■2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです
└(゚、゚トソン 約束、のようです ( ゚д゚ )
- 952 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/22(木) 16:07:30 ID:HrDSAurg0
(゚、゚トソン 約束、のようです ( ゚д゚ )
- 953 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/22(木) 16:09:27 ID:HrDSAurg0
紅葉に色づいた山に囲まれた村。その囲いから外へと続く道の途中。そこに二人の人影が対面していた。
(゚、゚トソン「……行くんですか」
髪を後ろにまとめあげた女は問う。
対面する男は目を瞑り、ゆっくりと頷いた。
( -д- )「ああ」
しばし、沈黙が流れ、やがて男は続ける。それは何処か弁解するかの様な響を持っていた。
( -д- )「……無謀だとは、解っている。我侭だとも知っている。
だがな。俺はどうしてもこの目で世界を見たいんだ。どんな思いが、どんな人々が、この世界を動かしているのかを、見てみたいんだ」
再び沈黙が降りる。やがて、男は体を折り、頭を下げた。
- 954 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/22(木) 16:10:29 ID:HrDSAurg0
( -д- )「……すまないな、トソン」
トソンと呼ばれた女はゆるりと首を降振った。
(゚、゚トソン「いえ。解ってますよ。あなたは昔から一度やろうとした事を放り投げた事は無かった。だから、解ってます。大丈夫です」
トソンの言葉に男は目を開き、再度謝罪する。
( ゚д゚ )「本当に……すまない」
(゚、゚トソン「そう何度も謝る事はありませんよ。それよりも、これを」
- 955 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/22(木) 16:11:32 ID:HrDSAurg0
ずい、っとトソンは今までかかえていた冊子を男に差し出した。
( ゚д゚ )「……これは……?」
(゚、゚トソン「私が知っている手軽に出来る料理をまとめました。あなたは丸焼きしか作れないでしょう? これで少しは覚えるべきです」
( ゚д゚ )「……重ね重ね、すまないな」
男が差し出された冊子を取ろうと手を伸ばすと、トソンは、ひょい、と冊子を引っ込めた。
- 956 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/22(木) 16:15:40 ID:HrDSAurg0
-
( ゚д゚ )「……?」
訝しげに男はトソンを見る。トソンは冊子を胸に抱き、顔を伏せ、問った。
( 、トソン「……この冊子を受け取るなら、約束してください。絶対に、帰ってくるって」
男は目を開き、やがて、力強く頷く。
( ゚д゚ )「……ああ。約束する。絶対に、絶対に俺は、お前の所へ帰ってくる」
三度目の沈黙。秋風が山道を通り抜ける。木々が囁くようにさざめく中、トソンは呟いた。
( 、トソン「……約束、ですよ。破ったら、許しません」
すっ、とトソンは冊子を差し出す。男はそれをしっかり掴み、受け取った。
- 957 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/22(木) 16:17:35 ID:HrDSAurg0
( ゚д゚ )「……。それじゃあ。いってくる」
トソンにそう告げ、男は踵を返した。落ち葉を踏みしめ、歩き出す。
( 、 トソン
数歩進んだ所で不意に男は立ち止まった。懐を探って何かを引っ張りだし、トソンの方に振り向いた。
( ゚д゚ )「トソン!」
名を呼び、引っ張りだしたそれをトソンに放る。
(゚、゚;トソン「わっ」
放られたそれをトソンは慌てて両手で受けとめ、見る。それは木彫りの狐だった。
(゚、゚トソン「これは……?」
( ゚д゚ )「お守りだ。亡くなった母の物でな。お前にやる」
