('A`)夏の日とGANG OF FOURのようです

後編

100 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/08(火) 23:54:47 ID:J6Rkj0cE0
………
……


校内が普段よりも慌ただしさを増している。
普段聞こえる生徒の喧騒よりも、さらに多くの声と音が校舎の中に響き渡る。

学園祭がいよいよ目前へと迫ってきた。
出店する各クラスは最後の打ち合わせと調整に勤しみ、展示・実演をする部活動は練習と作成に勤しむ。
もう気が早いところでは、資材や機材の準備も始めているらしい。
この残りの期間はとにかく加速度的に過ぎていく。

それは軽音楽部にとっても例外ではない。

ドクオのバンドも、いよいよ練習から本番に向けてのリハーサルに近い形へと移り変わる。
まさしく佳境を迎えていた。

101 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/08(火) 23:55:27 ID:J6Rkj0cE0
('、`*川「あれー? ブーンは?」

('A`)「クラスで出す焼きそばの指導してます」

川;゚ -゚)「し、指導?」

('A`)「アイツの作る焼きそばってマジで旨いんですよ、屋台の名店並みに」

('A`)「食品に関しては一切妥協をしたくなくて自分でやりたかったらしいけど、腕あの状態じゃないですか」

(;゚Д゚)「まぁな」

('A`)「だから指導」

('、`;川「そ……そこまでやるの?」

('A`)「ラーメン屋の暖簾分けみたいなもんっすね。合格出すまで焼きそばは出せねえみたいな」

川;゚ -゚)「材料費練習だけで尽きちゃうんじゃないのか」

('A`)「ブーンの自費だから大丈夫です」

('、`;川「……すごいねぇ……」

102 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/08(火) 23:56:11 ID:J6Rkj0cE0
('A`)「……そんじゃ、確認しますね」

バンドのメンバーはA4の紙を囲むようにしゃがんでそれを見ている。
ドクオが書いてある文字を指で追う。

('A`)「えー制限時間30分、SEが流れてから退場するまでが時間ですね」

('A`)「とりあえずSEが流れたら任意のタイミングで入場、観客側から見て左手側がベースアンプ、右と中央がギターアンプなので……」

('、`*川「あー、分かった分かった。そこは変わらないから一々言わなくて大丈夫」

(;'A`)「あっ、さーせん」

(,,^Д^)「ま、とりあえず集合時間に遅れなきゃなんとでもなるよ」

川 ゚ -゚)「去年のペニサスなんか完全に遅刻してきたし、殆ど飛び入りに近かったからな」

('、`;川「うっ、うるせーやい、屋上で居眠りしてたら時間が来てたんだ文句あっか!?」

(,,゚Д゚)「……今回は無しでよろしくな?」

('、`;川「信用無いなあ」

川 ゚ -゚)「ペニサスだからな」

103 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/08(火) 23:56:54 ID:J6Rkj0cE0
('、`;川「ああん、クーちゃんに言われると心に刺さるわぁ」

ドクオはいそいそと真ん中に置いていた紙を脇に置いていたクリアファイルに入れる。
そしてそのクリアファイルからまた違う2枚目の紙を取り出した。

('A`)「そんでこれがセットリストです」

きっちりメンバー分コピーしてきたそれを、各メンバーの前に配っていく。
全員がそれを手に取りながら眺める。

('、`*川「あ、結局変更なしなんだ」

('A`)「ちょっと悩んだんですけどね」

(,,゚Д゚)「MC入れんの?」

('A`)「んー軽くバンド名言うだけでいいかなって……」

104 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/08(火) 23:57:38 ID:J6Rkj0cE0
川 ゚ -゚)「いざとなったらペニサスにふりなさい」

(,,゚Д゚)「漫談で場を繋いでくれるから安心してふれ」

('、`*川「なんか私の扱い雑くない?」

(,,゚Д゚)「そんなもんそんなもん」

川 ゚ -゚)「そんなもんそんなもん」

('、`;川「えー」

ドクオは手に取ったセットリストを改めて見直す。
数曲練習した中から、制限時間に収まる様に絞り込むのは、ドクオにとって死ぬほどつらい作業だった。

タダでさえ好きな曲を何度も練習した事で更に思い入れが強くなってしまった。
さらにその曲の中からいいものを選んでいくというのはドクオにとっては中々拷問に近いものがあった。

なのでフラットに見てもらえる他のメンバーの協力も仰いだのだ。
もちろん、演奏のしやすさ等の要望を聞くという意味もあったが。

そうしてようやく決まったセットリストは、ある意味メンバーの努力の結晶だ。
全ての時間と思いの入った曲を、これでもか!という位に詰め込んでいる。

105 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/08(火) 23:58:21 ID:J6Rkj0cE0
('A`)「(もし観客が満足しなくても、俺にとっては最高の時間になるな)」

ドクオは、セットリストに書かれた曲目を見つつ、満足そうに頷いた。

('A`)「(例えこれがオナニーだと言われたとしても、俺にとっちゃ本懐だ)」

(,,゚Д゚)「よっしゃ、じゃあ今日の練習は通しでやってみよう」

('、`*川「あー何か緊張するわぁ……」

川 ゚ -゚)「おや、ペニサスでも緊張する事があるんだな」

('、`;川「あんた、私をなんだと思ってんのよ」

川 ゚ -゚)「ペニス脳」

('、`*川「クーちゃんに真顔で言われちゃうととても悲しい気分になっちゃうぜ!」

106 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/08(火) 23:59:06 ID:J6Rkj0cE0
('A`)「あ、だから怒ると頭が血で一杯になっちゃって頭回らなくなっちゃうんですね?」

