-
2 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/23(日) 00:32:15 ID:I82Fuou.0
-
1、
内藤が彼女と出会ったのは、二十一歳の春。
その日 彼は大学の友人らと共に、都内のとあるバーに訪れていた。
( *^ω^)「こういうの、いいおね! 大人の男って感じで」
(*'A`)「さすがショボ。ショボが紹介する店ってハズレないよな」
(*´・ω・`)「買いかぶりすぎだよ。全部先輩の受け売りさ」
三人はボックス席で、各々好みの酒を飲んでいる。
痩せこけた青年の名は毒島、下がり眉毛の青年の名は八木。
彼等は高校の頃からの知り合いであり、大学生となった今でも
三人で遊ぶことが多かった。
( *^ω^)「僕は次のを注文するけれど、二人は何か頼むかお?」
内藤はメニューを眺めながら尋ねる。
(*´・ω・`)「僕はチェイサーでお願い」
(*'A`)「俺はパス」
(*-A-)「てかお前、今週は金欠だって騒いでたが、そんなに注文して平気なのか?」
( *^ω^)「心配無用。今日は僕の誕生日だから、二人に奢ってもらうんだお!」
(#'A`)「勝手に決めるな」
-
3 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/23(日) 00:34:47 ID:I82Fuou.0
-
そんな風に談笑している時だった。
彼等が座っているボックス席にウェイターがやってきた。
これ幸いと内藤は注文しようと口を開くが、しかしウェイターはそれを手で制す。
( ^ω^)「?」
ウェイターは「失礼ですが……」と前置きし、彼等に質問をした。
(=゚ω゚)「内藤様は、どなたでしょうか?」
.
-
4 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/23(日) 00:35:45 ID:I82Fuou.0
-
顔を見合わせる3人。これはどういうことだろう。
( ^ω^)「僕ですが……」
内藤がおずおずと返事すると、ウェイターは彼の前にカクテルを置いた。
ロンググラスに注がれた液体は赤く、輪切りのレモンが添えられている。
事態が呑み込めず、内藤は首をかしげる。
するとウェイターはスッと手を挙げ、内藤の背後を示す。
つられて内藤が振り返ると、カウンターの隅に一人の女性が座っていた。
.
-
5 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/23(日) 00:36:43 ID:I82Fuou.0
-
ξ )ξ
彼女の髪はブロンドであり、薄暗い店の中、一際輝いて映る。
まとっているのは、肩を出した黒いドレス。
首にはラベンダー色のストールが捲かれており、それがアクセントとなっていた。
顔はこの席から全てを伺うことはできず、しかしスラリと高い鼻はハーフを連想させる。
ぼぅと彼女に見惚れる内藤。
そんな彼にウェイターは、こう告げた。
(=゚ω゚)「あちらのお客様からです」
.
-
6 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/23(日) 00:37:34 ID:I82Fuou.0
-
ストール女のようです
.
-
7 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/23(日) 00:40:12 ID:I82Fuou.0
-
先に言葉を発したのは、八木だった。
(*´・ω・`)「……知り合い?」
((( ;^ω^)))
内藤は首を横にぶるぶると振った。
マナーモードのような内藤を見て、毒島は小声で叫ぶ。
(*'A`)「スゴいぞブーン! 逆ナンだぞ!」
( ;^ω^)「やっぱり、そうなのかお……?」
店の洒落た雰囲気に感嘆していた内藤。
だが、映画のような台詞を聞くとは思ってもいなかった。
( ;^ω^)「こういう時って、どうすればいいんだお……」
(*´・ω・`)「とりあえず、話してきなよ」
( ;^ω^)「おー…」
(*'A`)「ほれさっさと行け」
戸惑いながら席を立った内藤の背中を、毒島と八木が推す。
内藤は赤いカクテルを抱え、ゆっくりと女性の元へ向かった。
.
-
8 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/23(日) 00:41:52 ID:I82Fuou.0
-
( ^ω^)「あ、あの」
声をかけると、女性が振り返る。
凛とした表情は、例えるなら薔薇だろうか。
内藤は会釈をすると、彼女の隣に腰かけた。
( ^ω^)「カクテルあ、りがとうございます」
普段の変な喋り癖が出ないよう、内藤は細心の注意を払う。
ξ゚听)ξ「突然ごめんなさいね。でも」
彼女はじっと内藤を見つめる。
ξ゚ー゚)ξ「どうしても渡したかったの」
彼女の瞳は深い海のように蒼い。
瞳の中央には、内藤の姿が小さく映っている。
溺れているようだと、彼は思った。
.
