■匣々
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1 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 21:32:43 ID:.VTSATW.0
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お あいうえ
き かくけこ
所謂 短編集 的 雑多文
不快な 表現 含む 場合 有
留意 されたし 敬具 草々
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2 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 21:33:48 ID:.VTSATW.0
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匣
-Cube-
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3 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 21:34:32 ID:.VTSATW.0
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4 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 21:35:29 ID:.VTSATW.0
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穴
-Hole-
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5 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 21:36:21 ID:.VTSATW.0
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cube1:僕が君を守るから。
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6 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 21:37:01 ID:.VTSATW.0
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素直シュールの足の裏には、毎日画びょうが突き刺さる。
上履きの中に転がり込んだ誰かの悪意は、なぜか律義に上を向くものだから、無防備に突っ込まれた足はいつも穴だらけ。
白く綺麗な靴下が、今日も赤い水玉になる。
きっとまた、彼女はあの卸したての靴下を、神社の裏に捨てるのだろう。
彼女の母親は、毎日一足ずつなくなる靴下についてどういった思いを馳せているんだろう。
靴下がなくなることと、靴下が斑の血を沁みつかせて戻ってくることと、どちらが不可思議なのだろう。
きっと彼女は嘘が上手なんだ。
だから彼女の父も、母も、彼女の足がコルク板なんかよりもはるかに穴だらけになっていることを知らないんだ。
彼女がとても理にかなった言い訳を作れるからこそ、誰も彼女が追い詰められていることに気付けないんだ。
きっと、そうだろ。
そうじゃなきゃやってられないじゃないか。
靴下が毎日なくなるような異常性に家族の誰も気がつかないなんて。
それほどまでに彼女が無関心の暗闇の中にいるなんて。
四面楚歌な彼女の、足元すらも味方でないなんて。
そんなことはあってほしくないのだ。
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7 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 21:38:13 ID:.VTSATW.0
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素直シュールの足の裏には、今日も画びょうが突き刺さる。
悪意を放った誰かの歪みが、上下に揺すられ笑いに代わる。
あの子は頭が変な人。
入っているに違いも無いのに。
確かめもせず、ためらいも無く、まるで普通の靴かのように。
律義に、自然に、疑いもせず、何不自由ない少女のように。
今日もシュールは靴を履く。
今日も白は赤になる。
僕は、彼女の心を知っている。
僕は、彼女の理由を知っている。
信じたくて堪らないんだ。
何事も無かったように靴が靴である日々がきっといつかは戻ってくると。
朝、外履きを脱いで。
昇降口の簀の子を踏んで。
下駄箱から取り出した上履きを、そっと履いて。
痛みも無く、悲しさも無く、「みんなおはよう」と廊下を歩けるその時が、きっと戻ってくるはずと。
その望みを、僕は叶えたい。
僕が君を守るから。
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8 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 21:38:57 ID:.VTSATW.0
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素直シュールの足の裏には、今日も画びょうが突き刺さるだろう。
だから僕は彼女より早く学校に来た。
周りの目を盗んで、彼女の机に小さな袋と手紙を入れる。
これできっと大丈夫。
僕が君を守るから。
素直シュールは、今日も普通の少女のように現れて、ごく当たり前に靴を履く。
爪先を置くまで押し込んで、踵でぐいと踏みつけて。
そして今日も顔を少し顰めて、一度は履いた靴を脱ぐ。
逆さになった上履きの中から、血の付いた画びょうが零れる。
彼女の顔が、わすれられない。
薄荷のような冷たさと清々しさの、淋しさの滲む悲しみの顔。
そんな顔をしないでくれ。
僕が君を守るから。
歩きにくそうに教室へ行き、鞄の中身を移そうとして、机の中身に彼女は気づく。
不思議そうで、怪訝な表情。
手を入れ取り出し手紙を読んで、彼女は少し、表情変えた。
周りの誰もが彼女を見ない。彼女はきっとドーナツの穴。
この世がこの世であるために、彼女の全ては失われている。
だから誰も気づかない。
彼女が少し泣いてたことを。
僕の奉げたプレゼントを見て、小さく笑って泣いてたことを。
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9 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 21:39:47 ID:.VTSATW.0
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素直シュールの足の裏には、明日も画びょうが突き刺さるだろう。
彼女はきっと諦めない。
だから彼女は傷つき続ける。
今日も彼女は、靴下を捨てた。
石の階段をよろよろ登って、誰もいない神社の裏に、赤い斑の靴下を捨てる。
それも明日は必要ない。
僕は眠る。