('、`;川「お、お前……事実だから何も言い返せない! く゛や゛し゛ぃ゛〜〜〜」

(,,゚Д゚)「はいはい練習するぞ〜。今週から時間無いんだから」

学園祭1週間前のこの時期になると、軽音楽部だけでなく有志バンドにもこの部室を解放するのが例年の決まりになっている。
近所のいつも使っているスタジオも、この時期だけ値段を上げている。よってどのバンドもなるべくスタジオは避けたい。
なので予約が殺到し、部室の貸し出しタイムスケジュールはカツカツとなる。
そのため1バンドあたりの貸し出し時間も短くなってしまっているのだ。

(,,゚Д゚)「でもさーよく考えたら屋上使えばいいんじゃ」

('、`*川('A`)「「ダメです」」

(;゚Д゚)「あ、あぁうん……」

107 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/08(火) 23:59:56 ID:J6Rkj0cE0
ギコは足元に置いてあるエフェクターを踏む。
そしてリフを刻みはじめる彼に合わせてドクオもテレキャスターを鳴らす。
呼応するようにペニサスのベースが、クーのドラムが響く。
そしてドクオの歌声がそれに彩を添えるのだ。

バンドの奏でる曲がドンドンとテンションを上げていく。
それに引っ張られるように、ドクオのテンションも上がっていく。

('A`)「(普段表に出せない昂ぶりが、一気に解放されていくのが自分でも分かる)」

('A`)「(やりたい事をやりたいようにやる、そして気持ちよく自分を解放する事が出来るのが今なんだ)」

('A`)「(本当に楽しい。月並みの言葉だがこれしか言えない。これ以外に形容する言葉が見つからない)」

そしてその時間はあっという間に過ぎていく。
最後の一音の残響をアンプが鳴らしながら、演奏は終わる。
まるで、いつまでも続けばいいのにと思っているかのようなそのフェーズアウトしていく音を聴きながら、ドクオは快感に浸るのだ。

108 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:00:39 ID:7XcQDiqk0
(;゚Д゚)「……結構良かったんじゃね?」

('、`;川「うん、ここ最近の中では最高かも……」

流れる汗をペニサスとギコは右手に付けたリストバンドで拭う。

川;゚ -゚)「本番に取っておきたかったくらいだよ」

クーもタオルで顔に浮かんだ汗を拭きながら満足そうな顔を浮かべている。
ドクオも、これ以上ない手ごたえを今の演奏で掴んでいた。

(;'A`)「い、今俺結構上手く歌えてましたよね? リズム狂わなかったし」

('、`*川「んーまぁ90点ね。英語の発音がクソ過ぎて私的に-10点」

(;'A`)「帰国子女にそこを突っ込まれてしまうと俺は何にも言えません」

('、`*川「はっはっはっ、でも大分良くなってる。安心しなよ」

そのペニサスの言葉を聞いてドクオはホッとする。
これまで散々スパルタな教育と辛口なコメントで調教されてきたペニサスの口から、優しい言葉がようやく出てきたからだ。

109 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:01:22 ID:7XcQDiqk0
(,,゚Д゚)「あとはこれを続けていこう。本番でもこのクオリティで出来れば、他の奴らなんか目じゃないぜ」

川 ゚ -゚)「うん、頑張って残りの期間も練習して行こう」

(,,^Д^)「ま、一番は俺のバンドだけどなーハハハ」

('、`*川「聞いたぞギコ、こっちの練習にかまけすぎて結局向こうのバンドでオリジナル曲やるの止めたんだって?」

(;゚Д゚)「! な、なぜそれを知っている!」

('、`*川「しいちゃんが愚痴ってたよ、『ペニサスのバンドの方にお熱入りすぎて困ってる』って」

(;゚Д゚)「あちゃー……まあクオリティがイマイチだったから……向こうだけやってても没だったかな、あれは」

('、`*川「結局なにやるの? またデリコ?」

(,,゚Д゚)「うん、皆で相談してそれでいいって」

110 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:02:06 ID:7XcQDiqk0
('、`*川「ちゃんと弾けんの?」

(,,゚Д゚)「当たり前だろ馬鹿。なんなら今弾いてやろうか?」

('、`*川「だってよ?だってよ? 1年生の頃に取り乱したギコ君が!」

(;゚Д゚)「あっ! やめろその話はするんじゃねえ!!」

('A`)「なんです? その面白そうな話」

川 ゚ -゚)「ああ、彼が1年生の頃の学園祭の時な……」

唐突。この一言に尽きる。
バンと扉の開く音がした。
人ごみの中突然鳴り響く破裂音のように部室内が一気に静まり返り、そして視線は扉の方へ集中する。

111 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:02:47 ID:7XcQDiqk0
  _
( ゚∀゚)「うーっす」

壁に掛けてある時計を見ると、思ったより時間が過ぎていた。

('、`*川「あ、ジョルジュじゃん、……あ、時間か。ゴメンねーすぐどけるから」
  _
( ゚∀゚)「良いっすよ全然。まだこっちもメンバー揃い切ってないんで」

(,,゚Д゚)「え? アサピーもネーヨもいるじゃん」

(-@∀@)「うちに新加入したお嬢様がまだ来ていないんでね」
分厚い眼鏡をかけて、相変わらず神経質そうな顔をしながら朝日、通称アサピーが皮肉をこめて吐き捨てるように言った。
背負ったベース用のソフトケースに付けている缶バッジが、窓から差し込む日を反射して輝いている。

