バレンタイン('、`*川川 ゚ -゚)ストレンジアのようです
前編 後編



2 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/13(水) 23:46:47 ID:dHgmchs.0



('、`*川「……あ」



('、`*川「また、来てる」

3 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/13(水) 23:47:19 ID:dHgmchs.0

放課後は、読書の時間に決めている。

私はいつも、読みかけの文庫本を持って図書館に籠もる。

静かで、誰にも……同級生や教師や、両親にさえ邪魔されない時間が、私には幸福だった。

人付き合いは疎ましい。

5 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/13(水) 23:48:21 ID:dHgmchs.0
……彼女はいつも、決まって図書館にいた。

川 ゚ -゚)

初めて会ったのは、図書館の三階の、窓側の隅。
私が勝手に「定位置」に決めている席だ。

('、`*川「……」

いつも座ると決めている席に、同じ高校の制服を着た「先客」がいた。
席はもちろん予約制ではないから、彼女が悪い訳では決してない。
分かってはいるけれど、何とはなしに不愉快になってしまって、彼女の背中を軽く睨んだ。

その途端。
彼女は私の気配を察したのか、背中にまっすぐ伸びた黒髪を揺らして、振り返った。

川 ゚ -゚)「……」

肩越しに、涼しげな眼を、さらに細めて。
小首を傾げ、それから頷いて、広げていた分厚い本を、ぱたん、と閉じる。

川 ゚ -゚)「ここは、君の席だったか?」

('、`;川「あ、いや……そういう訳じゃ」

ばつの悪さも手伝って、私は弁解しかける。
きっと、私が荷物を持って席を立っている間に座ってしまったとでも勘違いしたのだろう。

6 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/13(水) 23:49:13 ID:dHgmchs.0
川 ゚ -゚)「悪かった。隣に移るよ」

('、`;川「あ、あの、っ」

けれど、彼女は席を立って、私の言葉も聞かずに一つずれた椅子に移った。
私は、黙って、彼女が空けてくれた椅子に座ることしかできなかった。

('、`;川「……」

……そんな、気まずい出会いだった。

制服からして同じ高校の生徒なのは間違いないが、始めて見る顔だった。

同学年なら、何かと会う機会もある。
なのに記憶にないということは、上級生なのかもしれない。
落ち着き払った態度からして下級生ということはないだろう。

私の通う高校は一応進学校で、生徒数は都内でも上から数えた方が早い。
だから同学年でなければ、卒業式まで顔を合わせないこともある。

ああ、こんな人もいるんだ。
それが率直な印象だった。

7 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/13(水) 23:49:51 ID:dHgmchs.0
その日以降。
私が図書館に行くと、彼女は決まって私の隣の席に座っていた。
難しそうな、厚い本をいつも読んでいて、隣に座る私に会釈をしてくれた。

会話は、ない。
いつもお互い、黙って本を読むだけ。
私が先に帰ることもあれば、彼女が先に帰ることもある。

……それだけの、知り合いとすら呼べないような関係だった。

ただ、それだけ。

けれど……

('、`*川「……」

文庫のページをめくるのもそこそこに、横目でこっそりと。
隣に座る彼女を、見る。

いつからか、いつものように。
一日に、何度も。

川 ゚ -゚)「……」

低い仕切り板の向こうにある、彼女の横顔。
細いおとがいは下を向いて、伏せた眼は手元の本に据えられている。
白くて細い指が時折動いて、さらり、とページをめくった。

9 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/13(水) 23:51:12 ID:dHgmchs.0
心の中で、密かにため息をつく。

('、`*川(羨ましい……な)

そう思わないことはなかった。

なぜなら。
彼女はまさに私の理想……私がこうなりたいと思うような姿を、立ち居振る舞いを
していたからだ。

川 ゚ -゚)「……」

整った顔。切れ長の眼は長いまつげに飾られていて、横からは瞳が見えないほど。
淡い色の唇は読んでいる本の内容をなぞっているのか、時折何かを呟くように動く。

濡れ羽色の黒髪はいつだって、洗いたてのような艶がある。
身体だって私よりも細くて、色白で、それでいて不健康さはなない。

立って、座って、ページをめくる。ただそれだけの仕草にも。
背筋をまっすぐに伸ばした姿勢さえ、気品すら感じる。

年代も、髪の色も着ている服も同じなのに、なぜこうも違うのだろう。
そう思うと、なんだか悲しい気分になる。

(-、-*川(私も、ああなれたらいいのに)

10 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/13(水) 23:52:47 ID:dHgmchs.0
と。

川 ー )

