■( ・∀・)『 祝福のようです 】(゚、゚トソン
- ※『【祝福祭り】ブーン系創作板クリスマス・短編投稿祭』参加作品です。
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2 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 20:23:04 ID:EsrHRRWU0
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僕が生まれて、確か3年ぐらい経った頃だろうか。
ある日突然、夜中に目が覚めたんだ。
やけに眩しい光を放つものが、枕元に立っていた。
……いや、浮かんでいた。
( ・∀・)「……おねえちゃん、だれ?」
从 ゚∀从「アタシは、神に使える天使だよ」
( ・∀・)「てんし……? でも、おかおがこわいよ?」
从;゚∀从「顔は生まれつきだ! 失礼だな!」
( ・∀・)「……」
从 ゚∀从「おっといけねえ。こうして現れたのは、ちゃんと意味があるんだ
オメーに伝えることがあってな」
( ・∀・)「?」
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3 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 20:24:29 ID:EsrHRRWU0
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从 ゚∀从「おめでとう。
世界でも稀な存在として、まぎれもなく偶然にお前が選ばれたんだぜ」
( ・∀・)「???」
从;゚∀从「あー、悪い悪い。まー、そのつまりだな」
从 ゚∀从「オメーは、『天使の祝福』を受けられるんだ。よかったな」
( ・∀・)「……てんしの……しゅくふく?」
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4 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 20:26:11 ID:EsrHRRWU0
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( ・∀・)『 祝福のようです 】(゚、゚トソン
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5 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 20:28:23 ID:EsrHRRWU0
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小さい頃の、朧気な思い出。
そこから先は覚えてないし、多分意味がないのはわかってる。
けれど、『そこから』だった。
僕の人生は一辺したんだ。
親が宝くじを当てて、急におんぼろアパートから大きな家に住むことになったり
運動会に出れば、どの競技でも一位だったし
学芸会では、いつも主役だった。
もちろん、テストはいつだって一位。悪くて三位ぐらいだ。
クラスの委員長を任されることも多かったし
友達も、同性異性問わずに交流が広く深かった。
驕るのはあまり好きではないけど、容姿だって悪くない。
欲しいものは、望めば手に入ったし
求める結果は、常に出してきた。
そう、その『天使の祝福』とやらの日から、僕の人生は完璧なほど完全な形になってしまった。
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7 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 20:31:38 ID:EsrHRRWU0
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( -∀-)(……つまらない)
だからこそ、こんなことを思ってしまったのかもしれない。
だからこそ、あんなことになってしまったのかもしれない。
『願望を叶える能力』を持った僕が、安寧と安泰から見える退屈に不満を漏らした時。
『彼女』と出会った。
(゚、゚;トソン「うわわわ!?」
( ・∀・)「!」
その子は、僕の目の前で盛大に転んだ。
手に持ったペットボトルのジュースを、地面に飲ませてあげてるかのようにひっくり返している。
よろけた時点で『危ない』と察知した僕だから、身体が濡れるのを避けられたのだろう。
常人なら転んだ際に拳の一撃でも喰らいながら、蟻の恰好の餌場になるほど糖類を浴びていたのではなかろうか。
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8 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 20:34:16 ID:EsrHRRWU0
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( ・∀・)「……大丈夫です?」
(゚、゚;トソン「ええ、大丈夫です。すみません。
……ああ……またジュース買ってこないと……」
むくりと上げた顔には擦り傷がついていた。
割と綺麗な顔立ちをしているのに、もったいないなぁとふと考える。
手を差し出すと、首を振って拒否してきた。
(゚、゚トソン「一人で立てますので」
慣れた仕草で立ち上がる。
膝もすりむいて、制服のスカート下から覗く膝小僧が紅い化粧をしてしまっていた。
( ・∀・)「血、出てますよ」
(゚、゚トソン「あぁ。またやっちゃった……。でも、大丈夫です!」
これまた慣れた動きで、鞄から消毒液と絆創膏を取り出して貼った。
本当に日常茶飯事レベルに、経験しているのでは……?
