※同作品リンク ('A`)百物語、のようです 蛇の話(2010) ('A`)百物語、のようです おまじないのはなし(2013) ('A`)百物語、のようです 廃村ツアー(2014)
- 247 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/08(土) 23:22:03 ID:tdqDYF4E0
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( ω )「うーん。
なやむおー、なやむおー」
暗い部屋にひときわ脳天気な声が響いた。
それは怖い話をしているのを忘れそうなくらい、いつも通りなブーンの声だった。
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- 248 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/08(土) 23:23:00 ID:tdqDYF4E0
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百物語。
怪談を一つ語り、そのたびに蝋燭を一本消す。
それを百話になるまで繰り返す、古式ゆかしい怪談の一形式。
百話語り終えると恐ろしいものが現れる――とかなんとかいうそれを本格的にはじめてもうどれくらいたっただろうか。
会場に使わせてもらっている、ミルナの爺さんの家は暗い。
明かりは三間続きの和室の、一番奥の部屋にある蝋燭だけ。
月のない新月の夜だから余計に闇が濃い。
隣にいる相手の姿も見えないくらいの暗闇は、それだけで恐ろしいものだ。
そんな中で怪談をするとなれば、体がすくんでも仕方がないだろう。
( ω )「困っちゃうおー」
――この個性丸出しの声が、雰囲気をぶち壊してさえなければ。
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- 249 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/08(土) 23:25:01 ID:tdqDYF4E0
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暗くて姿が見えなくても何の問題もないレベルで、誰がしゃべっているのかまるわかりだ。
しかも、恐怖の欠片もない明るさときた。
('A`)「……」
「お前、怖い話してんの忘れたのかよ」と、思わず口に出しそうになる。
しかも、でけーんだよお前の声。何で急にでかい声になった。
( ゚д゚ )「どうしたんだ、急に?」
川 )「まぁ、落ち着けミルナ。
これはお手本のように見事な、かまってちゃんアピールだ」
(;゚д゚)「かまって……ちゃん……?」
(; )「クーってさ、言いづらいこと、わりとはっきり言うよね。
……ミルナも、本気で相手しなくていいから」
('A`)「やさしい女子なんていなかったんだ」
クーの言い様に、軽くノッてみる。
軽い笑い声が上がり、空気が緩む。
たとえるならば、百物語? なにそれおいしいのといった感じ。
シリアスに怪談をしていたはずなのに、なんかもう空気からしてグダグダだ。
- 250 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/08(土) 23:26:58 ID:tdqDYF4E0
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気づけば、ちょっと休憩にしようぜムードが漂っていた。
蛇、おまじない、廃村……どれだけ話したか忘れたが、もう長いこと怪談ばかり聞いている。
百話まではかなりかかるだろうし、仕方ないのかもしれない。
('A`)(そういやぁ、どのくらい話してるんだっけ?)
一息入れようとペットボトルに口をつけて、顔をしかめる。
……甘い。甘すぎる。
しかも、ぬるい。
暗くてよく味もわからないのに、強烈な甘さだけは伝わってくる。
口の中がベタベタして、気持ち悪い。
('A`)(……水、……どこだ?)
買い込んだ別の飲み物があったはず――そう思って、俺は手を動かした。
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- 251 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/08(土) 23:27:59 ID:tdqDYF4E0
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ξ )ξ「――で、ブーンは何に悩んでるのよ」
( ω )「お?」
ξ )ξ「いいからさっさと話しなさいよね。先は長いんだから」
( * ω )「うれしいおー。かまってちゃんとか、みんなひどすぎなんだおー」
周りでは話が進んでいるみたいだが、肝心の水が見つからない。
おかしいな。たしかに買ったのに。
どこ行ったんだ……もっと、違うところに置いたか?
('A`)(明かりでも出すか)
川 )「聞いたか、ドクオ。ラブコメの波動を感じるぞ」
(;'A`)「うわっ!」
肩を掴まれて、声を上げた。
急にどうした? 声からすると……クー、か?
飲み物探しに気を取られて完全に油断していた。
- 252 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/08(土) 23:28:57 ID:tdqDYF4E0
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( )「別にアンタのことなんて気にしてないんだからね! ――ってやつなんだからな」
(;'A`)「は? どうした急に」
( )「よかったね。やさしい女子はここにいたよ」
ヤバイ。聞いていなかった。
これはどういう流れだ? ラブコメ? やさしい女子?
そんな話なんてした――いや、したか。
('A`)「……やさしい女子なんていたか?」
( )「あ、馬鹿!」
ξ:::::::::)ξ「……静かにって言ったわよね」
('A`ii)「――っ」
暗闇の中に、とてつもなく低い声が響いた。
はっきりいって怖い。恐怖とは別の意味で怖い。
こんな声で話す女子なんていたか?
