ξ゚听)ξ後始末をするようです(  ω  )

1 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 03:43:43 ID:YRyZrSdY0


     2015年 百物語参加作品です


          .,、
         (i,)
          |_|



.

2 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 03:46:41 ID:YRyZrSdY0
 適当な電車に乗り、適当に乗り継いで、適当に降りた駅は、私が生まれ育った町によく似ていた。


 山が近い田舎の町。小さな駅には駅員が一人しかいなくて、電車は一時間に一本。

 小さな商店街は活気付いていて、そこにいる人達は皆仲が良さそうで、穏やかに時間が流れている。


 本当によく似ていた。



ξ゚听)ξ(最悪……)



 生まれ育った町が好きになれなかった私は、大学進学と共に家を飛び出した。就職してからは、もう何年も実家に帰っていない。


 何がやりたいとか、どんな仕事に就きたいとか、そんな理想は全く無かったけれど、いい加減な事は出来ない質だった。
 就職してからというもの、理不尽な目に遭いながらも、私は身を粉にしてひたすら働いた。



 そうして、いつの間にか就職してから五年の月日が経ち……




ξ゚听)ξ(死にたい……)




くだらない事情に巻き込まれて、仕事を辞めざるを得なくなってしまったのだった。




.

3 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 03:47:34 ID:YRyZrSdY0




ξ゚听)ξ後始末をするようです(  ω  )




.

4 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 03:48:25 ID:YRyZrSdY0
 『中身の無い人間』。この言葉以上に私を的確に表すものが果たしてあるだろうか。



 自分が何事にも興味が持てない人間だというのは、昔から自覚していた。
 これと言った趣味嗜好も無い、味気無い薄っぺらな生き様。これまでの人生を文章にまとめるとしたら、きっと原稿用紙一枚にも満たないだろう。


ξ* )ξ「…………」ヒック


 仕事を辞めた私は、もう何をしていいか分からなくなっていた。
 次の仕事探しもその他の事も、もう全てがどうでもよかった。


 身の回りの物を売り払い、部屋も引き払って、貯金を全て下ろした。


 貯金残高を見た時、「ああ、本当に私には仕事しか無かったんだ」と改めて実感させられてしまった。



 降り立った駅の町をしばらくふらふらと歩き回り、辿り着いたのは小さな居酒屋。
 碌に飲めもしない、おいしいとも思わない酒をただただ喉に流し込んでいた。

5 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 03:49:31 ID:YRyZrSdY0
ξ* )ξ(苦不味い……)


 手っ取り早く酔ってしまいたくて(あと少し格好付けたくて)、詳しくもなければ普段飲みもしない日本酒や焼酎を適当に頼んでしまったのが悪かったのかもしれない。
 困った事に、全く口に合わなかった。


 それでもひたすら流し込む。


ξ* )ξグイッ


 こうでもしなければ、きっと覚悟は決まらない。





   「失礼。君、大丈夫かい?そんな飲み方をしていたら身体を壊してしまうよ?」





 不意にこちらを嗜める柔らかい声が割り込んできた。


 視線だけを向けると、声と同じくらい柔和な印象の男がこちらの顔を心配そうに覗き込んでいる。見た感じ、四十代前半といったところか。



(´・ω・`)「何かあったのかい?僕でよければ話を聞くけど……」
  _,
ξ*゚听)ξ(何こいつ……)


 いきなり話しかけてきた上に、全くもって余計なお世話だ。身体なんて壊れてしまっても構わないから、こんな飲み方をしているのに。


(´・ω・`)「君、この辺じゃ見かけないけど、ここには旅行で来たの?」
  _,
ξ*゚ -゚)ξ"



 答えるのが面倒で、首を縦に振って肯定する。
 本当は旅行じゃないけれど、理由なんて何でもいいだろう。本当の理由なんて言える訳がないのだから。

6 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 03:50:15 ID:YRyZrSdY0
(´・ω・`)つ「よっ、と」カタン


 男は勝手に向かいの椅子に座り、自分の席から持って来たであろう生ビールのジョッキを呷った。


(´・ω・`)「僕は垂眉ショボン。君は?」


 ずけずけ距離を詰めてくるこの男をそこまで不快に感じないのは、人の好さが滲み出る柔らかい雰囲気のせいだろうか。


ξ*゚ -゚)ξっロ


 それでもまだ口を開く気になれず、名刺を一枚差し出す。財布に突っ込んであったそれは、今となってはもう何の役にも立たないただの紙切れに過ぎない。


(´・ω・`)「津出ツンさんか……。ねえ津出さん、君、宿は取ってるの?」


 今度は首を横に振る。ほんの一、二時間程前に適当に降り立った町だ。取っているはずがない。


(´・ω・`)「やっぱり」


 得心したように男は頷く。曰くこの辺りに宿は一軒しかなく、それが彼の家らしい。


(´・ω・`)「予約のお客様に津出さんなんて方はいらっしゃらなかったからね」

7 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 03:51:05 ID:YRyZrSdY0
(´・ω・`)「津出さんさえよければ家に泊まっていかないかい?この時間はもう電車もバスも出ていないし、長閑な田舎と言っても夜はやっぱり危ないから……」
  _,
ξ*゚ -゚)ξ「…………」


 再び、警戒心。いくら宿屋の人間とは言え、柔和で人が好さそうな雰囲気とは言え、初対面の男である。
 ひょっとして、これはナンパだったのだろうか。

 警戒しているのが顔に出てしまっていたのか、男は慌てて自身の顔の前で手を振った。


(;´・ω・`)「あっ、口説いてる訳じゃないからね?普通にお客様としてどうかなって事。家の宿は妻と一緒に経営してるし、他にも従業員とかお客様がいるから大丈夫だよ」

ξ*゚听)ξ「ご夫婦で……」


 店員さんや他のお客さんもこの話を聞いていたらしい。口々に「ショボンさんの所なら大丈夫」だとか「奥さん一筋だから」等といった声が飛んできた。


ξ*゚ -゚)ξ(苦手なんだけどな、こういうの……)


 店内の話は自分達全員の共通の話題とでも言うような、この空気。プライバシーも何もあったものじゃない。

 本当に、嫌になるくらい地元に似ている。
 だけど、


ξ*゚ -゚)ξ「それじゃあ……お願い、します……」


 疲れ切った今、この優しさはあまりにタイミングが良すぎた。


 それに、もう少しだけ時間も欲しい。



(´^ω^`)「よし、決まりだ!」



 人の好さそうな笑みを浮かべて、彼は頷いた。




.

8 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 03:53:35 ID:YRyZrSdY0
(´・ω・`)「ここが君に泊まってもらう部屋だよ。一応お風呂は付いているけど、この廊下を左に曲がった突き当たりに大浴場があって……」


 垂眉さんの家は古いけれど清潔感のある、割と大きな旅館だった。田舎に一軒しかない宿だと言うから、寂れた民宿を予想していたのだけれど。


(´・ω・`)「……と、大体こんな感じかな。明日の朝食は部屋に持って来るよ」

ξ*゚ -゚)ξ「どうも……」


 中々立派な造りに反して垂眉さんから要求された額は三千円だった。朝食付きで、である。
 「ちょうど部屋が空いてただけだから」と垂眉は言っていたが、そんな訳にはいかない。

 一万札を押し付けようとしたが拒否されてしまい、堂々巡りの末にやっと五千円といいう額に落ち着いた。それでも破格だと思う。


(´・ω・`)「そうそう、ここから見える土倉なんだけど」


 一通り説明を終えた垂眉さんは、窓ガラス越しに中庭の一角を指差す。そこそこ大きな、古ぼけた土倉が見える。


(´・ω・`)「基本的に何処を見ても構わないけど、あそこだけは近付かないでほしい」

ξ*゚ -゚)ξ「?はぁ……」

(´・ω・`)「出るんだよ、これが」
 へ へ


 腕を曲げ、胸の辺りで手をだらりと垂らす。


ξ*゚听)ξ「幽霊……?」

(´・ω・`)「うん。あそこに近付いたお客様は皆言うんだよ、『誰かの啜り泣く声がする』って。人影を見たって方もいたかな?あの土倉はもうずっと使っていないはずなのにね……」

9 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 03:54:20 ID:YRyZrSdY0
ξ*゚ -゚)ξ「なのに、お祓いとかはしないんですか?」

(;´・ω・`)「えっ、ああ……まあ実害は特に無いしね。うん、それじゃあ僕はこれで。お休み」


 穏やかな態度を崩さなかった垂眉さんは急に落ち着きが無くなり、そそくさと部屋を出て行った。

 あれじゃ「隠し事をしています」と言っているようなものだったけれど、それは私にとってどうでもいい事だ。



ξ*゚听)ξ「幽霊か……」



 いや、寧ろ都合がいいかもしれない。



.

