■2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです
└( ^ω^)時計の国とラノベ祭のようです
└その4
└サムネ有り サムネ無し
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179 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 16:30:39 ID:TW803YTwO
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今日もお客様は1人も来てくれません。
('、`*川「もっと美味しいお茶を入れないと」
故郷の国から持ってきたお茶とお菓子は、まだまだたくさんあります。
入れ方や組み合わせを工夫して、一番美味しく感じられるように頑張りました。
それでもやっぱり、ひとりぼっちの日々。
どうして誰も来てくれないのでしょう。
美術館を開いたばかりのときは、あんなにたくさん来てくれたのに。
お茶を入れたカップも、お菓子を乗せたお皿も、みんなすっかり空にしてくれたのに。
ついに魔法使いは、ぽろぽろと泣き出してしまいました。
(;、;*川
さみしいよう、さみしいよう。
魔法使いの声が美術館の中に響いて、淡く溶けていきました。
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180 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 16:31:45 ID:TW803YTwO
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ξ゚⊿゚)ξ「祭は続行するみたいね」
( ^ω^)「『せざるを得ない』と言うべきか」
ブーンとツンは顔を突き合わせ、一枚の紙を見下ろしていた。
右上に「号外」と記されたその紙には、昨夜の事件と現状について説明が為されている。
号外いわく。
昨夜の出来事は、十中八九、魔法が関わっている。
怪我人・行方不明者はゼロ。
そして国王や警備部隊のもとに、何者かから手紙が届いていたというのだ。
「このまま祭を続けなければ、恐ろしいことになる」──と。
ξ゚⊿゚)ξ「脅迫よね」
( ^ω^)「要求が祭の続行っていうのは、何とも奇妙だけど」
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181 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 16:32:35 ID:TW803YTwO
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号外には続きがある。
どうも、ソウサク国の外に出ることができないらしいのだ。
ちょうど国境の辺りから、まるで見えない壁があるかのように、
出入りが不可能になっている。とか。
脅迫文はそこにも触れ、
祭をきちんと完遂すれば、その壁も消してやる──と告げているらしい。
とにかく、祭を続けるという決定は覆りそうにない。
こんな状態で楽しめる者がいるかどうかは別にして。
ξ゚⊿゚)ξ「本当、参ったもんだわ……」
真剣な表情で、ツンは号外を見つめる。
ブーンはそんなツンをじっと見つめた。
ふと視線が絡み、ツンの頬にうっすら赤みが差す。
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182 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 16:34:09 ID:TW803YTwO
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ξ*゚⊿゚)ξ「な、何よ」
( ^ω^)「ツンは肌が白くて、髪もきらきらして、目が大きくて、唇が赤くて、可愛くて綺麗だお」
ξ;///)ξ「かっ、顔がっ、近、」
( ^ω^)「ツン……」
ブーンがツンの肩を抱き寄せた。
2人の顔がぴったりくっつくまで、あと少し。
──というところで、ひょいと後ろから抱え上げられた。
/ ゚、。 /「さ、お昼ご飯の時間ですよ」
( ^ω^)「あー、もうちょっとだったのに」
ξ;*゚⊿゚)ξ「だっ、ダイオードさん」
2人を抱えたのは、背の高い女性だった。
彼女の名はダイオード。
数年前にニューソク国からソウサクに移住し、ここ「ソウサク第5保育園」で働くようになった保育士である。
保育園。そう。保育園。
今、ブーンとツンは、保育園にいた。
何故なら2人共、今日は5、6歳の幼児の姿になってしまったから。
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183 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 16:35:04 ID:TW803YTwO
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/ ゚、。 /「ツンさんは脱走の常習犯ですからね。
私がちゃんと見張っててあげます」
( ^ω^)「やーい」
ξ;゚⊿゚)ξ「だ、だってお仕事とかあるし……」
──反時計症を発症した者で、独り暮らしをしていたり独身だったりする人間は、
体の一部に小さなチップを埋め込まれる。(強制ではないが)
そのチップは、誰が今どこに居るか、という情報を「反時計症対策所」に送る役割を持つ。
ただしそれは非常時の際に発信されるだけであって、
プライバシー保護のため、普段は何の信号も送っていない。
ではその「非常時」とはいつか。
簡単な話だ。
反時計症により、その者が平均的な6歳程度、あるいはそれ以下の体躯になってしまったときである。
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184 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 16:36:41 ID:TW803YTwO
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/ ゚、。 /「子供の仕事は、ご飯を食べて、遊んで、寝ることです」
ξ;゚⊿゚)ξ「いや、私は25歳だし……」
/ ゚、。 /「今は子供でしょう」
たとえ本人が20代だろうと30代だろうと、体が幼児になってしまえば、
出来ないことや身の回りの危機は増える。
だから、反時計症患者が6歳以下の姿になった際には、チップが対策所に信号を送る。
対策所から保育園に連絡が行き、保育士達は患者を保護して、施設で一日面倒を見るのだ。
ブーンとツンも、あの奇妙な夜が明けてから一時間後には保護されてしまった。
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185 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 16:37:16 ID:TW803YTwO
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(;・∀・)「ねえ、もうご飯の時間だからさ、園の中に戻ってよ」
ミセ*゚ー゚)リ「駄目! まだモララー君の絵を描き終わってないの! 動くな!
