( ^ω^)剣と魔法と大五郎のようです

一話

1 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/07(金) 22:23:19 ID:V/DExwpo0

 入り口のドアが、ギイと耳障りな音を立てた。
 酒場の店主、ショーン=バーボンは磨いていたグラスから視線を外し、そちらに目をやる。
 客と思しきフードを目深に被った男が様子を伺うように立っていた。

(´・ω・`) 「いらっしゃい」

( :::::::::) 「……すまない、準備中だったかお?」

(´・ω・`) 「いや。ウチには準備するほど上等な物は無いんでね。残念ながら営業中だ」

( ^ω^)「それは良かったお」

 男がフードを外し、席に座る。
 少々覇気にかける、人の良さそうな顔をしていた。
 歳の頃二十四、五といったところか。
 よく見ると外套の腰まわりに歪な膨らみがあった。
 恐らく、剣。しかも二本だ。対になるよう両脇に差している。
 剣士にしては少々頼りない身体にも見えるが、窺ってみれば動作に隙は無い。
 仮にここでショーンが殴りかかったとして、難なくかわし組み伏せられるだろう。

 この男にはそういった、独特の雰囲気があった。

2 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/09/07(金) 22:24:01 ID:V/DExwpo0

( ^ω^)「ひとまず、酒を一つ。出来れば大五郎をもらえるかお」

(´・ω・`) 「出来ればもなにも、大五郎以外の酒が置いてある店があるなら、俺が飲みに行きたいね」

( ^ω^)「それはそうかもしれんお」

 ショーンはグラスに砕いた氷を転がし、ボトルから大五郎(焼酎の銘柄)を注いだ。
 透明の液体が透明のグラスに満ちていく。
 ピキキ、と氷の軋む音が、無音の店内に小さく響いた。

(´・ω・`) 「はいよ。ロックで構わないな」

( ^ω^)「お。ありがとうだお」

 男はグラスを片手に軽く一回し、グラスと氷の奏でる音を楽しんでから舐めるように口に含む。

 ショーン自身飲むから分ることだが、大五郎は決して上質な酒ではない。
 アルコールの角が強く、ロックでやるには風味が弱いのだ。
 何も考えずただ酔うために飲むならば悪いものではないが、嗜むには余りに物足りなく感じてしまう。

 それを、この男はまるで上質な甘露を味わうか様に一口一口を舌で転がしながら飲んでいる。
 客に対して無礼ではあるが、ショーンは目の前の男の味覚を疑った。

3 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/09/07(金) 22:25:28 ID:V/DExwpo0

(´・ω・`) 「そんなにその酒が美味いかね」

( ^ω^)「……まあ、決して味のいいもんではないおね」

(´・ω・`) 「そう思ってるようには見えん飲み方だが」

( ^ω^)「ちょっと訳ありなんだお」

 大して美味くないものを美味そうに飲む訳とやらに興味が沸くが
 本人に話す意思が無いことを悟り、あえて追求はしなかった。
 代わりに期限の切れ掛かっているミックスナッツの缶を開け、皿にあけて男に差し出す。
 
(´・ω・`) 「サービスだ」

( ^ω^)「いいのかお?」

(´・ω・`) 「アンタの飲み方にケチつけた侘びってところだな」

( *^ω^)「おっおー。それじゃあまあありがたく」

 男はナッツを幾つか一片につまみ、口に放り込んだ。
 一噛みした途端に、その上機嫌だった顔がみるみる内に翳っていく。

4 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/09/07(金) 22:26:21 ID:V/DExwpo0

( 'ω`) 「なんか妙に湿気てるお……」 モグモグ

 ショーンは缶を手に取り期限を確認しなおした。
 未開封基準の賞味期限は一週間前の日付が記されている。
 前々から期限が近い近いと思っていたが、とっくに過ぎていたらしい。

(´・ω・`) 「ああ、すまない。昨日開けたばっかりなんだが、蓋が緩かったのかもしれん」」

( 'ω`)「おーん…まあタダだし我慢するお…」

(´・ω・`) (ま、酒も飲んでるし死にはしないだろ)

 男は相変わらず渋い顔をしながらもナッツを食べ続けた。
 下手をすれば黴が生えているかも知れないが、味覚が狂っているんだろうとショーンは勝手に結論付ける。
 あるいは単に腹が減っているのだろうか。

