最期に与えられた1秒間達のようです

7月14日11:10:59 徳間モララー

269 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/23(水) 20:41:47 ID:pIqRYV1Y0
  
7月14日11:10:59  徳間モララー



明日も明後日も、当たり前のような日常が続くと信じていた。
欠片の疑いも持つことのなかったその思考は、
いとも簡単に突き落とされ、世界は地獄へと姿を変えてゆく。

(;・∀・)「な、何だっていうんだ」

たった一コマのために大学へ赴き、
早々と帰路についていたモララーは、震える声で呟いた。

眼前にある風景は、到底、まともとは言い難いもので、
成人男性が恐怖に支配されるのも、
致し方のないことだといえた。

瞬き一つ、呼吸一つする度、
隣にいたはずの人間は消え、
そこにいなかったはずの人間が駆ける。

通常では考えられないような光景だ。
合わさるようにして嗚咽や悲鳴、喚き声が徐々に大きさと数を増していく。
ありとあらゆる声は反発しては混ざり合い、
薄気味悪い音を作り出していた。

(;・∀・)「みんなどうしちゃったんだよ」

270 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/23(水) 20:42:40 ID:pIqRYV1Y0
  
ドッキリの類か、と思わないでもなかったけれど、
人が突然現れては消える、などという、
超常的な現象が目の前で繰り広げられているのだ。

質の良いマジックだと言うには、
種も仕掛けも見当たらず、あまりに無作為だった。

(;・∀・)「待ってよ。
      何、何が起こってるんだ」

小さく零された声に返事はない。
誰も彼も、自分のことで精一杯らしく、
周囲に気を配っている人間など誰一人として存在していなかった。

(;・∀・)「ボクが、何をしたって、いうんだ」

恐怖にすくむ足では逃げることさえできやしない。
そもそも、何処へ行けばいいのかさえわからない。
遠くの方からもざわめきや嗚咽、叫び声が聞こえてくるのだ。

(;-∀-)「誰か説明してくれよ」

町の真ん中で、これほどまでの孤独を味わったのは始めてだ。
人はいるというのに、自分だけがナニカを理解していない。
共通の意識から追い出されたような、寂しい感覚。

271 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/23(水) 20:44:04 ID:pIqRYV1Y0
  
人生で最大級の孤独を味わった、と思っていたモララーは、
すぐにそのランキングを更新することとなる。

(;・∀・)「――あれ?」

静まり返った世界。
おそるおそる目を開けてみれば、
相変わらずの地獄絵図。

しかし、音はなく、
動きも一切消えていた。

(;・∀・)「何?」

ここ数十秒、モララーは混乱していなかった時間がない。
定点カメラの映像をぶつ切りにしたような光景から一転、
一時停止ボタンを押したかのように様変わりしていた。

(;・∀・)「どういう、ことだよ」

視線の先にいる男を見つめてみるが、
動く気配はなく、消えてしまう様子もない。

(;・∀・)「わけ、わかんない。
     どうしてボクが、こんな意味のわらかないことに巻き込まれるんだ?」

運が良いほうではない、とモララーは自負しているが、
それでも、これはあまりにも酷くないか、と言葉を零す。

272 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/23(水) 20:45:15 ID:pIqRYV1Y0
  
(;・∀・)「マジで、意味わかんないし。
     ねぇ、返事してよ」

未だに震える足をどうにか動かし、
もつれさせながらも近場の男へと近づく。
けれど、彼からの返事はない。

天に向かって何か叫ぶような体勢のまま、
瞬き一つせず硬直していた。

(;・∀・)「こんな、漫画みたいなこと、いいからさ。
     平凡なボクの日常を返してくださいよ」

男の服を引っ張るが、やはり反応はない。

(;・∀・)「何かのイベントですか?
     それとも、ボク、新たな能力に目覚めちゃった系男子なんですか?
     運が悪すぎて次元の狭間に落ちたとか言うんですか?」

ドッキリだったと言って笑ってもらえるのなら、
どれ程ありがたいことだろうか。
周囲から全ての音を消しさってしまえるような技術が、
この世に存在しているのだとすれば、その可能性もあったかもしれない。