( ´ー`)「アイツに常識を期待する方が間違ってるんじゃネーノ?」
根予も呑気そうな顔をしながら、相変わらず毒たっぷりの言葉を同じように吐き捨てた。

('、`*川「あー、お前らのとこだったっけ、ツン入ったの」
 _
(*゚∀゚)「そうなんすよ、結構彼女の歌っていいとこあって。おっぱいは小さいけど」
「あれのどこがいいんだよ」と、アサピーがぼそっと呟いたのが、ドクオの耳に飛び込んできた。

112 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:04:07 ID:7XcQDiqk0
('、`*川「私の胸見ながら小さいとかいうなよお前」
  _
( ゚∀゚)「いや、クー先輩が大きすぎるだけで決してペニス先輩が小さいわけでは」

('、`*川「お前私の中の『真っ先に殺すリスト』最上位に入ったからな、覚悟しておけ」
  _
(;゚∀゚)「ちょっ、勘弁してくださいよ〜」

('、`*川「お前らも、ビシッと〆てやれよビシッと」

(-@∀@)「……できりゃあいいんですけどね」

( ´ー`)「寵愛されて庇護されて。ぬくぬく育てられているから中々難しいんじゃネーノ」

('、`*川「なんじゃそりゃ〜お前らパンクバンドだろ! パンク魂を見せろ! パンク魂を!」

(-@∀@)「いやー、やる曲も変わっちゃって……大人しくなっちゃいました」

(;´ー`)「ステッカーべったべたのアサピーのベースであんなシットリした曲弾かれると調子狂うわマジ」

113 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:04:47 ID:7XcQDiqk0
('、`*川「戦え! 叩け! 反体制だろうが! 反旗を翻せ!」
  _
(;゚∀゚)「あのー、うちのバンドに反逆扇動するのやめてもらえます?」

その時、足音が廊下から響いてきた。
『待たせたわね』と言わんばかりにツンが廊下を闊歩してやってきたのだ。

走る素振りすら全く見せず、悠々と歩く姿は既に『軽音楽部の女王』と言っても差支えないんじゃないかとドクオはその姿を見て思った。

https://www.youtube.com/watch?v=krCk3EcsaxE

ξ゚听)ξ「すいませ〜ん、お待たせしましたぁ」
 _
(*゚∀゚)「あっ、ツンちゃん大丈夫大丈夫! まだ全然過ぎてないから!」

そのツンの姿を見たアサピーとネーヨはとても苦々しい表情で彼女を睨みつけていた。
舌打ちを今にでも飛ばすんじゃないかと思うほどに彼らは憎々しい表情をしていた。
ツンとお話しする事で頭がいっぱいのジョルジュは、その事に気が付いていないようだが。

114 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:05:30 ID:7XcQDiqk0
('、`*川「さ、さっさと避けますか」

(,,゚Д゚)「おう、行こう行こう」

川 ゚ -゚)「うむ」

('A`)「はい」

入口でツンとすれ違う先輩一同にドクオも続いて歩いて行った。
正直、あのバンド解散は誰が悪いわけでも無く、複合的な問題が重なった末の分解だったのだと思う。

それでも、決定打となった彼女とはとても目を合わせる気にはなれず、ドクオも一瞥もせず立ち去る。


はずだったのが、いきなり肩を誰かにグッと掴まれた。

115 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:06:13 ID:7XcQDiqk0
ξ゚听)ξ「ねえドクオ」

掴んだのは、ツンだった。
脇目に動揺しているジョルジュがチラッと見えたが、ドクオはツンの方へ向き直った。

('A`)「……何?」

ξ゚听)ξ「あの先輩達とバンドやってるの?」

('A`)「そうだけど?」

ξ゚听)ξ「ふぅ〜ん……」

ξ゚ー゚)ξ「何かよく分かんない曲やってたね!」

ξ゚ー゚)ξ「聴いてたけど、ドクオ歌ってるのも下手くそだったし」

('A`)「……」

116 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:06:58 ID:7XcQDiqk0
ξ゚听)ξ「前のバンドの時もさ、なーんにも言わないで分かってる自分みたいな感じで私たちを遠巻きから見ちゃってさ」

ξ゚ー゚)ξ「相変わらず好きだね、そういう自己満」

('A`)「……で?」

ξ゚听)ξ「は?」

('A`)「言いたいのはそれだけ? なら俺行くけど」

ξ#゚听)ξ「はぁ? 先輩方に迷惑だとか思わないワケ? あんたの好き勝手にやってることに付き合わせてるだけじゃない!」

('A`)「それでいいんだよ、俺がやりたい事なんだ。これは」

ξ#゚听)ξ「だから自分勝手だって言ってんのよ! そういう所が本当にムカつくのよ! キモイ!」

立ち去ろうとしたドクオの背中に向かって相変わらずのヒステリックな叫び声をツンが突き刺す。

('A`)「みーんな自分勝手にやってるぜ、うちのバンドは少なくともな」

('A`)「……それに、その理論で言うならツン、お前も十分自分勝手だと思うよ」

118 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:07:54 ID:7XcQDiqk0
やれやれと言った感じで振り向き、ドクオはそう言ってまた立ち去った。
何かが、カツンと足に当たった気がした。何か投げられたのだろうか。
特に気にせず、歩き続けた。

