出張版白澤図 〜ハロウィン増刊号〜のようです

※下記の続編です 出張版白澤図のようです

1 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 22:49:36 ID:uf17wSYQ0


ハロウィン(Halloween)

毎年10月31日に行われる。
収穫祭と魔除けを兼ねた、いわゆる西洋盆祭。
ケルトからイギリス、アメリカへと輸入されて今のようになった。
そのくせにキリスト教のお祭ではないらしい。


――(とある赤猫又の走り書き)


.

2 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 22:51:19 ID:uf17wSYQ0
( ・∀・)「動くなよ」

いつにも増して真剣なモララーの声に、思わず体に力が入った。
いつもであればヘラヘラと笑っているのはあっちの方で、
それを諌めるのがわたしの役目である。

ノパ听)(ちぐはぐだわ)

いかんともし難い違和感に、皺の寄る眉間。
一方で、耳にはジャラジャラと金属の擦れる音。
モララーの腕からぶら下がる鎖だ。
本人曰く、封印を破って復活した吸血鬼が今回のテーマだと言っていた。

ノパ听)(そういえば、最初はシスターの仮装をしろって言われたなぁ)

復活したての吸血鬼は著しく弱っており、直ちに精気を吸わなくてはならない。
聖職者、子供、成人、老人の順に精気は弱くなっていく。
ゆえにモララーの扮する吸血鬼は、うら若きシスターを襲った。
……というのが本人の描くシナリオだったらしい。

ノパ听)(バカみたい)

呆れるわたしの頬には、チクチクと刺さる感触がする。
なんてことはない、筆の先だ。
オレンジ色の塗料を纏ったそれが、器用に暴れ回っていた。

ノパ听)「ま」

( ・∀・)「もう少し」

まだですか、という言葉は止む無く飲み込んだ。
横目に見れば、やはり真剣な表情が見えた。

3 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 22:52:06 ID:uf17wSYQ0
( ・∀・)「……出来たよ」

はい、と鏡を渡されて覗く。
稚拙なジャックオランタンが、肌の上で笑っていた。

ノパ听)「絵心ないですね」

( ・∀・)「率直なのはいいことだけど、
       オブラートに包んだ方が相手は喜ぶよ?」

肩を竦めて、吸血鬼は笑った。
その口の端から、ちろりと八重歯が覗いた。
もちろん、作り物である。
本物の吸血鬼は跨っても歯を見せて笑うことはないし、
アダムスファミリーみたいな黒ずくめの服だって着ない。
SNSの発達した現代では、周りと馴染むことが生き残る第一線の策だ。
本物の吸血鬼が見たら、きっと怒って八つ裂きにするだろう。
だってあんまりにもステレオタイプすぎるから、バカにしてるのかと思うに違いない。

( ・∀・)「そんなに完成度高い?」

散々な心の内を知らずに、モララーはにっこりと微笑んだ。
すかさず、

ノパ听)「去年の反省が全く生かされていないと思いました」

と答えた。

( ・∀・)「ええっ……」

残念そうに顔をひそめるが、間違ったことは言っていないはずだ。
本人の伝聞によれば、去年は悪魔の仮装をしたらしい。
それもやっぱり、悪魔の――つまりツノが生えていて、
蝙蝠のような羽を持ち、バイキンマンのような尻尾を持った――仮装をして、
本物の悪魔からキャメルクラッチをもらったという。
そういう意味ではやっぱり、進歩が見えないのだった。

4 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 22:52:51 ID:uf17wSYQ0
ノパ听)「そういうことをすると、余計敵が増えますよ」

( ・∀・)「そうは言っても、やっぱりハロウィンじゃん?」

真っ赤な内布の貼られた闇色のマントを体に巻きつけて、モララーこと白澤は笑った。
白澤。
現代の薄れた暗がりに潜む妖怪の頂点に立つ神獣。
特筆すべきはその知識の厚さにあり、この世に存在する
妖怪全ての弱点を知っているとされている。
けれどもそれは正しくない情報だ。
正確に言うならば、彼は妖怪に対して弱点を付与することが出来る。
そう、知っているのではなく作るのだ。
人と妖怪が共存できるように、裁定する。
それが妖怪の長にして魔除けの象徴として崇められる白澤の仕事。
それなのに、

ノパ听)「そもそも遊んでていいんですか?」

この男、まったく威厳がない。
さっきからやり取りしている通り、とにかくチャラいのだ。

( ・∀・)「まぁまぁ、お祭の活気に紛れて悪さする妖怪がいるかもしれないからね」

へらりと笑うモララーは、わたしの頭にカチューシャをぶっ刺した。
鏡を見れば、悪魔のツノを模したものらしい。
ということは。

5 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 22:53:50 ID:uf17wSYQ0
ノパ听)「これ、去年のお古ですか……」

じとっとした視線を送るもモララーは相手にしない。

( ・∀・)「そんなことより早く行こうよ」

棺桶型のバッグを肩に掛けて、破顔するモララー。

ノハ´ `)=3「いい年こいてこんな格好をしている
      男に着いていかなきゃいけないなんて……」

助手のわたしは嘆きつつも、後を追った。
事務所の階段を降りて、大通りへと出れば
驚いたような表情のサラリーマンがわたしたちを見た。
そりゃそうだろう。
築うん十年の幽霊ビルから素っ頓狂な格好をした
男女が降りてくれば、そんな顔もしたくなる。

ノパ听)「……恥ずかしくないんですか」

口に出してから、この男が恥じらった様子を
見せたことがあったかどうかを考える。
そんな場面は一度もお目にかかったことがなかった。

7 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 22:55:56 ID:uf17wSYQ0
( ・∀・)「すごく楽しいけど、ヒートはそうじゃないの?」

ノパ听)「だって、すごい人混みじゃないですか」

去年も同じように誘われてはいたものの、わたしは約束をすっぽかした。
そうとは知らずに一人駅に向かう彼を、わたしはテレビの中継で見ていた。
あんな人の黒波に放り込まれたら、ふちゃむちゃの
雑巾みたいになってしまうのが目に見えていた。
大体あんなんじゃ仮装パレードだなんて言えない。
仮装渋滞と言うに相応しかった。

( ・∀・)「でも案外同業者が紛れているもんだよ」

胡散臭そうなものを見る目でわたしに、モララーは付け足す。

( ・∀・)「本当だよ?」

ノパ听)「そんな物好きが妖怪にいるとは思えませんね」

( ・∀・)「だって考えてごらん、ヒート。
       ハロウィンの仮装は悪霊のフリをして
       被害を受けないようにするという理由があるんだ」

ノパ听)「……つまり逆もしかり、と」

たしかに日本の妖怪は人にちょっかいを出すのが大好きだ。
今でこそ堂々と姿を見られてしまったらまずいので、活躍する場はほとんど限られている。
しかしハロウィンならば……。

8 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 22:57:02 ID:uf17wSYQ0
ノパ听)「奇特な格好をしていても、仮装として認識される」

( ・∀・)「その通り」

蘊蓄はともかく、それでもやっぱり奇異なものを見る目に変わりはない。
このまま電車に乗らなきゃいけないのかと思うと、さっさと帰ってしまいたくなった。

ノパ听)「大体なんで最近になってこんな大騒ぎに……」

( ・∀・)「そりゃやっぱり、人間はお祭が大好きだからさ。
       変な格好をしても許されるっていうのは、
       なかなか気持ちがいいものだろう?」

首を振るわたしに、モララーは気を取り直すように咳払い。

( ・∀・)「……まあほら、伝統は作られていくものだからね」

ノパ听)「そうやってクリスマスもバレンタインも吸収しましたしね」

( ・∀・)「経済的にも喜ばしいことだよ」

勿体ぶったことを言いつつも、やっぱりその波に乗る白澤に威厳はない。

ノパ听)(神獣ってこんなに俗っぽいものでいいの?)

