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657 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 02:08:09 ID:Pxerwks20
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48本目いただくぜ
(i,)
|_|
( ω )ある呪いの後のようですζ( ζ
.
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658 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 02:08:53 ID:Pxerwks20
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我輩は、この世の誰もがお前を憎もうと、お前を愛するさーー
嬉しいわ、ロマネスク様。私は貴方のその言葉を聞けただけで、生まれてきて良かったと思えるのですーー
そんな悲しいことを言うな、デレ。お前はこれから、今まで見たことも無いような綺麗なものを見て、今まで食べたことの無いような美味いものを食べ、今までに聞いたこともない愉快な物語を耳にするのだからーー
まぁ、それは楽しみですわ。ロマネスク様は、そのそばにいてくださいますの?ーー
当然だ。我輩にとって、お前の笑顔こそが一番の幸せなのだから。お前が微笑んでくれる限り、我輩はお前の隣にいるよーー
嬉しいのに、嬉しくて嬉しくてたまらないのに、涙が止まりません。私は、この世で一番の幸せ者なのかもしれませんねーー
良い。怒り続けて、悲しみ続けて、泣き続けて、疲れた頃に笑えばいい。お前の、お前と我輩のこれからには、光が満ちているよーー
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659 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 02:09:36 ID:Pxerwks20
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高校を卒業してすぐ、ぼくとツンは結婚した。
互いの家の両親は猛反対したし、ツンの家にいたってはもう顔を見せるなと、ツンを勘当した。
ぼくは心苦しかったし、当時は激しく自分を責めたてた。それでも、ぼく達はそうしてでも、一緒にならなければならなかった。
ツンのお腹には子供がいた。ぼくと彼女の子供だ。
高校生の分際で、録に避妊もしなかったぼくを、ツンの両親は酷く詰った。
それは二人がツンの両親である限り、適当な行為であると思ったし、ぼくは反論するでもなく、強く唇を噛み締めて二人の呪詛の言葉を飲み下した。
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660 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 02:10:19 ID:Pxerwks20
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ぼくはそれなりに有名な国立大学に合格していたが、それを蹴って地元の工場に就職した。
この辺りではそこそこの給料を出すところで、若く、陸上をやっていたお陰で体力には自信があるぼくを、会社は快く採用してくれた。
幼少時から貰ったお年玉を貯めていたツンの貯金を切り崩し、なんとか敷金と礼金を払えたぼく達は、2DKの古いアパートで慎ましく暮らしていた。
贅沢は出来ないが、月に一度、給料日にささやかな外食が出来たし、毎月少しずつだが貯金も出来ている。
親元を離れ、自分達の力だけで生きてゆくということが、新鮮だった。二人でなら、何だって出来るような気がした。
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661 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 02:11:06 ID:Pxerwks20
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それは盆休みのことだった。
二人で親元を離れてから、初めて迎えた盆。ツンは勘当されていたし、ぼくとてこんな形で家を飛び出したのだから、決して両親との関係は良好とは言えない。
実家に帰省する、という選択肢が無かったぼく達は、レンタカーを借りて少しだけ遠出することにした。
その頃にはツンのお腹も目立ってきて、時折体調が悪くなったり、不機嫌になることがあった。
時には理不尽な八つ当たりをされ、苛立ってしまうことはあったが、それが彼女の本意でないことをぼくは知っていたし、次の日、仕事帰りにコンビニでプリンを買って帰ってやると、たちまち機嫌がよくなる彼女を見るのが好きだった。
安い旅館に泊まったぼく達は、地元で採れた魚料理に満足し、露天風呂で汗を流した後、夜風を浴びながら散歩していた。
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662 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 02:11:47 ID:Pxerwks20