助手、モララー君を押さえろ!」
(゚、゚トソン「分かりました先生」
(;・∀・)「行ーけーよー! 俺が怒られるんだってば!」
ミセ*゚ -゚)リ「やだねえ、芸術に理解がない人って。食事より絵を優先させたい気持ちが分からないんだから」
(゚、゚トソン「ですね」
(*^ω^)「おっおっ、ミセリとトソンがいるお。彼女らも小さいと本当に可愛らしい」
ダイオードに抱えられながら、ブーンは園庭を見渡した。
他の保育士や反時計症患者が、ばたばたと動き回っている。
ブーンは保育園が嫌いではない。
心置きなく幼女が見られるから。
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186 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 16:38:20 ID:TW803YTwO
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_
( ゚∀゚)「よう、ブーンにツン」
( ^ω^)「あ、ジョルジュ」
昨日も会った知り合いが、ブーン達の前を駆けていった。
ジョルジュも今日は幼児になってしまったらしい。
彼の後を、保育士のエプロンをつけた女が追いかけていく。
o川#゚ー゚)o「こらー! 待てこのスケベ!」
_
( ゚∀゚)「子供がおっぱい触ったぐらいで怒んなよな!」
o川#゚ー゚)o「中身は20代じゃろがい!!」
ξ゚⊿゚)ξ「キュートはいつも元気ねえ」
( ^ω^)「あの人、クーの妹さんだっけ」
/ ゚、。 /「ジョルジュが保育園に来ると、あの2人、毎回追いかけっこしてますよ」
ダイオードは口を閉じ、彼らを眺めた。
それがやけに憂いのある目付きで、ブーンは首を傾げる。
ふと、ダイオードが視線を下ろした。
つられてブーンとツンがそちらを見ると、少女がダイオードに手を伸ばしていた。
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187 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 16:39:48 ID:TW803YTwO
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lw´‐ _‐ノv「ダイ先生、私も抱っこして……」
ξ゚⊿゚)ξ「あら、シューさんじゃないの」
(*^ω^)「シュール! やあやあやあ、今日は素敵な子がたくさんいるじゃあないか!」
どこかぼんやりした顔つきの彼女は、シュール。
先程の保育士──キュートがクールの妹なら、このシュールはクールの姉だ。
ブーン達より1つか2つ歳上で、デレと同じ頃だった筈。
/ ゚、。 /「抱っこですか」
lw´‐ _‐ノv「背の高いダイ先生に肩車してみてほしい……」
/ ゚、。 /「ご飯を食べて、お昼寝して、起きたらしてあげますよ」
(*^ω^)「シュール、僕とお昼寝しよう!
君は普段から寝ているような顔をしているから、本当の寝顔が気になるお」
lw´‐ _‐ノv「ダイ先生、ブーンがセクハラする……」
( ^ω^)「まだ何もしてないじゃないかお」
ξ゚⊿゚)ξ「『まだ』って何よ」
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188 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 16:42:38 ID:TW803YTwO
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/ ゚、。 /「さ、皆さんご飯ご飯」
ξ;゚⊿゚)ξ「だから仕事がー!」
( ^ω^)「ツン、君みたいなのをワーカホリックと言うんだお。
これだけ小さくなってしまった今、どうせ僕らは大した役に立たないんだから
おとなしく休んでる方が得になるお?」
ξ;>⊿<)ξ「やーだー!」
/ ゚、。;/「遊び疲れればお腹空きますかね……ほら、可愛いぬいぐるみですよー」
ξ*゚⊿゚)ξっ(・(エ)・)「わーいクマちゃんだー」
(*^ω^)っ▼・ェ・▼「わんちゃん可愛いおー」
/ `、、*/ ホノボノ
⊂ξ#゚⊿゚)ξ「ってなるかー!!」
/ ノ∪
し-J |l| |
人ペシッ!!
(・(エ)・)▼・ェ・▼
(;^ω^)「わんちゃんクマちゃーん!!」
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189 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 16:44:19 ID:TW803YTwO
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ξ#゚⊿゚)ξ「中身25だっつってんだろうが!!」
/ ゚、。;/「す、すみません、どうしても見た目のイメージが……」オロオロ
((( lw´*‐ _‐ノvっ(・(エ)・)▼・ェ・▼「おお可哀想なクマと犬は私がもらっていこう。動物可愛い可愛い」
ξ#゚⊿゚)ξ「ブーン行くわよ!」
( ^ω^)「もう、何でそんなに一生懸命……」
ξ゚⊿゚)ξ「だって働けば働いた分だけお金もらえるのよ」
( ^ω^)「君は仕事とお金、どっちが好きなんだお」
ξ゚⊿゚)ξ「圧倒的にお金」
( ^ω^)「僕が言うのも何だけど、この国は真人間が少ないおねえ」
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190 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 16:45:24 ID:TW803YTwO
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川 ゚ -゚)「──とりあえずたくさん撮っておけ。
幼女の写真を用意しておけば、ブーンが仕事の手伝いを嫌がっても
言うことを聞かせることが出来る」
(*'∀`)「クー様の頼みとあらば!」
保育園の門に、カメラを構えた男女が張りついていた。
クールとドクオ。
反時計症患者が園に保護されても、成人の血縁者や知り合いが引き取りに来れば、
帰してもらえる決まりになっている。
なので彼らもブーンとツンを引き取りに来たのだが、
「今の内に幼女を撮り溜めておこう」というクールの発案により、現状と相成った。
川*゚ -゚)「……お、あそこに綺麗な保母さんが……」
ζ(゚ー゚;ζ「……お祭始まるから、早く2人を連れていこうよう」
一歩下がったところで立ち尽くしていたデレは、聞こえていないであろう声をかけ、溜め息をついた。
塀に寄り掛かる。
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191 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 16:47:14 ID:TW803YTwO
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ポケットから折り畳まれた紙を引っ張り出し、広げる。
ζ(゚、゚*ζ(何なんだろ)
──ドクオが時計塔の針を動かした際、歯車の間から取り出したという紙。
それには、絵が描かれていた。
左上から右下に向かって、区切るように直線が引かれている。
線から右側には森らしき風景が描かれていて、不自然に白くなっている部分があった。
人の形にくり抜かれたような。
左側には男が描かれてある。
笑顔で手を振る男。どことなくブーンに似ている。
どうしてこの絵が歯車に巻き込まれていたのだろう。
首を傾げ、デレは紙をポケットへ戻した。
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192 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 16:48:38 ID:TW803YTwO
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从 ゚∀从「──あれ皆、反時計症の人なんだな?
