('A`)どうやら時は金なりのようです(゚∀゚ )
その4.今は亡き砂時計−1



92 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/26(火) 20:58:56 ID:vnnFX8z60


その4.今は亡き砂時計−1


〔 ^ω^〕『準備。いいか?』

('A`)「おう……」


やるだけはまあやってみる。
そう言ってみると時計は黙って、俺に準備をしろと言う。準備て。何すりゃいいんだよ。


〔 ^ω^〕『じゃあ、行くぞ』


適当なものをポケットに詰めて、それで準備とやらは終わった。
時計は一度頷くと、立ち上がり軽く指を鳴らした。



窓の外が紫になった。



(;゚A゚)「え!?」


そんなドラえもんみたいな右手でよく指パッチンできたなとか、言いたいことはいくつかあるが。
窓に駆け寄り外を見る。いくつもいくつも時計が浮いてた。

93 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/26(火) 20:59:56 ID:vnnFX8z60


(;'A`)「急すぎない!?」


『じゃ行くぞ(パチン』でもうこれだ。
キモい紫の空の下、いろんな時計が浮いている。
"時計の世界"の中にある、"ねじれ時計の海"だっけ。またもや俺はそこにいた。


('A`)「っていうか、ここ俺の部屋……」


最初にここへワープした時、俺とジョルジュは理科室にいた。
だが今ここは俺の部屋。場所はどこであれ関係ないのか?


〔 ^ω^〕『別におまえの部屋じゃない。再現しただけだ』

('A`)「再現?」

〔 ^ω^〕『おまえはネトゲにハマってた時間、そのほぼすべてを自分の部屋で過ごしてる』

('A`)「まあ、部屋以外でネトゲなんかやんねーし……」


当時俺はまだ中学生、ネカフェに通う年でもない。


〔 ^ω^〕『過去と現在がごちゃごちゃになってて、"ねじれ時計の海"はいろいろと不安定なんだ』

〔 ^ω^〕『だから、色々といじくることもできる』

('A`)「いじくる?」

94 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/26(火) 21:00:50 ID:vnnFX8z60

〔 ^ω^〕『ああ。おまえがネトゲにハマってた時間を観測した時計が、その記録を元に、この空間を再現した』

('A`)「再現……ああ」


言われてやっと気づいたが、よく見りゃ部屋の間取りがおかしい。
ベッドの位置が今と違うし、もう捨てたはずのアナログテレビ、壊れたはずのコタツが置いてる。
そして何より――パソコンが、今使っているやつとは、違う。
親が買ってくれたパソコン、俺が初めて持ったパソコン。中のOSはXP。


〔 ^ω^〕『喜べよ。引きずり出してやったんだ』

('A`)「え?」

〔 ^ω^〕『ぶっ壊しやすいよーに。ネトゲにハマってた時間を観測した時計……』

〔 ^ω^〕『おまえが破壊するべき時計を。レコードの中から、ねじれ時計の海に、引きずり出しておいてやった』

('A`)「……」


時計が何を言っているのか、いまいちピンと来ない。


〔 ^ω^〕『おい、来るぞ』

('A`)「え」


その意味に首をかしげていると、時計がパソコンを指差すもので、俺も慌ててそちらを向く。
パソコンがバチバチと電撃を発していた。


(;'A`)「……」


なにこれ。
記録を元にした再現だと言ったが、こんなスパーク記憶にない。

95 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/26(火) 21:01:35 ID:vnnFX8z60

と、思ったら。


(゚A゚)「!?」


ぬっ、と。
帯電しているPCの中から、白い何かが飛び出した。


〔 ^ω^〕『あれだ。おまえが壊すのは』

(;'A`)「いや、あれって……え? なにあれ?」


床に落ちた白いそれ。
最初は手のひらサイズだったそれは、ワカメみたいにムクムク膨れて、やがてその場に直立した。


(;'A`)「……」


モノクロカラーの姿にはよーく見覚えがあった。あったが、俺の知っている君はもう少し小さかった。
サバ読んで175cmの俺より頭一つ低いから、150もないくらい。たぶん。






出てきたのは、ハリボテの砂時計だった。
8に変えてしまった今ではもう見ることなどなくなった。が、XPを使ってた昔は、しょっちゅう見かけていたアレだ。
マウスカーソルの横に付いてくる、時にはカーソル自体がこれに変形する……

