かれは忍ぶ恋をしたようです

1 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/21(木) 22:21:52 ID:kWEMU.2s0
( ^ω^)2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです参加作品

2 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/21(木) 22:22:31 ID:kWEMU.2s0


(゚、゚トソン「……それでは、行ってらっしゃい」


 ―――彼女は、気丈に振る舞った。

心を張らないと、固く繕った表情が崩れてしまう。
彼の前で、二度と涙など見せないと、己に誓ったのだ。


( ゚д゚ )「……」


 彼は、固い表情を崩さなかった。

自分で望んだ事とはいえ、本当にこれで良かったのか―――
彼女の曇った顔を見ると、分からなくなる。


だが―――


( ゚д゚ )「行って来ます、都村(とそん)さん」


 護ろうと、そう思った。

紅葉の綺麗な、この村を。
十年以上、彼の心を支えてくれていた、この人を。

3 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/21(木) 22:23:06 ID:kWEMU.2s0



         かれは忍ぶ恋をしたようです







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4 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/21(木) 22:23:37 ID:kWEMU.2s0


 戦で両親を失った子供、というのは、いつの世にもいるもので、
『彼』も戦争孤児の中の一人だった。

本当の名を付けてくれた両親は、彼の出生の数年後に起きた大規模な戦で死んだ。
それから彼は、時には親戚を頼り、
時には、大きな声では言えぬ行動を繰り返しながら、独りで育っていった。

そんな彼を引き取ったのは、戦で両親を殺した、火府藩側の人間だ。
名もなき村に住む夫婦が、道端に倒れていた『彼』を拾い、
怪我を手当てし、新しい着物を着せ、暖かい食事と寝床を与えたのである。

最初の頃は、『彼』もひどく荒んだ目と態度を取っていた。
「両親を殺したのはお前らだ」と、
命の恩人に心無い言葉を投げかけた事も多々ある。

それでも―――夫婦は、『彼』を叱らなかった。

寂しかったのね、辛かったのねと、夫婦は『彼』を実の息子のように大切にした。
そんな優しさに頼るのが怖かった『彼』は、何度も夫婦の元から逃げ出した。

その度に夫婦は捜しに来てくれたが、『彼』の身勝手な行動に、ついに激怒した者がいた。


(゚、゚#トソン「あんた、いい加減にしなさいよ!!」


 ―――それが、その夫婦の実子である、『都村(とそん)』であった。

5 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/21(木) 22:24:13 ID:kWEMU.2s0


 都村(とそん)は、自分たちの家族に得体の知れない子供が増えた事を、
あまり好ましく思っていなかったらしい。

そんな子供が、度々ふらふらと何処かへ姿を消し、
その度に、都村(とそん)の家の人間が夜通し捜す羽目になるのだ。

大人は怒らずとも、都村(とそん)が怒るのは無理もない話である。

……その日、夜の河原にいた『彼』を、真っ先に見つけたのは都村(とそん)だった。
都村(とそん)は『彼』に駆け寄るなり、その頬を張り倒す。

そこで叫んだのが、先の台詞である。

唖然としている『彼』の胸倉を掴み、都村(とそん)は続ける。


(゚、゚#トソン「敵側の人間のくせに! 毎日毎日どれだけ迷惑かければ気が済むの!?」

(;゚д゚ )「……な、」

(゚、゚#トソン「なんとか言ったらどうなのよ! 毎日勝手にどっか行って、
      その癖、すぐ見つかる場所にいて!
      構ってほしいならそう言えばいいじゃない!」

(;゚д゚ )「……」

(;゚д゚ )そ

(;#゚д゚ )「べ…別にそういう訳じゃ!」

(゚、゚#トソン「じゃあ、何なのよ!」


 その後―――

幼い二人は、夫婦が駆けつけるまでずっと、殴り合いの喧嘩を続けていた。

互いに顔を腫らし、涙で顔をぐちゃぐちゃにした二人を見て、
夫婦はそこで初めて二人を叱る。

6 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/21(木) 22:24:52 ID:kWEMU.2s0


都村(とそん)には、

(,,゚Д゚)「『彼』を敵側の人間だと言ってはいけない」と。

『彼』には、

(*゚―゚)「寂しいのは分かるけれど、あまり心配をかけさせないで」と。

そして、その説教が終わった後、夫婦はにこやかに笑って言った。


「家へ帰ろう」、と。

7 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/21(木) 22:25:31 ID:kWEMU.2s0


 都村(とそん)との喧嘩の一件から、『彼』は徐々に変わっていった。

今までの名を捨て、擬古と椎夫婦が付けてくれた「ミルナ」と名乗った。
決して見捨てずに愛情を持って接してくれた両親を、よく手伝った。
殴り合いをした都村(とそん)とは、ゆっくりでありながらも仲良く歩み寄っていった。