今日まで積み重ねた彼女の悲しみすべてを抱いて。
ぽつぽつ斑の靴下抱いて。
彼女の滲んだ抜け殻抱いて。
もう匂いは消えたけれど、彼女の痛みの跡はこんなにもくっきり残っているから。
君に哀しい思いをさせたくない。
君が僕を守ったように。
僕が君を守るから。
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10 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 21:40:31 ID:.VTSATW.0
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素直シュールの足の裏を、今日も画びょうが貫いた。
僕の上げた靴下抜けて、今日も皮膚に小さな穴が開く。
ああ、でも大丈夫。
今日の靴下は、強い黒。
どれだけ赤が滲んでも。
白のようには汚れない。
透明だった彼女の体に、僕の奉げた黒がさす。
ドーナツの穴に亀裂が入る。
悪意を抱えた誰かの眼にも、きっと彼女が映るだろう。
笑い声が一瞬止んで、潜めた言葉が背筋を這っていく。
ああきっと、これで大丈夫。
今日も彼女は痛みを感じているけれど。
痛みを隠す痛みまでは、感じずに済むはずだから。
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11 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 21:41:13 ID:.VTSATW.0
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その日、素直シュールは神社に来ない。
白い靴下を捨てに来ない。
僕の上げた黒の靴下は、きっとこれからも、彼女の痛みを隠すだろう。
痛みを感じた自分を偽る彼女の痛みは、もうここには来ないのだ。
僕が君を守るから。
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12 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 21:41:54 ID:.VTSATW.0
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素直シュールの足の裏を、剃刀の刃が切り裂いた。
僕のあげた靴下を裂いて、柔らかな皮膚をぱかりと切り裂いた。
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13 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 21:42:35 ID:.VTSATW.0
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素直シュールの足の裏は、毎日痛みに喘いでいる。
昨日は剃刀。今日は釘。
彼女が痛みに耐えるほど。
転がる悪意は大きくなるのか。
周囲の埃を巻き込んで、大きく、重く、なってゆくのか。
日の光の無い廊下を、彼女は足を引きずり歩く。
僕の奉げた黒は既に色あせた。
僕が引き裂いたドーナツの穴が、またも塞がり穴になった。
誰も彼女を気に掛けない。
素直シュールは透明だから。
肩がぶつかり突き飛ばされても。
足の痛みで立ち上がれずとも。
そのまま始業のチャイムが鳴ってとしても。
廊下に屁垂れて動けぬ彼女に、気付くものは誰もいない。
手を差し伸べるものは、誰もいない。
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14 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 21:44:22 ID:.VTSATW.0
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素直シュールの足の裏は、既に地を踏めぬほどに傷ついていた。
そっと、薄氷を踏むように、彼女は今日も廊下を歩く。
痛みのあまり、階段の途中で動けなくなっても。
彼女はもうだめだとは決して言わない。
「邪魔なんだけど」と罵りが響く。
素直シュールに捨てられる悪意は、確実に大きくなっていた。
かつては小さな鋲だった。次に薄い刃に代わり、太く鋭い釘になり。
ついには潜まず。秘められず。
悪意は既に、人の形になっている。
足を抑えて蹲る彼女の背に、誰かの足がぶつかってゆく。
「あらあらごめん」と、笑顔が詫びる。
シュールも詫びる。
申し訳ない表情をして、邪魔になってごめんねと、呟き詫びる。
君は悪くない。
きっと僕が君の手を引いて、君を背負って、教室にいこう。
帰りも、明日も、僕が君を背負うから。
僕が君を守るから。
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15 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 21:45:05 ID:.VTSATW.0
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素直シュールの足の裏が、二つ揃って宙に浮いた。
戸惑う彼女の顔は、まるで初めて生を得た人形のようだった。
自分を背負う背中に躊躇いがちにしがみ付き。
「酷いことをする奴もいるんだな」と言われても「私がとろいだけだから」と首を振る。
背の高い彼を僕は知っている。
二つ隣のクラスの、茂良くん。
格好良くて、優しくて、頭が良くて、運動が出来て、人気者。
だけど、彼は。
彼女が、背負われて階段を登っていく。
黒い靴下の爪先にに引っかかった靴がプラプラと揺れる。
その中の、内腑のような赤黒さが、彼女の踏みしめてきた茨の証であることを、僕は知っている。
行ってはいけない。
格好の良い彼は。
優しい彼は。
頭の良い彼は。
運動が出来る彼は。
人気者の彼は。
数多の悪意の友達だから。
僕が守らなきゃ。
僕が君を守るから。
階段を踏め、追いかけて彼女を連れ戻すんだ。
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16 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 21:45:45 ID:.VTSATW.0
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踊り場の切り返しで、茂良君が僕を見る。
三日月の口。東の空に揺れる紅い満月の眼。
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17 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 21:46:26 ID:.VTSATW.0
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僕が君を守るから。
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18 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 21:47:12 ID:.VTSATW.0