その瞬間、彼女が微笑んだように見えた。
視線は本を見たまま、それなのに、私の心の底を見透かすように、薄い唇の端を上げて。

('、`;川「……!」

私は妙にどぎまぎして、読んでいた本の内容も忘れてしまう。
慌てて本を閉じ、ああ、もう帰らなきゃ、と口の中で呟いて、席を立った。

後ろで誰かが私を呼んだような気がしたけれど、気のせいだと思った。
だからそのまま、鞄を掴んで逃げるように図書館を後にした。

……会話すらしたことがない彼女。
   その彼女にいつからか憧れを抱いている自分自身に、私は気付いていた。

11 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/13(水) 23:53:55 ID:dHgmchs.0
その日の夜。
ベッドに入りはしたものの、私は寝付けなかった。

('、`*川「……はあ」

真っ暗な天井を見上げて、仰向けに寝たまま肩を落とす。

('、`*川「見てたの、気付かれちゃった……かな。
      悪いこと、しちゃった」

笑っているように見えたのは、きっと顔をしかめたのだろう。
図書館で本を読んでいる時にじろじろ見られたら、不愉快に決まっている。

あの彼女を、そんな気分にさせてしまったかもしれない。
私のこと、失礼な女だと思われてしまうかもしれない。

それは、辛い。
それは、嫌だ。

('、`*川「うん。やっぱり……ちゃんと、謝ろう」

そう心に決めて、枕に顔を埋める。

けれども、眼が冴えてしまってなかなか寝付けない。
仕方ないので、本の続きを読もうと身体を起こす。

13 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/13(水) 23:55:03 ID:dHgmchs.0
枕元に置いた携帯電話を取り、点灯する待ち受け画面の明りを頼りに机の電気スタンドへ。
スイッチを点けて、鞄を漁る。

('、`*川「あれ?」

図書館に持って行って、持って帰って来たはずの文庫本は、鞄に入っていなかった。

('、`;川「あちゃあ……やっちゃったよ」

動揺していたから、鞄に入れるのを忘れていたんだ。
それに気付くと、途端に色々どうでも良くなってしまう。

スタンドを消して、窓に向かう。
私の部屋は一階にある。だから防犯のために戸締りをきちっとするのが習慣になって
いて、おかげで真っ暗な部屋の中でも窓と入り口のドアを施錠するのに支障はない。

私はそのまま、ベッドに戻った。

14 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/13(水) 23:57:32 ID:dHgmchs.0
……翌日。
   失くした本を探す前に、私はいつもの席に向かった。
   何よりもまず、彼女に一言謝罪しなければいけなかった。

('、`;川「……」

いつになく緊張する日だった。

私は、人と会話するのが得意ではない。むしろ、苦手だ。
だから、図書館の階段を一階上るごとに何度も深呼吸をしないといけなかった。

……けれど。
   結局、私の方から、彼女に話しかける必要はなかった。

いつもの所にいた彼女は。
初めて会った日のようにゆっくり振り返り、そして……口を開いた。

川 ゚ -゚)「君を、待っていたよ」

('、`;川「あ、えっ?」

完全に不意打ちだった。
思わぬ展開と逆に話しかけられた緊張に、頬が、かっ、と熱くなるのを感じる。

('、`;川「えっと……何で、その。あのっ」

川 ゚ -゚)「この本。君の忘れ物だろう?」

15 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/13(水) 23:58:24 ID:dHgmchs.0
そう言って、私に手を差し出す。
その手の中にあったのは、布製のカバーを掛けられた文庫本。
確かに昨日見つからなかった本だ。

失礼なことをしてしまったのに、その上迷惑をかけてしまうなんて。
私は更に赤面する。その上、泣きたくなった。

('、`;川「あっ、ありがと……ございます」

ぎくしゃくとお辞儀をして、文庫本を受け取ろうとする。

川 ゚ -゚)「それと――」

その文庫の、表紙の上に。
彼女は、反対の手に持っていた物を乗せた。

('、`;川「あ、え、あれっ?」

出されたそれに、反射的に手を伸ばしてしまう。
勢い余った私の手が、戻ろうとする彼女の手の指に触れた。

( 、 *川「あ」

初めて触れる彼女の指の、ひんやりとして滑らかな感触。
それはまるで、指紋が全くないようにさえ感じてしまうほどだった。

16 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/14(木) 00:01:18 ID:GDTIqx6E0
( 、 *川「……」

返事も忘れて、受け取ったそれを見る。

掌に収まるほどの大きさ。
見慣れない模様をしたチャコールグレイの包装紙に、掛けられた光沢のある白いリボン。
それが何だか全く見当が付かなくて、私はまるっきり阿呆のような顔をして彼女を見た。

川 ゚ -゚)

