■('A`)どうやら時は金なりのようです(゚∀゚ )
└その3.PC内蔵時計
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64 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/03(日) 10:03:42 ID:My4QF3.U0
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その3.PC内蔵時計
なくした時間を取り戻す。
どうやら俺は知らぬ間に、時間をなくしていたらしい。
〔 ^ω^〕『なくした覚えはないとか考えてんだろ?』
意外と鋭いこの時計。確かにそうですその通り。
なくした時間を取り戻せーとか急に言われても意味不明。
時計は一度ため息をつくと、肩をすくめ訂正する。
〔 ^ω^〕『"手に入れるはずだった時間"だよ』
('A`)「……」
どうやら俺は知らぬ間に、時間を手に入れるはずだったらしい。
うん、やっぱりピンと来ない。時計はがくりとうなだれて、それからまたもや肩をすくめた。
〔 ^ω^〕『……ハァ。小6から中3までの間だ、おまえが時間をなくしたのは』
('A`)「は……?」
〔 ^ω^〕『だーからこんなことになっちまったんだ……。おまえ今友達いるか?』
('A`)「えっ」
脈絡も意図もわからぬ問い。
息子がいじめに遭っていないかを聞く母親の声色そのもの。時計のキャラに合わない問いに、しどろもどろに答える俺。
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65 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/03(日) 10:04:24 ID:My4QF3.U0
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(;'A`)「いやまあ……とりあえず1人だけ……」
〔 ^ω^〕『……そーだろうなァ』
ため息すらも吐かれない。
いくら相手が時計といえど、こうも露骨に憐れまれるとなかなかどうしてクるものがある。
ほとんど反射で言い訳をした。
(;'A`)「いや、まぁ、俺昔からコミュ障ですので……」
〔 ^ω^〕『違うだろ』
ほとんど反射で否定され、しかも時計がマジ顔なので、なんだか一瞬気圧された。
〔 ^ω^〕『……』
(;'A`)「……」
何を言うのかと身構えるものの、時計はなぜか黙りこくった。
少し微妙な目をした後で、ゆっくり、ぽつりと語りだす。
〔 ^ω^〕『なんでナスだったか。わかるか?』
脈絡も意図もわからなかった。
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66 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/03(日) 10:05:06 ID:My4QF3.U0
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('A`)「え、あの……時計の世界の?」
学んだ単語を使ってみる。
時計は軽くうなずいて、たった2文字の言葉を発す。
〔 ^ω^〕『ああ』
('A`)「……」
それだけだった。
いや、なぜかと言われても。
それ聞きたいのはこっちです。
そんな視線を時計に送ると、彼は黙って目を閉じた。
そして再び発した声は、ただひたすらに静かだった。
〔 ^ω^〕『……名前だけを見たからだよ』
('A`)「え……?」
〔 ^ω^〕『まあ、ハンドルネームだけどな……本名はおまえも知らねーだろうけど』
過去を掘るような語り口。
やっぱり俺には意味がわからない。一人で遠い目されても困る。
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67 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/03(日) 10:05:48 ID:My4QF3.U0
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(;'A`)「えー……っと……」
〔 ^ω^〕『おまえがブログ書くようになったきっかけだよ』
(;'A`)「……」
もひとつ追加のヒントが来たが、やっぱり濁した言い方だ。つまりまた意味がわからない。
首をかしげるだけの俺を見て、時計はとうとうキレてしまった。
〔 #^ω^〕『……忘れたのか!!』
(;'A`) ビクッ
〔 #^ω^〕『忘れる程度の時間に、おまえは……!!』
(;'A`)
キレ方も意味がわからなかった。忘れたのかと言われましても。
忘れてることにキレられたって、忘れてるんだしどうしようもない。
〔 #^ω^〕『……』
⊂〔 #^ω^〕⊃『……チッ!』
時計は俺をねめつけた後、何を思ったか両手を広げ、掛け声とともに変身した。
ぽっちゃり少年リターンズ。