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素直シュールの足の裏は、今日、昇降口の簀の子を踏むことは無かった。
下駄箱の中の上履きには、一つも悪意が入っていなかった。
彼女が淡く儚く願い続けた日がようやっと来たのに。
肝心の素直シュールの足の裏は、この上履きには入らなかった。
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19 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 21:48:14 ID:.VTSATW.0
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素直シュールの足の裏は、それからしばらく学校を踏まなかった。
僕は必死に彼女の家の周りを歩いたけれど、彼女に出会うことはできなかった。
毎朝、彼女の家の前を通って、学校へ行き、帰り道も彼女の家の前を通る。
僕は彼女の足の、白くて赤い抜け殻を抱いて、不安な夜を何度も越えた。
眠れず、朝日を見ては意識を失ってすぐに目覚め、それから学校へ行った。
少しの望みをかけて、シュールの抜け殻を足に履いて学校に行ったこともある。
爪先を締め付ける苦しさも、彼女の足を貫いた痛みに比べれば、心地いいで済む程度だった。
僕は毎日、彼女の無事を願って、神社へ行った。
白い靴下が何度も捨てられた神社へ行った。
もしかしたら新しい靴下があるのではないかと、彼女が実在する証があるのではないかと、何度も神社の裏に回った。
そしてある朝、僕は寂れた神社の裏で、昨日は無かったはずの誰かの下着を拾った。
何かに汚れていて、鼻に押し付けると僕の知らない臭いがした。
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20 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 21:48:59 ID:.VTSATW.0
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素直シュールの足の裏は、その日久々に上履きに入れられた。
赤黒く染まったその中に、悪意はもう入っていない。
黒い靴下から、紫色の斑がはみ出している。
白い肌の中にあるそれは、僕の奉げた靴下よりもはるかに、黒く、濡れて見えた。
彼女の顔を覆う、白いマスクの下を、僕は見たくて見たくない。
足を引きずり、本当は足では無い何かを引きずり、彼女は廊下を踏んでゆく。
僕が君を守るから。
彼女が階段を踏み、教室へ上る。
長いスカートの裾の奥には、影とは似て非の暗闇があった。
蚯蚓のような声が、学校中を這っていた。
僕の知らない噂を、あの人型の悪意たちは知っているんだろう。
彼女は俯いて、体を引きずって教室へ行く。
茂良君が、廊下の奥で、友達と一緒に笑っている。
沢山の悪意と、優しく楽しい話をしている。
シュールの眼と心は、それに少し縋ろうとして、彼の三日月の口を見て、地面にぐしゃりと落ちた。
長い道を歩んで、席にたどり着いた彼女を迎えたのは、足の裏の代りに深く悪意を刻まれた彼女の机だった。
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21 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 21:49:44 ID:.VTSATW.0
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僕は、美術室から彫刻刀を盗み出して、彼女の机の前に立った。
誰もが帰った誰もいない夜の教室で、僕は彼女の机に彫刻刀を突き立てる。
彼女に突き付けられた悪意の隙間を埋めるように。
誰の悪意よりも強く、僕の心を伝えるために。
僕が君を守るから。
僕が君を守るから。
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22 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 21:50:30 ID:.VTSATW.0
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素直シュールの足の裏を、虫に塗れた釘が突き抜けた。
いつものように爪先を抜いて、中を見た彼女は、小さく喉で恐怖を鳴らして簀の子の上にお尻を着いた。
落ちた上履きの中から、黒い虫の断片がころりと落ちて、僕を見た。
お前がこの子を守らないから、俺たちまでこの様だ。
虫は僕を呪って息絶えた。
影の中で悪意が笑っている。
なにが愉快かわからない。
俯き前歯を鳴らす彼女の姿が、可笑しいなんてあるはずない。
彼女は、ボロボロと、虫と釘を捨てて、ゆっくりこわごわと、上履きを履く。
僕が君を守るから。
ああだからせめて、教室までは辿り着いてくれ。
よろりよろりと彼女は教室へ行く。
机にたどり着いて、席に着いて、決して埋まることの無い悪意の傷に目を落とす。
そして、気付いた。
悪意の中に潜ませた心を、一つ一つ、指でなぞる。
僕が君を守るから。
僕が、君を守るから。
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23 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 21:51:40 ID:.VTSATW.0
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素直シュールの足の裏は、その日珍しく屋上を踏んだ。
向かい合っているのは、茂良君だった。
「学校にこなかったから心配してたんだよ」
「まあ、元気みたいで安心したよ」
「紹介したあいつらとは上手くやってる?」
「また君に会いたいって言ってたよ」
茂良君は笑顔だ。
三日月の口だ。
有無を言わせぬ優しさだ。
シュールはスカートを握りしめて、口を開いた。
膝の裏の、少し上の、紫色の痛みが見えた。
僕は彼女が何を言うのか分かっていて、耳を塞いだ。
僕が君を守るから。僕が君を守るから。
恐る恐る手を退けた時に聞こえたのは、
「楽しかったよ」と嘘偽りを感じない茂良君の声と、
彼女の膝が床を着いて、溜まりに溜まった辛苦が息と共に漏れ出す音だった。
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24 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 21:52:39 ID:.VTSATW.0
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素直シュールの足の裏は、今日も痛みと嫌悪を踏んだ。
だけれどシュールは上履きを脱がず、虫と自分の体液を混ぜながら、階段を踏んだ。
「馬鹿じゃないの」「モララーが本気で相手するわけないじゃん」
誰かが囁いた。