10 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 03:56:10 ID:YRyZrSdY0
 賭けだった。


 朝まで目が覚めなければまた何処か別の場所へ行く。


ξ゚听)ξ(暗いわね……)


 途中で目が覚めたら土倉の中に行くのだと。



 午前二時過ぎに目が覚めた私は、土倉の中に忍び込んでいた。酔いはすっかり覚めている。
 近付くなと言っていた癖に、土倉の鍵は開きっぱなしだった。

 _,
ξ゚听)ξ「何もいないじゃない」


 古ぼけた土倉の中は不気味だけど、特に何も起こらない。寒気がするだとか、ラップ音がするだとか。垂眉さんは、啜り泣く声が聞こえると言っていたのに。


ξ゚听)ξ「担がれたのかしらね」


 見た事の無いものは信じられない。だから幽霊も信じた事はないけれど、今だけは存在していてほしかった。

11 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 03:57:04 ID:YRyZrSdY0



   「…………よ、…………ない…………どこ…………」




ξ;゚听)ξそ「……っ!」




 微かに、誰かが啜り泣く声が聞こえた。





   「…………足りない…………どこ…………いよ…………」



 暗闇の中で、目を凝らす。いる。やっぱりここには幽霊がいるのだ。

 なら、一体どこに……

12 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 03:57:58 ID:YRyZrSdY0






<フ⌒ヽフ
(__∞_)
(`;ω;´)「足りないよう……百枚目のおぱんちゅが見付からないよう……どこに行ったんだよう…………」グスッ…エグッ…





  _,
ξ゚听)ξ




 暗い土倉の隅。そこには頭に女性用の下着を被った、ただの変態がいた。

13 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 04:00:29 ID:YRyZrSdY0
(`;ω;´)「何度数えても無いよう……百枚目のおぱんちゅ……記念すべき百枚目のおぱんch」
  _,
ξ;゚听)ξ「何……やってんの?」

(;`゚ω゚´)そ ビクゥッ


(;`゚ω゚´)「なっ……ななっ、……ぅえっ!?何で……!!」


 こちらに気付いた変態は驚いたように目を見開いて固まる。吃りまくっているためか、まともに声が出せていない。

 十代後半から二十代前半だろうか。垂眉によく似た顔立ちだ。


(;`゚ω゚´)「だっ、誰だお前!?何してんだこんなとこで!?」

ξ;゚听)ξ「それはこっちの台詞なんだけど……」


 大量の女性用下着を抱えたままこちらを警戒する変態。

 何だこれ。何なんだこの状況。訳が分からない。

14 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 04:01:17 ID:YRyZrSdY0
 訳が分からないけれど…………一つだけ分かるのは、私が望んだ状況にはならなかったという事だ。


ξ;--)ξ「何よこれ、幽霊がいるかと思って来たのに……」ハァ…


 あまりの馬鹿らしさに力が抜け、その場にしゃがみ込む。
 その様子を見て警戒を解いたのか、変態が少し近付いてきた。気持ち悪いから近寄らないでほしい。


(`・ω・´)「お前、幽霊見たくてこんなとこ来たのか?物好きだなあ」

ξ;--)ξ「別に見たかったとかじゃないけど」

(`・ω・´)「じゃあ何でまた?」



 今日の私は少しおかしいのかもしれない。
 仕事を失い、何もかもが上手くいかなくて、いい加減疲れていたのだろうか。



ξ;--)ξ「死に場所、探しに来たのよ」



 自分でも驚いた事に、思わず本音が漏れていた。

15 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 04:02:45 ID:YRyZrSdY0
(;`゚ω゚´)「しっ、死に場所!?何だよそれ!?やめろよ穏やかじゃねえな!!何でそんな……」アワワワワ

ξ゚听)ξ「落ち着きなさいよ、変態」

(#`・ω・´)「って、誰が変態だこら!」

ξ゚听)ξ「あんた以外に誰がいるのよ」

(#`・ω・´)「俺は変態じゃねえ!!」


 大量の女性用下着を抱え、更には頭に被っている男を変態と呼ばずして他に何と呼ぶのか。


(;`・ω・´)「……って、今はそんな事言ってる場合じゃねえか。お前何があったんだよ。そんな若い女の子が死のうとするなんてよー」

ξ゚听)ξ「何だっていいでしょ」

(`・ω・´)「冷てえなー。そんな事言わずに聞かせてみろって!吐いちゃえばすっきりするんじゃねーのー?言っちまえよー!なあなあ!」


 踵を返して部屋に戻ろうとする私の前に、変態が素早く立ち塞がって引き止めてきた。
 心配もしているのかもしれないが、どちらかと言えば好奇心に駆られて動いているように見える。


ξ#゚听)ξ「しつこいわね!あんたには関係ない事よ!」

(`・ω・´)「いいじゃねーか、別に減るもんじゃないしよー!吐ーけ、吐ーけ!そら吐ーけ!」

ξ#゚听)ξ「ああもう、うるさい!!仕事辞めなきゃいけなくなったのよ!!これでいい!?」

16 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 04:03:26 ID:YRyZrSdY0
(`・ω・´)「何だそりゃ?お前失業したくらいで死ぬのか?そりゃあ、いくら何でも大袈裟なんじゃねえの?」
 _,
ξ--)ξ「まあ、あんたみたいなガキには分からないでしょうね」ハァ…

(;`・ω・´)「ガキって……お前俺と大して変わらんだろ?」

ξ゚听)ξ「年齢の話はしたくないけど、もうすぐ二七になるわ。あんたよりは確実に年上だから、敬語遣いなさいよね」

(;`・ω・´)「ええ!?まだ十代じゃねえのかよ!?」

ξ*゚听)ξ「えっ?」


 何だ、こいつ鬱陶しい変態かと思ったら意外といい奴なんじゃ……


(`・ω・´)「だって背も低けりゃ、胸もぺったんこじゃねえか!もしかして、その歳になってもまだ成長期が来ねえのか?」

ξ#゚益゚)ξ「うっせえ!!胸の話はするんじゃねえぞクソガキ!!」

(;`゚ω゚´)そ「ひっ!?なっ、何だよ急に!?」


 前言撤回。こいつはどうしようもないくらい鬱陶しい変態のクソガキだ。


(;`・ω・´)「おー、怖っ。ちょっと落ち着けって、悪かったよ。世の中にゃ、お前みたいな貧ny……いや、華奢な女が好きな奴もいるだろうし……な?」

ξ#--)ξ=3「ふん……」

(`・ω・´)「仕事の事は分かんねえけどよ、お前が疲れてんだろうなーって事は俺にも分かるぜ?」


 気を取り直したように変態は言う。

 _,
ξ゚听)ξ「だから何よ?」

(`・ω・´)「つまりさ、疲れてるから死のうだなんて変な考えが出てくるんだ!せっかくだから時間が出来たと思って、どっか友達と遊びに行けよ!パーッとさ!」

ξ゚听)ξ「遊びに?」

(`・ω・´)「おう!それか、やってみたかった事をやるとかな!」

ξ゚听)ξ「…………」




 馬鹿か、こいつ。

17 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 04:04:14 ID:YRyZrSdY0
ξ--)ξ「無いわね」