だが、一時の平和も、そう長くは続かない。

ミルナの故郷である創作藩と、都村(とそん)達の火府藩との戦が激化していたのだ。

今まで血生臭い話とは無縁だったこの村でも、
若い男を召集するという噂がちらほらと出始めていた。

その噂は、時を置かずに実現することとなる。

都村(とそん)とミルナを育ててくれていた擬古が、戦地へと召集されたのだ。

嘆き悲しむ椎に優しい言葉を残し、彼は都村(とそん)とミルナの頭に手をやり、言った。


(,,゚Д゚)「悲しむことはない。俺は少し家を空けるが、都村(とそん)。
     母さんをよろしく頼むよ。
     そしてミルナ、この家の男はお前だけだ。
     母さんと都村(とそん)を、守ってやってくれ」


 その言葉を受け、都村(とそん)は気丈に頷いた。
ミルナは、ぼろぼろと涙を零しながら頷く。


そうして、擬古は戦地へと赴いて行った。

8 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/21(木) 22:26:14 ID:kWEMU.2s0

一家の大黒柱がいなくなり、家の中は静かになった。

残された椎は、擬古を戦争へ送ったのち、
前よりも都村(とそん)とミルナに愛情を注ぐようになった。

気丈に振る舞う母親を見て、都村(とそん)も、父のいない寂しさから立ち直る。
だが、ミルナは日々、泣いて暮らしていた。

本当の両親を失い、更に育ててくれた「親」までもが彼の前から消えてしまったのだ。
まだ幼いミルナにとっては、堪え難い辛さである。

そんな彼を支えたのは、意外な事に、都村(とそん)であった。
ミルナの境遇を知っていた彼女は、ただ黙って彼の側にいてやった。

少々不器用な嫌いがあった都村(とそん)は、言葉よりも行動で示す方法を選んだようだ。

ミルナも、そんな都村(とそん)の優しさに幾らか救われたらしい。
自分と同じように膝を抱えて座る都村(とそん)に、心中から感謝していた。

創作藩と火府藩の間の戦は、日々激化していく中で、
彼らは助け合いながらも、慎ましく暮らしていたのであった。


 擬古がいなくなり、数年が経った。

都村(とそん)十三、ミルナが十になった月の事。

それまで二人を愛し、夫の帰りを待っていた椎が、病に倒れた。

病床の椎は、都村(とそん)とミルナを呼び、言う。

9 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/21(木) 22:26:47 ID:kWEMU.2s0

(*゚ー゚)「私はもう永くないわ。父さんの帰りを待っていたかったけれど、それも叶わない。
    都村(とそん)…おまえには、必要な事は教えて来たわ。
    困った事があれば、近所の人たちに頼りなさい」

( 、 トソン「……」

(*゚ー゚)「……ミルナ、あなたは確かに、私が生んだ子ではなかったかもしれない。
    でもね…私は、都村(とそん)と同じに…あなたを大切に思っているわ。
    私がいなくなったら、都村(とそん)を助けてあげてね…。
    あなたがいてくれれば…私も安心できる…」

( ;д; )「…そんな事、言わないでください…。
     おれは、まだ何も返していません! まだ…」


 涙に暮れるミルナを、椎はただ優しい眼差しで見つめていた。

痩せ細った腕も、生気を失くした肌も、全てが痛々しく。
彼女は、数か月を病魔と闘い抜き、村が白雪に埋まった日、息を引き取った。

両親のいなくなってしまった二人に、村の人々はとてもよくしてくれた。
収穫の多かった茄子や薩摩芋を分けてくれたり、二人が寂しくないようにと
ちょくちょく家へ声をかけに来てくれる者もいた。

だが、やはり、二人だけとなってしまった家の中は、暗かった。

実の母を亡くした都村(とそん)は、日がな一日膝を抱えて泣いて過ごした。
当然ながら、ミルナも都村(とそん)の横で泣いて過ごす。

だが、彼の胸には、病床の「母」が遺した言葉がずっと浮かんでいた。


(*゚ー゚)「都村(とそん)を、助けてあげてね」。


 いつか、夜の河原で大喧嘩をした時も。
自分も悲しいだろうに、擬古を戦争へ送った時も。

都村(とそん)が、隣で支えてくれていた。
都村(とそん)が、ミルナの心を助けてくれていた。

今動かずに、いつ動くというのか。

10 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/21(木) 22:27:22 ID:kWEMU.2s0

―――その朝、
いつまでも布団の中で膝を抱えていた都村(とそん)の鼻が、
何やら良い匂いを嗅ぎつけた。

不思議に思い、隣を見る。

いつも都村(とそん)より遅く起きてくるミルナが、その日はどこにもいなかった。

布団も片づけられ、火鉢にも火がついている。
何が起きたのかと事態を把握出来ていない都村(とそん)が、
ゆっくりと布団から身体を起こし、温まった部屋を出た。

とん、…とん、と不規則な包丁の音が聞こえてくる方へ行くと、
台所にミルナが立って、何かを包丁で刻んでいた。

その手つきは危なっかしく、思わず都村(とそん)はミルナに駆け寄る。


(゚、゚;トソン「どうしたの? 何かあったの…?」

( ゚д゚ )「あ…。いや…おれ、今まで都村(とそん)さんに色々助けてもらったし…
     助けてあげてって、言われたから…その…」

( ゚д゚ )「……いつまでも、悲しんでいられないなって…思って、それで」

(゚、゚トソン「……」

( ー トソン「……そうね」


 泣き腫らし、ひどい顔をしていた都村(とそん)が、自分の頬を叩いた。

そして、ミルナの横に立ち、言う。


(゚、゚トソン「何かを切る時は、手を丸めるの。
     それじゃあ、指を切っちゃうわ」

(;゚д゚ )「指を? 丸め?」

(゚、゚トソン「手本を見せてあげる。ちょっと貸して」

11 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/21(木) 22:28:21 ID:kWEMU.2s0