誰もが、嗤い、呆れ、素直シュールを蔑んだ。
机に鞄を掛けて、シュールはトイレへ向かった。
彼女が教室を出た途端に、汚い手が鞄に触れて、中身を全てゴミ箱に落とした。
その上に、折れたチョークが捨てられた。
その十分後、なぜか全身を濡らして戻ってきたシュールは、鞄を探す。
誰かの視線に気づいてふらふらとゴミ箱に行き、中身を取りだして、鞄に詰めた。
また、ふらふらとどこかへ出てゆき、一限目の内に戻ってくることは無かった。
休み時間に戻ってきたシュールは、チョーク塗れのジャージを着ていた。
鞄は大きく膨らんでいて、端から少し、水が滲んでいる。
その鞄の中身も、昼休みには男子トイレの掃除用具入れに捨てられていた。
彼女はずっと、鞄の中身を探していたけれど、男子トイレには入らなかったので、結局見つけることは出来無かった。
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25 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 21:54:01 ID:.VTSATW.0
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素直シュールの足の裏は、それからも何度も傷ついて、それでも何度も学校を踏んだ。
踏まされたものの種類は瞬く間に増えた。
まだ寒さの残る季節に、夏用の制服を着てくるようになった。
その夏服もしばらくして、ジャージに代わった。
そのジャージもしばらくして、塞ぎきれない穴が空き、神社の裏に捨てられた。
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26 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 21:54:47 ID:.VTSATW.0
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素直シュールの足の裏が、もうただの足の裏では無くなってしまった頃。
人気のない階段で、僕は茂良くんに出会った。
いつものように目を逸らしてすれ違おうとしたのに、茂良くんから「なあ」と声をかけてきた。
恐る恐る振り向いた彼は、格好良くて、優しそうで、頭が良さそうで、運動神経が良さそうで。
やはり、三日月の口をしていた。
「素直シュールに黒い靴下と手紙をやったの、お前だろ」
「机の罵詈雑言の中に、優しいメッセージを隠したの、お前だろ」
僕は何も答えられなくて、蛙のように、その蛇の眼を見ていた。
「かっこいいじゃん」
茂良くんが、肩に手を置いた。
優しいのに、酷く痛くて、冷たくて、僕は「あ」としか言えなかった。
「だけどさ、あれを一番ひどい目に遭わせてるのってお前じゃないの」
「あの時、お前を憐れんであんなこと言わなきゃ、あれはこんな目には遭ってないんだぜ」
「あれを一番踏みにじっているのは一体誰なんだろうな」
「ほら、自分の足元、よく見て見ろよ」
僕の足の下には、階段だったはずのそこには、光の無い目を頭にはめ込んだ、素直シュールの屍がいた。
「ひ」と声が出て、僕は慌ててその場を飛びのいて、階段を転げ落ちた。
全身が痛みでちかちかして、動けなくて、やっと見上げた踊り場には、茂良くんはいなかった。
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27 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 21:56:03 ID:.VTSATW.0
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「大丈夫?」と、愛らしい声がした。
見上げた先には、素直シュールが居た。
僕の幻覚では無い、生きている素直シュールだった。
あまりに愛しくて、何も考えられなかった。
僕は「あ」とだけ答えて、全力でその場を逃げ去った。
素直シュールの足の裏は、僕を追って走りはしない。
ちらと振り返った先に見えたのは、寂しげな顔で、歪な重心で立つ、彼女の姿だった。
ああ。僕が君を守るから。
君が僕にしてくれたように。
きっと、僕が君を守るから。
僕が君を守るから。
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28 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 21:57:19 ID:.VTSATW.0
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素直シュールの足の裏が、屋上の柵を踏んだ。
口の中で、檸檬のキャンディを転がして。
スカートと髪が珍しく温かい風に靡いて。
素直シュールは、空を飛んだ。
三階の窓に、逆さまの素直シュールが映り込む。
誰もが、それに気づかない。
彼女はドーナツの穴。
世界が世界であるために必要な空白。
かつて、その役割は僕だった。
僕を救い、自ら穴になったのが素直シュールだった。
だから僕が。
フェンスを乗り越えて、手を伸ばした。
すぐそこにいたはずの素直シュールは、もう一階まで行ってしまっていた。
僕の奉げた、黒い靴下に隠された足の裏が見えた。
風に靡くスカートの中の、白い下着が目に焼き付いた。
そして、僕が何かを叫ぶよりも早く。
素直シュールは素直シュールでなくなった。
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29 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 21:58:08 ID:.VTSATW.0
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僕は上履きのまま、気がつくと自分の部屋にいた。
素直シュールの足の裏が、傷つくことはもうないだろう。
あの小さく柔らかそうな足が、痛みに縮むことはもうないだろう。
よかった、彼女は救われたんじゃないか。
もうたくさんの悪意にさいなまれる日々と決別出来たんじゃないか。
これはきっと祝福すべきことなんだ。
彼女の匂いよりも、僕の臭いのするようになった靴下の群れを抱きしめる。
縒れたままの制服に縋りつく。
誰かに穢された下着に涙を擦りつける。
抜け殻たちは抜け殻のまま。
もう二度と素直シュールの一部になることは無い。
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30 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 21:58:49 ID:.VTSATW.0
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日が、もう沈む頃に、僕はあの神社に向かった。
もしかしたら、何事も無く素直シュールの足の裏がこの地を踏むかもしれないと思った。
傷つき割れてしまった頭を隠すために、素直シュールが来るかもしれないと思った
神社の裏には、誰もいなかった。
だけれど薄暗がりの中に、白く四角いものが捨てられていた。