初めて真っ直ぐ見る彼女の瞳は、神秘的な色をしている。

海の底のように深い紺色の虹彩が、淡いブルーに縁取られている。
その中心で黒い瞳孔の淵が、真っ直ぐに私を見つめ返していた。

('、`;川「あ、えと……」

川 ゚ -゚)「本だけでは味気ないだろう、と思ってな」

落ち着いた声。
その声を聞いて、ようやく我に返る。

……そうだ。

……今日は、バレンタインデーだった。

17 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/14(木) 00:03:07 ID:GDTIqx6E0
女子同士でチョコレートを交換しあうのは、特におかしなことではない。
クラスの女子だって、みんなやっている。
私には、やりとりをする相手はいないけれど。

だから、これが特別なものではないということは分かっている。
それでも、舞い上がってしまいそうなほどに嬉しかった。

(///*川「あっ、あ、あー……」

私はもう、何を言ったらいいのか分からなくなってしまう。
緊張と恥ずかしさと同様が頭の中でぐるぐる回っている。
それでも何かを言わなければいけないと思い、もう必死で口を開いた。

('、`;川「あっ、あの……っ。
      私……ペニサスですっ!!」

図書館での会話には大きすぎる声。
周囲の何人かが椅子を動かし私を、おそらく怪訝な眼で見たのが感じられた。

川 ゚ -゚)「……」

彼女も、数瞬の間、きょとんとする。
それから合点が行ったように頷き、薄く笑った。

川 ゚ -゚)「……ああ。そういうことか」

その時になってようやく、私は自分が突拍子もないタイミングで自己紹介をしてしまった
のだということに気付く。

19 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/14(木) 00:05:30 ID:GDTIqx6E0
('、`;川「あ、いやっ、あの」

笑みを絶やさないまま、
彼女は、頷いて、答えた。

川 ゚ -゚)「私は、クーだ。
     よろしく、ペニサス」

20 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/14(木) 00:08:28 ID:GDTIqx6E0
その日、それから。
私たちは小声で、取り留めもない会話を楽しんだ。

川 ゚ -゚)「悪いとは思ったが、興味が湧いてな。中身を見せて貰ったよ。
     SF小説が趣味なのか」

('、`*川「そういう訳じゃ、ないです。
      ただ、フィクションが好きで。だから、SFも」

とは言っても、話題は、本の話ばかりだった。
好みのジャンルや、普段読んでいる本。
気になっている新刊。電子書籍として配布されている、過去の名作。

……読書の時間は、私に色々なことを忘れさせてくれる。
   私には、それが幸せだから。

川 ゚ -゚)「私か? 特に好みのジャンルはないな。
     強いて言えば……歴史、かな」

('、`*川「三国志とか、ですか?」

川 ゚ -゚)「特定の国や地域ではないな。まあ、これも学習の一環だ」

学習。

それは私からすれば、読書の目的としてはいささか味気ないもののように感じる。
けれど話してみると、彼女……クーさんの読書量と内容は、学習と言うには余りに
も膨大だった。

22 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/14(木) 00:11:07 ID:GDTIqx6E0
彼女は高校までで習うような歴史の年表とその内容を、洋の東西を問わずほぼ全て
覚えているのだという。普段読んでいる分厚い本も娯楽作品ではなく、事典のような
ものだそうだ。

そんなつまらない嘘を吐く人には見えず、私は素直に感心した。
その証拠に、歴史が好きだと言う割に彼女はフィクションの分野に関しても、私よりも
ずっと詳しかった。

私が知っていることで、彼女の知らないことは何一つなかった。
逆に私は、彼女の質問にほとんど答えられなかった。

('、`*川「すごい……ここの本、どれくらい読んでるんですか?」

川 ゚ -゚)「もう全部読んだよ。今は二週目だ」

呆気にとられる私の顔を見て、クーさんは、僅かに口角を挙げた。
私は一瞬、担がれたのだということに気付かなかった。

('、`*川「あ、あー……」

気の利いた返しの言葉は出てこず、ただ頭を掻いた。

川 ゚ ー゚)「――ふふっ」

今度こそ、彼女は笑う。
その笑顔を見て、私はまた胸が高鳴るのを感じた。

23 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/14(木) 00:12:27 ID:GDTIqx6E0
……そのうち、閉館の時間が近づく。
   あまり遅くなると両親が心配するだろう。

('、`*川「ごめんなさい。私、これで」

立ち上がる私を目で追って、クーさんは言う。

川 ゚ -゚)「今日は楽しかった。
     ちょうど、君のことをもっと知りたかった」

その言葉に、どきりとする。
嬉しい言葉だった。けれど私がそれを喜んでいるとは、彼女は知らないだろう。

ただ横目で見るだけの、憧れの対象でしかなかった人と、距離を縮められた。
そのことに、私は今までに感じたことがない充足感を覚えていた。

川 ゚ -゚)「次に会うのが楽しみだよ。ペニサス」

それは、社交辞令なのかもしれない。
それでも私には、飛び上がりたくなるほど嬉しい。

('、`*川「わ、私もです。じゃあ、またっ」

川 ゚ -゚)「ああ」

短い別れの挨拶を告げる。
今度は忘れ物がないように鞄を確かめて、私はもう一度、クーさんに頭を下げた。

川 ゚ -゚)「また、な。ペニサス」

24 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/14(木) 00:15:14 ID:GDTIqx6E0