廊下を曲がり、階段を下りた先の踊り場で先輩たちが待っているのが見えたので、ドクオは慌てて駆け下りる。

('、`*川「何してんのよ」

(,,゚Д゚)「ツンと何か話してたん?」

('A`)「ええ、まぁ……」

川 ゚ -゚)「よし、じゃあ行くぞ」

横並びで4人は、同時に一歩踏み出した。
歩調を合わせているわけでも無い。他の人を見ているわけでも無い。

それでも彼らは一緒に歩いたのだ。

119 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:08:50 ID:7XcQDiqk0
………
……


部屋の中にけたたましいベルの音が鳴り響く。
それに続くようにスマートフォンのアラームも大きな音で時間を知らせる。

のそっとベッドから起き上がったドクオは鳴れた手つきで目覚まし時計のスイッチを押し、スマートフォンの画面をシュッとスワイプする。
画面の表示は6時30分。毎朝こうだ。何も変わらない。
いつもと同じだ。

J( 'ー`)し「ドクオ、今日学園祭なんだっけ」

('A`)「そうだよカーチャン」

運ばれてきたトーストにマーガリンを塗りながら答える。
とーちゃんの朝はいつも早い。今日も起きた時には既に出発した後だった。

120 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:09:33 ID:7XcQDiqk0
J( 'ー`)し「ドクオも何か出るのかい」

('A`)「うん、まぁ、一応……」

J( 'ー`)し「最近毎日ギターの練習してたの聞こえてたもの。上手く出来るといいわね」

('A`)「うん、まぁ、一応……」

J( 'ー`)し「かーちゃんも見に行っちゃおうかしら」

('A`)「うん、まぁ……」

(;'A`)「かーちゃん、それは勘弁してくれ」

J( 'ー`)し「ふふふ、冗談よ」

そう言いながら牛乳を注いだコップをドクオの前に差し出すかーちゃん。
ドクオは少しホッとした。

121 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:10:16 ID:7XcQDiqk0
('A`)「かーちゃんが来てもつまらないと思うよ。煩いし」

J( 'ー`)し「あら、かーちゃんも昔よく聞いてたのよ、ロック」

('A`)「へぇちょっと意外だなぁ、何聞いてたの?」

J( 'ー`)し「Bad ReligionとかThe Misfitsなんかよく聴いてたわね〜」

(;'A`)「!?」

https://www.youtube.com/watch?v=moPY9_wqH-8

https://www.youtube.com/watch?v=HJpaqOFjJME

123 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:10:59 ID:7XcQDiqk0
(;'A`)「……その手のCDの類、家で全然見たことないんだけど」

J( 'ー`)し「ここに引っ越しするときに処分しちゃったのよね、今考えると勿体なかったわ〜」

J( 'ー`)し「でも、ドクオがお腹の中にいた頃はガンガン流してたのよ。スターリンとか」

(;'A`)「吐き気がするほどロマンチックだね」

https://www.youtube.com/watch?v=r3OMoHX7qzA

J( 'ー`)し「ともかく頑張ってくるのよ。一発ぶちかましてきなさい」

そう言ったかーちゃんのファックサインに見送られながら、学校へと向かった。
ドクオは自分の価値観を見直すことが必要になってきたかもしれないと真剣に思い始めた。

124 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:11:46 ID:7XcQDiqk0
('A`)「と、言う訳で俺は人生を見直す必要が出てきたわけです」

(;゚Д゚)「なんじゃそりゃ」

(;^ω^)「パンク過ぎて意味分かんねえお」

学校の付近で出会ったギコに朝の出来事を話したドクオは、困惑した表情でギコとブーンに顔を見つめられた。

ギコの相変わらずのツンツン頭は、今日は一段とビシッときまっているように見える。
一方のブーンは相変わらず痛々しい包帯姿だったが、もうギプスは取れるレベルには回復したらしい。

(;゚Д゚)「ま……まぁ今日は頑張ろうな」

(;'A`)「そっすね」

125 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:12:32 ID:7XcQDiqk0
('、`*川「あ、おっはよー」

川 ゚ -゚)「おはよう」

校門正面の横断歩道で信号が変わるのを待っていると、一緒に歩いてきたクーとペニサスに声をかけられた。
普段、1人や2人に出会う事はあっても、バンドメンバー全員が一堂に揃うのは珍しい。
この道を歩いて、彼らに遭遇したことがドクオは少なくともなかったからだ。

('、`*川「ついに本番ですよ! 本番!」

そう言ってドクオの背中をバンバンと叩くペニサス。
やはり気持ちいつもよりテンションが高い。

(;'A`)「いてえっす、いてえっす」

川 ゚ ー゚)「ふっふっふ、初ライブだな。頑張るぞ」

同じくドクオの背中を叩くクー。
ペニサスよりも、いくらか優しい叩き方だった。

126 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:14:41 ID:7XcQDiqk0
(;'A`)「うっす、頑張るっす、うす」

( ^ω^)「僕も頑張りますお!」

('、`*川「おう、ブーンも焼きそば番長頑張れ」

( ^ω^)+「来てくれたらサービスしますお」

(,,^Д^)「いいねえ、お前の評判の焼きそば食ってみたかったんだ」

そんなこんな話していると、いつのまにか正面玄関に到着していた。
下駄箱で各々と別れたドクオは上靴に履き替えてから、パンパンと両手で自分の頬を叩いて気合を入れる。

いよいよ、この日が来たのだ。

あまりに緊張しすぎて午前中だけでたこ焼きのタネを3回ほど地面にぶちまけてしまい、クラスメイトから罵声を浴びせられてしまった。
こっちはあまりにも散々だった。

127 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:15:21 ID:7XcQDiqk0
………
……