いまここにいる女子と言ったら、クーとツンのはず……だが。
- 253 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/08(土) 23:31:41 ID:tdqDYF4E0
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……いや、ツンたちと一緒に他の女子が来たんだと思っておこう。
精神衛生上そっちのほうがいい。
川 )「いいじゃないか。ほら、ブーンが待ってるぞ」
ξ; )ξ「な、なんでそこでブーンが出てくるのよっ!」
('A`;)(ツンだと!?)
あの人を殺せそうな声が、ツンだと……。
……現実は非情だ。
かわいい女子なんて二次元にしかいないのである。
川 )「ツンは本当にかわいいなぁ。私が男なら嫁にしたというのに」
( ω )「え? ツン結婚するのかお?」
('A`;)「お前は、ちょっと黙ってろ!」
( ω )「ひどいおー。せっかく何を話そうか悩んでたのにー」
ξ; )ξ「はぁ!? アンタそんなことで悩んでたの!?」
( * ω )「そうですおー」
- 254 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/08(土) 23:33:51 ID:tdqDYF4E0
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気づけばなんかもう、めちゃくちゃだ。
怖い話どころか、このまま飲み会に突入してもおかしくない流れだ。
それはそれで楽しそうだが、人の家を会場にしといてそれはダメな気がする。
ミルナの爺さん婆さんに会った時に、気まずすぎるだろ。
(; )「みんな落ち着こうよ……」
( ゚д゚ )「いいじゃないか、楽しそうで」
( )「続きマダー」
ダメだ。堅物なミルナまでもが、場の空気に染まっている。
このままでは本格的に解散の流れだ。それはイカン。
そうだ。こういう時こそ怪談だ。無理矢理にでも誰かに話させてしまうに限る。
- 255 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/08(土) 23:34:49 ID:tdqDYF4E0
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('A`)「おい、ブーン。そろそろ話せ」
( ω )「お? もう話すのかお?」
ブーンのいるらしき方向に顔を向けると、そこに白い顔が浮かび上がる。
人畜無害を絵に描いたような、丸っこい顔。
それが暗闇の中でにこにこと笑顔を浮かべ、口を開いた。
( ^ω^)「そうだおねー。ええと……、あ。
この前あったというか、気づいた話なんだけど……」
こうして、今夜最大の適当なムードの中。
ブーンの怖いであろう話が始まった。……多分。
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- 256 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/08(土) 23:35:29 ID:tdqDYF4E0
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('A`)百物語、のようです
奇妙な偶然
.,、
(i,)
|_|
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- 257 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/08(土) 23:38:09 ID:tdqDYF4E0
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「食べ物は大事にしなさい」って、カーチャンに言われたことないかお?
うちはしょっちゅうなんだお。
だから、僕は出されたものは全部おいしく食べて、お残しはしないんだお。
好き嫌いだってしないし、お魚の骨や、米粒だってキレイに食べるお!
『それはお前が、食い意地張ってるだけじゃねーか』って、そんなこと言うのはドクオかお?
そういうドクオは牛乳飲まないから、背が伸びないんだお。
ちょっとは僕を見習って――、
……
ドクオがひどいおー。
いくら僕だって、そこまで
……いいお、いいお。どうせ僕はお腹ぽよぽよだお〜。
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- 258 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/08(土) 23:40:28 ID:tdqDYF4E0
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ξ )ξ「ドクオ」
(;'A`)「すいませんでした!!!」
ξ )ξ「謝るなら、もうちょっと静かにしてよね」
低い声で言われて、俺は慌てて謝った。
暗くてよく見えないが、ツンのやつ絶対に怒っている。
しかたないじゃねぇか。ブーンのやつ、どう考えたってツッコミ待ちだったろあれ。
「相撲取り二人分くらいあるだろ」とは言ったが、そこまで凹むようなもんじゃねーし。
ブーンのやつだって、いつもみたいにニコニコ笑ってんじゃねーか。
( ゚д゚ )「楽しそうなのはいいが、話の続きはいいのか?」
(; )「はは、なかなか進まないよね。楽しいのはいいんだけど」
( )「ドクオがそんなやつだっていうのは、わかってたけどね」
- 259 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/08(土) 23:43:03 ID:tdqDYF4E0
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川 )「ツンもそのあたりにしておいてやれ。
これじゃあ、愛しのブーンも話ができないだろ」
ξ# )ξ「く、クーっ!!!」
次々と声が上がる。
ブーンの話は完全に止まり、みんな口々に話し出している。
まさに、どうでもいい空気ふたたび。ここまで話が止まると、脱線させた俺が完全に悪いような気がしてくる。
('A`)「スマン。俺が悪かった。
ブーン、続き話してくれるか?」
女子二人はまだ楽しそうだが、少し反省しよう。
「またラブコメかよ」とか、「今、リア充いたよな」とか言ったら、絶対にもう百物語に戻れない気がする。
……大人しく聞いてられるだろうか、俺。
( ω )「んー。いいのかお?」
( ゚д゚ )「そうだな。ドクオもああ言っているし、頼む」
(* ω )「じゃあ、話すお!」
……恐怖とは違う不安を抱えながら、俺は小さく頷いた。
- 260 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/08(土) 23:45:44 ID:tdqDYF4E0
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何を言いたかったか、っていうと。
僕は、食べ物をとても大切にするってことなんだお。
だから、まだ食べれるものが捨ててあったりすると「モッタイナイなぁ」って、思っちゃうんだお。
――で、僕がしたかった話っていうのは飲み物の話なんだお。
プラスチックのカップってあるおね?