見たところ、3歳から6歳くらいまでか。赤ん坊はいないのか?」
保育園の職員室。
前髪で片目を隠した女が、窓辺から園庭を眺めている。
女──ハインリッヒは、後ろに立つ男に振り返った。
(`・ω・´)「ええ。赤ん坊の姿には、滅多にならないようです。
ごく稀に、なることはあるそうですが……」
从 ゚∀从「なるほど。大抵は、自力で自由に行動出来る程度の年齢に留まってるのか」
ハインリッヒは男に微笑み、再び園庭に向き直った。
男はシャキンといって、この保育園の園長をやっているそうだ。
从 ゚∀从(子供……。……反時計症を題材にしたゲームはまだまだ少ない。
やっぱ狙い目か。RPGがいいかね)
ハインリッヒはヴィップ国有数のゲーム会社、ユトリ社の社員である。
彼女はゲームが好きだ。
だから、ゲーム開発への熱意も強い。
今回はラノベ祭がソウサクで開かれるということで、
次回作の着想のために、反時計症について調べるつもりで来ていた。
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193 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 16:49:20 ID:TW803YTwO
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从*゚∀从(しっかし、昨日の事件……スリリングで良かったな。
……ああ、何か、こう、インスピレーションが)
川 ゚ 々゚)「ん」
从 ゚∀从「ん?」
川 ゚ 々゚)「あげる」
不意に、窓の外から声をかけられた。
見れば、少女がハインリッヒに赤い花を差し出している。
从 ゚∀从「おう、ありがとうな」
川*゚ 々゚)「んー」
少女はぱたぱたと駆けていき、花壇から赤い花を千切ると、今度は近くにいた保育士に手渡していた。
何だか可愛らしくて、ハインリッヒの頬が緩む。
しかし、はたと首を傾げた。
子供っぽい振る舞いに和んでしまったが、考えてみれば、今の少女だって反時計症患者なわけで。
実際の年齢はもっと上であろう。
下手をすればハインリッヒより歳上なのかもしれないのだ。
すっかり子供扱いしてしまった自分に、ハインリッヒは苦笑した。
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194 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 16:50:05 ID:TW803YTwO
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(;`・ω・´)「あ、今の方は……」
从 ゚∀从「ん?」
(;`・ω・´)「ああ、いえ、何でもありません」
口ごもるシャキンにハインリッヒは怪訝な目をしたが、外から聞こえた音に、はっと顔を上げた。
空に小さな飛行船が飛び、花火が弾ける。
時計塔の針は12時を示し、昼を知らせる鐘の音が響いていた。
本来よりも2時間ほど遅れてしまったが、ラノベ祭の2日目が始まった。
# # #
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195 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 16:51:59 ID:TW803YTwO
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(;´∀`)「お嬢様! お嬢様ー!?」
──ソウサク国、王家の屋敷。
やたらと広い廊下を歩く、小さな小さな少年がいた。
モナー。国王の娘──くるうの世話役である。
例によって反時計症のせいで小さくなっているが、実際は30を越えている。
(;´∀`)「ったく……病み上がりの身で、一体どこに──」
|゚ノ ^∀^)「お嬢様なら第5保育園ですよー」
(;´∀`)「……レモナ」
後ろから掛かった声に振り返り、モナーは息をついた。
にっこりと笑う女性が1人。
レモナという名の彼女は、モナーと同じく、くるうの世話を任された使用人だ。
何故だか真っ赤な林檎を嬉しそうに撫でている。
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196 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 16:52:47 ID:TW803YTwO
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(;´∀`)「またお前が保育園に連れてったモナ? ……その林檎はどこから」
|゚ノ ^∀^)「お嬢様が行きたいって言うから保育園にお連れしたら、ご褒美として林檎をくれましたの。
赤いもの好きですよねえ、お嬢様」
(;´∀`)「昨夜のことを忘れたモナ!? この状況で外に行かせる馬鹿がどこに居るモナ!」
|゚ノ ^∀^)「でもねえ……ミセリ先生が第5保育園にいるって知った途端、
自分も行くって大騒ぎするんですもの。
赤いもの以上にミセリ先生が好きですよね」
モナーは額を押さえ、嘆くように天を仰いだ。
しばしその体勢で固まっていたが、やがて、溜め息を吐き出しながら顔を下ろす。
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197 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 16:53:42 ID:TW803YTwO
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( ´∀`)「お嬢様に何かあったらどうするモナ」
|゚ノ ^∀^)「どうしようかしら?」
小首を傾げるレモナ。
──決して、くるうに対する忠誠心だとか、敬意がないわけではない。
寧ろ彼女の持つ愛情は深い。
くるうが赤ん坊の頃から見てきたということもあり、それは、ほとんど母性愛に近い。
故に──どこか、放任めいたところがある。
子の自主性を尊重したがる親のような。
|゚ノ ^∀^)「まあ、大丈夫ですよ」
(;´∀`)「わ」
レモナがモナーを抱え上げる。
今のモナーの小ささでは、レモナの腕にすっぽり収まってしまう。
|゚ノ ^∀^)「いざとなったら、私とモナー君で何とか出来るでしょう?」
慈愛を湛えた笑みは、まるで女神。──は、言い過ぎか。
ともかく微笑を浮かべ、彼女は右手の林檎を齧った。
# # #
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198 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 16:55:06 ID:TW803YTwO