リハーサルの時間になり、ドクオは落ちつかずその場をウロウロとしていた。
指定されている集合場所には、ミスの連続で追い出されるように教室から出てきたドクオが一番乗りのようだ。

今も体育館の中では出し物が行われている。
漏れ出てくる低音とポップな音から察するに、ダンス部のパフォーマンスでもやっているのだろうか。
誰も居ない集合場所の体育館脇で、ドクオはその音に耳を傾けていた。

今回のリハーサルは音を出して、音量を決めるだけ。
PAとの打ち合わせみたいなものだ。
時間が無いのでここで決めたセッティングで本番を迎えることになる。
曲を通す時間なんかはもちろんない。

そんな大したことをするわけでは無いが、とても重要だ。

128 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:16:04 ID:7XcQDiqk0
( ・∀・)(´∀` ) ( ・3・)(ФωФ )

ボーっとしていると、続々と人が集まってきた。
見知った顔もいれば、普段見慣れない顔もいる。多分知らない顔は一般有志の生徒だろう。

(´・ω・`)「あっ」

('A`)「おっ」

久々に見た顔な気がした。
つい最近の合宿でも顔を合わせているのに。

(´・ω・`)「どう? そっちは」

('A`)「まぁボチボチ」

(´・ω・`)「ふぅーん、そう」

(´^ω^`)「でも、先輩しかいないんだから下手なわけないよね」

129 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:16:47 ID:7XcQDiqk0
('A`)「当たり前じゃん、何言ってんの?」

(´^ω^`)「いやさ、それでショボかったら面白いよねって」

('A`)「……はぁ?」

(´^ω^`)「だってドクオもそんな……ねぇ?」

('A`)「お前ケンカ売ってる?」

(´・ω・`)「そんなそんな、とんでもない。ただ僕は事実を……」

('A`)「おもしれえ事……」

(,,゚Д゚)「おもしれえ事言ってくれるじゃん」

ヌッと、突然ツンツン頭が姿を現した。
普段よりもさらに尖っているように見えるそれは、最早何で固めているのか分からない程に鋭利だった。
それに加えて普段とは違う革ジャンのゴツイ恰好をしている先輩は、更に威圧感が増していた。

130 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:17:31 ID:7XcQDiqk0
(;´・ω・`)「あ、先輩こんちゃーっす」

(,,^Д^)「今日はショボンさんの演奏を聴いて勉強させていただきますぅ〜」

(;´^ω^`)「いやーもう、そんなそんな、先輩から逆に勉強させていただきます」

そう言ってそそくさとその場から立ち去るショボン。
ギコはさっきまでショボンが立っていた場所に向かってペッと唾を吐いた。

(,,゚Д゚)「ああいうのホントムカつくわ」

(;'A`)「先輩スンマセン」

(#゚Д゚)「ホントだよ! お前一発くらいぶん殴っときゃ良かったんだ」

川 ゚ -゚)「そういうのは良くないな」

黒髪をなびかせながら、クーが颯爽と現れた。
いつも通りの制服姿で現れた彼女は、担いでいたベースをそっとそばの地面に寝かせた。

131 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:18:15 ID:7XcQDiqk0
(,,゚Д゚)「だってあいつ舐めた事言ってからよ」

川 ゚ -゚)「君がそういう事をするのはダメだって言っているんだ」

川 ゚ -゚)+「私がぶん殴れば問題あるまい?」

(;゚Д゚)「いやいやいやいや」

(;'A`)「いやいやいやいや」

('、`*川「そういうのは私の仕事だっつーの」

一同はやってきたペニサスの姿に自分の目を疑った。
黒のワンピースのスカート裾に白のフリル、そして同じくフリルのついた白いエプロンを身に着けている。

('、`*川「いまどきメイド喫茶やるとか言って馬鹿じゃねーのと思いながら着てみたんだけどさ、これが中々で……」

132 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:19:36 ID:7XcQDiqk0
('、`*川「どーよ似合う? メイド服」

(,,゚Д゚)「全然」

川 ゚ -゚)「全く」

('A`)「ゲロ吐きそうです」

('、`*川「……酷くなぁい? ちょっと私久々にガチで傷ついちゃうよ〜」

('、`*川「あとドクオ貴様は殺す」

(;'A`)「ご、誤解っす、『緊張で』が抜けただけっす」

川 ゚ -゚)「普段の制服すらコスプレに見えるレベルなのだから、コスプレを着たら異質なモノに見えるのは仕方の無い事だ」

(,,゚Д゚)「うむ」

133 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:20:19 ID:7XcQDiqk0
('、`;川「私がメイド服を着ると服ですらない何かに見えるのか……?」

('、`;川「ていうか制服すら似合わないって、私一応女子高生よね……?」

川 ゚ -゚)「まぁ、それはおいといて」

('、`;川「このまま着て出ようと思ったけどやめよ……」

(,,゚Д゚)「もうそろそろダンス部終わるから準備しておけよ、リハ最初だし」

('A`)「あれ? 俺たちってトリですよね? なんで最初に……」

川 ゚ -゚)「? トリだからに決まってるじゃないか」

('、`*川「トップバッターを最後に調整させればそのセッティングのまま本番行けるんだから楽だろバーカ」

(;'A`)「ああ、なるほど」

(,,゚Д゚)「調整どうする? 1人1人客席行って見る時間なんてねーよな?」

134 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:21:37 ID:7XcQDiqk0
( ^ω^)+「そこで僕の出番って訳だお」