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ぼくはその日、旅館にチェックインしたら際に、中居から何故この宿がこんなに安いのかを聞いていた。
どうやらこの土地は曰く付きで、大昔、村に何か災厄が降りかかるたびに、それを憑き物のせいにし、諸悪の根源として見定められた村の娘を生贄に捧げる慣習があったそうだ。
以来この土地は、そうして殺されていった娘の怨念が巣食う土地として、まことしやかに囁かれることになった。
幽霊や、呪いなど、この時代に生きてきて、信じる方がどうかしている。そんな風に、ぼくは鼻で笑った。
散歩の途中、ぼくはツンにその話をした。ツンの反応も、ぼくと似たようなものだった。
散歩道の傍に、殆ど獣道と化していてよく見えないが、林の奥に続く道があった。
その道が、生贄として殺された娘を供養する為の祠に通じていることを、ぼくは知っていた。中居に、肝試しにどうですか、と勧められたからだ。
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663 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 02:12:30 ID:Pxerwks20
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馬鹿らしいとは思っていたが、こうして手持ち無沙汰に夜道を歩いているのだから、肝試しに興じてみるのも悪くない。
ツンにその旨を伝えてみると、彼女も乗り気だった。ぼくよりもずっと気の強い彼女だからこのような反応が返ってくるのも予想出来た。
獣道を、ツンの手を握って真っ直ぐ進む。ぼくは彼女の手の温もりを、自分の掌の中で感じることが出来た。
心地良い体温を感じながら林の中を歩くのは、日頃工場の中に閉じ込められてひたすらルーチンワークを積み重ねて溜まった疲れを解してくれるような感覚だった。
時折吹く風を額に受け、汗が引いてゆく。そのように、暫しの非日常を歩んでいると、祠が見えた。
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664 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 02:13:10 ID:Pxerwks20
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石造りの祠だった。
ツンは祠を見るなり、子供のように無邪気に駆けてゆく。身体にも障るから気を付けろと注意しても、聞くような子じゃなかった。
彼女は祠を物色して、木で出来た箱をそこから引っ張り出してきた。
祠の祟りなど信じてはいないが、一応罰当たりだと窘めてはみたが、ツンは舌を出して笑うだけだった。
ツンが木箱の蓋を開けるのを、ぼくは止めなかった。ぼくもその中に何が入っているのか気になったからだ。
今思えば、ぼくはここで彼女の腕を無理矢理引っ張って、引き返しておけば良かったのだと思う。今更悔やんでも仕方ないのは解っているが、悔やまずにはいられない。
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665 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 02:14:03 ID:Pxerwks20
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木箱の中には、マッチ棒のような、小さな木屑が四本入っていた。
ツンはそれを手に取って暫く見つめていたが、何もないことを確認すると、それを木箱の中に戻し、祠に納めた。
拍子抜けね、と彼女は溜息混じりに言った。ぼくは、そうだね、と返した。
獣道を引き返す途中で、ほんの少しだけ胸が苦しくなった。
その時は気のせいだと思っていたが、今になって思うと、ぼくはそれから起こる悲惨な出来事を、本能の片隅で予感していたのかもしれない。
けれど、全ては遅かった。手遅れだったのだ。
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666 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 02:14:47 ID:Pxerwks20
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( ^ω^)「ツン」
ぼくはソファに背を預ける彼女に呼び掛けた。それは日課だった。
ξ゚听)ξ「…………」
彼女は何も答えない。
半開きになった口からはうっすらと涎が垂れていて、瞳は深く澱んでいる。焦点の合っていない彼女の視線が何を捉えているのか、ぼくには分からなかった。
( ^ω^)「仕事、クビになったお。でも大丈夫だお。まだ十八なんだし、仕事なんてすぐに見つかるお」
彼女は、何も答えない。
旅先から帰って来た翌日、ツンは体調を崩した。
用心して病院に連れていってみたが、診断結果はただの風邪だった。ただの風邪だったのに、ツンは、更にその翌日には、こうなっていた。