呆れつつもわたしは、満員の電車へと乗り込んだ。
渋谷まで約30分ほどで着くはずだ。
予防接種の注射を待つ小学生のような心持ちで、わたしは揺られていた。

9 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 22:57:34 ID:uf17wSYQ0
( ・∀・)「そういえば昔にも仮装大会があったんだよ」

ノパ听)「昔ってどのくらい前ですか」

気乗りせずともなんとなく呟けば、

( ・∀・)「あれは江戸の、君の伯母さんがバリバリに活躍していた頃だったね」

ノパ听)「100年前、ですか」

前任者にして今となっては行方知らずの叔母さんの名が出れば、自然と興味が出てしまう。
その様を見てニヤリと笑うモララーは、きっと思い通りになって楽しいのだろう。

( ・∀・)「駅に着くまでの間に話そうか」

無言で促すわたしに、モララーは口を開いた。

10 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 22:59:32 ID:uf17wSYQ0
時は西暦1837年。
天保8年、2月。
歴史教科書でも有名な大塩平八郎の乱にて、大坂市内は5分の1が焼け出しにあった。
俗に言う大塩焼けというやつだね。
焼死者も多数出たけれど、それ以上に餓死者が多い時代だった。
天保の大飢饉は知っているかな。
大雨による洪水や例外によって大凶作が起きてしまったんだ。
天保4年の秋から翌年夏までが最もその被害が酷かったと言われている。
またこの時には豪商が米を随分と買い占めたせいで、
貧困層には一切米が行き渡らなかったんだ。
なんで買い占めたのかって?
それは、江戸に米を絶やす訳にはいくまいと
奉行所では豪商を通じて米を確保していたのさ。
こうして米価が高騰したものだから、相当な数の人間が飢えていった。
たったの5年で日本全国の人口が125万人減ったんだ。
相当な規模だってことはよく分かるだろう?
痛ましい時代だったね。
その頃の僕はといえば、やはり君の伯母であるトールと共に全国を行脚して回っていたよ。

11 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:00:50 ID:uf17wSYQ0
今と違って街灯のない時代、外に出歩く者だってそうそうはいない。
それでもやむを得ず外に出た人間はいるもので、
その中にはやはり新しい何かを見出してしまう人だっていた。
そう、現代よりもよっぽど闇が身近に迫っていた時代だ。
恐怖の隣人として、妖怪は日夜増殖を始めていたんだ。
……なんでちょっと疑わしそうな目で見るかな?
きちんと僕は仕事していたよ?
辞書で勤勉という字を調べたら、例文に白澤の
二文字が出て来てもおかしくないほどに働いていたよ。
さて、全国各地を転々としてはいたものの、一応江戸に拠点は構えていてね。
長期の調査を終えた後、江戸に帰ったら昔馴染みの讀賣が声を掛けてきたんだ。

13 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:02:38 ID:uf17wSYQ0
(//‰ ゚)「ご到来、ご到来、よくお帰りなすった!」

奇妙な風体をしているな、と君は思ったんだね?
分かるよ、眉間に皺が寄っているからね。
讀賣っていうのは瓦版を売る男を指すんだ。
だけど瓦版を摺るのも売るのも、幕府は公認していなかった。
はっきり言ってしまえば違法だったんだ。
役人もそれほど目くじらを立てて追っかけるような真似はしなかったけれどね。
それでもやはり最初はアングラの読み物として
成立していたわけだから、その慣習で彼も顔を隠しているんだ。

トル゚〜゚)「まぁ、帰宅してから早々に」

(-@∀@)「茶ぁなら今入れてんところよ」

屋敷の奥から顔を出した彼は名を暁光という。
かの有名な鳥山石燕の弟子で、浮世絵師だった。
ま、鳴かず飛ばずで随分と苦労していたらしいけどね。

14 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:03:06 ID:uf17wSYQ0
僕の留守中には家を任せて、横ノ堀から仕事を
細々と受けて暮らしている下男か小姓みたいなものだったよ。
……ヒート、なんか誤解していないかい?
そう? 大丈夫?
なんか僕が見境なく人を口説く野獣か何かを見るような目をしていた気がするんだけど。
気のせいならいいや。
それで、暁光と横ノ堀は随分と興奮した様子だった。
なんだか面白い話を聞いて、居ても立っても居られないといった様子だった。

( ・∀・)「なんだい、随分と騒がしいじゃないか」

(//‰ ゚)「まぁまぁ、とりあえず座ってくんなまし!」

( ・∀・)「うん、そもそも僕の家なんだけどね」

なんて軽口を叩きつつ、座った途端に横ノ堀は口角泡を飛ばして語り出した。

15 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:04:17 ID:uf17wSYQ0
そう、大塩平八郎の乱。
これって結構当時は大事件だったんだよ。
何がどうヤバかったって、まず大塩氏は大坂の西町奉行所の与力として働いていたことがある。
奉行所っていうのは今で言うところの警察署と裁判所がくっついたようなものでね。
大塩氏はそこで与力という地位に就いていた。
どれくらい偉いのかって言うと、難しいなあ。
お奉行様っていうのは聞いたことあるよね。
裁判長と警察長とそれから防災だの税務調査だの、
戸籍の管理だの、色々な仕事を受けていたんだよ。
それを補佐する立場であり、同心と呼ばれる警察官を統率するのが与力の仕事。
つまり中間管理職ってやつだね。
与力の中でも大塩氏は自他ともに厳しく律するタイプの人間だったらしくてね。
そりゃもう怒るとおっかないってもんじゃなかったらしい。
同時に彼は正義に燃えていて、不正や汚職なんかは大嫌いという人物だった。
部門違いの同僚の汚職事件を暴いて内部告発していたくらいだからね。
もちろんそんな大塩氏を憎む者もいたけれど、民衆からの支持は篤かったそうな。

16 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:05:03 ID:uf17wSYQ0
( ・∀・)「さて、そんな大塩平八郎がどうして乱を起こしたのか。
       ヒートは分かるかな?」

柔らかな口調で、吸血鬼は微笑んだ。
突然の問いかけに動じはしたものの、わたしは考える。
大塩平八郎の乱は天保の飢饉の最中に起きた。
正義感に燃ゆる元与力の武士と、それを慕う民衆。
そこでようやく思い出した。

ノパ听)「救民!」

( ・∀・)「その通り」

告げると同時に、寄り掛かっていた側のドアが無情にも開いた。
モララーは、あっという間に人に流されて消えていった。

17 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:06:23 ID:uf17wSYQ0
ああまったく……。
すっかりと油断していたよ。
マントがドアの中に引き込まれなくて本当によかった!
……そんなことより、早く話を聞きたいって顔をしているね。
分かった分かった、今話すよ。

――大塩平八郎は怒っていた。
というのも、大坂奉行所が米を全て江戸に送ってしまったからだ。
それまでにも何度か困窮の目に遭っては来たものの、
大塩は元与力という立場を利用して奉行に助言をし続けていた。
天保4年の秋から翌年の夏にかけての貧窮は、どうにか切り抜けることができた。
しかし天保7年から翌年夏にかけての貧窮は、惨々たる結果となった。
何故、という顔をしているね。
残念なことに前者と後者では奉行が違っていたんだよ。
大塩氏が懇意にしていた矢部定謙は天保7年に栄転。
その後任としてやって来た跡部良弼は、江戸幕府の機嫌取りに執心している男だった。

