(  _ゝ)】兄からの電話【(´<_` ) のようです

233 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 23:35:00 ID:Ky5MZVLU0


  .,、
 (i,)
  |_|



携帯の着信音が鳴った。

時刻を見る。午後10時35分。
兄からだ。俺はすぐ電話に出た。


.

234 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 23:36:40 ID:Ky5MZVLU0


『もしもし。弟者?』


【(´<_` )「……兄者、か?」

『うん』

『なぁ俺、今どこにいると思う?どっからかけてるか分かる?』

【(´<_` )「いいや。どこなんだ?」

『えっと……今、美府町の交差点にいる』

【(´<_` )「そうか。じゃあ、早く家に帰ってこい。バイト、終わったんだろ?」

『うん。今から帰る。すぐ、帰るよ』

【(´<_` )「ああ、暗いから気をつけてな」

『あ……バイク、壊れちゃったんだ』

【(´<_` )「電車に乗って、帰るといいよ。その方が安全だから」

『わかった』

235 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 23:37:25 ID:Ky5MZVLU0


『もしもし。弟者』


【(´<_` )「なんだ兄者。今どこにいる?」

『美府駅の改札出たとこ』

【(´<_` )「何かあったのか?」

『いいや。
……妹者は?もう寝た?』

【(´<_` )「ああ、寝たよ。今日はお出かけして疲れたみたいだ。
      ……早く帰ってこいよ兄者。電車、乗り間違えるなよ」

『うん』

236 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 23:38:15 ID:Ky5MZVLU0


『もしもし?弟者?』


【(´<_` )「兄者?まだこっちにつかないのか?」

『えっと……今、双柵のホームにいる』

【(´<_`;)「おい!逆だよそれ。
       千下戸方面の電車に乗らないと駄目だろ」

『あ、あれ?あ、そっか。そうだったな。……どうしたんだろ、俺』

【(´<_` )「大丈夫か?兄者。ちゃんと家まで来れるか?迎えに行こうか」

『いい、いい。大丈夫。俺、ちゃんと帰れるから』

【(´<_` )「わかったよ。今度は間違えるなよ」

237 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 23:38:57 ID:Ky5MZVLU0


『もしもし。弟者』


【(´<_` )「兄者。ちゃんと美波で降りたか?」

『ああ。今、駅前のニューソンの前にいる』

【(´<_` )「よし。流石にそこからなら迷わないだろ。
       早く帰ってこいよ兄者」

『ああ。……なぁ。……今みんな、家にいるのか?』

【(´<_` )「ああ。今日は、みんな家にいるよ。
       父者も会社休んだし、姉者も帰ってきてくれてるから」

『……そっか……。なんか、ごめんな……。
弟者もほんとは、予定、あったんだろ?……ごめんな……』

【(´<_` )「つまらない用事だ、元々行く気なんか無かったよ。
       謝らなくていいから、兄者。だから、いいから、帰ってきてくれよ。待ってるからさ」

『……うん』

238 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 23:39:39 ID:Ky5MZVLU0


『もしもし、弟者』


【(´<_` )「どうした兄者。今どこだ?」

『今、小和田像の前にいる』

【(´<_` )「そうか。なら家まで10分もかからないな。
       玄関開けてあるから、さっさと帰ってこいよ。
       妹者が起きないように、そっとな」

『でも、弟者』

【(´<_` )「いいから。
       わかってるから、早く、帰ってこい。兄者」

『………わかった』

239 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 23:40:47 ID:Ky5MZVLU0



『もしもし。弟者?』

『今、郵便局を通り過ぎた』



『もしもし。弟者』

『今、角の煙草屋を曲がった』



『もしもし、……弟者』


『今、家の扉の前にいる』


「………」

240 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 23:41:34 ID:Ky5MZVLU0



ガ チ ャ ッ



(´<_` )

(´<_` )「………」


Prrrrrrrrrrrrrr


(´<_` )

ピッ

【(´<_` )「……兄者」

241 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 23:42:21 ID:Ky5MZVLU0


「『もしもし。弟者』」


「『今』」


(  )「『お前の』」



(  _ゝ)】「『うしろにいる……』」



.