(;`・ω・´)「え、駄目か?結構いい考えだと思ったんだがな」

ξ--)ξ「無いわ。行きたい所もやりたい事も、何も無いし」



 ついでに友達も殆どいない。



ξ゚听)ξ「私には、仕事しか無かったのに……」



 行きたい所とかやりたい事とか、そんなものがあったらそもそも死のうなんて考えない。



 生まれ育った町に馴染めなかった。
 家族とも折り合いが悪かった。
 人と過剰に関わり合ったり、依存に近い友情関係も嫌いだった。

 そんな捻くれた人間に、居場所なんてあるはずがない。


 好きではなくても、私には仕事だけが生き甲斐だったのだ。

 生き甲斐を取り上げられた私は、生きていようと死んでいようと、もう何も変わらない。

18 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 04:05:11 ID:YRyZrSdY0
(`・ω・´)「だから死ぬのか?」

ξ゚听)ξ「ええ。とは言ってもねー……効率のいい死に方を考えるのも準備するのも、面倒くさそうじゃない?」


 いい加減立っているのも疲れた私は、その辺に置いてあった木箱に腰掛ける。
 「服が汚れるぞ」と変態が忠告してきたけれど、別に構わない。


ξ゚听)ξ「そしたらこの土倉に幽霊がいるって聞いたから、じゃあちょうどいいや、便利そうだし取り殺してもらおうって思って来てみたのよ」

(;`・ω・´)「幽霊をそんな道具みたいにしようとする奴、初めて見たよ俺」

ξ゚听)ξ「ま、幽霊かと思ったらただの変態のクソガキだったけどね。残念な事に」


 仕方がない。やっぱりもう一度死に場所と方法を考えるしかなさそうだ。


(#`・ω・´)「お前本当に失礼な奴だな!俺はただの変態じゃねえぞ!!見ろ!!」

ξ;゚听)ξそ「なっ……何よそれ!?あんた……」

(`・ω・´)「どうだ、驚いたか?」

ξ;゚听)ξ「あんた何で浮いてんのよ!?」


 変態は宙に浮かんでいた。そこら中をふよふよと飛び回る。頭にパンツを被ったまま。


(`・ω・´)「それは俺が幽霊だからだ!死んだのは二十七年前!享年十八歳!生きてりゃ四十五歳だ!」

ξ;゚听)ξ「嘘……」

(`・ω・´)「ってな訳で……」




(#`゚ω゚´)「お前の方が年下なんだよ!!生意気な態度改めて敬語遣いやがれ、このクソガキがぁあああ!!」

19 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 04:05:57 ID:YRyZrSdY0
ξ゚听)ξ「嫌よ、あんたみたいな変態幽霊には、このくらいの態度で充分だもの」

(#`・ω・´)「はんっ、可愛げの無い奴だな!」

ξ゚听)ξ「黙れ。……それにしても、あんた幽霊だったのね。迫力も何も無いし、何か残念な感じだけど……この際贅沢は言ってられないわ。とりあえず私を殺してちょうだい」

(#`・ω・´)「お断りだ!俺だって暇じゃねえんだからな!?」

ξ#゚听)ξ「はぁ?幽霊が何で忙しいのよ?どう見ても暇そうじゃない!いいから早く殺りなさいよ!」

(#`・ω・´)「忙しいわ!めちゃくちゃ忙しいわ!見ろよ、このコレクションを!」


 変態が自身の腕に抱えていた色とりどりの女性用下着を地面に広げる。ブラジャーもキャミソールもストッキングも一切無い。全てパンツだ。


(`・ω・´)「見て分かると思うが、ここには九九枚しかない!だが俺は生前百枚のおぱんちゅを集めたはずなんだ!」


 見ただけで分かって堪るか。というか、


ξ゚听)ξ「ねえ、その下着ってどうやって集m」

(`・ω・´)「だがどうしても百枚目が見付からない!!記念すべき百枚目のおぱんちゅ……それが見付からないせいで俺は成仏出来ないんだ!」


 くっだらない理由だ。塩でもぶっかけてやろうか、こいつ。

  _,
ξ;゚听)ξ「あんた、まさか下着泥棒……」

(;`・ω・´)「泥棒じゃない!干してあったのをちょっと分けて貰っただけだ!だって外に干してあるって事は『どうぞご自由にお取りください』って意味だろう!?」

ξ#゚听)ξ「違えよ変態野郎!死ね!」

(`・ω・´)~♪「残念でしたぁ〜。もう死んでますぅ〜」

ξ#゚听)ξっ"・゚.・ バッ

(;`゚ω゚´)「あっ、やめろこら!塩かけんな!痛えよ!!」

20 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 04:07:33 ID:YRyZrSdY0
ξ;--)ξ「……変態コレクションはここにあるので九九枚なの?」ハァ…

(`・ω・´)「変態コレクションじゃないが、そうだ!」

ξ゚听)ξ9m「その頭に被ってるやつも入れて九九枚なわけ?」

<フ⌒ヽフ
(__∞_)
(`・ω・´)「頭…………」

<フ⌒ヽフ
(__∞_)
(`・ω・´)そ「!!」ハッ

     Г\
     |8 )
     ∩ノ
(*`;ω;´)彡「うぉおおおおおおおおお!!あった!あったぞ百枚目のおぱんちゅううううう!!」

ξ;゚听)ξ「なんか……あんた本当気持ち悪いわね……」

(*`;ω;´)「そうだった、そうだった!幽霊になって最初に、おぱんちゅも持って来れた嬉しさで頭に被ったんだった!!」

ξ゚听)ξ「ねえ、あんたはもうこれで未練無……」


 変態は頭に被っていた下着を振り回しながらくるくる飛び回っている。私の言葉なんて耳にも入っていないようだ。


ξ#゚听)ξっ"・゚.・「聞けよ!!」バッ

(`;ω;´)「いってええええ!!塩ぶつけんなって言っただろうがぁああああ!!」

ξ#゚听)ξ「いいから話を聞け、変態!!」

(#`・ω・´)「いつまでも変態って呼ぶな!俺の名前は垂眉シャキンだ!シャキンさんと呼べ!」

ξ゚听)ξ「垂眉……あんたやっぱり垂眉さんの身内なのね」

(`・ω・´)「?」

ξ゚听)ξ「この土倉に幽霊が出るって話は、垂眉ショボンさんって人から聞いたのよ」

(`・ω・´)「…………ショボンが」

21 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 04:08:34 ID:YRyZrSdY0
 変態の無駄に高いテンションは、垂眉さんの話になった途端に沈んだ。