                                                   − 3

……翌日。
   彼女は、図書館には現れなかった。

('、`*川「……」

隣の席には誰もいない。
初めて会った日以来、彼女にここで会わないのは初めてだった。

椅子を引き、いつもの場所で鞄から文庫本を取り出してはみたものの、内容は何一つ頭には
入らなかった。紙の上を文字が滑っていくようで、しまいには文字というより、ただのインクの
染みの分布にしか見えなくなった。

('、`*川(……つまらない、な)

今まで、この上なく満ち足りていた読書の時間。
それが今は、彼女がいないというそれだけの理由で、とてもつまらない、下らない時間の浪費
でしかなかった。

数分の間何もせずに椅子に座り、それから私は席を立った。
読書は結局1ページも進まない。

約束などしてはいない。勝手に期待しただけだ。
けれど、妙に惨めな気分だった。

25 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/14(木) 00:17:15 ID:GDTIqx6E0
その夜。
風呂上がりに、私は机に座ってチャコールグレイの包みを見ていた。

机の上に置いてあっただけで、まだ開封していない。
昨日のうちに開けてしまうのはとても勿体ない気がして、そのままにして寝たのだった。

('、`*川「……」

部屋の灯りは消している。
電気スタンドの青白い光の中、私の手の中に包みは収まっている。

開けてみようか。
ても、食べたら当然なくなってしまう。

そんな迷いを感じることすら、楽しい。

('、`*川「……。
     ま、いいかな」

一人で呟き、私は箱に掛けられていたリボンを外した。
白いリボンは、するり、と箱の表面を滑り降り机に落ちる。

留められたテープを剥がし、破かないように、慎重に包装紙を外す。
外したそれを畳んで、丸めたリボンを上に置いた。

('、`*川「ん?」

周辺のお菓子屋は一応それなりに知っているが、そのどれでもないようだった。
メーカーやブランド名の類も箱のどこにも書いておらず、ラベルの一枚もない。

26 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/14(木) 00:20:33 ID:GDTIqx6E0
('、`*川「手作り……かな?」

ほとんど赤の他人の私のためだけに、彼女がそこまでしてくれるはずもない。
けれど、他の誰かに渡したものの残りだというなら、考えられそうだった。

箱をそっと開く。
収まっていたのは、質素な……八つに切り分けられた、板状のチョコレートだった。

少し、意外に思う。

彼女の雰囲気は浮世離れしていて、自分の手でこんなものを作ったり、包装したりする場面
はとても想像が付かない。
でも。どんなものでも、それを私に渡そうという気になってくれたそのこと自体が、光栄だった。

('、`*川「歯磨き、する前にしとけばよかったな」

本を取り出して、乏しい明かりの下に広げる。
両親からは目が悪くなるから止めろと言われるけど、構わない。

薄い金属製のしおりを探り当てて抜いてから、ひとかけらを口に放り込む。
甘みが微かなほろ苦さと一緒になって口の中に広がった。

全部食べ終わったら読書は終わりにして、寝ようと思った。

('、`*川(明日は……会えるかな)

本の内容は、正直言って頭に入ってこない。
ただ、明日会えたら、彼女に何と言おうか、どんな本の話をしようか。
そんな空想を楽しみながら、目は申し訳程度に文字を追うだけだった。

27 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/14(木) 00:22:28 ID:GDTIqx6E0

……本をあらかた読み終えて。
   最後のひとかけらのチョコを、口に入れる。

それが口の中で溶けて消えてしまってから、読みかけのページにしおりを挟む。
洗面所で歯を磨き直して部屋に戻る。

いつものように窓と廊下につながるドアを施錠して、ベッドで毛布を被った。

……次に会ったら、何と切り出そう。
   あまりうるさくしたら嫌がられるかもしれない。
   控えめで、それでいてしっかりと感謝を伝えられるような、そんな……

彼女のことを考えている内に、私はまどろんでいた。

28 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/14(木) 00:24:15 ID:GDTIqx6E0



……私の肩を、誰かが叩く。
   囁くような呼び声で、控えめに。



……その声はどこか遠くから、こちらへおいで、と誘うように。
   逆に、こちらに来てはいけない、と押しとどめるように……

29 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/14(木) 00:27:55 ID:GDTIqx6E0



……地面の底からのように、重く。同時に、鳥の羽ばたきのように軽く。
   怒るような、悲しむような。笑うような、すすり泣くような……



……何かを……祈るような声で。
   誰かが……

31 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/14(木) 00:29:39 ID:GDTIqx6E0