18 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:07:57 ID:uf17wSYQ0
彼と豪商らは通じた仲であり、買い占めた米は全て江戸へと送られていった。
西一帯は食う物に困る有様で、京からは天下の台所へと食料を貰いに乞食がなだれ込んできた。
それでもやっぱり無いものは無い。
大坂の治安は著しく悪くなっていった。
その一方で大塩氏は何度かして民衆を困窮から救わねばと尽力していた。
跡部に米を分けるように説得したり、米価を安定させるべく
豪商に買い占めを止めるよう呼びかけたり、自分たちの給与と引き換えに米を貧民に
分けてくれないかと交渉したり、それはもう涙ぐましいほどに努力を重ねていた。
しかし相も変わらず跡部も豪商も良しとせず、大塩氏は歯噛みした。
大塩氏は陽明学者でもあった。
儒教から派生した学問の一つで、教えの中にはこんなものがある。

「権威に従うのではなく、自ら責任を持って行動せよ」
「知っているのに実践しないのは無知と同等である」
「人間は生まれながらにして善を獲得しているのだからそれに従う事こそが理と言える」

19 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:09:37 ID:uf17wSYQ0
――なんとなく、大塩氏の思想が見えて来ただろう?
目の前で自らを慕ってくれていた民衆が、毎日飢えによって死んでいる。
それを救うことが出来なければ、見殺しにしたも同然。
私欲に囚われた奉行所や豪商は善き行いを期待出来ず、それらに屈する。
そんなこと、彼は我慢ならなかったんだ。
やがて大塩氏は家族と離縁し、家財を売り払った。
その金で得ようとしたのは手に入れることの出来ない米ではなく、大砲であった。
来たる打ち壊しや一揆に備えるべく、とは程の良い口実だ。
実際にはクーデターを起こすために門下生を率いて軍事訓練を積んだ。
そして2月、大塩氏は自宅に火を付けた。
それが、乱の始まりであった。
ただ悲しいことに、彼の率いた者の中に何人か奉行所へと計画を漏らしていた。
せっかく起こした乱は半日で鎮圧、大塩氏は追われる身となった。
本来であれば豪商の家は全て焼き払い、奉行である跡部を暗殺するつもりだったとされている。
しかしどちらも叶わなかった。
大坂から奈良へ、そして最後には再び大坂へと戻ったものの密告の憂き目に遭った。

20 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:11:05 ID:uf17wSYQ0
(//‰ ゚)「そいでもって最後には義理の息子と爆死で御座いますよ!」

花火でも打ち上がったかのような反応に、ぼくは思わず眉をひそめた。
やっぱり人が死ぬ話は悲しいし、何より義憤に
見合う結果が出なかったというのは、悲しいとしか言いようがなかった。
横ノ堀の語りが終わると、示し合わせたかのように暁光は何かを差し出した。
それは、檄文であった。
大塩氏が乱直前に認めたもので、民衆へ決起を呼びかけるものだった。
字体は拙く、どうも習字の練習か何かに使われているらしかった。

(-@∀@)「全国に出回っているんですよ、これ」

( ・∀・)「こんなの見つかったらただじゃ済まないだろうに」

(-@∀@)「それだけ不満を持つ民衆が多いのでしょう」

顔を上げずに、僕は全文に目を通した。

21 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:11:31 ID:uf17wSYQ0
察するに、やはり彼は相当な激情を抱えていたのだろう。
生々しい怒りと正義は、どれほど筆写されても埋まることはなかった。

トル゚〜゚)「被害は如何程になりましたの」

(//‰ ゚)「焼死者200人とか」

トル゚〜゚)「まあ」

(-@∀@)「それでも日に150人が飢え死んでんだ、焼けても変わらんね」

( ・∀・)「暁光」

思わず諌めれば、暁光は誤魔化すように笑った。

トル゚〜゚)「しかし派手にやりましたねぇ」

(//‰ ゚)「そうでしょう。
    なんでも、決起した民衆を含めると300人にも膨れ上がったとか」

( ・∀・)「それで話はお終いかね?」

もう十分だと思い、口を開けば横ノ堀は首を振った。

23 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:12:01 ID:uf17wSYQ0
(//‰ ゚)「それがですね、生きているんじゃないかと噂になっているんですよ」

( ・∀・)「……というと?」

確認するように口を開けば、横ノ堀はニィと笑った。

(//‰ ゚)「あれ、最後は火薬によって爆死したそうじゃないですか」

( ・∀・)「そう言ってたね」

(//‰ ゚)「人相なんて二目も見れない、とんだ状態らしくてですね」

( ・∀・)「……だから本人かどうかもわからないって?」

トル゚〜゚)「……英雄の帰還を待ちわびているのでしょうね」

何気なく吐き出された言葉は、誰かが茶をすする音ともに消えた。
それでもやはり、僕の胸には随分と刺さり続けていた。
悲嘆や遣る瀬無さとはまた別の感情だ。
それは一種の警戒であり、予感でもあった。

24 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:12:29 ID:uf17wSYQ0
( ・∀・)(人の噂も75日とは言うが、果たしてそうかな)

流行病のように広がっていく噂。
そこから妖怪が生まれることも珍しくはなかった。
同胞として歓迎せねばと思いつつも、何事も無いのが一番だとも考えていた。
なにせ、人の想像力は馬鹿に出来ない。
連鎖的に共感が広まればそれだけ大きな力が働く。

( ・∀・)(よくよく胸に留めておくとしよう)

そう思って2ヶ月もしないうちに、事件は起きた。

25 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:13:06 ID:uf17wSYQ0
同年8月、日が暮れて涼しい風の吹いた頃。

(//‰ ゚)「さーあ大変だ! 大変だ!」

表通りより横ノ堀の声が聞こえてきた。
ちょうど夕餉の支度をしている時でね、手が離せなかった。

( ・∀・)「トール、様子を見に行ってくれないか」

トル゚〜゚)「火の番を任せたっていいよ?」

( ・∀・)「ダメだダメだ、君ときたら
       この大鍋の半分以上は食うんだもの」

トル゚〜゚)「ちぇっ、通じなかったか」

言うが早いか、彼女はするりと外へ抜き急いだ。
鍋をかき回す一方で、相も変わらず声は聞こえてくる。

26 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:13:40 ID:uf17wSYQ0

(//‰ ゚)「さぁさお立ち会い。おとっつぁんも子坊主も、
     かかぁも姐さまも仰天の瓦版だ!」

(//‰ ゚)ノシ「鬼に閻魔に魑魅魍魎、おっかねぇ物ぁ山ほどあれど、
      南蛮天狗の赤っ鼻ほど恐ろしいものはありしゃない!

(フ//‰ ゚)フ「錦の海越え浦賀越え、天狗赤鼻高々と、波をかきわけざんぶらこ!」

(n//゚皿 ゚)n「鱶(ふか)も逃げ出すおどろの船は、
      黒い鱗に獅子の首、吠えて噛みつき追い回す!」

(//‰ ゚)ッァ「大砲(おおづつ)どかんとお江戸を鳴らしゃ、
     お上も泣いて天守を開くってなもんよ!」

(//‰^)「あとは買ってのお楽しみだぁ!さぁさ買いねぇ買いねぇ!」

.

