(*゚ー゚)ふわふわもふもふのようです

165 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/09(日) 06:57:38 ID:ja0mOJXU0


十二本目

  .,、
 (i,)
  |_|



(*゚ー゚)ふわふわもふもふのようです

166 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 06:58:54 ID:ja0mOJXU0

ミ,,゚Д゚彡

(*゚ー゚)「ギコー」

 もふもふの毛に顔を埋め、ぎゅうと抱き締める。
 力を入れれば入れた分だけ、腕が沈み込む。
 けれども相手は苦しがることもなく、されるがまま。

 ふわふわの綿が詰まったぬいぐるみなのだから、当たり前だ。

(*゚ー゚)「ふわふわもふもふー」

 嬉しそうにそう言って、少女はぬいぐるみの頬をわしわし揉みしだいた。

 猫だか犬だか非常に曖昧な造形のぬいぐるみは、
 少女が物心つくより前、赤ん坊の頃に祖父母がプレゼントしてくれたものだ。

 もらった当初は赤ん坊よりやや大きかったぬいぐるみも、
 5年経った今では、両腕で簡単に抱き込める。

167 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 07:01:26 ID:ja0mOJXU0

ミセ*゚ー゚)リ「しぃ、おやすみの時間だよー」

(*゚ー゚)「はーい!」

 絵本を持った母に寝室へ呼ばれ、少女は満面の笑みを浮かべると、
 ぬいぐるみを抱えたまま駆け寄った。

 寝る時間は好きだ。
 大好きなぬいぐるみを抱き締めて布団に包まれる感触や、
 絵本を読んでくれる母の声を堪能できる。

ミセ*゚ー゚)リ「──そうして、悪い魔女に囚われていたお姫様は王子様に助けられ……」

(*゚ー゚)「王子様かっこいいねえ」

 眠たそうな目で少女が言うと、母は愛おしむように「そうだね」と答え、彼女の小さな頭を撫でた。

168 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 07:02:32 ID:ja0mOJXU0

ミセ*゚ー゚)リ「きっと、しぃが困ったときには、王子様が助けてくれるよ」

(*゚ー゚)「ほんとう?」

 撫でられるのが気持ち良くて、眠気が増した。
 ぬいぐるみを抱き寄せる。

(*-ー-)「うれしいね、ぎこ、うれしいねえ……」

 ほとんど夢の中に入り込んだ状態で、ぬいぐるみの頬を両手で挟んで。

(*-ー-)「ふわふわもふもふー……」

ミセ*゚ー゚)リ「……変な癖だなあ」

 そのまま寝入った娘に微笑んだ母は、ぬいぐるみと少女の頬を順番につつくと、
 スタンドライトの電源を切り、ぬいぐるみごと少女を抱き締めた。


.

169 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 07:03:52 ID:ja0mOJXU0



 それは、公園のベンチの後ろ、植え込みの陰にあった。

(*゚ー゚)「?」

 狭い範囲にいくつかの花が咲いている。
 上を向くものや下を向くものが入り乱れていて、いずれも毒々しさすら感じる色をしていた。

 また、どの花も、花びらの形と大きさが一枚一枚違う。
 歪だけれど、妙に惹かれた。

(*゚ー゚)「なんだろう?」

(´・ω・`)「もーいいかーい!」

 上げかけた頭を慌てて下げる。
 植え込みからはみ出してしまうところだった。

(*゚ー゚)「もーいいよー」

 少女と同じ返事が、公園内のあちこちから聞こえてくる。
 まあだだよ、という声がないのを確認して、鬼役の少年が動き出す。

 少女は体を丸めながら、じっと花を見つめた。

170 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 07:04:44 ID:ja0mOJXU0

 見たことのない花だ。
 甘い香りがする。

 そのままずっと観察していると、花がふるふると小さく震えているのが分かった。

(*゚ー゚)(動いてる)

 面白い、と思った。

 その震えが、自分を誘っているかのように感じられて、
 少女はそっと手を伸ばした。
 欲しい。

 ぷつり。
 真っ赤な花を、茎の真ん中から折る。

 甘い香りが強まった気がした。

171 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 07:05:27 ID:ja0mOJXU0

(*゚ー゚)(……止まっちゃった)

 花の震えは、摘んだ瞬間に消えてしまった。
 けれど花を手離す気にはなれず、そのまま胸元に抱え込んだ。





(*゚ー゚)「?」

 しばらくして、誰の声も足音も聞こえないことに気付いた。
 こっそり顔を上げる。

 ──誰もいない。

172 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 07:06:36 ID:ja0mOJXU0

(*゚ー゚)「……ショボンくーん?」

 しんと静まり返った公園からは、何の返事もない。

(*゚ー゚)「モララーくん、リリちゃん、ヘリカルちゃーん……」

 立ち上がり、歩き回りながら友達の名前を呼ぶ。
 滑り台の陰を覗き込んでも、公衆トイレに入っても、まったく見つからなかった。

 ──置いて行かれた。

 少女は花を抱き締め、唇を噛んだ。
 ぽろりと涙が一粒こぼれると、ぽろぽろ、止まらなくなってしまった。

(*;−;)(ひどい)

 友達への文句を心の中で呟いて、そうするとますます悲しくなるものだから、
 わあわあ泣きながら公園を出た。

 歩く度に揺れる花びらが頬を撫でる。
 慰められているようだった。


.