(;・∀・)「まるで、時間が止まって、しまった、みたい……?」

どのような人間にも、慈悲と時間は平等にある。
長い1秒。世界の終わり。
モララーはそれらを悟った。

273 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/23(水) 20:45:43 ID:pIqRYV1Y0
  
(;・∀・)「は、はは。
     何かの、冗談でしょう?」

人に求め、ついぞ返って来ることのなかった答え。
それが自身の内側からやってくるなど、
想像もしていなかったし、まさか、このようなものだとも思っていなかった。

モララーはゆっくりと後ずさりし、
壁に背をぶつける。

(;・∀・)「世界が終わるなんて、そんなこと」

世紀末、恐怖の大王がやってくるのだと世間は多いに騒ぎ立てたが、
結局は何も起こらず、それまで通りの日々が続いてきたではないか。
今になってやはり世界を滅ぼす、などということがあって良いのか。

(;・∀・)「い、やだ」

現実から目をそらそうと、首を横に振る。
しかし、世界の在りかたは変わらない。

(;・∀・)「終わりたくない。
     ボクは未来が欲しい」

涙が滲み出てくる。
抑えることのできない雫は、
ぽたり、と地面に落ちた。

274 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/23(水) 20:46:29 ID:pIqRYV1Y0
  
( ;∀;)「――そういうことか」

周囲の誰もが共通して持っていた認識。
それが、この長い1秒間と世界の終わりだったのだ。

誰かは1秒間の間にその場を去り、
別の誰かは同じ時間を使ってモララーの傍らを駆けた。
世界の終わりを迎えるために。

( ;∀;)「でも、こんなのってあんまりだ」

肩を揺らし、モララーはその場に座り込む。

( ;∀;)「ボクは一人なんだ。
     独りぼっちで終わりを迎えるんだ」

両親は田舎の実家に住んでおり、
今からそこまで向かうのはとてもではないが現実的とは言えない。
かといって、モララーには将来を誓い合った恋人がいるわけでもなく、
むしろ、つい先日、彼女から別れを切り出されたばかりだった。

( ;∀;)「何て、ボクは運がないんだ」

幸せな時間を知らないわけではない。
優しい両親に恵まれ、第一志望の大学にも合格した。
幸いにして彼女も過去に何人かおり、童貞も卒業している。

ただ、ほんの少しだけ、運がない。
くじ引きで一人だけハズレを引くだとか、
遠足でお弁当を落としてしまうだとか。
そういった運の無さだ。

275 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/23(水) 20:47:03 ID:pIqRYV1Y0
  
些細な、けれども、本人としては積もりゆく不運。
それがこんなところで爆発した。

( ;∀;)「一人なんて、嫌だ……」

世界中の人間が一斉に死ぬのだとしても、
その瞬間くらいは選びたい。
大多数の人間が同じことを考えたはずだ。

だからこそ、モララーの世界は刻一刻と変化していった。
諦念に取り付かれ、祈ることしか出来ない人間ばかりであれば、
人が消えたり現れたりなどしない。

( ;∀;)「終わりを一緒に過ごしてくれるような友達を作っておけばよかった」

恋人も両親も駄目だというのなら、
残るは友人、という選択肢だ。

だが、モララーにとっての彼らといえば、
適当に遊んで適当にノートを見せ合うような間柄でしかなく、
世界の終わりに肩を並べあうような関係ではない。

( ;∀;)「っていうかさぁ」

のろり、と彼は顔を挙げ、
涙で滲んだ風景を見つめる。

( ;∀;)「平等じゃ、ないよね」

276 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/23(水) 20:47:38 ID:pIqRYV1Y0
  
視界に映る全ての人々が、
嘆きや焦りに顔を彩られており、
1秒を得る前のモララーのようにな表情をしている者はいない。

( ;∀;)「これ、絶対ボク、最後でしょ」

順々に1秒が与えられていくのだとすれば、
必ず最初と最後が存在している。

最初に1秒を得た者は、
世界の終わりを知った後も少しは動くことができるはずだ。
愛する者に言葉を捧げる猶予もあるだろう。

逆に、最後に1秒を得た者はどうなる。
誰かの傍らにたどり着くことができたとしても、
1秒の終わりと共に世界が終わるのだとすれば、
たった一言すら向けることすらできないではないか。