『待機中です』の意味を示す、マウスカーソルの砂時計。

96 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/26(火) 21:02:44 ID:vnnFX8z60

なんつーか、あれだ。


('A`)「いや、まあ、砂時計だけど……」


これ別に時計じゃないだろ。


〔 ^ω^〕『あー……なんつーかな。シンボル的な意味合いが強い』

('A`)「はぁ……」


時計は微妙な顔で言った。
わかるようなわからないようなだが、とりあえず適当に納得しておく。






('A`)「……」


しかしまあ、なんだろうこの感じ。元が二次元の住人だからか?
目の前に立つ砂時計は、ハリボテどころの話じゃなく、完全にぺらっぺらだった。


('A`)「……壊すの? これ?」


壊すというより破るじゃねーのとか、どうでもいいことを考える。
時計は『そうだ』とだけ言って、両腕を組むと目を閉じた。

97 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/26(火) 21:03:32 ID:vnnFX8z60
('A`)「……じゃあ、まあ……」


ポケットから時計の針を取り出す。例の針だ。
どうなるのかと思っていると、何の予兆もなく針は膨らみ、例の槍へとフォルムチェンジ。いきなりすぎて槍落とした。


(;'A`)「とと……まあ、よし!」


落とした槍を拾い上げ、軽く2,3度素振りしてみる。
じゃあ、まあ、はい。やりますか。


('A`)「――さらばだ、俺の過去!」


槍を振り上げ、走り出す。
この勢いのままハリボテ時計に槍の一撃を食らわせようとして――


(゚A゚)「!?」


思わず足が止まった。


突如。
ぺらぺらしていた砂時計が、まるで背筋を伸ばしたかのように、ピンと立った。



△『……』


砂時計はしばらくモゾモゾした後、その場で軽くジャンプした。

98 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/26(火) 21:04:16 ID:vnnFX8z60

⊂▽⊃
 △ ニュッ
 ||


直後、時計から手足が飛び出す。
そこからはもうあっという間、あれよあれよと砂時計は――



     ∧_,,
    (#゚;;-゚) 「……」
    /;; ;;っ
   ;; ;; ノ
   (/"



ボロ切れを着た儚げな少女に、トランスフォームしてしまった。


(゚A゚)

(#゚;;-゚)「なに、ブーン」


呆ける俺を一瞥もせず、元砂時計は静かに語る。


(#゚;;-゚)「私、何もしてないよ。なんでこんなところ連れてきたの」

〔 ^ω^〕『わかるだろ、そのくらい。年貢の納め時っつーこった』

(#゚;;-゚)「……」

99 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/26(火) 21:05:26 ID:vnnFX8z60

時計同士で会話した後、砂時計は俺に目を向けた。
その目はやたらに冷めている。


(#゚;;-゚)「ひさしぶりだね」

(゚A゚)「あっ、はい」


とっさに返事を返したが、久しぶりと言っていいんだろうか。
気分的には初対面だが、まあPCの砂時計とあれば、一応久しぶりなんだろう。うん。


(#゚;;-゚)「……私のこと、壊しにきたの?」

(;'A`)「えっ?」

(#゚;;-゚)「私は、もう、いらなくなった?」

('A`)「……」

(#゚;;-゚)「私は、無駄だったの?」

(;'A`)「あ……っと、その……」


淡々と喋る砂時計。
見た目は完全にロリっ娘なので、面と向かってそう言われると、精神的に辛いものがある。


(#゚;;-゚)「嫌だよ」

('A`)「はい?」

100 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/26(火) 21:06:10 ID:vnnFX8z60


(# ;;- )「そんなの――嫌」


〔 ;^ω^〕『……ッ! おい! 横!』

('A`)「え?」


時計が泡を食って叫んだ。
何のことかと思った瞬間、左で何かの壊れる音が――


(; A )「んがァっ!!」


左を向く暇すらなかった。
轟音と共に突っ込んできた謎の紫の物体に、俺の体は跳ね飛ばされた。


(; A )「げぶェッ!」


部屋の壁にぶち当たる。
しばらく壁に張り付いた後、重力通りに床へと落ちた。べしゃっと。


(;'A`)「んげ、ぐ……」

〔 ^ω^〕『あーあァ。さっさとやっちまわねーから、こうなる』


息が詰まる。車に轢かれた時ってこんな感覚なんだろうか……。
床にへたばる俺の上から、時計のクールな声が振ってくる。

101 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/26(火) 21:07:12 ID:vnnFX8z60