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( <●><●>)「ゆっくり休んでるんですよ」
(*‘ω‘ *)「でも、お祭り参加したいっぽ」
( <●><●>)「駄目です。あんな人込みの中を歩き回るなんて、危険すぎます」
ある家のリビングで、男女が向かい合っていた。
男の方は、ソウサク国ラノベ祭における警備指揮責任者、ワカッテマス。
女は、ワカッテマスの幼馴染みのちんぽっぽ。
彼女の腹は、緩やかに膨らんでいる。
( <●><●>)「あなたは、お腹の子と一緒に祭の声と雰囲気を味わっていてください。
画家の描いた素敵な絵も、窓からなら楽しめるでしょう」
(*‘ω‘ *)「ワカの生真面目」
ちんぽっぽが口を尖らせる。
ワカッテマスが小さく溜め息を吐き出したところへ、別の声が飛んできた。
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199 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 16:55:49 ID:TW803YTwO
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(*><)「ぽぽちゃん! 指輪見付けてきたんです!」
(#<●><●>)「ビロード!」
(;><)「うひゃあ!!」
(#<●><●>)「そもそも! あなたが! ぽぽちゃんをしっかり見ていないといけないんですよ!!
それを昨日は、2人して会場を回っていたなんて──
ぽぽちゃんの体に何かあったらどうするつもりだったんです!」
(;><)「あ、あうあう、だってぽぽちゃんが屋台見たいって……
それに我慢するのはぽぽちゃんにも子供にも悪いかなって思って、僕、」
(#<●><●>)「昨日の騒ぎを思い出してください。
とんでもない数の人間がパニックになったんでしょう。
ぽぽちゃんが人波に巻き込まれたら、どんな恐ろしいことになるか……」
(;><)「……ごめんなさいなんです……。
……あっ、あっ、そうだ、ぽぽちゃん、指輪!」
もう1人の幼馴染み、ビロード。
詰め寄るワカッテマスから逃れ、彼はちんぽっぽへ駆け寄った。
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200 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 16:56:31 ID:TW803YTwO
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(*><)「はい! 広場に落ちてたのを、ショボン君が見付けてくれたんです」
(*‘ω‘ *)「ありがとうっぽ。……大事な指輪なのに、落としてごめんっぽ」
(*><)「いいんですよ」
ビロードは、きらきらと輝く指輪を彼女の左手の薬指に嵌めてやった。
2人が微笑み合う。
そしてもう片方の手を取ると、ビロードが口を開いた。
(*><)「窓辺の椅子に座りましょう。
今日は、ここからミセリ先生の朝焼けの絵が見られるんですよ」
(*‘ω‘ *)「分かったっぽ!」
歩きながら、ちんぽっぽはワカッテマスへ振り返った。
(*‘ω‘ *)「ワカも、心配してくれてありがとうっぽ」
( <●><●>)「……心配というほどのものではありません。当たり前の注意をしているだけです」
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201 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 16:57:41 ID:TW803YTwO
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(*‘ω‘ *)「2人共優しくて大好きだっぽ。
──お腹の子、双子らしいっぽ。
ビロードとワカみたいに優しく育ったらいいなあ……」
お腹を撫で、ちんぽっぽは幸せそうに笑う。
その言葉に、ビロードもはにかんでいた。
ワカッテマスの顔や体が、妙にむずむずする。嫌な感覚ではないが、何となく気恥ずかしい。
( <●><●>)「……今日はちゃんとおとなしくしててくださいよ。
お邪魔しましたね」
ビロードとちんぽっぽの愛の巣とも言える家を出る。
もう、祭が始まる。
警備員の集合時間は過ぎていた。時計塔に急がなければ。
足を早めながら、ワカッテマスは、ビロード達の顔を思い浮かべた。
最近の彼らは、とても幸せそうだ。
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202 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 16:58:33 ID:TW803YTwO
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( <●><●>)(……昔からは想像もつきませんね)
過去の記憶が脳裏を過ぎる。
──彼ら3人は、幼少の頃、孤児院で出会った。
それぞれの理由により両親は存在していなかった。
施設の環境は悪辣極まりない。
国の調査団体がやって来るまでの日々は、あまりに酷く。
『お前は──だから、──、──ね……──』
『ビロー……──、耳──、──つぶして──』
『やかましい口は──、……──……一生──』
(;<●><●>)「、」
頭が痛む。
過去のことを思い出すと、未だに胸が苦しくなる。
足を止めて深呼吸をし、再び歩き出した。
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203 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 16:58:59 ID:TW803YTwO
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──ビロード達は、幸せにならなければいけない。
子供のときに辛い思いをした分、目一杯。
ワカッテマスはその大きな瞳で、時計塔を見つめた。
# # #
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204 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 17:00:13 ID:TW803YTwO
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(,,゚Д゚)「よう、昨日の『ヒーロー』様」
時計塔、内部。
ギコがドクオの肩を叩くと、他の警備員達もドクオに向けて拍手した。