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667 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 02:15:28 ID:Pxerwks20
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自力で動くことすらままならず、食事、入浴、排泄。その全てをぼくが介助している。
最初は彼女に後ろめたさを感じつつも、仕事に行っていたが、次第に彼女に付きっ切りになっていった。
大きな病院にも連れていってみたが、診断結果は原因不明。精密な検査を勧められ、ツンを入院させたが、翌日、彼女は自宅のリビングのソファで、今のように惚けていた。
それを三度繰り返して、ぼくは彼女を医者に見せることを諦めた。
( ^ω^)「ツン、ごめんお。ぼくがあんなところに誘ったばかりに」
心当たりがあるとすれば、あの祠だ。
俄かには信じられない話だが、どうやら祟りというものは実在したらしい。
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668 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 02:16:11 ID:Pxerwks20
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( ^ω^)「ぼくが、代わってあげられたらいいのに」
ツンの腹を撫で、掌に神経を集中させる。
そこには確かに、もうひとつの命があった。最早生気も感じられない、人形のようなツンの中で、ぼく達の子供は、精一杯生きているのだ。
食事すらままならず、日に日に痩せ細ってゆく彼女を見ると、中の子供の容体も気がかりで仕方ない。けれど、今は生きているその命だけが、ぼくにとっての希望だった。
( ^ω^)「今度、有名な霊媒師のところに連れていくお。由緒正しい霊媒師の家系らしいから、そこならきっとツンを治してくれるお」
ぼくは彼女の額に口付けをした。
少しだけ、彼女の瞳が揺れた。そのように、見えた。
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669 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 02:16:57 ID:Pxerwks20
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その日の夜、ぼくはツンをベッドに寝せて、瞼を閉じさせた。
そっと掌で撫でてやるだけで、彼女の瞼は下りる。死んでいるみたいだと思った。
普通はこういう時、妻の容体を憂いて、涙を流すべきなのだろう。
ツンのことを、ぼくは心から愛している。けれど涙は零れなかったし、胸を刺すような痛みもなかった。
治るのだろうか。その程度の疑問しか湧かない自分は、文学的リアリティに欠けた人間なのだなと思った。
その事実を認識した時に、ほんの少しだけ胸が痛んだ気がする。皮肉な話だ。
( ^ω^)「愛してるお、ツン」
その言葉が、彼女に向けられた愛の言葉なのか。自分に言い聞かせる為の言葉なのか。
ぼくには、分からなかった。
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670 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 02:17:53 ID:Pxerwks20
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枕元で音がしたので、ぼくは目を覚まし、上半身を起こした。
ξ゚听)ξ
ツンは、ぼくの枕元に立っていた。
( ^ω^)「ツン……?」
二、三度呼びかけてみるが、返事は無い。
虚ろな目でぼくを見下ろす彼女は、本当に人間なのだろうか。
愛してると言った舌の根も乾かぬうちから、そんな風に思ってしまうぼくは、きっと人でなしなのだろう。
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671 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 02:18:40 ID:Pxerwks20
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ツンは不意に、枕元からベッドを飛び降りた。直立不動の姿勢のまま、ぴょんと跳ねるその姿は不気味だ。
寝室のドアノブに手をかけ、彼女はその向こう側に蠢く闇に飲まれていった。
(;^ω^)「……お」
朧げだった意識が覚醒して、ぼくはすぐにツンの後を追った。ぼくは何を惚けているのだろうか。
こんな風になってしまったツンを放っておいて、いいことなど一つも無い。
ツンがそうしたように、ぼくもドアノブに手をかけた。ドアを開いた先に広がっている闇は、間近で見るとより一層不気味に思えた。
部屋の明かりは全て消しているとはいえ、こんなに暗かっただろうか。普段は考えないようなことに意識が向く。壁にかけた時計の音が、やけに大きく感じられた。