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68 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/03(日) 10:06:45 ID:My4QF3.U0
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( ^ω^)「……こっちの体もまあ便利だお。欠陥のおかげで、熱くならなくて済むし、だお」
('A`)「……」
( ^ω^)「じゃあ、はっきり言ってあげるお」
人の良さそうな顔とは裏腹、どこから冷めている、冷めきった目で、時計は俺をじっと見ている。
首をコキコキ鳴らして、言った。
( ^ω^)「君は、中1から中3までの間、ネットゲームにハマっていたお」
言われて改めて思い出した。
いや、思い出したわけじゃない。今でも時々、寝る前に思い出すことだった。
けれど、こんなのが理由だとは思っていなかった。
('A`)「あー……」
( ^ω^)「やっと思い出したみたいだおね」
そうだ。
小学生のころの俺にはちゃんと友達がいたのである。
そしてその中にいた一人が、ませたというか生意気なガキで、ガキの分際でやっていたのだ。MMORPGを。
それどころか、あろうことか、そいつは、俺にもそのゲームを勧めてきて、そして……
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69 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/03(日) 10:07:29 ID:My4QF3.U0
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そいつよりも、俺のほうが、どっぷりと――ハマってしまったのだ。
( ^ω^)「思い出したならわかるんじゃないかお? その時間と関連するもので、ナスといえば?」
('A`)「ああ……」
そうだ。
俺だけがどっぷりハマってしまい、友達はそのゲームに飽きた。
そうして友達がゲームをやめたころ。
仲間をなくしてしまった俺は、次の仲間を探すため、いわゆる"ギルド"に入ったのだ。
('A`)「ギルドマスターだ」
ギルドマスターの名前は――"☆なすび☆"。
所詮ライトゲーマーでしかなかった友達を捨て、本格的ギルドに入った俺は、より一層ネトゲにのめりこむことになった。
( ^ω^)「そう。ゲーム内で君が所属していたギルド、そのギルドのマスター……」
( ^ω^)「そいつのハンドルネームが、"☆なすび☆"だったんだお」
チャットでは俺の3つ上だと言っていた。つまり当時は高校生、今ではもう大学生か。
いわゆる「廃人」とは程遠かったが、なすびは俺よりやりこんでいた。
メインキャラクターの他にもいくつかサブキャラクターを3つ持っていて、そいつらの名前は……
"なすす"、"なっすん"、"茄風"……だったかな?
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70 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/03(日) 10:08:11 ID:My4QF3.U0
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なんでそんな名前にするのか聞いたことももちろんあった。
ぼんやりとした記憶だが、たいした理由ではなかったはずだ。ナスが好きだとか、パッと思いついたからだとか、そんな理由。
確か住んでるとこは東京の田舎だとかなんとか……東京に田舎ってあるのか? "関東の田舎"の記憶違いか?
('A`)「……いや、待て」
一通り懐かしんだ後で、思う。
だからどうした。
('A`)「なんで、それが理由になるんだ?」
( ^ω^)「君が無為に過ごした時間の象徴だからだお」
言ってることは煽りそのもの。
だが時計は悪びれもせず言う。
( ^ω^)「僕らの世界にはアカシックレコードみたいなものがある、って言ったおね?」
('A`)「……ああ」
( ^ω^)「僕たち時計が観測したすべての記録。この地球で起きた出来事のすべてが、そこに記録されている」
('A`)「ああ」
( ^ω^)「じゃあ、その記録を消去したらどうなると思うお?」
(;'A`)「!?」
記録を、消去。アカシックレコード、消去。
なんだか不穏な言葉が聞こえた。
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71 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/03(日) 10:08:53 ID:My4QF3.U0
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( ^ω^)「たとえば、君の記録……"ネトゲにハマっていた時間の記録"すべてを消去したら」