27 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:14:22 ID:uf17wSYQ0
( ・∀・)(黒船、か)

当時、江戸が鎖国していたことは君もよく知っているはずだ。
けれども鎖国している間、ずっと引きこもっていたのかといえばそれは違う。
オランダとは貿易を行っていたし、諸外国はそのツテで日本の話を聞いていた。
ゆえに何度か黒船が近海にやって来ては追い払う、という騒動が起きていた。

( ・∀・)(それだけならこんな大袈裟に話す必要もない)

どうも何かがおかしい、と僕は考えていた。

トル゚〜゚)「暁光は相変わらず酷い絵を描くね」

戻ってきて早々に、トールは呆れた声を出した。

トル゚〜゚)「ご覧よ、ほら」

( ・∀・)「どれどれ」

鍋から瓦版へと目を向けると、まず飛び込んできたのは獅子の頭だった。
舳先から生えた獅子はごうごうと炎を吐き、帆布にはギョロリと目が並んでいた。
船艇からは百足の如く脚が生え、岸辺へと乗り上げていた。
その手前には砲台が並んでおり、今や撃たんとする瞬間を描いていた。

28 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:14:53 ID:uf17wSYQ0
( ・∀・)「……これ、難破でもしたの?」

冗談交じりに呟くと、

トル゚〜゚)「いつもの誇張でしょう」

と真面目な答え。
瓦版はよく新聞に例えられるけど、実はその信憑性はかなり薄かったんだ。
というのも彼らは庶民の興味を引くものであれば、いくらだって誇張を加えていたんだ。
だけど驚いたのは、黒船の絵だけではなかった。

( ・∀・)「……大塩、異国と手を組み江戸狙う?」

きっとおそらく、その時の僕は呆気に取られた顔をしていたのだろう。
流石の法螺も、ここまで来ると酷いものだった。

トル゚〜゚)「連れて来ましょうか」

( ・∀・)「ああ、頼む」

ちょいと灸をやらねば、と僕は考えていた。
死体に鞭を打って笑い者にしているようで気分が悪かったが、それ以外にも、理由はあった。

( −∀−)(あまり噂を扇動してくれるなよ……)

たしかに例の乱と絡めれば、最早慣れごとと化していた黒船の襲来も俄然面白くはなる。
しかし想像力を掻き立てられれば、その分だけ妖怪が生まれる種は増える。
いくらアンテナを張っているとはいえ、それにも限界はある。
与り知らぬところで人が殺される。
あるいは、消えてしまう。
失われた命を取り戻すだなんて、いくら神獣とはいえ出来ることではない。

( ・∀・)(皆が心地良く住める世の中にしなければ)

無論それは理想だが、出来ることからやらなくてはならなかった。

29 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:16:22 ID:uf17wSYQ0
ところが、事態は思ったよりも深刻だった。

(//‰ ゚)「絵はともかく大塩の噂。
     ありゃあ、港で聞いた話ですぜ」

( ・∀・)「なんだって?」

(-@∀@)「そうそう、今回手を加えたのはあの絵くらいなもんでさ」

トル゚〜゚)「妖怪描くのは手習いにしたいくらいだけど、
     船の絵はいまいちだったわね」

(-@∀@)「うるさいお信狐め」*1

トル゚〜゚)「三流絵師め」

(-@∀@)「一人で一升飯食う癖に」

トル゚〜゚)「食って何が悪い」

(-@∀@)「そのうち管にも入れなくなるぞ」

トル゚〜゚)「左平次ぶって……」*2

( ・∀・)「はいはい、喧嘩しない」

この二人、仲が悪いんだよね。
それはともかく横ノ堀から話を聞けば、相変わらず大塩氏の生存説は根強く唱えられているらしかった。
てっきり江戸では話を聞かなくなったものだから、とうに飽いたものだと勘違いしていた。
その実、幕府にほど近い江戸ですら、彼のことを忘れる者はそういないようだった。

(//‰ ゚)「つまり、そいだけ幕府の権威が失墜したということですわな」

(-@∀@)「ま、仕方ないんじゃあないの。
      田原や米沢では対策を練って犠牲を出さなかったと聞くし」

トル゚〜゚)「食の恨みは怖いものよね」

( ・∀・)「まったくだ」

30 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:17:39 ID:uf17wSYQ0
考えるに、彼らは大塩氏の復活を願っているのだろう。
同時に、腐敗しきった行政に裁きが落ちることも。

( ・∀・)(そんな事は不可能だ)

ただしそれは常識の範囲内での出来事だ。
瞋恚に身を焼き、情に傾き、されど何を成すことも叶わなかった乱。
どれ程の無念を胸に抱き、彼は焼け焦げたのか。

( ・∀・)(怨霊として化ける日も近いかね)

書いて字の通り、怨嗟の余り成仏出来なかった魂を指す。
俗に言う幽霊のほとんどはそればかりだ。
現状を見るに、発生しやすい妖怪はそれではないかと僕は踏んでいた。

(//‰ ゚)「そういやぁ、天満宮の砂持ちが来春にあるそうで」

トル゚〜゚)「砂持ち?」

(//‰ ゚)「ほら、大坂のほとんどは烏有に帰しちまっただろ。
    その中には天満宮も入ってんのさ」

トル゚〜゚)「あらまあ、大事じゃないの」

31 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:20:00 ID:uf17wSYQ0
(-@∀@)「なんでもひと月以上を掛けて整地するそう
      だから、お祭騒ぎになるとかならないとか」

( ・∀・)「あまり事を騒いだら、奉行所が黙っていないんじゃないか?」

(//‰ ゚)「どっこい旦那、お上様は目を瞑るどころか推奨してるそうな」

横ノ堀の言葉に、思わず驚いた。
天明の大飢饉以来、幕府は質素倹約を掲げていた。
ゆえに大坂での回米や幕府の奢侈が大塩の目に余り、乱は起きた。
と、ここまで考えて気付く。

( ・∀・)「祭で不満を発散させようということか」

(-@∀@)「表向きは景気回復と称しているけどね」

トル゚〜゚)「要するにご機嫌取りだわ」

(//‰ ゚)「まったくもってその通り。騒いでも死人は戻っちゃ来ねえのにな」

( ・∀・)「それでも民衆は心の落とし所が欲しいのさ」

32 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:20:35 ID:uf17wSYQ0
なにせ暗いことばかりが続いた年である。
幸いにも今秋は豊作とまではいかないが、飢饉を脱するだけの糧が取れる見込みがあった。
豪商も焼き出しにあってからは米の買い占めどころではないだろう。
となれば米価が暴騰することもないだろう。

(-@∀@)「ま、吝ん坊(しわんぼう)のお奉行様にしては
      随分と寛大な処置じゃあないの」

(//‰ ゚)「そらだって、幕府の権威はずたぼろだもの。
     幕府から朝廷に寄越した飛脚が荷物を捨てて、関白はお冠だって聞くし」

トル゚〜゚)「杜撰にも程があるねえ」

(-@∀@)「またそれが大塩追跡についての文書だっていうから、ねぇ」

( ・∀・)「天つ御方の身の上に、万が一のことが
       あったらどうしてくれる、ってところか」

(//‰ ゚)「しかも豊作祈願の儀まで執り行って、その費用も幕府持ちってさ」

トル゚〜゚)「ちゃっかりしてるわ」

(-@∀@)「ほんにな」

そんな話を好き勝手に口にして、夕餉は終わりとなった。

33 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:21:31 ID:uf17wSYQ0
以降各自それぞれの仕事が忙しく、僕はすっかりとこの件を忘れ去っていた。
人々も同様に、大塩の乱のことなど忘れてしまったのではなかろうか。
それでもやはり、大坂に住む者たちには忘れ難い出来事だったのだろう。
天保9年、4月。
大坂天満宮再興への一歩として砂持ちが行われて、暫く経った頃。
やはり夕餉の頃に、こんな口上が聞こえて来た。