強く握るとグシャってなるようなやつだお。
ほら、透明の……コンビニとか、オサレなカフェとかでコーヒー入れたりしてるやつ。
紙コップじゃなくて、ほら透明なやつだお。
アイスコーヒーとかアイスティー在中って感じのアレだお。
ちょっとお高い感じがして、ストローも白じゃなくて真っ黒なやつ。
……あれ? 緑だったかお?
とにかくそんなやつだお。
……え。そんなに高くない?
ジュースと同じか、安いくらいなのかお。
へー。科学は進んでるんだおねー。
ああ、話だおね。
僕がこれから話すのは、そのプラカップ?――ってやつの話なんだお。
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- 261 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/08(土) 23:50:12 ID:tdqDYF4E0
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んー。いつだったかなぁ。
とにかくちょっと前に、僕はそのプラカップを見つけたんだお。
( ^ω^)「ん?」
ただのカップじゃなくって、まだ中身が残ってるやつ。
……半分くらい残ってたかおね。
透明だから中身が見えるんだけど。茶色い、お茶かだいぶ薄まったコーヒーが入ってたお。
ストローは黒だったと思う。
それが駐車場の端っこにポツンって置いてあるんだお。
ゴミ箱に入れるんじゃなくって、いかにも飲みかけですよって感じで。
_,
(; ^ω^)「もったいないことするやつもいたもんだお」
.
- 262 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/08(土) 23:52:04 ID:tdqDYF4E0
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ああいうカップに入ってるやつって、オサレ〜って感じがして僕は買ったことないんだお。
どっちかというと僕、コーヒーよりも炭酸派だからNE。
もちろんオレンジとかリンゴのジュースも好きだお。甘いやつがいいおね。
……あ、言うお。
続きだおね、わかってるお。
せっかくのオサレ飲み物を残すだなんてひどいヤツがいるんだ――って、その時の僕は思ったんだお。
…
……
場所?
ええと、家から駅に行く途中だったと思うお。
たまに行くマンガ喫茶の近くだったかおね……。
一番おっきな道路を渡る手前くらいだったと思うお。
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- 263 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/08(土) 23:54:17 ID:tdqDYF4E0
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それから次は……えっと?
駐車場もったいないやつ事件からちょっとしてからだったと思うお。
事件じゃない?
食べ物は大切に派の僕からしたら、事件だったんだお。
食べ物は大切に。ゴミはゴミ箱にって、カーチャンいつも言ってるお。
( ^ω^)「あれ?」
僕が、大学まで自転車なのは知ってるおね?
……え? どうでもいい?
そんなこと言うのはドクオかお?
ふふーん、正解だお!
ドクオの言うとおり、自転車自体にそんなに意味はないんだお。
単に自転車に乗ってる時に気づいたってだけだから。
( ^ω^)「これは……」
大学のそばに、喫茶『ロマン』ってあるおね?
――あったんだお! あそこのモンブランがめっちゃ美味いんだお。
まさに栗っ、マロン! 店長は感動的なまでに栗のことわかってるお。
下手なケーキ屋さんより美味いから、今度いっしょに行くお。
- 264 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/08(土) 23:56:17 ID:tdqDYF4E0
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( ^ω^)「……ひどいやつもいるもんだお」
そこの駐車場の、ブロックのところにやつがいたんだお。
例のにっくきプラスチックのカップ!
それが堂々と放置してあるんだお。
しかも、中身が残ってるんだお。
信じられるかお? コーヒーが勝負の喫茶店に、お茶かコーヒーを放置だお!
しかもヨソの店のだお。ロマンはお持ち帰りセットがないんだから、確定だお。
(#^ω^)「こんなことをする馬鹿はどこのどいつだお!」
その時の僕はプンプンだったんだお。
お? プンプンはキモイ? ……そいつはすまんこ。
あ、そのお茶か、コーヒー?
近くのコンビニのゴミ箱にぶち込んであげましたお。
僕はこう見えても、『ロマン』を愛するロマニストなんだお!
えっへん。
あそこクリームソーダも美味しいからみんなで飲むお!