〔 ^ω^〕『ほら、来たぞ』


言われてどうにか頭を上げる。
そこに屹立していたのは、やはり――





ナスだった。

向かいの壁に大穴が空いている。ブチ抜いて入ってきたようだ。
ナスはじりじりと歩みを進め、砂時計をかばうように立つ。


(#゚;;-゚)「壊されるなんて、絶対に嫌」

(;'A`)「っく……」


眼も、声も、態度も。すべてが冷ややかだった。
見た目はただのロリなのに、どうにも油断ならない奴だ。


〔 ^ω^〕『まずこいつからどうにかしねーと、どうにもなんねーな』

(; A )「……ッホ! ゲホッ!」


どうでもよさそうに時計が言う。
2,3度咳をし痰を吐き、俺はどうにか立ち上がった。

102 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/26(火) 21:07:56 ID:vnnFX8z60

槍を握る手に力がこもる。


〔 ^ω^〕『さて。おまえが無駄にした時間のシンボル――』


ナスが体を低くする。


〔 ^ω^〕『――おまえがぶっ壊せ』


再びナスが突進してきた。


(#'A`)「んぇいッ!!」


左へ跳んでなんとかかわす。
少し態勢が崩れたものの、すぐ前には砂時計がいる。
罪悪感がないわけじゃない。が、手加減してると俺が死ぬ!


(#゚A゚)「ね―――――――――い!!!」


とっさに気合いの雄叫びを発し、槍を構えて数歩踏み込む。
そしてそのままその細い胴を一刀両断しようとして――


〔 ;^ω^〕『おい、後ろ!』

(゚A゚#)「!?」


時計の声に後ろを向く。

ナスが突進してきていた。

103 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/26(火) 21:08:40 ID:vnnFX8z60


(# A )「っァぶっ!!」


避けられなかった。
背中にタックルをかまされて、俺の体は床を転がる。
ゴロゴロゴロゴロ転がった後、部屋の壁にぶち当たらない。


(゚A゚)「!!?!?!?!?!!?」


そうだった。壁にはさっきナスが大穴を開けたんだった。


ホールインワン。



(;゚A゚)「えええええええええええええええええええええええ!!!??!?!?」


ナスが空けた壁の穴から、俺は部屋の外へ放り出された。

ちょっと待ってよ部屋の外一面真っ紫なんですけど!?
『記録を元に部屋を再現しただけ』と時計は言った。ということはつまり、部屋の外は特に何もないと?


時計がいくつもふわふわ浮いてる、上も下も紫の空間。
俺はひたすら落ちていた。

104 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/26(火) 21:09:23 ID:vnnFX8z60

(゚A゚)「おおおおお――――――――――――――――――!!!!!!!」


下を向いても地面がない!!
この空間に重力はあるのか!?
俺はどこまで落ちるんだ!!??


(゚A゚)「おおおおお―――――――――――おおおお!!!!」

〔 #^ω^〕『んの、馬鹿が!!』

(;'д`)「おぅェっ!? ぃぐっ!!?」


いきなり体が静止して、同時に首が若干締まる。
頭のすぐ後ろで時計の声がした。


〔 ^ω^〕『はじき出されてんじゃねーかよ、っそが……』

(;'A`)「おお……」


首を後ろに回してみると、時計が服の襟元を掴み、ふわふわ空中を飛んでいた。
見た目は小さな目覚ましなのに、よく俺の体重を支えられるものだ。っていうかこいつなんで飛べるの?