34 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:22:14 ID:uf17wSYQ0

(//‰^)「さぁさそこいくお大尽!
    寄って一文聞き耳二文、買えば三文の瓦版だよ!」

(//‰ ゚)(V)「柳にドジョウは二匹とないが、ちょいと早めの幽霊騒ぎはいかがかね!」

(//‰ ゚)n「しかもそいつぁあたりきの幽霊じゃねぇ。
     先だって無念のうちに死んでった大塩平八郎先生と来たもんよ!」

( ・∀・)「……なんだって?」

(//‰-)「大塩先生といやぁ、驕る奉行に待ったをかけた義の御方!」

(u//‰ ゚)u「ちょうちょ祭りに提灯かけりゃ、
       ぽっと火を置くその幽霊が先生だって風聞よぅ!」

(//‰ ゚)っ□「なんぞ未練を残したか、恨みの一つもあってかは神も仏も存じねぇ!
     あとの子細はこちら瓦版にて!さぁ買った買った!」

大塩平八郎の霊、現る。
そんな謳い文句に興味を持たない者などいなかった。

35 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:23:49 ID:uf17wSYQ0
( ・∀・)「トール、鍋を頼む!」

トル゚〜゚)「モララーさま!?」

つまみ食いなど些細なことである。
彼女を使いに出すよりも早く、僕はこの目で情報を見たかった。
通りには人集りが出来ていた。
皆一様に同じ事を思い、一堂に会したのだ。

( ・∀・)「横ノ堀!」

人混みをかき分け、僕は手を伸ばす。
彼の手はちっとも見えず、それでも次第に人の波は和らいでいった。

(//‰ ゚)「おや、白澤の旦那」

ふちゃむちゃになった着物を引きつつ、横ノ堀は頭を下げた。

( ・∀・)「さっきのは本当か?」

(//‰ ゚)「買ってから確かめてみてくだせぇ」

( ・∀・)「……いい加減なことを書いていたら承知しないぞ」

(//‰ ゚)「いいや、今回は誇張抜きですぜ」

愉快そうなその響きとともに、銭を鳴らして彼は去った。
その場で読んだ瓦版には、なるほど、下手な嘘を
交えるよりもよっぽど面白い話が載っていた。

37 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:24:17 ID:uf17wSYQ0
砂持ちの神事では、狂乱としか言いようのない騒ぎが連日起こっていた。
還暦を過ぎた老婆が白粉はたき、稚児の人形背負って踊り狂ったり、
即席のお面や被りものを纏い、与力や奉行の目の前で都都逸や狂歌に乗じたりなどなど。
まるで大坂市内に丸ごと狐が憑いたような騒ぎだった。
それで民衆の機嫌をとれるのなら、と奉行所も見て見ぬふりをしているらしかった。
それがいつまで続くものかと諸国からは物見遊山に訪れて、
ますます騒ぎは大きいものになったと書かれていた。
まるでハロウィンに賑わう現代の渋谷みたいだろう?
いつの世も箍が外れた人間の騒ぎは似たり寄ったりなものなのさ。
さて、この狂騒は夜になっても収まることはなかった。
夜ともなれば灯りがないとろくろく前なんて見えやしないのに、
興奮した人間たちには闇が恐ろしくなかったのだろう。
それでも当時は灯りなしでの外出は禁じられていたから、
提灯だけはぶら下げて、いつまでもいつまでも騒いでいたそうな。
そんな調子が続いたある晩、風もないのにフッと灯りが途絶えた。
人々の歩みは止まり、火打石を探せども、どういうわけかなかなか見つからない。
そんな折に、提灯を持った相手に近寄る影一つ。
そっとその手が油に触れると、たちまち明るく火が宿る。
礼を言おうとパッと顔を上げれば、誰もいない。
しかしそんな事が何度も続く内に、やがてこんな話が流れ出した。

38 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:25:09 ID:uf17wSYQ0
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「絶えた火を付け直してくれるのは、どうも中斎先生ではなかったか」





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39 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:26:25 ID:uf17wSYQ0
中斎、というのは大塩氏の号のことである。
どうも地元ではもっぱらこの名前で呼ばれているらしい。
さてはて誰が初めに言い出したのやら、噂の出所というものはいつだって特定することはできない。
ただ心の何処かで、大坂の人々は大塩氏の帰還を待ち侘びていたのだろう。
些細な名もなき幽霊譚は、子細な造形を与えられていった。
曰く、大塩先生は死んでなどおらず、その身に火を宿しているだとか、
曰く、貧困から抜けた民衆への手向けに火を宿すのだとか、
曰く、その火は親切心によるものというよりは、怨嗟の炎であるとか、
曰く、もちろんそれは奉行所に向けられるものである、とか。

( ・∀・)「とんだ騒ぎになってしまったな」

帰るや否や、トールに話せば困ったように眉根を寄せていた。

トル゚〜゚)「大坂に行かれますか?」

( ・∀・)「……いいや、少し様子を見てみよう」

40 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:26:54 ID:uf17wSYQ0
砂持ちの神事が終わるまで、あと1週間だと聞いていた。
それが終われば、名もなき怪奇は消え失せてしまうのかもしれない。
終わってもなお現れるのであれば、やはりそれは妖怪として生まれ落ちたのであろう。
いわば、この怪奇は噂と妖怪の中間に位置していた。

トル゚〜゚)「単なる噂で終わればよろしいですが」

( ・∀・)「まったくだね」

同意しながらも、鍋を見ればほんのちょっぴりの味噌汁しかない。
その晩、僕は久しく味噌をおかずに夕餉を終えたよ。
とても辛かった……。

41 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:28:10 ID:uf17wSYQ0
大塩氏の帰還は半分は面白く、半分は懐疑的な目を向けられていた。
確かに提灯行列では火が絶えてしまう事が多かった。
皆がもたついている内に、やがて灯りは点るものの、それを付けたのが誰なのかはついぞわからなかった。
なにせ大坂の人々以外には大塩氏になんてお目にかかった事はない。
だから彼らが言うことを鵜呑みにする以外、証拠などありはしなかったのだ。
とはいえ昨年に亡くなった人の噂にしては、長らく続き過ぎた。
事態を鑑みた幕府はとうとう、大坂奉行所に命じた。
鳶田刑場にて、大塩とその一門の死体を磔刑にせよ、と。

42 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:29:52 ID:uf17wSYQ0
ノパ听)「……それで、やったんですか?」

( ・∀・)「そう、同年の9月にね」

ノパ听)「1年半も過ぎてるのに……」

大体そんなに経ってしまったら、容貌も何も分かりゃしないだろうに。
不愉快そうなわたしの疑問を、モララーは汲んだらしい。

( ・∀・)「かねてより、遺体は塩漬けにしてあったのさ」

ノパ听)「うげぇ……」

しおしおに萎びたナメクジを想像して、思わず声が漏れた。
それでなくたって、火薬で爆死しているのだ。

ノパ听)「……やっぱり、何がなんだかわかんないんじゃないんですか、それ」

( ・∀・)「でもねえ、ヒート。
       行き過ぎた妄信を止めるには、真実を突きつけるしかなかったんだよ」

雑踏に流されながら、モララーは呟いた。

( ・∀・)「あの時、幕府が提示できる唯一の証拠がそれしかなかったんだよ」

43 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:30:18 ID:uf17wSYQ0
その背中を追って、わたしも電車を降りた。
ただでさえ普段から人の多い渋谷駅は
、なおのこと混んでいた。
それを上手いこと避けるモララーの足さばきには、わたしも感心せざるを得なかった。

( ・∀・)「だけど人っていうのは信じたいものしか信じないんだ」

ノパ听)「というと?」

( ・∀・)「やっぱり顔が分からないから、あれは偽物だって騒がれてしまったんだ」

ノパ听)「都合良すぎませんかね」

( ・∀・)「そういうものだよ」

天からわたしたちを見下ろしているパネルからは、爆音の音楽が流れていた。
頭が割れそうになるほど、不愉快な音量だった。
それなのに、不思議とモララーの声ばかりが耳に入った。