-
9 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/23(日) 00:42:51 ID:I82Fuou.0
-
ξ゚听)ξ「だって、今日は特別な日だもの」
( ^ω^)「そう、なんですか?」
ξ゚ー゚)ξ「貴方の誕生日でしょう?」
( ^ω^)「え?」
内藤は酔った頭を必死に働かせる。
この女性とは初対面だ。
自分の誕生日を元から知っていたことはあり得ない。
ならば導き出される答えは一つ。
先程の会話が彼女にまで聞こえていたのだ。
( ;´ω`)「声が大きかったですか? すみません……」
ξ*^ー^)ξ
女性は優しく静かに微笑んだ。
ふっくらと赤く艶やかな唇。
頬がきゅぅと窪み、えくぼができあがる。
彼の心臓が強く跳ね、鼓動が早くなった。
.
-
10 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/23(日) 00:43:57 ID:I82Fuou.0
-
内藤は愚鈍な脳を懸命に回転させ、会話を考える。
( ^ω^)「これは……ブラッディ・メアリーですよね?」
彼は、受け取ったカクテルについて話すことにした。
ξ゚听)ξ「ええ、そうよ」
ξ゚ー゚)ξ「貴方が好きそうな気がしたから。当たってるかしら?」
( ^ω^)「はい! ウォッカもトマトジュースも大好きです」
ξ゚听)ξ「度数低めで調節してもらったけれど、辛かったら無理しないで頂戴」
( *^ω^)「ありがとうございます。でも僕、お酒は強い方なんで、大丈夫ですよ」
内藤の父は酒が飲めない体質である。
ビールの一滴が舌に触れただけで、顔がみるみる青ざめる程に弱いのだ。
一方 内藤自身は、酒豪とまではいかないが
-
11 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/23(日) 00:44:37 ID:I82Fuou.0
-
かなり飲める方である。
例えば毒島・八木と飲み比べをしたなら、十中八九 内藤が勝つはずだ。
( ^ω^)(お母さんの血だおね、きっと)
内藤はぼんやり考える。
栗毛髪の女性が、脳裏に淡く浮かぶ。
だがそれが、像を結ぶことはない。
.
-
12 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/23(日) 00:47:05 ID:I82Fuou.0
-
ξ゚ー゚)ξ「意外、その予想は外れたわ」
内藤の意識が現実へ、目の前の女性へと引き戻される。
彼女は、自分のグラスに触れる。
内藤もつられて、己のグラスへ口付けた。
( *^ω^)(おっ)
赤黒い液体は舌に纏わりつき、程よい酸味で舌を痺れさせる。
暫くすると、それはどろりと喉を降りていく。
『血みどろ』とは、言い得て妙だ。
内藤は、ブラッディ・メアリーを、半分程 飲む。
( *^ω^)「美味しいお……」
グラスをカウンターに置いてから、しまったと内藤は顔をしかめた。
( ;´ω`)(うっかり「お」って付けちゃったお)
これでは恰好がつかない。
幻滅されただろうか。
不安が内藤の心に広がる。
-
13 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/23(日) 00:47:54 ID:I82Fuou.0
-
ξ*^ー^)ξ「可愛い子ね」
と、白く滑らかな指が内藤の髪をかき上げる。
そして中指で内藤の頬をゆっくり なぞる。
ξ*゚ー゚)ξ「素敵」
内藤の体が熱くなっていくのは、アルコールのせいではないだろう。
ξ*゚听)ξ「私、その喋り方 好きよ?」
.
