■2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです
└( ´_ゝ`)双子は竜騎手のようです(´<_` )
└第六話
- 239 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 22:45:48 ID:cdPIdN4A0
泳ぐ雲を追いかけて
夕の赤に染められて
瞬く星に神さまを見つけたりして
何を見失っても
見失わなかった物がある
.
- 240 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 22:46:30 ID:cdPIdN4A0
( ´_ゝ`)双子は竜騎手のようです(´<_` )
第六話: 双子の竜騎手。
.
- 241 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 22:47:59 ID:cdPIdN4A0
l从・∀・ノ!リ人 「姉者ー早く早くなのじゃー!」
∬´_ゝ`) 「ハイハイ、慌てなくてもお祭りは逃げないわよ」
l从・∀・ノ!リ人 「逃げなくても終わっちゃうのじゃ〜」
VIPの広場へ通ずる道を、少女が駆けてゆく。
年のころ十代の前半。
幼さの中にも女性らしさが芽生え始めた蕾の頃である。
それをやや遅れながら追う女性。
こちらは二十台の中ほど。
ウェーブのかかった長い髪が歩くたびにふわふわと揺れる。
l从・∀・ノ!リ人 「せっかくの兄者たちの晴れ舞台なのじゃ!ばっちり撮るのじゃ!」
少女が首から紐で提げ、両手で抱えているのは魔法の写真機。
この日の溜めに小遣いやら何やらを叩いて買った虎の子である。
これで、愛して止まない二人の兄の活躍を記録するのだ。
- 242 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 22:49:08 ID:cdPIdN4A0
l从・∀・;ノ!リ人 「あーうー、やっぱり殆ど終わってるのじゃ……」
∬´_ゝ`) 「…………嘘、決勝に進出するの?あいつら」
l从・∀・;ノ!リ人 「もー!姉者のせいなのじゃ!せっかくの活躍を見逃したのじゃ!」
∬;´_ゝ`) 「そんなこと言われても、仕事だったんだから仕方ないじゃない」
二人はサスガ兄弟の姉と妹。
女性の方が姉のアネジャ、少女の方が妹のイモジャである。
兄者たちから竜騎武闘に出場するという知らせを聞いて、観戦のために駆けつけたのだ。
アネジャの仕事が押してしまったため二日目からになってしまったが、
久しく会っていない弟達の顔を見られればいいかと一応は来てみた。
するとどうだ、落ちこぼれと風の噂で聞いていた弟達が何だかんだ勝っているではないか。
l从・∀・*ノ!リ人 「でも、決勝戦には間に合いそうなのじゃ!バッシバシ撮るのじゃ!」
うへうへ、と涎交じりに笑みを浮かべる妹の首根っこを掴み、アネジャは広場へと足を進めた。
遠くから見える広場の上空には魔法によるビジョンが浮かび、ここまでの試合の映像とトーナメント表が表記されている。
端に小さく表示されている情報を信じるならば、今から行われるのはアニジャたちの決勝の相手を決める試合らしい。
l从・∀・*ノ!リ人 「どこぞの馬の骨の試合なんか知らんのじゃ!兄者たちに会いに行くのじゃ!」
∬´_ゝ`) 「ダメだって、迷子になるし、控え所には関係者以外は入れないんだから」
- 243 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 22:49:57 ID:cdPIdN4A0
l从・∀・*ノ!リ人 「いやじゃ!会いたいのじゃ!」
∬;´_ゝ`) 「ああもう、なんでこう、アニジャたちのことになると子供返りしちゃうのかな」
イモジャは、両親が失踪する丁度一年前に生まれた子供だ。
親も無い状況で、叔父の世話になりながらも、姉弟四人で何とかやってきた。
親がいないながらも、グレずに育ってくれたイモジャであったが、問題が一つだけある。
兄弟がずっと世話してきたせいか、気付いたときには彼女は無類のブラコンになっていたのだ。
∬´_ゝ`) 「あんまりわがまま言うと、アニジャたちだって困るわよ」
l从・∀・ノ!リ人 「それはダメなのじゃ、イモジャ重くない女でいたいのじゃ……」
∬´_ゝ`) (どこでこんな言葉覚えてくるのかしら……)
広場につくと人がにわかに増え、モニターがよく見えるところにたどり着くのすら困難。
手を繋いでいても逸れてしまいそうだったため、イモジャを肩車し人ごみを掻き分ける。
道中、自分やイモジャの腰元に伸びた手の指を数本外しながら、なんとかモニターの前を陣取った。
l从・∀・ノ!リ人 「うーん、モニター越しだと上手くうつらなそうじゃ」
∬´_ゝ`) 「飛び立つ前と戻ってきたところを撮りなさいな」
l从・∀・ノ!リ人 「そうするのじゃ」
- 245 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 22:51:37 ID:cdPIdN4A0
肩車したまましばらくモニターに流れるダイジェスト映像を眺めていると、それが消え画面が切り替わった。
上空のそれから地上に視線を戻すと、駄々広い広場の中に二頭の竜が出てきている。
l从・∀・ノ!リ人 「でっかい竜なのじゃ」
既に騎手を乗せた二頭の内、赤いほうが先にと地面を飛び立った。
イモジャは飛んできた祭りの配布パンフレットを掴んで目を通した。
モニターに出ている騎手の情報と照らし合わせるに、赤い竜の名はレーヴァンテイル。
兜を被ったようにつるりとした頭と、対照的に角ばった大顎。
剥き出しの牙と爛々と輝く金色の瞳が、彼の闘争心の高さを表わしている。
そして最も注目すべきは。
∬´_ゝ`) 「何と言っても、あの尻尾の大剣よね……。恐らく、剣竜の血を受け継いでいる……」
∬´_ゝ`) 「ベースを火竜しつつ、地竜である剣竜の要素で、近接戦のパワーと耐久力を実現……」
∬*´_ゝ`) 「なんてうっとりするほどの戦闘特化なのかしら……交配技術ここに極まれりね……」
イモジャがブラコンならば、アネジャは重度の竜好きだった。
ずっと竜厩舎で働いているせいもあり竜を見ただけで三代前の種まで見抜くことが出来る。
竜と結婚できる法律が出来なければ、一生独身ではないかと弟妹共々心配しているほどだ。
- 247 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 22:53:08 ID:cdPIdN4A0
次に戦域に飛び上がったのは、黒雷竜ボルトール。
剣の如き鋭さを持つ一本角と靡く赤い鬣。
尾の先には無造作に振るっただけで岩を砕けそうな、頑強なハンマーヘッドが備わっている。
レーヴァンテイルに対し、こちらは落ち着きのある、冷徹な顔をしていた。
∬*´_ゝ`) 「ああ、すっごい、あれが噂のボルトールね」
イモジャを肩車したままアネジャは身体をくねらせた。
慣れた様子の妹はその頭を叩いて解説を要求する。
∬*´_ゝ`) 「あの角の形状と赤い鬣は、麒麟とも呼ばれる希少種、一角種が由来ね」
∬*´_ゝ`) 「ベースは、雷竜種。鱗の黒さがその証拠。雷竜は何度も見たけれど、あんなに深い黒の竜は中々いないわ」
∬*´_ゝ`) 「そしてあの尾。石竜種の中でも珍しい尾槌竜の遺伝ね……凄いわ、まるで希少種の見本市みたい」
l从・∀・ノ!リ人 「そんなに凄いのじゃ?」
∬*´_ゝ`) 「どちらの子もね。それぞれの特性がはみ出さず一個の竜としての枠にしっかり収まっている……!」
∬*´_ゝ`) 「ああ、もう!やっぱり無理して来てよかったわ!」
l从・∀・;ノ!リ人(兄者達に会いにきたんじゃ……)
∬*´_ゝ`) 「あとで厩舎見学させてもらお!脱皮の殻とか貰おう!」
l从・∀・;ノ!リ人(アニ兄者、オト兄者元気ですか?妹は今姉に本気で引いています)
- 248 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 22:54:11 ID:cdPIdN4A0
興奮するアネジャを飲み込むように、会場が沸いた。
試合開始の合図が放たれたのだ。
二竜は、待機の間も静かに睨み合い全く位置取り合戦をしなかった。
申し訳程度に翼を揺らしながら飛行魔法によって帯空。
そして、合図と同時に、がっぷりと組み合った。
前足で相手の前足をつかみ合い、空中での力比べ。
純粋な力ではややレーヴァンテイルが有利か。
ボルトールは少しづつ下に押さえ込まれてゆく。
ここで黒竜は方針を転換。
ボルトールは身体をつの字に折り曲げ、後ろの両足でレーヴァンテイルを蹴り飛ばした。
つかみ合っていた前足は引き離され、両者は弾きあい距離を取る。
かなり重い音がしたが、レーヴァンテイルに殆どダメージは無さそうだ。
l从・∀・ノ!リ人「アネジャ、どっちの方が強いのじゃ?」
∬´_ゝ`) 「一概には言えないけど、そうね。この限定された空間で戦うと考えると、赤い方が有利かも知れない」
しかし。
∬;´_ゝ`) (動き始めた瞬間分った。あの黒竜、冷静な顔をしているけど、とんでもない暴虐性を秘めてる)
∬;´_ゝ`) (あれを、乗りこなす人間が、いるの?)