( ^ω^)「ところで――――」

 ナッツとグラスの酒が残り僅かになったところで男は椅子に座りなおした。
 口の回りをマントの裾で拭い、ショーンを真正面から見据える。

( ^ω^)「『ショボン』さんに聞きたいことがあるんだお」

(´・ω・`) 「……」

( ^ω^)「…お?シベリアのフィレンクトに紹介してもらったんだけど……」

( ^ω^)「VIPシティの『ショボン』って、マスターのことじゃないのかお?」

5 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/09/07(金) 22:27:05 ID:V/DExwpo0

(´・ω・`) 「いいや、それであってるよ」

 ショーンはカウンターを出て、店の外へ。
 扉にぶら下ている「営業」のパネルを裏返し、戻って内から鍵を掛けた。

(´・ω・`) 「ったく、そっちの用ならさっさと言い出して欲しいね」

( ^ω^)「酒も呑みたかったんだお」

(´・ω・`) 「…フィレンクトに聞いたなら分ってるとは思うが、俺は高いぞ」

( ^ω^)「金ならあるお」

 男が懐に手を入れ、小袋を取り出しカウンターに置いた。
 音からして金貨が複数詰まっているようだ。
 ショーンが中を確認すると、入っていたのは少なくともはした金ですむ金額ではなかった。

( ^ω^)「足りないかお?」

(´・ω・`) 「逆に聞こう。この金額でも足りないかも知れない、アンタが調べて欲しい情報ってのはなんだ」

( ^ω^)「…………『魔女』について」

(´・ω・`) !!

7 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/09/07(金) 22:27:58 ID:V/DExwpo0

( ^ω^)「無理かお?出来れば早く、今どこにいるのかだけでも知りたいんだお」

(´・ω・`) 「……明後日の夕方、その三倍の金を持ってまたこの店に来い」

( ^ω^)「やってくれるのかお?」

(´・ω・`) 「あくまで出来うる範囲で調べて見るだけだから、どれほど引き出せるか分らんが」

( ^ω^)「おっおー!十分だお!どの情報屋に頼んでもダメだったから諦めてたんだお」

(´・ω・`) 「正直なところ、俺も手を出したくは無いんだがな…」

(´-ω-`)

(´・ω・`) 「まあ、乗りかかった船だ。あまり期待はせんでくれ」

( ^ω^)「ありがとうだお!」

(´・ω・`) 「そうだ、名前を聞いてなかったな」

( ^ω^) 「お、そういえばそうだったおね」

( ^ω^)「僕はブーン=N=ホライゾン。流れの剣士だお!」

  *   *   *

8 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/09/07(金) 22:28:46 ID:V/DExwpo0

 世界が夕日に暮れなずむ時刻、この街ははにわかに活気付く。
 大陸一の繁華街を有する第二主要都市、VIPシティ。
 様々な交易流通の要として発展したこの街は、今では国内唯一「堂々と飲酒の出来る場所」でもある。

 シティ北部の繁華街の外れ、朱色の陽光が立ち並ぶ建造物で遮られた薄暗い細道があった。
 朽ちてそのまま捨てられた看板が寂しげに傾いている。

ξ゚听)ξ 「……迷っちゃった」

 ツン=ディレートリは、暗がりですら輝いて見えるその金色の頭をポリポリと掻いた。
 胡散臭い老人から買い取った地図を何度も見直すが、自分がどこにいるのかすら把握できない。
 こんなことになるならば金をケチらず案内人を雇えばよかったと後悔のため息をつく。

ξ゚听)ξ「せめて宿でもあれば……」

 急ぎの用ではないから、無理に目的地を目指す必要は無いが、せめて宿には入りたい。
 この街に来るまでの三日間、野宿続きでまともに風呂を浴びていないのだ。
 こまめに身体は拭いていたが、流石に匂いが気になるし、着ている服も砂埃だらけ。
 乙女を気取るつもりは無いものの、やはりいい気分ではない。

ξ゚听)ξ「今多分ココ(東)らへんだから、こっちの方(西)へ向かってみましょう」

 そう呟いて、ツンは北東へ歩き始める。
 彼女は重度の方向音痴だった。

9 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/09/07(金) 22:29:33 ID:V/DExwpo0

 ツンが廃屋と思しき棟々の間を道なりに進んでいると、どこからか、とても近い距離から声が聞こえた。
 行幸だ。せめて人に尋られればこれ以上彷徨う必要も無い。
 声を頼りに、建物の隙間に身体をねじ込む。ここを抜ければすぐそこに誰かがいるはずだ。

