( ^ω^)剣と魔法と大五郎のようです

二十話

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35 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/08(木) 22:35:59 ID:ADjTXr.k0

〈::゚−゚〉 「……中々似合っているじゃないか」

ミ´・w・ン 「ね。なんか違和感あるけど可愛いっすよね」

 ィシの反応は、大よそ他の知り合い共と同じだった。
 少し驚いて、上から下、下から上へと視線を動かして、短く考えたあと、一応誉める。
 不満だ。

 そんなにスカートが珍しいかと。
 なんか芋虫を初めて食った人が「意外と美味いな」と言って居るのと同じ反応で、なんかムカつく。
 確かにツン自身慣れずに戸惑っているけれども。

ξ゚听)ξ 「……この間の、返事をしに来た」

 遅番で出勤したベルと入れ替わり、ツンは支店を出ていた。
 ジョーンズが怪我の療養のためにも早く戻れと言っていたので大人しく甘えさせてもらった。
 ミンクスを付き添いに借り、来たところは禁恨党の拠点なのだけれど。

〈::゚−゚〉 「……ああ、聞かせてもらおう」

 場所は、サロン近郊の牧場の物置小屋。
 小屋といってもかなり広く、設備さえ整えれば居住することも可能そうだ。
 現にいくつか、寝床に使用しているらしい藁の塊が見えた。一つにはシーンが胡坐をかいている。

ξ゚听)ξ 「私も、禁恨党に入ろうと、思う」

ミ´・w・ン 「おっ」

36 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/08(木) 22:37:11 ID:ADjTXr.k0

 椅子に座り、ィシと対面する構図。
 出入り口傍の壁に寄りかかっていたミンクスがいかにも嬉しそうな声をあげる。
 しかしイシは大きな反応を見せず、ツンの目をまっすぐ見つめていた。

 この先に続く言葉があることを、見抜いている。
 ツンは少し息を吸い直して、ィシの視線に答えた。

ξ゚听)ξ 「でも、条件がある」

〈::゚−゚〉 「条件とは?」

ξ゚听)ξ 「私自身の敵討ちが終わるまで、一緒に行動することは、待ってほしい」

〈::゚−゚〉 「……」

ミ;´・w・ン 「いや、それじゃ意味ないんじゃ」

〈::゚−゚〉 「ミンクス」

ミ;´・w・ン 「あ、ハーイ、大人しくしてマース」

ξ゚听)ξ 「禁酒党や、根絶法支持のテロから関係ない人たちを守る。私も、その一員になりたいと思う」

ξ゚听)ξ 「でも。私には、自分の力でやらなきゃいけないことが、あるの」

37 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/08(木) 22:38:30 ID:ADjTXr.k0


 小屋の中が、沈黙に包まれる。
 ィシ、シーン、ミンクスの他にも三人の禁恨党員がいたが、誰も口を開かなかった。

 意外だ、と思う。
 ツンの言っていることは、ただのわがままだ。
 禁恨党側からの誘いとはいえ、条件を付けるほどの対等な力関係でないことは自覚している。

 それなのに、禁恨党側からは「ふざけるな糞アマ」に類する発言は一切ない。
 何かしら呆れたり批判されるなりの反応を予想していたツンとしては、すこし拍子抜けだ。

〈::゚−゚〉 「……仇が誰か、わかっているのか?」

ξ‐凵])ξ゙

 首を横に振った。
 大五郎にあった記録をツンの両親が殺された時期まで遡って見たものの、それらしいものは見つからなかった。
 そもそも、襲撃が多すぎたのだ。

 当時二月程度の襲撃記録だけで、百科事典に並ぶ厚さがあった。
 しかも、それでもすべての襲撃事件を網羅していたわけでは無い。
 あれを見れば、この国から大五郎以外の酒造や酒店がほぼ消えたのが納得行く。
 まともな神経、思想のもとに行われたものとは思えなかった。

〈::゚−゚〉 「……そうか」

38 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/08(木) 22:39:40 ID:ADjTXr.k0

