ξ   )ξストール女のようです

後編

37 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/26(水) 23:03:38 ID:Hh/xen820

3、

 深夜のファッションホテル。
 薄暗い一室で内藤は目を醒ました。
 隣には、静かに眠る津田。

 内藤はむくりと体を起こす。

 
 ( ´ω`)「おー…」


 ふと数時間前の自分の行動を思い出す。


 ( ´ω`)(どうして僕は……)


 内藤は深い深いため息をついた。

 彼は津田を起こさぬよう注意しながら、ベットから抜け出す。

 そして のろのろとトイレへ向かった。
.

38 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/26(水) 23:04:19 ID:Hh/xen820

 端的に言えば、内藤は失敗をした。

 出だしは好調だった。

 内藤はリラックスしてデートに臨んでいた。

 映画と食事を終えた時、既に彼は『準備万端』であったのだ。


 だが部屋に入り、津田がシャワーを浴びた頃から雲行きが怪しくなる。
.

39 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/26(水) 23:06:19 ID:Hh/xen820


 ξ* ー )ξ「いよいよね」


 バスローブを羽織った津田が、うっとりと内藤をみつめる。 


 瞳が、オレンジの照明光を受け、怪しく黒くてらてらと光った。

 それは、怪物が蠢いているような 暗い海底、

 或いは、月明かりも届かぬ奈落の底を連想させた。

 ゾワリと鳥肌が立つ。


 ( ; ω )


 この時 内藤は、初めて津田を不気味だと感じた。

 理由は自分でも分からない。

 
 ( ; ω )(逃げなきゃ……だお)

 
 脈絡のない思考が浮かび、内藤本人も困惑する。
.

40 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/26(水) 23:07:00 ID:Hh/xen820

 ( ;^ω^)(逃げる? なんでだお?)

 ( ;^ω^)(緊張で混乱しすぎだお、この童貞が)


 彼は自分自身を笑い飛ばす。

 しかし、漠然とした恐怖は払拭されず、心の底にべっとり張り付いた。


 そんな状態では勃つはずもなく、


 ( ´ω`)「ごめんだお……今日は無理そうだお……」

 ξ^ー^)ξ「落ちこまないで。初めては緊張するらしいし」


 内藤は断念したのだった。
.

41 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/26(水) 23:08:10 ID:Hh/xen820

( ^ω^)「ふぅ」

 手洗いを済ませた内藤は、ベットへと戻った。 

 津田の頬に覆いかぶさる金髪を、彼はそっと彼女の耳にかけてやる。

 彼女は、微笑みを浮かべていた。

 長くカールしたまつげ。 

 いつか飲んだブラッディメアリーのように赤い唇。

 そこから小さな寝息が漏れる。
 
 シンメトリーで整った顔立ちは、まさにフランス人形のようだ。


 内藤は、先ほどとは別種のため息をつく。

 自責ではなく、感嘆だ。


 ( ^ω^)(ツンはやっぱり綺麗だお)

 ( ^ω^)(さっきのは、あれだお。綺麗すぎて怖くなったんだお。きっと)

 ( ´ω`)(相当なヘタレだおね、僕…… 次は頑張らないと)
.

42 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/26(水) 23:10:45 ID:Hh/xen820

 目線を胸に移そうとし、ふと内藤は奇妙なことに気付く。

 今の津田は下着も身につけていない。

 だが彼女の首には紺色のストールが巻かれていたのだ。

 思い返せば、津田は行為の最中も付けたままだった。

 外し忘れたのだろうと、内藤は推測をする。


( ^ω^)(ツンの首が絞まったら大変だお)


 彼は津田を抱き起こす。
 
 彼女の肌はシルクのように白くなめらかで、そして冷たい。

 内藤は津田を起こさぬよう、左手でそっとストールを解いていく。
.

43 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/26(水) 23:11:35 ID:Hh/xen820


 そうしてストールの下から現れたのは、



( ;^ω^)「…え?」



 ――老婆のように皺だらけの皮膚だった。


 内藤は言葉を失う。
.