- 249 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 22:55:16 ID:cdPIdN4A0
ボルトールは距離を取ったところから、身体で反動をつけ、上空へと飛び上がる。
ここで気付いたが、先ほどまで晴れていたはずの雲が急に曇りだしていた。
∬;´_ゝ`) (天候に干渉できるほどの魔法力?ますますもって候補生が乗り回していい竜じゃないわ)
空に餓えた獣が潜んでいるようだ。
黒さを増す雲はゴロゴロと腹を鳴らし、その中には既に稲光が見えた。
そして。
耳を劈くとは正にこのこと。
警戒していても首を縮めてしまうほどの音が周囲に鳴り響いた。
同時に、目の焼けるような激しい閃光。
辛うじてイモジャが見たのは、雲から伸びた雷光がレーヴァンテイルを捉えたところだった。
∬;´_ゝ`) 「凄い、なんて火力なの?」
レーヴァンテイルは特殊な防壁で雷を何とか受け流している。
とは言え、それもいつまで持つか分らない。
人知を超えた電流は、導体と絶縁体を二重に重ねた障壁をも侵食してゆく。
だが、レーヴァンテイルは初めから受けに回るつもりは無かった。
尾の剣が紅蓮に発光し、膨大な熱の塊が圧縮されてゆく。
周囲が歪んで見えるほどの高温。
こちらもまた、そこらにいる唯の竜ではない。
- 250 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 22:56:26 ID:cdPIdN4A0
強化拡大した防壁を盾に、レーヴァンテイルは浴びせられる雷撃を弾きながらボルトールに襲い掛かる。
防御、あるいはカウンターを当てるため、ボルトールは前傾姿勢で構えた。
レーヴァはボルトールの目の前で前転。
遠心力とともに大剣をボルトールに振り下ろした。
ボルトールもそれに合わせるよう、落下しながら側転。
形状の違う、共に頑強な尾がぶつかり合った。
金属同士が打ち鳴らす残響。
剣の腹を叩かれたレーヴァは、攻撃を当てることも出来ず体制を大きく崩した。
少々反動で下がったボルトールはすぐに目標のレーヴァンテイルに突撃する。
自身の背に雷を落とし、その力を全身にループさせ青く発光、前足でレーヴァを捉えにかかった。
まともに掴まれば、溜まった全電流の餌食だ。
対するレーヴァンテイルも全身に濃密な炎を纏い、ボルトールを真正面から受け止める
ぶつかりあう稲妻と炎。青と赤。
高エネルギー同士が反発し合い、空間そのものが歪むほどの余波が周囲に撒き散らされた。
この膠着を破るのは、青を纏うボルトール。
彼にはいまだ充電を行うかのように次々と雷が降り注いでいた。
それを受け止める、青い魔方陣。よく見ればそこで圧縮されたエネルギーが、次々と角に集まっている。
- 251 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 22:57:32 ID:cdPIdN4A0
決まる。
声も無く、息を呑んで見守る観衆の仲、アネジャは直感でそう判断した。
ボルトールの角に集まった電気が更に圧縮され、全てを侵食する光の帯となって放たれた。
拮抗する両者の力の境目をいとも容易く貫き、そのままレーヴァンテイルの肩口を大きく抉り抜く。
レーヴァンテイルは、辛うじて耐えようとした。
しかし、目の前に今尚迫るボルトールの圧力には手負いでは叶わない。
瞬く間に押し切られ、全身に高圧の電流を注ぎ込まれる。
落ちるレーヴァンテイル。
意識はまだ保っているようだが、戦闘は不可能であるように見えた。
だが、諦めずにその口から、高威力の熱戦を放つ。
( ФωФ)「その活きや、よし」
ボルトールは音より速いそれをひらりと回避し、高速でレーヴァンテイルを追跡。
そして、ギリギリで滞空するその胸に、尾のハンマーを思いっきり振り下ろす。
甲高い音と共に衝撃が波紋を作った。
レーヴァンテイルの身体を蹂躙しつくした稲妻が、行き場を失いハンマーとの接触点からあふれ出す。
混ざり合った波動と雷光が戦域を囲む防壁を強く痺れさせた。
直接それを受け止めたレーヴァンテイルの状態は確認するまでも無い。
騎竜ボルトールと、騎手ロマネスクの、圧勝であった。
- 252 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 22:58:27 ID:cdPIdN4A0
l从・∀・ノ!リ人「ほえー、すんごい強いのじゃ。兄者一筋……兄者二筋のイモジャも浮気しそうなのじゃ!」
l
从・∀・ノ!リ人「でもやっぱりアニジャたちのほうがカッコいいのじゃ。楽勝なのじゃ。ね、アネジャ?」
∬;´_ゝ`)
l从・∀・ノ!リ人 「どうしたのじゃアネジャ?惚れちゃったのじゃ?」
∬;´_ゝ`) 「え?あ、うん、何でもないの」
l从・∀・ノ!リ人「いつもよりちょっと変なアネジャなのじゃ」
アネジャは、地に降り立ち、目の前の観客で見えなくなったボルトールの姿を反芻していた。
剛く、疾く、そして容赦ない。
惚れるよりも先に、自然と畏怖の感情が沸きあがってくる。
竜騎武闘では騎手の生死を問わないのだという話を聞いたことがある。
もちろんそれは建前だ。
実際は出来うる限りのサポートをし、その命を守っている。
何より、たとえ騎手であろうと竜で人を攻撃することはタブー視されているため、死人が出ることは滅多に無い。
∬;´_ゝ`) (……でも、恐い。アニジャ、オトジャ、あんた達、本当にあれと戦うの?)