ξ゚听)ξ 「禁恨党でも、何か知らない?九年前の、秋ごろなんだけど」

〈::゚−゚〉 「……いや、我々も自分の敵を明確に把握していないものがほとんどだ」

ξ゚听)ξ 「……そっか」

〈::゚−゚〉 「もしも、だ」

 ィシの声のトーンが僅かに変わる。
 シーンの眉が動いた。

〈::゚−゚〉 「君が追う仇が、既に死んでいたら、どうする」

ξ゚听)ξ 「……」

〈::゚−゚〉 「あり得ない話では無い。九年前といえば、酒造連盟と根絶法支持側との抗争が佳境を迎えていたころだ」

〈::゚−゚〉 「その中で死んだ、ということも十分にあり得る」

ξ゚听)ξ 「……考えたことが、無かったわけじゃないけど」

 木の軋みがギイとなった。激しくも濁った風の音が聞こえる。
 吊るされランタンの光が、ゆらりと影を揺すった。
 風が吹き、小屋全体が揺れているらしい。

39 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/08(木) 22:40:41 ID:ADjTXr.k0

ξ゚听)ξ 「なんでか、生きているような気がする。確信は、無いけど」

〈::゚−゚〉 「優秀な傭兵だった君の父上と母上を屠った相手だからか」

ξ゚听)ξ 「……そう、なのかな。でも、私は話に聞いてただけで、戦っているのを見たことはほとんどなかったし」

〈::゚−゚〉 「……」

ξ゚听)ξ 「家で何かもめごとがあっても、大抵は見回りの傭兵さんたちが何とかしてくれていたし」

ξ゚听)ξ 「強いんだって思ってはいたけれど、目で見て実感したことはなかったから」

〈::゚−゚〉 「……」

ξ゚听)ξ 「ただ、殺せる状態でいてほしいっていう希望的な勘なのかもしれない」

 憎き相手に生きていてほしい希望とは滑稽だな、と思った。
 しかし、それは紛れも無い本心で。
 どうせ誰かの手で殺されるならば、その手は自分のものであってほしい。

 否、そうでなければ、そうしなければ、ツンの腹の底でとぐろを巻いているこれは、決していなくなりはしないだろうから。

40 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/08(木) 22:42:02 ID:ADjTXr.k0

ξ゚听)ξ 「あの」

〈::゚−゚〉 「ん?」

ξ゚听)ξ 「ィシさんは、誰を誰に?」

〈::゚−゚〉 「……」

ξ゚听)ξ 「答えたくないなら、いいんだけど」

〈::゚−゚〉 「夫だ。酒造連盟に雇われ、酒場の警備を任されていた」

ξ゚听)ξ 「相手は、やっぱり……」

〈::゚−゚〉 「ああ。『サイボーグ』、ヨコホリ=エレキブラン」

ξ゚听)ξ 「……」

〈::゚−゚〉 「奴は長いからな。うちに居るメンツのいくらかは、奴に家族や友人を奪われている」

ξ゚听)ξ 「だから、優先してあいつを狙ってるのね」

〈::゚−゚〉 「向こうの重要な戦力でもあるからな。被害を増やす前に、潰しておきたいというのもある」

41 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/08(木) 22:43:23 ID:ADjTXr.k0

ξ゚听)ξ 「……私の仇が、あいつってことは?」

 顎に手を当て、ツンが呟く。以前からその考えはあった。
 ツンの両親が襲われた時と、支店が襲撃された時の手口が似ているのと、
 なんかとりあえず不快な人間だ、というそれだけなのだけれど。

 ヨコホリの使う風の砲撃は、特別珍しい魔法では無い。
 風の魔法自体が(魔法全体で見れば)手軽な上に、直撃であれは即死程度の威力もある。
 特に戦闘を生業とする者たちには好まれる魔法だ。

 故に、その特徴だけで断定することは出来ずにいた。

ミ´・w・ン 「……」

〈::゚−゚〉 「……可能性はゼロでは無いな」

ξ゚听)ξ 「だとすると、今から一緒に行動するのも、悪手ではないのかな……」

 ヨコホリは常に奇襲する側だ。
 ツンが接触しようとしても逃げるか、あしらうかのどちらか(一回色々危なかったけれど)。
 その上ィシたちがサロンで活動を始めてからは、姿そのものを見せなくなっていた。

 実際に接触できるかはともかく、ただ受けに回る側よりも討ちに向かう禁恨党と共にいた方が気分がいい。

42 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/08(木) 22:44:16 ID:ADjTXr.k0

ミ´・w・ン 「……でもさあ、仮にヨコホリが怪しいとしてさ、どうやって確かめるの?」

ξ゚听)ξ 「直接聞く」

ミ´・w・ン 「答えるか分からないし」

ξ゚听)ξ 「とりあえず殴る」

ミ;´・w・ン 「そもそも星の数ほど殺してるやつだから、忘れてるかもしれないし」

ξ゚听)ξ 「なんにせよあいつはブッ倒す」

ミ;´・w・ン 「……」

 仇かどうかを差し引いても、ヨコホリには少なからず因縁がある。
 現状で最も叩き潰して地面に埋めたい敵だ。
 それに、いくらか恩のある禁恨党の怨敵となれば、もはや「仇じゃないから」で見逃せる相手では無い。

