2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです
川 ゚ -゚)退廃都市の占い師だったようです
  その1



2 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/25(日) 22:02:04 ID:Vl0SjOJQO

魔法が昔ほどこの世界の主役ではなかった時代


エネルギー伝動効率を上げるための媒介として魔法が使われ 蒸気が最も主流なエネルギーになった時代


そんなニッチな魔法を身体のみで操ることのできる数少ない「魔法使い」が占い師として細々と暮らしていた時代


人々に道を指し示す者でありながら自らの幸福に迷う占い師がいた


そこは赤雲に覆われた蒸気工場郡都市


そこにある旅人がきっかけを携えて帰ってくる


そこから、ちょっとした――しかし 個人にとってはとても大きな――話は始まる

.

3 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/25(日) 22:02:39 ID:Vl0SjOJQO




川 ゚ -゚)退廃都市の占い師だったようです




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4 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/25(日) 22:03:42 ID:Vl0SjOJQO
――――――







完全濾過された下水が大きな穴の下へと霧散しながら落ちていく

都市の中央大時計が日時を知らせる

工場で使われた蒸気が勢いよく吹き出す

そして上空の赤く焼けた空に消えていく

何故空が赤いのかは知らない

この街に来てからずっと赤いし他の人間も知らないから気にはならない


川 ゚ -゚)「・・・」


外に出て湿った空気に身を晒す
と言っても晒すのは顔だけだ

空気中にある魔力を軽く吸い取るために肌を晒す

占い程度のことなら少ない魔法で事足りるし魔法を扱う技術も十二分にあるので
魔力は微々たるものでも仕事は問題なくできる

ただ最近は魔力補給という名目ではなく どちらかと言えば物思いのために外に出ている

.

5 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/25(日) 22:04:44 ID:Vl0SjOJQO
『幸せとは何か
 それは人々が喜ぶものだ
 多くの人間は無意識にそして意識的に
 それを追い求めて生きていると言っても過言ではない
 幸せとは不定形なものだ
 人それぞれにその形があり様々に異なる幸せの形がある 』


そんなことが書いてある本を以前読んだ

では


私の幸せはどんな形なのか

.

こんな一見バカげた考えも普通にできるようになってしまった

人様には言えないような恥ずかしい考えごとだとも思う

最初は何の気なしに思いついたことだったのに

最近ではずっと考えてしまう


川 ゚ -゚)「・・・」


それは自分の人生に深い楔を打ち込むようなえぐい考えだったからかもしれない

6 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/25(日) 22:05:55 ID:Vl0SjOJQO

生活にほとんど不自由はない

占い師の仕事による収入も満足以上のものだ

だが私は自分の幸せに疑いを持つようになった


答えが出て 内から外へ あの赤い空へこの重苦しい気持ちを吐き出せたらどんなにいいことだろう

答えの出ない考えを頭に浮かべてはやりどころなく底に沈めていく

そしてその考えは重く重く私にのしかかってくる

その悲痛な重みは私をいつまでも苦しめ続けていた


川 ゚ -゚)「はぁ・・・」


ロマンチックに考えてみても何も解決しない

身を塞ぐような圧迫感が抜けない

.

7 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/25(日) 22:06:33 ID:Vl0SjOJQO

ため息を吐くと幸せが逃げるらしい
逃げる幸せはどこに行くのか
戻ってくるのか
戻ってこないのか

そぞろないことを頭に浮かべては同じことを繰り返す

目的があるわけではない

目的がないからこんなことをしているんだろう


『私はいつまでこんなことを続けているんだろう』


.

9 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/25(日) 22:11:43 ID:Vl0SjOJQO

カーンカーン

清々しいほどに響く金属音の後に様々な雑音が耳に入り込む

発信源を追うように視線を右に走らせると一際デカイ建造物が目についた

金メッキに覆われた足から胴 だがその上はまだ未完成

それなのに無駄な迫力を持つ像

この都市のシンボルにならんとする自己顕示欲が滲み出た像


これもいつからあるのかわからない

ただこの都市を仕切るお偉いさんが自身をモチーフにした像を造るように過去命じたことがあるということは知っている

今はもう死んだ人間だ

だが司令系統に出された命令は未だ生き続けており
その計画は首謀者がいない今も進められている

川 ゚ -゚)「・・・」


私がこの都市で見る物の中で三番目に嫌いなものだ


.