( ・∀・)「それにね、ヒート」

ノパ听)「はい」

( −∀−)「……死んでしまったと認めても、
       やはりあれは大塩氏だったんだ、と確信を深めるばかりだったんだ」

44 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:31:45 ID:uf17wSYQ0
かくして大坂を中心に、西の都では大塩氏の噂がしばらく絶えることはなかった。
ただし例の現象は、砂持ちの終わりとともに見られなくなったという。
それでも油断ならないと僕は神経を張っていた。

( ・∀・)(噂を見くびってはならない)

人からまた人へと伝えられるその時に、妙な情報が付いてしまう時がある。
それは時に誇張であったり、記憶違いであったり、様々だ。
無意識のうちにそれらも織り込んで伝わった噂は、やはり同じようにして伝わる。
地域によって妖怪の名前や容姿がまるきり違って伝えられるのはこのせいでもある。
かねてより僕が編集を続けている妖怪の図録、白澤図。
どこまでを1項目として纏めるべきか、悩ましいと思うこともあった。
……話が逸れたね、戻すとしよう。
僕とトールの心配をよそに、幽霊の噂はそれっきりとなっていた。
しかし、年を越してから――天保10年、春。
京都で、奇妙な祭が起きていると僕は聞きつけた。
例によって話は横ノ堀と暁光から聞いていた。

45 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:32:48 ID:uf17wSYQ0
(-@∀@)「なんでも、去年の砂持ちの真似事が行われているとか」

(//‰ ゚)「蝶々踊りと称して、昼も夜も見境無く歩き回ってるそうでさ」

トル゚〜゚)「京都で……?」

( ・∀・)「そんなことをしても咎められないのか?」

(-@∀@)「なんでも口実は、豊作祈願ということらしい」

何故、と口を開きかけて閃いた。
飢饉の際、京都から大坂へと流民が生じた。
彼らもきっと、砂持ちに乗じた狂乱に身を委ねたに違いない。
それが今になって京都へと帰ったのだ。
そして故郷でも、それを行なっているのだ。

( ・∀・)「……まさか」

予見していた出来事を思い浮かべた時、横ノ堀らは頷いた。

(//‰ ゚)「出るんですよ」

(-@∀@)「大塩の幽霊、とやらがね」

瓦版にもせず、真っ先に僕へと知らせてくれたことは僥倖としか言いようがなかった。
ネタにすればいくらでも日銭を稼げたであろうに、彼らは取り返しがつかなくなる前にと教えてくれたのだ。
とはいえ彼らも商売人、ちゃっかりした性分を持っていることは誰よりも分かっていた。

( ・∀・)「仕事ついでに、きみたちも取材に来るだろう?」

(//‰^)「さっすが白澤の旦那!」

(-@∀@)「話が早くて助かりますわ」

トル゚〜゚)「それで、何時に旅立ちましょう?」

( ・∀・)「三日後。朝六ツにこの家で」

46 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:33:38 ID:uf17wSYQ0
せっせと歩きに歩いた僕たちは、10日目に京の都へと辿り着いた。
やはり相も変わらずに、大通りでは多くの人々が練り歩いていた。
ひょっとこ、おかめに翁に嫗、蛸や大根、唐傘、一つ目。
愛嬌のある仮装の行列が、絶えずあちらへ行ったりこちらへ行ったりと忙しなかったよ。
その中にはもちろん、大坂の人たちも含まれていた。
消えたと思い込んでいた大塩氏が、こちらに現れた。
そう聞いてしまったら、やはり駆けつけずにはいられなかったのだろうね。
他にも前年の狂騒に今年こそは参加しようとやって来た諸国の人たちもいた。
中には嵩張って仕方がないように思える衣装まで持ってきた人も見かけたね。

( ・∀・)「短期間に全国からこんなにも大勢の人が
       集まるなんて、例を見ないんじゃないか」

47 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:34:20 ID:uf17wSYQ0
旅籠屋の二階にて、そんな言葉を漏らしていると、

リハ*゚ー゚リ「旦那様も、幽霊見物でらっしゃいますか」

と飯盛女が話しかけて来た。

トル゚〜゚)「そうさね。あんたは見たことがあるかい?」

5杯目になる飯を食いながら、トールの一言に彼女は頷いた。

リハ*゚ー゚リ「ええ、2度ほど」

(-@∀@)「人相は?」

(//‰ ゚)「やっぱり、大塩先生とやらに似ているのか?」

リハ*゚ー゚リ「さあ、どうでしょう……。
     目の前で見たわけではありませんから」

あやふやな言葉とともに、丼には米が盛られていった。
うん、本当によく食べるんだよ。
管狐はなんでも願いを叶える代わりに、山ほど食べ物がいるんだよ。
それで商家が一つ潰れてしまうと言われているくらい、よく食べるんだ。
ヒート、きみはかえって少食の気があるから、その点ではちょっとホッとしているよ。
え、お世辞はいいから話をしろって?
まあまあ、そう急かさないで。
今から話すから。

48 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:35:09 ID:uf17wSYQ0
夜もまもなく更けた頃。
やはり外ではとんちきとんちき、賑やかに騒ぐ声が聞こえてきた。
外へと出れば、やはり人は未だに多い。
むしろ夜になるのを待っていたのではないかと思うほどに、どこまでもどこまでも人がいた。

トル゚〜゚)「まるで百鬼夜行だね」

(-@∀@)「違いない」

狐がついたような連中の中で唯一と言っていいほどに、僕たちは静かであった。
何しろみんな、仕事で来ている。
騒ぎたいがために遠路遥々来たわけではない。
遅々として進む列のなか、決して逸れぬようにと気をつけている時だった。

「アッ!」

あちこちで、そのような声があがった。
期待半分、恐ろしさ半分といった興奮は、やがてさざ波のように広まっていった。
提灯の火が消えたのだ。
見渡せば、あちこちに見えていた提灯はひとつとして仕事を成していない。
シン、と静まり返った。
これだけの人が居るというのに、あまりにも静かであった。
皆がそれを待ち望んでいた。
ここまでしたのだから、起こらねば容赦せぬぞという雰囲気さえあった。
と、その時だった。

49 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:36:04 ID:uf17wSYQ0







      フツ、



              フツ、



フツ、


           フツ、



    フツ、




                 フツ、





                        フツ、
.