〈::゚−゚〉 「もし、奴が君の両親の敵だったら?」

ξ゚听)ξ 「……その時は、悪いけど一人でやらせてもらう。それは譲れない」

〈::゚−゚〉=3

 大きなため息。
 表情は変わっていないが呆れやその他もろもろの、少なくとも喜びでは無い感情がうっすらと滲んでいる。

43 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/08(木) 22:46:39 ID:ADjTXr.k0

〈::゚−゚〉 「断言するが、今の君では絶対に勝てんぞ」

ξ゚听)ξ 「勝てないから諦めるくらいなら、こんなところにいないわ」

〈::゚−゚〉 「……少しは、自分を大切にしろ」

ξ゚听)ξ 「投げ出すべき時には、投げ出すつもりで生きてきた。それは変えられない」

〈::゚−゚〉 「……」

ミ;´・w・ン 「まあまあ、まだヨコホリが仇ってのは、仮定の……」

 剣呑な空気に耐え兼ね、ミンクスが二人をなだめようとしたとき、入口の扉がノックされた。
 全員の動きがぴたりと止まる。
 突然の来訪者に対する当然の警戒。

 ここにいるのは飽くまで、禁恨党という「賊」である。
 禁酒委員会のみならず、治安維持のための憲兵ですら遭遇は避けなければならない。
 この本来人の寄り付かない小屋の扉をノックした、その人物の正体と目的を全員が推し量っている。

 逆に目立つという理由から、見張りの類を立ててはいなかった。
 不用心なようではあるが、シーンが常に索敵の魔法を張っているため安全性はそれなりに確保されていたのだが。

〈::゚−゚〉

( ・−・ )゙

 ィシの目線にシーンが首を振って応えた。魔法による索敵はできなかったらしい。
 緊張が高まる。恐らく一般人の類では無い。

44 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/08(木) 22:47:52 ID:ADjTXr.k0

 コンコン。

ξ゚听)ξ 「……」

 ツンは腰からナイフに手をかけた。
 ィシがそっと、椅子の足に立てかけていた剣を引き抜いたのを見たからだ。
 少なくとも彼女は、扉の向こうにいるのが友好的な存在ではないと考えている。

ミ´・w・ン 「はいはい、どちらさん?」

 普段通りの間抜けな声でミンクスが返事をした。
 全員が息を殺して返答を待つが、一向に来る様子が無い。
 壁に張り付き、ミンクスがドアの閂に手を添える。

 目で、小屋の中にいた全員に合図を送った。
 シーンは静かに魔法式の展開を始め、党員の一人がスリングショットに小石を装填しゴムを引き絞る。

 ツンもシーンに倣い身体強化の魔法を展開。
 ニョロをタカラに預けっぱなしにしたことを少しだけ後悔する。

ミ´・w・ン 「……」

 ミンクスが最後の確認。
 閂を指ではじいて外し、そのまま一気に扉を叩き開いた。
 蝶番が外れるのではと心配になるほどの勢いで現れた外の景色。

 長方形のそこには、何者の姿も存在しなかった。

45 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/08(木) 22:48:50 ID:ADjTXr.k0

 そして、扉とは真逆の壁の向こうに突然現れた、強い魔法の気配。
 

〈::゚−゚〉 「!!、全員壁から離れろ!!」

 ィシがそう叫んだのと同時。
 僅かな魔法の気配を二つ先行させて、壁がはじけ飛んだ。
 空気の痺れる爆発音に、薄い木材が瓦礫に代わる音。

 その中に、血煙と、スリングショットを握る腕をツンは見つける。
 一つ目の砲弾が壁を破壊し、二発目が彼の肩口を捕らえた。
 肉片になった彼の胴は瓦礫と共に吹き飛び、残っていた対面の壁に張り付いてゆく。

〈::゚−゚〉 「シーン!!」

 荒れ狂う木端と埃の中、再び魔法の気配を察知する。
 今度は三つ。
 壁は完全に破壊されているし、障壁にできるものは存在しない。

ξ゚听)ξ 「!」

 一瞬見えた砲弾が、空気中に解けるように消えた。
 それまで組んでいた攻撃魔法を放棄し、シーンが分解したのだ。
 相変わらずの速度と精度。

 続いてきた数発の魔法攻撃も、一発たりとも炸裂させずに消し去られた。

46 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/08(木) 22:51:09 ID:ADjTXr.k0