44 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/26(水) 23:12:15 ID:Hh/xen820

 鎖骨上部の一帯が黄ばんでおり、黒いしみも点在している。
 
 喉の近くには、赤く不自然に隆起した痣があった。

 首回りの皮膚は、他の肌と比べても、明らかに異質だった。


 内藤の全身から嫌な汗が噴き出す。


( ;^ω^)「と、特殊メイクかな……」


 彼の脳内で、何かが警鐘を鳴らす。

 心臓がどくどくと騒ぎはじめる。

 口の中が乾いてゆく。


( ; ω )「そうに決まってるお……」

 内藤は自分に必死に言い聞かせる。
 


 だが気付けば彼は、部屋を飛び出していた。
.

45 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/26(水) 23:14:09 ID:Hh/xen820

4、

 内藤は何かから逃げるように夜の街を掛けた。

 そして息も絶え絶えになりながら、自宅前へと辿りつく。 
 
 幸い、鍵の入った財布はズボンに入れたままだった。


 中へ入り震える手で鍵をかけると、彼は玄関に座りこむ。

 喉は渇き、焼けたように痛い。汗で濡れた服が体に纏わりつく。


( ;´ω`)「……」

( ;^ω^)「取りあえず、水、飲むお」

 足に力を入れ、なんとか立ち上がる。その時だった。
.

46 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/26(水) 23:14:51 ID:Hh/xen820

 リリリリ... リリリリ....

 部屋に明るげなメロディが響く。

 電話だ。

 誰からだろうか?

 汗のせいか、体が冷える。内藤はぶるりと身震いをした。


 メロディが、再び響く。

 内藤はよろよろと受話器に歩み寄る。


 3コール目が鳴ったあと、留守番電話へと切り替わる。

 『只今留守にしております。ピーという発信音の後にご用件をお話ください』
 
 甲高い機械音。

 内藤は受話器をじっとみつめ、次の言葉を待った。
.

47 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/26(水) 23:16:05 ID:Hh/xen820


 『八木です。夜分に失礼します。早急に……』


( ^ω^)「!」

 流れてきたのは八木の声だ。

 内藤はすかさず子機を掴み取った。


( ^ω^)「ショボ! ショボかお!」

 『もしもしブーン? 今話しても大丈夫?』

( *^ω^)「問題ないお! 全然、問題ないお!」


 安心した反動か、内藤は陽気に大声で話す。


( -ω-)「あー、よかった……」

( ^ω^)「びびって損したお!」

 『びびる?』

( ^ω^)「こっちの話だお。気にしないでほしいお」

 『なら、いいんだけど……』

( *^ω^)「それで要件は何だお? 夏休みの旅行計画かお?」


   『いや、津田さんのことでね』


 内藤は体温がすぅと下がるのを感じた。
.

48 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/26(水) 23:27:38 ID:Hh/xen820

( ;^ω^)「津田、さん?」

 『うん。実は僕のおじさんがその……いろいろ調べてくれたんだ』


 そういえば八木の伯父は探偵だったなと、内藤は思い出した。

 高校時代、ストーカーに悩むクラスメイトを八木が助けたことがあった。

 その時に八木は、伯父に少し協力してもらったのだと言っていた。  


 『ちょっと変だなって思うところがあったから、話したんだよ』

 『そしたら「怪しいから調査したほうがいい。俺がやってやる」って言われて……』

 『……勝手にごめんよ』


 内藤は首を横に振る。

 実際、彼らの勘は当たっていたのだから。

( ;^ω^)「それで、結果は?」

( ;^ω^)「わざわざ電話してきたってことは……」

『……うん』 

『彼女は嘘をついていたよ』
.

49 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/26(水) 23:29:15 ID:Hh/xen820

『大学には通ってないどころか、入学すらしていなかった』

『ブーンに会うまでは化粧品会社で働いていたみたいだね』

『津田京子という名前も偽名だった。本当の名前は、』


 八木は、"津田"の本名を内藤へ告げる。


 瞬間、内藤の体が硬直した。


( ; ω )「……」

( ; ω )「ショボ、名前の漢字も分かるかお?」

 『もちろん。下り坂の「坂」に出口の……』

 八木は丁寧に漢字を伝える。
 内藤の顔は、段々険しくなってゆく。
 八木の説明が終わると、内藤はそれを復唱し確認をした。

 『そう、それで間違いないよ』

( ;´ω`)「……」

 内藤は額に手をあて天井を仰いだ。

 どうして、彼女がその名を騙っているのだろうか。

 頭が熱い。目がチカチカする。

 『聞いたことある名前?』

( ;´ω`)「……明日話す、でいいかお? 一度落ち着いて考えたいお。相談したいこともあるし」

 『分かった』

( ;´ω`)「ありがとうだお」

 『じゃあ、また明日だね。おやすみ』

( ;´ω`)「おやすみ」


 受話器を置く。

 内藤はふぅーっと長く息を吐いた。

50 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/26(水) 23:30:17 ID:Hh/xen820








  「素敵なお友達ね」






.