242 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 23:43:06 ID:Ky5MZVLU0


【(´<_` )「……」


(  _ゝ)】「『……』」


【(´<_` )「……振り返っちゃ駄目なのか?」

(  _ゝ)】「『駄目だ』」

【(´<_` )「なんでだよ」

(  _ゝ)】「『見ないって約束したじゃないか……。前に』」

【(´<_` )「ああ、去年な」

【(´<_` )「びっくりしたよ。兄者から電話がかかってきた時は」

(  _ゝ)】「『……』」

243 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 23:43:56 ID:Ky5MZVLU0
【(´<_` )「その時も、絶対に顔は見してくれなかった。
       ……ほんの少しでも、駄目なのか?」

(  _ゝ)】「『駄目だ。駄目だぞ。振り返ったら許さないからな。
       ……酷いんだよ。ほんとに。見ちゃ駄目だ』」

(  _ゝ)】「『そういうの見るのは、あんま良くないんだって。
      引っ張っちゃう、らしいから……』」

(  _ゝ)】『……こうして話するのも、ほんとは良くない、んだけど』」

【(´<_` )「兄者なのにか」

(  _ゝ)】「『うん。……頼むよ。見ないでくれ、弟者。
       ほんとに、ほんとに、酷いから』」

【(´<_` )「……わかったよ。兄者がそう言うなら」

244 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 23:44:42 ID:Ky5MZVLU0
(  _ゝ)】「『ただな。俺、ただ……』」

(  _ゝ)】「『……電話したくなったんだ』」

【(´<_` )「ああ」

(  _ゝ)】「『弟者の声が、聞きたくなった。
      それでちょっと……かけてみたんだ』」

(  _ゝ)】「『ほん、ほんとに、繋がるとは、思わなく、て』

【(´<_` )「……わかってるよ」

(  _ゝ)】「『はは。……駄目だなぁ。俺』」

【(´<_` )「そんなことない。
      兄者が電話かけてきてくれて、嬉しかった」

【(´<_` )「ほんとに、嬉しかったよ」

(  _ゝ)】「『うん……。……こうして、話だけでもできて、良かった』」

(  _ゝ)】「『……もう行かなきゃ』」

【(´<_` )「……」

245 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 23:45:39 ID:Ky5MZVLU0
(  _ゝ)】「『ありがとうな。みんなに、言っといて。みんなに、ありがとうって』」

【(´<_` )「……わかってるよ。また、電話したくなったらかけてこいよ」

(  _ゝ)】「『……うん』」


時計を見る。午後11時丁度。
別れの時間が、近づいてきていた。


【(´<_` )「……なぁ」

【(´<_` )「最後に、一つだけ言ってもいいか?」

(  _ゝ)「『……』」

246 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 23:46:23 ID:Ky5MZVLU0


(´<_` )「……おかえり。兄者」


(  _ゝ)


「『………』」





               ( ´_ゝ`)「ただいま。弟者」




.

247 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 23:47:10 ID:Ky5MZVLU0



――――3年前の今日、午後10時35分。


バイト先からバイクで帰る途中だった、当時大学生の兄が
飛び出してきた車を避けきれず、衝突事故で命を落とした。

顔が半分擦り潰れた兄は、瀕死の状態で病院に運ばれ、そのまま静かに息を引き取った。

事故現場は5駅向こうの町、美府町の交差点。死亡時刻は午後11時4分。


命日の今日、午前中に家族揃って事故現場へ行き
去年と同じように白いユリの花を供え、手を合わせてきた。

きっと最期の最期まで、兄は帰りたかったことだろう。
彼が心から愛する、大好きな家族の待つ家に。

249 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 23:47:53 ID:Ky5MZVLU0


仄かに甘く香る、花の匂いを纏いつかせながら
足音は静かに、俺の背後から夜の闇へと遠ざかっていく。


顔は見えなくても、最後に 彼が微笑んだのが分かった。





              あの夜を最後に、兄から電話はかかってきていない。





.

250 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/09(日) 23:48:37 ID:Ky5MZVLU0


  (
   )
  i  フッ
  |_|



(  _ゝ)】兄からの電話【(´<_` ) のようです 終

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