■2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです
└雪を、食べる
- 293 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 00:13:07 ID:Ge1B3FHM0
雪を、食べる
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- 294 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 00:14:17 ID:Ge1B3FHM0
ξ゚听)ξ「ヒヤシンスの匂いがしたら、アナタは止まってしまう」
女は続ける。
ξ゚听)ξ「雪はアナタを見捨てるわ」
女は男を見つめる。
空には薄い雲が円を描いていた。赤の大地はその薄い雲を仰いでいる。
しかし、それに男が気づくことは無い。
('A`)「それでも探さなくてはならないんだ」
男は続ける。
('A`)「信じるものだって変えるさ」
女が被せる様に言った。
ξ゚听)ξ「私は、被害者」
その一言は遠くの山にこだました。
やがて暗くなり、冬が来た。赤が青に変わった。
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- 295 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 00:15:54 ID:Ge1B3FHM0
- 男は雪の里で雪の川を歩き、雪を探した。
空は藍色に染まり、月が昇った。月に顔は無かった。
女は男を見つめ、問う。
ξ゚听)ξ「雪は見つかったの?」
男は昨日見た夢で買ったシガレットに火を点けた。
煙は地に落ち、ごとりと音を立てた。
('A`)「見つかったらこんな所にはいないよ」
ξ゚听)ξ「そう」
女は地に落ちた煙を拾う。
ξ゚听)ξ「これは雪では無いの?」
('A`)「これが雪に見えるのか?」
ξ゚听)ξ「ええ」
男は女に構わず歩みを進めた。
女が付いてくることは無かった。
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- 296 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 00:17:20 ID:Ge1B3FHM0
- 次の日、男は空気が白んでいる事に気が付いた。
男は白む匂いを肺に詰め込む。
その様子を見た女は、口を開いた。
ξ゚听)ξ「木が枯れてしまったの。草も、花も死んでしまった」
男は転がっている氷に腰を掛ける。
('A`)「元々死んでいたじゃないか」
その男の声に、氷は涙を流した。
暫く経ち、氷は魚を産んだ。氷はより一層涙を流した。
生まれ落ちた魚を見つめ、女は問う。
ξ゚听)ξ「なら私達は何故生きているの?」
('A`)「死にきれなかったからだろう」
氷は次第に溶けていった。
魚は悲しみ、自ら命を絶った。
ξ゚听)ξ「薔薇と一緒ね」
女がそう言うと雲が晴れ、月が顔を覗かせた。
その日の月には顔があった。
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- 297 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 00:18:21 ID:Ge1B3FHM0
- 月は男と女を見下ろし、こう言った。
「薔薇は昨日死んだよ」
その優しげな声を聞いて、女は帰路についた。
残された男は溶けた氷に訊ねる。
('A`)「雪を知ってるか?」
溶けた氷は少し考え、こう言った。
「もっともっと寒くならないと、雪は現れないよ」
男はもう一度溶けた氷に問う。
('A`)「どうすればもっと寒くなる」
溶けた氷は答えた。
「太陽が僕たちの事を見捨てたら」
雪の川は緩やかに氾濫した。輝く光があっという間に平原を覆い尽くした。
溶けた氷は溢れる光に耐え切れず、目を覆った。
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- 298 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 00:19:19 ID:Ge1B3FHM0
- ある日、冬は風を作った。
生まれたばかりの風が、初めて女の髪を揺らした。
髪から漏れる、甘いヒヤシンスの香りが男の鼻を擽った。
('A`)「雪が見つかりそうなんだ」
男が口を開くと、いっそう穏やかな風が二人を包んだ。
地に落ちた輝きが巻き上がり、女の長い睫毛に纏わりつく。
ξ゚听)ξ「そうなの。彫刻をアナタにあげないとね」
('A`)「いや、良い」
男は横に首を振った。
('A`)「氷で出来ているんだろう?」
女は縦に首を振る。
ξ゚听)ξ「いらないの」
男はいつも夢で買うシガレットに火を点けた。
煙は風に運ばれ、次第に水となって降り注いだ。
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- 299 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 00:20:25 ID:Ge1B3FHM0