( ^ω^)「その事実はなかったことになる」
時計は淡々とヤバいことを語る。
事実がなかったことになる、要するにそれは過去の改変。
(;'A`)「いや、記録の話だろ!? なんでそんなことになるんだよ!」
( ^ω^)「え、言わなかったかお?」
( ^ω^)「 " 誰 の お か げ で 生 き て ら れ る と 思 っ て る " 」
( ^ω^)「って……」
(;'A`)「……」
食って掛かった俺の言葉に、ドスの効いた返しが刺さる。
そうだ、こいつは普通じゃない。時計が日本語をしゃべる上、変身までもこなす人外。
もしかして、俺、相当ヤバいやつと出会ってしまったのではないだろうか。
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72 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/03(日) 10:09:35 ID:My4QF3.U0
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( ^ω^)「君は自分の世界こそが中心みたいな言い方をするけど、実際はそうじゃないお」
( ^ω^)「時計の世界の記録があるから、君たちの世界があるんだお」
( ^ω^)「記録が変われば世界も変わる。そういうもんだお」
(;'A`)「……」
えーっと……。
パッと浮かんだのは『おまえだって時計の世界が中心みたいな言い方してるじゃねーか』だった。
が、よく考えてみると、俺がこれまで時計の世界を知らなかったのに対しこいつは、時計だけじゃなく人間世界をこれまで観測してたという。
どちらが正しいのか考えりゃ、たぶん向こうになるのだろう。
( ^ω^)「体感時間と絶対時間の話、してたおね」
(;'A`)「お、おう……」
地球より科学力の優れた宇宙人と喋る感覚。
星新一の作品なんかで散々触れたシチュエーションだが、まさか現実でやろうとは。
( ^ω^)「あれはなかなかうまい例えだお。紙あるかお?」
('A`)「まあ、うん……」
宇宙人(時計)の要求を呑み、紙とペンを用意する。
元時計とは思えぬ手際で彼はペンを走らせた。
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73 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/03(日) 10:10:18 ID:My4QF3.U0
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( ^ω^)「つまりだお。"ネトゲにハマっていた時間"を"――――――――――"とすると……」
( ・∀・) ―――――― 【モララー相対時間/h】
_
( ゚∀゚) ――――――――――――――― 【絶対時間/h】
('A`) ――――――――――――――――――――――― 【クズ相対時間/h】
( ^ω^)「これを消去した場合、"――――――――――"がそのまま消えるんだお」
( ・∀・) ―――――― 【モララー相対時間/h】
_
( ゚∀゚) ――――――――――――――― 【絶対時間/h】
('A`) ――――――――――――― 【クズ相対時間/h】
( ^ω^)「こうなるお」
('A`)「……」
シンプルな説明である。
あまりにシンプルすぎるためか、感想は『で?』の一言だった。
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74 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/03(日) 10:11:00 ID:My4QF3.U0
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( ^ω^)「このモララーってやつは、なかなか充実した生活を送っているみたいだおね」
('A`)「まあ……な」
( ^ω^)「具体的に言うとそういうことだお」
( ^ω^)「無為にした時間というものは、得てして長く感じるものだお。これをカットすることで"より充実した人間に近づける"ってことだお」
('A`)「……」
つまり過去を改変すれば俺はモララーになれるのか?
生徒会長でホッケー部部長。そういう充実した人間に、俺がなれるというわけか?
わかったようなわからないような。具体的なビジョンが見えない。
( ^ω^)「で、そのためにはどうすればいいか、具体的な方法は何か、って言うと、それは……」
( ^ω^)「時計の世界に来て、君が"その時計"をぶっ壊すことなんだお」
('A`)「時計の……?」
( ^ω^)「『"君がネトゲにハマっていた時間"を観測した時計』。それをぶっ壊せば記録も消えるお」
('A`)「……」
時計の顔をまじまじと見る。
『俺がネトゲにハマっていた時間を観測した時計』。
それ、おまえのことじゃあないの?