ドクオのおかげで「夜」が明けたのだということは、大々的には知らされていないが
警備の関係者の間では充分に広まっていた。
(*'∀`)「ヒーローなんてそんな……」
( ^ω^)「一躍救世主だお、ドクオ」
('A`)「うるせえおまえ大人の姿に戻ったら覚えてろよ」
昨夜、囮として蹴飛ばしたのをまだ根に持たれているらしい。
ブーンはドクオから顔を逸らし、幼児向けのネクタイを締め、
通信機であるタイピンを留めた。
保育園でゆっくり昼寝するのも良かった(というか、そうしたかった)が、
仕事のためにと迎えに来られてしまっては仕方がない。
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205 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 17:01:16 ID:TW803YTwO
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( <●><●>)「ドクオさん」
( ^ω^)「お」
('A`)「はい──あ、昨日はすんませんでした」
責任者、ワカッテマスに呼びかけられ、ブーンとドクオは彼のもとへ近付いた。
ブーンがツンから聞いたことには、彼の命令を無視する形で時計を動かしたのだとか。
ならば怒っているのではないかと思ったが、それらしい表情は浮かべていなかった。
監視モニターに繋がれていたヘッドホンを弄びつつ、彼は首を振る。
( <●><●>)「いえ、結果的に何とかなりましたし──私も感謝はしています」
('A`)「ならいいんですけど」
( <●><●>)「ですが、機械室で見付けたもの等については、あまり触れ回らないでくださいね。
下手に情報が流れて、皆を混乱させてしまっては危険です。
……『絵』が関わっていただなんて、今回の祭の性質上、どんな見方をされてしまうか分かりません」
ドクオの腕を掴み、ワカッテマスが声を潜める。
語調がキツい。気圧された様子で、ドクオが頷いた。
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206 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 17:02:55 ID:TW803YTwO
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時計塔の歯車に挟まっていたという、一枚の絵。
それが時計の針の動きを妨害していた──と、ブーンはドクオから聞いた。
今回の祭のテーマは「絵」。
それが昨夜の変事に関わっていたなどと世間に知られては、いらぬ勘繰りをされてしまいかねない。
('A`)「俺の身内には話しちまったが、他には言ってません。夜明けの直後はばたばたしてたんで」
( ^ω^)「知ってるのは、僕とツン、クーとデレだけですお。
みんな口は堅い方なのでご心配なく」
( <●><●>)「それならいいのですが。
その絵は今どこにありますか? 王家の警備隊に渡さなければいけません」
('A`)「今は──デレかツンが持ってるかと」
( <●><●>)「そうですか……後で声をかけておきましょう。
──では、昨日以上に警戒して、警備をお願いしますね」
('A`)「うぃっす」
( ^ω^)「頑張りますおー」
ワカッテマスが去っていく。
2人は顔を見合わせ、時計塔を後にすると、持ち場へ向かった。
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207 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 17:04:56 ID:TW803YTwO
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( ^ω^)「あの絵に描いてあった男の人、僕に似てたお」
南の通りを歩きながら、ブーンは言った。
ドクオが入手した『絵』の話だ。
('A`)「だな」
( ^ω^)「僕に似たイケメンで」
('A`)「もっとだらしなく間抜けっぽくしたら、まあ、お前だな」
(#^ω^)「どういう意味だお」
ドクオの足を叩く。
が、大人のドクオに対して、幼児のブーンではダメージなど碌に与えられない。
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208 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 17:06:31 ID:TW803YTwO
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( ^ω^)「……ともかく。あの絵が一体どういう意味を持ってるのか、気になってしょうがないお」
('A`)「俺にゃさっぱり分からんな……──っとと、危ねえな」
少年が父親らしき男の手を引っ張って、ブーン達のすぐ傍を駆けていった。
危うくぶつかりかける。
あんなことがあった翌日でも、祭に参加する人の数はとても多い。
( ^ω^)「今日も盛況だおー。
昨日の今日だから、もっと静かになるかと思ってたけど」
('A`)「祭は開かなきゃならねえみてえだし……どうせやるなら楽しまなきゃ損ってことだろ。
自棄になってるのもあるかもな」
( ^ω^)「まあ、他国の人は、自国に帰るにも帰れないようだしね。
──そういや宿泊施設はどこも満室らしいけど、寝るところの見付からない人はどうなるかお」
('A`)「今、学校だとか飲食店だとかに布団だのテントだのが運ばれてるらしい。
他にも、少人数なら自宅で受け入れるっていう一般人がいたり、アパートの空き部屋を提供したり……
助け合いってのは素晴らしいもんだ」
(*^ω^)「じゃ、じゃあ僕の家に幼女を招き入れて……!!」
('A`)「勿論そういうのを防ぐために警備が一層厳しくなるんだがな」
( ´ω`)
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209 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 17:08:36 ID:TW803YTwO
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('A`)「しっかし子供が多いな……──ああ、あれか」
幾人もの子供が、一ヶ所へ走っていく。
その方向を見て、ブーンもドクオも納得した。
昨日もここが特に賑わっていたのだ。
ゲーム会社、ユトリ社のブース。
昨日紹介していたのとは違うゲームが展示されているらしい。
例によって、2人は好奇心からブースへ近付いた。
从 ゚∀从「──今回のホラーゲームは一味違う!