 ミルナから包丁を返してもらった都村(とそん)が、手本を見せる。
普段から家事を手伝っていた彼女は、やはり包丁の扱いもそれなりに上手かった。

感心しながら見つめていたミルナが、思わず感嘆の声を漏らす。
それに気づいた都村(とそん)が、少し微笑んだ。


(゚、゚トソン「…確かに、いつまでも泣いてばかりいられないわ。
     さっそく助けられちゃった。……ありがとう、ミルナ」

( ゚д゚ )「えっ」

(*゚д゚ )「あ…ど、どういたしまして!」


 思えば、誰かから礼を言われたことなど、ミルナには一度もなかった。

この家に来るまでは、褒められたものではない生活を送った事もある。
暖かい気持ちとは無縁だと、彼自身も思っていた。

だが、この家へ来てから、彼も変わったのである。

誰かの為に、何かをしようと考える事を知った。
支えてくれた都村(とそん)の為に、出来る事をしようと胸に誓った。

そして、それから―――

都村(とそん)は、母の死を乗り越え、村の医師の下で勉強を始めた。


「これからどんな病が流行ろうとも、私がこの手で治せるように」


 そう言って、彼女は少し照れ臭そうに笑う。

行動を始めた都村(とそん)に倣い、ミルナも行動を始めた。
学もなく、家事が出来るわけでもなく、出来る事と言えば、薪を割ることや
米や野菜を運ぶことだけ。

都村(とそん)のように、頭を使うことは向いていない。

だから、彼は村の老人に剣術を習う事にした。

12 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/21(木) 22:28:59 ID:kWEMU.2s0


彼が剣術を習う事について、都村(とそん)はあまり良い顔をしなかった。

別に刀など振らなくても、少し家の事を手伝ってくれればそれでいいのに。と。
刀を振るうと、またいつかミルナも戦地へ召集されるのではないかと、
都村(とそん)は、それが嫌だったようだ。

だが、ミルナは引かなかった。

もしも戦地へ召集されたとしても、
都村(とそん)さんを守る為なら構わないと、ミルナは何度も説き伏せた。


(゚、゚トソン「……あなたと同じ事を言って、父上は戦場へ行って…
     未だ、戻らないではないですか。
     私は、あなたが刀を振るうのには反対です」


 どれだけミルナが説得をしても、やはり都村(とそん)は良い顔をしなかった。
顔を曇らせ、首を振るばかりだ。

それでも、ミルナは剣術の稽古に励んだ。

母親が病死して、三年の月日が経とうとしていた。

都村(とそん)十八、ミルナ十五の頃である。
すっかり落ち着いた二人は、仲良く日々を過ごしていた。

村を囲む山が桃色に、緑に、赤に、白に染まりゆく様を、
二人は何度も何度も見てきた。

花香る春も、緑萌ゆる夏も、稲が頭を垂れる秋も、生き物が深い眠りにつく冬も。
二人は、助け合いながらも暮らして来た。

創作藩と火府藩の間の戦も、前のような過激さは息をひそめ、
このまま沈静化するかと思われた。

村へ兵の召集もかからなくなった、秋の昼。
珍しく、都村(とそん)が外へ行こうと言い出した。

13 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/21(木) 22:29:33 ID:kWEMU.2s0


(゚、゚トソン「ミルナ、すすきを取りに行きませんか?」

( ゚д゚ )「すすき、ですか?」

(゚、゚トソン「はい。父上達が健在だった頃は、お月見をしたでしょう?
     山へ入って、山菜を取るついでにでも。
     しばらくやっていませんでしたし、二人でお月見も良いと思ったのですが
     …行きませんか?」

(*゚д゚ )「行きます、行きます!」


 二つ返事で都村(とそん)に着いて、山を目指すミルナ。

その浮かれた気持ちが沈むのは、夜になっての事であったと、彼はまだ知らない。

14 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/21(木) 22:30:12 ID:kWEMU.2s0


 縁側から見える夜空に、白くて丸い月が浮かんでいた。

ミルナと都村(とそん)の間には、昼に取ってきたすすきと、
二人で作った不格好な団子が置かれている。

吹く風が、金色の田を駆けた。


( ゚д゚ )「見事なものですね」

(゚、゚トソン「そうですね」

( ゚д゚ )「何年振りでしたっけか」

(゚、゚トソン「もう六、七年は経ってますね。
     前までは四人で見ていたものですが…」

( ゚д゚ )「……」

(゚、゚トソン「……」


 暫しの沈黙を挟む。

この静かなひと時がいつまでも続けば良いと、ミルナはひそかに思っていた。
いつも支えてくれていた人が、隣にいてくれるこの幸せが、
ずっと続けば良いと。

だが、そんなささやかな願いすら、叶わないのだ。


(゚、゚トソン「……あのね、ミルナ」


 都村(とそん)がこの時間を作り出した、その理由。

15 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/21(木) 22:30:45 ID:kWEMU.2s0