ξ゚听)ξ「生きてたら四十五歳って事は」

(`・ω・´)「ああ、ショボンは俺の弟だよ。そっか……あいつ元気か?」

ξ゚听)ξ「知らない」

(;`・ω・´)「知らないって……」

ξ゚听)ξ「だって知り合ったばかりだもの。普段を知らないから、元気かどうかなんて分からないわ」

(;`-ω-´)「まあ、それもそうか」

ξ゚听)ξ「っていうか自分で見に行きなさいよ、そのくらい」

(`・ω・´)「無理無理。俺ここから動けねーもん。地縛霊って奴?そこの壁の穴から覗くくらいしか、外を見る方法も無いからな」

ξ゚听)ξ「垂眉さんは、ここへは来ないの?」

(`・ω・´)「この倉は俺が生きてた頃から既に使われなくなってたし、ショボンは暗い所が苦手だからな。ここには絶対に来れねえよ」

ξ゚听)ξ「ふーん。でもさっきので未練は消えたんでしょ?ならさっさと成仏したら?あ、消える前に私の方も殺っていきなさいよ。なるべくサクッと」

<フ⌒ヽフ
(__∞_)
∩`-ω-´)「悪いが俺の未練はこれ一つじゃないんだ。それまでは成仏出来そうにねえよ」グイッ
 _,
ξ゚听)ξ(何でパンツ被り直してんだこいつ)


 まあいい。この変態幽霊が成仏出来るかどうかなんて私にとってはどうでもいい事なのだ。私の目的はあくまで一つ。


ξ゚听)ξ「ちょっと変態。パンツ見付けてやったんだから、こっちの言うことも聞きなさいよ」

(`・ω・´)「ああ、お前を殺せってか?どうしようかなー?面倒くせーし、お前生意気だしなー?あっやめてください塩かけないで!!言う事聞きますから!!」

22 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 04:09:37 ID:YRyZrSdY0
ξ゚听)ξ「最初から聞けっての。手間かけさせやがって」

(`ぅω;´)「たっ、但し条件がある!いくら何でもパンツ見つけたくらいd」

ξ゚听)ξっ"・゚.・ ババッ

三(`;ω;´)「やめろよ!容赦無しかお前!頼むから一回説明させて!説明させてくださいお願いします!!」


 変態幽霊は面白いくらいこちらに従順になる。幽霊に塩はマジで効くらしい。


ξ゚听)ξ「だったら、とっとと説明しなさい。くだらない事言わないでよね」

(;`・ω・´)「分かってるよ。……簡単に言うとだな、人を呪い殺すのはこっち側もすげえエネルギー使うのよ。だから悪いがパンツ一枚じゃ割に合わねえ訳だ塩かけんなよ!?」

ξ゚听)ξ「かけてないでしょ」

(;`・ω・´)「ちょっと手ぇ動いてたんだが……。そんで俺にはあと二つだけ未練があるんだけど、その内の一つだけ協力してくれたらそっちの望みも聞いてやるよ。それでどうだ?」

ξ゚听)ξ「分かった。と言いたいところだけど、内容によるわ」

(`・ω・´)「難しい事じゃないから大丈夫だ!と、その前にそっちの名前も教えてくれよ!」

ξ゚听)ξ「津出ツン。ツン様って呼びなさいよ、変態」

〜(つ`・ω・´)つ「よし、ツンだな!じゃあツン、ちょっとこっち来てくれ!」フヨフヨ
 _,
ξ゚听)ξ「様を付けろって言ってんだろ」

23 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 04:10:40 ID:YRyZrSdY0
 変態幽霊はガラクタだか何だかが積まれた向こう側へと飛んで行った。仕方なく私も木箱から立ち上がり、そちらの方へついて行く。


(`・ω・´)「ほらほら、これを見てくれ!」

ξ゚听)ξ「待って、暗くてよく見えない…………何だこれ」


 スマホ(変態幽霊に「何だその板みたいな懐中電灯?」と訊かれた)の明かりを頼りに目を凝らしてみると、そこには大量のエロ本の入った段ボール箱が数箱。いや、それだけじゃない。




川  )




ξ;゚听)ξそ「ひっ、人が……!!」



 白いけれど薄汚れた肌に、だらりと長い黒髪。ぼろぼろの粗末な服。顔はよく見えないけれど、体格と服装から察するに女性だろう。

 壁にもたれて座ってはいるが、その体に力は全く入っていないようだ。まるで生気が感じられない。

24 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 04:11:32 ID:YRyZrSdY0
(`・ω・´)「違えよ!よく見ろ!それは俺が自作した人形……ラブドールのドクールたんだ!」



川'A`)


  _,
ξ;゚听)ξ「うわっ、ぶっさ!!」




 確かによく見てみれば顔や体は布で出来ているし、割と適当な作りだ。顔は変態が自分で描いたのか、酷いものである。こんな物、ラブドールと呼ぶにはいくら何でも無理がある。


ξ;゚听)ξ(他のお客さんが見たっていう人影は、多分これね……)

(;`・ω・´)「失礼な!可愛いだろうが!俺が魂込めて作ったんだぞ!?」

ξ゚听)ξ「うるさい死ね。あんたの頼みって、まさかこれの処分じゃないでしょうね?」

(`・ω・´)「分かってるじゃねえか!その通りだ!あと俺はもう死んでる!……おいツン、どこ行くんだ?」

,,,ξ゚听)ξ「帰る」スタスタ

〜(;`゚ω゚´)「ちょっ、ちょっと待てよ!!なあツンってば!」フヨフヨ

ξ#><)ξ「纏わり付くな!何が未練よ!くだらない!大体何でこんなもの……あんたにはデリカシーってものが無いの!?」

(`・ω・´)「いいじゃねーかよ別によー。ツンだって見た事くらいあるだろ?」

ξ#///)ξ「うるさい馬鹿!死ね!!」

(;`・ω・´)「え?まさか見た事無いなんて……そんな訳ないよな?その歳で……」

ξ#//Д/)ξ「黙れ変態糞幽霊!!」


 いい歳して純情ぶるつもりなんてない。ないけど……仕方ないじゃないか、見る機会も興味も無かったのだから。

25 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 04:12:22 ID:YRyZrSdY0
::(*` ω ´)::「ぷっwww何だよ、意外とガキなんでちゅねー、ツンちゃんはwwwwwまあいい歳して?wこんくらい見た事無くても?ふっww純情キャラで売って……やっぱ無理そうwww歳も歳だしwwwぶふぅっwwwww」

ξ# )ξブチッ


 随分と言ってくれるじゃないか、この糞幽霊。


ξ#゚听)ξ「もう帰る。絶対帰る。あんたなんかずっとここでパンツとエロ本に埋もれてればいいのよ」

(;`゚ω゚´)「まっ……待て待て!悪かった!俺が悪かったから!頼むよ帰らないでくれって!!」

ξ#゚听)ξ「ちょっと、どきなさいよ糞幽霊!」

(つ`;ω;´)つ「頼むよー!俺が悪かったよ!謝るからさー!処分手伝ってくれよ!この倉もいつかは取り壊されるだろうし、ショボンには見つかりたくねーんだよー!いつまでも格好いい兄貴でいたいんだよー!!」

ξ#゚ -゚)ξ「…………」



 変態幽霊の頼みは気に食わない。ものすごく気に食わない。だけど少なくとも垂眉さんの方には借りがある。

 最初は「話を聞く」なんて声をかけてきた。けれど私が口を開かないのを見ると、結局それ以上は追及しようとしなかった。
 更には破格の値段でこの宿に泊まらせてもらっている。変態幽霊の弟とは思えないほどの人格者だし、奥さんもいい人だった。


 垂眉さんがもしも自分の兄がダッチワイフを自作する変態野郎だと知ってしまったら、ショックを受けるかもしれない。

26 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 04:13:23 ID:YRyZrSdY0
(つ`;ω;´)つ「頼むよツン!聞いてくれなきゃ家に帰れなくなる呪いをかけるぞー!?」