** ** **
- 253 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 22:59:09 ID:cdPIdN4A0
( ´_ゝ`)「戦域を変える?」
ボルトールと戦う決勝まで二時間を切ったところで、アニジャは係員にそう告げられる。
場所はリュウジャの負ったダメージの確認と、用具の点検のために訪れていた架設の厩舎。
( "ゞ) 「とは言え、まだ決定ではないのです。杉浦騎手から申し出があっただけなので」
( ´_ゝ`)「杉浦が?」
( "ゞ) 「はい。両者間で合意がなされれば、こちらとしては全力で準備いたします」
( ´_ゝ`)「つまり、俺が了承すれば、もっと広いところで戦える、と?」
( "ゞ) 「そうですね。いかがなさいますか?」
(´<_` )「いいじゃないか、受けよう」
( ´_ゝ`)「……そうだな。俺達からも、お願いします」
( "ゞ) 「分りました。設定域など決まりましたら連絡いたします。少々、用意が前倒しになるかと思いますが、ご容赦ください」
恭しく頭を下げて、係りの男は去っていった。
アニジャはそれを見送って、リュウジャの首に手を触れた。
リュウジャは今、催眠魔法でゆったりと眠っている。
- 254 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:00:24 ID:cdPIdN4A0
( ´_ゝ`)「ドクオ、リュウジャのダメージは?」
('A`) 「現時点で7割回復。出立までには間に合うと思われ」
( ´_ゝ`)「速いな。流石国直属の医療班だ」
(´<_` )「ちなみに、魔力は?」
('A`) 「ちゃんと安静にしていれば八割以上は硬い。九割近く回復すると思っていいぞ」
戦うには十分な値だ。
少々ダメージを受けすぎていたが、何とかなりそうでほっとする。
( ´_ゝ`)「次は、もっと痛くないよう上手く戦おうな」
寝ているリュウジャの首を優しく撫でた。
瞼をひくつかせながらも、熟睡している。
(´<_` )「アニジャ、今の内に打ち合わせを進めよう」
( ´_ゝ`)「うん。ドクオ、ブーンもおいで」
- 255 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:01:17 ID:cdPIdN4A0
厩舎の前に椅子を置き向かい合う。
アニジャの肩に、妖精の二人が止まった。
打ち合わせ、と言ってもボルトールは素直な性能の竜だ。
ドーペルゲーガやメメメオンに比べれると、事前の準備で対策を練れられる部分は少ない。
確認すべきは、容量の限られるドクオのハッキングと、オトジャの魔法をどう振り分けるか。
(´<_` )「耐雷用の防壁は問題なく使える。単なる雷撃はそれほど警戒しなくてもいいかもしれん」
( ´_ゝ`)「そうなんだけど、恐いには恐いよな。ボルトールは雷撃だけじゃないから」
雷撃は、その性質上通常の防壁では抜けてくることが多々ある。
そのため防ぎながら受け流す特殊な防壁が必要なのだ。
しかし、その防壁は通常の打撃攻撃には滅法弱い。
(´<_` )「念のため、気圧、慣性のほかに耐電流用の保護をするが、たぶん気休めだ」
( ´_ゝ`)「と、なると重要なのはそもそも食らわないように防ぐハッキング……」
('A`)
('A`) 「新しい妖精を注文しますか?」
真顔で知らん振りをされた。
- 257 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:02:18 ID:cdPIdN4A0
(;'A`) 「無理無理無理!観測のゼアフォーならまだしも、管制のビコーズになられたら俺なんか適わないよ!」
(´<_` )「今更言っていられるか。単純な地力で負けている以上、騎手の腕と電子戦で何とかするしかない」
( ;´_ゝ`)「うぐ」
騎手の腕、のところでアニジャがばつの悪い顔をした。
一応は勝ったものの、彼の自信はプギャーによってへし折られている。
オトジャと揉めるよりはマシな折れ方ではあるが、自分への不信感のようなものを抱えてしまっていた。
本当に面倒な兄だと、オトジャは眉間を揉む。
(´<_` )「さっき、運営側にレーヴァンテイルとの戦闘を見せてもらったが。正直パワーで勝てるわけが無い」
この場の全員が完全に同意した。
レーヴァンテイルは、速度の一点を除いて、力、耐久力、魔法力の全てがリュウジャよりも上。
おまけに得意属性は同じ、火だ。
それを真正面から切り崩したボルトールに対し、力技で倒すビジョンが見えるわけが無い。
(´<_` )「だが、これはあくまで、レーヴァが得意の白兵戦を挑んだからだ。俺達には、ボルトールよりも高い機動力がある」
( ;´_ゝ`)「でも、杉浦はそれも平気で埋めて来るんだよな……」
(´<_` )「それでも俺達は速度にかけるしかないんだ」
- 258 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:03:24 ID:cdPIdN4A0
(´<_` )「遠距離攻撃は、俺とドクオで何とか対処する」
('A`) 「別の妖精を注文してください」
(´<_` )「だから、戦うのはアニジャに任せたいんだ」
打ち合わせというよりも、アニジャに覚悟を固めさせる時間になっていた。
アニジャは煮え切らない様子で、うんうんと唸っている。
(´<_` )「ニダーやプギャー、それに杉浦に負けたセントたちの分だって、俺達は戦わなきゃいけないんだ」
( ;´_ゝ`)「……」
「それは、違うであるな」
不意にかけられた声に、兄弟は反射的に振り向く。
視線の先にいたのは、杉浦ロマネスク。
そして傍らで挙動不審な動きをしている亜麻井デレだ。
( ФωФ)「戦いとは、常に己のためのもの」
( ФωФ)「そこに他者を付加することは出来ても、他者に摩り替えることは出来ない」
- 259 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:04:23 ID:cdPIdN4A0
( ФωФ)「サスガ、我輩は、信じていたぞ。貴様が勝ち上がって来ると」
( ´_ゝ`)「……」
( ФωФ)「セントとの戦いは、心が痺れた。貴様も、情けないことをしてくれるな」
( ´_ゝ`)「一つ、聞いていいか?」
( ФωФ)「なんである?」
( ´_ゝ`)「何故俺達を、俺をそんなに買うんだ。俺はそこらへんにいるダメ騎手だぞ」
( ФωФ)「貴様らが、サスガ夫婦の子供だから、であった。最初はな」
( ´_ゝ`)「……」
( ФωФ)「……我らは竜騎手だ。残りは空にて、竜の翼を借りて語ろう」
( ´_ゝ`)「……わかった」
ロマネスクはすぐに踵を返した。
アニジャは、その背中をただただ見つめている。
複雑な心境は、オトジャ。
自分が説得しようとしても上手く行かなかったアニジャのやる気を、ロマネスクは一言二言話しただけで引き出してしまった。
プギャーといい、つくづく敵に恵まれた男だと、心の中でやり場の無い悪態を吐く。
- 260 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:05:03 ID:cdPIdN4A0
そんなオトジャに、歩み寄るものがいた。
ロマネスクの騎助手、亜麻井デレだ。
ζ(゚ー゚*ζ「私、オトジャさんにずっと憧れてました」
(´<_` )「……はあ?」
(*^ω^)(*'A`)(*´_ゝ`)
ζ(゚ー゚*ζ「だから、私ずっとオトジャさんに憧れてたんです」
(´<_` )「分った、亜麻井、話はちゃんと聞くから少し待ってくれ」
オトジャは、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべていた妖精二人を捕まえ、
同じくニヤニヤしていたアニジャの口に詰め込み厩舎の中に放り込んだ。
パンパンと手を叩き、亜麻井の前に戻る。
(´<_` )「頼む、順を追って話してくれ」
ζ(゚、 ゚*ζ「そのままの意味です。一人の騎助手として、オトジャさんにずっと憧れていました」
改めて聞いた「憧れ」の言葉に重みを感じ取ったオトジャは、あえて黙って続きを聞くことにした。
亜麻井は相変わらず挙動不審ではあるが、しっかりと意思のある目をしている。
- 261 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:06:02 ID:cdPIdN4A0
ζ(゚、 ゚*ζ「だから、私、オトジャさんを絶対超えます。自分の役目を、ロマの騎助手を務めるために」
(´<_` )「……そうか」
+ζ(゚ー゚*ζ「これ以上は野暮ですから、私達も、空で、翼を借りて語りましょう!」
(´<_` )(正直語る余地がないほど伝わったことは言わんでいいか)
頭を一度下げてデレも去っていった。
テントの影で待っていたらしいロマネスクと共に、自分達の竜のところへ行くようだ。
( ´_ゝ`)「…………ラブコメ」
( ^ω^)「ラブコメだお」
('A`) 「ゼクシィを注文しますか?」
(´<_` )
(´<_` )「さて、打ち合わせの続きに入るぞ」
( (#)_ゝ`)( (#)ω^)(#)A`)「はい」
適度な緊張を保ちながら、その時は迫る
** ** **
- 262 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:06:49 ID:cdPIdN4A0
( ФωФ)「……」
幼い頃の思い出だ。
頼りがいのある相棒、ボルトールと出会う数年前の話。
まだ幼かったロマネスクは、両親の手伝いで入った山の中、野良の地竜に追われ逃げ回ったことがあった。
その時に救ってくれたのが、淡い赤を帯びた鱗の飛竜と彼の背に跨る二人の竜騎手。
手綱を握っていたのは見目麗しい女性。
その後ろで神官服を纏い魔法の光を迸らせていたのは痩身ながら逞しい男性。
恐怖に蝕まれ、顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしていたロマネスクにとって彼らは英雄に他ならなかった。