 それにしても何をしているんだろう、やけに声が荒い。
 喧嘩かな。道を尋ねる前に宥めないとダメかな。
 そんな思考を巡らながら隙間を抜けた彼女の目の前に現れたのは……

彡ヾ゚只゚ミ 「なあ、いいじゃねえか、ちょっと付き合うだけだって!」

从;'ー'从 「ふぇぇ、そんなこといわれてもぉ」

( `.liil´)「面倒だぜい、さっさとつれてこうぜい」

< #"_ヾ> 「ほら来いよ!」

从;'ー'从 「ふぇ!いたたっ!いたたたたっ!」

 軟派とも強姦未遂とも付かない、実に漢気を試される状況だった。
 箒を抱えた一人の少女に三人の男が言い寄っている、もとい拉致しようとしている。
 ツンが無理やり顔を出している隙間を除けば行き止まりの完全な袋小路。
 傭兵崩れか何かの屈強な体格の男三人に囲まれてしまってはか弱い少女が逃げることは難しいだろう。

 流石にこれを見逃すほどツンは腰抜けではない。

10 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/09/07(金) 22:30:19 ID:V/DExwpo0

ξ゚听)ξ 「ちょっとあんたたち、そのコ嫌がってるでしょ。やめなさい」

彡ヾ゚只゚ミ 「ああ?なんだてめ…」

 リーダー格と思われる長髪の男がツンの声に振り返る。
 ツンは身体がつっかえて頭しか出せていなかったが、精一杯威圧感のある表情を作った。
 ちなみに引っかかっているのは胸であって腹ではない。断じて腹ではないのだ。

彡;ヾ゚只゚ミ 「なんなんだてめえは!?」

ξ゚听)ξ「何で改めて言い直したのよ。いいから、そんなかっこ悪い真似やめなさいよ」

( ;`.liil´)「お前も十分かっこ悪いぜい…」

ξ゚听)ξ「は?」

 ツンは憤慨した。
 男に嬲られようとしていた少女を助けに出てきた自分のどこがかっこ悪いというのか。
 確かに隙間から頭しか出ていないけれど。確かに腹が引っかかって出れないけれど。

< #"_ヾ> 「この変なのはほっといていこうぜ。関わんねえほうがいい」

 ツンは最早怒り心頭だ。
 百歩譲ってツンにも手を出そうとするならばまだしも、変な奴扱いした上に放置しようとは。
 仮にも男ならば隙間に挟まった婦女子の一人、助け出すのが道理だろう。

11 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/09/07(金) 22:30:59 ID:V/DExwpo0

ξ#゚听)ξ 「ツンツンツー―ン、もう許さない」

彡ヾ゚只゚ミ 「あ?いきなり出てきて何言って」

ξ# )ξ 「“空は力、気は凶器――――”」

< #"_ヾ> 「!?まずい離れろ!!」

ξ# )ξ 「“爆ぜて弾けろ―――インパクト”!!!」

 男達が慌てて身を庇うのと同時、彼女の周囲の木壁が破裂し、吹き飛んだ。
 辛うじて守りの姿勢を取ったものの、男達は衝撃波の直撃を受ける。
 飛び散った木片が凶器となって肌を破り肉に突き刺さり、うっすらを血がにじみ出ていた。

 件の少女は、男達が壁となったお陰で無事なようだ。

<;#"_ヾ> 「てめえ魔法使いか!」

ξ#゚听)ξ 「覚悟なさい。今の私はけっこーツンツンよ」

12 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/09/07(金) 22:32:06 ID:V/DExwpo0

 大柄の体躯は飾りではなかったのか、男達はいくらかふらつきながらもすぐに立ち上がった。
 少女は頭を抱えて丸まっている。それでいい。すぐに終わる。

( #`.liil´)「魔法使いなんざぁ魔法使わせなければなんでもねえぜえ!!」

ξ#゚听)ξ「やってみろ。木偶」

 坊主の男が拳を振り上げ、打ち下ろす。
 空気がうなるほどのその一撃を、ツンは身体を回転し軽々といなした。
 と、同時に男の腕とわき腹から血飛沫が上がる。

 ツンの手にはいつの間にかナイフが握られていた。
 かわしざまに腰からナイフを抜き、腕とわき腹を切りつけたのだ。

( ;`.liil´)「ひぎぃ!」

 坊主の戦意喪失を確信したツンは残りの二人へ向き直る。
 魔法すら使わず一人を倒して見せたツンの強さに僅かにたじろいだ二人だが
 すぐに気を持ち直しツンを挟むよう陣形を取った。