〔 ^ω^〕『何考えてるかは大体わかるが、とりあえずひとつだけ言っとくぞ』

〔 ^ω^〕『この空間なら、おまえもちゃんと飛べるからな。変な勘違いしてるから落ちるんだ』

105 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/26(火) 21:10:15 ID:vnnFX8z60

('A`)「え? ……マジ?」

〔 ^ω^〕『マジ』


時計がパッと手を離した。


( ゚A゚)「わァ―――――――――――!!!!!」


落ちた。


〔 ^ω^〕『落ちると思うから落ちるんだ、バカ。人間世界と一緒にしてんじゃねーよ』


落ちていく俺に並走しながら、時計が解説してくれる。
んなこと言われたって、落ちないと思えば落ちないとか言われたって――


(゚A゚)「止まった」

〔 ^ω^〕『だろ?』


ピタリと空中で静止することができた。
なんとも不思議な感覚だ。無重力ってこんな感じなんだろうか。宇宙行ったことないからわかんない。
しばらくその場で手足を動かしてみる。おおー……


('A`)「移動どうすんの?」


もがくだけで前に進めなかった。


〔 ^ω^〕『……』


『このバカ救いようがねえな』みたいな目をこちらに向けてくる。なんだその理不尽な目は。

106 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/26(火) 21:11:01 ID:vnnFX8z60

〔 ^ω^〕『具体的なイメージを持つんだよ』

('A`)「……」

〔 ^ω^〕『……っハァ』


深々とため息を吐かれた。


〔 ^ω^〕『だから……「1秒後、自分はどこにいるか?」っつーイメージを、きっちり頭の中に持つんだよ』

('A`)「えー……はい」

〔 ^ω^〕『……。おまえ身長いくつだ?』

('A`)「は? いや、えーと、175くらい……」

〔 ^ω^〕『サバ読まずに言うと?』

('A`)「……173」

〔 ^ω^〕『171か。おまえの歩幅をおおよそ70cmとして、1秒で2歩歩くとすれば、1秒後のおまえは140cm前方にいるわけだ』

〔 ^ω^〕『「1秒後、自分は140cm前にいる。」この空間で前に歩いていきたいと思うなら、そういった明確なビジョンを持つ必要がある』

('A`)「……」


身長171cmが当たっているのと、なるべく噛み砕いて伝えようとしてる、ってことはわかる。わかるが。
心遣いは伝わるのだが、正直ピンとこない。

107 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/26(火) 21:12:10 ID:vnnFX8z60

〔 ^ω^〕『っと! おい、来たぞ!』

(;'A`)「え!?」


時計が虚空を指差した。
つられて俺もそっちを向くと――


(;'A`)「またナスか!」


さながら天馬、ペガサスのように、ナスが空中を駆けていた。
まっすぐこっちへ向かってくる!


〔 ^ω^〕『避けろ!』

(゚A゚)「え!? おう!」


おう! と言ってはみたものの、の!?
なんだ移動って何なんだ!?

ナスがこっちに迫ってくる!

時計が言うには歩行速度は1秒140cm、じゃあ――


(゚A゚)「左へ秒速140cm――――!」


とりあえず叫んだ。

108 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/26(火) 21:12:56 ID:vnnFX8z60


  ヽ(;'A)ノ    「お、おお! おおっ! マジか!」
    ( ) 三
    / ノ  三


マジで動いた。
なんだろうこの新感覚、頭で考えるだけで体が勝手に動いていく! 動くけど!


(;゚A゚)「遅え!!」


文字通り歩くような速さ。
ナスが軌道を微修正しつつこちらへまっすぐ向かって――


(; A )「うげッ!!!」


ナスのタックルが直撃した。
車に轢かれたような衝撃、俺は宙へと跳ね飛ばされて、そして……


(゚A゚)「止まらねえ!!!」


跳ね飛びっぱなしで止まらなかった。


そうだ、なんかの漫画で読んだぞ。
無重力空間で衝撃を受けると、何かにぶつからない限り止まらないって――


(;゚A゚)「おーっ! おーっ!! おおーーーーー!!!!」


ひたすら、ただただ、延々と、後ろのほうへと吹っ飛んでいく。

109 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/26(火) 21:14:01 ID:vnnFX8z60


(;゚A゚)「おおおおおおーーーーーーーーーーー!!!!」

〔 #^ω^〕『だからいい加減にしろよてめえ!! おまえここを宇宙かなんかと勘違いしてるだろ!!』


吹っ飛ぶ俺に並走しながら、時計が半ギレ気味に叫んだ。


〔 #^ω^〕『止まらねえと思うから止まらねえんだ! 別に無重力じゃねえんだよ! 頭で考えて動けって言っただろうが!!』

〔 #^ω^〕『後ろへ吹っ飛んだりなんかしない! 1秒後の自分はどこにいるか!? ここでしょ!! この場だよ!! ちゃんと静止するんだよ!! 頭でそう考えりゃいいんだよ!!』


半ギレというかマジギレだった。
熱く叫ぶ時計に気圧され、それで若干冷静になる。


(-A-)(1秒後も俺はこの場所にいる……2秒後もまだこの場所にいる! 3秒後もこの場から動いてはいない! そう、俺は……ここにいる!!)