10 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/25(日) 22:13:34 ID:Vl0SjOJQO

川 ゚ -゚)「・・・」

川 - -)「ふぅー」

  ガシガシ
川д川ヾ

あまり顔を晒すのは好きではないから普段は髪を前に持ってくる
顔を晒すのは魔力を補給するついでに物思いに耽る時だけだ

この方が占い師っぽいよねと誰かが言ってくれたが

自分でも不思議とそれをしてしまうのは自信のなさの表れだと最近気付いた

そんなことを頭の中でグルグルと考えながら開店する

11 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/25(日) 22:20:03 ID:Vl0SjOJQO
――――――――


川д川「いらっしゃいませ 本日はどうなさいましたか」


『占いとは魔法の理によって人々に道を指し示すもの

 そこには幸も不幸もどちらの道も示される    

 故に私たちはそれを人々に取捨選択して指し示す義務がある』


と占い師として育ててくれた人に教わった

だけど私は幸と不幸の道を指し示すことはできない


『私が幸せになるにはどうすればよいのですか?』


と聞くお客さんがいる

それに対して私は決まってこう答える


『それはお答えできかねます』




12 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/25(日) 22:21:04 ID:Vl0SjOJQO

わからないものはわからない

幸せを知らなければ不幸も知らない
だから指し示せない


私の師はそのことを危ぶんでいた
しかしそれ以外のことでは文句の出ないほどに努力し 申し分のないものにした

だからそのまま看過された

自分のものも知らないのに
知りもしない人間の幸福の形を私が指し示すなんて不可能だ

だから断る

だけどその度否応なしに考えさせられる


私の幸せは何なのか


.

13 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/25(日) 22:21:59 ID:Vl0SjOJQO


川д川「〜〜で――ですね・・・」


仕事はそつなくこなす
やることは決まっているから難しいことはない

出た結果を細かく砕いて分かりやすく伝える それだけ

難しいことがなさすぎるせいで無駄にさまざまなことを考えてしまうのだろう と最近気付いた

幸不幸関係以外の時だけだが


ただ幸不幸が指し示すことができなくても未来を知りたがる人間は多くいる

だから生活に困ることはない

ただ仕事の後は余分に疲れる

私とは対照的に明日への希望を見いだしたかのような顔を見せ付けて帰っていくお客さんを見ているからだ

そしてその顔を見て 部屋に飾ってある鏡を通して見える自分の顔を見ると
その疲れに重さが加わる


実に残酷な対比を毎日見せつけられれば体も重くなるのは当然のこと

仕方ないこと


.

14 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/25(日) 22:25:05 ID:Vl0SjOJQO
――――――――


川д川「行って来ます」


夜遅く
明日が祭日で仕事が休みであることを確認した後
片付けをして早々に店を閉じる

適当な服装のままに下階層に行き


(・∀ ・)「ゲェッヘッヘ 相変わらず良い身体してんなぁ!嬢ちゃん今日は良い物あるんだよ!一緒に来ねぇか?」

川д川「薬に溺れたくなるほどバカでもないんだ 悪いが他をあたってくれ」


いつも絡んでくる浮浪者に小銭を掴ませて軽くあしらいつつ


(・∀ ・)「おいおい連れねぇなぁ!あの頃の方がまだ可愛げがあったぜぇ!ゲェッヘッヘ」


そんな下卑た声を聞きながら都市中心部の西奥へと向かう

最初にこの都市に来て その茫漠さに右往左往していた時も
あいつに絡まれた時も

確かに酷くあわてていたけれど 今では随分慣れたものだ

今の状態に酷く慣れすぎたとも言える

起伏のない日常 そこには喜びも悲しみもない
苛立ちと閉塞感だけだ


.

15 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/25(日) 22:28:58 ID:Vl0SjOJQO

ごちゃごちゃ考えていればくねくねと四方八方に伸びる狭い通路も気にならない


何度も繰り返した角を右に曲がると奥に扉が見える

そのまま奥に進むとシックな扉にたどり着く

扉の傍に《今晩のメニュー》と書かれた掲示紙を無視して入る
食べるものは変わらないから

カランコロン


(´・ω・`)「やぁ ようこそ バーボンハウスへ」


ショボン――佇まいから紳士然とした気風を漂わせる彼は
グラスを丁寧に磨きながら柔和な顔つきでいつも通り私に挨拶する

扉を開けると今までの狭く薄汚い通路が嘘のように洒落たバー
・・・のようなレストランがある

普通このあたりに用のない人はなかなかこの範囲まで来ないため
隠れた名店のようなところになっている

初めて来た時はこれにも驚いていたっけ


.