                                                   − 4

……風が当たる。
   つい一瞬前まで眠っていた私の頬に、全身に。

窓は閉めていたはずなのに、妙だ。
そう訝りなから、重い瞼を開く。

('、`*川「……」

私の頭上、目の前には。
いくつかの星が輝く夜の暗闇が、広がっていた。

('、`*川「……」

('、`;川「え?」

背中に当たる感触はベッドのマットではなく、冷たい石。
現状がうまく認識できず、慌てて身体を起こし、そして見下ろす。

('、`;川「え、わ、ちょっ!」

着ているのは、風呂上がりに着替えた木綿のパジャマではない。
向こうが透けて見えそうなほどの薄い生地でできた、手術着のような簡素な服だけだ。

下着も、身に付けていない。
もしも昼間だったら、丸裸と大差ない状態だろう。

32 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/14(木) 00:33:27 ID:GDTIqx6E0
誰もいないようだけど、落ち着かない。
片手で胸を押さえ、もう片方の手を股に挟んで、改めて周りを見る。

('、`;川「……」

星空。なのに周囲は真っ暗で、1メートル先さえ見えない。
座っているのは、細かい凹凸で覆われた、平らな石の塊。
まるで石でできた寝台のようだ、そうと思った。

('、`*川「……やっぱり、夢、かな」

落ち着いて考えてみると、やはりそうとしか思えない。
夢の中で「これは夢だ」と気付くのは、そう珍しいことではない。

寝る前に読んでいた小説のせいだろうか。
ひどく現実離れした夢を見るのも、当然始めてのことではない。
こんなに扇情的な格好をしているのは、流石に初めてだけど。

('、`*川「でも、不思議だな。やっぱり」

周囲は、見渡す限りの闇。
寝そべっていた石の台は大きくて、その端は見えることなく闇に沈んでいる。

冷静になると、興味が湧いてくる。

夢の景色は、不思議だ。
一度も行ったことのない場所が、自分の心の働きだけで作り出される。

34 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/14(木) 00:34:39 ID:GDTIqx6E0
('、`*川「……」

そっと片手を下ろし、石のベッドに手を置く。
膝を寄せて、ゆっくり立ち上がろうとする。

……その途端に。
   目の前の暗闇から突き出された「何か」が、私の手首を捉えた。

('、`;川「っ!?」

その正体を確かめる前に、同じものが何本も、何本も伸びる。
私は瞬く間に全身を拘束され、石のベッドに押し倒された。

肩や腰の骨が、ごつごつと石肌にぶつかる。

('、`;川「つっ……!」

これは夢だ。
それは分かっている。
けれど、怖い。

首だけを必死で起こして身体を見下ろす。
そして、私を大の字に押しつけているものの姿を見た。



(;;:::゚;.:,;゚:)

35 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/14(木) 00:36:13 ID:GDTIqx6E0
人影、人間……いや、違う。
人間の形をした、何か。

('、`;川「ひ……っ!!」

頭と、肩から生えた二本の腕。
暗闇の中、「それ」が何人も、何人も、私を見下ろす。

形は、人間のそれ。
なのに一目で人間でないと分かるのは、そのシルエットの異様なバランスだ。

ひどく不格好でまちまちな大きさの、でこぼこした頭。
左右の高さが不釣り合いな肩。ぼっこりと膨らんだ関節に、異常に短い二の腕。
胴体は太っている者もいれば痩せている者もいる。

闇の中、それらを備えた灰色の影が、数え切れないほど浮かび上がった。
丸く、飛び出した目玉の白目だけが浮かび上がって光っている。

('、`;川「嫌ぁっ!」

裸同然の身体を見られていることより、全身を押さえつけられているより。
ただ戯画化した人間のできそこないのような、その姿が恐ろしくて。
私は、叫んだ。

誰も、何も言わない。
無言のまま、その内の一人……一体が、何かを取り出し、掲げる。

(;;:::゚;.:,;゚:)「……」

36 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/14(木) 00:40:53 ID:GDTIqx6E0
星空をバックにして、その形が判別できる。
大きく波打った、ゆらめく火のような形をした、大きなナイフ。

('、`;川「は……離してよっ!」

体を動かして逃げようとするが、両手足は1ミリも動かない。
そいつらの腕が、私を寝台に押しつけ続けている。

(;;:::゚;.:,;゚:)「……」

ゆっくりと。少しずつ。
その刃が振ろされ、私の胸で、ぴたり、と止まった。

両方の胸の膨らみのちょうど中間。
心臓に当たる位置に切っ先を付けたまま、動かなくなる。

('、`;川「な、何……?」

その時になって、気付く。
周囲の怪物達が、口々に何かを呟いているのを。

唸るように低く、念仏のように一定したペースで。
ぶつぶつ、ぶつぶつ……ぶつぶつ……、と。

瞬間。

(#::゚;.:,;゚:)「――――!」

胸に当てられたナイフに。
一気に、体重が掛けられた。

37 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/14(木) 00:42:30 ID:GDTIqx6E0
( 、 ;川「あ――」