(゚A゚)「スケェェェェェェェェェェェイス!!!」


頭にはっきりビジョンを持って、それを固めるべく叫ぶ。
そうするとちゃんとその場で止まれた。


(;'A`)「お、おお……ちょっとわかってきた……」

〔 ^ω^〕『……台詞でカッコつけるのは勝手だけどよ……やってることがショボすぎるぞ……』


止まった俺を冷めた目で見て、時計が渋い顔で言う。


('A`)「うるせえ、ほっとけ……」

〔 #^ω^〕『おい、また来たぞ!』

(;'A`)「げっ」


息つく間もなくナスが迫り来る。

110 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/26(火) 21:14:54 ID:vnnFX8z60
だが、もう移動のコツは掴んだ!


('A`)「右へ――えっと、1秒10メートルくらい!」


考えるだけでいいのだが、よりはっきりと意識を持つため、あえて声に出し明文化する。
叫んだ直後、俺の体は右へ飛んだ。


 三三三 ヽ(;'A)ノ 「おお! これだ、これだ! これでいい!」
 三三三   ( ) 
 三三三   / ノ 


なかなかのスピードで体が動く。


('A`)「よし、ストップ! ここで止まる!」


ナスの突進を華麗にかわし、俺は一旦停止する。
さて、ここからどうするか。槍を両手でしっかり構え、俺は次の行動に――


〔 ^ω^〕『油断すんなよ、まだ来るぞ!』

(;'A`)「おうっ!?」


ナスはほとんど直角に曲がり、俺を正確に追尾していた。
再びこちらへ突進してくる。


(#'A`)「上! 秒速15m!」


叫んでみると体が浮いた。
猛烈なスピードで上方移動、ナスのはるか上まで飛んだ。

111 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/26(火) 21:15:51 ID:vnnFX8z60

(;'A`)「ストップ! おお! おお! すげえ! すげえ! ゴフッ! ゲホッ!」


むせた。
しかしこれはマジですごい。上下の移動も何のその、ドラゴンボールみたいな世界だ。
俺は槍を構え直して、今度は攻撃に移ろうとして――


(;'A`)「ゲホッ! ゲフッ! ゴホ、はー、ひー、ヒュー、ゴホッ! ゼェー!! ヒィー、ふぅー、ヒッ! ハァー、ハッ、ハッ、はー!」


むせまくった。
いやむせるというかなんというか、急に呼吸が苦しくなって、激しく息切れするように……
なんだ、これ?


〔 #^ω^〕『調子に乗るからだ、バカ! ドラゴンボールじゃねえんだぞ』

(; A )「ハァー、ハァー、ハァー!」


時計がパタパタ飛んできて、俺の背中をさすりはじめた。
返事しようにも声が出ない。息を吸うので精いっぱいだ。


〔 ^ω^〕『おまえ100メートル走何秒だ? 18秒か? 20秒か?』

(; A )「じゅ、ハッ、はー、はー……」


15~6秒だと言いたかったが、返事ができる体調じゃない。
時計は乱暴に背をさすりながら話を進める。

112 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/26(火) 21:16:40 ID:vnnFX8z60


〔 #^ω^〕『それと同じだよ、この空間で移動するならそれ相応の負荷はかかるんだ! 秒速10メートルってそれ100メートル走10秒じゃねえか、疲れるどころの話じゃねえよ!!』

(;'A`)「じゅっ……」


それならそうと先に言えよ!! と、叫びたかったのだが、未だに声は出なかった。
つまり秒速15メートルは100メートル走7秒切ってるわけで、ウサインボルト以上の無謀を知らぬ間に犯していたようだ。