そんな視線を時計に向ける。向こうも気づいたようだった。
( ^ω^)「ちょっと語弊があったかもしれないお。整理するおね」
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75 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/03(日) 10:11:48 ID:My4QF3.U0
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( ^ω^)「僕たち時計が観測した情報は、すべてアカシックレコードに記録されるお」
( ^ω^)「けど、その情報はあまりにも膨大。だからカテゴリ分けするんだお」
それもそうっちゃそうである。
エロ画像だってジャンルで分ける、そのくらいはするだろう。
( ^ω^)「たとえば、僕が観測した君の時間を、アカシックレコードに記録するとする」
( ^ω^)「するとどうなるかっていうと……レコード内部の『鬱田ドクオの時間の記録』の中の、さらにもっと細分化され、いろんなフォルダを通ったあとで」
( ^ω^)「『鬱田ドクオがネットゲームにハマっていた時間の記録』みたいなものに行きつくんだお」
('A`)「はあ……」
昔エロ画像を隠すのに作ったフォルダ迷路を思い出す。
さすがアカシックレコードと言おうか、かなり細かなカテゴリ分けだ。
( ^ω^)「で、この記録はどういった形式で保管されているのかというと、これも時計なんだお」
('A`)「時計?」
( ^ω^)「そう。2008年1月1日0時0分12秒にゲームを起動し、同13秒からタイピングを始めパスワードを入力し、同16秒にゲームへログイン、同18秒にゲーム内で左方向への移動を開始……」
( ^ω^)「そういったものを延々と記録した時計が、時計の世界……レコード内には存在するんだお」
('A`)「……」
( ^ω^)「要するに、アカシックレコードってのは無数の時計の集まりなんだお」
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76 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/03(日) 10:12:29 ID:My4QF3.U0
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('A`)「……だから、その時計をぶっ壊すってわけか……」
もし俺が死んでしまったら、その時はHDDを壊せ。壊してくださいお願いします。
そんな話をよく見てきたが、この場合その逆になるのか。
HDDを壊してしまうとその時俺は死んでしまう。時計を壊すと過去が死ぬ。そういう話?
うむ。
つくづく思うが、比喩というのは便利なものだ。
ひとりで頷く俺を見て、時計も軽く頷いた。
( ^ω^)「そのための武器は、ちゃんと君に与えてあるお」
('A`)「武器?」
壊せというからどうするのかとは思っていたが武器と来たか。
しかし武器ね……武器?
(゚A゚)「槍か!」
繋がった。
( ^ω^)「そう、それだお」
(;'A`)「いや、でも俺あれ持ってないんだけど……」
( ^ω^)「……ポケットの中に入ってるんじゃないかお?」
心底どうでもよさそうな顔で時計はさらりと言い放つ。
ガキじゃあるまいしポケットなんて
(゚A゚)「あった」
( ^ω^)「やっぱり」
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77 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/03(日) 10:13:09 ID:My4QF3.U0
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右手をポケットに突っ込むと、出てきましたよ時計の針。
妙な気恥ずかしさを感じて、意味もなく何度も繰り返し頷く。
( *^ω^)「変わってないおねー……昔からそうだったお」
その実態は異界人、時計。が、今の姿は少年。
時計が浮かべるその笑みは、外見の歳と噛み合わない、父親のような笑みだった。
('A`)「でも、これ針……縮んでんだけど……」
俺の手の中にある針は、長短ともにただの針。原寸大の時計の針。
膨れに膨れて槍にまでなったあの時の面影がない。
( ^ω^)「そりゃそうだお、ここ人間の世界だし。それは時計の世界じゃなきゃ使えないお」
('A`)「あ、そうなの……」
ありがちな話だった。
( ^ω^)「さて。時計をぶっ壊せとは言ったけど、そう簡単に行くもんじゃないお」
パンパンと2回手を叩き、時計は話を元に戻した。
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78 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/03(日) 10:14:25 ID:My4QF3.U0
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( ^ω^)「レコード内の時計には自己防衛機能が備わっているお。記録した情報を元に防衛ユニットを生成し、君を排除しようとする」
( ^ω^)「象徴だと言ったおね。"ギルドマスター☆なすび☆"は、君がネトゲにのめり込んだ時間と深く関わっているお」
('A`)「……」
( ^ω^)「その記録を元にして、そいつのハンドルネームからあのナスを生成したんだと思うお」
('A`)「……なるほど……」
それにしたってアレはねーだろと思わないでもなかったが、異世界センスに口出しするのはあまりよろしくもないだろう。
ともかく、俺のやることはわかった。ナスの突進をかいくぐりつつ、時計を壊せばいいわけだ。絵面がすこぶる意味不明。
が、ひとつ気になることが。
('A`)「……体感時間をカットするって言ったよな」
( ^ω^)「うん、そうだお」
('A`)「カットした分の時間は……その、そういう扱いになるんだ?」
一番気になるとこだった。
ビクつきながらの質問だったが、時計はなんでもなさげに返す。
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79 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/03(日) 10:15:14 ID:My4QF3.U0
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( ^ω^)「適宜、記録の埋め合わせをするお。そうだおねー、君からすると……」
( ^ω^)「ネトゲにハマっていたなんて記憶はさらさらない。中学時代は仲間とひたすら部活に打ち込んだ……」
( ^ω^)「みたいな感じになるんじゃないかお? で、周囲の人物、ひいては世界全体の記録も、それに合わせて補正されるお」
('A`)「……」
('A`)「え?」
ちょっと待って、なんか想像と違う。
('A`)「……過去を変えられるわけじゃないのか?」
( ^ω^)「え、変わってるお? なんでこれで変わってないと思うんだお」
('A`)「いやなんというか……俺が過去に戻って、その時間をやり直すとか、そういうことでは……」
( ^ω^)「なんでそういう話になるんだお? 君と周囲の認識は変わるんだから、それで十分じゃないかお」
('A`)「……」
('A`)「……いや、でも……いや……」
なんか釈然としない。
確かに過去は変わるようだが、それは俺に関係のないところで起きるわけで……いや関係あるのか?