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672 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 02:19:21 ID:Pxerwks20
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(;^ω^)「なにやってるんだお!!」
ツンは台所にいた。
ξ゚听)ξ「ブーン……」
その手に、包丁を持って。
脳内で警鐘が鳴り響く。すっかり細くなった両手で、しっかりと握られた包丁は彼女の首に突き付けられていた。
ξ゚听)ξ「たす……けて……」
身体は震えているのに、細い腕だけは微動だにしていない。まるで、ツンではない何者かが、腕だけを制御しているようだった。
何故こんなことになったのか。そんなことを考える間もなく、ぼくの身体は動いていた。
それは反射的に動いたという意味ではなく、文字通り、ぼくの意にそぐわない形で、勝手に身体が動いたのだ。
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673 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 02:20:10 ID:Pxerwks20
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ぼくはツンの腕をがっしりと握り締めていた。
痩せ細った冷たい手首が、へし折れてしまいそうなほどに、強く、強く。
それはぼくがやろうとしたことなのだけれど、自分の意志とは無関係に、その行動が反映されていることがとにかく恐ろしかった。
(;^ω^)「ツン! 包丁を離すんだお!」
その呼びかけが無意味であることを、ぼくは知っている。身体は重く、岩のように硬くなってしまっているような感覚に苛まれているにも拘らず、ぼくは、ぼく達は動いている。
( ω )「ひっ……ひっ……!」
呼吸すらままならなくなる。
ぼくは呼吸をする時、どのようにして身体を動かしていただろうか。
視界が霞んでゆく。暗闇に浮かぶツンの顔が三つに見える。右の頬には、涙が伝っていた。
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674 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 02:20:59 ID:Pxerwks20
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そこから数秒、ぼく達が取った行動は、短期記憶の領域からも消え失せていた。
気付けばツンは、ぼくの身体に馬乗りになって、鈍色に輝く刃をぼくの喉元に突き立てようとしていた。
(;^ω^)「どけっ! どけおおおお!!」
彼女の身を案じる余裕など無かった。助かりたい一心で、もう一つの命が宿る彼女のお腹を思い切り押し、ツンを跳ね除ける。
それは紛れもなく、ぼくの意志が反映された行動だった。
数十秒ぶりに自分の身体を自分で動かせたことに、水面から顔を出して思い切り息を吸った時のような開放感を覚えた。
ξ゚听)ξ「たすけ……っ、たすけ……て!」
言葉とは裏腹に、彼女は立ち上がり、包丁をぼくに向けていた。手首から先ががたがたと震えている。彼女の弱った表情は、涙でぐしゃぐしゃになっていた。
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675 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 02:21:41 ID:Pxerwks20
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包丁を片手に握り締め、フローリングの床を這うようにして、ゆっくりと近付いてくる。
何をするにも恐怖が先行するのだ。膝が震え、立ち上がることもままならない。
ツンから離れたかった。立ち上がり、全力で外に駆けたかった。
ξ゚听)ξ「たす……たっ、たたた? たたたたすたすたたたたたててたーー」
ツンは芋虫のように身体を捩らせ、目を見開く。既に、ぼくは彼女のことを、人間として認識出来なくなっていた。
ξ゚δ◦)ξ「ひはははっ!! ひひひひひひひひ!」
原型すらとどめていない、化け物のような形相で、彼女は再び動いた。それと同時にぼくの身体も、恐怖の枷から解き放たれ、動く。
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676 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 02:22:28 ID:Pxerwks20
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咄嗟にリビングのドアに手をかけ、逃げ出す。ツンが壁にぶち当たるのと、ぼくがドアを閉めるのはほぼ同時だった。
( ω )「ひっ……」
逃げられないと、ぼくは悟った。ドアを背にして抑え、ツンがこちらに来れないようにする。
屈強な大人がドアを殴りつけているような衝撃が、何度も何度も背中に伝わった。
「たたたすけっ、ひひっ、たすけててててたたたたっ?」