50 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:37:24 ID:uf17wSYQ0
前から、後ろから、右より、斜めより、縦から、或いは左から。
連続して点る提灯。
人々のどよめきが、畝るようにして、京の夜を埋め尽くした。

(-@∀@)「これは……」

(//‰ ゚)「……思ってたんと違うなぁ」

背筋をぶるりと震わせる彼らは、やはり正気だから恐ろしく思うのだろうか。
一方僕はといえば、幽霊とやらを視認しようと必死になっていた。
しかし、

(;・∀・)(……いない)

そんなはずはなかった。
白澤の目を誤魔化せるのは、よほどの力を溜めた妖怪のみである。
昨年に生まれ、一時は泡沫となりかけていたような妖怪である。
信じられない、と目を見張る僕はひとつの違和感に気付く。

( ・∀・)「暁光、横ノ堀」

(//‰ ゚)「へい」

(-@∀@)「なんですか」

( ・∀・)「……京に出た大塩の幽霊、もっと詳しく話を聞かせてくれ」

(//‰ ゚)「詳しくったって……」

(-@∀@)「提灯の火が点るってだけで」

( ・∀・)「人」

(-@∀@)「え?」

( ・∀・)「人が点けたという話ではなかったのか」

僕の言わんとしていることが、ようやく分かったらしい。
油を必要とする歯車のように、二人は首を振った。

51 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:38:38 ID:uf17wSYQ0
トル゚〜゚)「……モララーさま」

同じ結びを得たらしいトールに、僕は頷いた。

( ・∀・)「大塩の姿を失ったんだ」

思えばその発端となる出来事は既にあった。
鳶田刑場での磔刑である。
大塩の帰還に浮かれていた民衆に突きつけられたのは、見るも無残な焼死体である。
たしかに、大塩氏は死んだのであろう。
そして心の何処かで、彼らは受け止めていた。
されど認めるわけにはいかなかった。
人間は理不尽を嫌う生き物だ。
努力が報われる話を好み、悪には懲罰を求める性を持っている。
弱き人々を救う為に立ち上がった男が、しかし何事も
成し遂げられなかったなんて、信じることは出来なかった。

52 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:39:30 ID:uf17wSYQ0
では一体、あの火を点けたのは誰なのか。
得られたと思った回答を翻され、人は道理を求めた。
あれが大塩でないのなら、一体何だったのか。
それともやはり、大塩ではないのか。
しかし祭事は終わった。
奉行所が庶民に対して甘い顔をするのも、ただの一度だけであろう。
ならば外へ行けばいい。
それも京という都がある。
幕府に虐げられた民の為に豊作を祈願した、朝廷のある京へ。

( ・∀・)「弔い合戦だ」

刀や大砲などは使っていないが、そうと呼ぶに相応しかった。
ゆえにあれは目に見えない。
大塩平八郎は死んだと理解させられてしまったから。
何者でもないが、現れたそれに人々は願う。

「中斎先生!」

どこかで、声が上がった。

53 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:41:52 ID:uf17wSYQ0


      「やはり」    「ああ」

「先生」

                「もう一度」


            「中斎先生! 中斎先生!」


    「先生!」        「良弼め」
                    
  「中斎先生」        「火を」


「ああ、先生!」        「先生」            「あれは」

         「斃せ」
                    「どうぞ」

        「可哀想に」     「戻って」


   「中斎先生万歳! 万歳!」 「来て」


   「なんで」     「先生、先生」


     「どうか」


.

54 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:42:30 ID:uf17wSYQ0





「殺せ」






.

55 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:43:15 ID:uf17wSYQ0
瞬間、提灯より火柱が上がった。
無数の線は互いに結び、捻れ、白い星を撒き散らし、音もなく吼えた。
肌へと感じる漣に、人々は哄笑する。
夢か何かだと思っているのだろう。
それが自らの意識より出でたものだとは、露も思っていないのだ。
暁光と横ノ堀は、ひたすらに震える事しか出来なかった。
空を埋めつくさんばかりに広がる火の玉は、その巨体をそぞろと動かしていた。
大坂だった。
きっとそれは大坂に向かおうとしていたに違いなかった。
猶予は残されていない。
明暦の大火のように、あれは町を燃やし尽くすだろう。
そうなる前に動くのが僕の仕事だった。

( ・∀・)「トール」

トル゚〜゚)「ええ」

それだけで十分であった。

56 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:45:43 ID:uf17wSYQ0
一跳躍にて、人々が豆の粒ほどの大きさになるまで僕は高みへと踊り出た。
そのまま宙を蹴り、火の玉へと肉薄する。
何をするのかといえば、そのまま飛び込むのだ。

(  ∀ ) 「っ!!」

名もなき妖怪は、突如として現れた障害に驚いたらしい。
しかし同時に腹が立ったのか、マグマの如く広がっていた裾野を一気に呼びつけた。

( ( ・ ) )
ミ ・∀・彡「それで僕を燃やそうっていうのかい?」

3つの目で凝視をすれば、怯むことなく火焔は僕へと迫る。

( ( ・ ) )
ミ ・∀・彡「いいさ」

あえて、僕は立ち尽くした。
言葉もなく、思惟もなく。
最大の火力を持って全てを消し去ろうとするそれを、僕は受け止めた。
角も、毛も、肉も、骨も、全てを滅ぼそうとする。
それが、人々の思いであった。
どうして大塩氏は死んでしまったのか、という思いであった。

(  ∀ ) 「っ!? !!」

しかし、進むことは許さない。
これ以上の犠牲を増やすことを、僕は望まない。
そして、大塩氏も望んではいないだろう。

57 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:47:42 ID:uf17wSYQ0
( ( ・ ) )
ミ ・∀・彡「きみは、誰だ?」

(  ∀ ) 「っ、っ」

問いを投げかけてきた僕に、火焔は戸惑っていた。
そうだろう、彼は滅びを望まれて生まれた存在だ。
だというのに目の前の障害物は、悲鳴ひとつ上げずに宙を止まっている。

( ( ・ ) )
ミ ・∀・彡「きみにもきっと、言葉が話せるはずだ」

(; ∀ ) 「  、     、」

( ( ・ ) )
ミ ・∀・彡「そうだ、そうやって話すことができるはずだ」

声にはならずとも、意思は伝わった。
火の勢いは衰えつつあった。
僕は焦ることなく、言葉を待った。

(; ∀ ) 「ゎた、しは、」

( ( ・ ) )
ミ ・∀・彡「うん、うん」

(; ∀ ) 「お、ぉし、お、おおし、ぉ」

( ( ・ ) )
ミ ・∀・彡「大塩と言うのかい?」

(; ∀ ) 「おーしぉ、おおしお。おおしお」

( ( ・ ) )
ミ ・∀・彡「どうしてそう思ったんだい?」

(; ∀ ) 「よばれた、よばれたから」

( ( ・ ) )
ミ ・∀・彡「それは誰に?」

一瞬の沈黙。
それを呑み、彼は話す。

58 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:48:29 ID:uf17wSYQ0
(; ∀ ) 「みんな。みんなが。火をわけたら、みんなが」

( ( ・ ) )
ミ ・∀・彡「そうか、みんなにそう呼ばれたんだね」

(; ∀ ) 「……だけど、ちがうんだ」

( ( ・ ) )
ミ ・∀・彡「何故?」

(; ∀ ) 「…………ちがうって、思うんだ」

( ( ・ ) )
ミ ・∀・彡「違うのかい?」

(; ∀ ) 「……おれ、オレ、分かんない。ただ」

( ( ・ ) )
ミ ・∀・彡「ただ?」

(; ∀ ) 「……ひをけしてしまったから、つけてやっただけなんだ」

( ( ・ ) )
ミ ・∀・彡「きみは、優しいんだね」

(; ∀ ) 「そんな、だって」

( ( ・ ) )
ミ ・∀・彡「……そうじゃないと思ってる?」

今や彼は、僕の身を手放していた。
遣る瀬も無く、気を揉むようにして、炎は揺らめいていた。

(; ∀ ) 「……おおしおに、なれなかった」

( ( ・ ) )
ミ ・∀・彡「……ならなくていいんだよ」

59 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:50:10 ID:uf17wSYQ0
彼は、大塩の怨霊ではなかった。
仮にそうであれば、こんなにも不安定に問答を繰り返すはずがなかった。
おそらくきっと始まりは、誰かが無言で火を点けたのであろう。
それを人々は大塩氏の無念と結び付けて騒ぎ立ててしまったのだ。

( ( ・ ) )
ミ ・∀・彡「よくお聞き、名もなき妖怪よ」

諭すように、僕は語りかける。

( ( ・ ) )
ミ ・∀・彡「僕たち妖怪は、些細な現象から起こりうる。
       それは自然の起こした現象であったり、
       ちょっとした勘違いによって起きるものであったりと様々だ。
       それでも人は、筋の通った説明を好む」