引き金引くのは確かに俺だが、それによって変わる過去の、具体的な内容については、俺が関知する余地はない。
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80 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/03(日) 10:15:57 ID:My4QF3.U0
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あれだ、5億年ボタン。
あれも俺の感覚としては押した瞬間に金が出る。記憶が消える都合上、それまで苦しんだ5億年など心のどこにも残らない。
残らないものはないのと同じ、つまりノーリスクで金を得る。
それと似たようなものを感じる。
埋め合わせたに過ぎない過去を、己の正史と認定し。
美しくない過去は消滅。消えた過去はないのと同じ。
どうも気分が悪くなってきた。
('A`)「……これ、強制だったりする?」」
確認してみる。
( ^ω^)「え? いや、別にそんなことは」
('A`)「……そもそも、なんでおまえはこんなことしてるんだよ?」
( ^ω^)「……」
('A`)「えーっと……俺は、迷い込んだだけなんだろ? 時計の世界に……」
( ^ω^)「……そうだお」
('A`)「でも、その……別にいいんじゃないか? こうして帰ってこれたんなら、それで」
( ^ω^)「……」
改めて考えてみると、それでいいんじゃないだろうか。
確かに不思議な体験はしたがこの説明で謎は解けた。
んじゃまあそれでいいんじゃね?
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81 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/03(日) 10:16:38 ID:My4QF3.U0
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('A`)「たしかに、まあ……ネトゲに費やした時間は、無駄だったのかもしんねーけど、俺も別にそこまで気にしてはねーし」
('A`)「全部が全部無駄だったとも、思わねーしな」
さらに言うなれば本音はこうだ。
別にネトゲについての記憶は忘却していたわけじゃない。黒い歴史を思い返して足をバタつかせるノリで、布団の中でたまに思い出す程度の存在感だった。
確かに「あれさえなけりゃなぁ」と思うことは多々あった。というか今でもたまに思うが、そこまで本気で悔やみはしない。
この経験がある以上俺は2度とネトゲにゃハマらない。ギルドメンバーと過ごした時間も悪いものではなかったし、学ぶことも割とあった。
('A`)「だから、無理に過去を変えよーとまでは思わねーんだけど……」
('A`)「おまえは、なんでこんなことするんだ?」
迷惑とまでは言わないが、気になったので聞いてみた。
時計はしばらく俺の目を見て、それから急にそっぽを向き、ボソッと言った。
(^ω^ )「……2年も、3年も……同じ人間ばっかり観測してたら……愛着くらい持つようになるお」
('A`)
時計の世界では、どういうものなのか、知らないが。少なくとも、この人間の世界では。
明らかに言う側と言われる側が逆だった。
( ^ω^)「君が自分の部屋を持ったのは、小学校の5年生からだおね」
時計は俺に向き直ると、なぜだか昔話を始めた。
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82 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/03(日) 10:17:58 ID:My4QF3.U0
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('A`)「……まあ、そうだな。姉ちゃんが進学して、部屋が空いたから……」
( ^ω^)「その部屋で、君が初めて使った時計は僕だったお」
('A`)「そーいや、そうか……えーっと……」
( ^ω^)「元はといえば、僕はリビングに……リビングなんて上品なもんじゃなかったおね。居間に置いてあった時計だお」
('A`)「ああ、そうだっけ。居間には新しいデカイ時計買ったから、それまで使ってたやつをカーチャンがくれたんだったか」
( ^ω^)「お母さんの部屋は居間のすぐ隣にあったおね? 襖を一枚挟んで。増築改築とかしてないかお?」
('A`)「してねーけど」
( ^ω^)「君のお母さんは寝るときいつも、僕のタイマーをセットしてから、部屋に戻っていったんだお」
('A`)「あー……そうだ、目覚ましは布団からじゃ手の届かないとこに置いとけって言われた覚えが……」
( ^ω^)「お母さんはそれを実践してたお」
('A`)「ふーん……」
いやはやなんとも懐かしくなる遠い昔の話です。言われてみればこの時計、割と昔から家にある。
俺たち家族の思い出を、いくつも記録していたようだ。
ようだが。
('A`)「……いや、それで?」
だから何ですか?