-
14 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/23(日) 00:48:59 ID:I82Fuou.0
-
( ^ω^)「そう、ですか……お?」
ξ゚ー゚)ξ「ええ」
( *^ω^)「おっおっ!」
内藤の緊張が するすると解けていく。
ξ*゚ー゚)ξ「貴方、お友達にはブーンと呼ばれているの?」
( *^ω^)「はい、幼稚園の頃からなんですお」
ξ*゚ー゚)ξ「大学生の今でも、そのあだ名なのね」
( *^ω^)「でも僕、これ結構気に入ってるんですお!」
( *^ω^)「ところで、お姉さんの名字は何ですかお?」
-
15 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/23(日) 00:50:03 ID:I82Fuou.0
-
ξ*゚听)ξ「私? つだよ。つだきょうこ」
( *^ω^)「じゃあ、ツンさんて呼んでいいですかお?」
ξ*゚ー゚)ξ「構わないけど……どうして?」
( *^ω^)「なんとなくですお!」
ξ*^竸)ξ「なんとなくって……」
ξ*゚听)ξ「でも良い響きね。ありがとう」
( *^ω^)「おっおー!」
内藤は夢中で彼女と話す。
まさに夢をみているような心地だった。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
.
-
16 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/23(日) 00:52:08 ID:I82Fuou.0
-
(*'A`)「楽しそうに話してんなぁ」
毒島と八木は、内藤の様子を眺めていた。
かれこれ小一時間経つが、二人の会話は止みそうにもない。
(*´-ω・`)「ね。邪魔するのも悪いし、先に帰っちゃおうか」
(*'A`)「だな」
(#-A-)「あーあ、ついに三人の中で非リアは俺だけか。チクショウ」
(*´・ω・`)「まあ落ち込まないで」
毒島をなだめつつ、八木は会計を済ませる。
(*´・ω・`)「ほら行こう」
(*-A-)「おう」
店から出ようと扉を開けると、夜風が八木の額を撫でた。
とても涼しく、心地よい。
すぅと八木の酔いが醒めてゆく。
.
-
17 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/23(日) 00:53:03 ID:I82Fuou.0
-
(´・ω・`)(そういえば)
彼はふと、ウェイターの言葉を思い出す。
同時に素朴な疑問が浮かんだ。
内藤、毒島、八木は互いのことをあだ名で呼び合う。
それは今日とて例外ではない。
ではなぜ……
(´・ω・`)(あの人は、ブーンの苗字が分かったんだろう?)
.
-
18 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/23(日) 00:55:13 ID:I82Fuou.0
-
2、
あの夜から内藤は、津田京子と頻繁に会うようになる。
いや、『会うように』でなく『会いにくるように』が正しい表現だろうか。
ξ゚听)ξ「ブーン!」
内藤が講義を受け終え教室から出ると、いつも津田が迎えに来ていた。
彼女は毎日鮮やかなストールを首に巻いており、
内藤はそれを目印に彼女を探すのだ。
( *^ω^)「お、ツン!」
だが大抵は津田が発見する方が早かった。
合流した後は、津田の作った弁当を外で一緒に食べるのが日課である。
ある人は「これは束縛が強すぎる」と嫌がるかもしれない。
だが内藤は不快に感じることはなく、
むしろ「僕と同い年なのに毎日弁当作るなんて偉いなぁ」と
(少々的外れな)感心をするばかりだった。
.
-
19 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/23(日) 00:56:10 ID:I82Fuou.0
-
ξ*゚听)ξ(^ω^* )
食事をしながら、内藤は津田に様々なことを話した。
いわゆる転勤族で、小中学生の頃は頻繁に引っ越していた、
トマトジュースは好きだが生のトマトは嫌い、
この前は鍵の入った財布ごと先輩に貸したため家に入れなくなった、
だから鞄の内ポケットに予備の鍵を入れることにしている、
ベランダにある夕顔の花が咲いた、
近所に住む野良猫が可愛い、などなど。
内藤は小学校での出来事を自慢する子供のように様々なことを語り、
津田は目を輝かせてそれに聞き入るのだ。
.
-
20 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/23(日) 00:56:53 ID:I82Fuou.0
-
思えば彼は、津田に母の面影を見出していたのだろう。
内藤の母親も、えくぼが魅力的な人だった。
ζ( ー *ζ
だが内藤は、母親の顔を鮮明には覚えていない。
何故なら 内藤の両親は彼が六歳の時に離婚したからだ。
ある日突然 父親に連れられて家を出て、それ以来彼女には合っていない。
小学生の頃に内藤は、何度か父親に離婚の理由を尋ねた。
が、その度に父親は渋い顔をするので、
内藤は追求することを諦めてしまっていた。
現在内藤が彼女に関して知っているのは、名前と年齢だけである。
.