( ・∀・)「……どうします、これ?」
結構な進学校の、それなりに新しい校舎の階段の踊り場。
そこで僕らは立ち往生していた。
水をはじくコンクリート床に映るのは、天井の照明や窓ガラス。
溜まった薄く白濁したジュースがそうさせている。
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10 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 20:37:35 ID:EsrHRRWU0
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(゚、゚;トソン「ああ、すぐ拭きます。すみません」
汚れなど気にする様子もなく、彼女は床に膝を再度ついて、ポケットからハンカチを取り出して拭き始めた。
( ・∀・)「それじゃ、時間かかりますよ」
たまたま偶然持っていた大き目のハンドタオルを僕は取り出して、手伝ってあげることにした。
せっかくの昼休み。風通しの良い屋上で、のんびり過ごそうと思っていたのは彼女も同じだろう。
その時間が減るのは、僕だって忍びないと思う。
(゚、゚トソン「すみません」
( ・∀・)「いえいえ」
数分にも満たない短い時間。
廊下はワックスがけを怠ったが故に発生する、鈍い照り返しを放った廊下が顔を見せてくれていた。
(゚、゚トソン「手伝っていただいて申し訳ありません。それでは失礼します」
淡々とした風に頭を下げると、彼女は階下へと向かって行った。
……途中、また転びそうになったのを僕は見逃さない。
( ・∀・)「……ん?」
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11 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 20:41:21 ID:EsrHRRWU0
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人が集まりだしたから、教室へ戻ろうと考えていたんだった。
思い出して僕は階段を降りようと足を動かした時である。
靴に、飛沫がついていた。
指定のゴム製上履きだから高価なものではないけれど……問題はそこじゃない。
僕は確かに『避けた』はずなんだ。
小さなころからの、危機回避能力と幸運性だけはずば抜けている。
というより、正直言えばささいなことだって事故を被ったことはない。
石で転んだこともないし、段差に躓いたことだってない。
なんとなくわかるから、事前に全て回避だって出来るほど。
その僕が『避けたはずの飛沫を浴びた』んだ。
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12 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 20:44:59 ID:EsrHRRWU0
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( ・∀・)(…………不思議なこともあるもんだな)
なんて、気に留めない風にしていたけれど。
結局、午後の授業に集中できない程度には気がかりだった。
けれど、それはあまりにもあっけなかった。
少し探そうと思えばすぐ見つかる。
いつだって、そうだったから。
(゚、゚;トソン
次の日の昼休み。
僕は彼女を見つけた。
というより、今までどうして気づかなかったのだろう。
多分それについては、僕の体質が関係しているのかもしれない。
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14 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 20:48:09 ID:EsrHRRWU0
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『不快なモノ』
本能的に、それは誰だって見たくないに決まっている。
それぞれ、『好み』はあるとはいえ不快指数という数値は万人に設定されているのだ。
だから、見なかった。見ようと思わなかった。
他人にこき使われ、自分というものが感じられない奴隷の如き彼女の姿を。
(゚、゚トソン「ツンデレちゃん、みかんジュースだよね」
ξ゚听)ξ「えー? あたし、リンゴヨーグルトって言ったよ?」
(゚、゚;トソン「ご、ごめんなさい。あ、じゃあしぃちゃんはチョコクロワッサンで合ってた?」
(*゚ー゚)「ううん。あたしは、ホットココアが欲しいって言ったの」
ξ゚听)ξ「まーた注文間違ったのーあんた? いいから、さっさと正しいの買ってきなよ」
(゚、゚トソン「ごめんね。じゃあ、これ返品してから……」
(*゚ー゚)「そんなの手間だよ。いいから、行ってきて」
(゚、゚;トソン「で、でもそれじゃ……お金……」
ξ゚听)ξ「聞こえないの?」
( 、;トソン「……ごめん。すぐ行ってくるね」
(*゚ー゚)ノシ「早くしてよねー」
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15 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 20:51:19 ID:EsrHRRWU0
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( ・∀・)(…………)
別に、だ。
僕は他人がどう生きようと勝手だと思っている。
望んだように、願ったように生きているなら
例え泥水を啜って埃を食べていても気に留めない。
でも、間違いなく僕の目には
その現実は、願望と異なっているのが明白だった。
自分の手間のついでに、友達の案件を済ます。
とは、ほど遠い。
関係性を見ただけで、腹が立つを通り越して戦慄してしまうほど。
同じ学年の、少し離れたクラスの中で起こっている事実を、僕は今はじめて見知った。
( ・∀・)(望んで見たがる人間がいるなら、僕はガンジー先生にだって喧嘩売りたい気分だよ)
ざらついた気持ちを宥めながら、コンクリートの床を歩いていく。
向かう先は、使いっぱしりに出ている、あまりにもあんまりな隷属人間の足跡であった。
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16 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 20:54:39 ID:EsrHRRWU0
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雲が流れるのが早くなった。
天は高い。
昼下がりでも、こんなに寒くなったんだなぁ。
頭の中で独りごちて僕は歩く。
時間はないだろうから、と残り少ない栄養補給ゼリードリンクを思い切り握りしめ嚥下運動をした。
( ・∀・)「お昼はいつも一人なんですか」
それから、こう切り出した。
屋上端のフェンス際で、唯一安寧が得られる時間だと安堵している彼女へ。
(゚、゚トソン「え?」
ビックリしたのか、口にしていたあんドーナツの塊がポロリと落ちて、セメントとキスをする。
( ・∀・)「お友達がいるのに、不思議だなぁと思いまして」
気にしないで僕は、隣に腰を下ろした。
チラリとみると、おっかなびっくり、それでいて困惑気味に彼女はこちらを見ていた。
(゚、゚トソン「……」