ξ#--)ξ「分かったわよ!手伝ってやるから離れなさい!あとその呪いかけられても別に困らないんだけど!」

(*`・ω・´)「本当か!?嘘じゃないよな!?嘘吐いたらこっくりさんが終われなくなる呪いをかけるからな!?」

ξ;--)ξ「こっくりさんもやらないけど、嘘じゃないわ。垂眉さんにはお世話になったし」

(*`・ω・´)「あー、ショボンな!あいつには俺も世話になったよ!このおぱんちゅコレクションが今俺の手元にあるのも、あいつのお陰なんだ!」

ξ;゚听)ξ「…………は?」

(`・ω・´)つ「ほら見てくれよ、このエロ本とかドクールたんには触れないだろ?」スカッ
    ∪彡


 変態は段ボール箱や自作ダッチワイフに触れようとするが、その手はするりと擦り抜けてしまっている。そういえば、あいつ大量のパンツには触れていた気が……


(`-ω-´)「俺、昔から体が弱かったんだ。医者にも長くは生きられないだろうと言われててな。碌に学校に通う事も出来なかったし、友達もいなかった。楽しみといえば、体調のいい日に行く散歩とエロ本集めと下着泥棒くらいでな……」

ξ゚听)ξ「最後のやつは犯罪なんだけど」

(`・ω・´)「そんな大切なおぱんちゅコレクション!死んで手放すのはあまりに惜しい!だからコレクションを紙袋に詰めてショボンに頼んだんだ。『俺が死んだらこれを棺桶に入れてくれ。袋の中身は絶対に見るな』と言ってな!」

ξ゚听)ξ「あんた弟に何やらせてんだ」


 本当に馬鹿だ、この幽霊は。だけど、約束してしまったものは仕方がない。



ξ;--)ξ=3「……感謝しなさいよ」



 溜息を一つ吐き、一番近くの段ボール箱を引き寄せた。




.

27 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 04:14:40 ID:YRyZrSdY0
(` ω ´)「エロ本が六二さーつ、エロ本が六三さーつ……あああああ、消えていく……鬼畜な貧乳女の手によって……」

ξ#゚听)ξ「黙れ!あんたが処分しろって言ったんでしょうが!」ビリビリ


 変態幽霊の望み通り、私は大量のエロ本を処分していた。ビリビリとページを破っては、中身が見えないように紙袋へと詰めていく。


(`;ω;´)「だからって破らなくてもいいだろおおおおお!?」

ξ#゚听)ξ「段ボール箱が焼却炉に入らないんだから仕方ないでしょ!?持ち出すわけにもいかないし……このっ、大量に集めやがって!」ビリビリ

(`;ω;´)「明美ぃ、早苗ぇ、まゆりぃ……。ごめんよぉ、不甲斐ない夫でごめんよぉ……」

ξ;゚听)ξ「っしゃ、終わった!あとはこの人形か……っとぉ!」ベキボキバキッ

(`;ω;´)「ドクールたーーーーーーーーん!!」ブワッ


 表面は布で出来ているが、どうやら中に芯が入っているらしい。関節も曲がるし、無駄に凝っている。


ξ#゚听)ξ「よっ……と、中々折れないわね…………オラッ!!」バキバキボキベキャッ

(#`;ω;´)「てめぇに人の心は無ぇのかーーーー!!」

ξ;゚听)ξ「顔とかの布は……カッターで切れるかな……っとぉ!!」ザクッザクッ

(`;ω;´)「この鬼!悪魔!最低鬼畜貧乳女!」

ξ#゚皿゚)ξっ"・゚.・「黙れっつったろ!!」バッ

(`;ω;´)「ぎゃああああ!塩かけないで痛いですごめんなさい!!」





.

28 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 04:15:39 ID:YRyZrSdY0
 変態幽霊のエロ本と自作ダッチワイフを原形が分からないくらいにバラバラにし終え、焼却炉に運んでいく。
 地味に面倒で大変な作業だった。
 気付けばもう空が明るくなりつつある。



ξ゚听)ξ「変態糞幽霊、望み通り全部処分してやったわよ」

(`;ω;´)「うぅ……ドクールたん…………」

ξ゚听)ξ「泣き止め鬱陶しい。ねえ、変態」

(`ぅω;´)「何だよ?変態じゃねえけど」

ξ゚听)ξ「あんたの残りの未練って何?」

(`・ω・´)「何で?」

ξ゚听)ξ「いいから言え。エロ本処分の恩人なのよ、私は。それくらい知ってもいいでしょう?」

(`・ω・´)「別にいいけどさ。俺の未練はあと一つ、童貞を卒業出来ないまま死んだ事だよ。何?お前相手になってくれんの?」

ξ#゚听)ξ「な訳ないでしょ!?くたばれ!!」

(;`・ω・´)「冗談だって!俺も相手はそこそこおっぱいがある方gごめんなさいその塩握った手ぇおろして!!つか、そんな事知ってどうするんだよ?」

ξ゚听)ξ「……別に。あんたの未練って、垂眉さんに会えない事かと思っただけ」


 そのくらいだったら、ついでに叶えてやってもいいかと思ったのだ。ただの気まぐれだけど。


(;`・ω・´)「………………」


 変態幽霊はきょろきょろと目を泳がせていたが、やがて目を伏せるとゆっくり首を横に振った。


(;`-ω-´)「いいんだよ、ショボンに会うのは無理だ。あいつに霊感は無いし、俺の事なんて見えやしないよ」


 私にも霊感は無いはずなんだけど、この変態幽霊が見えてしまっているのはどうしてなんだろう……。運が悪いったらない。

29 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 04:17:06 ID:YRyZrSdY0
(`・ω・´)「それに会いたいって言うよりは、元気にしている姿を近くで見たいだけなんだ」


 変態はふよふよと、穴の空いた壁の方へ近付いて行く。ここから遠目になら見れる事もあるんだけど、と言いながら。


(`・ω・´)「俺が死んだ日の朝にさ、ちょっとした事で喧嘩しちまってな。俺はあいつに謝れないまま……って、よくある展開だな。馬鹿みたいだろ?」

ξ゚听)ξ「本当にね」

(;`・ω・´)「ちょっとくらい否定しろよ……」

ξ゚听)ξ「同情してほしいなら他を当たりなさい」

(;`・ω・´)「何だよ冷てえな……。まあ、あれだ。健康な身体で生まれてきて、やりたい事は何でも出来るショボンがずっと羨ましかったんだよ。性格もいいし、非の打ち所も無いし」


 宙に浮きながら淡々と語る変態幽霊。その表情は先程までとは別人のように寂しげなものだった。


(`・ω・´)「あの日の喧嘩も、殆ど俺の八つ当たりだったんだよな」

ξ゚听)ξ「変態……」

(`・ω・´)「いい加減その呼び方やめろよお前。結局ショボンが学校に行ってる間に俺はくたばっちまったんだ。気付いたらエロ本隠してたこの土倉にいて、ここから出らんなくて…………もしかしたらショボンに会うのが怖かったのかもしれないな」

ξ゚听)ξ「変態糞幽霊……」

(`・ω・´)「やめろっつってるだろ。俺だってさぁ、普通に学校に通って友達とか彼女作って、部活とかやりたかったのに……普通に……普通に…………」





(` ω ´)「っ、普通に……ショボンのいい兄貴でいたかったよっ…………」






ξ゚听)ξ「シャキン……」

(` ω ´)「…………何だ?」

ξ´゚听)ξ、「あんたは例え生きてても変態糞野郎だろうから、友達は出来ても彼女は出来なかったと思うわよ?」

(` ω ´)「お前ちょっと黙れ」

30 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 04:18:15 ID:YRyZrSdY0
(` ω ´)「なあツン、お前は死にたいって言ってたけどさ……死んじまったら、本当に何も出来なくなるんだぞ」