見れば、上に石が置かれ、風で飛ばされぬようになっている。
白い封筒だ。土で少し汚れているが、冷たさすらある無地の白。
ゆっくりと出来る限り丁寧に封を開ける。
中には、一枚だけ便箋が入っていた。
封筒とは一転して、愛らしい、可愛らしい便箋だった。
丸く、女の子らしい文字が四つ。
僕はそれを秒とかけずに読んだ。
だけれど、何度も読み返した。
素直シュールは捨ててしまった。
きっと、赤い斑の白い靴下のように。
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31 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 21:59:32 ID:.VTSATW.0
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雨が降り始めた。
大粒のそれに濡れた手紙の文字は瞬く間に滲んで、黒い染みになった。
なにがかかれていたか、もうわからない。
僕が見た四文字も、これまでみてきた全ても、夢と幻で出来た水性インクだったのかもしれない。
濡れた手紙が、千切れて落ちた。
泥の地面に張り付いて、ぐずぐずと破れてゆく。
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32 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 22:01:13 ID:.VTSATW.0
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素直シュールの足の裏は、もう二度とこの学校を踏むことは無い。
傷だらけの机は取り替えられ、小さな花瓶と花が置かれた。
誰も水を変えないので、花はすぐに枯れ、腐り、机の上から姿を消した。
僕の背中に、ゆっくりと穴が開き始めた。
素直シュールと同じ、ドーナツの穴。
誰からも忘れられた彼女が、僕の代りに抱え続けた不要で重要な役割。
それが戻り始めただけだ。
これが本来の形だったんだ。
「結局こうなるなら、アレがお前を庇ったのは全くの無駄だったね」
階段の踊り場から、茂良くんが僕を見下ろす。
三日月を見上げる僕の胸は、星の無い夜の中にある。
「何もしない。何もできない」
「庇われて、助けられて、時間を与えられたのに何も変わらない」
「素直シュールを殺したのはお前だよ」
「素直シュールを無駄死にさせたのはお前だよ」
三日月が膨らむ。
ケタケタと茂良くんは縦に揺れる。
カタカタと僕は横に揺れる
優しくて、人の良い、さわやかで軽やかな笑い声が、聞こえてくる。
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33 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 22:02:03 ID:.VTSATW.0
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僕の足の裏を、小さな画びょうが貫いた。
素直シュールの赤い斑に、僕の赤が混ざる。
もう記憶の中にしか居なくなった、彼女との繋がり。
上履きを逆さにして、画びょうを捨てる。
この針は、あの時素直シュールを突き刺したものだろうか。
彼女の一部がきっと僕の中にある。
だから、僕は空を飛ぶわけにはいかない。
もう二度と、彼女を救い損ねないように。
僕の中にしかいなくなった、彼女を守らなくてはいけない。
僕が君を守るから。
階段の踊り場に、三日月が浮かんでいた。
三日月は揺れる。僕は震える。
でも、大丈夫。
僕が君を守るから。
僕が、君を守るから。
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34 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 22:02:49 ID:.VTSATW.0
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35 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 22:03:31 ID:.VTSATW.0
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。
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36 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 22:04:12 ID:.VTSATW.0
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囁
-Rhapsody-
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37 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 22:04:58 ID:.VTSATW.0
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cube2:大人気催眠オナニーシリーズ『イケナイ関係』vol 7 ~天竜源一郎~
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38 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 22:05:38 ID:.VTSATW.0
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l ! r ,.,r:._ ,ヽ ´-.:lノ ―――――まずはぐーっと伸びをして、全身をリラックスさせてください。
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39 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 22:05:48 ID:chzqVihY0
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40 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 22:06:36 ID:.VTSATW.0
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l ! r ,.,r:._ ,ヽ ´-.:lノ ―――――ほら、だんだん体が温かくなってきたでしょう……?
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41 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 22:07:17 ID:.VTSATW.0