コーヒー? ごめん、飲んだことないお。
でも、コーヒーが自慢って、店長が言ってたからきっとおいしいお。
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- 265 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/08(土) 23:58:32 ID:tdqDYF4E0
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(* ω )「オレンジジュースや、レモンスカッシュも美味しいんだお。
店長がちゃんと果物をしぼって作ってるんだってお!」
川 )「ふむ。行ってみるか」
ブーンの話を聞き流しながら、手元を漁る。
コーヒーだかお茶だかの話を聞いていたせいか、飲み物が妙に恋しい。
さっきみたいないジュースじゃなくて、甘くないものが飲みたい。
(;'A`)(どこいったんだ、クソッ)
水とお茶のペットボトルを買ったのは確実だ。
なのに、暗くて手元がよく見えないせいで、さっきから菓子の袋ばかりとぶつかる。
- 266 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 00:00:33 ID:lvJC6wew0
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( )「今のところはまだ、普通の感じだね」
ξ )ξ「おいしいお店情報が手に入ったくらいよね」
( ゚д゚ )「色々な店を知っているんだな」
話は順調に進んでいくが、求めるペットボトルは見つからない。
あきらめて、あのやたらめった甘いジュースのペットボトルを引き寄せる。
(* ω )「お店選びなら僕に任せるお!
おいしいお店と、温泉と銭湯なら僕ちょっと詳しいお」
蓋を開けて、口につける。
ごくり――と飲みこんだ味は、果物じゃなくて人口物の味がした。
('A`)(……どうせなら冷たいコーヒーが欲しかったな)
飲むなら、ブーンが話してるみたいなコンビニ売りのやつがいい。
ぬるいジュースを飲みながら、俺は切実に思った。
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- 267 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 00:02:22 ID:lvJC6wew0
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えーと、ここまでは僕も変だなぁなんて思ってなかったんだお。
もったいないことするやつもいるもんだって、怒ってただけで。
あと、あのプラカップのコーヒー流行ってるんだなぁくらいは考えたかもしれんね。
「今度、買ってみるかお。」
たしか、そう思った記憶はあるお。
ジッサイには買わなかったんだけど。
まぁ、それもすっかり忘れてたんだけど。
それからちょっとたった……最近のことだお。
――ほら、ショボンとドクオと焼き肉食べに行ったことあったおね?
あの日のことだお。
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- 268 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 00:04:03 ID:lvJC6wew0
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( )「焼き肉? ……いつのかな?」
聞こえてきた声に、俺は考えこむ。
これは……たぶん、ショボンの声だな。
……いつだ? ブーンとショボンで焼き肉、焼き肉……
焼き肉食べ放題ができたぞーって、何度か行ったことがあるから。
いつだ? 本気でわからん。
('A`)「俺とショボンとブーンでか?」
( ω )「ほら7月の……」
(; )「あ」
.
- 269 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 00:05:16 ID:lvJC6wew0
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('A`)「7月ったら、考査の最終日か?
あの日は、そもそも焼き肉じゃなくて映画見に行ったんだろ」
どれだかわかった。忘れもしない前期最後の試験の日だ。
あの日の俺は、開放感でいっぱいだった。
何駅か先に、18歳未満はお断りなピンク色の映画をやる映画館がある。
そのことを唐突に思い出した俺は、行かなければならないという熱い使命感に駆られた。
テストとレポートと徹夜明けのテンションのせいもあるだろう。しかし、ダメ元で誘ったブーンとショボンはわりとノリノリであった。
……まぁ、現実は厳しかったわけだが。
小汚くて暗い映画館で、知らないおっちゃんたちと見るいかがわしい映画は最高に気まずかった。
しかも、隣は友人二人。これは死ねる。
(; )「ドクオ、ちょっと」
( ω )「そうだったお! 焼き肉のインパクトがでかくって、そっちは黒歴史になってたお」
('A`)「わざわざ遠征したんだよな。
あれは地獄だった……そもそも何で行こうと思ったんだか」
ξ )ξ「地獄って一体何を見たのよ」
(; )「あ」('A`;)
.
- 270 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 00:06:10 ID:lvJC6wew0
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綺麗なお姉ちゃんにイケナイことを教える話です、もちろん性的な意味で。
――とは、とてもじゃないが言えない。
女子や堅物のミルナの前で口にできるタイトルではないことだけは確かだ。
( A )「黙秘を主張する」
(; )「たいしたタイトルじゃないよ、は、はは」
( )「ドクオのことだから、アニメじゃない?」
川 )「かわいらしい美少女が大活躍するようなやつだろう、おそらく」
( ゚д゚ )「なるほどな」
頼む、このまま映画について忘れてくれ。
ついでに俺の頭からもあの馬鹿な記憶を消し去ってくれ。あの時は若かったんだ俺も!
手にしたままのジュースを飲み込んで、嵐がすぎさるのを祈る。
暗くて助かった。
きっと明るかったら、今の俺は顔面蒼白なことだろう。
( ^ω^)「あ、映画の話かお?」
(;'A`)「いいから次! 次っ!!」
おいこら、ブーン!
余計なことを言うんじゃないっ!!!