怪物の全体重が乗ったナイフの先端が、私の胸の骨をあっさりと貫通した。
頭の奥にまで、みしりっ、と、骨の割れる振動が響く。
そして身体の内側に勢いよく潜り込んだ刃が、私の心臓を切り裂いた。

背中に突き抜けたナイフの先端が、横たわる石の寝台に、かつん、と当たった音が聞こえた。

( 、 ;川「っ、か……ッ……!!」

上半身が跳ね上がる。
熱い。胸が、体の内側が熱い。

私は叫ぼうとする。
けれど、胸の奥から熱い、どろどろした固まりがこみ上げて喉をふさぐ。

( 、 ;川「が、ふっ、ッ」

口から吹き出したのは悲鳴ではなく、鮮血だった。

薄衣の胸に刃の根元まで突き刺さり、取っ手だけが突き出たナイフを見ながら。
怪物達の視線と呟きに囲まれて、私の心臓は……

……これは……



……夢?

38 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/14(木) 00:45:44 ID:GDTIqx6E0
(;、;*川「――――――ッ!!」

跳ね起きる。
両手で胸を押さえて、思い切りむせる。

(;、;*川「っ……けほっ、ごほっ!」

声が、出る。

それに気付き、次いで認識する。

目に映る自分の腕は、いつものパジャマの袖。
起き上がったのは、自分の部屋のベッドの上。
カーテンの隙間から薄く朝日が差している。

('、`;川「あ……」

全てを確認して。
胸を押さえた手をそろそろと離し、深呼吸する。

('、`*川「……はあっ」

何もかもが、寝る前のままだ。
机の上の文庫本も、クーさんからもらったチョコの箱も。
私の服も当然無傷で胸にも傷ひとつ残っていない。

(-、-;川「夢、だよね。
      間違いない」

39 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/14(木) 00:47:04 ID:GDTIqx6E0
「殺される夢」は、夢診断ではむしろいい夢だと言われる。
ストレスからの解放や問題の解決により、自分の状態が良い方向に変わる前触れ、
だそうだ。

でも、あれがそんなものとはとても思えない。

見たもの全てが現実離れしていたけれど、感覚がひどくリアルだった。
目覚めたばかりの今よりも、ずっと。

感じた風や石の感触、ナイフを刺された感触までもが今でもまざまざと思い出された。
いつも見る夢の中では、思考ははっきりしていても五感は膜が張ったように鈍いのに。

吹く風にかすかに潮の臭いが混じっていたのを思い出し、また気分が悪くなる。

(-、-*川「……最悪」

もう一度、勢いをつけてベッドに転がる。
全身がひどく気怠い。あの夢で全て体力を使い果たしてしまったようだった。

幸い、今日は土曜日だ。
もう少し眠っても、誰も文句は言わない。

……彼女に、会いたい。
   会って、話したい。

休日に見た夢の話をできるような親しい友人は私にはいない。
馬鹿にせずに聞いてくれそうなのは彼女、クーさんぐらいのものだ。

午後になったら、図書館に行ってみよう。
そこまで考えたところで急激に強い眠気を感じて、私は目を閉じた。

40 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/14(木) 00:47:54 ID:GDTIqx6E0

                                                   − 5


結局、ベッドから起きあがったのは午後になってからだった。
昼食を食べ、何か言いたげな顔をしていた母親に、図書館に行ってくるから、とだけ
言い残して家を出た。

('、`*川「……」

('、`;川「なんか、かったるい……な」

うつむきがちに、図書館への道を歩く。
妙に身体が重い。

('、`;川「と、とっ」

すぐ横を走り抜ける自転車に気付かず、慌てて脇に避ける。
これでは、まるで老人だ。

沢山寝過ぎたせいかもしれない。
風邪の引き始めかもしれない。
体調が悪くなりはじめたせいで、あんな気色の悪い夢を見たのかもしれない。

それでも、家でゆっくり休んでいようという気にはなれない。
気が滅入るだけだし、妙に誰かに……クーさんに、話を聞いてほしかった。

結局の所、心細かった。
無性に、彼女に会いたかった。

41 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/14(木) 00:51:31 ID:GDTIqx6E0
重い身体を引きずって図書館の階段を上る。
それでもどうにか三階まで辿り着き、いつもの席まで向かう。