ボルトールが頭を垂れ背中を許した時に、ためらい無く乗ったのはあの二人への憧れがあったから。
竜と出会ったその日から毎日、監視する大人たちの下でひたすらに竜騎の技を磨いた。
あらゆる空を飛びまわり、あらゆる困難の上に竜との信頼を築いた。
そして、今日。
今はもう、会うことの無い英雄の、その子供達が目の前にいる。
過去の戦いは全てねじ伏せた。
取るに足らぬと嘆息を重ねた。
しかし、やはり拭い去れない、彼らの翼に宿る、英雄の幻影。
ここ数日でその色は俄かに濃くなっている。
( ФωФ)「……我輩が最も期待し、最も失望し、そして、最も見直した男達よ」
( ФωФ)「ねじ伏せよう。彼らの子としてではなく、我輩の敵手として」
- 263 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:07:50 ID:cdPIdN4A0
ζ(゚ー゚*ζ「……」
天才と持て囃され田舎を出てきたその日、紹介されたのは自信の才能など豆粒にしか見えない程の化け物だった。
ついていく事すら叶わず、ただずっと唇を噛んで耐えてきた。
「サスガ弟の方が杉浦と組めば、もっと強くなるのにな」
不意に聞いてしまった学友の呟き。
悔しかったのはその言葉ではない。
抵抗無く受け入れてしまった自分の弱さ。
ζ(゚ー゚*ζ「ロマ、今までありがとう」
あらゆることが怖かった。
前を行く彼は、自分ではない別の、もっと優秀な相棒を求めているのではないか。
横を抜き去ってゆく彼らは、自分ならばもっと優秀に務められると嘲っているのではないか。
( ФωФ)「何を言っている、それは我輩の台詞だ」
ζ(゚ー゚*ζ「……うん」
( ФωФ)「我輩とボルトールを、頼む」
ζ(゚ー゚*ζ「……うん!」
- 264 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:08:49 ID:cdPIdN4A0
( ´_ゝ`)「まさか、ここになるなんてな」
風の音が鬱陶しかったがアニジャの呟きはしっかりとオトジャの耳にも届いていた。
準備時間を終え街を飛び立って数分。
たどり着いた戦域は、以前最期の公式訓練を行った砂漠の戦域であった。
急な変更に対応できるのがここしかなかったのだという。
周囲に観客の姿などはまばら。
同じ竜騎手や、いち早く情報を掴んだ観客などが駆けつけているだけだ。
(´<_` )「ちょうどいいじゃないか。思う存分飛べる」
砂漠の空は快晴。
広場のように魔法による保護も無いので、太陽や風などの自然の要因を利用することも出来る。
実戦的な環境だ。
周囲には無数の光が飛んでいる。
リュウジャとボルトールの戦闘を中継放送するための妖精。
彼ら位ならば邪魔にはならないだろう。
(´<_` )「そろそろ防壁を展開する」
( ´_ゝ`)「ああ、ブーン、ドクオも問題ないか?」
( ^ω^)「問題ないお」
('A`) 「帰りたい」
( ´_ゝ`)「よし、大丈夫だな」
- 265 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:09:30 ID:cdPIdN4A0
砂丘の上、青空の真ん中で、二頭の竜が向かい合っていた。
小柄な赤い鳥竜、リュウジャ。
対するは漆黒の屈強な体躯を持つ獣竜、ボルトール。
ルールは飛び立つ前に確認していた。
基本は同じ。事実上場外が無しになっただけだ。
( ´_ゝ`)「なあ、オトジャ、ここで負けても、俺達騎手になれるかな?」
(´<_` )「……決勝まできた実力は認められる。恐らく、大丈夫だとは思う」
( ´_ゝ`)「でも、正竜騎手になったら、きっと杉浦と真剣勝負する機会は無いよな」
(´<_` )「ああ。俺達か杉浦が謀反でも起こさない限りは、敵でいられるのは今日だけだ」
( ´_ゝ`)「……全力を賭そう。その上で、全部受け止めよう」
(´<_` )「言われるまでもない」
オトジャが、リュウジャの身体を包み込む、薄黒い防壁を展開した。
絶縁体とと導体を重ね合わせることで、竜を守りながら雷を受け流す特殊な防壁だ。
以前は、直前まで敵が分らなかったため満足な強度を生み出せなかったが、今回は大丈夫。
- 266 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:10:39 ID:cdPIdN4A0
「それでは、一分間待機」
下方から、審判の声が響いた。
二竜の動きは対照的だ。
高速で距離を取ったリュウジャに対し、ボルトールはその場に帯空したまま。
背後を取るも糞も無く、リュウジャは絶妙な距離を保ち、旋回を続ける。
ボルトールは目を怪しく光らせ、上空に分厚い雲を作り出していた。
青空が直ぐに埋め尽くされ、隙間から稲光が漏れ始める。
( ;´_ゝ`)「いきなりMAXだな」
(;'A`) 「あの中に飛び込んだら、ほぼ確実にお陀仏……」
(´<_` )「高度と太陽は封じられたか」
( ;´_ゝ`)「大丈夫、横があれば十分だ」
間も無く、一分。
ボルトールはリュウジャを常に真正面に捉えるだけで、相変わらず動こうとしない。
( ;´_ゝ`)「合図と同時に高速飛行に入る。一気に仕掛けるぞ」
(´<_` )「おう」
- 267 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:11:33 ID:cdPIdN4A0
「……始め!!」
言葉の通り、アニジャはリュウジャの首をキックし、速度を爆発的に上げた。
一番外側に張られた通常の防壁が空気との摩擦で削られて行く。
その速度を保ったまま、手綱を引いてボルトールへと直進。
ボルトールは迎え撃つために上体を起こす。
前足に雷を宿らせ、自らも前に出た。
リュウジャは防壁を強化。
同時に火球を三つ放った。
ボルトールは体から細い放電を行い、火球を打ち落としす。
撒き散らされる爆炎が視界を覆い尽くす。
ロマネスクは極僅かな合間に思考を巡らせ、ボルトールにブレーキを掛けさせた。
リュウジャは、爆炎を突っ切ってそのまま正面からボルトールに飛び込んだ。
その身体に炎を纏い首を固め体当たりする。
( ФωФ)「……ッ!」
ボルトールは、体全体を使って受け止めるが、その身体を炎が飲み込んだ。
一瞬の隙にリュウジャはボルトールの四肢をすり抜け、後ろに回りこみ、未だ炎が絡みつくその背に火球を放った。
これは反射的に振り返ったボルトールの前足に打ち砕かれる。
- 268 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:12:40 ID:cdPIdN4A0
(´<_`; )「本当によくやるよ、あれに真正面から踏み込むとは!」
( ;´_ゝ`)「杉浦も人間だったみたいで安心するだろ?」
杉浦は、逃げ回り隙を突く戦法を警戒した準備を備えてきているはずだ。
だからその逆を突く。
既に見せた技を使うことで自分が有利な駆け引きに持ち込み、より選びたくいない選択肢を選んだ。
目論見は嵌ったらしく、先制攻撃に成功
杉浦はレーヴァンテイル戦で見せた格闘用の魔法を使わずに対処してきた。
( ;´_ゝ`)(通用する、勝てない相手ではない!)
自分に暗示をかけるようにアニジャは胸中で呟きを繰り返した。
火球を放った後、すぐさま離脱。
追ってくるボルトールを嘲笑うように距離を引き離す。が。
( ^ω^)「高エネルギー反応!上空に、……三十!」
( ;´_ゝ`)「無理無理無理無理!やっぱ無理!」
空を割る音と共に稲光が雨のように降り注いだ。
アニジャはリュウジャは左右に身体を揺さぶらせ出来うる限りの回避を行う。
しかし、瞬き程の時間に現われて消えるそれを避けようとして避けるのは実質不可能。
防壁の上を、数多の電流が滑って抜けてゆく。
- 269 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:13:40 ID:cdPIdN4A0
( ^ω^)「レーダーが乱れる!相手の状態が特定できないお!」
( ;´_ゝ`)「嫌な予感がする」
リュウジャは速度を落とさず高度を下げた。
地面のスレスレを飛行し、砂埃を巻き上げ雷撃を避けるチャフ代わりに利用する。
( ^ω^)「……不味いこの反応は!」
雷撃が、突然ぴたりと止んだ。
開けた視界。再び上昇を始めたリュウジャたちの目に見えたのは、背中に雷を受けながら、角に光を蓄える黒竜の姿。
あ、と声を漏らす暇も無く、角が激しく明滅した。
溢れ出した青白い光が帯となってリュウジャへと放たれる。
反射的に身体を横に倒したその翼の直ぐ脇を光線が貫く。
通常、導体、絶縁体の三種の防壁が、何の抵抗にもならず切り裂かれた。
直撃していたら、と考えると背中に冷たい汗がにじみ出てくる。
(;'A`)「……雷を利用して、自分の魔力を補填してる」
(´<_`; )「それじゃ」
(;'A`) 「無限ではないけれど、魔力切れを狙ったりは出来ない」
( ;´_ゝ`)「元から、そのつもりは無い!」
- 270 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:15:40 ID:cdPIdN4A0
高速で低空を滑るリュウジャが急激なブレーキをかける。
その目の前を、再び光線が打ち抜いた。
リュウジャの風圧と雷光の衝撃で巻き上げられた砂埃が、一瞬でリュウジャを飲み込んでいく。
( ФωФ)「……やはり、今の奴に当てるのは簡単なことではないか。ビコーズ、ビフォーモード」
( ∵) ゴェ
::( ∵):: グググ
::(( ∴)゙:: グルン
::(( ∵)゙::グルルルン
::(( ∴)゙::グルルルルルン
::(("O)゙:: ィィィィィィン……
ボルトールの背中、妖精のビコーズの頭が高速で回転を始めた。
通常の切り替えとは異なり、目口と思しき点が繋がり一つの円のような模様を作り出す。
( ФωФ)「行くぞ」
受けたダメージが問題ない範囲であることを確認。
ボルトールが、砂煙湧き立つ地上に向かい、頭を下げる。
- 271 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:16:56 ID:cdPIdN4A0