( ;∀;)「そりゃさ、いませんよ?
      やりたいことも、ないですよ?
      でも、それとこれとは別じゃないですか?」

言葉を手向ける人がおらずとも、
残すモノが何もなくとも、
猶予の欠片もない時間を受け入れるというのは難しい。

数十秒。短いようで長い時間だ。
その時間をモララーは混乱だけで消費してしまった。

277 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/23(水) 20:48:24 ID:pIqRYV1Y0
  
モララーは見えぬ神に文句を言い続ける。
返事がないことはわかっていたが、
心の整理には必要な時間と行動だった。

公衆の面前で泣き喚くなど、
小学生以来のことではあるが、
不幸中の幸いとして、今は時間が止まっている。
誰に見られるでも、咎められるでもない。

体感時間として数分。
吐き出し続ければ思いにも終わりがやってくる。
いい加減、泣き続けるのにも疲れてしまった。

( う∀・)「……最後だっていうなら、
      見てやろうじゃないか」

涙を拭い、彼は立ち上がる。
暑い中、座り込んでいたせいで、
汗ばんだ尻に下着がくっついて気持ちが悪い。

( ・∀・)「みんなが、そんな風に終わりを迎えるのか、さ」

最後に回された者の特権など、
このくらいしかない。
終わりを前にして、人はどのような本性を晒したのか。

それを見て嗤ってやるなり、同情してやるなりしてやろう。
手始めに、目の前で地獄絵図を作ってくれていた人達だ、と、
彼は足を進めていく。

278 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/23(水) 20:49:06 ID:pIqRYV1Y0
  
少し冷静になった頭で周囲を見渡してみれば、
一定数の人間が天を見上げていたり、
指を組んで祈りのポーズをしている。

彼らは最期の足掻きとして祈りを選んだのだろう。
最期を共にしたいと思う者がいないのか、
距離が離れているため、会うことが叶わないのか。

いずれにしても、彼らはモララーとよく似た立場の人間なのだろう。
見れば、スーツをバッチリ着込んだ初老の男性もいる。
妻と子供に恵まれていそうな歳の頃だが、
彼の薬指に指輪はなく、天を見る目も何処か空ろだ。

( ・∀・)「お金があっても最期がこれじゃあな」

身に着けている装飾品も、
安いものではないように見える。
実際の所得まで知ることはできないが、
上流階級に近い人間なのだろう、とモララーは判断した。

必死になって金を稼ぎ、
人生を豊かなものにしようとしていたのかもしれない。
女なんぞおらずとも、充実した人生を、と。

しかし、終わりを前に、
一人きりになってしまった気分というのは、
如何ほどのものか。

279 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/23(水) 20:50:10 ID:pIqRYV1Y0
  
( ・∀・)「世界の終わりなんてこなけりゃ、
      もうちょっとマシだったんだろうな」

精一杯に生きて、歳をとって、
それから死ねたのならば、
一人身でも胸に残るものがあったのかもしれない。

モララーは男の肩を優しく叩く。
この同情が伝わることはないだろうけれど、
放っておくのも心が痛む。

( ・∀・)「人生、ままならないよな」

真面目に生きようと、
悪人として生きようと、
終わりは皆、死である。
故に、そこまでの過程が大切だ。

何処かの誰かの言葉ではあるが、
その誰かさんですら、
ここまで平等に与えられる死までは想定していなかっただろう。

( ・∀・)「どーしたら良かったんだろう」

男にならって空を見上げてみる。
神の姿はなく、
惨劇の回避の術も降りてはこない。

280 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/23(水) 20:50:46 ID:pIqRYV1Y0
  
( ・∀・)「彼女作るとか、田舎で親と暮らすとか、
      そういうのも悪くはないんだけど、
      まだまだ未来があるってなら、それを選ぶことはないじゃん」