本棚の角を曲がり、通りに面した大きな窓ガラスの前のブース。
いつもの一番角と、その手前の席。

……そこに、彼女は――いなかった。

('、`*川「……」

私は落胆する。
せっかく頑張ってここまで来たのに、と思う。

でも、思えば当然のことだ。

今日は土曜で、私は普段は休日はここに来ない。
だから彼女がここにいなかったとしても、それは当たり前のことだ。

でも私はここでしか彼女に会ったことがない。
彼女の家の場所も携帯電話の番号も知らない。
だから、彼女に会いたければここに来るしかなかった。

('、`*川「分かってる。
      けど……けど」

どっと疲れが押し寄せる。
私は上着も脱がないまま、崩れ落ちるように椅子に座った。
机に突っ伏すような姿勢になって、隣の席を見る。

42 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/14(木) 00:52:25 ID:GDTIqx6E0
('、`*川「……?」

何度見ても、彼女はそこにはいない。
けれど代わりに……分厚い一冊の本が。
開かれたまま、彼女のものだった机に鎮座していた。

('、`*川「クーさん、来てるのかな」

途端に、目の前が明るくなる。
思わず立ち上がり、開かれたその本を覗き込んだ。

それは日本の歴史が書かれた事典のようだった。
小さい字で埋め尽くされたページの、中程。
そこに小さな、赤い付箋紙が留めてあった。



"是ニ其ノ妹ノ伊邪那美命ニ相見ント欲シ黄泉国ヘ追往ケリ。爾シテ殿ノトザシ戸ヨリ
 出デ向カヘシ時、伊邪那岐命ノ語ラヒ詔リタマヒケラク、愛シキ我ガ那邇妹命、我ト
 汝ト作レル所ノ国未ダ作リヲヘズ。故ニ還ルベシ。爾シテ伊邪那美命答ヘテ白ク、悔
 シキ哉、速ク来ズテ。吾ハ『黄泉戸喫』為ツ。然レドモ愛シ我ガ那勢命、入リ来坐
 セル事恐シ。"……



('、`*川「……黄泉下り、かな」

それは古事記にある、イザナギノミコトの「黄泉下り」の一節だった。

43 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/14(木) 00:54:40 ID:GDTIqx6E0
イザナギは死んでしまった妻、イザナミにどうしても会いたくなり、黄泉の国に行く。
「国作りはまだ終わっていないのだから、二人で地上に戻ろう」と誘うけれど、イザナ
ミは彼の誘いに首を縦には振らない。

……吾ハ『黄泉戸喫』為ツ。

"黄泉戸喫"――"よもつへぐい"。
すなわち黄泉の国の食物を食べた人は、もう地上に帰ることはできないのだという。
そして彼女は、イザナミは、この後……

('、`;川「……」

……イザナギがこの後覗き見た彼女は、腐乱死体になり果てていた。
彼女は陰部を雷で貫かれ、全身を蛆虫が這い回り、そしてその身体から八柱の邪な
神様が生まれているところだった……

好転し掛けていた気分が、また悪くなる。
なんとはなしに、思い出したからだった。

……彼女が手渡してくれた、グレイの包みのチョコレートを。

('、`;川「……やだな」

偶然に決まっている。
この本だって、彼女が置いたものかどうかも分からない。
第一、彼女が好意でくれたものに対してそんな気持ちを抱くなんて。

何でも疑ってしまうのは私の癖で、それが悪いとは思わないが、後悔する。
自己嫌悪に陥り、本の表紙に手を掛ける。そっと閉じて、顔を上げた。

44 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/14(木) 00:55:57 ID:GDTIqx6E0
川   )

正面の窓ガラスに、ふと……揺れる黒い、長い髪が映ったような気がした。

('、`*川「っ!?」

思わず、後ろを振り向く。
数メートル先、背の高い本棚の向こうを、誰かが歩き去ったように見えた。
私と、同じ高校の制服が。

('、`*川「クーさん?」

呟いて、立ち上がる。足早に、その本棚の方に向かう。
角を折れて、その先を見る。
その更に一つ先の角で、黒い髪の先端が、揺れた。

('、`;川「あっ……」

それを追いかけて、また本棚の角を曲がる。
吹き抜けに面した、大きな通路に出た。

川 ゚ -゚)

今度は、見間違いなんかじゃない。
彼女は私の視線のずっと先、階段室の前の暗がりで振り返り、そして微笑んだ。

川 ゚ ー゚)「――」

そのまま……階段室の戸を開け、その中に滑り込んだ。

45 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/14(木) 00:57:43 ID:GDTIqx6E0
('、`;川「クーさん、っ!」