(//‰ ゚) 「グッグッグ……相変わらず面倒な小僧だ」

( ・−・ ) 「……」

 ツンは、皆を守るために前に歩み出たシーンの横顔を見て、額に汗を滲ませた。
 口数の多い男ではないし(そもそも喋らないし)、何を考えているか分からない男であったが、今だけは彼の胸中が分かった。

 怒り。

 彼の全身から途端に立ち上った魔力が、まるで炎のように揺らめく。
 その波動は制御されることなく、味方であるツンたちの皮膚さえ震えさせた。

〈::゚−゚〉 「……まさか貴様から来るとはな」

(//‰ ゚) 「元々我慢は苦手でなァ……やられる前にやろうと思って来てみたンだが」

 ィシが剣を構える逆の腕には、吹き飛ばされた男の腕があった。
 もう一方の腕と足、半壊した頭が辛うじてつながっている体は、ミンクスが丁寧に抱き上げ壁によりかけさせる。
 ツンは、それをできるだけ見ないよう、ヨコホリを睨みつけた。

 死人は苦手だ。
 血の臭いを鼻から追い出し、歯をかみしめる。

47 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/08(木) 22:52:22 ID:ADjTXr.k0

(//‰ ゚) 「できりゃァあんたか、小僧のどっちかをやりたかったンだが。惜しかったなァ」

 被弾した男は、ヨコホリとィシを結ぶ射線上にいた。
 もし、彼がいなければ、吹き飛ばされていたのはィシだっただろう。

 シーンが一歩前に出た。
 ヨコホリはたじろぐ様子なく、その鋼鉄の腕を差し出し、狙いを定める。

(//‰ ゚) 「小僧。近づいて、俺の心臓を分解しようとすルのは構わねえがよ」

( ・−・ )

(//‰ ゚) 「俺は、てめえが俺を殺すより先に、てめえを殺すぜ」

( ・−・ )

 シーンは、純粋な魔法使いだ。
 お世辞を込みにしてもヨコホリと格闘戦をやり合える膂力があるようには見えない。
 ヨコホリの「命」を司る魔法を解析、分解するのに最低限詰める必要のある距離は、ヨコホリの格闘攻撃の範囲内。

 シーンは、まだ触れたことすらない魔法の解析と分解を、ヨコホリが間を詰め攻撃を行う一瞬の内に行わなければならなくなる。
 賭けにしても分が悪い。
 恐らく、負けるだろう。

 しかし、その賭けをいくらか盛り返すだけの戦力が、この場には存在していた。

48 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/08(木) 22:54:35 ID:ADjTXr.k0

〈::゚−゚〉 「お前の指一つ、シーンには触れさせんよ」

 膝を折り亡骸に腕を返し、ィシは立ち上がった。
 剣を捨て、ミンクスが藁の山から引き抜いたハルベルトを受け取りシーンの横に並ぶ。

(//‰ ゚) 「だから嫌なンだよなァてめえらは!」

 ィシが前へ。ハルベルトを腰に腰元に引き、刺突の構え。
 ヨコホリはすぐさま魔法を放ったが、全て消える。

〈::゚−゚〉 「フンッ!」

(//‰ ゚) 「シィッ!」

 金属同士がぶつかり合う残響。
 突き出されたハルベルトを鋼鉄の手が掴むように受け止めた。
 ィシの勢いはそれでも止まらず、力任せにヨコホリを突き飛ばす。

 体勢を調えながら、ヨコホリは魔法を乱射。
 全てシーンが分解するが、そのおかげでシーンは他の行動に移られない。

 ィシが介在しなければシーンはヨコホリの解析は難しく。
 ィシがヨコホリと戦う間は彼女を守るために魔法を分解せねばならない。
 少しずつ解析は行っているようだが、精神、脳への負担は非常に多くなるはずだ。

50 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/08(木) 22:56:47 ID:ADjTXr.k0

ξ#゚听)ξ 「……“ビートアップ!!”」

ミ;´・w・ン 「ちょ、ディレートリ!なにしてんの!」

ξ#゚听)ξ 「援護するに決まってるでしょ!」

ミ;´・w・ン 「ダメだよ!僕らみたいな半端モンが介入したら姉御たちの負担を増やすことになる!」

ξ#゚听)ξ 「上手くやるわ!」

 ミンクスの制止を振り切り、ツンはヨコホリに突っ込む。
 身体強化の魔法を活かしィシの頭を飛び越え、ヨコホリの頭部に蹴りを放った。
 スカートが多少捲れ上がるが、気にしない。