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- 271 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 00:10:32 ID:lvJC6wew0
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映画でいろいろあって、あの時はすっごくおかしなテンションだったんだお。
それで、ヤケになって焼き肉食い放題するぞ、ってなんたんだお僕たち。
( ^ω^)「お?」
それで外に出たとき、映画館の外のところにあったんだお。
例のプラスチックのカップ。
透明なカップに黒いストロー、それでもって中身がまだ残ってるやつ。
_,
( ^ω^)(ゴミがいっぱいだお)
でも、その映画館ってそんなにキレイじゃなかったから、そんなに気にしなかったんだお。
ボンノウと焼き肉で、僕の頭マッハだったし。
もちろん、「もったいない」くらいは思ってたと思うお。
……そのことをはっきりと思い出したのは、後になってからだったけど。
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- 272 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 00:12:18 ID:lvJC6wew0
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('A`)「ふぃー、食った食った」
(´・ω・`)「今日は派手に散財しちゃったね」
(*^ω^)「お腹いっぱいだお〜」
それで、焼肉食べ放題で満足して、さあ帰るぞって時だお。
入り口のドアを開けた時。ショボン、止まったおね。
(*'A`)ノシ「どしたー、しょぼんくーん?」
(´・ω・`)「何かがひっかかったみたい。あ、開いた」
( ^ω^)「なにがあったのかおー」
ショボンとドクオは、もう忘れちゃってるかもしれないけど……
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- 273 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 00:14:24 ID:lvJC6wew0
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あの時、ドアにひっかかってたの。プラカップだったんだお。
中身が入った、黒いストローのやつ。
そいつが倒れて、ドアの向こうに転がってたんだお。
( ´ω`)「おー」
(*''A`)「どしたー、くらいぞー、ブーンちゃぁぁぁん!!」
( ´ω`)σ「そこにカップが……もったいないお」
まだ残ってるのにもったいないとか、世の中にはゴミを捨てる悪い人が増えたんだなー、って僕は悲しくなったんだだお。
それから、倒れたコーヒーだかお茶だかを避けて、外に出て。
それから、アレって思ったんだお。
――そういえば、あのカップみたいなやつ映画館でも見たなって。
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- 274 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 00:15:14 ID:lvJC6wew0
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('A`)「偶然だろ」
考えるよりも先に、そう言っていた。
だって、そこらで売っているカップだ。コンビニに行けばいくらでも買える。
というか、俺はそれよりも。焼き肉の時の俺がどれだけ醜態を晒していたのかのほうが気になる。
あの日は確か勢いのままに酒も飲んだから、後半の記憶は曖昧だ。
思いだせ、何かアホなことをやらかしてないか思い出すんだ俺。ついでに、例のカップも。
( ω )「僕もそう思ったお。
本当にあのカップのお茶流行ってるんだおって……そのときは、そんくらいだった」
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- 275 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 00:16:22 ID:lvJC6wew0
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( ゚д゚ )「そのときは?」
( ω )「ん」
ブーンが一瞬、口ごもる。
馬鹿みたいに明るいヤツにしては珍しい反応だ。
その珍しさに、俺は先日の記憶を掘り起こす作業を止めた。
(; )「あ」
ブーンに続き、ショボンらしい声も上がる。
こちらも一言だけ。
何かを思い出したのか……?
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- 277 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 00:18:27 ID:lvJC6wew0
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('A`)(何か、あったか?)
記憶をたどる。
フワフワとして、踊りだしたくなるような気分だったのは覚えている。
食い過ぎた肉を胃に押し込めて。
ぬるい空気の中を走れば、空も飛べそうな気がして。
走りだそうとした足を、ショボンかブーンに無理やり抱えて止められて。それから……?
「ドクオ、やめるお!」
「ほら、飲めないからそれ。あとで自販機行こ」
暑苦しい野郎どもの腕の向こうに
――プラカップの姿を見た、ような、気が。
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- 278 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 00:19:58 ID:lvJC6wew0
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(;'A`)(あれ?)
おかしい。
妙な記憶がある。
いや待て、ブーンが例のプラカップを見たのは映画館と焼肉屋。
でも、そのどっちでもないこれは、何だ。
(;'A`)(飲めないってなんだ? )
ブーンと、それからショボンの方を見る。
あいつらならわかるだろうか。これが本当のことなのか、それとも俺の夢なのか。
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- 279 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 00:22:07 ID:lvJC6wew0
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(; ω )「その後、その……酔っ払ったドクオが、ね」
やっと続いたブーンの言葉は、歯切れが悪い。
頼むから、はっきりと言ってくれ。
心臓がドクン、ドクンと音を立てる。
額をたどっていく、汗が気持ち悪い。
(; ω )「プラカップを拾ったんだお。電車で」
( ゚д゚ )「それはどういう状況だ?」
(´ ω `)「電車の出入口の脇のところに、置いてあったんだよ。
たぶん、飲み残しの紅茶だと思うんだけど……」
(; ω )「そうだお。ドクオ、ノド乾いたーって、飲もうとしちゃって」
頭をガンッと殴られたような衝撃がした。
拾った? しかも電車? 俺が?