( ・∀・)「……」
(゚、゚トソン「な……」
( ・∀・)「?」
(゚、゚;トソン「なんで、そんなこと知っているんですか?」
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17 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 20:57:47 ID:EsrHRRWU0
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至極当たり前の質問だけど
僕にとってはそれが周知の事実じゃないと思っていることに驚きを隠せなかった。
思わず笑いがこぼれる。
( ・∀・)「ははは。面白いですね、あなた」
(゚、゚;トソン「な、なんですか!? いきなり初対面の人に言われたのは流石に初めてです!」
その言い方だと、初対面じゃなくなればよく言われるのだろうか。
( ・∀・)「別に初対面じゃないですよ。この前踊り場で会ったじゃないですか」
(゚、゚トソン「え?」
( ・∀・)「ここへ繋がってる階段ですよ」
(゚、゚トソン「…………」
本気で思い出せないようだ。
そこまでインパクトもなかったろうから、覚えてないのも無理はないか。
( ・∀・) =3
(゚、゚;トソン「あ、すすすすみません! あの、違うんです!」
諦念や怒りのため息ではなく
単純に僕が冷たい外気へ、息を思いきり送り込むのが好きなので、そうしただけだったのだが。
どうやら何か勘違いされたようで、慌てて彼女は弁明をする。
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18 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 21:02:35 ID:EsrHRRWU0
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(゚、゚;トソン「私、その昔から『自分に都合の良いことを覚えにくい癖』があって……。
だから、あなたのような人と会ったことを忘れてしまってたんだと思います」
( ・∀・)「……」
(゚、゚;トソン「他にも、転びたくないなぁと思ったら、転んだり
この問題わからないから、先生当てないで! って時に当たったり」
(-、-;トソン「考えていることと、逆のことが起こるんですよ、私」
自覚はないようだけど、どうやらさりげなく僕のことは褒めてくれていたようだ。
第一印象だけで、『都合のいいこと』に部類されていたようだ。
いや、問題はそこじゃない。
…………なんだろうか。
不思議な。
奇妙な、奇怪なほど
自分でも確証がないけれど、それでも実感として有る。
『親近感』
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19 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 21:05:27 ID:EsrHRRWU0
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何故だろう。
何か…………。
実体のない『ソレ』を感じられる人がいるってのは、きっとそれはつまり……そういうことなのだろうか。
( ・∀・)「それは喜んでいいことなのですかね?」
(゚、゚トソン「……どちらでもお好きに受け取ってください。どうせ忘れますから」
( ・∀・)「成績が悪いなら、この学校にも入れなかったのでは?」
(-、-#トソン「……さりげなく失礼なことを言いますね」
(゚、゚トソン「成績は悪くないです、むしろ良い方です」
(゚、゚トソン「勉強なんて『覚えたくない、やりたくない』というのが通念でしょう?
御多分もれずに私もそうです。だからこそ、自然と『良い成績』になるんですよ」
( ・∀・)「ああ、なるほど」
(゚、゚トソン「この高校も、正直私のレベルにはまったく合ってませんでした」
( ・∀・)「だからこそ、ですね」
(-、-トソン「……ええ。やっかいなことに」
( ・∀・)「…………おかしなことを聞いてもいいです?」
(゚、゚トソン「はい?」
僕は少し踏みこんでみることにした。
ばかばかしいと笑われるかもしれないけれど
僕は僕として、間違いなく実体現者なのだから、間違いではない。
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20 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 21:07:36 ID:EsrHRRWU0
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内容が飲み込みにくいから、単にまず笑って吐き出すのが通常の人だ。
本当に紛れもなく、実際に『そう』であるならば
まず、ゆっくり意味を飲み込んでくれるはずだろう。
若干の不安を覚えつつも、小さな確信を元に僕は口を動かす。
( ・∀・)「天使に会ったことがありません?」
(゚、゚;トソン「え?」
反応を見て、あまりにも自分がバカらしい反応をしてしまったと恥じてしまうほど
確かに、率直すぎて可笑しい。
言動の間抜けさを反省して、誤魔化そうと二言目を口にする前だった。
(゚、゚;トソン「あ、あなたも会ったことがあるんですか?」
……あぁ、ビンゴだった。
昔から無駄に鋭い感は、衰え知らずなようだ。
( ・∀・)「ええ、まだ3つの頃ですが」
(゚、゚;トソン「冗談とかではなく?」
( ・∀・) =3「冗談だったら、二の句で話題変えてますよ」
(゚、゚;トソン「た、たしかに!」
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21 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 21:12:22 ID:EsrHRRWU0
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( ・∀・)「『天使の祝福を受けられる』と、やけにハイカラな格好をした口調の天使さんでしたよ。
ま、実際その通りになったんですが。それから、良い事ばっかりの人生でしたからね。」
(゚、゚トソン「私もそんな感じでした。やけにハイテンションな天使様が来て」
(*゚∀゚)【おめーに祝福を与えてやるぜ!】
(゚、゚トソン「なんて言って、消えました。10年ぐらい前です」
( ・∀・)「へえ」
(-、-;トソン「まあ、実際祝福は祝福でも……あなたと違い、悪いことばかりですがね」
( ・∀・)「さしずめ『悪魔の祝福』ですか」
(゚、゚トソン「近いですね」
( ・∀・)「僕は間違いなく『天使の祝福』でしたよ。
とにかく物事が良い方に転がるんです。臨めば望んだようになる」
(-、-トソン「羨ましい限りです」
ちょうど予鈴が鳴った。
そろそろ教室へ戻らなくては。
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22 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 21:14:53 ID:EsrHRRWU0
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もう少し話していたい、と思っても
別に時間を止められるわけではない。
僕の祝福だって万能ではないのだ。