 ツンの隙を窺うよう、ジリジリと距離を測る。

ξ゚听)ξ (ブーツは……チィッ、後一回か……)

 ナイフを逆手に構え、ツンも精神を研ぎ澄ました。
 顔に火傷の痕がある男は小剣を、長髪の男は折りたたみのナイフを持っている。
 小さなミスが致命傷に繋がりかねない。

13 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/09/07(金) 22:32:49 ID:V/DExwpo0

彡ヾ゚只゚ミ !!

 先に動いたのはツンの左に位置を取っていた長髪の男。
 リーチを活かした遠間から胴を狙った突き。鋭く、疾い。

 しかし、ツンはこれを読んでいた。

 ツンのブーツが輝き、放たれた高速の右回し蹴りが男の手からナイフを弾き飛ばす。
 驚きの顔を浮かべる暇も与えず、回転を活かした左踵の追撃が男のこめかみを打ちぬいた。
 長髪の男は意識を失い壁にもたれるようにして倒れる。
 
 これで残り一人。

< #"_ヾ> !

 後ろから迫る気配を察知し、ツンは前方へ飛びのいた。
 僅かに遅れて白刃が空を横に裂く。
 反応が一瞬でも遅ければ首を削られていた。
 ツンの背筋に冷たい汗が走る。

ξ゚听)ξ (こいつ、他の二人に比べたら)

 体勢を立て直す所へ、男は間合いの広い踏み込みで突きを繰り出した。
 咽を目掛けて迫った小剣を、ツンは辛うじてナイフで軌道を変えかわす。
 互いに体勢を崩したところで牽制のナイフを一振り。
 
 一歩踏み込めば間合いの距離で再び対峙する。
 呼吸が乱れた。背後からの初撃が思いの外集中に響いている。

14 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/09/07(金) 22:33:35 ID:V/DExwpo0

ξ゚听)ξ (こんな雑魚に手間取ってられないわ)

 再び目の前の敵に意識を集中。
 気を乱さなければ勝てない相手ではない。

 火傷の男もじりじりと回りながらツンの隙を窺っている。
 大方痺れを切らせて魔法を使うのを待っているのだろうと推測。
 
 ツンが最も早く発動できる魔法は約二秒の閃光魔法。
 この間合いでは少々苦しい上に直接的な破壊力は皆無だ。
 いくらツンが方向音痴の馬鹿娘でも、ここで魔法を使う選択は無い。

ξ゚听)ξ(こないなら、こっちから…!)

 ツンが先手を打つため僅かに重心を下げたその時。

从;'ー'从 「危な〜い!!」

 少女の叫びに反応すら出来ぬうちに、ツンは背後から二の腕を掴まれる。
 首で振り返ると、

彡ヾ゚只゙ミ 「捕まえたぞクソアマァ!!」

 伸したと思い込んでいた長髪の男が、血走った目で笑みを浮かべていた。

15 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/09/07(金) 22:34:22 ID:V/DExwpo0

ξ;゚听)ξ「ぬかった!」

彡ヾ゚只゙ミ「暴れても無駄ァ!力比べになりゃあ手前なんかに負けやしねえよ!」

< #"_ヾ> 「遅えよ。本気でやられるかと思ったぜ」

( ;`.liil´)「このおんなあ、俺の手と腹を斬りやがったんだぜえ。痛いぜえ」

ξ;゚听)ξ(っっべー!これマジでやっべー!)

彡ヾ゚只゙ミ 「どうするよ、こいつ」

ξ;゚听)ξ(こんなことになるならブーツに魔法仕込みなおしておけばよかった!)