51 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/26(水) 23:33:03 ID:Hh/xen820

( ゚ω゚)「!」

彼の息が一瞬止まる。
後ろから何者かに抱きつかれる。


ξ*^ー^)ξ


 横を向くと、そこには彼女の顔があった。


( ;゚ω゚)「なんでだお……鍵は……」

ξ゚听)ξ「忘れ物よ」


 内藤の足元にどさりと、何かが投げ置かれる。

 彼の鞄だ。


( ;^ω^)「あ……」

 もちろん内ポケットには、予備の鍵が入っている。 


ξ*゚ー゚)ξ「彼女を置きざりだなんて酷いわ」

ξ*^ー^)ξ「ねえ八木君と何を話していたの?」


 甘ったるい香水の臭いが漂う。


( ;´ω`)「えっと……」


 内藤の頭の中は真っ白になる。

 今の状況は、彼の処理能力を超えていた。

 誤魔化すことを内藤は諦める。
.

52 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/26(水) 23:33:56 ID:Hh/xen820

( ;^ω^)「ツンは、"津田京子"じゃなかったんだおね」

ξ゚听)ξ「バレちゃった? あとで驚かせようと思ってたのに」


 彼女の本名は、坂出零子。

 ――15年前に『内藤』零子だった女性の名だ。


( ;^ω^)「僕のお母さんと同姓同名だなんて、」

( ;^ω^)「す、すごい偶然だお! はは……」

ξ゚ー゚)ξ「偶然なんかじゃないわよ」


 彼女の口がにやりと歪む。
 

ξ*^ー^)ξ「だって、お母さんですもの」

.

54 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/26(水) 23:36:37 ID:Hh/xen820

( ;´ω`)「ありえないお!だって僕のお母さんは今年で50歳に…」

ξ゚听)ξ「覚えていないの? さっき見たでしょう?」


 零子は闇夜色のストールをずりおろす。

 腐った林檎のような皮膚が露わになる。

 内藤の全身が粟立った。


ξ゚ー゚)ξ「ほらここ」 


 彼女は喉の中央にあるグロテスクな赤い痣を指差す。


ξ*^ー^)ξ「貴方が私に作った傷よ? 」

ξ*゚ー゚)ξ「私に火傷させたじゃない」

 幼すぎたせいか、内藤には全く覚えが無かった。
.

55 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/26(水) 23:37:31 ID:Hh/xen820

 ただれた部位を、零子は幸せそうに指でなぞる。

 彼女の眼にはネックレスの宝石にでも映っているのだろうか。


ξ*^ー^)ξ「これが私と貴方を繋ぐ、唯一の証。私の宝物」

ξ*^ー^)ξ「だから大切に取っておいたの」


 零子は歌うように囁く。

 頬に浮かぶ えくぼは、もはや痘痕にしか見えない。


ξ* ー )ξ「嗚呼ブーン、私の可愛いブーン」


 彼女は内藤の頭を撫でる。

 執拗に、ねっとりと、何度も撫でる。

 内藤の理解は全く追いつかない。

 ただただ、体を強張らせるのみ。
.

56 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/26(水) 23:38:23 ID:Hh/xen820

ξ*゚ー゚)ξ「私、綺麗になったでしょう?」


 零子の白い腕が、内藤の首に絡みつく。さながら蛇の如く。

 逃れるため内藤が頭を動かすと、彼女は人差し指の腹で喉仏を静かに押す。


ξ゚听)ξ「どうしたの、綺麗じゃないの?」


 息苦しくなり、内藤はゲホゲホと咳き込んだ。


ξ゚ー゚)ξ「やっぱり金髪は嫌い? 瞳の色が好みじゃない? それとも、バストが足りないの?」


 蛇の牙――爪が内藤の首筋に喰いこむ。


ξ゚听)ξ「黙ってないで、教えて頂戴。でないと私、正しく直せないわ」

ξ*--)ξ「無駄にお金は使いたくないの。折角、新婚旅行のために貯めたんだから」


 そこでようやく、内藤は事態を把握する。

 つまり坂出零子は、全身を整形をしたのだ。

 金を費やすことで、この美貌を手に入れた。

 何のため?