(;゚Д゚)「のわぁ! ビックリした!」

('、`*川「うん、この焼きそば屋台の主人を呼んでおいたからコイツに任せようと思う」

川 ゚ -゚)「どうだ? 売り上げは」

( ^ω^)「お陰様でバッチリ売れてますお、学園祭の過去最高記録更新を狙えるレベルで売れてて、てんてこ舞いですお」

(;'A`)「そんな状態でこっち来てて大丈夫なのか?」

( ^ω^)「まぁ僕片手折ってるから呼び込み位しか仕事無いお。それに」

(;'A`)「それに?」

( ^ω^)+「奴らには徹底的に仕込んだ技術が備わってるから安心して店を任せられるお」

('、`;川「……なんだろう、この溢れ出る大物店長感……」

(・∀ ・)「すいませーん、バンド演奏出演の皆さんお待たせしました」

右の二の腕付近に蛍光色の腕章を付けた、学園祭の実行委員がステージ脇入口の扉から顔を出していた。

(・∀ ・)「ただいまよりリハーサルを開始しますので、演奏順最後のバンドの方から調整お願いします」

(・∀ ・)「以前お伝えした通り、調整終わり次第ステージ脇の控室で全員待機していただきます。全バンド終わり次第開演となりますので! お願いしまーす」

135 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:22:30 ID:7XcQDiqk0
………
……


リハーサルはつつがなく終わった。

('、`*川「あいつは意外に耳がいい」

そうリハーサルに入る前に呟いていたペニサスの言葉通り、ブーンはサクサクと指示を出してPAに調整させていた。

( ^ω^)「ドクオ、声とギター出してー」

( ^ω^)「……PAさん、ボーカル少し上げて、ボーカルギター少し下げて欲しいですお」

( ^ω^)「ギコ先輩、もう少しリバーブをアンプの方で上げてもらった方がいいですお」

(;^ω^)「あ、ペニサス先輩ベースのリバーブ切ってください、音が変ですお」

( ^ω^)「クー先輩、OKですおーそれくらいで大丈夫ですおー」

ペニサス、ギコ、クーが「下手なPAよりよっぽどマトモに音を聴けている」と称するブーンによる調整はすぐに終わった。
PAも少し感心したような顔で二言、三言彼と喋っていた。

136 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:23:14 ID:7XcQDiqk0
(*^ω^)「それじゃ、客席で待ってますお!」

そう言いながら去っていく彼の背中が偉大に見えた。
今まで見た中で、焼きそばを作る彼の姿の次に輝いて見えた。

(,,゚Д゚)「……あいつすげーな」

(;'A`)「俺あそこまで細かく弄ったの初めてですよ」

('、`;川「練習中からすぐに音修正してくるから『耳がいい』とは感じていたけどさ……ここまでやるとは……」

川 ゚ -゚)「彼にはプロフェッショナルな仕事が似合うな」

4人で彼の仕事に感心していると、トップバッターのバンドが控室に戻ってきた。
時計を見ると15時50分。あと10分で開演予定の時間だ。
ステージ脇からチラッとホールの方を眺めると、前の方に人が固まっていて、あとはチラチラと中ほどに人がいるくらいだった。
16時には校内での販売が終わるから、片付けが終わり次第ドンドン人は増えていくはずだ。

137 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:23:57 ID:7XcQDiqk0
ここから人が増えたら、いったいどんな景色になるのだろう?
その景色を想像したドクオは、ブルっと背筋が震えた。

川 ゚ -゚)「……緊張してるか?」

震えているドクオの肩をポンと優しくクーが叩いた。

(;'A`)「い、いえ、全然そんなことは」

川 ゚ -゚)「そうか? 凄いなドクオは。私は緊張している」

(;'A`)「え?」

川;゚ ー゚)「さっきから手の震えが止まらなくてね、ほら見てくれよ」

肩に置かれたクーの細く白い手がプルプルと震えている事に気が付いた。
身体も少し震えたその姿は、まるで恐怖に震える小動物のようだった。

川;゚ ー゚)「こんな大きい舞台でやると思うと緊張してたまらない」

138 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:24:46 ID:7XcQDiqk0
何時もと変わらぬ制服姿のクー。
いつもならもっとクールで堂々としている彼女が、今はとても小さく見えた。

(;'∀`)「い……一緒ですね、僕も震えがさっきから止まらないんです」

川;゚ ー゚)「ふふっ、少しお互い気持ちを落ち着けよう」

肩に置いた手を外しドクオの下げていた右手を自分の両手で握るクー。
手から伝わるくらい彼女の心臓は脈打っているようだ。ドクオの心拍数もさらに上がった気がする。

('、`;川「わ、私も緊張してきた!」

(;゚Д゚)「お、俺も少し……」

そう言って包んだ手の上から更に包み込むように両手をペニサスとギコが被せてきた。
全員の手が、1つに重なった。

139 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:25:32 ID:7XcQDiqk0
(;'A`)「え……エイエイオーとかやっておきます?」