ほんの僅かに砂埃に見える機影。
土色の煙を突っ切り、リュウジャが飛び出した。
ボルトールは角から通常の雷撃を放って向かえ打つが、防壁に阻まれる。
( ФωФ)「ぬうん!」
再び炎を纏い突進してきたリュウジャにボルトールはドリフトの要領で尾の先を薙ぎ放つ。
リュウジャは上方へ軌道を修正し回避。
アニジャは振り返っての反撃も考えたが、ボルトールの頭がこちらを向いていると判断しそのまま飛びぬけた。
ロマネスクは逃げるその後ろを、突発的な加速で追尾。
デレの張った防壁が再生する傍から削り取られ、風がギリギリと歯軋りを立てた。
その高速飛行のままで、ボルトール本体と上空の雲の両方から雷撃を放つ。
受け流すことで耐えるのが目的の耐雷防壁は、行き場を失い蓄積した電流に一気に熔かされた。
( ;´_ゝ`)「ッ!」
リュウジャが振り返り、後退飛行しながら口に火球を蓄える。
ほぼ同時に四発、ボルトールに向かって吐き付けた。
最早この程度の攻撃はボルトールには届かない。
黒い体から放たれる細い電流の線にいとも容易く破壊され、爆炎を撒き散らす。
敵の視界をある程度狭められた隙に、飛行魔法を強化。
逆Vを描く形で下方へ引き返す。
- 273 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:18:15 ID:cdPIdN4A0
人の目であれば、あるいはそれで見失っていたかもしれない。
( O) ェ゙
観測と管制を同時に遂行する妖精ビフォー。
人知には無い音を発し、ロマネスクにリュウジャの位置を報告した。
更には高度な軌道予想でその動きの先を読みそれも伝えてゆく。
ボルトールも直ぐに下方に頭を下げた。
上方から降りしきる雷と共に、リュウジャの背を目指す。
度重なる雷撃によりドロドロに蕩けた防壁は、既に性能を著しく落としている。
これを完全に引き剥がすため、ボルトールは全身に雷を蓄えた。
( ФωФ)「……てぇ!」
光線とも雷とも違う、巨大な稲妻の波動。
音よりも早く、光よりも辛辣にリュウジャの身体を飲みつくした。
( O) ェ゙
ζ(゚、 ゚*ζ「まだ、落ちてない!」
( ФωФ)「……ほう」
リュウジャが地上付近を砂を巻き上げながら一文字に飛んでゆく。
その身体に雷の直撃を受けた気配は無かった。
- 274 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:20:24 ID:cdPIdN4A0
( ;´_ゝ`)「怖い恐い!何で生きてんの?!」
(´<_`; )「だから、雷撃は任せろって言っただろ!」
ボルトールが巨大な雷のエネルギーを蓄えたその瞬間。
オトジャは防壁を電導体に変化させ、軌道とは別の方向へ切り離したのだ。
同時に新たな耐雷防壁を発動。
結果的に直撃を避け、余波に防壁を解かされる程度に収まった。
( ;´_ゝ`)「本当に流石過ぎてたまんないぞオトジャァ!!」
(´<_`; )「分ってるからさっさと倒せ馬鹿アニジャァ!」
既にオトジャはかなりの魔力を消耗している。
ドクオを通じリュウジャの分を少し分けてもらってはいるが、それもやりすぎは良くない。
ボルトールがこれだけの攻勢に出た時点で、消耗戦が不利なのはむしろアニジャ達の方なのだ。
リュウジャは直ぐに身体を反らし、上空へ。
間合いの開いたまま向かい合うボルトールの雷撃を真正面から受け、弾く。
( ;´_ゝ`)「ドクオ、ハックは?」
(;'A゚) 「話、かけん、な」
ドクオはブーンの感知能力を借りながらの電子線を繰り広げていた。
彼が敗れればブーンも間をおかずやられる。
そうなればリュウジャに勝ち目はない。
- 275 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:22:03 ID:cdPIdN4A0
( O) ……
( ФωФ)「ビフォー、デレ。乗っ取りは?」
ζ(゚、 ゚*ζ「侵食が60%から進みません」
( ФωФ)「……相手も必死だ。乗っ取りが不能でも、諦めず続けろ。妖精を自由にさせるな」
ζ(゚、 ゚*ζ「はい!」
防御と保護で手一杯のオトジャに対し、デレは比較的余裕を持って魔法を使っていた。
ビフォーの電子攻撃をサポートし、ドクオの乗っ取りを強行している。
その残り一手が上手く行かないのは敵騎助手であるオトジャがサポートに手を出しているからだ。
ζ(゚、 ゚*ζ(これだけの作業を同時に、それも、私よりも正確に……!)
(´<_`; )「ッ」
二竜が直近で交差する。
防壁がギリギリで掠め、互いの巻き起こす風圧によって飛行が乱れるその刹那。
騎助手同士の視線が絡み合い意思を覗きあい、距離によって引き離される。
ζ(゚、 ゚*ζ(負けない!負けない!負けない!)
ボルトールが一瞬で体を切り替え、リュウジャを追跡。
この間生まれた慣性の負荷をデレは全てキャンセルする。
同時に妖精への攻撃も手を緩めない。
- 276 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:23:27 ID:cdPIdN4A0
(´<_`; )「ドクオ、出来たか?!」
(;゙A゙) 「……出来た。ダミーデータ発動、敵騎妖精の電子攻撃をダミーシステムへ誘導する!」
オトジャが片手間に援護をし電子攻撃を抑える間、ドクオは自身の情報とそっくりの分身データを複数生み出していた。
これを回線に紛れ込ませ、敵の攻撃を散らす。
分散させてしまえばドクオ一人でも何とか対処できる。
(´<_`; )「きつくなったら直ぐに言え!援護に回る!」
(;'A`) 「まっか。せろ。こんちくしょ!」
オトジャは直ぐにドクオとの連携を解除し、防壁の維持に回った。
ほぼ絶え間なくリュウジャを襲い続ける雷は一撃一撃が必殺級の火力を持っている。
竜と騎手たちの身体を守る耐電保護は、即死を防ぐ程度の役目を果たせるかすら分らない。
全てはこの防壁をどこまで維持できるかにかかっている。
( ^ω^)「……雷電によるノイズリセット完了」
ブーンは自発的に雷による感知機能の乱れを調整し、本来の力を取り戻し始めていた。
視界を雷で覆われる中、彼の力は必要不可欠だ。
( ^ω^)「騎手と思考をリンク!アニジャ、探知データのあれやこれやを送り込むお!死ね!」
( ;´_ゝ`)「死んでやる!来い!」
- 277 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:24:50 ID:cdPIdN4A0
偏頭痛の際に、頭を揺さぶられた時の痛みを三倍くらいにした衝撃、と表わすと想像に容易い。
アニジャの脳に五感とは更に別の、ブーンの感知能力による情報がなだれ込む。
過負荷に脳が軋む痛みをアニジャ手綱を握り締めて耐えた。
リュウジャとボルトールの位置関係が手に取るように分る。
背後を雷撃と共に追跡してくるボルトールを見ずに把握。
( ;゚_ゝ`)「リュウジャ!オトジャ!」
安全な距離を取れていることを把握しリュウジャは身体を横に滑らせて振り返った。
両の眼が黒竜の姿を捉えたその瞬間、爆破魔法を放たせる。
オトジャのサポートが入った、強化追尾式。
威力をレーヴァンテイル並に引き上げ、さらに少し程度の回避なら機動を変えて直撃する。。
( ФωФ)「ボルトール!!!!」
僅かの遅れもなく、ボルトールが角から閃光の帯を放った。
青白い光線は、濃密な熱の雫を撃ち捉え、二つのエネルギーの邂逅に空間が軋みのような悲鳴をあげて歪む。
それは音ですらなかった。
歪みに歪んだ衝撃の渦は、蝋燭を消すような容易さでリュウジャの身体を吹き飛ばす。
オトジャは一旦全ての意識を慣性コントロールに回したがそれでも間に合わない。
リュウジャが気流を捕まえ、何とか身体を安定させたその時には、オトジャの目から血の雫が溢れていた。
多重の魔法管理、妖精、竜とのリンクは尋常ではない負荷を伴う。
上手くゆとりを作って耐えていた限界のラインを、今の爆発が超過させてしまったのだ。
- 278 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:25:54 ID:cdPIdN4A0
( ;゚_ゝ`)「オトジャ、休め!」
(´<_`,)「一瞬越えただけだ!いける!」
未だグツグツと空を煮る爆炎の真っ只中に黒い点が現われた。
ボルトール。色のせいでダメージがあるのかどうか全く分らない。
猛然と迫るその巨躯から、リュウジャは背を向けて距離を取る。
(´<_`,)「それに、俺無しで何秒耐えて終わるつもりだ?」
稲光が目を、耳を劈いて通り過ぎてゆく。
その通り。竜の回避でどうにもならない雷撃に対処するには、騎助手を休ませている余裕は無い。
戦う限りは、常に全開で無ければならないのだ。
( ;゚_ゝ`)「こうなったら、意地でも決めるぞ!」
リュウジャは一瞬の下降。
すぐさま身をそらせ、ロールを交えて振り返る。
( ;゚_ゝ`)「リュウジャ!」
リュウジャが、全身を震わせて咆哮。
呼応するように紅蓮の炎が周囲を包み込む。
竜のみでは最高の出力を維持し、炎鳥と化したリュウジャはボルトールに突っ込んだ。
- 279 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:27:22 ID:cdPIdN4A0
リュウジャの雄たけびに呼応するようにボルトールも歓喜の震えを咽から吐き出した。
巨大な落雷一つ、身体に受け、青白く発光しながらリュウジャを向かえ撃つ。
迫る二頭の竜。
リュウジャは炎の鎧を維持したまま火球を三つボルトールに放った。
これを意にも介さず角で貫き振り払い防御。
ビフォーの弾き出した敵騎の位置目掛けて、雷を纏った尾を体ごと薙ぎ振るう。
炎鳥は、飛び越えるように上昇し尾を回避。
そのまま前転、捻りを加えボルトールの背中を望む。
しかし、尾を振るった黒竜とロマネスクの目は、その姿をしっかり捉えていた。
角が明滅し、これまでで最も広範囲の閃光が放たれる。
炎の鳥竜は意識するよりも早く光の中に飲み込まれていった。
しかし。
( O) ェ゙ !