不可逆や自然の摂理などを覆すほど強烈でもない。
流れる時間は、みんなと同じだ。
( ・∀・)「さて、そろそろ行きますかね」
(゚、゚トソン「ええ。さようなら」
( ・∀・)「……またお会いしたいのですが」
不思議な挨拶だ、と思う。
だって、ふと遠方の地ですれ違った、まったくの他人と言うわけでもあるまい。
同じ校舎で、知らなかったけれど同じ学年の人間に対して『さようなら』とはおかしくないだろうか。
(゚、゚トソン「ええ、それは私も同じです。けれど、『思ってしまった』からそれは実現しません」
(゚、゚トソン「同じような経験をして、結果は違えど
それでも仲間と呼べる人が見つけられて嬉しかったです」
(゚、゚トソン「けれど、もうお会いすることはないでしょう」
( ・∀・)「そういう『祝福』だから。ですか?」
(-、-トソン「その通りです」
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23 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 21:18:11 ID:EsrHRRWU0
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(゚、゚トソン「きっと私も、ここで会ったことだって、話した内容だって。
楽しかった記憶も、嬉しい思いすら全て忘れることでしょう」
(゚、゚トソン「思えば思うほど、それは強固なまで現実として実体化してしまうんです。
残念なことに。だから、さようなら。で良いんですよ」
僕は小さくため息をついた。
そして透き通るような青い空を見上げる。
冷たい息をもう一度吸って、それから思いついた言葉を彼女へ告げた。
( ・∀・)「僕の名前、モララーって言うんです」
(゚、゚トソン「そうですか」
( ・∀・)「あなたの名前は?」
(゚、゚トソン「……」
(;・∀・)「そんな『言っても意味ありません』って表情しなくても……」
(-、-トソン「事実ですから」
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24 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 21:21:53 ID:EsrHRRWU0
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( -∀-)「……そうですね。じゃあ、僕と『賭け』をしましょう」
(゚、゚トソン「はい?」
( ・∀・)「僕は絶対に今日のことを『覚えたままでいる』
あなたは、今日のことをすっぱり『忘れてしまう』」
( ・∀・)「明日、もう一度あった時。果たして、どちらが適応されるのか
場所と時間は、今日と同じにしましょう。」
(゚、゚トソン「……」
( -∀・)「どうです、面白いと思いませんか?」
(゚、゚トソン「……仮にそうしたところで。勝てば何が貰えるんです?」
( ・∀・)「その暁にはぜひ」
( ・∀・)「僕とお友達になってください」
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26 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 21:25:24 ID:EsrHRRWU0
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手を差し出して願う。
彼女は、複雑そうな顔をして。
若干考える間を置き。
顔を逸らしながら、少し恥ずかしそうに。
それから僕の手を取って、言う。
(゚、゚トソン「私は、トソンといいます」
温かい手の持ち主は、そんな名前だった。
――――――――次の日。
心地よい気候だった。
冬にしてはやけに温かい気温と日差し。
屋上に居るのに風も弱い。
とにかく、居心地が良い。
そんな日。
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27 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 21:28:37 ID:EsrHRRWU0
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僕は昼食を摂り終えた身体で、隅に座していた。
たった一人で。
季節特有の、夏の命を感じる匂いと違う
突き抜ける無機質な空気を、いっぱいに吸い込んで空を見上げた。
雲が流れる。
遠い遠い空の偶像。
形を変えて、人に夢や希望を与える象徴。
と、僕は勝手に思ってる。
けど、月の影が国によって違うように
僕には天使に見えたものが、悪魔に見える人も居るんだろうか。
わからない。
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28 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 21:31:24 ID:EsrHRRWU0
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だってそれは、どう頑張っても天使にしか見えないのだから。
そういう人間なんだ。僕は。
だから。
違った視点で見える人に聞いてみようと思う。
( ・∀・)「どう思います? トソンさん」
(-、-*;トソン「さあ、どうでしょうかね」
休み時間の終わり際。
息を切らせて、遅れてきた彼女は汗を流しながら照れくさそうに答えた。
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29 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 21:35:29 ID:EsrHRRWU0
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――――。
それからというものの。
僕は、とにかく飽きることを知らない有意義な生活を送っていた。
(゚、゚トソン「こんにちは」
( ・∀・)「こんにちは。元気でしたか」
ε= (゚、゚トソン「たった一日空いただけですよ。普通に元気でした!」
( ・∀・)「ははは。それはどーもすみません」
屋上での他愛ない会話。
約束をし、指定の時間指定の日時までしっかり決めたのにも関わらず。
昨日僕らが、会うことは決してなかった。
それは、僕の『願望』と彼女の『願望反転』
どちらかがランダムで作用した為であるから。
僕は、『また会いたい』と思った。
トソンさんも、『また会いたい』と思った。
同じ考えであっても、結果はお互い真逆になる。
その頻度は、二人の予想や予感では計り知れない無作為さを持っているのだ。
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30 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 21:38:16 ID:EsrHRRWU0
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昨日はトソンさんの祝福効果が発揮し
今日は、僕の祝福効果が発揮された。だから会えた。
普通に考えれば、とてつもなく迷惑極まりないけれど
『予想もつかない』