< #"_ヾ> 「よく見ると上玉だ。コイツも連れて行こう」

( ;`.liil´)「でもやってる最中に魔法使われたらどうすんだぜい?」

< #"_ヾ> 「そんなもん…こうすりゃいいんだよ」

 火傷の男が身動きの取れないツンの腹に拳を叩き込む。
 ツンの口から唾液と胃液の混ざった液体が噴出した。

16 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/09/07(金) 22:35:04 ID:V/DExwpo0

ξ 听)ξ 「…っの野郎」

< #"_ヾ> 「集中を乱しちまえば魔法なんか使えねえ。ちょろいもんだろ」

< #"_ヾ> 「ただ、手癖も足癖も悪いみてえだからな」

( ;`.liil´)「縛るか?ロープなんかないぜえ?」

彡ヾ゚只゙ミ「そんなもん必要ねえ」

 長髪の男はツンを地面に伏せさせる。
 足で背中を押さえつけ、ゆっくりとツンの腕を捻り始めた。

彡ヾ゚只゙ミ 「折っちまえばいいんだよ」

 男達はツンに大して容赦しなかった。
 ゆっくりと痛みと恐怖を与えながら腕を捻る。
 ツンが攻撃を行ったことが、彼らの嗜虐性を増長させていた。

 地面に押し付けられたツンの視界に、少女の怯える姿が映る。
 ごめんね助けられなくて、と痛みの中で謝った。
 あと数ミリも捻れれば、ツンの腕はぽっきりと折れるだろう。

17 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/09/07(金) 22:35:46 ID:V/DExwpo0

 
 
 
 
 
 
 
                   「そこまでだ悪漢共!!!」
 
 
 
 
 
 
 
.

18 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/09/07(金) 22:36:28 ID:V/DExwpo0

 その声は、ツンが諦め、なけなしの抵抗をやめた瞬間に響いた。
 男達の動きが止まり、腕にかかっていた力も緩む。
 ツンは唯一顔の見える少女の目線で、声の主が道の先にいるのだと悟った。

(:::::::) 「何かいかがわしい気配を感じてきてみりゃあ、なんだこの状況は!!」

(:::::::) 「これを見て黙って見過ごしたら男が廃るってもんだぜ!!」

彡;ヾ゚只゙ミ 「ああああもう!!何なんだてめえは!っていうかなんなんだよ今日は!!」

 長髪の男がツンの腕を放し激昂する。
 腕は折れてはいないが引き伸ばされた痛みでしびれている。
 背中に足が乗ったままのため反撃には出れないが、一先ず状況はマシになった。
 ツンはここからどうするか思案しながらも。声の主を顔を見ようと顔を動かし向き直る

 その男は、お世辞にも体格がいいとはいえなかった。
 フード付きのマントを被り、具体的な顔形は見えないが、悪漢共と比べるとあまりに頼りない。
 ただし、僅かに期待が出来るとするならば、その腰にある歪な膨らみだ。
 ツンの予想では何かしらの武器。両脇にあることを考えると、二刀使いの双剣かもしれない。
 並み以上の使い手ならば、手負いのこの三人程度楽勝のはず、と希望交じりの推測を立てる。

(:::::::) 「俺の名を聞いたか?」

(:::::::) 「いいだろう、答えてやるぜ!!」

 男は大仰なしぐさでマントを脱ぎ去った。
 腰にはやはり対の剣を差している。

19 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/09/07(金) 22:37:23 ID:V/DExwpo0

('A`) 「俺の名は、メランコリーズ=ロンリードッグ!!」

('A`) 「いずれこの世に名を馳せる大m……」

从*'ー'从 「山田さん!!!」

 突然、少女が声を上げた。
 三人の男も、ツンも少女に一瞬意識を向ける。

 山田さんというからには人名だろうが、はて誰のことか。
 男達の様子からしてこいつらの誰かではないし、双剣の男はランジェリーだかなんだかと長い名前だし。
 というツンの疑問は、山田本人に解消された。

(;'A`) 「ちょっと!ワタナベちゃん本名で呼ばないでよ!!」

(;'A`) 「っていうか被害者ナベちゃんかい!!」

 どうやらこのランジェリー山田と少女は既知の仲らしい。
 ワタナベちゃんというのは話の流れからして少女のことだろう。

从*'ー'从 「そんなことどうでもいいから助けて山田さん!」

(;'A`) 「助けたらロンリードッグって呼んでくれる?!ねえ!!」

21 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/09/07(金) 22:38:30 ID:V/DExwpo0

< #"_ヾ> 「畜生、次から次へと面倒な」

 火傷の男が小剣を素振りしながら山田へ近寄る。
 その足運びは山田を完全に舐めているものだった。
 確かに彼は貧相な体つきで、腰の二刀も格好つけの飾りにしか見えない。
 これならまだツンの方が強そうだ。

('A`) 「ん?大丈夫だ、こいつらくらいなら俺で十分だ」

< #"_ヾ> 「ゴチャゴチャ何言ってやがる。痛い目見たくなかったらさっさと……」

('A`) 「“我、孤独を求む者―――”」

< #"_ヾ> !?