プレイヤーは『怖がる側』と『怖がらせる側』を選ぶことが出来る!」
幾分か高いステージの上で、白衣の女性──ハインリッヒという名札が胸にある──が
マイク越しに熱く弁をふるっている。
その隣には背の高い男。
男には見覚えがあったが、見知っている姿とは異なっていて、ブーンもドクオも僅かに困惑した。
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210 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 17:11:36 ID:TW803YTwO
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从 ゚∀从「怖がる側は『探検者』、怖がらせる側は『モンスター』となり、仮想世界の中に入り込みます。
森、屋敷、廃屋、塔、廃校などなど広大なステージを選び放題!」
彼女が高々と掲げた右手には、二つ折りの赤い機械が握られていた。
手のひらに収まるサイズ。
その機械が開かれる。
上部に画面があり、下部にはいくつかのボタンが付いていた。
( ^ω^)「ありゃ何だお」
('A`)「ガラケーに似てるが……」
( ^ω^)「がらけえ?」
('A`)「昔の携帯電話だ。つっても、ニューソクではまだ結構一般的らしいんだけどな。
あれはガラケーをモチーフにして作ったゲーム機だろう」
从*゚∀从「モンスターはステージの各地に身を隠し、やって来る探検者を驚かしつつノルマをこなす!
探検者はモンスターから逃げつつステージごとのクリア条件を目指す!
とにもかくにも自由度の高さは歴代最高、ゲームを通じて他者とのコミュニケーションも取り放題!
あ、もちろんオフラインでの1人プレイも可能ですよ」
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211 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 17:13:29 ID:TW803YTwO
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从*゚∀从「そしてオマケとして、ホログラム機能で自分がデザインした『モンスター』になりきることも!
──例えばこんな、マッドなサイエンティストに造られた怪物のように!」
( ゚_ゝ`)「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
(;'A`)「……兄者だよな?」
( ^ω^)「兄者だお」
先程から気になっていた、ハインリッヒの隣に立つ男。
同じく白衣を纏い、ガスマスクや何かしらのプラグを身につけているが──
どう見ても、流石一座の長男、兄者だった。
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212 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 17:14:30 ID:TW803YTwO
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( ゚_ゝ`)「悪い子はいねがー!!!」
ステージを飛び降り、近くにいた子供へと迫る。
子供はきゃあきゃあ笑って、兄者の手をぺたぺたと叩いた。
(;゚_ゝ`)「あ、あれー、何で笑う!? ガオー!!」
いくら凄んでも子供は笑っている。
すっかり困り果てた様子の兄者に、周囲からも笑いが起こった。
ステージ上でハインリッヒも吹き出している。
やがて自棄になったらしい兄者が手当たり次第に子供達を追い回し始め、
ちょっとした鬼ごっこが繰り広げられることとなった。
平和だ。
不意に兄者とブーンの目が合った。
新たな獲物と見たか、兄者が走り寄ってくる。
( ゚_ゝ`)「ウガー……──って何だ、ブーンじゃないか」
( ^ω^)「久しぶりだお」
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213 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 17:17:20 ID:TW803YTwO
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('A`)「お前、最終日の公演に向けて準備とかしなきゃいけないんじゃないのか?」
( ゚_ゝ`)「今は休憩時間でな。ぶらついてたらデモプレイに誘われた。
お前らは警備係だっけか、頑張れよ」
( ^ω^)「兄者も頑張ってお」
( ゚_ゝ`)「おう、楽しみにしてろ。
しかし何だな、お前ら、その年齢で並ぶと親子みたいだな」
(;'A`)「んぐ……っ!! 唐突なダメージ……!!」
けらけら笑って、兄者がまた別の子供を追い掛け始める。
程々にしとけよ、と声をかけ、ブーンとドクオはその場を離れた。
# # #
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214 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 17:18:31 ID:TW803YTwO
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(゚A゚# )「何をサボっとんねん!」
(;^ν^)「──ってえ!!」
──東通り、とある屋台。
地べたに座り込んでいたニュッの頭に、小さな踵が落とされた。
頭を押さえ、涙目で相手を睨む。
(゚A゚* )「お? 何や、その目は。
反抗するんならもう知らん。祭が終わるまで外で寝てればええ」
(;^ν^)「や、あの、……、……すんません」
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215 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 17:21:04 ID:TW803YTwO
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<ヽ`∀´>「ニュッ君、少なくとも6日間はこの国から出られないニダ……。
とにかく言うことを聞いておくニダ」
エラの張った男が、こっそりとニュッに耳打ちする。
ニダー。──「誘拐計画」の仲間の1人。
他の仲間(とは言っても、ニュッとニダーの他には1人しかいないが)とも夜明けに合流した。
今回は諦めて帰ろう──という流れになったのだが、
あの見えない壁とやらのせいで、それも叶わず。
早まってホテルの予約を取り消してしまったため、部屋を別の客にとられ、
さあどうしようと困っているところで、この屋台の店主に声をかけられた。
「店を手伝ってくれれば寝床くらいは提供してやる」との案を、ニュッとニダーは受け入れた。
屋根のあるところで寝られるのと、そうでないのとは大違いだ。
もう1人の仲間はそれを断り、自分で寝床を探しに行ったけれど。
<ヽ`∀´>「シナーはどこ行ったニカ……」
( ^ν^)「さあ」
その仲間の名を口にし、ニダーが溜め息をつく。
ニュッも携帯電話で何度か連絡をとろうとしたのだが、無視されてしまっている。
必要以上の連絡はするな、と言われていたので、それもやむなしか。
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216 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 17:22:35 ID:TW803YTwO
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(゚A゚* )「2人揃ってサボんな!」
<;ヽ`∀´>「は、はいはーい! ちょっとお待ちをー!」