(゚、゚トソン「久しぶりに二人で月見をしようと言ったのは、
     あなたとちゃんと話をしたかったからなんです」

(*゚д゚ )「そ、それは…どういう意味ですか?」

(゚、゚トソン「……私が、村のお医者の先生に習っている事は知っていますよね。
     その先生に、縁談を持ちかけられました」


 舞い上がっていたミルナの気持ちが、風に吹かれた枯れ葉のように落ちていく。

それまで鮮やかに見えていた満月も、そよぐ稲穂も、全てが色褪せて見えた。
それでも、彼は動揺を隠すように咳払いをしてから、続けてください、とだけ口にした。

彼の心中を知ってか知らずか、都村(とそん)はひとつ頷くと、話を続ける。


(゚、゚トソン「お相手は、その先生のお子さんだそうです」

( д )「……」

(゚、゚トソン「強要はしない、と仰ってました。
     先生は私たちの事をよく知っているので、もしも気が進まないなら、
     それはそれで構わないと。私の幸せが他にあるのなら、そちらを優先しなさいと」

(゚、゚トソン「先生には昔からお世話になっていますし、私なんかで良ければ…
     そう、思っています。……でもね」

(゚、゚トソン「私、あなたが心配なんです。
     泣き虫で、あまり器用じゃないあなたが。
     もしも私が余所へ行ったとしても、
     村の人が助けてくださるとは思っていますが…それでも心配です」

( д )「……」


 この日々が、いつまでも続いてくれればいいと―――

ミルナは、ずっと思っていた。

16 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/21(木) 22:31:19 ID:kWEMU.2s0

それすらも叶わず、彼に安らぎを与えてくれた人までもが、
今、彼の前からいなくなろうとしている。

だが、「行ってほしくない」など、どの口が言えるだろう。

本当の両親が殺され、育ててくれた両親も死んでしまった。
自分だって大変だっただろう。
寂しさからか、都村(とそん)が寝所でひそかに涙をこぼしていた事も、ミルナは知っている。

それでも、弱音ひとつ吐かず、彼女は自分とミルナの面倒を見てくれていた。
同じ年頃の娘が楽しげに遊んでいる中、都村(とそん)は黙々と、
生きていく為に必死で働いた。

そんな彼女のこれからの人生まで、どうして縛れようか。

都村(とそん)に会って、早十年。

成長と共に育まれていった淡い想いは、
このまま胸にしまっておいた方がいいと―――


( д )「……」


 そう、判断した。


( д )「都村(とそん)さん、俺の事は気にしないでください。
     俺も、都村(とそん)さんに幸せになってほしいんです。
     もう泣きはしませんから……だから…」

( д )「……」

(゚、゚トソン「……そうですか。
     あなたも、もう昔のような泣き虫じゃなくなったんですね」

(゚ー゚トソン「…ミルナ、私は、あなたに何度も助けられてきました。
     今まで、本当にありがとう」


 助けられたのは自分だと、礼を言いたいのは自分だと、
言いたくとも、声が出ない。

今何かを言えば、涙がこぼれそうだった。

17 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/21(木) 22:31:50 ID:kWEMU.2s0

「泣かない」と言った手前、都村(とそん)の前でそんな姿は見せられない。

これ以上、都村(とそん)に心配させたくないのだ。
もしも遠くへ嫁いでしまうのなら、笑顔で行ってほしいのだ。

これ以上、彼女の足を引っ張りたくないのだ。

よく、分かっていた。
自分が都村(とそん)へ抱いている想いを打ち明けたところで、
彼女が戸惑うだけだと。

自分の事など、弟としか思われていないと。

それが分かっているからこそ、二人でいられる時間が、最高に幸せだった。


(゚、゚トソン


 だから―――

月を見上げる想い人の横顔を、ミルナはじっと眺めた。
彼の中に芽生えた決意が、揺るがないように。

18 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/21(木) 22:32:24 ID:kWEMU.2s0

 月見から、数日が経った。

村にも見事な紅葉が見ごろを迎え、あかい風が木々を揺らしている。

都村(とそん)は、まだ縁談の答えに迷っているようだ。
ミルナは、前よりも一層、剣術の稽古に打ち込んでいた。

一度は沈静化したかと思われていた、火府藩と創作藩との間の戦も、
再び激化の一途を辿っているようで、
村のすぐ近くにまで召集がかかっているとの噂が流れてきている。

今は、創作藩が随分と押されているようだ。
村を囲む山々の向こうで、今日も戦は続いている。

秋も深まった頃の、昼。
ミルナは、村の医者の家から帰ってきた都村(とそん)を散歩へ連れ出した。

炎のように紅に染まる葉が、二人の頭上を彩る。


(゚、゚トソン「綺麗ですねぇ」

( ゚д゚ )「…ですね」


 彼が都村(とそん)を散歩へ誘ったのは、とある話をするためだ。

家で話しても良かったのだが、突然の来客などで邪魔されたくない。
だから、彼は都村(とそん)を散歩へ誘った。

このありふれた日常すら、今のミルナにとっては、何物にも替えがたい幸福であると、
都村(とそん)は知らない。

恐らく、これから先も知ることはないだろう。


( ゚д゚ )「……都村(とそん)さん」

(゚、゚トソン「はい?」

( ゚д゚ )「俺からも、ひとつ話があるんです」

19 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/21(木) 22:32:59 ID:kWEMU.2s0