社会人の一員になったときのため、
勉学やバイトに励むことは間違いか。

モララーは少しばかり不運であったけれど、
怠惰な生き方をしてきたつもりはない。

流されて選択することがゼロであったとは言わないが、
親元を離れる決心をし、受験勉強に励み、
精一杯、その時を謳歌してきた。

その上で、生を望むのだ。
まだやり残したことがあり、
たった一人で終わる世界は嫌だ、と。

( -∀-)「間違ってなかったと思うよ。
     ボクも、きっと、おじさんも」

もう一度、同じ人生を歩めるとして、
世界の終わりを知っていたならば、
倫理を投げ捨てた生き方をしたかもしれない。

未来というのは、希望であり、
人の行動に道徳と倫理を付与してくれる。

281 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/23(水) 20:51:21 ID:pIqRYV1Y0
  
( ・∀・)「……じゃあね」

軽く頭を下げる。
この男性の隣でいつまでもぼんやりしていては、
他の最期を見ることができなくなってしまう。

モララーは多少の名残惜しさを感じつつ、
その場を後にする。
次に向かう場所の予定も特には決めず、
知っている道、知らぬ道へ足を進めていった。

( ・∀・)「静かだねぇ」

足音は一つ分。
人の声も虫の声も、風の音すらない世界だ。

( ・∀・)「キミもそう思うでしょ?」

見かけたのは短い髪を振り乱しながら走る少女。
泣きそうな顔をして、必死に足を動かしていたのだろう。
両足が地面につかない状態で硬直していた。

( ・∀・)「お母さんに会いたかったのかな」

可哀想に、彼女は母親に会うことなく死ぬのだろう。
この1秒が終わってすぐ、
そうでなかったとしてもたった数秒だ。
この場にいない母親に会うことはできまい。

282 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/23(水) 20:52:02 ID:pIqRYV1Y0
  
( ・∀・)「努力が報われないって空しいね」

かけた時間の分だけ対価が欲しい。
努力したのだから同等の結果が欲しい。

そう願ってやまないというのに、
現実は無常だ。

中学生くらいの少女の努力一つ、報われやしない。
彼女もそれを理解しているのだろう。
瞳の奥に絶望の色が見え隠れしていた。

( ・∀・)「ボクがキミのお母さんを知っていたなら、
      どうにか連れて行ってあげることもできたかもしれないけど……」

少女とは何の面識もない。
こんな事態でもなければ、
一生、知ることのなかったであろう存在だ。

( ・∀・)「ごめんね」

せめて、と思い、
モララーは近場に生えていた可愛らしい花を抜く。

花壇に植わっていたので、誰かの所有物なのだろうけれど、
世界が終わる間際のことだ。
許してほしい。

283 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/23(水) 20:52:46 ID:pIqRYV1Y0
  
( ・∀・)「……可愛いよ」

髪の毛に花を刺してやれば、
可愛らしい少女の出来上がりだ。

終わるその瞬間が、
ほんの少しでも美しく彩られますように、と願う。

( -∀-)「それにしても、皮肉なことだよね」

少女から少し離れた場所。
けれど、確実に彼女も目に入っているであろうそこには、
身を寄せ合う家族の姿があった。

若い両親と幼い息子。
涙を零しながらも、まだ分別のついていない子供を不安がらせないよう、
賢明に笑みを浮かべようとしている母の姿は美しい。

父はそんな母を抱きしめ、
自身の唇を噛み締めていた。

無力な自分が許せないのかもしれない。
子供には長く果てしない未来があったはずで、
妻もそれを時に笑い、時に怒り、時には嘆いたりしながら、
それらを見守っているはずだった。

( ・∀・)「あんた達は幸せものだよ」

284 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/23(水) 20:55:03 ID:pIqRYV1Y0
  
終わりを前に、
幸せも何もない、と怒られてしまいそうだけれど。
母に会うことなく終わる少女や、
会いたい人に会えず、愛した人もいないモララーよりはマシだろう。。

( -∀-)「羨ましいくらいさ」

近しい距離の中にある、
絶望的なまでの溝。

片や家族と寄り添い、
片や必死に駆けるも努力は報われない。

( ・∀・)「神様ってのは酷いね」

各々の行動の結果がこれなのだとしても、
この光景はあまりに切ない。

( ・∀・)「奇跡はこの1秒間で最後らしい」

祈りが届き、母と再会する、という奇跡は起こらない。
世界の人口に対し、神はたった一人のようなので、
個々人の面倒を見てくれることはないし、
終わり方に干渉することもできないようだ。