 愛する我が子と結ばれるために、だ。


 内藤は震え上がる。

.

57 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/26(水) 23:45:34 ID:Hh/xen820

 彼女の笑顔はまるで、初恋に酔う処女のよう。

 だが、唇から洩れるのは おぞましい台詞ばかり。


ξ*^ー^)ξ「ずっと待っていたのよ」

ξ*^ー^)ξ「ずっと、ずぅっと待ってたの」

ξ*^ー^)ξ「ずっと、ずっと、ずぅぅっと! 待ってたの」


 おぼろげだった母親の像と、この狂った女の姿が、限りなく近づいてゆく。

 それにつれて、内藤の中で生理的嫌悪が増していく。


ξ*^ー^)ξ「一目みてすぐ分かったわ」

ξ*^ー^)ξ「だって、雰囲気が全然変わってないんですもの」

ξ*^ー^)ξ「小さかったころも可愛かったけれど」

ξ*^ー^)ξ「大きくなっても素敵だわ」


 余った腕を零子は、内藤の下腹部へと伸ばす。  

 内藤の喉の奥から、酸っぱい気配がこみ上げる。


ξ*^ー^)ξ「ハネムーンはどこがいいかしら?」

ξ*^ー^)ξ「子供は何人ぐらいがいいかしら?」

ξ*^ー^)ξ「ねえブーン」


 ついに、内藤の中で母と零子が かちりと一致する。

.

58 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/26(水) 23:46:27 ID:Hh/xen820




  ξ(^ー^*ξ「これからはずぅっと一緒よ」



.

59 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/26(水) 23:47:21 ID:Hh/xen820

(  ω )

 内藤の胃が激しく痙攣した。

 食道を異物が這い上がる。

 肩が一度大きく、ビクンと揺れる。

 内藤は、床に吐しゃ物をぶちまけた。 


ξ(゚、゚*ξ「あら」


 驚いた零子は、手を離す。床に倒れこむ内藤。


ξ(゚、゚*ξ「あらあら」


ξ(゚ー゚*ξ「お掃除しなきゃ。雑巾はどこにあるのかしら」

 しばらくして吐き気が収まると、内藤は口を拭い、立つ。

.

60 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/26(水) 23:48:36 ID:Hh/xen820

(  ω )「……って」

ξ(゚ー゚*ξ「?」

(  ω )「帰って、くださいお」


 内藤は零子の体を押し、廊下へ、玄関へを向かう。


ξ(゚、゚*ξ「え、え、ちょっとぉ」


 彼は無言のまま、零子を玄関の外へと突き飛ばそうとした。


( ; ω )「!」


 しかしその瞬間、彼女は内藤の手首を握る。
.

61 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/26(水) 23:49:19 ID:Hh/xen820

ξ(^ー^*ξ「どうして?」


 零子の握る力は強く、振り払うことかできない。
 
 内藤の左手が鬱血してゆく。


ξ(^ー^*ξ「お母さんをお嫁さんにするって、昔 約束してくれたじゃない」


 ぞわりと全身に悪寒が走る。


 違う。そうじゃない。そんなつもりじゃない。

 離してくれ。離れてくれ。


 内藤は傘立てからビニール傘を掴む。


ξ(゚ー゚*ξ「ブーン?」



 彼は零子の腕めがけて、傘を全力で振り降ろした。
.

62 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/26(水) 23:50:01 ID:Hh/xen820

ξ(゚、゚ ξ


 傘の先端が零子の腕に刺さる。

 彼女の体は、後ろへとよろめく。


 蛇の牙が離れる。

 それでも淀んだ零子の眼は内藤を捉え続ける。
 


 内藤はすぐさま扉を閉め鍵を締めた。

.

63 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/26(水) 23:53:18 ID:Hh/xen820

 内藤は玄関でへたり込む。

 彼の体にどっと疲れが押し寄せる。

 もう立ち上がれそうにもない。


(  ω )「ふーーっ……」


 全身の阿寒は収まらず、体が小刻みに震える。


 ガチャッ


( ; ω )「ヒッ」

 ドアノブが、音を立てた。

 外から零子が回しているのだろう。

 勿論、開くはずはない。
.