 山田の返答は魔法の詠唱だった。

('A`) 「“拒み、抗い、絶し、そして―――”」

< #"_ヾ> 「てめえ!!」

 火傷の男はにわかに慌てだす。
 ツン同様、腰の剣で山田を剣士だと思いこんでいたのだろう。
 威嚇の姿勢から切り替え、腰を落とし小剣での一撃を振りかぶった。

22 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/09/07(金) 22:39:28 ID:V/DExwpo0

 だが遅い。
 否。山田の魔法式展開が速すぎるというべきか。
 魔法を扱うことの出来るツンには分る。火傷の男の攻撃は間に合わない。

('A`) 「“汝を、否定する”」

< #"_ヾ> 「うおおおおおお!!」

 淡々と唱えられた呪文が終わったその瞬間、山田の周囲の空気が陽炎のように揺らいだ。
 火傷の男はその揺らぎに弾かれ、軽々と宙空を舞う。
 元居た場所まで吹き飛ばされた男は地面に激突しピクリとも動かなかった。

 上級の防御魔法だ。地味だが、強い。
 恐らく弾かれた時点で意識は無かっただろう。

( ;`.liil´)「ぐ、ぐぬぬだぜえ」

彡;ヾ゚只゙ミ 「お、おい!早く行け!魔法使われる前ならいけるって!」

 無理だ。ツンは口の端を上げた。
 山田の展開している防御魔法は魔法力を注ぐ限り持続するタイプのものだ。
 燃費は非常に悪いが、その分このような局地戦では絶対的な効力を誇る。

23 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/09/07(金) 22:40:11 ID:V/DExwpo0

('A`) 「本来ならリンチなんてのは趣味じゃねえし、テメエらみたいな小悪党見逃してやるんだが」

( ;`.liil´)

彡;ヾ゚只゙ミ

('A`) 「レデーに手を出すとは言語道断。ぶちのめす」

 その後は実に単純な展開だった。
 自棄になり飛び掛った二人を山田がばいーんと弾き飛ばして気絶させ、それで終わりである。

('A`) 「けっ。これだからちょっと筋肉つけた野郎は、すぐ力に頼る」

 魔法を解いた山田はツンに歩み寄り手を差し伸べた。
 ツンは無事なほうの腕でその手をとり、立ち上がる。

('A`) 「腕、大丈夫か?生憎治療魔法は専門外なんだが」

ξ゚听)ξ 「大丈夫よ、ちょっと痛むだけで大したこと無いわ」

('A`) 「そうか、ならよかった」

从*'ー'从 「ありがと〜やまださ〜ん!!」

(;'A`) 「だからね!!」

  *   *   *

24 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/09/07(金) 22:40:59 ID:V/DExwpo0

 その後、ワタナベの案内でツンと山田はVIP中心街の料理屋へ。
 代金は礼も兼ねてツンが持つことになった。

ξ゚听)ξ 「へえ、それで知り合ったの」

从*'ー'从 「そうなんですよぉ〜」

 丸いテーブルを三人で囲み、会話しながら食事を取る。
 初対面ながら、出会い方にインパクトがあったため、話は弾んだ。

 話を聞いて分ったのは、ワタナベが大陸の外れ、サゲの村に生まれた見習い魔法使いだと言うこと。
 山田が人を探しながら流れの傭兵をやっている魔法使いだということ。
 そして、二人が一週間ほど前、VIPから西の草咲シティで知り合ったということ。

从'ー'从 「今日みたいに絡まれているところを山田さんがたすけてくれたんです〜

ξ゚听)ξ「ほへー」

ξ゚听)ξ「ところで山田はさ、下の名前はなんていうの?」

从'ー'从 「たかお、ですよね〜?」

(;'A`) 「だから俺の名前は……もう……いいです……」

25 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/09/07(金) 22:42:07 ID:V/DExwpo0