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l ! r ,.,r:._ ,ヽ ´-.:lノ ―――――これからどれほどの熱い戦いがあなたを待っているのでしょう……
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42 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 22:07:58 ID:.VTSATW.0
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l ! r ,.,r:._ ,ヽ ´-.:lノ ―――――ほら、イメージしてみて……浅黒い肌……。
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43 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 22:09:03 ID:.VTSATW.0
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l ! r ,.,r:._ ,ヽ ´-.:lノ ―――――あなたと天龍源一郎がトロトロに蕩けて混ざり合っていきます
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44 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 22:10:21 ID:.VTSATW.0
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l ! r ,.,r:._ ,ヽ ´-.:lノ ―――――ほら……もうあなたは、天龍源一郎になっちゃいました……
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45 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 22:14:25 ID:chzqVihY0
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現在進行形でクソワロテル
腹痛い
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46 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 22:22:05 ID:9iZ2ObW20
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なんだこれ
なんだこれ
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47 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 22:26:25 ID:WT79lyRo0
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なんだこの流れwwww
くっそわろたwww
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48 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/12(日) 22:39:03 ID:A4nOHYV60
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最初はめっちゃ真剣にあぁ……って読んでたのに……
なんだこれ……
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51 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/13(月) 00:03:12 ID:b5wsUEn.0
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お前ふざけんなよwwwwww
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53 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/13(月) 02:14:29 ID:n8CU4HSk0
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この罪は重い
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59 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/13(月) 22:52:09 ID:Di9Kr7J.0
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えっ、どういうこと?
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60 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/14(火) 00:53:11 ID:SdZ.Y9Rc0
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>>59
天龍源一郎になっちゃったということですね・・・・・・
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62 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/14(火) 12:51:36 ID:G1tqBoTc0
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壮大な前振りだったwww
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63 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/14(火) 13:25:38 ID:OEeoToQg0
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これはもしかして完結しているのだろうか
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64 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/04/14(火) 14:02:03 ID:VWR9Ecck0
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削除依頼きてるね。
ま、ここで終わりというカオスっぷりも嫌いじゃない
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