店主の怒声にびくりと肩を跳ねさせ、ニダーが慌てて返事をする。
恐縮する素振りは一瞬で、すぐに悪どい笑みを浮かべた。
<ヽ`∀´>「……運がいいことに、あの女も『反時計』ニダ。
今はいい顔して油断させておいて、祭が終わる頃合いに拐っちまえばいいニダ」
( ^ν^)「……おう」
(゚A゚* )「何をこそこそ話しとん」
<;ヽ`∀´>「なっ、何でもないニダ! 何でも!」
──店主は、どこからどう見ても10歳前後の少女だった。
子供が店をやっているのか、と訊ねたところ、
反時計症なのだという答えがあった。
寝る場所を得られる上、獲物を近くで狙える。
一石二鳥だった。
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217 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 17:24:02 ID:TW803YTwO
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<ヽ`∀´>「今の内にウリ達をこき使って調子に乗ってればいいニダ……。
6日後に100倍返しにしてやるニダ! ホルホルホル!!」
(゚A゚# )「だから! はよ! せえ! ボケが!!」
<;ヽ`∀´>「あひいっごめんなさいごめんなさいごめんなさいニダー!!」
立ち上がり、蒸し器の様子を見ながらニュッは小さく舌打ちした。
こっそり携帯電話のデータフォルダを開く。
[川 ゚ -゚)ζ(゚ー゚*ζ]
夜が明けた際、騒ぎに紛れて撮影した写真。
反時計症の女2人。
「クール」と「デレ」。
ニダーはここの店主に狙いを定めたようだ。
ならばニュッは、この2人──の、どちらかだけでも拐わなければ。
1人も捕まえられませんでした、では、シナーから何を言われるか。
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218 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 17:25:31 ID:TW803YTwO
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( ^ν^)(どうしたもんか……)
ζ(゚ー゚*ζ「あ、あれ美味しそう! 見た目も可愛い」
川 ゚ -゚)「本当だ可愛い。食べちゃいたいな。な。美味そうだ。食べちゃいたいくらい可愛いな」
ζ(゚ー゚*ζ「何で私を見ながら言うの……」
川 ゚ -゚)「な、ツン」
ξ゚⊿゚)ξ「こっちに振らないでくれる?」
( ^ν^)(マジでどうすりゃいいの)
本当にどうしよう。
警備員だか何だか知らないが、先程から「獲物」が店の前を行ったり来たりしている。
これはこれで、ちょっと、緊張感というかモチベーションがブレて困る。
# # #
-
219 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 17:27:16 ID:TW803YTwO
-
( `ハ´)
ニュッからの着信があるのを確認し、シナーは携帯電話をポケットにしまった。
マナーモードにしていたので気付かなかった。
まあ大事な用ならまた掛けてくるだろう。
がさり、左手に提げた袋が揺れた。
屋台で購入した食べ物がいくつか入っている。
辺りを見渡す。
静かだ。祭の喧騒は遠い。
会場から少ししか離れていないのに、別世界のように静かで、人気もない。
古臭い廃屋が点在している。
( `ハ´)(ここら辺でいいアル)
丁度いい。
祭会場からあまり離れずに済むし、人の目もない。
1人でゆっくり寝るには充分だ。
路地を進んでいくと、小さな建物があった。
倉庫か何か。ここにしよう。
扉を開ける。
薄暗い。
-
220 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 17:28:38 ID:TW803YTwO
-
( `ハ´)「!」
倉庫の奥に、3人程度の男がいた。
男達はシナーの登場に慌てふためいている。
彼らが鉄パイプやらナイフやらを掴むのを見て、シナーは片手を挙げた。
( `ハ´)「ここを貸してほしいアル」
「はあ!?」
「今なら見逃してやるから、さっさと出てけ!!」
武器を構えた男達が、がなりながらじりじりと距離を詰めてくる。
シナーは動かない。
やがて至近距離まで近付くと、どうするべきか迷ったのか、男達は視線を交わした。
シナーが怯えて逃げるのを期待していたのだろう。
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221 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 17:30:40 ID:TW803YTwO
-
「……もういい、やっちまおう」
1人の提案を受け、じゃらじゃらとピアスを付けている男が棒切れを振り下ろした。
シナーは無表情のままそれを避け、まずは一発、男の脇腹に右足の爪先を叩き込む。
ろくに鍛えていないのだろう、柔らかい肉はガードにもならず、シナーの爪先がめり込んでいく。
ピアスの男が呻き、よろけた。
シナーの方へ倒れそうになっていたので、顎を殴り、腹を蹴飛ばして後ろへ倒す。
一旦、片手に持っていた袋を地面に置いた。
間違って踏まないように気を付けなければ。
他2人は反応出来ずにいるのか、僅か2秒、動きが止まっていた。
シナーは嘆息する。そんな体たらくで、よくまあ先程のように強気に出られたものだなと。
背の高い男の首を掴み、ナイフを持つ男へ放り投げる。
まとめて倒れ込んだ2人のもとへ、すぐに近付いた。
背の高い男の顎を何度か蹴りつけた後に鳩尾に足を乗せ、思いきり体重をかけた。これで少しの間は動かない。
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222 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 17:34:09 ID:TW803YTwO
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その間に、起き上がろうとしていたナイフの男の顔面に
近くにあった木箱を叩きつけた。
思いのほか物が詰まっていたようで、男の顔から何かの砕ける音がした。
すまん、と謝ってはみたが、まあ聞こえてはいないだろう。
未だナイフを振るおうとするしつこい手も、その木箱の角で何度か殴る。
顔の潰れた男は、呻くだけになってしまった。
身悶えしている背の高い男の方へ戻る。
肩を踏みつけ、腕を捻った。
ごき、という音と共に男が悲鳴をあげる。
もう片方の腕も同じようにした。
シナーが肩を踏む度に叫ぶので、まるで楽器を演奏する気分。
やりすぎない程度に留めて、最初に蹴倒したピアスの男へ歩み寄る。
跨ぐようにして立ち、腰を曲げ、顔を覗き込んだ。
失神していたようだが、頬を叩くと、うっすら目を開いた。
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223 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 17:35:30 ID:TW803YTwO
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むりやり口を開かせる。やはり、舌にもピアスをしていた。
シナーは不快そうに顔を顰める。
舌にこんな物を付けて、飯を食うのに邪魔ではないのか。素直に美味いものを楽しめるのか。
ピアスを引っ張る。
男がうーうー唸っている。
引き千切ろうかと手に力を込めると、男の声が大きくなった。
ピアスを掴んだまま、シナーはしゃがんだ。
囁きかける。
( `ハ´)「『今なら見逃してやるから、さっさと出てけ』」
.