仮に、それが可能だとするのならば、
この道に作られた光景は怠惰の結果か、
神の性格が如何にクソであるか、という証明だろう。

285 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/23(水) 20:55:51 ID:pIqRYV1Y0
  
悲しい場所を後にしたモララーは、
目を奪われるような美しさを目にする。

( ・∀・)「綺麗、だ」

思わず息を呑む。

ノパ听)

水滴を零してキラキラと光る髪を風になびかせ、
真っ直ぐ前だけを見ている女性。
名も知らぬ彼女は、今まで見てきたどの人間よりも凛としていた。

嘆くでもなく、悲しむでもなく、
意志の強さの中に楽しさを混ぜ込んだ瞳だった。

( ・∀・)「あなたは何処へ?」

答えがなくともわかっていた。
前だけを見据える彼女に、目的地などありはしない。

もしも会いたい人間がいるのだというなら、
先ほどの少女のように焦った顔をしているだろうし、
硬直する姿も躍動感に溢れるものになっていただろう。

( ・∀・)「最期にあなたはこの風景を見るんですね」

広がる光景は、美しい草花や海ではない。
鉄筋コンクリートと電線で作られた町並みだ。

286 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/23(水) 20:56:52 ID:pIqRYV1Y0
  
特別なものなど何一つない。
少し路地裏を歩けば雑多に汚れた町だ。
けれど、きっと彼女の目には輝いて見えている。

( ・∀・)「ボクもあなたと同じ目が欲しかった」

キラキラと星が舞い散るような瞳を覗けば、
うっかり落ちてしまいそうだった。

( ・∀・)「そうすれば、一人でだって終わりを迎えることができたはずなんだ」

あてもなく歩き続ける彼女のように。

( ・∀・)「でも……」

モララーは視線を少し下げる。
映るのは滑らかな素足だ。
手入れを怠ったことはないのだろう。

(;・∀・)「最期まで自分の身体は大事にした方がいいと思いますよ」

何処から素足で歩いてきたのかは知らないが、
女の足は泥だらけになっていた。
さらに、落ちていたガラス片で足の裏を切っているらしく、
コンクリートの地面には点々と赤い跡がついている。

万が一、世界が終わらないのだとすれば、
傷口から細菌が入りこみ、破傷風等に感染してしまう可能性が大いにある行動だ。

287 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/23(水) 20:57:27 ID:pIqRYV1Y0
  
(;・∀・)「あと、夏場だとしても濡れた服はどうかと」

水浴びでもしてきたのか、
彼女は髪だけでなく体全体が濡れていた。

濡れたシャツがぺたりと肌に張り付いている様は、
非常に性的刺激をもたらしてくれるものの、
足元の状況と合わされば性欲よりも心配が先にくる。

( ・∀・)「タオルでも持っていればよかったんですけど」

残念なことに、モララーはタオルを常備しているタイプではない。
適当な店に入り、適当に一枚盗んでくる、ということも可能であるが、
女がそれを望むとは思えなかった。

最期に選択した行動が、
ただただ歩くことであった彼女ならば、
あるがままを望むだろう。

濡れた服も、髪も、
不快感ごと喜びに変えてしまうような気がした。

( ・∀・)「この姿を後世に残せないなんて、
      凄い損失だと思うんですよ。ボクは」

絵画に描かれていてもおかしくない。
モララーは本気でそう思う。

288 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/23(水) 20:59:02 ID:pIqRYV1Y0
  
足掻き、苦しむ人々を見てきたからこそ、
女の姿はこれ以上ない程の美に見えた。

何も恐れず、悲しまず、
凛と背筋を伸ばして歩く様は、
神話に描かれるに相応しい。

( ・∀・)「世界が終わるからこそ、
      あなたはそれほどまでに美しいのでしょうか」

凡庸な日常の中で、
彼女の美しさは真価を発揮できないだろう。
全てに打たれる終止符を前にして、
未だ前を向いているからこそ、彼女は美しいのだ。

( ・∀・)「あぁ、だとしても、
      ボクは終わる世界を受け入れたりなんてできない」

許してほしい。
最高の美を前に、彼は言う。

( ・∀・)「美が損なわれるとしても、
     ボクは未来を望まずにはいられないんです」

懺悔のようなそれは、
彼の自己満足に過ぎない。

歩き続ける彼女は、モララーが自身を賞賛していることでさえ知らないのだから。

289 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/23(水) 20:59:38 ID:pIqRYV1Y0
  