- ('A`)「ああ。もう氷は十分なんだ」
その男の一言に対し、女はこう言った。
ξ゚听)ξ「うそつき」
冬が二つ目の風を産んだ。
今度の風は女の髪を揺らさずに、男の髪を揺らした。
遠くの森の香りと透明な氷の香りが混ざった美しい冷気が、ふわりと舞う。
男は転がっている氷を口に含んだ。
('A`)「教えてくれ。氷は俺の何だ」
女は答える。
ξ゚听)ξ「体よ」
男は暫く黙った後、もう一度問う。
('A`)「氷が俺の体だと言うのなら、雪は俺の何だ」
女は俯き、こう答えた。
ξ゚听)ξ「人かしら」
男が再び歩みを進めると、雪の川が、しゃりと鳴った。
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- 300 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 00:21:40 ID:Ge1B3FHM0
- ある日、男は氷に話しかけた。
('A`)「雪が降れば、ここは人になってしまうだろう」
氷はそれを聞いて驚く。
七つ目の風が遠くで驚いた枯れた木を支えた。
「でも、僕たちと人は別だよ」
氷は不安そうに続ける。
「冷えてしまってるのが同じでも、空を殺すなんて」
男は氷の言葉を聞いて、恐ろしい事だと感じた。
七つ目の風がやって来て、男の背中を撫でる。
('A`)「ありがとう」
七つ目の風は頬を染め、こう言った。
「それでも、雪は降るんだ」
次の日、ハーブの香りの中、世界は雪に包まれた。
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- 301 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 00:23:09 ID:Ge1B3FHM0
- 女は天から降りてくる雪を見つめる。
その視線に気づき、雪はジゼルを最初から踊った。次第にそれは女の頭を白く染めた。
ξ゚听)ξ「見つかったのね、雪が」
男は頷いた。
('A`)「ああ」
女は男の冷えた手を握った。男は手に温もりを感じ、優しく握り返した。
降りしきる雪は速度を緩め、九つ目の風は雪と共に天に感謝をした。
九つ目の風が一通り感謝を終えると、女の髪を揺らした。
ヒヤシンスの香りが雪の涙に混じって男の胸を強く打った。
ξ゚听)ξ「もうじき、ここは人になる」
男は悲しくなって、問う。
('A`)「友にはなれないのか」
女は答えた。
ξ゚听)ξ「ええ」
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- 302 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 00:24:07 ID:Ge1B3FHM0
- 男はもっと悲しくなって、また問う。
('A`)「どうして」
女は少しだけ微笑み、こう答えた。
ξ゚听)ξ「だって、みんな一人じゃない」
すると女は白い息を、ふよりと漂わせた。
その息は次第に雪となり、降りしきる雪と結婚した。
九つ目の風は祝福をした。
('A`)「そうか」
男も白い息を、ふよりと漂わせた。
しかしその息は天に届くことが無く、地に落ちてしまった。
雪が落ちた息を弔う。男の周りから一切の音が消える。
('A`)「なあ」
男は足元に集まる雪に話しかけた。
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- 303 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 00:24:57 ID:Ge1B3FHM0
- ('A`)「ここが人になるなら、お前達はどうなる」
雪は答えた。
「人になるだけさ」
('A`)「嬉しいか」
「それは君たちが決める事だよ」
雪はそう言うと白い息を、ふよりと漂わせた。
その息は天へと上り、新たな雪を降らせる。
世界は青白い冷気の世界へ導かれていく。それでもヒヤシンスの香りは消えることが無かった。
男の声を聞いて、雪の女王が顔を覗かせた。
「人になるのが怖いの?」
雪の女王は男に問う。
男はくぐもった声で一言、ああ。と言った。
すると女王は、
「雪になるのも怖いのにね」
と囁いた。
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- 304 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 00:26:11 ID:Ge1B3FHM0
- 次の日も雪は降り続いた。
しんしんと青白く染まる大地を見て、男は女と繋がっている手に少しだけ力を入れた。
ξ゚听)ξ「雪は春を待ち望んでいるの」
女は突然口を開いた。
しかし、男は視線を女に移すことは無い。
女は続ける。
ξ゚听)ξ「でも春は来ない」
男はゆっくりとしゃがみ、雪をすくった。
暖かな雪は、男の指先を次第に凍らせていく。
雪は不安そうにその様子を見ていた。
ξ゚听)ξ「食べるの?」
女は男に問う。
('A`)「俺だって本当は望んでいるのかも知れない」
ξ゚听)ξ「春を?」
('A`)「ああ」
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- 305 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 00:27:24 ID:Ge1B3FHM0