- 958 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/22(木) 16:18:47 ID:HrDSAurg0
(゚、゚トソン「……良いのですか? 形見、なのでしょう?」
トソンの問いに男は冊子を掲げた。
( ゚д゚ )「俺にはこれがあるから大丈夫だ。……貰う事に抵抗があるなら、預かってるって事にしといてくれ。俺がお前の所に帰る理由になる。……それじゃあ、な」
再び踵を返し、歩き出す。トソンはお守りをぎゅっと抱きしめ、その背中にそっと言葉を零した。
( 、トソン「……いって、らっしゃい」
男は振り向かず進み、やがて紅葉の赤に消えた。トソンはそれでもその場を動かず、
ぽたり、とその足元に雫が落ちた。
- 959 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/22(木) 16:21:21 ID:HrDSAurg0
――それから数十年の月日が廻る。
男とトソンの住んでいた村は時代の流れに埋もれ、住民達は追われるように山を降りた。
山を降りたトソンは両親と離れ、山の麓にある小さな町でひっそりと1人暮らしを始めた。
最初は村暮らしの習慣から抜けられず、苦労したが、今はだいぶ慣れ、なかなかに充実した日々を送っていた。
(゚、゚トソン「よっこいしょっ……と」
荷物を一つ、玄関から部屋に運ぶ。
最近重い物を持つのがめっきりしんどくなってきた。認めたくないものだが年のせいだろうか。
- 960 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/22(木) 16:25:01 ID:HrDSAurg0
再びため息を吐く、と同時にピンポーンとチャイムが鳴った。
いきなりの来客に首を傾げ、すぐ思い当たり、トソンは口を緩めた。
トソンが廊下に出ると同時に玄関のドアが開き、飛び出すように赤いランドセルを背負った少女が入ってきた。
(*゚∀゚)「今日も来たぜ、ばっちゃん!」
(゚、゚トソン「いらっしゃいつーちゃん。そしていつも言いますが、私はばっちゃんじゃありません。まだ若いです」
(*゚∀゚)「オレは40過ぎた人はかーちゃん以外は例外なくじっちゃんばっちゃんって呼ぶ。いちいち呼び分けるの面倒だからな!」
(゚、゚トソン「……もう慣れましたから強くは言いませんが……」
- 961 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/22(木) 16:27:30 ID:HrDSAurg0
はあ、とため息をついた後、トソンはつーに言う。
(゚、゚トソン「まあ、丁度良い所に来ました」
(*゚∀゚)「なんだよ?」
(゚、゚トソン「そこの荷物、運んで下さい」
(*゚A゚)「えー」
(゚、゚トソン「……勿論、ただとは言いません。手伝ってくれたら今しがた焼いたばかりのクッキーと、ホットミルクを差し上げましょう」
(*゚∀゚)+「本当か!?」
きらり、とつーの目が輝く。ええ、と、トソンは頷き、ダメ押しの一言を付け加える。
(゚、゚トソン「いっぱい焼いておきましたから、たっぷり食べれますよ?」
(*゚∀゚)「よっしゃあ、頑張るぜー!」
たたたっ、と荷物に駆け寄るつーを尻目に、トソンはもてなすため、キッチンに向かった。
- 962 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/22(木) 16:28:59 ID:HrDSAurg0
(*゚∀゚)「いや、やっぱりばっちゃんの作る菓子は旨いよなー」
荷物を運び終えたつーはクッキーを美味しそうに頬張りながら呟いた。
(゚、゚トソン「唯一の特技ですからね。磨きに磨きましたよ」
そう答え、トソンはお茶を啜る。
めいっぱい口に詰め込んだクッキーを咀嚼し、飲み込んでからつーは唐突に問うた。
(*゚∀゚)「そういやーよー。ばっちゃんってなんで結婚しなかったんだ?」
(゚、゚トソン「なんですかいきなり」
(*゚∀゚)「いや、だってばっちゃん、母ちゃんから越して来た時はしばらくは男共が騒ぐくらいの別嬪さんだったって聞いたぜー?