終わりを許容できない彼は、
しばしの間、黙って女を見つめ続けた。

言葉すら発することなく、
静かな呼吸音だけが世界にあるような、
そんな時間だった。

最期に見たものが、美しい彼女であるならば、
それは一種の本望というやつではないだろうか、と考えていたのだ。

目の前にある美は、最期だからこそ見れたものなのだから、
満足して終わりを迎えられるのでは、と。

しかし、彼はゆるく首を振った。

( ・∀・)「さようなら。
     美しい人」

モララーは思いを振り払うようにして駆け出す。
勢いをつけなければ、
いつ間で経ってもその場にいてしまいそうだった。

美の傍らで終わるというのは、
良いか悪いかで問えば、圧倒的前者だ。
けれど、未来を望む彼は、
世界の終わりによって作られた美を見続けることができない。

尊ぶ感性と、未来を求める思考がぶつかりあい、
息ができなくなってしまいそうだった。

290 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/23(水) 21:00:26 ID:pIqRYV1Y0
  
道をでたらめに走り回ったモララーは、
周囲に人の姿がないことに気がついた。

都会の町並みの中、
今までは多かれ少なかれ人がいたはずなのに。

(;・∀・)「え、何。怖い」

終末を前に静まりかえる世界。
ただでさえ不気味なステージだというのに、
不可思議に人の姿が排除されているとなれば、
ボス戦もかくや、という雰囲気だ。

(;・∀・)「ボク、魔法とか使えませんし。
     主人公って柄でもないんで」

モララーの年代であれば、
多くの人間がRPGやライトノベルに触れて成長してきている。
咄嗟のときにそれらが頭に浮かんでしまうのも仕方のないことだろう。

だが、当然のことではあるが、
この世界は剣と魔法の世界ではない。
無論、ホラーゲームの世界でもない。

故に、違和感があるのだとすれば
殆どの場合、現実的な原因があるのだ。

( ・∀・)「――ん?」

291 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/23(水) 21:01:16 ID:pIqRYV1Y0
  
逃げるか逃げまいか、と考えていたモララーは、
視界の端に奇妙な色を見つける。

( ・∀・)「何だ、アレ」

灰色で出来た町並みの中に、
色濃い赤、黄、紫、緑。

この場がテーマパークであるならばいざしらず、
極普通の町並みの中に存在するとあっては、
それらの色は強く目立ちすぎだった。

興味を惹かれたモララーは、
誘われるようにして目に痛い色へと近づいていく。

( ・∀・)「……これって、芸術って言っていいのかな」

彼の視界には四棟のビル。
殆どは他のビルと同じく、灰色をしているのだが、
一階部分から二階部分にかけては少し違っていた。

赤い海に浮かぶのは真っ二つにされた十字架。
それを狙うのは紫色の矢で、
周りには緑色の羽が散らされている。

( ・∀・)「中学生のとき、こんなの描いてたっけか」

あまり思い出したくない過去であるが、
ビルに描かれたものを見れば、否応なしに記憶が呼び起こされてしまう。

292 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/23(水) 21:01:56 ID:pIqRYV1Y0
  
誰かの悪戯だろうか、と、
モララーが少しビルへ近づく。

( ・∀・)「……え」

数歩、近づけばわかった。
ビルの間。
丁度、十字架の間に、
誰かの足がある。

(;・∀・)「だ、だいじょ――」

反射的に地面を蹴り、
倒れている人物に駆け寄り、
モララーは上半身を反らす。

(; ∀ )「お、ぇ……」

近づいた分、後ろへ下がり、地面に膝をつく。
びちゃびちゃと零したのは今朝の残りと胃液だ。

(; ∀ )「なに、あれ」

嘔吐きながら、答えのない問いかけをする。
心の中で済ませられる程、
軽くないモノがそこにはあった。

293 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/23(水) 21:02:20 ID:pIqRYV1Y0
  