さっきの記憶は、実際にあったこと……なのか?
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- 280 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 00:25:38 ID:lvJC6wew0
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川 - )「それは、マズいんじゃないか?」
ξ )ξ「なにしてんのアンタ?! 馬鹿なの?!」
(;'A`)「俺もどうしてそうなったのか聞きたいくらいだよ!!」
クーとツンらしき声に問い詰められるが、俺も正直いっぱいいっぱいだ。
正直、はっきりと覚えているわけじゃないし。なんでそんなことをしたのかもわからない。
それに、例のプラカップ……? なんでそいつがここで出てくる。
( )「飲んでたら面白かったのに」
(; A )「おい。今、飲んでたら面白いって言ったやつ誰だ!?」
俺の渾身の叫びに、返事は無かった。
動揺している俺に、ひどいことを言うやつもいたもんだ。絶対に後から殴る。
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- 281 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 00:28:27 ID:lvJC6wew0
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ドクオは力づくで止めたから大丈夫だったお。
ちゃんと例のブツは駅のゴミ箱にポイして、ドクオには水飲ませたから安心するおー。
あ、水代は今度ジュースでもおごってくれれば、オーケーですから。気にせんでいいお。
まあ、それはともかく。
( ^ω^)「……また、あのカップだったお」
さすがの僕も、ちょっとおかしいなぁと思ったわけだお。
これまで全然気にしてなかったけど、いくらなんでも見る回数が多すぎるお。
だって、一日に3回だお。
いくら流行ってるからっていっても、あんなにカップがあちこちに落ちてるっておかしすぎるお。
しかも、場所も時間もバラバラ。それもおんなじように中身が残ってるんだお。
( ^ω^)「ドクオ、飲んじゃうところだったし……」
まるで、僕の行くところに置いていってるみたいだって。
ちょっと怖かったお。
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- 282 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 00:29:30 ID:lvJC6wew0
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( ゚д゚ )「……流石にそれは」
川 )「どうということでなくても、こうも続くと気味が悪いな」
ブーンの話に、ミルナの息をのむ声が続く。
クーや他のやつらが何か言ってるようだが、俺の耳にはいまいち入ってこない。
(;'A`)「……」
さっきから、心臓の嫌な音が止まらない。
ブーンたちのお陰で中身は飲まなかったみたいだが、電車に乗ってたのが俺一人だったらと思うとぞっとする。
なんだよ、これ。ブーンの話を適当に聞いていたはずなのに、気づけば一番の当事者じゃねぇか。
何で飲んだんだよ、俺。……その時の俺をぶん殴りたい。
ξ )ξ「私はドクオの方が怖かったけどね。
そんなになるまで飲むんじゃないわよ、馬鹿」
まったくもってその通りだ。
こんな心臓に悪いだけの話、知りたくなかった。
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- 283 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 00:32:43 ID:lvJC6wew0
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( ω )「まぁ、ドクオはサイナンだったけど、それからはあんまり見なくなったんだお。
例のプラカップちゃん」
('A`)「そんなに転がっててたまるかよ」
(; )「だよね。さすがにあれは焦ったよ」
明るく戻ったブーンの声に、俺も慌てて言葉を返す。
もうこうなったらさっきまでのことは忘れてしまおう。
そうとなったら、ブーンの話はさっさと終了させて、次の話に移るに限る。
('A`)「お前の話はもう終わりか? だったら、次に」
( ω )「んー。そうだおね。
それからは2回くらいしかみてないから」
( )「へー、まだ見てるんだ」
どうやらブーンの話はまだ続くらしい。
俺の酔っ払い事件以上に、まだ話すことがあるのか?
というか、ブーンはどうやってこの話にオチをつけるつもりなんだろうか。
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- 284 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 00:34:50 ID:lvJC6wew0
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( )「2回って、まだあるの?」
ξ; )ξ「本当によく転がってるのね、そのコーヒー? アイスティー?」
( ω )「といっても、そんな怖い話はないお。
この前、自販機のとこのゴミ箱で見かけた時なんて、お久しぶりだったから嬉しくなっちゃったし」
('A`)「……何で嬉しくなってるんだよ。
さっきまでの空気返せよ。完全に俺の醜態のさらされ損じゃねーか」
ブーンの声に気が抜ける。
さっきまで、嫌な汗をかいていたのが嘘のように空気が軽い。
これ俺以外のやつにとっては、完全に笑い話なんじゃねーか?