ξ゚听)ξ「……え?」

(` ω ´)「後から何をやりたいと思っても、もう遅いんだ。死んじまったらなぁ」




(#`;ω;´)「本当に何も出来ないんだぞ!?」




ξ;゚听)ξ「シャキン……」


 本気で泣いているシャキンに、何かを言い返す事は出来なかった。だから代わりに、




ξ゚听)ξ「私、身の上話って嫌いなのよね。するのも、されるのも」

(`;ω;´)「そんな感じするな」

ξ゚听)ξ「だけどまあ、そっちがしたから、こっちのも聞きなさいよ」



大嫌いな自分の身の上話でもしてみようか。

31 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 04:19:59 ID:YRyZrSdY0
ξ゚听)ξ「職場で生け贄にされてたのよ、私」

(`・ω・´)「いけにえ……」

ξ゚听)ξ「こんな風に愛想の無い性格だから皆から疎まれててね、何か知らないうちに皆の共通の敵って言うの?そういうのにされちゃってたみたい」


 一応、必要最低限の礼儀やコミュニケーションはとっていたつもりだったのだけれど。


 でもそれも仕方ないと思っていた。それは私が招いた結果なのだ。多少嫌われてても仕事に支障がなければ、それでいいのだと言い聞かせてひたすら働いた。


 流石に皆社会人だ。あからさまな態度をとられることも無かったから、何も問題無いと思っていた。


 だけど生け贄はやっぱり生け贄で。


ξ゚听)ξ「同僚の子が上司と不倫してたみたい。奥さんにバレたらしくて、ある日会社に乗り込んで来て怒鳴り散らしたの…………私に向かってね」

(;`・ω・´)「まさか……」

ξ゚听)ξ「うん、スケープゴートに使われてた。私が上司と不倫してる事になってたよ」

(#`・ω・´)「ふざけんな!何だよ!何だよそれ!!それで責任とらされたのか!?」

ξ゚听)ξ「まさか。残業の記録と仕事帰りの買い物のレシート、あとアパートの管理人さんの証言で助かったわよ。何とかね」

32 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 04:22:21 ID:YRyZrSdY0
ξ゚听)ξ「でも問題はその後。その一件以来、職場の空気が変になっちゃって。まるで私が悪いみたいに」

(#`・ω・´)「……っ」


 シャキンは怒りを堪えるような顔をしながら宙に浮いている。そんな顔、こいつがする必要無いのに。


ξ゚听)ξ「どうしてかなあ……何もしてないのにね、私。その証拠になった残業も、その不倫女の仕事を代わってあげてたんだから皮肉だよね。何で……」



ξ#;;)ξ「何で私が悪者みたいになってるの!?」



 目の前が滲んでいた。頬を何かが流れていく。呼吸が少し苦しい。声が出しづらい。


ξ;;)ξ「っ!」

33 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 04:23:17 ID:YRyZrSdY0
 ひやりと、何か冷たい物が頭の上を滑っていく。



ξ;;)ξ「何、してんのよ?」

( `・ω・)っ"「いや、まあ……何となく?」

ξ;;)ξ「……馬鹿じゃないの?気持ち悪いから死になさいよ」

( `・ω・)っ"「もう死んでるって」

ξ )ξ「そうだったわね……」




   「あと五分続けなさいよね……」




 そういえば、私は何年ぶりに泣いているんだろう。




.

34 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 04:25:21 ID:YRyZrSdY0
ξ゚听)ξっ"「朝になっちゃったわね……エロ本とダッチワイフの処分のせいで」ガタガタンッ


 土倉の扉を開ける。古い扉は建て付けが悪く、開けづらい。柔らかな朝日が倉の中を照らす。スマホで時間を確認すると、もう五時半過ぎだった。


(;`・ω・´)「悪かったよ……」

ξ゚听)ξ「約束、守ってよ」

(;`・ω・´)「あー……あの約束な。あれなんだk」


   「津出さん!?」


ξ;゚听)ξ「あっ……」

(;´・ω・`)「どうしてここに!?この倉には近付かないよう言っただろう?」

(;`・ω・´)「!ショボン……」

(;´・ω・`)「大丈夫かい?怪我は?危ない事は無かった!?」


 心配そうな顔で矢継ぎ早に問いかけてくる垂眉さんに、シャキンが見えている様子は無い。

35 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 04:26:03 ID:YRyZrSdY0
(;´・ω・`)「ああ!目も腫れてるじゃないか!やっぱり何か怖い目に遭ったのかい?」

ξ;゚听)ξ「何も……無かったです。すみません、ああいうオカルトな話が好きなもので、つい」

(;´-ω-`)「そうか、ならよかったよ」ホッ

(`・ω・´)「ショボン」

ξ゚听)ξ「…………」


 どうして、この変態幽霊が見えるのは私なんだろう。どうせなら垂眉さんに見えた方が、ずっといいのに。


(`・ω・´)「ショボン、お前老けたな。髪も少なくなってるし、皺とか出来てるし、微妙に腹が出てるし、何かおっさんくせえし」
  _,
ξ;゚听)ξ(他に言う事あるだろ……)



(`^ω^´)「でも、元気そうだ」

ξ゚听)ξ「シャキン……」


 垂眉がぱっと顔を上げた。


(;´・ω・`)「っ!……津出さん、今何て?」

ξ;゚听)ξ「あ、いえ……」


 しまった、つい口に出してしまっていた。

36 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 04:27:04 ID:YRyZrSdY0
(;´・ω・`)「ねえ今シャキンって言わなかったかい!?」

ξ ;゚)ξ「そっ、そんな事言いましたっけ?」

(;´・ω・`)、「…………いや、僕の聞き間違いか。ごめんね」

ξ ;゚)ξ「いえ」


 変態幽霊がパクパクと口を動かした。「バーカ」と言っているのが読み取れた。後で大量に塩かけてやろう。


ξ;゚听)ξ「あの、シャキンって……」

(´・ω・`)「僕の兄だよ。もう二十年以上前に亡くなったけどね」

ξ゚听)ξ「もしかして、この倉で?」

(´・ω・`)「ああ、昨日ここに幽霊が出るって話したから?違うよ、兄は普通に自分の部屋で息を引き取ったよ」


 昨日の事なんだけど、と垂眉は続ける。


(´・ω・`)「お祓いしないのかって言ってただろう?でも僕はここに出る幽霊がもしかしたら兄なんじゃないかって思うと、どうしてもそれが出来ないんだ」


 客商売なのに旅館の評判よりも、兄かもしれない幽霊を消したくない気持ちを優先させてしまっているのが後ろめたかったのだと垂眉は言う。


(´・ω・`)「兄が亡くなった日の朝、僕達はちょっとした行き違いで喧嘩してしまって……学校から帰った時にはもう……」

ξ゚听)ξ「…………」



 身の上話は嫌いだ。するのもされるのも。
 ただ垂眉さんには借りがあるから。それと、今日だけは身の上話が嫌いじゃないから。

 だから一応、聞いておく。



ξ゚听)ξ「この倉で亡くなった訳じゃないのに、どうしてお兄さんかもしれないと思ったんですか?」

(´・ω・`)「僕が中学生になった頃には既にこの土倉は使われなくなっていたはずなんだけど、時々兄さんが入って行くのを見ていたんだ。だから思い入れのある場所なのかもしれないな、と」


 まあ確かに思い入れのある場所だろう。エロ本と自作ダッチワイフの隠し場所だったのだから。

37 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 04:28:03 ID:YRyZrSdY0
(;´・ω・`)「本当は兄がいるなら倉の中に入って会いに行くべきなんだけど、僕は暗い所と幽霊が苦手でね。それに、もし幽霊の正体が兄じゃなかったらと思うと怖くて……」