死体だ。
それも、普通の死体ではない。

頭のない、
脳みそをぶちまけた死体。

(; ∀ )「なん、で、あんな」

胃が動く。
見るな、忘れろ、考えるな、と言わんばかりに。

(; ∀ )「きもち、わる、い。
      いみ、わかんな、いし」

身体を引きずるようにして、
モララーは少しでもこの場所から離れようとする。
平和な国に生まれた彼にとって、
病死や老衰でない死体というのはけっして身近なものではない。

まして、生の脳みそを見るような機会など、
映画の中ですらないのだ。

(; ∀ )「あの辺りに人が、いなかった、のって」

例のビルが見えくなる場所までやってきて、
ようやく吐き気がマシになってきた。
気分はまだ悪いけれど、歩く分には問題ない。

294 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/23(水) 21:03:23 ID:pIqRYV1Y0
  
(;・∀・)「あー、最悪なもの見たわ」

美しいものを見た後に遭遇したくないモノグランプリで、
ナンバーワンを取れること間違いなしだった。
満たされていた心が急速に萎えていくのが感じられる。

肩を落としたモララーは、
近場の公園に入り、ベンチに腰をかけた。

(;-∀-)「色んな人がいるもんだ」

わかっていたことだが、
この世界に同じ人間はいない。

終わりを恐れる者がいれば、
未来がなくなったことに解放を得る者もいる。
美しく在る者もいれば、その逆もしかり。

( ・∀・)「全員を見ることはできないけど、
      もっと色々な最期があるんだろうな」

人生も遺伝子も不平等だ。
だからこそ、人間は一つに留まらない。

( ・∀・)「……あんたは幸せそうだね」

公園から見える家の二階には、
幸せそうな顔をしている男がいた。

295 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/23(水) 21:03:57 ID:pIqRYV1Y0
  
彼の人生は幸せに満ちていたのだろうか。
あるいは、不幸のどん底だったからこそ、
終わる世界に喜びを見出したのだろうか。

( -∀-)「わかんないけどさ」

想像するだけならば誰の迷惑にもなるまい。

( ・∀・)「もう、世界は終わる」

直感だ。
長い1秒は終わりを迎え、
世界はあっけなく終わる。

( ・∀・)「ボクには何が出来たんだろう」

祈る男は何も出来ず、ただそこに在った。
駆ける少女は最期の瞬間まで諦めることをせず、
同じ場所にいた家族は寄り添い、心を支えあうことを選んだ。

美しい女は真っ直ぐ歩き、
思い出したくもないあの死体の主は、
最期に衝撃を残した。

公園から見えている男も、
何かを成したのだろう。
そんな笑みだった。

296 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/23(水) 21:05:02 ID:pIqRYV1Y0
  
モララーは見届けただけだ。
最期の瞬間、その1秒前を。

( ・∀・)「――まあ、悪くはなかったかもね」

人間の本性が見えた。
それは、物語の中にあるような、
血で血を洗う、醜いものではなかった。

美しいもの、悲しいもの、暖かなもの。
人間という生き物も、悪いばかりではなかった、と思わせてくれるような、
愛おしい本性をたくさん見ることができた。

モララーはベンチの上に立つ。
少しだけ高くなった視界は、
まだ子供だった頃の記憶を強く刺激した。

( ・∀・)「世界よ!」

時を美しいと書いたのはゲーテだったか。
ならば、モララーは言わねばなるまい。
先人達が何度も言ってきた言葉を、
最期の瞬間まで残し、それが真実であったと証明するために。

( ・∀・)「続け! 永久に!」

終焉を前にいささか滑稽かもしれないが、
彼の口は止まらない。

( ・∀・)「お前は素晴らしい!」

297 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/23(水) 21:05:23 ID:pIqRYV1Y0
  

――そして、秒針が1つ進み――





          ――短針もまた、1つ、進んだ――


298 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/23(水) 21:06:26 ID:pIqRYV1Y0
投下は以上になります。
お付き合い頂き、ありがとうございました。

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