何度も、何度も、何度も、ツンはドアを叩いている。一体いつまでこうしていればいいのか。
ふと、ぼくは壁時計の時間を見た。時刻は午前四時を指している。
そうだ。朝だ。朝になれば、日が昇って、明るくなればきっと全てがよくなる。元通りになる。
何の根拠も無い。けれど、そう思わなければ、ぼくはぼくであることを続けられそうになかった。
ぼくがドアを閉め切る際に見せた彼女の動きは、最早人間ではない。
肉の弾丸のようなあの動きをまたやられたら、仮に今から全力で外に逃げ出そうとしたところで、後ろから刺されてしまうだろう。
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677 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 02:23:16 ID:Pxerwks20
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( ω )「止まってくださいお願いします。お願いしますお願いしますお願いしますお願いしますーー」
何度も、このドアから離れ、駆け出してしまいたいと思った。
その都度、先程のツンの、得体の知れない表情が脳裏を過ぎり、身体を強張らせた。
三十分ほどそうしていただろうか。気付くと、ドアを叩く音は止んでいた。
( ^ω^)「まさか……」
何処かから回り込んでくるつもりなのか。真っ先にその考えが浮かび、ぼくは恐る恐るドアに耳を当てた。
「たすっ、たすっ、たす……」
いるーー
何かが濡れたような、湿った音と共に、恐ろしく低い、くぐもった彼女の声が、微かに聞こえる。
ぴちゃ、ぴちゃ、と、何かが何かを濡らしている。一瞬、台所の水がその正体なのかと思った。だが、それにしてはあまりに音が近すぎる。
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678 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 02:24:01 ID:Pxerwks20
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ぼくはそこで気付いた。気付いてしまった。
我が身可愛いばかりに気が動転して、すっかり忘れてしまっていた。ぼくは一体何をやっているんだ。彼女は、ツンはーー
自分の首に包丁を突き付けていたではないか。
恐る恐る、ドアを少しだけ開き、その隙間から部屋の様子を見る。
( ∵)
( ω )
それは数十センチほどの肉の塊のような、人型ではあるけれど、人と呼ぶのは憚られる、赤い、悍ましい何かだった。
それは倒れ伏し、血溜まりを作るツンの腹部の上で、食い破られたような形で飛散した臓物の塊を、食べていた。
( ∵)「んんっ、んんっ、んんっ」
赤子が駄々をこね、ぐずるような呻き声を上げながら、それは緩慢な動作でツンの肉を、腸を引き摺り出し、咀嚼していた。
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679 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 02:24:41 ID:Pxerwks20
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噎せ返るような血の臭いに当てられ、ぼくは嘔吐した。
( ∵)「んめ、んめ、んめ……」
無邪気にツンを口いっぱいに頬張り、赤黒いそれは肩を震わせた。そして、手を止めた。
( ∵)「…………」
それはおもむろにこちらに振り向いた。
( ^ω^)「…………」
目が、合ってしまった。
それに目は無い。正確には、本来目があるはずの場所にぽつりと出来た二つの、黒い空洞を、ぼくは見た。
( ∵)「……んばぁ」
頭を百八十度曲げ、それは窪んだ両目でぼくを見ていた。
( ^ω^)
( ∵)
そこから先のことを、ぼくはよく覚えていない。
リビングのスツールを持ち上げて、その血にまみれた赤子を出鱈目に殴りつけたような気がする。
或いは、ツンの亡骸が握り締めていた包丁で、何度も何度も、歪な鳴き声を上げるソレに突き立てたような気がする。
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680 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 02:25:22 ID:Pxerwks20
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思い出したくない。それが三日前の出来事だったとしても、本能がそれを鮮明に思い出すことを拒んでいて、記憶には朧げな黒い靄のようなものがかかっていた。
( ^ω^)「はは、はははは……」
時折、下卑たような笑いが漏れる。その度、近くに人がいれば不審な目で見られる。だが、最早どう思われてもどうでも良かった。
ここはデパートの屋上で、寂れたこの場所には利用客はおらず、申し訳程度の小さなアスレチックがあるが、それで遊ぶ子供の姿は無い。
或いは、ぼくとツンの子供が無事生まれていれば、たまの休みに子供をここに連れてきて、一緒に遊んだりしたのだろうか。
ζ( ζ