- 雪は言った。
「同じなんだね」
男は頭の雪を払う。周りの雪よりほんの少し青白い雪が、ほろほろと大地を染めた。
('A`)「嬉しいか?」
「それは君たちが決める事だよ」
男は雪の言葉を聞いて、笑った。
雪も男の笑顔を見て笑った。
世界を回って戻ってきた二つ目の風が、女の髪を揺らす。ヒヤシンスの香りはしなかった。
「食べなよ」
雪たちは口々にその言葉を発した。
大地はゆっくりと動き始める。青白い神秘が、音を立てて天に上る。
朝の光を浴びて、ジゼルが終わってゆく。
ξ゚听)ξ「守ってあげる」
女は男の手をいっそう強く握った。
男はその手に温もりを感じ、ついに持っていた雪を口に含んだ。
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- 306 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 00:28:26 ID:Ge1B3FHM0
- 男が雪を飲み込むと、雪の女王が天を覆い尽くした。
「春の祭典を始めましょう」
世界が崩壊する。
「ついに始まるんだ。春の祭典が」
崩壊する世界の中で、雪たちは次々に卵を産む。
('A`)「俺には決められない。君が決めてくれ」
卵は孵り、つがいの鮭は雪を求める。
ξ゚听)ξ「ええ」
男と女は崩壊する世界を、じっと見ている。
('A`)「悪いな」
つがいの鮭は、雪のいなくなった世界でこう思った。
ξ゚听)ξ「守るって言ったもの」
ああ、生まれる場所を間違えたのだ。
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- 307 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 00:29:18 ID:Ge1B3FHM0
- ('A`)「教えてほしい。決めた事を」
男は女を見つめた。
ξ゚听)ξ「分かったわ」
全てが溶け始めた世界で女は天を仰ぐ。
そして、誰にも見えない青白い冷気の中で女が口を開いた。
ξ゚听)ξ「雪は」
そして、この世界に 緑が生え て
ξ゚听)ξ「悲し」
その緑が
紫にかわり
ξ゚听)ξ「く」
ヒヤシンスの
うみが
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- 308 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 00:29:58 ID:Ge1B3FHM0
しだいに
かがみのだいちを
はるの いぶきへ
なにもうつさない
いぶき
へ
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- 310 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 00:31:09 ID:Ge1B3FHM0
- ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
鬱田ドクオは見知らぬ少女に声をかけた。
('A`)「火を分けてくれないか」
異国の少女はゆっくりと近づき、男の咥えているシガレットに自分のシガレットの火を移そうとする。
雪の降りしきる街路には、鬱田と少女の影しかない。
ζ(゚ー゚*ζ
少女が鬱田の顔に手を添える。
鬱田は間近に迫る異国の少女の顔に、今は亡き妻の姿を想った。
('A`)「随分とおめかしだな。どこへ行くんだい?」
ζ(゚ー゚*ζ「?」
異国の少女は聞いた事の無い言葉に首をかしげる。
その少女の少し困った顔を見て、鬱田はゆっくりと微笑んだ。
そして、鬱田のしけったシガレットに火が灯ることは無かった。
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- 312 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 00:32:16 ID:Ge1B3FHM0
ξ゚听)ξ「守ってあげる」
('A`)「ああ」
ξ゚听)ξ「だから」
ゆきはとけて かがみに なりました
ふたりのては もうつながって いません
ξ゚听)ξ「氷の彫刻を私に」
('A`)「分かってるさ」
そして、ゆきのかがみに うつっていた あのころのおんなを
おとこが みることも ありません
そこには ゆきののこりがと ひやしんすのにおいが ただよっていました
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- 313 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 00:34:05 ID:Ge1B3FHM0
最後まで、男の探し物が見つかる事は無かった。
雪を、食べる
―了―
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● 支援イラスト 同スレ>>610より
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