という結果が、僕も、そしてもちろんトソンさんだって心を踊らされたのだ。
( ・∀・)「明日はどうしましょう」
(゚、゚トソン「購買のパンを食べてみたいですね」
( ・∀・)「何が狙いで?」
(゚、゚*トソン「焼きそばパンを!」
( ・∀・)「炭水化物×炭水化物の、魔の食べ物ですか」
(゚、゚トソン「いつも売り切れですからね」
( -∀-)「あなたの『祝福』から考えると……」
(゚、゚トソン「?」
( ・∀・)「太りますよ」
(゚、゚;トソン「ちょっと!! 失礼ですよ!?」
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31 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 21:42:23 ID:EsrHRRWU0
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( ・∀・)「いえいえ。きっとこれぐらいなら大丈夫……
という考えを綺麗に裏切ってしまうのがあなたの『祝福』じゃあないですかね」
(゚、゚;トソン「そりゃそうですけど、そうならないことも多々ありますから!!」
( ・∀・)「はっはっは。冗談はさておき。
となると、今回は……『3つ』ですかね?」
(゚、゚トソン「えーと……そうですね。3つです」
( ・∀・)「どちらに転ぶか、楽しみですね。成功を祈ってますよ」
(゚、゚トソン「ええ、私もです」
3つ。
『購買でパンを買いたい」
『その中で、人気の焼きそばパンを食べたい』
だけではなく。
そもそも『僕とまた会いたい』
が先に来るので、『3つ』なのだ。
今の所、確率は半々ぐらい。
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32 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 21:45:00 ID:EsrHRRWU0
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どこかで挫けて、願望達成しないかもしれないし。
最初から失敗することもある。
たまに、記憶が抜け落ちることもあるけど、これはすぐ戻るから問題なし。
揺れ動く確率は、常に変動している。
だから、楽しみなんだ。
明日は、どうなるんだろう。
そんな、誰もが気にしないような当たり前のことが。
――――。
( ・∀・) モグモグ
母親の作ってくれたお弁当、最後の一口を咀嚼している時だった。
時間も時間で、そろそろお昼も終わる頃。
いつもの場所で、僕は彼女の祝福効果が発揮されたと実感していた。
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33 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 21:48:03 ID:EsrHRRWU0
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確かめる方法は後でしかないけど、今頃やきそばパンだけ頬張っているトソンさんが居るのかもしれない。
単に、僕が知らないだけで。
あぁ、会えたら良かったのに。
そう思って、風呂敷へ空になった弁当箱を詰め込み立ち上がった。
最近、友達と昼休みを共にしていないな。
別に嫌いになったとか、そういうわけではないんだけど。
クラスも違う以上、彼女と触れ合える時間はこの時ぐらいしかない。
帰り道だって、全然違うからそこばかりはどうしようもないし。
だから、貴重な時間を大切に活用しているだけなんだ。
我ながら言い訳がましいな、と感じつつ階段を降りていた時だった。
( 、 トソン「……」
彼女を見つけた。
嬉しくて、無表情だった口角筋が吊り上るのを自分でも感じる。
( ・∀・)「トソンさ……」
手を上げて、声をかけた。
しかし、楽しげな雰囲気はすぐに消え失せる。
遠目で良く見えなかったが、近づくにつれて僕は勘ぐらざるを得なかったのだ。
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34 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 21:51:39 ID:EsrHRRWU0
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(゚、゚トソン「……あ」
ずぶ濡れだった。
真っ黒な髪はてらてらと反射して、普段よりも艶やかに見える。
癖っけの強い髪は、重力と同方向に垂れ下がっていた。
衣服も、紺色のブレザーが水を弾ききれずに重たそうな深みを帯びているのだ。
手には焼きそばパンがあるが、潰れて形の悪い草履みたいになっていた。
何を思うのだろう。
これを見て、何も思わない人はいないだろう。
( 、 トソン「そっか……やっぱり、そういう風に作用しちゃうんだ」
( ・∀・)「え……?」
言葉を続けようとしたところで、チャイムが鳴った。授業へ戻らなくては。
(゚、゚トソン「失礼します」
小さく言うと、トソンさんは駆け足で教室……とは違う方向へ走って行った。
事情を聴こうとしたけど、逆らえない時の流れに邪魔されてはどうしようもない。
何より、追いかけようとした所で先生に見つかってしまった。
サボればよかったのかもしれないが、懇意にしている先生だったので無碍にも出来ない。
こっそり、今から抜き打ちで小テストがあることも教えてくれたぐらいに仲は良い。
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35 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 21:54:49 ID:EsrHRRWU0
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トソンさんなら、またすぐに会えるさ。
そっとして欲しい時だってあるだろうし。
僕はそう思って、足を自分の教室へと向けた。
――――。
それから。
僕らの会話は、とんと無くなった。
単純に運が悪いだけなのか、どうだかはわからないけど。
とにかく、間の悪い時にしか彼女に会えない。
決まって、トソンさんは……簡潔に言うならみすぼらしい恰好をしているんだ。
服が異様によれていたり、偶に破れていたり。室内靴がなかったり。
怪我をしていたり、時には流血していたこともあった。
そのたびに、僕は何かを言おうとするけれど
同様に、決まって邪魔が入る。
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36 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 21:58:54 ID:EsrHRRWU0
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友達に無理やりひきつられたり、外し難い急用を頼まれたり。
とにかく、思うようにならない。
僕の『願望』はちゃんと機能しているのだろうか。
天使の祝福とは、もしかして時間制限付なのだろうか。
疑ってみたこともあるが、他は普通に『いつも通り』になるから……きっと継続している。
じゃあやはり、それは彼女の『願望反転』のせいなのだろう。
半々だったのが、今は強くなっているだけ……だとか?
( ・∀・)(あれ?)
