。取り憑く相手を思いっきり念ずればいい」
存外あっさりした方法で、ブーンは肩透かしをくらう。
しかし内容は抽象的に思われた。
( ^ω^)「……思いっきりって、どうすれば」
(´・ω・`)「コツがいるね。今ちょうど、真っ暗な空が見えていると思う。
そこにそのツンという子の顔を思い浮かべるんだ。さっきのディスプレイみたいに考えればいい。
黒いスクリーンいっぱいに思い描いたその子に、取り憑きたいと切に願うんだ」
( ^ω^)「スクリーンに浮かべるイメージ……」
ブーンの視界にうつる、真っ黒の空。
そこに、彼女の顔を思い浮かべる。
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104 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:56:59 ID:wbrnvMHg0
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やろうと思えば、イメージはどこまでも膨らませることができた。
初めて見たときの泣いている顔、その後に見た笑った顔。
付き合い始めてからの一年間で、さらにいろんな彼女の顔を見てきた。
それらを出来る限り、思い出す。
不意に、自分が死んでしまった事実を思い出した。
もう彼女には会えない。その憤りが、先ほどショボンを殴る衝動に駆り立てた。
怒りは鎮まったといっても、憤り自体が消えたわけではなかった。
ツンを思い浮かべるたび、胸の痛みも増していく。苦しいという感情が自己主張を始める。
いい気分ではない。
ひたすらに事実と向き合う時間が訪れた。
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105 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 22:58:04 ID:wbrnvMHg0
-
取り憑けば、また彼女に近づける。
彼女の身に何が起きたのか、知ることができる。
それが可能なら、自分は――
目が、自然と閉じられた。黒い空はもう必要なかった。
強い光を、一瞬だけ感じた。
∇∇∇
-
106 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 23:01:02 ID:wbrnvMHg0
-
そこはどこかの部屋の中だった。
ξ--)ξ zZ
ツンは眠っていて、スヤスヤと寝息だけを立てている。
これから何が起こるのか、もちろん彼女はなにも知らないでいた。
...ヒュン
\ ,,_人、ノヽ,,/
) (
━━━━━━━━━ ξ--)ξ ━━━━━━━━━
) (
/^⌒`Y´^Y`\
音も光も現実には何も起きていない。
見た目にはなにも変わらずに、彼女の意識だけが、ひっそりと交代された。
∇∇∇
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107 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 23:02:05 ID:wbrnvMHg0
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目は閉じている。
それはすぐにわかった。
“おい”
声がする。
誰かが話しかけてきているのかとも思った。
でも、音が響いている感じではない。耳で受け取るというより、もっと脳に近い距離で聞いている気がした。
(´・ω・`)“うまくいったぞ”
声の主が、先程まで傍にいた男だとわかる。
“なんでショボンの声が聞こえるんだお”
ブーンは心のなかで返答した。
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109 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 23:03:04 ID:wbrnvMHg0
-
(´・ω・`)“何の事はない。【狭間の世界】で私が話しているだけだ。
取り憑いている間、こうすれば私の言葉を聞くことができるんだよ”
さしずめ、ナビゲーターといったところか。
事情のわかる人の言葉を聞けるというのはありがたい。そう思い、ブーンは安堵する。
“そりゃあ、助かるお。何かあったら助けてくれお”
(´・ω・`)“そのつもりだよ。さあ、目を開けてみろ。ちゃんとツンに取り憑いているか?”
もちろん、それが目的だったのだ。
確認しないわけにはいかない。
目を、ゆっくり開ける。
瞼に奇妙な重さを感じたが、開けられない程ではなかった。
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110 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 23:04:09 ID:wbrnvMHg0
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ξ--)ξ「うーん……」
ξ゚听)ξパチッ
自分から発せられる声が女性のものであるのに、かなりの違和感を覚えた。
聞き覚えのある声。ツンのものだと気付き、ブーンは目頭が熱くなる。
また彼女の声を聞くことができた。それだけで、もうほとんど未練はないようにも感じられた。
次は状況を確認しなければならない。
ブーンは目を動かす。
最初に気になったのは、四角い光源だった。
視界からみてやや左寄りに、発光する何かがある。
目が慣れてくると、正体がつかめた。
扉に空いた出窓のようだ。どこかの部屋に、自分はいる。
そこから、身体が右半身を床につけて横になっていることに、ブーンは気づいた。
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111 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 23:05:05 ID:wbrnvMHg0
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起き上がろうとして、身体が揺れる。
しかし手応えはない。
ξ;゚听)ξ「あ、あれ?」
手を地面について、身体を支えようとする。今度はゆっくり、慎重に。
しかし肝心の、地面に手をつく感覚がない。
手が動かないのである。
身体の後ろ側にあることはわかったが、どれだけ力んでもそこから離れようとしなかった。
(´・ω・`)“おい、どうした?”
ξ;゚听)ξ「そんなの僕が知りたいお」
ツンの声のまま、自分の口調でブーンは呻いた。
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112 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 23:06:16 ID:wbrnvMHg0
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ξ;゚听)ξ「ひょっとして……」
部屋の中は、冷たい。
コンクリート造りの無骨な部屋のせいもあるが、暖房もなにもついていないように思われた。
春とはいえ、まだ肌寒い季節に不親切すぎる。
そんな様子と、自分の体勢が、ブーンに嫌な予感を与えた。
ξ;゚听)ξ「ショボン、僕の状況、【俯瞰】できるかお?」
ショボンはすでにブーンの霊魂に触れている。
だからブーンの取り憑いた身体を【俯瞰】することも可能なはずだった。
指を鳴らす音が聞こえる。向こうの世界でショボンがディスプレイを表示し始めたのだろう。
途端に、息を呑む音がした。
(;´・ω・`)“できたが……しかし……なんだこれは”
ショボンは明らかに困惑していた。
ブーンの想像に拍車がかかる。
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113 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 23:07:18 ID:wbrnvMHg0
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ξ;゚听)ξ「ショボン、いいから言ってくれお。僕は今どうなっているんだお!」
思わず大きな声が出る。
焦りがありありと口調に浮かんでしまっていた。
(;´・ω・`)“…………どうか、気を悪くしないでほしい”
そう忠告を入れてから、ショボンは状況を説明してくれた。
(;´・ω・`)“君は今、両手と両足を縛られているんだ”
.
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114 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 23:08:45 ID:wbrnvMHg0
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ξ;゚听)ξ「な……な…………」
悪い予感が、的中した。
その衝撃が、音となり、口から飛び出してくる。
ξ;゚听)ξ「なんだってええええ―――――!?」
部屋中に、絶叫が反響した。
.
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115 名前: ◆MgfCBKfMmo[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 23:09:58 ID:wbrnvMHg0
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ツンが待ち合わせ場所に来れなかった理由が、ようやくブーンには理解できた。
ツンは――監禁されていたのである。
残り時間 99分45秒
∇To be continued...∇
<<<Scene 1 ◆ Scene 3>>>
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