64 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/26(水) 23:54:25 ID:Hh/xen820
 
 ガチャッ

 再び。

 それから3回目。4回目。5回目。

 6回、7回、8、9、10…
 
 間隔はどんどん狭くなってゆく。


( ; ω )


 20を超えた辺りから、内藤は数えるのを止めた。
 
 彼は耳を両手で塞ぎ目をぎゅっと瞑る。

 内藤は、ひたすら 朝が早く来てくれと祈る。


 金属と金属がぶつかる不快な音は、一晩中続いたのだった。
.

65 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/26(水) 23:56:16 ID:Hh/xen820
5、

  あれから数か月が経った。

  季節は秋と冬の境目。

.

66 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/26(水) 23:57:45 ID:Hh/xen820

( ^ω^)「もしもしドクオ? 元気にしてるかお」


  とあるアパートの一室で夜、内藤は友人の毒島と電話をしていた。


( ^ω^)「うん、僕は元気にやってるお」


 あれから内藤は、八木伯父の助言に従い、
 大学に休学届けを出した後 すぐさま都外へ引っ越した。
 それが唯一、零子から逃れる方法だったのである。


( ´ω`)「遊びに来たい? うーん、それはちょっと難しいおね……」


 引っ越し先は友人にはおろか、父親にすら伝えていない。
 どこから零子へ漏れるか、分からなかったからだ。


( ^ω^)「……そうだおね、また三人で飲みたいお」


 寂しくない、辛くないと言えば嘘になる。

 だが、今の内藤には心の支えとなる存在があった。


 「文雄、ご飯できたぞ」 


( ^ω^)「ドクオ、ごめん。クーちゃんがうるさいから。じゃあまた」


 内藤は通話を切り、携帯をポケットにしまう。

 
川 ゚ -゚)「今、私が五月蝿いと言ったか?」

( ;^ω^)「言葉の綾だお」

川 ゚ -゚)「なら構わんが」
.

67 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/26(水) 23:58:36 ID:Hh/xen820

 内藤は今、砂尾 空 という女性と同棲していた。
 引っ越して二週間後にバイトで知り合い、意気投合。
 一ヶ月前から交際を始めている。

 もちろん、首には皺一つない。


川 ゚ -゚)「料理が冷めてしまう。美味しいうちに食べてくれ」

( ^ω^)「いただきますだおー」

( *^ω^)ハムハム ムシャムシャ

川 ゚ -゚)「君は、毎回勢いよく食べるな」

( *^ω^)「くーふぉふぉーりふぁ、おいふぃーふぁふぁふぁお!」

川;゚ -゚)「食べながら喋るんじゃない」

 数か月前の恐怖も、見知らぬ土地での不安も、
 消えはしないが薄れてゆく。

 内藤は、ささやかな日々に幸せを感じていた。
.

68 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/27(木) 00:00:04 ID:C6eAlRkU0

川 ゚ -゚)「少し寒いな。暖房の効きが悪いのか?」

( ^ω^)「あ、喚起のために窓を開けたままだったお」

川 - -)「全く、君はダメな…奴だな。私が閉めてこよう」

( ^ω^)「クー、ありがとうだおー!」


 砂尾はエプロンを脱ぎ、窓際へ近づいた。


川 ゚ -゚)「……ん?」

 窓に何か映っている。

 彼女はじぃと目を凝らす。

69 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/27(木) 00:01:54 ID:C6eAlRkU0

 しかし何ということはない、それは彼女自身の姿だった。

 長い黒髪。茶色の瞳。豊満な胸。捲り上げた袖からは…


川 ゚ -゚)「あ」


 彼女は、左の二の腕にある縫い傷が露わになっていることに気づく。

 それは3針ほどの小さな傷だ。

 例えば…… 棒状の物体で強く突かれたら、こんな風になるだろう。

 砂尾は愛おしそうに、傷をそっとなぞる。


 川* ー )


 彼女は、微笑んだ。

 頬にえくぼができる。


( ^ω^)「どうしたお、クー」

 立ち止まったままの彼女に、内藤は声をかける。


川 ゚ -゚)「いや、何でもないさ」



 "砂尾"は袖を下し傷を隠すと、窓の鍵をゆっくり締めたのだった。



(終)
.

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