ふとした時に気付いた。
何やら複雑な気がして、想ってもいなかったけれど。
何度も言うが彼女の祝福は、『願望反転』だ。
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37 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 22:02:17 ID:EsrHRRWU0
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行きたくないほど高レベルな学校だから、ここに居る。
嫌いな人だからこそ、あえて絡まれる。
都合の良い事は忘れる、または忘れられてしまう。
とにかく、望んでいることと反対に作用が起こるのだ。
……
…………じゃあ。
( ∀ )(彼女は…………『僕に会いたい』と……)
僕だって会いたいと思っていた。
話したいと思っていた。
けれど、残念なことに彼女はそれが『反対に働く』
だから、相談にのってあげることすら叶わなかった。
なんて僕は間抜けなんだ。
全然、複雑じゃないんだ。
ずっと願っていたんじゃないか。
-
38 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 22:06:27 ID:EsrHRRWU0
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確率半々なのだって、今も変わりはない。
トソンさんは……。
( ・∀・)「……おや」
(゚、゚トソン「……モララーさん……」
いつもと違う時間なら、もしかしたら。
これは僕の願望なのか、それとも単なる偶然なのか。
放課後に屋上へ行くと、いつもの場所に彼女が居た。
いつもより元気のない顔で、夕日を背にして僕を見ている。
けれど、彼女も僕も。
その表情はまずハッキリ見られなかったに違いない。
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39 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 22:10:29 ID:EsrHRRWU0
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お互いの間には、妨害するモノがあったんだ。
最近会えなかったから、知らずにできた経過による心理的障壁ではない。
もっと、もっと。
物理的で、わかりやすいもの。
幾重にも張り巡らされ、しっかりとコンクリートブロックに差し込まれた支柱を持つ。
きっと、どこにでもある当たり前すぎるほど当然に存在する。
金網のフェンス。
それがあった。
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40 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 22:14:23 ID:EsrHRRWU0
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(゚、゚トソン「……」
( ・∀・)「……」
僕らはしばし、冷たい網目越しに目を合わせ続けた。
この状況に驚かない人間なんて居ないとは思うけれど
何故だか『そんな予感がする』と考えてしまっていたからか、やけに冷静だった。
( ・∀・)「そこは寒いですよ」
(゚、゚トソン「知ってます」
( ・∀・)「靴、履いたらどうですか」
(゚、゚トソン「もう必要ないですから」
( ・∀・)「……」
(-、-トソン「……なんで」
(゚、;トソン「なんで、こう都合の悪い時だけ、都合が良いんでしょうね」
後光越しで見えにくい表情にも、それは明確なほど鮮明に反射して伝っていた。
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41 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 22:17:47 ID:EsrHRRWU0
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( ・∀・)「……どうして泣いているんです?」
そわそわしたり、はやる気持ちを押さえて僕は問う。
『他に誰も来ないで欲しい』
そう強く思っているから、きっと大丈夫だ。彼女が同じ気持ちなら話は別だが。
(,、,トソン「……辛いからです」
( ・∀・)「何がです?」
(;、;トソン「私の人生がです」
まだ十数年しか生きてないくせに何を言っているんだ。
心無い事情も知らない勝手な他人は、きっとそう言うかもしれない。
でも、僕は知っている。
彼女が受けた『祝福』は、生半可なものではないと。
僕自身が受けている『祝福』が何よりの証明だ。
望んだ分だけ、願った分だけ思い通りになってしまう。
彼女は、その逆。
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42 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 22:22:39 ID:EsrHRRWU0
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考えようによっては、同じかもしれないけど全然違うんだ。
だって、トソンさんだって僕と同じ人間なんだ。
何も変わらない、どこにでもいる普通の学生なんだ。
だから、嬉しければ笑うし悲しければ泣く。
腹が立てば怒るし、蹴躓いて転んだら同じような赤い血が流れるんだ。
彼女は、心を持ったありふれたヒトなんだよ。
それが、いつも思うようにならない。
たまに、ならば諦めもつくだろうけど、偶にじゃない。
『いつだって』そうなんだ。
『風のうわさ』で、ここ最近彼女がいじめられていることも
成績が落ち込み始めていることも知っている。
何もしなかったわけじゃないけど、何も出来なかったのだって事実なんだ。
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43 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 22:26:25 ID:EsrHRRWU0
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僕は自分の無力さを実感せざるを得なかった。
だからこそ。
今こそ、汚名を、無念をここで晴らさなければならない。
今じゃないと、きっと二度と。訪れはしない、最後のチャンス。
( ・∀・)「……とりあえず、こっちに来て話しませんか」
(;、;トソン「嫌です」
( ・∀・)「なぜですか」
(;、;トソン「これ以上、耐えられません」
(;-∀-)「……」
優しい言葉をかけるべきか、厳しい言葉で奮い立たせるべきか。
僕は考えたけれど、そのどちらもきっと意味はない。
説得に応じるような、易しい事象じゃないことはわかっているんだ。
だったら、やることは一つ。
僕は僕の、この身に受けた願望を実現できる『祝福』を利用するまでだ。