としか、思えなかった。
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83 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/03(日) 10:18:39 ID:My4QF3.U0
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( ^ω^)「……それまでの僕は、"鬱田家の時計"だったんだお」
('A`)「……」
( ^ω^)「でもそれからは……」
('A`)「……」
( ^ω^)「……」
⊂( ^ω^)⊃「よっ!」
('A`)「?」
何を言うのかと待っていると、時計は突然両手を広げた。
人間モードを解除して、再び時計の姿に戻る。もう驚かなくなってきた。
〔 ^ω^〕『あんな気持ち悪ィ口調でんなこと言ってられっかよ……とにかく!』
〔 ^ω^〕『それからの俺は――"鬱田ドクオの時計"になったんだ』
('A`)「……」
〔 ^ω^〕『……』
〔 ^ω^〕『……嫌いじゃなかったんだ』
('A`)「え?」
人間モードの時に比べて、時計モードは口が悪い。
それなのに。
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84 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/03(日) 10:19:21 ID:My4QF3.U0
-
〔 ^ω^〕『おまえがまだ小学生だった時。俺がまだ"鬱田家の時計"だった時。居間で家族揃ってよォ。仲良く飯食ってる時……』
〔 ^ω^〕『学校で何があったとか、今度誰の家に遊びに行くとか、そーいうことを』
〔 ^ω^〕『幸せそうに……いや、心底幸せな気持ちで、ペラペラしゃべってるおまえを。観測して、記録して……』
〔 ^ω^〕『……それが楽しかったんだよ。そこそこ、だけどな』
('A`)「……」
声色からは、優しさがにじみ出ていた。
〔 ^ω^〕『部屋の時計になってからもそうだなァ。ヒーヒー言いながら宿題こなして、でも終わるとすぐ明日は何して遊ぶかなんて考え始める、単純なヤローで……』
〔 ^ω^〕『友達との仲もいい、幸せなヤローだなって……思ってたんだ』
('A`)「……」
〔 ^ω^〕『今、どうだよ』
〔 ^ω^〕『友達に勧められたっつって始めたネトゲ……どーせすぐに飽きるんだろーと、ポケモンとかその手のゲームと似たようなもんだろーと、思ってたんだけどなァ』
〔 ^ω^〕『最初のうちは、そいつと一緒にプレイするだけだったのによ。学校で、今日はどこで狩りしようぜーとか話す程度で』
〔 ^ω^〕『そいつがログアウトすれば、おまえもすぐにゲームをやめる。その程度だったのに』
〔 ^ω^〕『……その程度だったのになァ』
('A`)「……」
やめろ。
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85 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/03(日) 10:20:01 ID:My4QF3.U0
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〔 ^ω^〕『……ネトゲ、楽しかったか?』
('A`)「……」
〔 ^ω^〕『幸せだったか。充実していたか。感じる時間は、早かったか?』
('A`)「……」
('A`)「……過ぎた後で言われたって……」
('A`)「……後からじゃ、過ぎてみれば早かったなぁとしか、言えねえよ」
〔 ^ω^〕『そうかい』
〔 ^ω^〕『あんだけ好きだったのになぁ。みんなと遊ぶのが』
〔 ^ω^〕『週末はしょっちゅう遊びに行ってたよな。とっかえひっかえ、友達の家に』
〔 ^ω^〕『誘われりゃすぐ乗っかって行ったし、誘われなくても行ってたよ』
〔 ^ω^〕『こいつはこれからもずっと、友達に、仲間に囲まれた、幸せな記録を残すんだろうなと……思ってた』
('A`)「……」
〔 ^ω^〕『……違うだろ』
〔 ^ω^〕『昔からのコミュ障、生来のコミュ障……違うだろ』
やめろ。