ξ゚听)ξ「で、ドクオ、一つ聞きたいんだけど」

(;'A`) 「ドクオ?!ドクオって誰?!」

ξ゚听)ξ 「ロンリードッグたかお、略してドグオ。言いにくいから直してドクオ」

(;'A`) 「ええ…なんで助けた初対面のねーちゃんに雑な渾名つけられてんの……」

从'ー'从 「ドクオさんかぁ〜。いいやすい〜。なんか馴染む〜」

(;'A`) 「なんか独身男性みたいでやだな……」

 山田ことドクオは軟骨唐揚げを苦虫のように噛み潰す。
 ツンとワタナベはおススメといわれたオムライスを食べていたが、
 ドクオは大五郎の水割りと鶏軟骨のから揚げを突いているだけだ。

 小食なイメージをもたれやすい魔法使いだが、かなり体力を消耗するため大食いの者が多いのが実際だ。
 ツンからすると上級魔法を使っておいて食事をまともに取らないというのは頭がおかしい。

ξ゚听)ξ 「でね、アンタの探し人って誰なの?」

('A`) 「え?」

ξ゚听)ξ 「知り合ったのもなんかの縁だし、特徴でも聞いておけばもしかしたら手伝えるかも知れないじゃない?」

('A`) 「んーっとなー」

26 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/09/07(金) 22:43:22 ID:V/DExwpo0

ξ゚听)ξ 「言いにくいの?もしかして女?」

('A`) 「…まあ、女と言えば女だな」

ξ゚听)ξ 「……」

ξ゚听)ξ 「ストーキング?」

('A`) 「よし。表に出ろふっ飛ばしてやる」

从*'ー'从 「どんな人なんですか〜?」

(;'A`) 「そんな興味もたれても……うーん、別に言ってもいいかな」

ξ゚听)ξ 「?別にいいわよ。言いなさいよ」

(;'A`) 「あ、いやそうでなくてね、いっか、別に」

ξ゚听)ξ 「?」

('A`) 「多分こう言えば一発で分ると思うんだけど、『魔女』」

ξ゚听)ξ 「「え?」」 从'ー'从

('A`) 「『魔女』を探してるんだ、俺たち」

27 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/09/07(金) 22:44:17 ID:V/DExwpo0

 オムライスの最後の一口を運んでいたツンのスプーンが止まる。
 同じく、ワタナベも硬直し、ドクオの正気を窺うような目になった。

 『魔女』。

 本来は魔法を使う女性(およびその中でも特に能力の高いもの)を指していた言葉だが、
 今はただ一人の女を表すための固有名詞と化している。

 現代最強最悪にして、気まぐれで気侭で気難しい魔法使い。
 「なんとなく」で地図から消した街の数は現時点で4つ。
 一つにかかった時間は数時間にも満たなかったという。

 人は言う。アレは魔女という名の、人の形をした天災だと。

ξ゚听)ξ 「……『魔女』がこの街にいるの?」

从;'ー'从 「ふぇぇ?!」

('A`) 「いや、そんなに怖がらなくていい。ここにはあくまで情報屋目的で来ただけだ」

ξ゚听)ξ 「何でそんな物騒なもん探してんのよ」

('A`) 「ちょっとした因縁持ちでな」

28 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/09/07(金) 22:45:03 ID:V/DExwpo0

 ドクオは残っていたグラスを一気に呷り席を立った。

('A`) 「行こう。混んできたし、宿も探さなけりゃならない」

 その言葉の通り、店の入り口には人の列が出来始めていた。
 ツンとしては特別美味いとは思わなかったが、まあ人気店なのだろう。

 手早く会計を済まし、店を出る。
 大きな通り沿いのため街灯や立ち並ぶ店の明かりで明るいが、日はもう沈んでいた。
 話をするのもいいが、宿を見つけなければならない。
 が、

从'ー'从 「多分ここらの宿は埋まっちゃってるはずだから〜良かったらウチに来ませんか〜?」

 というワタナベのありがたい提案にツンは乗ることにした。
 ドクオは初めこそ遠慮していたが、「お礼をしたい」というワタナベの押しに負け同行を決める。
 うら若い乙女の部屋に男をとめるのはいかがとも思うが、まあこの男の人柄なら大丈夫だろう。

(*'A`) 「お礼って…ナニをしてくれるって言うんです?」

ξ゚听)ξ 「ふざけたこと言ってると未使用のまま切り落とすわよ」

(;'A`) 「みみみみみ未使用ちゃうわ!使いまくりじゃ!!」

 こうして、ツンのVIP滞在一日目は、無事に幕を閉じることとなる。

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