(`・ω・´)「ショボンは昔から怖がりだったからな」

(´-ω-`)「でも兄さんは僕を良く思っていないだろうな。健康な身体も、家族や友達も、兄さんが欲しかったはずのものを僕だけが手に入れてしまっているんだから……もしかしたら僕を嫌ったまま死んでいったのかもしれない」

(;`・ω・´)「違う!!それは違うぞショボン!俺はお前が羨ましかったけど嫌ってなんかいない!!絶対に嫌ってなんかいないんだ!!」


 シャキンが必死に叫ぶ声は、垂眉さんには届かない。

 死んでしまったら、本当にもう何も出来ないんだ。



(´・ω・`)「啜り泣く声は、生きていた頃の不自由さを嘆いているのかもしれないね」

(`・ω・´)「あ、それも違う。百枚目のおぱんちゅが見付からなくて泣いてただけだから」



 やっぱ届かなくてよかった。

38 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 04:29:38 ID:YRyZrSdY0
(´・ω・`)「詰まらない話を聞かせちゃったね。お詫びに朝ご飯にデザート付けるよ。昨日おいしい和菓子屋さんで水ようかんを……」

ξ゚听)ξ「垂眉さん」

(´・ω・`)「ん?何だい?」

ξ゚听)ξ「へんt……シャキンさんでしたっけ。ショボンさんの事、嫌ってなかったと思いますよ」

(`・ω・´)「ツン、お前……」

(´^ω^`)「ははっ。ありがとう、津出さん」

ξ゚听)ξっ■「同情とかじゃなくて、これ」

(´・ω・`)「これは?」

(`・ω・´)「ん?それ……」


 エロ本を処分していた時に拾った一冊の黒いハードカバーの本を垂眉さんに手渡す。ガラクタの隅の方に落ちていたのだ。垂眉はそれをぱらぱらと捲って流し見する。


(´・ω・`)「っ!これ、兄さんの字……日記か!!」


 表紙にはラベルが貼り付けてあり、そのタイトルは『未来日記』。一番最初のページには「未来の書かれてる本」と説明書きがある。昔のバラエティ番組の企画でもなければ、所有者がサバイバルゲームに巻き込まれる代物でもない。





 垂眉シャキンの痛々しい妄想が書き込まれた、中二病全開の日記である。



(;`゚ω゚´)「うわぁあああああああああああああああああああ!!?何でそれをぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」




ξ*゚∀゚)ξ(ざまあwwwww)




 貧乳呼ばわりした罪は重いのだ。

39 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 04:31:48 ID:YRyZrSdY0
(´・ω・`)「十一月八日。今日も体調が良くない。苦しい。死んでしまいそうだ。だけどそれも仕方ない。人間界の空気は俺には合わないのだから。ふと気を抜けば俺の魔力は暴発してしまうだろう」

(`;ω;´)「いやあああああああ!!音読しないでえええええええ!!!」

::ξ* )ξ::「…………っwくっ……ぷふっ…………w」プルプル


 ヤバい、前もって軽く読んでいたはずなのに笑いを堪えるのが辛い。


(´・ω・`)「暴発してしまえばこの町くらいは容易く消えて無くなってしまう。何故なら俺は魔界の王子……そんじょそこらの魔族とは格が違うのだから。やれやれ」

::ξ* )ξ::(王子(笑)www魔族(笑)wwwww)プルプル

(`;ω;´)「殺してええええええええ!いっそ殺してええええええええ!!もう死んでるけどおおおおおお!!」

(´・ω・`)「今の俺は仮の姿、垂眉家でごく普通の人間として生活している。しかし俺もすっかり人間界に情が湧いてしまった。近い未来、この世界は滅ぶだろう。俺は全力で戦い、抗ってやる。例えこの身が朽ちようと……」


 あの変態幽霊、本当に何考えてるんだ。仮の姿(笑)。


(*´;ω;`)「『弟のショボンは守ってやる!』か。ははっ、兄さんってばこんな日記をつけていたのか」


 垂眉さんは変態幽霊の妄想を笑いもせず、素直に受け止めている。しかも感動の涙まで流している。
 この人は本当に純粋なお人好しだ。


(*´・ω・`)「そっか。兄さんは思うように外に出られなかったけど、こうして想像の世界で僕と遊んでくれていたんだね……。僕は嫌われていなかったんだ」

(`ぅω;´)「ショボン……」

ξ゚听)ξ(ものは捉えようか)

40 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 04:32:35 ID:YRyZrSdY0
(*´・ω・`)「多分、小学生くらいの時に書いたんだろうね」

――(;` ω ´)―→「ぐはっ……!!」ザクッ


 この反応、こいつ割と大きくなってから書いたな。


(´・ω・`)「奴が世界を滅ぼしにやって来る夢を見た。予知夢というものか。俺は叫ぶ。てめぇの思い通りになんかさせやしないぜ、と。奴はせせら笑いながらこう言った。「この世界を創ったのは私だ。お前には止められない」。だけど俺は諦めない。今こそ真の力を解放……」

(`;ω;´)「ごめんなさいごめんなさいもう許してくださいごめんなさい許してすみません違うんです」

(*´・ω・`)「僕、息子が二人いるんだけど今度見せてみようかな。今ちょうど二人とも小学生だし」

(`;ω;´)「もうやめてええええええええええええ!!!」

::ξ* )ξ::「wwwwwwっwwwげほっ……wwwごほんっwwwww」



 後でどこか別の場所で思いっきり笑おう。このネタで一ヶ月は持ちそうだ。




.

41 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 04:34:52 ID:YRyZrSdY0
 古ぼけた小さなこの駅に来る電車は、一時間に一本しか無い。陽の光が差し込むホームには私以外の客は一人としていない。



ξ゚听)ξ「いつまでそうしてるつもり?」

(` ω ´)「……うるせえ、ほっとけよ」


 何故か付いてきた変態は宙に浮いたまま膝を抱えて俯いている。落ち込んでいるのだろうか、ジメジメしていて鬱陶しい事この上ない。


ξ゚听)ξ「そういえば、あんた地縛霊なんでしょ?何でここにいるのよ?動けないんじゃなかったの?」

(#`;ω;´)「お前のせいであそこにいられなくなったんだよ!!俺の日記渡しやがって!!おかげで恥ずかしくて、逆にあの辺には近寄れなくなったわ!今じゃもう地縛霊じゃなくて、ただの浮遊霊だよ!!」

::ξ* ∀ )ξ::「ああ、未来日記(笑)ねw」

(#`;ω;´)「ばーか、ばーか!お前なんかばーか!口内炎が直らない呪いをかけてやるからな!!」

ξ゚听)ξ「あんたの呪いって、基本しょぼいのね。っていうか別にいいじゃない、垂眉さんが喜んでたんだから。…………ぶふっw」

(#`;ω;´)「殺してやる!お前絶っっ対、殺してやる!!」

ξ゚听)ξ「いいけど?」

(#`;ω;´)「…………」



(;`・ω・´)「…………」

ξ゚听)ξ「何よ、どうしたの?」

(;`・ω・´)「なあツン、お前まだ死にたいか?」

ξ゚听)ξ「…………正直、今はどっちでもいい」

(`・ω・´)「どっちでも?」

ξ゚听)ξ「死んでもいいけど、生きててもいい。半々かな」

(`・ω・´)「そうか」

42 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 04:35:41 ID:YRyZrSdY0
ξ゚听)ξ「勘違いしないでよね。あんたの話を聞いて思い直した、とかそんな寒い理由じゃないんだから」