(//‰ ゚) 「!」

〈::゚−゚〉 「!」

ξ#゚听)ξ 「ダッシャァ!!」

 丁度、ィシが深く踏み込みヨコホリの胴を薙ぎ、ヨコホリがそれを受け止めたタイミングだった。
 鋼鉄の腕は、ハルベルトの斧刃を抑えるために塞がっている。
 チャンスではあったが、しかしヨコホリが一枚上手。
 頭を蹴り抜くかに思えた鉛を仕込みの靴底は、左腕に阻まれた。

51 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/08(木) 22:59:17 ID:ADjTXr.k0

 並ならぬ腕力だ。
 慣性を含んだツンの体重を丸々受け止めまるで体幹がぶれない。
 ツンはそのままヨコホリを足場にぴょんと跳ねて、背後に回り込む形で飛び降りた。

 ィシとツン、挟み撃ちの形にもヨコホリは動揺を見せない。
 組み合ったハルベルトを弾き、肩ごしに掌を背後へ。
 着地と同時に切りかかろうとしていたツンに対し魔法を放つ。

 シーンからは死角。
 分解が間に合わず地面が爆ぜる。
 元よりシーンに頼るつもりの無かったツンは、大きく横へ転がり回避していた。

 この隙に、ィシは弾かれたハルベルトを、そのまま上体ごと大きく振り回す。
 左右の手を持ち替え、回転の力を殺さぬまま、逆からヨコホリの首を薙いだ。

 ヨコホリは転がって逃げるツンに腕を向けなおして追撃を放ちつつ、ィシの一撃を掻い潜って躱す。
 攻撃後の隙だらけのィシの腹へ、姿勢を持ち上げながら半歩踏み込み。
 ツンヘ向けていた右腕を引き戻し、掌底の打撃と魔法の同時攻撃を放つ。

 ィシの攻撃がかわされた瞬間にシーンは魔法分解の為の魔法式の展開を始めていた。
 今までと同じ魔法であれば解析せずとも分解が可能だ。
 打撃ばかりはどうしようも無いが、魔法は発動と同時にキャンセルに成功する。

 シーンの援護を信頼していたィシは、掌底のダメージを殺すことだけに意識を切り替えた。
 回避は絶対に間に合わないが、反撃を合わせることは可能だと本能的に判断。
 振り切ったハルベルトの切っ先をくるりと翻し、そのままスコップを掬い上げる要領で振り上げる。

 ヨコホリの掌底がィシの脇腹を捉えたのと同時。
 矛先がヨコホリのジャケットを、皮膚を、掻っ捌く。

52 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/08(木) 23:00:27 ID:ADjTXr.k0

(//‰ ゚) 「カァァッ!」

 脇腹から胸元にかけて、浅く皮膚を割かれたヨコホリ。
 やや姿勢をぶれさせたものの、後退しながらィシに砲撃を行った。
 もちろんシーンがすべてキャンセルしたため、当たりはしない。

 しかし、威力を多少殺したとはいえ直撃した掌底は、確実にィシの足を鈍らせていた。
 砲撃を続けながらもヨコホリは素早くィシへ間合いを詰める。
 この状況ならば、攻撃は十分に防御を抜けるだろう。

ξ#゚听)ξ 「どっ」

 が、痛烈な殺気に、ヨコホリは視線を横へ流す。

ξ#゚听)ξ 「せえええい!!!」

 少々体勢を立て直すのに手間取ったが、間に合った。
 ブーツの魔法を発動し、二重に強化された脚力でツンが蹴りかかる。

 頭部を薙ぎ払う形で放った蹴りにヨコホリは右腕を合わせて防御した。
 激しい衝撃。
 ツンの足がビリビリと痺れた。

 ブーツの加護なしだったら、骨が割れていたかもしれない。
 現状でも正直涙が滲むくらいには痛かったが、昂った精神はそれを上手くごまかしてくれた。

 着地したツンヘ、ヨコホリは魔法の連射。
 大きく後転しこれをやり過ごす。

53 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/08(木) 23:01:39 ID:ADjTXr.k0