 くるりと振り向いた都村(とそん)が、首を傾げた。

その丸い瞳が、真っ直ぐミルナを捉える。
後ろめたいことなど、何もありはしない。

だが、ミルナは、その視線から逃れるように、目を伏せた。


(゚、゚トソン「あなたから話なんて、珍しいですね。何ですか?」

( д )「……俺、戦へ行こうと思います」


 そう言った途端、都村(とそん)の顔色が変わった。


(゚、゚;トソン「今…。今、何と…?」

( д )「戦へ、行きます。
     火府藩の人間として、創作藩と戦います」

(゚、゚;トソン「まさか…冗談でしょう? どうして、どうして突然そんな」

( д )「だから……」


 爪が食い込むほどに握りしめた拳の意味を、都村(とそん)が知る事はない。

ミルナが戦へ出向くと決めるまでの葛藤を、都村(とそん)が知る事はない。


( д )「俺の事は心配しないで、幸せになってください」


 決めたのだ。

このまま二人ではいられない。
都村(とそん)が縁談を断ったとしても、きっと彼女は自分が独り立ちしないと、
己の幸せを掴もうとはしないだろう。

何ひとつとして、恩返しなど出来ていない。
彼女の言うとおり、自分には不器用で学もない。

20 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/21(木) 22:33:54 ID:kWEMU.2s0

それならば、せめて―――

都村(とそん)が居る、この地を護る為に、戦おうと。

生みの両親を殺した、火府藩側の人間として―――
創作藩の為、刀を取ると。

勿論、都村(とそん)には真意を話すつもりはない。
話せば、きっと彼女は悲しむだろう。


(゚、゚;トソン「……ミルナ…」

( д )「……」

( д )「決めた事です。どうか、何も言わないでください」





 じっと、都村(とそん)が自分を見上げているのを、ミルナは感じていた。
何かを探るような、そんな目だ。


(゚、゚トソン「……ミルナ」


 暫しの沈黙ののち、都村(とそん)が言う。


(゚、゚トソン「私の目を、見なさい。
     人と話すときは、相手の目を見るのが礼儀です。
     その上で、答えなさい。
     突然、戦へ出向くと言った理由は、何ですか?」

21 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/21(木) 22:34:28 ID:kWEMU.2s0

 血が滲むほどに、握った拳を解いた。

伏せた目を、徐々に都村(とそん)へと向ける。
目の前にいる都村(とそん)の目は、ただ真っ直ぐ、ミルナへ向いていた。

その眼差しの強さに、思わず怯む。

だが、ここで負ける訳にはいかないのだ。


( ゚д゚ )「……護りたい人がいます。
     ずっとずっと昔から、お世話になっていた人なんです。
     その人を護る為に…戦いたいんです」

( ゚д゚ )「俺がその人の為に出来る事といえば、…その人の日常が壊れぬように、
     この創作の地を死守することだけ。
     ……俺には、それしか出来ないんです」

(゚、゚トソン「……」


 都村(とそん)の視線が、探るようにミルナを射抜く。

決してその視線から逃げることなく、ミルナは都村(とそん)を見つめ返した。
先に視線を逸らしたのは、


( 、 トソン「……そう、ですか」


 都村(とそん)だった。

胸に抱えた医学の本を今一度抱え直し、彼女は顔をあげる。

22 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/21(木) 22:35:01 ID:kWEMU.2s0

(゚、゚トソン「……それが、あなたの決意ですか。
     それならば、私はもう…何も言えません」

( ゚д゚ )「…すみません、都村(とそん)さん」

(゚、゚トソン「……ミルナ。武人として生きると決めたのであれば、
     あなたは戦地に生き、戦地で散りなさい。
     それだけの覚悟がないのなら、あなたには戦など……
     人を斬ることなど、無理です。諦めなさい」

( ゚д゚ )「俺は (゚、゚トソン「……これが、武人としてのあなたに、贈る言葉です」

(゚、゚トソン「そして……あなたのただ一人の家族として、お願いします。
     …必ず、必ず生き延びると。生きて、また私に会いに、この村に帰って来ると。
     そう、約束してください」

(゚、゚トソン「あなたが大怪我をしても治せるよう、私ももっと頑張ります。
     だから、何があろうとも帰ってきなさい。
     どれだけ時間がかかろうとも、必ず」