確実に撃ち貫いたはずのリュウジャの反応は、ボルトールの真下にあった。
身体に薄く薄く炎熱のベールを纏い、高速で錐揉み回転している。
( ФωФ)「ッ?!」
ロマネスク、ボルトール、両者の反応は、僅かに間に合わない。
- 280 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:28:25 ID:cdPIdN4A0
( ;゚_ゝ`)「らああああああ!」
灰色の空に、水面の如き波紋が走る。
爆発させるように飛行魔法を発動したリュウジャは、螺旋回転のままボルトールの腹へ突撃した。
首を丸め炎熱のバリアを全面に押し出し、削岩するようにボルトールの身体へと食い込んでゆく。
硬い甲殻が抉れ、受け止めようとした前足が弾かれる。
さしもの剛竜もこれには顔を歪めさせた。
駆け抜ける痛みの信号が、あらゆる攻撃をキャンセルさせる。
二竜は不恰好な結合を果たしたまま、空を斜めに上ってゆく。
ボルトールは慣性と痛みに耐えるのが精一杯で逃れることが出来ない。
( _ゝ )「があああああああ!!」
攻撃手であるリュウジャたちも、決して楽ではない。
回転の慣性は既にオトジャの制御できる範囲を超え、鞍ごとリュウジャの背中から外れてしまいそうだった。
ζ( 、 *ζ「ロマ、ごめんなさい。最後までお付き合いできないかも」
( ;ФωФ)「デレ?」
ζ(゚、 ゚#ζ「ビフォー!ボルトールの神経信号を私に仲介、ダメージを中和し、竜の精神の平定を保ちます」
( ;ФωФ)「ッ!デレ!止めるである!」
- 281 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:30:41 ID:cdPIdN4A0
ロマネスクの制止も聞かず、デレは自身とボルトールの痛覚を混線させた。
これにより、ボルトールの感じていた痛みは分散。
苦痛によって乱れていた思考は明晰を取り戻す。
その代わり。
ζ( #ζ「ううううううううううううッ!!」
残りはデレに。
竜の中でも耐久力の高いボルトールが苦しんだ痛みの、五割超。
それは十分に人間の精神を破壊しうる。
( #ФωФ)「ボルトーォォォォォル!!!」
人竜一体の雄たけび。
ボルトールの体が激しい明滅を起こし、たたけましい音と共に数多の雷光がリュウジャに向けて放出された。
( _ゝ )「ッ!」
一点へ集中していたリュウジャの攻撃が、推し戻される。
再びの咆哮と同時に雷撃は更に過激さを増し、炎熱の鎧ごとリュウジャを飲み込んだ。
衝撃とダメージで飛行魔法が解け、リュウジャの身体は落下を始める。
金色に輝いていたその目は、ぐるりと白を向いていた。
- 282 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:31:33 ID:cdPIdN4A0
( _ゝ )
落ちていく。
手綱を引いてもリュウジャの反応はない。
負けだ。
頑張ったけれど、頭をフル回転させたけれど、ダメだった。
でも、いいじゃないか。
あのボルトールを、あそこまで追い込んだ。
きっと、推薦だってもらえる。
正竜騎手にだってなれる。
リュウジャと離れなくても済むのだ。
後はこのまま落ちれば、きっと救護班が受け止めてくれる。
痛いのも辛いのも終わりだ。
いいじゃないか。それで。
( _ゝ`)
薄く開いた目に映る、ボルトールの姿。
こちらへ全力で向かってきている。
なんだよ、助けてくれるのか?
ああ見えて、杉浦は優しいから。
いや。違う。あれは。あの目は。
再び飛ぶことを信じている、戦いの目だ
- 283 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:32:30 ID:cdPIdN4A0
( # _ゝ)「リュウジャァァァ!!」
手綱を命一杯引き上げ、首を両の踵で首を叩く。
( # _ゝ)「違うんだよ!竜騎手になりたいとか!そんなんじゃ!」
引きちぎれるほど引かれた手綱。
リュウジャは口をだらしなく開いて動かない。
( # _ゝ)「飛んでいたい!俺は、この空を誰よりも」
青筋を浮かべるアニジャの手に、後ろから力強くもう一つの手が添えられた。
優しい魔法の光が手綱を通じてリュウジャの頭へ伸びる。
( #゚_ゝ)「だから!!俺に……ッ」
金の瞳が煌く。
爆発かと見紛うほどの風が地面を抉った。
大きくクレーターになった砂地の中心、地面から僅かに浮いたところでリュウジャは空を睨んでいた。
(´<_`,)「とんでもない身の程知らずわがままだ」
(´<_`,)「でも、気に入った。行くぞ、アニジャ」
( #´_ゝ)「……おう」
兄弟は、再び空へ。
- 284 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:33:37 ID:cdPIdN4A0
唸りを上げたボルトール。
踏ん張ったリュウジャ目掛けて、連続で角から閃光を放った。
リュウジャは羽のように軽やかにその場を離れると、滑らかな飛行で閃光をやり過ごす。
狙いがずれているわけではない。
ビフォーは依然として機能し、その軌道を読んでいる。
それを、アニジャは超えてきているのだ。
ζ( 、 ゚*ζ「……ロマ、やろう。全力で倒そう」
( ФωФ)「……」
ζ( 、 ゚*ζ「私なら大丈夫。私にも負けたくない理由、あるから」
( ФωФ)「ふん。是非もなし」
ロマネスクは地上へ向けていた進路を切り替え、一転空を目指した。
リュウジャは、一気に加速しその背後を追う。
ダメージもあり動きの重いボルトール。
その腹には筋膜まで抉られた大きな傷があり、いまだに血を滴らせている。
一方のリュウジャも、意識を取り戻したとは言え雷撃を食らったダメージは尋常ではない。
いくら飛行魔法を使おうとしても、最高の速度は出せずにいた。
- 285 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:34:26 ID:cdPIdN4A0
元々上空にいたアドバンテージを活かし、ボルトールはより早く上空の曇天の中へ突っ込んだ。
僅かに遅れたリュウジャは、上昇を止め雷雲から離れて様子を見る。
俄かに、黒雲が渦を巻き始めた。
ボルトールが入った一点目掛けて雲が引き込まれていく。
( ^ω^)「……高エネルギー反応を観測」
(;'A`) 「おいおい、一頭の竜が扱えるレベルじゃないぞ」
(´<_` )「……来るぞアニジャ」
丸く、繭のような形状をとった黒雲。
それが、羽化する前兆のように蠢き始め。
くぐもった音と共に、弾けた。
リングのように広がり地平の彼方まで吹き飛ぶ黒雲。
一転して青を取り戻した空には、唯一頭、ボルトールの姿だけがあった。
(;'A`) 「うそだろ、なんだよあれ」
ボルトールの全身に、赤い光の線が走っていた。
鱗の隙間から漏れ出し網目の模様をしている。
鬣はより赤く炎のを思わせる動きで揺らめき、同色の粒子を陽炎のように立ち上らせていた。
- 286 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:35:23 ID:cdPIdN4A0
( ^ω^)「……魔王」
ブーンが呟いた。
残りの三人も主に同じ感想を浮かべる。
赤い光を仄めかせるボルトールが、リュウジャへ向かって飛び込んだ。
アニジャは素早く手綱を捌き、その突進をかわす。
頬が痺れる空気の擦過音。
速い。
万全のリュウジャに並ぶほどだ。
過ぎ去り落ちてゆくボルトールを、リュウジャは必死で追いかける。
珍しい体験だった。
飛べば飛ぶほど、引き離されてゆく。
しかも、自分より巨大な竜に。