ξ#゚听)ξ 「シーンさん!私の援護はいいらないから、解析に集中して!」

( ・−・ )bそ

(//‰ ゚) 「グッグッグ、今日は随分愛らしい恰好してるじゃねえか」

ξ#゚听)ξ 「……」

(//‰ ゚) 「しかしその下着はいただけねえな。色気が無さすぎル」

ξ#゚听)ξ 「下着じゃなくて、短パンだ!」

 着地の姿勢で屈んでいたツンの足元の土が飛び散った。
 魔法の補助を受けた蹴りは地面を抉り、ツンの姿は残像を遺すほどの速さで横へ流れる。

 このまま一撃ぶちかます。
 ヨコホリの体の強度は以前に見て知っているが、対策は考えていた。
 ニョロの居ないこの状況、魔法攻撃は諦め、とにかく格闘戦に集中しなければ。

54 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/08(木) 23:03:31 ID:ADjTXr.k0

(//‰ ゚) 「ヨっと」

 ツンを目で追いながら、ヨコホリは右手を左の脇へ。
 さりげなくィシに狙いを定め、魔法を放つ。

〈::゚−゚〉 「!」

( ・−・ ) 「!」

 態々大きく腕を構えて撃つ動作に慣れてしまっていたため、僅かにだがシーンの反応が遅れた。
 ィシが自力で横へ回避するも、避けきれない。
 体に直撃する寸前でなんとか分解は間にあったが、二人の額からは大きな汗が流れ落ちる。

(//‰ ゚) 「チィッ」

ξ#゚听)ξ 「ハァ!」

 無視された腹立たしさをそのまま脚力に変え、ツンは真正面からヨコホリへ。
 突進の勢いのままナイフを大きく引き、振りかぶる。

(//‰ ゚) 「シィッ!!」

 ィシを狙撃したその体勢から、ヨコホリが右腕を振り上げた。
 丁度居合抜きの要領。
 するどい手刀の斬撃がツンを迎え撃つ。

55 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/08(木) 23:06:05 ID:ADjTXr.k0

ξ; ー )ξ

 ツンはその瞬間、口の端を持ち上げた。

(//‰ ゚) 「?!」

 ナイフ如きでは通用しないことも、その安心からヨコホリが反撃に来ることも、ちゃんとわかっていた。
 その上であえて飛び込んだのは、もっと確実な目的があったからだ。

 上体を、体が軋むほど大きく倒し、手刀を掻い潜った。
 耳元で空気が切り裂かれ、甲高い音が鼓膜をしびれさせる。
 予測してはいても、当たれば即死級の攻撃には肝が冷えた。

 しかし、動きは止めない。
 倒した体を起こし、その一連の流れでナイフを肋骨の隙間に向かって突いた。
 体勢の開き切っていたヨコホリは、成す術なく身体でナイフを受け止める。

 まるで、革張りの盾を突いたようだ。
 刃がロクに潜らず、いとも簡単に止まってしまう。

(//‰ ゚) 「良い動きだが、残念。俺の体はまともじゃねえンだ」

ξ゚听)ξ 「残念、まともじゃないことは知ってるわ」

(//‰ ゚) 「?!」

56 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/08(木) 23:07:40 ID:ADjTXr.k0

ξ# )ξ 「ハァァァァァァッ!!」

(//‰ ゚) 「グッ!」

 突き刺したナイフの先端から、ヨコホリの体にありったけの魔力を叩き込んだ。

 ヨコホリ=エレキブランは魔女によってゴーレム化している。
 体が鉱物で構成されているゴーレムを倒すには、圧倒的な力で破壊するか、原動力の魔力を乱すか。

 破壊するためには天叢雲並の魔法が必要だ。
 そもそも戦士として各上のヨコホリに、使いこなせない魔法で挑むのはさすがのツンも倦厭する。

 だからこその、魔力強制ぶち込み注射である。
 本来であればこういった「他者の魔力を乱す」ための手順もあるのだが、面倒なので力技。
 無理やり、強引に、自身の魔力を殺気に乗せて、ヨコホリの体に送り込む。

(//‰ ゚) 「ガァッ!」

57 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/08(木) 23:10:29 ID:ADjTXr.k0

 振り切っていた右腕を、ヨコホリは全力で殴り下ろした。
 ツンはナイフを引き抜きこれを何とか躱す。
 直撃は免れたが、こめかみに掠める。

 意識が飛びそうになった。
 脳が揺れ、目の前がかすむ。
 切り裂かれた瞼の上から血が流れ出、目に入った。

(//‰ ゚) 「ハァーッ、こンな強引な魔力の送り方があルかよ」

ξ 听)ξ 「……」

(//‰ ゚) 「流石の俺も、こンな方法への対策は練って無かったぜ」

 ヨコホリの右腕が、細かに痙攣していた。
 意識ははっきりしているようだが、本人の言葉通りいくらかは効果があったらしい。

ξ 听)ξ 「一つ、聞きたいことがある」

(//‰ ゚) 「良いぜ、ご褒美だ」

ξ 听)ξ 「……『酒処しそ屋』っていう居酒屋に、覚えは?」

〈::゚−゚〉 「……」

(//‰ ゚) 「ンン?なんだそりゃァ」

58 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/08(木) 23:13:18 ID:ADjTXr.k0