まあ、今も40歳過ぎとは思えないくらいキレイだけどさー」
- 963 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/22(木) 16:31:11 ID:HrDSAurg0
つーの言葉にトソンはしばし目を泳がせ、やがて観念したように言う。
(゚、゚トソン「幼馴染みが、居たんですよ。まっすぐで、一度決めた事は成し遂げるまで投げ出さない、不器用な性格な人」
つい、っと壁際の本棚を指さす。
(゚、゚トソン「そこにある狐の像はその幼馴染みがくれた物です」
(*゚∀゚)「へー。そうなのかー。……それで、ばっちゃんはその人が好きなんだ?」
(゚、゚トソン「……ええ。ですが彼とはもう何十年もあっていません。私がまだ村に住んでいた頃に村を出て、都会に行きました。
しばらくは手紙も届いたのですが、いつしか途絶えてしまいまして。今はもう何処に居て何をしているのか、皆目見当がつきません」
(*゚∀゚)「……ふーん。いつかまた会えると良いね。その人に」
(゚、゚トソン「……ええ。そうですね」
頷き、トソンはあの日の事を思い出す。
- 964 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/22(木) 16:33:43 ID:HrDSAurg0
あの時、私は秋風の吹くなか行く彼の背中を引き止めたい、と思った。行かないで、とも。けど、結局言えなかった。……もし、あの時、彼を引き止めていたら――。
そこでトソンは思考を止め、茶を啜った。
今更それを考えたところで仕方のない話だ。仮想(イフ)に想いを馳せた所で時は戻らない。
再び茶を啜るトソンと入れ違いに、ホットミルクを飲み干したつーが、部屋の隅に置いた、先程自分が運んだ荷物を指さした。
- 965 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/22(木) 16:34:28 ID:HrDSAurg0
(*゚∀゚)「それでさー。あの大荷物はなんなんだ?」
(゚、゚トソン「……ああ。あれは両親の差し入れですよ。最近はよく、旅行先の名物とかを届けてくれるんです。良かったらいくつかあげましょうか?」
(*゚∀゚)「んー。どーしよーかなー」
唸るつーに微笑み、ふと、トソンは昨日、電話越しにした父との会話を思い出した。
- 966 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/22(木) 16:35:31 ID:HrDSAurg0
/ ゚、。 /『明日は驚くぞ、娘よ』
【(゚、゚トソン「……いや、いきなり驚くぞ、と言われましても。というかそういう事言ったら意味無いと思いますが」
/ ゚、。 /『いや大丈夫さ。絶対に驚くからな。なんならわたしの秘蔵コレクションをかけても良い』
【(゚、゚トソン「……何ですか、いったい。まさか父さん、私の家に来るんですか?」
/ ゚、。 /『近いとも、遠いともいえるな。まあ、答え合わせは明日だ。楽しみにしているが良い。それでは、お休み』
(゚、゚トソン「? ……おやすみなさい」
- 967 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/22(木) 16:37:27 ID:HrDSAurg0
あれは一体なんだったんだろうと、手についたクッキーの粉をティッシュで拭いつつ、トソンは首を傾げる。
……もしかしたら、あの荷物の中にその、私が驚く物が入っているのかもしれない。
立ち上がり、荷物に近づく。ガムテープを剥がし、開けると、地方の菓子や名物の上にぽつんと封筒が載っていた。
(゚、゚トソン「……?」
首を傾げると同時に背後でつーが叫んだ。
(;゚∀゚)「やっべ、今日見たいアニメがあったんだった……! ばっちゃんごちそうさま! オレ帰るな! 地方の菓子の話はまた今度考えてみる!」
(゚、゚トソン「ええ、はい。気を付けて」
返事を返しつつ、封筒を取り、封を開ける。
- 968 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/22(木) 16:38:53 ID:HrDSAurg0
ばたばたとつーが廊下を走る音を聞きつつ、中に入っていた紙を出した。
『今、帰る』
手紙にはただ、その一文がぽつん、と書かれていた。
再度首を傾げようとし、その筆跡に見覚えがある事に気付く。
と、同時に玄関の開く音が聞こえ、少しして、疑問を孕んだつーの声が聞こえた。
「……人んちの家の前につったってどおしたんだ、おっちゃん?」
「……部屋を探していてな。お嬢ちゃん、知らないかな。トソン、って人の部屋なんだが」
(゚、゚トソン
懐かしい、声がした。
- 969 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/22(木) 16:41:12 ID:HrDSAurg0
手紙を放り出し、廊下へと駆ける。
「そうだけど。ばっちゃんに何かよーか?」
「……約束を、果たしに来たんだ」
壁にぶつかるように廊下へ出て、トソンは玄関を見た。
そこにはよれよれのスーツを着た男が佇んでいた。男はこちらへと歩いてくるトソンを見て、口をもごもごと動かす。
やがて、トソンが玄関にたどり着くと同時に、掠れた声で言った。
( ゚д゚ )「…………遅れてしまって、すまない」
- 970 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/22(木) 16:42:14 ID:HrDSAurg0
- トソンは顔を伏せ、言う。
( 、 トソン「……本当に。遅い、ですよ」
永い沈黙が降りる。やがて男はトソンは問う。
( 、 トソン「……約束、覚えてますか?」
その問いに、男は、ああ、と頷き、口ごもりつつも答えた。
- 971 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/22(木) 16:43:24 ID:HrDSAurg0
( ゚д゚ )「……ただいま」
( 、 トソン「……」
その言葉にトソンは笑みと共に応える。
(゚ー゚トソン「――おかえりなさい」
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