(;`・ω・´)「お前にそんな可愛げのある答えを期待する訳ないだr塩を投げるな!!」

ξ゚听)ξ「一晩中エロ本と不細工なダッチワイフの処分させられて、変態の日記で笑って、色々どうでもよくなったのよ。今は死ぬのを考えるのも面倒だわ」


 それと、本当に十何年振りかに泣いたというのもあるかもしれない。言わないけど。



(`・ω・´)「そっか、それならよかったよ。俺、呪いとか使えないからさ!」




 _,
ξ゚听)ξ「は?」

(`・ω・´)「いやー、よかったよかった!どっちでもいいんだろ?なら適当に生きとけよ。呪いとか本当無理だしよ!」

ξ゚听)ξ「おい待て糞幽霊」

43 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 04:36:33 ID:YRyZrSdY0
ξ;゚听)ξ「エネルギーがどうとか言ってたじゃない!」

(`・ω・´)「ああ、あれ嘘。因みに家に帰れなくなる呪いも、こっくりさんが終われなくなる呪いも、口内炎が直らない呪いも全部使えねえから!」

ξ#゚皿゚)ξっ"・゚.・。・゚「こんの……変態幽霊!!よくも騙してくれたわね!!!」バッ

(`゚ω゚´;)三「まっ、待て待て!いくら何でもそんなたくさん塩かけられたら、ただじゃ済まねえよ!悪かった!悪かったよ謝るから!!」

ξ#゚益゚)ξっ"・゚.・。・゚「うるさい!死ね!!避けんな!!」ブンッ

三(;`゚ω゚´)「やだよ当たったらめちゃくちゃ痛えんだぞ!?ってか、もう死んでるんだって!!」ビュンッ

(;'A`)「おっ、お客さん!何を一人で騒いでるんですか!?危ないですよ!?」


 割って入った男の声に塩を投げる手を止める。若い駅員の男がこちらに気付いて近付いて来るのが見えた。


ξ゚听)ξ「すみません、ちょっと虫がいたもので」

(;`・ω・´)「虫!?」

('A`)「なんだ虫ですか。この辺田舎だから多いんですよ。でもホームで騒ぐと危ないので。もう少しで電車も来ますから」


 駅員の男はそう告げると、改札口の方へ戻っていった。
 変態幽霊の作ったダッチワイフにそっくりな顔だなと思った。


(;`・ω・´)「くそー、えらい目に遭ったぜ!」

ξ#--)ξ「自業自得よ、馬鹿!」

44 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 04:37:45 ID:YRyZrSdY0
(;`・ω・´)「騙したのは悪かったけど、とりあえずもう少し生きてみればいんじゃね?」

ξ゚听)ξ「簡単に言わないでよ。仕事も住む所も無いし、この先大変なんだから」

(`・ω・´)「なら一旦実家帰ってみれば?」

ξ゚听)ξ「絶対に嫌。あんまり仲良くなかったもの」

(;`・ω・´)「まさか……虐待とか……」

ξ゚听)ξ「違うわよ。ただ本当に折り合いが悪かっただけ。言い争いが絶えなかったし、相性悪いんじゃない?」

(`・ω・´)「でもそれって、何年も前の話だろ?今帰ったら案外上手くやっていけるかもしれねえし」
 _,
ξ゚ -゚)ξ「……どうだか」

(`・ω・´)「上手くいかなかったら、またどっか行きゃいいじゃん。もうお前も大人なんだし……」

ξ;゚听)ξ「だからってねえ……」

(`・ω・´)「それにお前の親も大人になってるかもしれないだろ?」

ξ゚听)ξ「…………」

(`・ω・´)「どうした?」

ξ;゚听)ξ「あ、ううん。何でも……」



 そっか。私だけじゃなくて、向こうも変わっている可能性だってある。

 数年ぶりに会えば、もしかしたらお互い少しは上手く…………そう簡単に行くかなぁ?



ξ--)ξ「やっぱやめた。私の持論は『人生上手くいく訳がない』なのよ。世の中そんなに甘く出来ちゃいないわ」

45 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 04:38:45 ID:YRyZrSdY0
(;`・ω・´)「お前本当に悲観的な奴だな!多分ツンが考えてる十倍くらいは世の中甘く出来てると思うぞ?」

ξ゚听)ξ「うるさいわねー。あんたがお気楽過ぎるのよ。私はこれくらいでちょうどいいの!」

(`・ω・´)「よーし、俺がツンの未来を予想してやる!多分地元に帰ったらお前は金持ちのイケメンにプロポーズされて、宝くじとか当たる!以上!」

ξ゚听)ξ「馬鹿じゃないの」

(`・ω・´)「で、俺は美少女の霊と大恋愛の末に童貞卒業!そんでもって成仏する!そんな未来が見える!気がする」

ξ゚听)ξ「魔界の王子様(大爆笑)だから?」

(#`゚ω゚´)「うるせえ!!その話題は二度と出すな!!!」



 この幽霊は、本当に変だ。馬鹿だし、無駄にポジティブだし。
 何だか、あいつによく似ている。
 馬鹿さ加減が、二歳上の幼なじみにそっくりだ。

 あの馬鹿は元気にやっているだろうか。時々、何の用だか分からないメールを送ってくるけれど、 メールも馬鹿丸出しだ。



(`・ω・´)「なあ、帰ろうぜ!ツンの地元、俺も見てみたい!」

ξ゚听)ξ「こっちと大して変わら…………おい待て。今何つった?」

(`・ω・´)「?俺もツンの地元が見てみたい」



 ………………。

46 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 04:40:06 ID:YRyZrSdY0
ξ;゚听)ξ「まさか、ついて来る気?」

(`・ω・´)「何を今更。当然だろ?」

ξ;゚听)ξ「何でよ!来んな鬱陶しい!」

(`・ω・´)「そう邪険にするな、相棒!こっちにはもういられないし、俺はツンの地元で美少女幽霊を探すことにしたんだ!」

ξ;゚听)ξ「いつ私があんたの相棒になったのよ!?」


 ホームに電車到着のアナウンスが響いた。遠くの方から、小さな車体が近付いて来るのが見える。

 ふとメールが届いているのに気付く。幼なじみからだ。
 今年も帰って来ないつもりか、たまには帰って来い。要約すると、そんな内容だった。
 あいつ私の父親かよ。


ξ゚听)ξ(今日いきなり帰ったらどんな顔するかな……)


 あいつの馬鹿面がもっと面白い事になるのだろうか。


ξ*゚ー゚)ξ


 何故だか急に、無性にあいつの馬鹿面が見たくなった。


 ほんの少しだけ、楽しさが込み上げてきた。ものすごく久しぶりに。

47 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 04:41:35 ID:YRyZrSdY0
 小さな二両編成の電車がどんどん近付いて来て、目の前で止まった。


(`・ω・´)「大体ツンは幸せ慣れしてなさ過ぎるんだよ!それというのも根性がひん曲がってるから、顔も仏頂面に……」


 もしかしたら、このうるさい変態幽霊の言う通り、世の中は意外と甘く出来てるのかもしれない。少なくとも私が考えているよりは。



ξ゚听)ξ「はいはい。分かりましたよ、魔界の王子様()。向こうで美少女な幽霊見たら、そう紹介してあげる」

(#`゚ω゚´)そ「なっ!?」



 ドアが開く。乗客はほんの三、四人程度だ。



(#`゚ω゚´)「何で今その話を持ち出すんだよ!この根性捻くれ貧乳女!!ばーか!死ね!!」





ξ*゚ー゚)ξ「お断りよ、ばーか!」




 少なくとも、今は。



ξ゚听)ξ後始末をするようです(`・ω・´) 終わり




  (
   )
  i  フッ
  |_|

48 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 04:42:26 ID:YRyZrSdY0
電車内


ξ゚听)ξ「っていうか、いつまでパンツ被ってる気?」

<フ⌒ヽフ
(__∞_)
(`・ω・´)「ずっとだ!」

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