ξ゚听)ξ 「……そう」

 ヨコホリの後ろから、ィシが迫るのが見えた。
 ツンも手に、足に、打ち込み用の魔力を纏わせる。

(//‰ ゚) 「なンだよ、もっと楽しい質問でもいいンだぜ?」

 ヨコホリの右腕が、頭を掻くような気軽さで背後からのハルベルトを防ぐ。
 この隙に乗じ再び懐に潜ろうとしたツンの襟首を左腕が掴んだ。

(//‰ ゚) 「ハァッ!」

 ツンの体が宙を浮く。無理やり放り投げられ、首が絞めつけられた。
 空中で何とか体を捻り着地するが、思いのほか締め付けられた首に、つい噎せる。
 ブラウスのまま、襟のボタンを外さなかったのは失策以外の何物でもない。

 ヨコホリはィシのハルベルトを弾き、問答無用で魔法を叩き込んでいた。
 一発一発の完成度は落ちているようだが、それでも危険な威力には変わらない。
 シーンが眉間に皺を寄せながら相殺してゆく。

 そのままヨコホリはシーンへ。
 目的を切り替えたのだ。
 ィシを無視し、強引に天敵を討つ方へ。

59 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/08(木) 23:14:47 ID:ADjTXr.k0

〈::゚−゚〉 「く!」

 ィシが咄嗟に割って入る。
 ヨコホリは三発を横に線を引く形で地面へ。
 土を舞い上げ視界を潰す。

 次いでこの怯みを利用し、ィシを右腕で薙ぎ払った。
 ハルベルトの柄が直撃を防ぐも、ィシの体は横へ流される。

ミ;´・w・ン 「ニャロメ!!」

 一応ミンクスがシーンの前に立ったが、ものすごい頼りない。
 簡単にやられる未来しか見えない。
 ごめんほんと頼りない。

 ィシの稼いだ僅かな時間に、ツンもヨコホリを追う。
 呼吸はいくらか整った。
 残り僅かのブーツの魔法を解放し、体を風に変える。

(//‰ ゚) 「カカッ!」

 愉快そうに笑いながら、ヨコホリは地面に向かって空弾を乱発する。
 弾けて衝撃と共に舞い上がる土くれ。
 手から地面への短距離間で分解を行うのは容易くは無く、どうしても漏れが出てしまう。

60 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/08(木) 23:16:03 ID:ADjTXr.k0

ξ# 听)ξ 「ダァ!」

 蹴りの射程に入り、ツンは跳んだ。
 ブーツの魔法はこの瞬間に解けたが、代わりに魔力を集中させる。
 躱されない限りは、また無理やり打ち込んでやるのだ。

 が。

(//‰ ゚) 「魔力が昂りすぎて、見なくても攻撃がわかルぜ?」

 振り向きざま、ヨコホリが右腕でツンの足を掴んだ。
 跳び蹴りの勢いを利用したまま振り回し、傍に迫っていたィシに対し放り投げる。

 刹那の判断でィシがツンを抱き留めたが、二人そろって絡まりながら地面へ倒れた。
 ィシはぶつかり合った衝撃で、ツンはそれに振り回されて頭に血が寄ったダメージを上乗せ。
 気合いで立ち上がるも、ふらついてヨコホリを追える状態では無い。

ミ;´・w・ン 「!!」

 残るはミンクスと、見かねて入ったもう一人の党員。
 バカにするわけでは決してないが、無理だ。
 実力うんぬん以前に、二人とも完全に腰が引けている。

61 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/08(木) 23:16:51 ID:ADjTXr.k0

〈::゚−゚〉 「シーン!!」

( ・−・ ) 「!」

ミ;´・w・ン 「く、くそ!!」

ξ; 听)ξ (ダメだ!)