-
224 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 17:36:49 ID:TW803YTwO
-
3人組が逃げ出した後。
シナーは地面に置いていた袋を持ち上げ、倉庫の奥へ歩みを進めた。
汚れた毛布らしきものがいくつか積まれている。
上々。これで寒さも凌げる。毛布の質は、このさい気にしない。
さあ、冷めてしまう前に飯を食おう。
大きな箱に腰を下ろす。
──そこで初めて、シナーは別の人間の存在に気付いた。
(#゚;;-゚)
少女が繋がれていた。
腕輪から伸びる鎖が柱に固定され、足枷まで付けられている。
服はぶかぶかのセーターのみで、いかにも寒そうだ。
-
226 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 17:38:08 ID:TW803YTwO
-
拘束は先程の男達によるものだろう。
と、なると──奴らもシナーの同業だったようだ。
祭の騒ぎに隠れ、人身売買を行う輩。
シナーは少女のもとに近付いた。
見たところ5、6歳。
顔や体に傷跡があるが、新しいものではないように見える。
少女は左手にぬいぐるみを大事そうに抱えていた。
それに触れようとすると身をよじるので、とりあえず諦める。
右手を持ち、腕輪を調べた。
-
227 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 17:39:28 ID:TW803YTwO
-
( `ハ´)「お前、反時計症アルね」
(#゚;;-゚)"
少女が頷く。
──反時計症の患者の多くは、体内にチップを持っている。
患者が一定の年齢以下になったら信号を送るための。
腕輪は、その電波の発信を妨害するための道具だ。
反時計症の人間を拐うときには欠かせないものだった。
自身の髭を撫で、シナーは満足げに頷いた。
寝床の確保に、反時計症の入手。
今日はツイている。
少女──実際の年齢は分からないが──は、助けてほしいとか、
シナーから逃げたいとか、そういった意思は見せなかった。
ひたすら無言で、ぼんやりとシナーを見つめている。
助けを期待しているわけでもなさそうだった。
恐らくは、現時点での己の「所有権」が先程の男達からシナーへ移っただけだと思っているのだろうし、
事実、それは正しい。
-
228 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 17:41:24 ID:TW803YTwO
-
上機嫌のシナーは改めてその場に座り、食事を始めた。
まずはサンドイッチ。
丸い厚目のパンでシベリア豚のベーコンと目玉焼きを挟んだシンプルなものだが、そこが好みに合う。
というより、シンプルだろうとそうでなかろうと、美味いなら何でもいい。
パンの表面はトースターで焼かれていて、ざくりと小気味良い音が鳴る。内部はもっちりと弾力があった。
かりかりに焼かれたベーコンと、とろとろのチーズ。どちらの塩気も目玉焼きが受け止め、まろやかにしてくれる。
胡椒の風味も、邪魔にならない程度に仕事をしていて。美味い。
(#゚;;-゚) グゥ
少女の腹が微かに鳴った。
シナーは懐からナイフを取り出し、サンドイッチを半分に切ると
その内の一つを少女に差し出した。
少女は手を伸ばしたが、シナーのナイフとサンドイッチを交互に見て、困ったように小首を傾げた。
先の3人組の内の1人が、ナイフを持っていたのを思い出す。
少女はナイフに怯えているわけでもなく、
ただ単に、人を刺した刃物で食べ物を切り分けたのではないか、ということが気になっているらしかった。
-
229 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/13(木) 17:42:31 ID:TW803YTwO
-
( `ハ´)「私はナイフは食事にしか使わないアル」
そう言ってやると、ようやく少女はサンドイッチを受け取った。
無視しても良かったのだが、一応「商品」であるし、
あまり邪険にして言うことを聞かなくなっても困る。
何より彼女はとても細くて、痩せすぎな気がした。
( `ハ´)「おまえ、名前は何ていうアルか?」
(#゚;;-゚)ノ
手で空中に文字を書くような仕草をする。
でぃ、というらしい。
シナーはサンドイッチを腹に収めると、次にニューソク鶏の焼き鳥を手に取って
でぃにも一本だけ分けてやった。
# # #
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