(; ゚д゚ )「嬉しくなるもの、なのか?」
川 )「ふむ。ブーンにとっては、『すっごい“偶然”にあっちゃったお〜』という感じなのだろう。
……慣れとはおそろしいものだな」
(* ω )「そうだおそうだおー。いやぁ、ホントにこういう“偶然”ってあるんだおね」
(;'A`)「――っ、」
ξ )ξ「……アンタって、ほんとマイペースよね」
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- 285 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 00:36:48 ID:lvJC6wew0
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偶然。
確かに、ブーンの話はあくまでも偶然だ。
ブーンたちにとってそれが当たり前だし、俺だってそう思ってた。
(;'A`)「……」
だけど、違う。今は違う。
偶然だと言われてはじめて、気づいてしまった。
“たまたま”俺が酔っぱらってのどが乾いたところに、誰かが“都合よく”置いた中身の残ったカップがある。
そんな都合の良すぎる『偶然』あるわけない。
――というか、そんな不自然な現象をよくある偶然にされたらたまったもんじゃない。
('A`)「……もう1回見たって言ってただろ、そっちはどうなんだ?」
ためらいながらも、聞いてみる。
正直に言おう。俺は、最後の1回が偶然以外の何かであればいいと願っている。
あの奇妙な偶然は、偶然じゃないのだと――。
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- 286 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 00:38:59 ID:lvJC6wew0
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ブーンのいる方を見据える。
ニコニコと笑っていた顔は、暗闇に隠されてはっきりと見えない。
( ω )「ああ、それかお」
だけど、ブーンは言った。
( ω )「ニ週間くらい前に、すっごい暑い日があったおね。
あの日、公園のベンチで見つけちゃって、うっかり飲んじゃうところだったんだお。
僕もドクオのこと笑えないおねw」
なあ、ブーン。
お前、それが偶然って本当に思ってるのか?
(; A )「……公園だろ、自販機とか。
そうじゃなくても、水飲み場とかあるんじゃねえの?」
のどが乾く。
不自然に上ずりそうな声をそっと隠して、言う。
ブーン、答えろ。お前は冗談で言ってるのか? それともまた、偶然って言うのか?
_,
(; ω )「それが、僕お金持ってなかったんだおー。
水飲み場も壊れちゃってたし、ホント困ってたんだお〜」
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- 287 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 00:40:39 ID:lvJC6wew0
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で、ベンチに例のカップが置いてあるおね。
それがこれまでと違って氷が浮いてて、さっきまで誰かが飲んでましたよーって感じなんだお。
カップに水滴がついてて、いかにも冷えてますって感じで、めっちゃうまそうなんだんだお。
しかも、都合がいいことに周りに誰もいなくて、
あ。これ飲んじゃってもいいかも、って――
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- 288 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 00:45:10 ID:lvJC6wew0
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一瞬、頭が真っ白になった。
悪趣味みたいにひどい『偶然』だった。
(;゚A゚)「飲んだのか!?」
(; ω )「飲んだなんて言ってないおー。
いくら僕でも、流石に外に置きっぱなしのものは飲まないお。
ドクオじゃないんだから」
思わず、目の前の影に掴みかかる。
ブーンらしき体の肩をつかみ、揺さぶる。
ぷよぷよとした柔らかい体は、汗でじとりと湿っている。
(; ω ))「ゆれるおー、ドクオやめるおー」
(;゚A゚)「は、は。よかったー」
息をついて、ブーンをつかむ手を放す。
いつの間にか、俺の目には涙が浮かんでいて、笑いたい気分になった。
ξ )ξ「やめなさいよね、ドクオ。
それにしても、ブーンが怪しいもの飲んでなくてよかったわ」
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- 289 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 00:49:01 ID:lvJC6wew0
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川 )「いくら食い意地のはったブーンでも、腹を壊しただろうからな」
( )「食中毒とか、変なものが入ってたら怖いしね」
( ゚д゚ )「途中で持ち主が帰ってくる可能性もあるしな」
( )「知らない奴が自分の飲み物飲んでるとか、怖すぎだからな」
ほっとした空気が満ちる。
いくらブーンでも、放置されている怪しい飲み物を飲むほどアホじゃなかったらしい。
だけど、もしブーンが飲んでいたら――。
偶然以外の何かを望んでいたのは俺なのに、そうなっていたらと思うと心臓が止まった。
飲んでいたら、きっと……。それを考えるのが怖かった。
('A`)(……あ)
そして、ふと気づく。
ブーンは大人だったら飲まなかった。
当たり前だ。そんなもの飲む馬鹿はいない。
だけど――、もし
('A`)(見つけたのが子供だったら)
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- 290 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 00:50:52 ID:lvJC6wew0
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ニ週間くらい前。
セミが一斉に鳴き始めた、本格的な猛暑がはじまる頃。
壊れた水飲み場と、ベンチに置かれたプラカップ。
氷の浮いた、冷たそうな飲み物。
それを見つけたのが、もし子供だったのなら。
そして、“たまたま”水筒もお金も持っていなくて、のどが乾いていたのなら――
(* ∀ )゛ □
その子供はどうするだろうか?