-
21 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/23(日) 00:57:45 ID:I82Fuou.0
-
最終レポートも提出し終えた7月末、津田は内藤にある提案をした。
ξ゚听)ξ「来週の土曜日に映画を見に行かない?」
( ^ω^)「映画かお?」
ξ*゚ー゚)ξ「ほら、ブーンが楽しみにしてた」
内藤は、自分が一ヶ月前に津田に話したアクション映画のことを思い出す。
ξ゚听)ξ「あれの公開日でしょ?」
( *^ω^)「覚えててくれたのかお!」
ξ゚听)ξ「当たり前じゃない。それでチケットは買ってあるんだけど……」
津田は すかさずスマートフォンを取り出す。
画面には、既に映画館のサイトが表示されている。
ξ゚听)ξ「この時間でどうかしら? レイトショーだから空いてると思うの」
( ^ω^)「うーん……これ、終電に間に合うかお?」
ξ゚听)ξ「終電?」
津田がくすりと笑う。
夏風になびく空色のストール。
.
-
22 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/23(日) 00:59:18 ID:I82Fuou.0
-
ξ゚听)ξ「どうして終電が関係あるの?」
( ;^ω^)「え、だって帰れなくなっちゃうお」
ξ゚听)ξ「帰るの?」
( ^ω^)「帰らないのかお?」
津田は内藤の耳元に口を寄せる。
ふわりと、甘いの香りが漂う。
そして、彼女は小声で囁いた。
ξ* )ξ「二人で泊まればいいじゃない」
.
-
23 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/23(日) 01:00:14 ID:I82Fuou.0
-
( ゚ω゚)「!」
童貞の彼は、そこでようやく津田の意図を理解する。
ξ゚听)ξ「嫌?」
( *゚ω゚)「そそそそんなことないお!」
耳まで真っ赤にした内藤は、照れ隠しに弁当をかきこむ。
ξ* ー )ξ「ふふ」
津田の眼に怪しい光が宿ったが、
興奮している内藤が気づくことは全くなかった。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
.
-
24 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/23(日) 01:01:14 ID:I82Fuou.0
-
(´・ω・`)「やあドクオ」
昼下がりの教室。
鞄に荷物を詰め終えた八木は、遠くに毒島の姿を見つけ近寄った。
('A`)「よお。……あれショボもこの講義取ってたっけ?」
(´・ω・`)「いや、僕は前のコマだよ」
('A`)「ああ、ブーンと一緒のやつか」
('A`)「ブーンは?」
(´・ω・`)「すぐさま教室を出ていったよ」
('A`)「またか」
.
-
25 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/23(日) 01:02:24 ID:I82Fuou.0
-
(´・ω・`)「羨ましい程に仲良しだね」
('A`)「ベッタリしすぎじゃねぇか?」
八木とは対照的に、毒島は若干の嫌悪を示す。
(-A-)「津田さんも、他大の学生なんだろ。あれでちゃんと単位取れてるのか?」
(´・ω・`)「まあ……双大の理系キャンパスはここから近いから、平気じゃないかな」
内藤と同じクラスの八木は、内藤からのろけ話を聞く機会も多かった。
('A`)「津田さん双大なのか」
(´・ω・`)「うん。工学科らしいね」
('A`)「…え」
毒島が黙りこむ。
-
26 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/23(日) 01:03:54 ID:I82Fuou.0
-
(´・ω・`)「どうしたの?」
('A`)「いや……双大の友人がさ」
(-A-)「工学科は女子が一人もいねぇって前に愚痴ってたんだよ」
誇張してたんだな、と毒島は補足をする。
(´・ω・`)「……」
今度は八木が黙る番だった。
(´・ω・`)(なんか、変だな)
4月に店を立ち去る時 覚えた違和感。
それが更に膨らんでゆく。
(´-ω-`)(……)
(´・ω・`)(シャキおじさんに、相談だけでもしようかな……)
八木が思い浮かべたのは、探偵業を営む伯父の顔だった。