('、`;川「やったら落ち着くかな?」

川;゚ -゚)「やらないよりいいんじゃないか?」

(;゚Д゚)「あ、待った、なんか恥ずかしくなってきた」

('、`;川「な、なんだよ今更」

(;゚Д゚)「だって俺自分のバンドでもこんな事したことないし!」

川;゚ ー゚)「あそこで、しいちゃんが生暖かい目で見ているぞ」

(*^ー^)

(*゚Д゚)「は……恥ずかしい……」

140 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:26:19 ID:7XcQDiqk0
(;'A`)「もう4人こんなギュッとしてる時点で恥ずかしいですから! 大丈夫です!」

川;゚ ー゚)「やろう、やっちゃおうぜ」

('、`;川「くーちゃん、口調おかしいわよ」

(;゚Д゚)「よ、よし! 音頭はドクオが取れ! リーダー!」

(;'A`)「うっす。で……では……」

(;'A`)「エイッ、エイッ、オーッ!」

('、`;川「オーッ!」

川;゚ ー゚)「オーッ!」

(;゚Д゚)「オーッ!」

『ただ今より本日の最終演目、軽音楽部および有志によるバンド演奏を開始いたします……』
4人の手が天高く突き上げられたと同時に、開演案内のアナウンスが鳴った。
もう止められない。行くしかないのだ。ドクオは括れなかった腹をようやく括る。

そして自分勝手なギャング達4人の演奏が始まる。





夏は、通り過ぎていった。

141 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:27:11 ID:7XcQDiqk0
………
……



季節は黙っていても移り変わっていく。
時間が過ぎれば、季節も同じように過ぎていく。

僕らにとって、あの夏は一瞬だった。
一つ瞬きをすれば過ぎていってしまうような瞬間だった。

だが、今でもあの瞬間は目をつぶれば鮮明に思い出すことが出来る。
ハッキリしたあの日の記憶は、いくら季節が通り過ぎても忘れることは無いだろう。
何回重ねても塗り潰されることなく、そこにずっと残り続けるだろう。

少なくともドクオにとっては、そうだ。

https://www.youtube.com/watch?v=e_SdOrwv56I

('A`)

142 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:27:56 ID:7XcQDiqk0
外にセットされた机によりかかり、椅子に座りながらぼんやりと周りの光景を眺める。
新入生が入ってきたばかりという事で、辺り一面勧誘に必死だ。
『先輩に話を聞くコーナー』担当として座らされているが、大体が目の前の人ごみで捕まってしまってこっちまでやってこない。

あまりにも暇だった。
目の前で散る桜の花びらを眺めながら、ドクオはあの日の事を思い返す。

『やっぱりShoot you downをSEにして正解だったね。心躍るわ』

『オー, there is ア light エンド it never goes out……』

『どうもこんにちは、Orange Lampです』

『こんな曲ばっかりやってます』

『ユア kiss ソー sweet ユア sweat ソー sour……』

『最高だお! 最高にカッコよかったお!』

『ドクオ……ドクオ……」

143 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:28:40 ID:7XcQDiqk0
(;^ω^)「ドクオ?」

気が付くと、目の前に内藤が立っていた。
両脇に初々しい感じの男女2人が内藤の一歩後ろで控えめに立っている。

( ^ω^)「話聞きたいそうだお。よろしく頼むお」

ブーンがそれぞれ椅子を引いて、2人に座るよう促す。
おずおずと座った2人を見ると、ブーンは満足そうに頷いた。

( ^ω^)+「そんじゃ、また捕まえに行ってくるお!」

そう言って彼はまた人ごみの中に消えていった。
あのもみくちゃの中で、どうやって連れてきているのかドクオには不思議でたまらなかった。

目の前に座る2人に視線を戻す。

(;><) ハハ;ロ -ロ)ハ

何というか、軽音楽部に興味を持つような感じの2人には見えないなと言うのが失礼ながら第一感想だった。
しかしそれを言ってしまうと自分にも特大のブーメランが返ってくる。

144 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:29:24 ID:7XcQDiqk0
(;'∀`)「よ、ようこそ軽音楽部の質問コーナーに」

今できる最大限の笑顔を作ってみた。
表情筋が引きつっているのが自分でも分かる。

(;><) ハハ;ロ -ロ)ハ

ただでさえ緊張気味の2人が更に引いていくのが目に見えて分かる。
これは不味いと思ったドクオが慌てて話をふる。

(;'∀`)「ふ、2人はなんで軽音楽に興味を持ったのかな?」
入試の試験官かよ。と自分で突っ込む。ただ、一番当たり障りのない質問ではないかと心に言い聞かせていた。

ハハ;ロ -ロ)ハ「ワ……私ハ、dadがバンドやってたから、私もヤッテミタイナーって……」

('∀`)「へぇー、お父さんがバンドやってるとか素敵だね」

('A`)「君は帰国子女?」

ハハ;ロ -ロ)ハ「No,ハーフです。チューガク2年のトキ、日本に来ました」

145 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:30:07 ID:7XcQDiqk0
('A`)「そっか、つい最近までうちの部活に破天荒な帰国子女がいたから話が合ったかもなー」

ハハ ロ -ロ)ハ「Oh,ドコーから来た方なんデースカ?」

('A`)「確か、イギリスだったかな」
『モッズの本場からやってきたんだぜ』と胸を張りながら言っていた彼女の姿を思い出す。

ハハ*ロ -ロ)ハ「私のdadもイギリス!」

('A`)「お、じゃあちょいちょい顔出す先輩だから、話せると思うよ」

ハハ*ロ -ロ)ハ「Year,ありがとうございますー」

('∀`)「ぜひ入部してね」

ハハ*ロ -ロ)ハ「ハーイ!」

146 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:30:50 ID:7XcQDiqk0
(;><)「ぼ……僕は……」