(  ∀ ) 「せつめい、」

( ( ・ ) )
ミ ・∀・彡「そう、僕たちはその説明を元に生み出されたのだ」

60 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:50:47 ID:uf17wSYQ0
一見すると無茶苦茶な説明であっても、それは妖怪だから仕方がない。
そんな納得をしてしまうのだから、人間というやつは厄介だ。
そう思うと同時に、なんて愛おしい存在なのだろうと僕は笑ってしまう。

( ( ・ ) )
ミ ・∀・彡「きみの存在を、是非とも歓迎しよう」

(  ゚∀゚ ) 「あ、ぁ、あなたは……」

( ( ・ ) )
ミ ・∀・彡「僕は白澤。人と妖怪を仲介する妖怪の長」

ちろ、と胴体にある6つの目は、地上を見た。
遥か下では人々が、呆気に取られたような表情をしていた。
その一方で、僕の意を汲んだトールはたちまちに天へと貫いた。

( ( ・ ) )
ミ ・∀・彡「きみに、名前をあげよう」

焔の向こうで、雷雲が渦巻く。

(  ゚∀゚ ) 「おおしお?」

( ( ・ ) )
ミ ・∀・彡「いいや、その名前はちと固すぎる」

額の瞳はしっかと見据え、残りの目は黒雲へと注視した。

62 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:52:35 ID:uf17wSYQ0
( ( ・ ) )
ミ ・∀・彡「きみの名前は、分火霊」

(  ゚∀゚ ) 「わけびたま、」

雷が、落ちる。

( ( ・ ) )
ミ ・∀・彡「夜道にて、火が消え失せた者に火を点す」

(  ゚∀゚ ) 「火を……」

地を揺らし、新たな妖怪の誕生を伝える雷だ。

( ( ・ ) )
ミ ・∀・彡「そう。きみは、人を傷付けなくていいんだ」

(  ゚∀゚ ) 「いいんだ」

気状に膨れたトールは無数の使いを走らせて、全ての人に伝えるのだ。

( ( ・ ) )
ミ ・∀・彡「そう、いいんだ」

復讐などしなくて済むように、僕は彼を定める。

( ( ・ ) )
ミ ・∀・彡「きみは、きみの成せることをしなさい」

それがきっと皆の幸いに繋がるのだから。

63 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:53:22 ID:uf17wSYQ0

(//‰ ゚)ノシ「さぁさ通りのご来人、手間と時間は
    取らせやせん、ちょいとお耳を拝借したく!」

(//‰ ゚)n「寄らば聞きねぇ聞かば買いねぇ、買わば損する瓦版よぉ!」

  ,_
(//‰ ゚)「京の都に大火あり、
    それもそんじょそこらの小火(ぼや)とは違う!」

(//‰ ゚)〆「地震雷火事親父、火事と喧嘩は江戸の華!」


(u//‰ ゚)u「京の大火はあやしの炎(ほむら)、提灯明かりが
      渦巻き集い、昇龍よろしく雲を割る!」

     +
∠(//‰ ゚)/「追うはあやかし、真白き獣!
      親父怖いか地震が先か、いやいや獣にゃ勝てはせぬ!」

(//‰^)「二頭のあやかしの行方はいずこ!
    それは買ってのお試しだ!」

(//‰ ゚)っ□「さぁ買いだよ買いだ!!」

64 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:54:53 ID:uf17wSYQ0
トル゚〜゚)「あいっかわらず下手くそな絵だねえ」

(-@∀@)「お? 石燕先生に喧嘩売ってんのか?」

トル゚〜゚)「売っちゃあないよ、暁光の腕に文句言ってんのさ」

(-@∀@)「なんだと」

トル゚〜゚)「お、やるかい?」

( ・∀・)「やめなってば」

トル゚〜゚)「……はい」

( ・∀・)「ところで、本当に僕ってこんな顔してんの?」




(    )           神
)彡⌒.ミ(          獣
/ ゚、。 /,…,,…〜     白
|   000  ミ      澤
| |⌒| |⌒\ /| \
〒 W  Y  J



(-@∀@)「もちろん!」

( ・∀・)「ふ、ふぅん……」

トル゚〜゚)「…………」

65 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:56:41 ID:uf17wSYQ0
( ・∀・)「かくして、大塩平八郎の幽霊騒動は終わりを迎えたんだ」

ノパ听)「はぁ……」

( ・∀・)「面白くなかった?」

ノパ听)「スタバで聞くには重すぎます」

指摘するとモララーは、苦笑いを浮かべてフラペチーノを吸い込んだ。
なんでもハロウィン限定の味らしい。
生クリームと甘ったるそうなソースがこれでもかと
乗っていて、見ているだけで気分が悪くなりそうだった。

ノパ听)「だけど安心しました」

( ・∀・)「何を?」

ノパ听)「ちゃんと仕事してたんだなって」

( ・∀・)「過去形なのそこ」

ノパ听)「働いてるところ、見たことありませんから」

( ・∀・)「ははは」

否定もできずにモララーは、やはりフラペチーノを吸った。
あまりにも勢いよく吸いすぎて、気管に入ったらしい。
助けを求めるような目を向ける吸血鬼から、わたしはそっと目を離した。

66 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:58:39 ID:uf17wSYQ0
ノパ听)(……ん?)

街灯がひとつ、消えていた。
人周りの人たちも騒ぐのに夢中で、どうやら気付いていないらしい。
……その灯りが、どういうわけが2、3度瞬いて、何事もなかったかのように復活した。

ノパ听)(違う)

分火霊だ。
火からは遠ざかったものの、現代では灯りを欲するところはごまんとある。
今でも存在しているのだ。
復讐を知らぬままに、きっと、きっと。

ノパ听)「お水、飲みます?」

( ・∀・)「おひゅっ、おっ、やさし、うふっ」

ノパ听)「今日だけはね」

そうして、わたしは席を立つ。
悪魔のツノを生やしながら。
頬に描かれたジャックオランタンを、ほんの少し上に寄せながら。

67 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:59:08 ID:uf17wSYQ0
分灯霊/分火霊(わけびたま)
夜半、遅くまで外を出歩いている時に灯りを切らしてしまうと現れる
火を点けてしまうとすぐに過ぎ去ってしまうので、残された人間はさぞ困惑することだろう
特に悪さをするわけでもないので、そこは安心してほしい
現代では提灯や龕灯と言った火を使う道具は失われたものの、
電池が切れた電灯や街灯にもすぐ対応してくれる親切な妖怪だ

――(よくわかる!現代版白澤図より抜粋)

68 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/10/31(火) 23:59:38 ID:uf17wSYQ0


出張版白澤図 〜ハロウィン増刊号〜のようです 了


.


69 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/11/01(水) 00:00:06 ID:7cpPwakY0
以下ちょっとした解説

*1お信狐
お信者(おしなもの)=大食いの蔑称
信濃は米どころであるので大飯食らいとされていた
管狐も長野をはじめとする中部地方を中心に説話が見られる上に
家が潰れるほどに数が増えて食物を食い尽くすと言われていた


*2左平次
余計なお世話、でしゃばりを指す
元は人形浄瑠璃での隠語だったとか


最後に読んでいるとちょっと面白い連作

現代版白澤図(グレーゾーンさん)
http://boonzone.web.fc2.com/gendai_hakutaku.htm

出張版白澤図(まぜこぜブーンさん)
http://mzkzboon.blog.fc2.com/?no=910



なんとかハロウィンに間に合いました
それだけしか言えません

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