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- 291 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 00:51:54 ID:lvJC6wew0
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(* ∀ )つ□
――飲むかもしれない。
そう思うのは、きっと俺だけではないだろう。
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- 292 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 00:55:12 ID:lvJC6wew0
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( ゚д゚ )「どうした、ドクオ?」
(;'A`)「別に」
はじめのカップは駐車場。
それから、映画館や店の入口ときて、電車。
一つ一つは別におかしい場所じゃない。
だけど、電車の出入口といえば目につく場所で。
自販機の横のゴミ箱となれば、飲み物を買おうとするやつならきっと見る場所で。
公園といったら人がよく来る。子供の多い場所で。
そのベンチとなれば当然、多くの人が休みに来る場所なわけで。
どんどん目立つ場所になっている。
……そう思うのは、おかしいだろうか?
(;'A`)(考え過ぎだ、それこそ『偶然』だ)
そこにもし、何かが入っていたら?
毒とまでは言わない。
だけど、中身が腐っていたら?
それとも、誰かが洗剤なんかを入れていたとしたら?
- 293 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 00:56:22 ID:lvJC6wew0
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よくある、透明なプラスチックのカップ。
黒いストローのささった、コンビニか何かで売られているような平凡なそれ。
中身が少しだけ残ったそれが、
――誰かが悪意をもって残した贈り物じゃないと、誰が言えるだろうか。
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- 294 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 00:59:46 ID:lvJC6wew0
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('A`)「……」
……やっぱり偶然だ。
それでいい、そっちの方がよっぽど良い。
ξ )ξ「困ったもんよね。ゴミくらいゴミ箱に入れなさいよ」
川 )「まあ、確かに。店ならともかく、公園にならゴミ箱くらいあるだろうに」
聞こえる声は、いつもとそう変わらない。
少しだけ機嫌が悪そうな気がするが、俺が思ってるような悪意なんて感じている様子がない。
それに、わけもなくほっとした。
('A`)(落ち着けよ、俺。
そりゃあ、少しばかり妙だけど偶然なんだから)
ごくりと、ジュースを飲む。
ベタベタとしたぬるい味が、今は少しだけ心地よかった。
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- 295 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 01:00:54 ID:lvJC6wew0
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( ω )「みんなは飲み物をポイ捨てしちゃダメだおー。
お残しはもったいないし、僕やドクオみたいな不幸な犠牲者が生まれちゃうんだお」
( )「ブーンらしいまとめだね」
( )「この話ももう終わりかー。イマイチだったなぁ」
ワイワイとした声が、聞こえる。
その輪に加われる気分じゃないのが、少しだけ悔しかった。
(; ω )「あー、話したらノド乾いたお」
('A`)「……そりゃあ、この暑さだしな」
ホッとしたように声を上げるブーンに、言葉を返す。
今の俺は、ちゃんと自然な声になっているだろうか。
なっているといい。ブーンの話にはおかしな所なんてなかったんだから、それでいい。
( ω )「あ、これ飲んでもいいかお?
ずっと気になってたんだお、僕」
川 )「いいんじゃないか? 取られたくないものなら、自分の近くに置くだろう」
( ω )「じゃあいただくおー」
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- 296 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 01:03:23 ID:lvJC6wew0
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ブーンの動く物音がして、それからカタコトと水音がした。
カップに揺れる氷みたいなその音に、俺ののどが鳴る。
氷さえあればこのくそ甘いジュースも、いくらかマシになるだろうに。
ξ )ξ「それにしても暑いわね、こうも暑いと熱中症になりそう」
川 )「飲み物もすっかりぬるくなってしまったよ」
(; )「あ、僕も」
( ゚д゚ )「気が回らなくてすまなかった。冷えた茶を出そう」
お茶か。
探していたペットボトルは見つからなかったし、ちょうどいい。
……そういえばブーンが持ってるの、俺のペットボトルじゃねーよな?
暗くてよく見えないが、確認してみねぇと。
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- 297 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 01:05:08 ID:lvJC6wew0
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(*^ω^)「ぷはー、よく冷えてておいしいーお!
たまにはコーヒーもありかもしれんね」
闇が揺れて、ブーンの顔がぼんやりと浮かび上がる。
その手元に目をやって、俺は息を止めた。
顔をほころばせたブーンの手の中に、水滴が浮かんだカップがある。
うっすらと見えるその形は、ストローのささった、
――透明のプラカップ。
その奇妙な偶然に、吐き気がした。
頼むからブーンが気づきませんように、と願ってさえもいた。
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- 298 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 01:06:25 ID:lvJC6wew0
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( )「いいなぁ。それって誰が買ったの?」
ξ )ξ「おいしいのはいいけど、ちゃんとお礼言いなさいよね」
ツンの言葉に、ブーンがあたりを見回す。
その動きに合わせて、カタコトと氷が音をたてる。
水滴の浮かんだカップは、買ったやつなら絶対に飲みたいものだろう。
だけど、――
( ^ω^)「おっおっ。そういえば、誰のだお?」
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- 299 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 01:07:07 ID:lvJC6wew0
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ブーンの言葉に、返事はなかった。
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- 300 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 01:07:55 ID:lvJC6wew0
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('A`)百物語、のようです
奇妙な偶然 了
(
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i フッ
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