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44 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 22:29:10 ID:EsrHRRWU0
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( ・∀・)「トソンさん」
(;、;トソン「……」
( ・∀・)「僕は、あなたに会えて感謝しているんです」
(;、;トソン「え……?」
( ・∀・)「お話したように、僕の祝福は願望を実現するものです。
たしかに、それは便利で楽でとても良い物かもしれません」
( ・∀・)「それでも、なんでもかんでも最初から出来る人生は……あまりにも刺激がなかった」
( -∀・)「そこで、あなたが現れました」
( ・∀・)「うまくいかないこともある。
楽しかった、で終わらないこともある」
( ・∀・)「それを、教えてくれたんです」
( -∀-)「本当に本当に……嬉しくて」
(;-∀-)「僕では想像もつかない大変な経験をしてきたとは思うと
こんな感想を持ってしまうのは間違っているかもしれませんけど」
( ・∀・)「暗く沈みかけた僕の心に、光を差し込んでくれたのは紛れもなくあなたなんです」
( ・∀・)「だから」
( ・∀・)「僕は、あなたとずっと一緒に居たい」
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45 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 22:33:24 ID:EsrHRRWU0
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( ・∀・)「これが僕が本当に心から思う『願望』です」
(;、;トソン「……」
(,、,トソン「…………」
こんな取るに足らない僕のような、甘っちょろい人生を歩んだ人間の言葉が
一体どれだけ届いてくれたのかは、わからない。
それでも、彼女が辛いと思うなら
僕は最後まで支えてあげたい。
そう、心から『願っている』
(;、;トソン「……最近、少しずつなんですけど」
( ・∀・)「はい」
(;、;トソン「私、悪いことが少なくなりました」
( ・∀・)「ええ」
-
47 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 22:37:12 ID:EsrHRRWU0
-
(;、;トソン「モララーさんの『祝福』だけじゃないところで、です」
(;、;トソン「この私の『祝福』がどこまで続くかは知りませんけど」
(;、;トソン「それでも、減ってきたのは間違いないんです」
( ・∀・)「……」
だったら。
話は良い方向に転ぶはず。
……と考えるのは、余りにも浅はかだった。
(,、,トソン「これから良い事ばかりになる。そう思ったのもつかの間です」
(;、;トソン「勉強は捗らないし、いじめの対象は相も変わらず私ばかり
運動音痴なのだって、克服しようもなかった。」
(;、;トソン「結局、転がり始めた石の運命は、もう変わらないんですよ」
軌道修正するには、時間が経ちすぎた。
もう少し幼い頃なら、どうとでもなったかもしれない。
でも、それでも。
-
48 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 22:40:55 ID:EsrHRRWU0
-
(;、;トソン「……はい」
( ・∀・)「僕なら、あなたと共に生きてゆけます」
( ・∀・)「幸い、僕の祝福はまだ継続してます。衰え知らずです」
( ・∀・)「だから、もし本当に、あなたが……望むのなら」
( ・∀・)「あなたの願望を、僕の願望としましょう」
(;、;トソン「え……」
( -∀-)「望むがままに、考えるがままに」
( ・∀・)「僕があなたの傍に居ます」
( ・∀・)「だから、こちらに来てください。そんな場所にいると、危険ですよ」
僕は歩み寄り、金網に足をかけた。
そして身を乗り出しながら、手を差し伸べる。
-
49 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 22:44:12 ID:EsrHRRWU0
-
(;、;トソン「……助けて、くれるんですか?」
( ・∀・)「ええ」
(;、;トソン「……我儘ばかり言いますよ?」
( -∀-)「構いません」
(;、;トソン「すぐ落ち込んだりしますよ?」
( -∀・)「何か問題でも?」
(,、,トソン「……本当に……あなたって人は……」
袖で顔を拭うと、彼女は一息貯めてから、顔をあげてこう言った。
(^、^トソン「ありがとうございます、モララーさん」
僕の手は、虚空を掴んでいた。
-
51 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 22:48:57 ID:EsrHRRWU0
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確かに指先が触れたのを覚えている。
けれど、次の瞬間にそれは冷たい空気だけになっていた。
温かい手は、僕の目の前には無くなっていたんだ。
なぜかは知らない。どうしてかはわからない。
けれど、間違いなく。
彼女はふいに、身体のバランスを崩してしまったんだ。
すぐ先に見える、他人を寄せ付けない固い地面。
そこに通ずる、フェンスに守られていない、凍えるような外気温の海原。
トソンさんは、気が付けばそこに飛び込んでいた。
-
52 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 22:51:47 ID:EsrHRRWU0
-
拭った涙の破片が、僕の瞳に映る。
放物線を描くように流れ落ちていく。
『悪魔の祝福』は終わってなんかいなかった。
『生きたい』
トソンさんは、きっとそう願った。
だからこそ、願望の反対となる
『死にたい』
それが、実現してしまったんだ。
ああ。
ああ……。
-
53 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 22:55:27 ID:EsrHRRWU0
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僕は無力だった。
何も出来なかった。
苦しんでいる人、一人助けられない愚かな人間だった。
今後一生会えないような、大事な人の手も握れないほど……僕は
弱く生きてきたつもりはない
(;・∀・)「トソンさん!!」
(;、;トソン「あ……」
刹那考えると、僕はフェンスを乗り越えて屋上の床を蹴り飛ばしていた。
空中に放り出されたトソンさんの身体目がけて飛び出すと、身体を思い切り抱きしめる。
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54 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 22:58:46 ID:EsrHRRWU0
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(;、;トソン「モララーさん! なんで!?」
(;・∀・)「いいから、じっとしててください!