瞼を閉じ、柵の下から吹き付ける風を浴びる。
真っ暗闇には、少女の姿がぼんやりと浮かび上がっていた。
初めは人と認識出来ないくらいの小さな靄だった。
それは、ぼくが目を閉じる度に段々と近付いてきて、その姿を深く、鮮明に刻んでゆく。
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681 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 02:26:10 ID:Pxerwks20
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それが誰なのか、考えるまでもなく分かる。これはきっと、背を向けて逃げるぼくを見つめながら、痛みを伴う苦しみの中で死んでいったツンだ。
ζ( ζ
ぼくを恨んでいるだろうか。いや、きっと恨んでいるだろう。
目を瞑る度にそれは近付いてくる。
だからぼくは、この三日間一度も寝ていない。
しかしもう限界だろう。何の隠蔽工作もなく、一目散に家から逃げ出したぼくは、きっと身籠った妻を殺した殺人犯として捜索されている。
( ∵)
正確には、妻と、お腹の中の子供を殺した犯人として。
逃げ仰せてやるつもりなど毛頭無かったし、ぼくは家を飛び出した時点で、既に色んなものを諦めていた。
生きることすらも、だ。
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682 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 02:26:52 ID:Pxerwks20
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ζ(゚ー゚*ζ
皆まで言うなよ。分かってる。
もうすぐ君の元に行くから。
ぼくはもう、疲れたのだ。君を見捨てたぼくを、君はまた愛してくれるだろうか。いつものように、コンビニで買ったプリンを持っていこう。
ぼくの瞼の裏に浮かび上がる彼女は、うっすらと微笑んだ。少なくともぼくには、そのように見えた。
冷たい柵に手をかける。
あとはこれを飛び越えて、最後に気の利いた辞世の句でも呟いて、飛び降りればいい。死ぬには十分な高度だ。それで、全てが終わる。
「あの、その柵、古いから危ないですよ」
柵を飛び越えようとしたぼくを呼び止める声があった。こんな生きた屍のようなぼくの身を案ずる殊勝な人がいることに、ぼくは素直に驚いた。
( ^ω^)「大丈夫ですお」
無理矢理作った笑顔を貼り付けて、ぼくは振り返った。と同時に、肩から背にかけて、嫌な重みがかかった。
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683 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 02:27:32 ID:Pxerwks20
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( ∵)「んばぁ……」
顔の殆どが、口だった。赤子はその口を大きく開けてーー
ぼくはーー
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684 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 02:28:27 ID:Pxerwks20
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ロマネスク様、どうして、助けに来てくださらなかったのですかーー
何もしていないのに、忌み子と罵られ、磔刑に処されてもーー
私は、貴方がいるだけで、きっと広い世界を見ることが出来ると信じ、安らかに眠ることが出来るのです。
ねぇ、どこかで見てますか? 私の身体が、火に焼べられて焦げてゆくのをーー
ねぇ、ロマネスク様ーー
どこに、どこにいらっしゃるのですか?ーー
私は、この身体が滅びようとも、貴方を探し出すでしょうーー
或いは、互いが生まれ変わっても、ずっと、永遠にーー
ζ(゚ー゚*ζ
( ФωФ)
愛していますーー
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685 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 02:29:41 ID:Pxerwks20
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そのようにして、二人は繰り返すーー
( ФωФ)ある呪いの後のようですζ(゚ー゚*ζ
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686 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 02:31:32 ID:Pxerwks20
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(
)
i フッ
|_|
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んばぁ