〔 ^ω^〕『おい、また来たぞ!』

(;'A`)「ひー……!?」


ナスが突っ込んでくるのを見て、時計は素早く飛びのいた。
俺もすぐに逃げようとして、100メートルを15秒だから、秒速……


(; A )「うげェっ!!」


身の丈に合った移動速度を計算し終えるその前に、ナスの突進をモロに食らった。
またもや跳ね飛ばされる俺だが、しかし今度はなんとか止まる。


(; A )「ハァー、ひぃー、ふぅー、はぁー! はっ、はっ、はー!!!」


だがこの息切れはどうにもならん!
ナスはすぐさま態勢を変え、またもや俺のほうに突進――

113 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/26(火) 21:17:33 ID:vnnFX8z60

⊂〔 #^ω^〕⊃『あ""ーーーーー!! っとに世話が焼けるなァボケ!』


見かねた時計が割って入って、勢いよく両手を広げる。


          /⌒ヽ
   ⊂二二二( ^ω^)二⊃
        |    /          
         ( ヽノ     【transform!】
         ノ>ノ
     三  レレ


人間モードに変形すると、まっすぐ突っ込んでくるナスを――








ぶん殴った。


(;゚A゚)「!?」

( ^ω^)「まあ、こんなもんか……だお」


ナスは真後ろへぶっ飛んでいった。

114 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/26(火) 21:18:37 ID:vnnFX8z60

ちょっと待ってよおかしいだろ。
真正面から突っ込んでくるものを、真っ正面から殴り返して、なぜ真後ろに飛ぶんだよ!?
こいつ、どんだけ筋肉馬鹿!?


(;'A`)「……すげえ……」


いくらか呼吸が落ち着いてくると、思わず感嘆の声が漏れた。


( #^ω^)「すげえじゃないお、これ君がやるべきことだお!? なんで僕が前に出てるんだお!!」


時計に拾われてキレられた。
とは言われてもだ。こんな意味の分からない世界にいきなり放り込まれたんじゃ、ロクに動けないのも当然だと思う。そこまで責められる道理はないぞ。


( ^ω^)「ったく……とにかくだお。僕がちょっとだけ時間を稼ぐから、その間にそれの使い方を覚えるんだお」

(;'A`)「それ? これか?」


時計が俺を指差した。
というより、俺の持っていた槍を指差した。
これまで移動に精一杯で完全に意識から外れていた。


('A`)「使い方……って、なんか特殊能力みたいなのあんのか?」

( ^ω^)「うん」

(*'A`)「おお!」

115 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/26(火) 21:19:21 ID:vnnFX8z60

時計がさらりと頷くもので、がぜんテンションが上がってきた。
デカい時計の針にしか見えない、こんなただのダサい槍にも、特殊能力があるというのだ!
期待に胸を膨らませながら、時計の能力説明を待つ。


( ^ω^)「よし、じゃあそれちゃんと持ってるんだお。いくお?」

(*'A`)「おう!」


  ↑
  |
   ・
  |
  |
  |
  ↓


( ^ω^)「じゃあ……せーの!」


( ^ω^)「3時の方向に敵!」

   .
  .ミ
   ・―→
  |    ガチィン!
  |
  |
  ↓


(;'A`)「おうっ!?」

116 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/26(火) 21:20:05 ID:vnnFX8z60

( ^ω^)「9時!」

 
 ←―・..
  ミ|彡    ガチィン!
   |
   |
   ↓


( ^ω^)「12時!」


   ↑
  彡|
   ..・ ガチィン!
   |
   |
   |
   ↓

( ^ω^)「半日経ちました!」


   ↑ ガチィン!
  彡|ミ 
  ...◎...  
  ミ|彡
   |  グルンッ
   |
   ↓


('A`)「おおー……」

( ^ω^)「とまあ、こんな感じだお」

('A`)「おう。で?」

118 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/26(火) 21:21:16 ID:vnnFX8z60

( ^ω^)「ん?」

('A`)「これ結局どういう能力なの?」

( ^ω^)「どういう能力って?」

('A`)「いや、だから……」

( ^ω^)「どうもこうも見ての通りだお。回るんだお、この槍は」


('A`)「……」

( ^ω^)「……」


('A`)「そんだけ?」

( ^ω^)「うん」




(#゚A゚)「どないせーっちゅーねんッ!!!」

( ^ω^)「あ、ドクオ! 来たお!!」

(#゚A゚)「ちくしょ―――がァ!!!」


迫り来るナスを眼前に見て、俺は必死に槍を構えた。
ただ先端が回るだけの槍を。





その4.今は亡き砂時計−1 まだつづく



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