トソンさんは、何も考えず、ただひたすらに!!」
考えさせるな。
もし、まだ継続しているなら、考えちゃいけない。
代わりに、僕が考えるんだ。
この数秒にも満たない短い時間で、ただひたすらに。
『生きたい』
『死にたくない』
『トソンさんと共に!!』
それだけを!!
次に感じたのは、身体がとてつもなく固い物に叩きつけられる感覚。
意識が戻ったのは、ベッドの上でだった。
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55 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 23:02:28 ID:EsrHRRWU0
-
(;-∀-)「いたた……」
むち打ちを数倍に濃くしたような痛みが体中を襲っている。
場所が病院だとわかるのに、そんな時間はいらない。
それよりも、真っ先に気になったのは。
見渡した。
他のベッドは空席。
珍しい事もあるものだ。
違う、今はそうじゃない。
ナースコールを押す前に、看護師さんが来てくれた。
僕が意識を取り戻したのを確認すると、色々と検査を始める。
その際に、聞いてみた。
( ・∀・)「あの、トソンという女性はここに居ますか?」
返答は、否定だった。
-
56 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 23:05:35 ID:EsrHRRWU0
-
医者が帰った後、僕は独りで考える。
居ない。
居ない?
あの高さで落ちて、僕がこれだけ怪我をしていて
無事で……済むわけがない。
じゃあ、じゃあ。
『居ない』って
それって、つまり
(゚、゚トソン「あ、モララーさん」
(;・∀・)「え?」
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57 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 23:08:12 ID:EsrHRRWU0
-
驚くほど当たり前みたいに、トソンさんは出てきた。
病室の扉から花瓶をもって、嬉しそうな顔で歩いてくる。
怪我一つ、していない。
(;・∀・)「無事……だったんですか」
(゚、゚トソン「ええ、おかげさまで」
(;-∀-)「そっか……良かった……」
深い深いため息をついて、僕は身体をベッドに倒した。
安堵すると、また身体が痛くなってくる。
(゚、゚トソン「……モララーさん」
( ・∀・)「なんです?」
棚の上に花瓶を置くと、トソンさんは椅子を出して僕の傍に座った。
(-、-トソン「本当に、ありがとうございました」
( ・∀・)「無事なら、それで良かったです」
(゚、゚トソン「あなたのおかげで、生きながらえました」
(゚、゚トソン「もう独りよがりになりません」
(゚、゚トソン「あなたのために、生きていこうと思います」
-
58 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 23:11:32 ID:EsrHRRWU0
-
( ・∀・)「ええ。そうしてください」
僕は笑って、トソンさんを見た。
彼女も笑い返してくれた。
もう大丈夫だろう。
これから、どうなるかは全然わからないけれど
だからこそ、素晴らしいんだ。
トソンさんと、僕の受けた祝福と
折り合いをつけて、楽しく明るく生きていこう。
優しく手を握る彼女の手を、僕は握り返しながら、そう思った。
―
――
――――
-
59 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 23:14:54 ID:EsrHRRWU0
-
――――とある場所にて。
从 ゚∀从「お、ツーじゃん。久しぶりだな」
(*゚∀゚)「おー、ハインリッヒか。久しぶりだな」
背中に羽根をはやした二人が、再会を喜んでいた。
街にある大きな病院の上空で、である。
从 ゚∀从「ようやく解放されたのか?」
(*゚∀゚)「まーな。長かったぜ。10年以上かかったもんよー」
从 ゚∀从「オメーがあほなことに、『反転』する祝福なんて授けるからだろー?」
(*゚∀゚)「だからって、いくらなんでも10年以上も幽閉は酷くね?」
从 ゚∀从「オメーが、ちっとも反省しねーからだろ」
(*゚∀゚)「ぐぅの音もでねえ」
从 ゚∀从「ま、でも見てみろよ」
(*゚∀゚)「お? あれ、お前の選定者と……オレの選定者か?」
从 ゚∀从「ああ。なんの因果かしらんが、そーいう運命らしいな」
-
60 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 23:18:42 ID:EsrHRRWU0
-
(*゚∀゚)「へー。でも、なんか楽しそうだな。オレの祝福が切れたからか?」
从 ゚∀从「それ以前から、ちょっとずつ変わってはいたぜ」
(*゚∀゚)「そうかそうか。おもしれーな、人間ってやつは」
从 ゚∀从「ああ、そうだな。飽きないね」
(*゚∀゚)「さて、じゃあ今夜あたりにでも、もう一回ちゃんとした祝福を授けて……」
从 ゚∀从「いやいや、そんなんいらねーだろ」
(*゚∀゚)「……ああ、確かに。そうかもな」
从 ゚∀从「だろ。後はもう、二人だけにして、アタシらは次へ行くとしよーぜ」
(*゚∀゚)「ああ、それもそうだな」
二人の天使は、満足そうな顔をしてその場を去った。
下に居るのは、嬉しそうな顔で話す二人。
-
61 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/22(日) 23:20:32 ID:EsrHRRWU0
-
( ・∀・)
( -∀-)
(゚、゚トソン
(^、^トソン
彼らは知らないが
天使によって、約束された『幸せになれる祝福』はこれからも切れることなく。
ずっとずっと、続いていくのであった。
おしまい
▼ 支援イラスト
└ (゚、゚トソン( -∀-)
『【祝福祭り】ブーン系創作板クリスマス・短編投稿祭』
スレ>>269より
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