16 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/25(日) 22:32:26 ID:Vl0SjOJQO

バーボンハウスとは言ってもバーではなくれっきとした料理店
勿論お酒を出してくれることはあるが私は利用したことがない

私はお酒に弱い


川д川「こんばんわ ショボン いつものを頼む」


ショボンは小さく頷くと奥のキッチンへと消えていった

他に客があまりいないことを確認してからカウンターに座る

落ち着いた店内


なのに何故か腕を振る音が耳に入る


.

17 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/25(日) 22:32:57 ID:Vl0SjOJQO
  _
( ゚∀゚)o彡゜「おォ!クーにゃん!おっぱい揉ませてくれ!」


ジョルジュ―――腕を振りながらこちらに不埒な言葉を向けるウェイトレスは恒例のように私の乳房を狙う


川д川「嫌だ」


そしてそれを恒例のように払いのける


  _
( ゚∀゚)「なんでだよォ 腕を振って腕白感を出して頼んでもダメなのかよォ」

川д川「それでいけると思ったのか」
  _
( ゚∀゚)「一体どう頼んだら揉ませてくれんだよォ!」

川д川「頼み方の問題じゃない」
  _
( ゚∀゚)「気持ちか!?」

川д川「そんなことに気持ちを込められても困る」


「じゃあ俺のおっぱいと引き換えに」などと一人で悪戦苦闘しているジョルジュを無視する

基本仕事はきちんとするが何故か私に突っ掛かってくる
というか乳を触ろうとする

だが別段問題もないので放っておいている

そもそも何故私に話し掛けてくるのか謎だ

こんな陰気な私に

ジョルジュがしょげて戻っていくと同時にショボンが料理を運んできた


(´・ω・`)「お待たせ」


.

18 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/25(日) 22:35:41 ID:Vl0SjOJQO


何の変哲もないピザ
だけどこれが私のお気に入り


川д川「ありがとう 頂きます」

(´・ω・`)「ごゆっくりどうぞ」


御絞りで手を拭き

ピザを八つに切り分けてから手前の一つを取って口に入れる

口に入れた途端 味が心地よく広がっていく
よく焼けた肉厚なナスとカリカリとしたベーコン そしてそれをまとめあげるチーズとケチャップがよく合う

ショボンの作る料理はなんてことはない定番のメニューばかりで
派手さも何もないのに何故かとてもおいしい

今度聞いてみようかとも思うが


(´・ω・`)「・・・」サッサッ


あまり口を開かないタイプの人間を喋らせるのも気が引けるのでいつも聞けず仕舞いだ


川〜川 モグモグ


いつも通り時計周りで食べ進める

美味さはいい

がここもいつも通りの味だ
それが安心だった時期もあった


川〜川 モグ・・・モグ・・・


なのに今ではそれが苛立たしい


私がこの都市で見る物の中で二番目に嫌いなものになってしまった

.

19 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/25(日) 22:37:19 ID:Vl0SjOJQO

だけどそれを頼んでしまう

安心感に身を委ねたいからか

変わらないことへの安住か

変わらない日々 変わらない欝屈
変わらない物ばかりでたまらない

見つからない幸せ

自分はどうやったら幸せになる?幸せって何なんだ?

私の幸せの形はどんな形なんだ?

この日常はどうやったら変えられるのか


凝り固まった世界が忌々しい


私の心は確実に塞ぎ込んでいた


.

20 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/25(日) 22:38:19 ID:Vl0SjOJQO

「〜〜!」

  _
( ゚∀゚)「――!‐‐?」


ふと入り口の方で話し声がすることに気付いた


川―川


私の後に入店したのだろうか

入り口付近のテーブルに腰掛けジョルジュと親しげに喋る男

ショボンがあまり怪訝な様子でもないのを見ると見知った人らしい

その出で立ちはどこにでもいそうな格好で
どこにも変わった部分はなかったが

その荷物の大きさから旅人か何かだとわかった

そしてその端正な顔つきにも特におかしなところはない 普通 平均 よく見る人間だった

しかし


( ・∀・)「――!」


何故かその人間が気になった



その2>>>

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