173 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 07:07:19 ID:ja0mOJXU0



 ──どれだけ歩いただろう。

 四つ辻に差し掛かったところで、少女は足を止めた。

(*;−;)「……なんでえ?」

 ずっと真っ直ぐ歩き続けているのに、同じ場所に出る。
 いつもなら、とっくに家に着いている筈なのに。

 それに、公園を出てから今まで、誰ともすれ違っていない。
 人や動物の声も、車の音もしない。

 しばらく道路を見つめる。
 進もうと視線を上げたとき、初めて変化があった。

174 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 07:08:18 ID:ja0mOJXU0

(*;−;)「……?」

 数メートル先の電柱の傍に男が立っている。
 父より若い男だが、少し恐い顔をしていた。

 誰かに会えたら道を訊こうと思っていたのだけれど、
 あの人に話しかけるのは、こわい。

 少女は花を抱え直し、左へ曲がった。

(*;−;)「……えっ?」

 足音。
 振り返ると、あの男がこちらへ向かってきていた。

175 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 07:09:18 ID:ja0mOJXU0

(*;−;)「……!?」

 ──追いかけてきている。

 少女は一瞬迷ってから、駆け出した。
 いやだ。こわい。いやだ──

 けれど、男も走り出してしまえば、距離などあっさり詰められる。
 あっという間に男は少女に追いつき、勢いのままに、少女の肩を思い切り掴んだ。

(*;−;)「やああっ!」

 大きな手が花を掴む。
 奪おうとしているのだと悟り、必死に身をよじって抵抗するものの、
 やはり大人に敵うはずもなかった。

176 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 07:11:04 ID:ja0mOJXU0

 赤い花を奪った男はそれを地面に叩きつけ、力を込めて踏んだ。

 その隙に逃げたかったのに、肩を掴む手がそのままだったので逃げられない。

 ひとしきり花を踏みにじって満足したか、男が少女に視線を落とした。
 睨み合う──と言うには、少女の目は弱々しすぎた。

 男の手が少女の肩から腕に移る。
 「来い」という言葉と共に腕を引かれたので、それにも抵抗した。
 先よりも激しく暴れると、これは男も押さえ込みきれなかったようで、手が一瞬離れた。

 走る。
 けれどすぐにまた捕まってしまった。

(*;−;)「やだあ!」

 先程より強い力で両腕を掴まれ、しゃがんだ男と向き合わされる。
 目をつぶり、嫌だ嫌だと叫び続けていた少女は、男がそれ以上何もしてこないことに思い至った。
 恐る恐る、目を開ける。

 男の顔はやはり恐いままだったが、さっきより、困っているように見えた。

177 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 07:12:26 ID:ja0mOJXU0

 少女が黙り込んだのを確認し、男は「こっちに来い」と同じ言葉を続けた。
 困惑する少女が首を振る。
 「さっき来た道に戻れ」。男の具体的な指示にも、また首を振る。

 その頃には、もう、互いに困り切った顔をしていた。

 男が少女の腕を離す。少女は逃げずに男を見つめる。
 男が少女の両頬に指を添える。
 「ふ」。男の口から吐息のような音が漏れる。男の顔色が変化する。「ふ」。もう一度。


(,,゚Д゚)「……ふ、ふわふわ、もふもふ……」


 言って、羞恥に顔を真っ赤にさせた男は、少女の頬をぷにぷに押してみせた。

178 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 07:14:35 ID:ja0mOJXU0

(*;−;)「……ギコ!?」

(,;*゚Д゚)「も、もう、変な花! 勝手に摘むなよ!!」

(*;−;)「ギコ? ギコなの!?」

 男が走り出し、数分前に少女が曲がってきた角を曲がる。
 少女はそれを追いかけたが、すぐに追いつける筈もなく、
 男が消えてから5秒ほど遅れて同じ角を過ぎた。

(*;−;)「──あ」

 見知った道に出た。

 近所のお婆さんや、宅配便のトラックや、自転車に乗る若者が道を進んでいる。
 どこかの家の庭で、犬が一鳴きした。


.

179 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 07:17:48 ID:ja0mOJXU0


 数分と経たずに家へ着く。

ミセ*゚ー゚)リ「あ、しぃ、どこ行ってたの?
      公園でかくれんぼしてたのにしぃがいなくなったって、さっきショボンくん達が来てたよ?」

(*゚ー゚)「……ギコは?」

ミセ*゚ー゚)リ「? 朝、ベッドに置いたまんまだよ」

 奥の寝室に行ってもぬいぐるみはいなかった。
 少し考え、寝室よりも玄関に近いリビングへ移動する。


ミ,,゚Д゚彡


 ソファの片隅に、ぬいぐるみがくったりと座り込んでいた。
 足元に、少しの汚れ。

180 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 07:19:50 ID:ja0mOJXU0

(*゚−゚)「……」

(*゚ー゚)「……ただいま、ギコ」

 持ち上げ、ぎゅうと抱き締める。
 もふもふの毛に顔を埋めて、ふわふわの体に腕を沈めて──

 それから、一番大事な言葉を告げた。



(*゚ー゚)「ありがとう、王子様」



おわり

181 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 07:22:17 ID:ja0mOJXU0

  (
   )
  i  フッ
  |_|


十二本目終わり。ありがとうございました


使ったお題
・異形の花々
・王子様
・家に帰れなくなる呪い

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