連なったまま、二頭は地面をかすめU字に上昇。
空を上りきる途中で、ボルトールは横へ真っ直ぐ機動を変える。
リュウジャは、同じ高度に達した時点で、追跡を止めた。
ロマネスクの意図を読んだのだ。
両者の距離が開いたことを確信したロマネスクも、高速移動を止めゆったりと止まる。
- 287 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:36:49 ID:cdPIdN4A0
( ´_ゝ)「オトジャ、後どれくらい無理が利く?」
ζ( 、 ゚*ζ「どれくらいなんてけちなこと言わず、何時間だって無理してあげますよ」
( ФωФ)「ビフォー、ボルトールの魔力残量は?」
(;'A`) 「残り、30%ちょいだ。まだ、何度かいける」
同様の会話を終えた二竜は、相手が指先よりも小さく見える距離を挟んで睨み合った。
ほんのひと時の静寂が、間を流れてゆく。
そして。
( #´_ゝ)「行くぞ!」
( #ФωФ)「これで終わりにしよう!」
羽ばたき二つ。その距離は瞬く間に狭まってゆく。
リュウジャは紅蓮の鎧を身に纏い。
ボルトールは紅雷を走らせながら。
- 288 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:38:28 ID:cdPIdN4A0
邂逅の時。
ボルトールの前足の振り下ろし。
リュウジャは右へひらめき、回避し直ぐに向き直る。
ボルトールは側転しながら、尾先の振り上げ。
これに沿うようにリュウジャは空中を回り、背中に張り付いた。
背中に狙いを定め放つ火球は、口元でデレの防壁により暴発、怯ませられる。
この隙に回転を続けたボルトールは、そのまま尾を振り薙ぎ払った。
あえて間合いを詰め、リュウジャは尻尾の根元に翼手を使いしがみ付く。
振りほどかれた勢いを利用し距離を取る。
ボルトールはその背中に赤い雷撃を放った。
それは防壁の表面を滑るも、唯の一撃で防壁を溶かしてしまう。
身体を切り返し、再び向き返るリュウジャ。
そこへ、ボルトールが広範囲への放電で迎え撃つ。
オトジャ元々三重一式の防壁を、更に二枚に重ねた。
目と鼻からどす黒い血が零れだす。
強引に間合いを詰めたリュウジャは超至近距離で爆破魔法を放つ。
物理攻撃の間に合わない絶妙な間合い。
ボルトールは素直に魔法を避けさせられる。
この隙を逃がさない。
炎と共に回転して飛び込むリュウジャ。
しかし、ボルトールは絶妙なロールで回避、逆にリュウジャの背中を取った。
- 289 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:39:38 ID:cdPIdN4A0
( ^Д^) 「……」
中継のビジョンの前、広場に集まった人々は悲鳴のような声援を挙げていた。
最早一般人にはどちらが優位かなどはわかっていないだろう。
尚も続く攻防。
時に距離を取り、時に詰め、時に炎を吐き、時に雷光を放ち、時に食らいつき、時に尾を振るう。
どちらも、一撃たりとも直撃は無い。
見ているだけで肌がヒリヒリと震えた。
その場に居るだけで得も言われない高揚感があった。
( ^Д^) 「いいなあ、羨ましいなあ」
二頭の竜は一切の休み無く飛び続けている。
にも関わらずその動きは衰えを知らず、ますます加速しているようにすら見えた。
( ^Д^) 「楽しそうに飛びやがって、あの糞野郎ども」
しかし、いつまでもそれは続かない。
終わりの時は着実に近づいていた。
- 290 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:40:28 ID:cdPIdN4A0
( <_゚ )
ζ( ゚*ζ
目から鼻から耳から、そして食いしばりすぎた歯茎からも血を漏らす竜騎助手。
( _ゝ)
( Фω )
手袋が擦り切れ血を滲ませながらも、魔法の余波で肌を焦がしながらも動くことを止めない騎手。
観客の多くが想っていただろう。
何故彼らはこうまでして戦うのだ、と。
その理由は、竜の背に乗り空を駆けた者しか分らない。
意地というには無様。
誇りというには下品。
共に空を飛んだことのあるプギャーですら、その感覚をどう表わしていいか分らない。
ただただ最高に気持がいいことだけは、間違い無いのだけれど。
- 291 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:41:08 ID:cdPIdN4A0
二竜の距離、およそ300。
恐らく全ての人間が確信した、最後の瞬間であった。
一度、勢いをつけるようにロールし、炎を纏うリュウジャ。
身体を開き、雄たけびを上げ紅雷纏うボルトール。
両竜が惹かれあうように間合いを縮めてゆく。
リュウジャが放った三つの火球をボルトールが雷撃で打ち落とす。
広がった爆炎が両者の視界を飲み込んだ。
ボルトールは下へ抜ける。
リュウジャはそれを読んで上へ。
裏をかかれることを想定したロマネスクは直ぐに雷撃を上へ放つ。
- 292 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:42:28 ID:cdPIdN4A0
( Фω )「っ!」
稲妻は、オトジャが残したダミーへ引き込まれる。
リュウジャが絶叫に近い雄たけびを上げた。
身体が回転し、頭が烈火に染まる。
( ゚_ゝ)「いけえええええええええええ!!!」(<_゚ )
リュウジャは残りの魔力の全てを、炎と推進力につぎ込んだ。
交差し盾となったボルトールの腕甲と衝突し、僅かな内に削り取って行く。
攻撃の手を休めず、オトジャがリュウジャとリンク。
飛行魔法と火炎の鎧を無理やり強化し、破壊力を強引に引き上げる
対するボルトールも同じく、デレがリンクし火力を増した雷撃を放つ。
乱れ混ざる熱と雷撃。
明滅する赤い光は容赦なく両者の身体を破壊してゆく。
- 293 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:43:34 ID:cdPIdN4A0
( #Фω )「おおおおおおおおお!!」
ロマネスクの心を満たしたのは、興奮。
そして、負けるかも知れないことへの恐怖。
初めて竜に乗った頃ですら、これほど楽しい戦いは無かった
ここまでボルトールが傷つけられたことも無かった。
自分の未熟さを発見するのが楽しくて仕方ない。
アニジャは、予測の先のその先をついてくる。
計算か偶然かなどどちらでもいい。
苦戦している。その事実が脳が涎を垂らす程の興奮を生む。
この攻撃を何とか凌がなければ、否、反撃しねじ伏せるまで行かなければ負け。
無理に押し返そうとしたら何をされる?
攻撃魔法で吹き飛ばそうとしたら何をされる?
このままでいたらどうなってしまう?
一秒にも満たない逡巡。
答えの見えない難題。
その瞬間、杉浦ロマネスクは、確かに笑っていた。
- 294 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:44:52 ID:cdPIdN4A0
( #゚_ゝ)「あああああああ!」
ロマネスクがどんな返しをしてきても更に反撃につなげられる自信があった。
まるでリュウジャと体が一つになっているようだ。
音も光も臭いも味も痛みも、興奮さえも自分のもののように感じ取れる。
脳が開いた。
言葉にするならそんな感じだ。
いつもは煮詰まって押し込められている思考が、大空のように次々広がってゆく。
押し返してきたら。
更なる魔法で来たら。
このまま行くなら。
思いつく限りの詰めの手順。
もしこの外側の答えを出してきたら?
もっと広い思考を持ってきたら?