何かモジモジながら口をモゴモゴさせている。言い出せないような理由……

ああ、とドクオは思い当たる節を出してみる。

('A`)+「『どんるく!』……かな?」

『どんるく!』とは、口の悪い女の子の姉妹が高校の軽音楽部のバンドを乗っ取り、プロデュースしながらサクセスストーリーを駆け上がっていくと言う深夜アニメだ。
キャラクターデザインが可愛い事と楽曲のクオリティが異常に高い事で、最近一大ムーブメントを巻き起こしているアニメである。

('A`)+「僕はノエルちゃん派だよ」

(;><)「僕もそうなんです! でもそうじゃないんです!」

(;><)「あなたの演奏を学園祭の時に聞いたんです!」

147 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:31:34 ID:7XcQDiqk0
(;'A`)「えっ」
意外な一言が飛んできた。

(;><)「曲は聴いたことない曲ばかりだったんです、でも他のバンドより断然カッコよかったんです!」

(*><)「あれは伝説です! 感動したんです!」

(*><)「周りの人達も、友達もみんな凄い凄いっていってたんです!」

(;><)「……それで……浅はかながら……僕もバンドやってみたいな……って思って……」

(;><)「でも楽器なんて、やったことが無いんです……だから来ちゃったけどやっぱり……」

そう言ってまたモジモジしてしまった彼の姿を見て、ドクオはスッと立ち上がり、彼の両肩をパンっと掴んだ。

(;><)「!?」

('A`)「やりたい事を……」

(;><)「や、やりたい事を……?」

彼の肩を握る手に少し力が入る。
ドクオは目の前の彼の言葉を聞いて、あの黒髪の後ろ姿を思い出していた。

149 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:32:20 ID:7XcQDiqk0
('A`)「やりたい事をやろう。そして何を言われてもそれを押し通そう」

('A`)「……そうするだけで、自分はとても救われるよ」

('∀`)「だから、君がやりたい事をやればいいんだ。誰がどう思おうが、関係ないさ」

(*><)「……!」

('∀`)「今さ、うちのバンド俺とベースしか残ってないんだ。君とぜひ一緒にやりたいな」

('A`)「だから君の入部を心から……」

(*><)「入部するんです!」

高らかに入部を宣言したかと思うと、ドクオの手をふり払うように勢いよく立ち上がる。
そしてその弾かれたドクオの両手を包むように両手で握り、ぶんぶんと上下に振った。
周りの学生たちは何事かと訝し気な目でこちらを見ているのが分かった。

150 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:33:03 ID:7XcQDiqk0
(*><)「今すぐ入部するんです! 君も一緒に入るんです!」

ハハ*ロ -ロ)ハ「Oh,Crazy! イイデスネー!」

(;'A`)「え、マジ? す、少し落ち着こう、な?」

(*^ω^)「おっ、ドクオ流石だお! 巧みな話術で早速ゲットかお!」

(*><)「うおおおおおおおやってやるですー!!」

ハハ*ロ -ロ)ハ「Yeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaahhhhhhhhhhhhh!!!!!!!!!」

(;'A`)「勘弁してくれ──!」

ドクオの悲痛な叫びと、ビロードの雄たけび、そしてそれに反応したハローとブーンの歓声が響き合い、さながらカオスな空間を作り出していた。
周りからの目線は痛いし、もちろん先生からは怒られた。
それでも、火が付いた彼を止めることは出来なかった。

次の日、ドクオの元へ入部届を持ってきたビロードとハローが、めでたく入部1号・2号となった。

151 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:33:47 ID:7XcQDiqk0
………
……





川 - )「なんか懐かしい気分だ」




川 - )「まさかまたここでやる事になるとはな」




時間は過ぎる。人は変わる。




.

152 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:34:31 ID:7XcQDiqk0



(,, Д )「見てよこれ、例の奴。いい色してね? 結局ピックアップSH-4乗せちゃったよ、ダンカンだぜダンカン」




入れ代わり立ち代わり、季節も周る。しかし、周るという事はまた戻ってくるという事だ。



.

153 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:35:14 ID:7XcQDiqk0



( 、 ;川「ピンクと黒ってどういうセンスしてんのよ」




(  ω )「おっおっ、そろそろ時間ですお」




ドクオがあの瞬間を鮮明に思い出すことが出来るように、ハッキリ残した意思はいくら季節が通り過ぎても忘れることは無いだろう。
何回重ねても塗り潰されることなく、そこにずっと残り続けるだろう。



.

154 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:35:57 ID:7XcQDiqk0




そして歪んだ音と熱狂的なビートを刻んで、音楽は鳴り続けるのだ。
ずっとそこに。




そして幕は上がる。いつでも同じように。




(*><)「ドクオさーん!」



.

155 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:36:40 ID:7XcQDiqk0




('A`)「えーどうも皆さんこんにちは」




('A`)「今日は学園祭、お呼びいただきましてありがとうございます」




('A`)「Orange Lampです」





.

156 名前: ◆sVJSKQRVSQ[sage] 投稿日:2015/09/09(水) 00:37:23 ID:7XcQDiqk0



『('A`)夏の日とGANG OF FOURのようです』





終わり



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