周りの迷惑を顧みる暇もない。
私は彼女が姿を消した階段室に向かって走る。
灯りの影になったそこに駆け込み、周囲を見回す。

非常灯の、薄緑色に照らし出された冷たい空間。
無機質な白い壁に、傾き掛けた太陽の光が細長く、頼りない筋を伸ばしている。

('、`;川「はあっ……はあっ……」

疲れているのに走ったせいで、私はひどく息切れしていた。
壁に手を突いて、その角の重い金属のドアに向かい合う。
ノブを握り、力任せに回す。

ドアノブは、がちん、と音を立てて止まった。
ドアは、施錠されていた。

('、`;川「え……?」

私は、確かに見た。
彼女がこの前に立っていて、それからドアを開けて、ここに入っていったのを。

('、`;川「……」

( 、 ;川「ウソ、だ」

46 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/14(木) 00:58:39 ID:GDTIqx6E0
幻なんかじゃない。
私は、確かに、見たんだ。

息切れが止まらない。頭が重くて、また目眩がする。
今までよりもずっと酷い目眩が。
体調が悪いのに走ったからだろうか。

('、`;川「あ、あれっ」

立っていられなくて、床にへたり込む。
床についた脚に、その冷たさは感じられない。
手も、足も、自分のものでなくなったように感覚が遠い。

貧血を起こしたときのような感覚に近い。
頭の中で何かがざわざわと鳴って、それがだんだん足下に向かって落ちていくような。

熱くもなく冷たくもない。
何も感じなくて、ただ意識だけがふわふわと漂っているような感じがする。

(-、-;川「……」

床の模様が急に大きくなって、目の前に迫ってくるように見えて。
私は、目を閉じた。

……頭が……



……眠い。

47 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/14(木) 00:59:47 ID:GDTIqx6E0



……私の肩を、誰かが叩く。
   囁くような呼び声で、控えめに。



……その声はどこか遠くから、こちらへおいで、と誘うように。
   逆に、こちらに来てはいけない、と押しとどめるように……



……私の名前が、呼ばれた。

48 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/14(木) 01:01:33 ID:GDTIqx6E0

                                                   − 6


その声色に。
私は一気に、現実に引き戻される。

('、`;川「……あ」

がばっ、と身体を起こす。
頭はまだ少し痺れていて思考は働いていない。ただの反射だ。

呼ばれたような気がしたからだった。
彼女に。

けれど。

川 ゚ -゚)「ああ……起きたか」

今度は、夢でも幻でもなかった。
声は、確かに私の隣から聞こえた。

('、`*川「あ、っ」

私のすぐ傍に。
彼女は、座っていた。

49 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/14(木) 01:02:47 ID:GDTIqx6E0
川 ゚ -゚)「大丈夫か? ずいぶん、うなされていた」

('、`*川「あ……クー……さん」

言いたいことはある。
けれどその前に、まず安心した。

('、`*川「あ、あの。わ、私っ」

川 ゚ -゚)「どうした?」

クーさんの声は、優しい。
あの時、初めて彼女がそうするのを見たときのように、微かに笑っている。

やっぱり、彼女はいたんだ。
さっきのは、見間違いか何かだったんだ。

('、`*川「ひどいです。クーさん。
     私をからかって、あんな……」

そこまで言って。

('、`*川「あんな……いた、ずら……」

私たちの座っている場所。
周囲の様子に、気付く。

50 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/14(木) 01:03:57 ID:GDTIqx6E0



……違う。
   これは、ここは。



真っ暗な中。上の方で瞬いている、いくつかの星。
腰掛けているそれは冷たくて、ごつごつとした固い感触で。

('、`;川「……うそ」

あの、場所だ。
私が「殺された」……あの夢の中の場所。

私はそれきり言葉を失ってしまって、ただ黙って彼女を見る。
温度の感じられない、潮の香りのする風が吹く。

川 ゚ -゚)「次に会うのが楽しみだ、そう言ったな。
     会いたかった……ようやく、会えた」

静かに笑みを浮かべたまま、彼女は。
まるっきり場にそぐわない嬉しげな声で、呟いた。

身体を起こし、私に向ける。

51 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2013/02/14(木) 01:08:00 ID:GDTIqx6E0
('、`;川「あ……!」

その衣服は、あの時夢の中で私が着ていたのと同じ。
その下の素肌が透けて見えてしまうほど薄い、奇妙な質感の衣。
そして私が着ているのは……夕べと同じ。コットンのパジャマ。

……夢だ。また、夢だ。
   そのはずだ。そうでないと、おかしい。

川 ゚ -゚)「君も思っただろう?
     私にまた会いたいと、私のようになりたいと、そう」

けれど。

そんなことなど全く構わず、前に初めて話したときのように淡々と。
私の心の中を易々と言い当てて、そして。

('、`;川「あ、え……」

川 ゚ -゚)「だから――」

言葉を切り。
彼女は動揺する私の顔に唇を寄せ……私の唇を、ぺろり、と、舐めた。

                                               − 前編・終



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