(゚、゚トソン「……あなたが護りたいと思った人を、決して悲しませぬように」



 そう言った都村(とそん)は、ひどく悲しげな顔をしていた。

顔を曇らせた彼女を元気づけるように、ミルナがぎこちなく表情を崩す。


( ー )「……分かりました」


 それは大層不器用ながらも、都村(とそん)を安心させるための笑顔であるが、
都村(とそん)はますます、顔を曇らせた。


(゚、゚トソン「……いつ頃、戦地へ向かうのですか?」

( ゚д゚ )「紅葉の季節が終わる頃、向かおうと思っています。
     それまでは、もっと剣の腕を磨こうと」

(゚、゚トソン「紅葉の季節が終わる頃…ですか……」


 あと半月もすれば、この村の紅葉は全て葉を落とすだろう。

時間は、そう残っていない。

23 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/21(木) 22:35:31 ID:kWEMU.2s0

ミルナも都村(とそん)も、悟っているのだ。
戦に赴けば、生きて帰るのは不可能に近いと。

それでも、ミルナは行くと言った。
大切な人の生活を、未来を守る為に。

そんな彼の固い決意を、どうして都村(とそん)が止められようか。

無駄に命を散らしに行くことはないと、どうして言えようか。

逡巡と葛藤は、都村(とそん)の口を閉ざした。
暫しの沈黙ののち、


( 、 トソン「……そうですか」


 都村(とそん)が言えたのは、ただの一言だけ。

気まずい沈黙に耐えられなかったのか、ミルナが咳払いをしてから、言った。


( ゚д゚ )「俺の話は終わりです。
     ……都村(とそん)さん、そろそろ風が出てきました。
     もう陽も落ちますし、家に帰りましょう」

( 、 トソン「先に帰っていてください……。
     直ぐ、帰りますから」


 その声が震えて聞こえたのは、恐らく気のせいではないだろう。

燃えるように赤い木々の中に都村(とそん)を残して、
ミルナは先にその場を後にした。


「―――行かないで」


 都村(とそん)が漏らした涙混じりの声は、木々を揺らす風に掻き消され、
ミルナの耳には届かなかった。

24 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/21(木) 22:36:05 ID:kWEMU.2s0

 ミルナが戦へ赴くと都村(とそん)に告げ、
村の紅葉は日に日にその葉の数を減らしていった。

裸になっていく木々を見つめ、都村(とそん)はいつもの元気を無くしていく。

だが、ミルナは何かが吹っ切れたかのように、
剣術の稽古と都村(とそん)の手伝いを欠かさなかった。

己に残された時間が無いと知っているからこそ、
最後まで想い人に尽くそうと決めたのかもしれない。

その心遣いが、都村(とそん)には辛かった。
明るく、色んな話をしてくれるミルナと顔を合わせるのが、
都村(とそん)にとっては、ひどく辛かったのだ。

散りゆく葉を恨めしそうに眺め、溜息を落とす日々。

ミルナの前で泣き顔など見せられないと、心を殺す毎日が続く。

だが―――

その日々も、終わりを告げようとしていた。


( ゚д゚ )「都村(とそん)さん……」

( ゚д゚ )「山の木々が、随分と寂しくなりました。
     俺も、戦地へと向かおうと思います」


 風がひどく冷たい日のこと。

刀を帯びたミルナが、都村(とそん)の前に座って言った。
その表情は硬く、瞳の奥に隠した決意は揺るがない。


(゚、゚トソン「……どうしても、行くのですか」

( ゚д゚ )「はい。明日の朝、経ちます」


 即答したミルナに、覚悟の意思を汲み取った。

25 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/21(木) 22:36:40 ID:kWEMU.2s0

口を真一文字に結んだ都村(とそん)が、黙り込んだまま、
箪笥から何かを出してミルナの前に差し出す。

それは、美しい赤に染まった巾着だった。


(゚、゚トソン「……戦いに行くあなたに、何か……贈り物をしようと考えました。
     邪魔にならず、重荷にもならぬものをと」

(゚、゚トソン「これは……村の紅葉から抽出した赤色で染めた布で作った、お守りです。
     あなたが無事に生きて帰って来れますようにと、
     神さまに祈りながら毎日こっそりと染めました」

(゚、゚トソン「……こんなものしか用意出来なかった私を、許してください」

( ゚д゚ )「…………」


 都村(とそん)が祈りをこめて作った赤いお守りを、手に取る。

村の紅葉で染めたというその色は、しっとりと落ち着いた美しい赤色。
巾着の中身には、一枚の紙が入っていた。

開いてみると、墨で何やら文字が書かれている。


( ゚д゚ )「これは、一体何が書かれているのですか?」

(゚、゚トソン「それは……」

(゚、゚トソン「……」

(゚、゚トソン「知りたい、ですか?」

( ゚д゚ )「……できれば。俺は文字が読めませんし、教えてください」

(゚、゚トソン「…………」


 都村(とそん)の目が、ミルナの手に収まった紙に向けられた。

そこに書いてある文章は、都村(とそん)の他に知る者はいない。

だが、たっぷりと時間を置いてから、都村(とそん)は首を振った。

26 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/21(木) 22:37:11 ID:kWEMU.2s0