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86 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/03(日) 10:20:50 ID:My4QF3.U0
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〔 ^ω^〕『少しずつ、遊びに行くのがめんどくさくなって』
〔 ^ω^〕『その時間をネトゲに回したいと思うようになって』
〔 ^ω^〕『友達と遊ぶより、ネトゲやってたほうが楽しいと思うようになって』
〔 ^ω^〕『遊びに行こうと誘われても、断るようになっちまって』
〔 ^ω^〕『現実とネトゲの優先順位がひっくりかえって』
〔 ^ω^〕『……最後は、誰にも誘われなくなって』
〔 ^ω^〕『中学を卒業するころには、クラスで孤立しちまってた』
〔 ^ω^〕『そして人間世界での俺は、調子が悪くなったから、そのまま押し入れに放り込まれて……おしまいだ」
〔 ^ω^〕『とんだ見立て違いだったよ』
('A`)
〔 ^ω^〕『……俺はよォ、"鬱田ドクオの最初の時計"だからな』
〔 ^ω^〕『今、時計の世界で、"鬱田ドクオの時間の記録"を管理してるのは……俺なんだよ』
('A`)「……」
〔 ^ω^〕『だからその後……今お前が使ってる、そこの時計から送られてくる記録を、俺は見てきたけど』
〔 ^ω^〕『同じ部活の友達は1人いるみてーだけど、クラスでは完全に一人ぼっち。まーた孤立しちまいやがった』
〔 ^ω^〕『ネトゲはもうやってねーのになァ。友達と接する感覚ってのを忘れちまったのか? 根っからのコミュ障になっちまったか?』
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87 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/03(日) 10:21:33 ID:My4QF3.U0
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('A`)「……」
〔 ^ω^〕『……』
〔 ^ω^〕『高校でもこのまま生きていくつもりか』
('A`)「……」
〔 #^ω^〕『 ど う な ん だ っ て 聞 い て ん だ よ ! ! 』
( A )「〜〜〜〜〜〜!!」
小さな時計の体から、大きな怒声が放たれる。
何も言えなかった。
〔 #^ω^〕『……お前がこっちの世界に来た時、俺は……』
〔 #^ω^〕『……』
〔 ^ω^〕『やめだ。12時間だ』
('A`)「……?」
時計は何かを言おうとしたがなぜか無理やり言葉を切った。
いきなり怒声がトーンダウンし、平坦な声で述べたてる。
-
88 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/03(日) 10:22:14 ID:My4QF3.U0
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〔 ^ω^〕『最初に時計の世界へ入ってから12時間。針が一周するまでの時間、それがタイムリミットだ』
〔 ^ω^〕『お前がこっちの世界に来たのが16時45分、今は20時52分……約7時間は残ってる』
〔 ^ω^〕『やる気がないなら俺はこのまま消えてやる。また押し入れにぶん投げて、忘れろ』
〔 ^ω^〕『だが……』
〔 ^ω^〕『充実した人間に……幸せな人間に! 戻る気があるなら!』
〔 #^ω^〕『堕落していった自分を、今なお落ちぶれつつある自分を! 変える気があるのなら!!』
〔 #^ω^〕『少しでも、後悔しているのなら!!』
〔 ^ω^〕『……早くしろ』
('A`)「……」
俺はどうするべきなのだろうか。
わからないが、とりあえず1回やってみようか、くらいの考えは持つようになっていた。
その3.PC内蔵時計 ここまで
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その3.PC内蔵時計
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