 剣を構えるミンクス。
 魔法を放ちながら接近するヨコホリ。

 ツンの脳裏には、ミンクスともう一人が跳ね飛ばされ、シーンが仕留められる映像が、嫌な生々しさを持ってよぎる。

 しかし。

(//‰ ゚) 「グッ!?」

 ヨコホリとは異なる僅かな魔法の気配。
 真横から飛来した青白い矢がヨコホリの首に突き刺さる。
 ついで、やや間をおいて鎌鼬の魔法がヨコホリの膝を真一文字に切り裂いた。

 どちらも浅いが、足を止めさせるのには十分な威力だ。

62 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/08(木) 23:19:08 ID:ADjTXr.k0

( ,,^Д^) 「もういっちょ!!」

 ツンの視線の先には、弓を携えた男が一人。
 大五郎のジャケット。タカラだ。
 そうなると、首元でやたらピコピコと動いているひも状のものが。

ξ 听)ξ 「ニョロ!!」

( ,,^Д^) 「俺は無視かにゃ?!」

 言葉と同時に矢が放たれる。
 相変わらず青白いそれはやや弧を描き、正確にヨコホリへ飛来。

(//‰ ゚) 「次から次へと!」

 ヨコホリは後退しながら矢を腕で払う。
 この隙に乗じたのは、ミンクス。
 たまたま目の前にがら空きの胴が見えたので。

ミ;´・w・ン 「うぇい!」

 剣で突いたら刺さった。
 硬い身体に深くは通らないが、ヨコホリの顔が不快に歪む。

63 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/08(木) 23:20:31 ID:ADjTXr.k0

(//‰ ゚) 「……少し遊びずぎたな。悪い癖だ」

 左手で矢を引き抜いて捨て、右手でミンクスの剣を握ってへし折り、ヨコホリは後退する。
 状況の不利を察したというよりは、時間制限に舌を打ったように見えた。

 それもそのはず、周囲には複数の人影が見えた。
 騒ぎを駆けつけてタカラのみならず人が集まってきたのだ。
 そして、今のサロンで集まってくるとすれば、何かと荒事の好きな連中である。

 根絶法側か、大五郎か、どちらかは判断つかない。
 なんにせよ禁恨党とヨコホリ両者にとって都合のいい展開では無いだろう。

(//‰ ゚) 「仕方ねえ、帰ルか」

〈::゚−゚〉 「この好機、逃がすわけには……」

〈;;(。个。)〉 「そうはいかんな」

〈::゚−゚〉 「?!」

 ハルベルトを構えたィシの目の前に、突然一人の人物が飛び込んだ。
 あまりの唐突さに、この場にいた全員が面を喰らう。

〈;;(。个。)〉 「……ヨコホリ、引け。大五郎と禁酒委、両方がかぎつけた」

 篭っているためはっきりとはしないが、男の声だ。
 奇妙な面をし、黒い布を巻きつけるように纏っている。
 足に見えたのは、脚甲。独特の黒い光沢は恐らく鋼だ。

64 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/08(木) 23:21:18 ID:ADjTXr.k0

〈::゚−゚〉 「……全員、引くぞ」

ξ 听)ξ 「でも!」

〈::゚−゚〉 「こいつが出てしまっては、不利なのはむしろこちらだ」

 ィシの指示に従い、シーンとミンクスともう一人は駆け出した。
 ツンは無視して飛び掛かろうとしたが、ィシに首根っこを掴まれる。
 再び首が絞まった。苦しい。

〈;;(。个。)〉 「……」

(//‰ ゚) 「ァーァ、つまんねえな」

 ヨコホリも駆け出した。
 どうやら近くに馬を隠していたらしく、素早くまたがり腹を蹴る。

 残ったのは、ィシと首根っこを掴まれたツン。
 そして、どこを見ているかもわからない、仮面の男。

65 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/08(木) 23:23:55 ID:ADjTXr.k0

〈;;(。个。)〉 「……また会おう。ィシ=ロックス」

〈::゚−゚〉 「出来れば、二度と見たくなかったよ。貴様はな」

 その一言だけ、ィシもツンを担いで走り出す。
 少し抵抗したが、戦うべき相手が居ない状況ではどうしようも無く、ツンも大人しく従うことにする。
 仮面の男も、振り向いた時にはもう姿が見えなかった。

ξ 听)ξ 「どこに逃げるの?」

〈::゚−゚〉 「すぐ近くに隠れ家がある。とりあえずそこへ逃げ込み、やり過ごそう」

ξ゚听)ξ 「もう一つ。あいつ、誰?」

〈::゚−゚〉 「……『逆さ男』」

ξ゚听)ξ 「さかさおとこ?」

〈::゚−゚〉 「ああ。禁酒党、山幻旅団、禁酒委に並ぶ、私たちの天敵だよ」

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