(゚、゚トソン「知りたければ、教えます。
     ―――あなたが生きて帰って来たら、教えます」

( ゚д゚ )「……。分かりました」

( ゚д゚ )「それでは、俺はもう眠ります。
     都村(とそん)さん……。今まで、ありがとうございました」

(゚、゚トソン「…………」


 何かを言いたげな都村(とそん)の表情を、ミルナは決して見ようとはしなかった。

その顔を見てしまったら、決意が揺るいでしまいそうだったから。
都村(とそん)がミルナの出征を止めたら、決心が鈍ってしまいそうだったから。

だから―――


(゚、゚;トソン「……ッミルナ!」


 顔を伏せてしまっていた都村(とそん)が、ミルナを引き留める前に―――

ミルナは、傷だらけの襖をぴしゃりと閉めた。


( д )「……」


 暗い廊下に佇んで、ミルナはそこから動けない。

何よりも大切な人が、薄い襖の向こう側ですすり泣いている声が聞こえた。
彼女を悲しませていることが、ミルナには辛い。

懐から、都村(とそん)に貰ったお守りを出した。

村の紅葉と同じ色のそれを、ぎゅうと握りしめる。

都村(とそん)がミルナの為に作ってくれた、大切なもの。
その赤色に、涙が一粒、こぼれ落ちた。

ここで泣いてしまえば、都村(とそん)がまた心配してしまう。
そう分かっているのに、どうにも涙が止まらない。

本当は、都村(とそん)と一緒に居られるだけで良かった。
何があろうとも、気丈に振る舞う都村(とそん)の事が好きだった。
好いた人が泣いているのに、昔のように寄り添ってやれない自分がもどかしかった。

27 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/21(木) 22:37:43 ID:kWEMU.2s0


( д )


 襖の向こうから聞こえるすすり泣き。

悲しませている原因は自分だと、分かっているからこそ、
ミルナも悲しくなった。

声を押し殺して泣いているミルナに、都村(とそん)は気づいているのだろうか。

襖一枚を隔てた二人は、どうする事も出来ないままに涙を落とす。

縁側から見える木が、また一枚枯れ葉を散らす。
色褪せたミルナの世界に、都村(とそん)がくれたお守りだけが、
美しい色を持って見えた。


(つд )「……」


 このまま泣いていた所で、何かが変わる訳ではない。
これ以上、未練がましく都村(とそん)の近くにいてはいけない。

どちらも、辛くなるだけだ。


( ゚д゚ )


 涙を払ったミルナが、そっとその場を立ち去る。

襖の向こうから聞こえるすすり泣きは、一晩中続いていた。

28 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/21(木) 22:38:14 ID:kWEMU.2s0

 吐く息が白む朝。

刀と旅荷物、そして都村(とそん)に貰ったお守りを懐に、
ミルナはそっと家を後にした。

眼前に広がる山々は、葉を落として寒々しい。
まだ誰も起きていないのか、村は静かな空気に包まれていた。

これからミルナは、村の裏手にある山々を越える事になる。
行きつく先は、争いの場。

生きて帰って来られる保証は、どこにもない。


( ゚д゚ )「……」


 振り向いて、十年以上過ごしてきた家を見上げる。

本当の両親の元に居た時よりも、彼は多くの時間をここで過ごしてきた。
両親に教えて貰えなかったことを、ここで学んだ。
荒んでいた頃は知りえなかった感情を、この家で覚えた。

……思うことは多々あるが、ミルナはそれを口にすることはなかった。
旅荷物を抱え直し、彼はゆっくりと足を踏み出す。

そして、気づいた。


(  トソン


 山へ至る道の途中に、


そ(゚、゚トソン


 すっかり赤くなった指先に息を吐き、寒そうに震えながら佇む都村(とそん)の姿があることに。

29 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/21(木) 22:38:44 ID:kWEMU.2s0


(:゚д゚ )「……都村(とそん)さん、どうしてここに」

(゚、゚トソン「見送りをしない訳にはいかないでしょう?」

(:゚д゚ )「……寒かったでしょうに。
     いつからここに立っていたんですか?」

(゚、゚トソン「数分前です」


 都村(とそん)の答えが嘘であることは、その顔色を見れば明らかだった。

白い顔を更に青白くさせていたのだ、
半時以上はこの寒空の下で佇んでいたのだろう。


(゚、゚トソン「……本当に、行くのですね」

( ゚д゚ )「はい。この地を護る為に、戦ってきます」

( 、 トソン「……」


 ミルナの答えは、揺るがなかった。

答えは変わらないと、頭のどこかでは分かっていても―――
都村(とそん)は、ミルナの答えに肩を落とす。


(゚、゚トソン「……やはり、心変わりはしませんか」

( ゚д゚ )「……はい」

(゚、゚トソン「分かりました」


 大きく息を吐いて、都村(とそん)が顔を上げる。

その表情は、ミルナと同じ。
決意を固めた、そんな顔だった。

30 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/21(木) 22:39:18 ID:kWEMU.2s0

(゚、゚トソン「……それでは、行ってらっしゃい」


 ―――彼女は、気丈に振る舞った。

心を張らないと、固く繕った表情が崩れてしまう。
彼の前で、二度と涙など見せないと、己に誓ったのだ。


( ゚д゚ )「……」


 彼は、固い表情を崩さなかった。

自分で望んだ事とはいえ、本当にこれで良かったのか―――
彼女の曇った顔を見ると、分からなくなる。


だが―――


( ゚д゚ )「行って来ます、都村(とそん)さん」


 護ろうと、そう思った。

紅葉の綺麗な、この村を。
十年以上、彼の心を支えてくれていた、この人を。



( 、 トソン「……」


 今にも泣き出しそうな都村(とそん)を置いて、ミルナはただ黙って歩き出した。

決して振り返らず、決して思いを言葉にせず。
二人の心を映したかのような雲を見上げ、ミルナは山の中へと消えていく。

その姿が見えなくなるまで、都村(とそん)はずっとその場に佇んでいた。
ただ一人の家族の無事を、ただただ願いながら。

31 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/21(木) 22:39:52 ID:kWEMU.2s0

そして―――


―――ミルナを見送って、数年の時が経った。

春には桜が、夏には蛍が。
秋には紅葉が、冬には雪が。

四季は何度も移り変わり、創作藩と火府藩の間の戦は、
熾烈を極めながらも、やがて勢いを弱め、やがては創作側の勝利で戦は終結した。

だが、ミルナが村に帰ってくることはなかった。

都村(とそん)は、戦地にいるミルナに何度も手紙を書いていた。
ミルナが文字を読めないのは分かっていても、何度も手紙を認めた。

返事は返って来なかったが、手紙を送る事だけは止めなかった。


('、`*川「都村(とそん)ちゃん、
     もうそろそろ自分の幸せを考えた方がいいんじゃないのかい?」


 近所の人間が、遠回しにミルナの生存を諦めろと言っても、
都村(とそん)は決して諦めなかった。


(゚、゚トソン「……彼が無事に戻ってくることが、私の幸せですから」


 そう言い張る都村(とそん)に、村人たちも何も言わなくなった。

戦が終わっても、ミルナは帰って来ない。
それが何を意味するか、誰もが知っているはずだ。

それでも、都村(とそん)はミルナの帰りを信じて待ち続けた。

何度、四季が移り変わろうとも。
何度、赤く染まった紅葉が都村(とそん)の心を揺さぶろうとも。

ただ、信じて待ち続けた。

32 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/21(木) 22:40:39 ID:kWEMU.2s0

火府藩と創作藩の間の戦が集結し、長い月日が経った、秋の昼。

ふらり、紅に染まる山の中に、人影がひとつ。
腰には刀を帯び、その目は強い意志を持ち、輝いていた。

しかし、彼の左腕は、肘から先が失われていた。


('A`)「おう、兄ちゃん。どこへ行くんだ?
    この先へ行ったって何もありゃあしねぇぜ?」


 山の中腹の茶屋で休んでいた男が、青年に声をかける。



(  )「ええ、この辺りにある、名前もない小さな村に行きたいんです。
    確かここら辺だったと思うんですが、ご存知ですか?」

('A`)「あー…確か山2つ超えたところに、小さな村があるって聞いたっけな。
    でも、あんなところになんの用だ?」

(  )「ちょっと、人に会いに。
    ……山2つ超えたところ、ですか。ありがとうございます」


 丁寧に頭を下げた青年は、ゆっくりと山中へ消えて行った。

33 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/21(木) 22:41:13 ID:kWEMU.2s0

火府藩と創作藩の間の戦が集結し、長い月日が経った、秋の昼。

ふらり、紅に染まる山の中に、人影がひとつ。
腰には刀を帯び、その目は強い意志を持ち、輝いていた。

しかし、彼の左腕は、肘から先が失われていた。


('A`)「おう、兄ちゃん。どこへ行くんだ?
    この先へ行ったって何もありゃあしねぇぜ?」


 山の中腹の茶屋で休んでいた男が、青年に声をかける。



(  )「ええ、この辺りにある、名前もない小さな村に行きたいんです。
    確かここら辺だったと思うんですが、ご存知ですか?」

('A`)「あー…確か山2つ超えたところに、小さな村があるって聞いたっけな。
    でも、あんなところになんの用だ?」

(  )「ちょっと、人に会いに。
    ……山2つ超えたところ、ですか。ありがとうございます」


 丁寧に頭を下げた青年は、ゆっくりと山中へ消えて行った。

34 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/21(木) 22:41:52 ID:kWEMU.2s0

そして、彼は目的の村に辿り着く。
赤い風が木々を揺らす、名も無き小さな村。

その玄関先で、落ち葉を掃除する女性を見つけ、彼は彼女に声を掛ける。
彼女は青年を見て、目を丸くしたのち、差し出された紙の束に視線を落とした。

それは、都村(とそん)が長年に渡って、k戦地にいるミルナに送り続けた手紙の束だった。
手紙には、べったりと血の染みが残っている。
その手紙を抱えた都村(とそん)の目からは、大粒の涙がひとつ、また一つと零れていく。


(;、;トソン


 しゃがみ込んで泣き続ける都村(とそん)の「隣」で、
青年もまた涙を落とし、二人の泣き声はいつまでも、いつまでも村中に響いていたそうだ。

35 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/21(木) 22:42:24 ID:kWEMU.2s0


かれは忍ぶ恋をしたようです


おしまい

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