背中に汗が噴出す。
回転の遠心力で外へ流れてゆく。
読んでも読んでも勝ちが見えない。
それでいい。
勝利は読むものではない。
実際に掴み取るものだ。
- 295 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:46:27 ID:cdPIdN4A0
様々な思惑が、ほんの数瞬の間に飛び交った。
地面まではあとわずか。
ここでロマネスクの出した答えは。
( #゚_ゝ)「ッッ?!」
全部。
交差していた前足を素早く上下にずらし、防御を解く。
秒と言うには短すぎる時間の合間に、リュウジャの回転に沿って身体を捻り、自由になった前足でリュウジャの首を、轡を掴む。
弾かれそうなところを、回転に自分が会わせる事で相殺した。
その一連の動きの全てが、僅かずつアニジャの反応を上回る。
黒の巨体が、リュウジャと共に回転を始めた。
重みが加わったせいで、本来の速度が死に、破壊力は断然落ちる。
剛力で締め付けられ逃げ場を失ったリュウジャは必死で足掻くが逃げられない。
そこへ前足を通し、直接雷撃がぶち込まれた。
(<_ )「ッッ!?」
竜の前に、人の魔法などは紙も同然。
直接流しこまれた電流に防壁は役に立たず。
ダメージを少しでも軽減しようとした保護の魔法も、苦しみを長続きさせるだけ。
- 296 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:47:50 ID:cdPIdN4A0
リュウジャが顎を開いた。
確実にダメージを受け、辛うじて耐えている状態だ
しかしボルトールは離さない。
リュウジャの体表を覆う灼熱の鎧が肉を焼くが、構わない
後はこのまま、リュウジャを地面に叩きつける。
それで、終わりだ。
( #Фω )「今である!」
ロマネスクの出した、ブン投げの指示。
僅かに聞えたのは、弱弱しいが確実な、もう一つの指示の声。
( O) ェ゙ !
妖精が叫んだのと同時。リュウジャの身体を覆っていた熱の膜が、口先に集中した。
リュウジャの口は、ボルトールの胸元に押し付けられている。
( #Фω )「ッ!」
咄嗟の判断だった。
まだ投げの途中、リュウジャを手放す。
真横に投げ出された赤い体。
その半開きの口に、何より赤い炎熱の玉。
- 297 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:49:09 ID:cdPIdN4A0
それが、消えたと誤解するほどの速度を持ち、ボルトールの肩を貫いた。
甲高い擦過音に遅れて、貫通した傷口から鮮血が噴出しロマネスクの顔を濡らす。
( ´_ゝ)
( Фω;;)
二人の騎手の視線が交差した。
物理的には、交わるはずの無い位置にいたはずだ。
それでも二人は、互いの目を確かに見ていた。
ドンッと、重くも短い音が砂漠に響く。
熱砂の上、衝撃で砂を吹き飛ばし横たわる二頭の竜。
両者、呼吸浅く。
意識なし。
それぞれの騎手騎助手は投げ出され、砂の上。
駆け寄った審判は、この戦いを中継する妖精に向かって真っ直ぐに、旗を振り上げた。
** ** **
- 299 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:50:52 ID:cdPIdN4A0
-
エピローグ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
.
- 300 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:52:32 ID:cdPIdN4A0
( ´_ゝ`)「……オトジャ?」
奇妙な静けさに、アニジャは目を覚ました。
視線を振り回してまず初めに隣に座る弟の存在に気がつく。
(´<_` )「起きたか?」
( ´_ゝ`)「うん、あれ、俺達……」
数秒の沈黙、アニジャは跳ねる様に飛び起きる。
そして身体に走る痛みに身もだえした。
( ФωФ)「無理するな。骨に異常は無いそうではあるが、全身打身だらけである」
( ;´_ゝ`)「す、杉浦?!なんで?!」
( ФωФ)「何でも糞もないである。ここ、戦域近くの診療所であるよ」
( ´_ゝ`)「しん、りょうじょ?」
( ФωФ)「傷や病気を治してもらうところである」
( ;´_ゝ`)「それくらい分る、馬鹿にすんな!」
- 301 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:53:42 ID:cdPIdN4A0
ζ(゚、 ゚*ζ「あ、あの、アニジャさんは結構強く頭を打ったらしいので、少し休んでいた方が」
( ;´_ゝ`)「亜麻井も、そりゃあ、いるか……」
アニジャは周囲をゆっくりと見渡す。
木組みにレンガ造り。
この国では一般的な建物だ。
それほど広くない室内に、ベッドが四つ。
丁度彼ら四人で埋まっている。
( ;´_ゝ`)「それで、あの、勝敗は?」
おずおずとオトジャを見る。
暗い顔して中々答えないので首を回しロマネスクを見る。
相変わらず何考えているか分らない顔なのでその向こうのデレを見る。
ζ(゚、 ゚*ζ「え、えっとですね」
( ´_ゝ`)「うん」
ζ(゚、 ゚*ζ「……私達の、勝ち」
- 302 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:55:47 ID:cdPIdN4A0
( _ゝ )「……ッ」
アニジャががっくりと頭を下げるその寸前、オトジャがものすごい勢いでデレに向かって枕を投げた。
間にいたロマネスクはあっさりと交わし、ボフッという音と共にデレの頭に直撃する。
(´<_` )「適当なことを言うな、亜麻井」
ζ(゚、 ゚*ζ「だ、だって!あの状況どう見たってロマの技ありじゃ無いですか!」
(´<_` )「馬鹿め。アニジャの咄嗟の指示でボルトールの肩が撃ちぬかれたことを忘れたか。そもそもあの状況に……」
質問したアニジャを置いてきぼりにして、オトジャとデレが口論を始める。
何がなんだかよく分らないアニジャは、そっとロマネスクを見た。
( ФωФ)「この状況で何となく察せぬか?」
( ´_ゝ`)「寝起きなのもあってかさっぱり」
( ФωФ)「……竜から降りると存外鈍い男であるな」
ロマネスクは、長い指でポリポリと、眉間を掻いた。
デレとオトジャの言い合いはなんだか訳の分らない方向に向かっていたので完全にスルー。
( ФωФ)「引き分け、である」
( ´_ゝ`)「……はい?」
- 303 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:57:00 ID:cdPIdN4A0
つまりは、二竜の落下は同時とみなされたのだ。
この事態は珍しらしく、審判も混乱していたという。
本来であれば、二竜が同時に落ちた場合、仕切りなおしとしてもう一度戦わせたりもするのだが。
( ФωФ)「我輩たちも、貴様らも気絶していてそれどころではなかったであるからな」
( ´_ゝ`)「引き分け、引き分けかぁ……」
ζ(゚、 ゚*ζ「決勝戦で引き分けは前代未問らしいですよ」
(´<_` )「再戦できないかと聞いてみたんだがな、祭事だから必要以上に時間は延ばせないとさ」
オトジャの言葉を聴きながらも、アニジャはベッドに倒れた。
これまでの比ではない疲労感が身体に居座っている。
( ´_ゝ`)「……でも、ま、いっか、楽しかったし」
そして、恐らくこの場でもっとも楽天的なことを言い放つ。
オトジャは何か言いたげに片眉を潜め、デレは馬鹿がいるという顔でアニジャを見ていた。
ロマネスクだけが、同意と言いたげな涼しい笑みを浮かべている。
(´<_` )「よくもまあ、簡単に言ってくれる」
ζ(゚、 ゚*ζ「ついさっきまで、殺し合い同然のことしてたとは思えない能天気さ……」
- 304 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:57:44 ID:cdPIdN4A0
( ´_ゝ`)「だって、仕方ないだろ。竜騎手同士の私闘は禁じられてるし、今更勝敗が決められるわけじゃない」
( ФωФ)「そうである。良い戦いであった。勝ちたくなかった、といいたいわけでは無い」
( ´_ゝ`)「そうそ」
(´<_` )「……」
全力を賭して、全部受け止める。その言葉に嘘は無いらしい。
これまでのアニジャであれば、負けではないとは言え落ち込んでまともに話すことすら出来なかっただろう。
それだけ、充実した試合だったのは本当かもしれない、とオトジャも息を吐いて納得した。
( ´_ゝ`)「決着はつけたいけどさ。流石に、決着つけたいがために謀反起こすわけにも行かないし」
( ФωФ)「……その手があったか」
ζ(゚、 ゚*ζ「ちょっと、ロマは竜のこと以外お馬鹿なんだから変なことふっこまないでください!」
(´<_` )(……今、亜麻井に更なる親近感を覚えた自分がいる)
デレの言葉を借りれば先ほどまで殺し合い同然のことをしていた四人。
本当に一歩間違えれば命を落としてもおかしくない場面は山ほどあった。
しかし、今は和やかに話をしている。
それも、試合の前よりも親密さをもって。
(´<_` )(……ま、俺達全員馬鹿ってことか)
- 305 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:59:02 ID:cdPIdN4A0
( ´_ゝ`)「あ!そうだ!表彰式とかどうなんの?」
(´<_` )「係の話だと、別のプログラムを前倒ししているらしい。場合によっては後日だそうだ」
( ´_ゝ`)「……ふーん」
アニジャはゆっくりとベッドから降り、木の窓を開けた。
目の前に広がる砂漠。
空は少しずつ薄くなっているが、まだまだしっかりと青を保っている。
( ´_ゝ`)「ちなみにリュウジャとボルトールは?」
(´<_` )「リュウジャは、電撃のダメージが大きかったが、骨格には特に問題ない。今は厩舎で魔法治療されてる」
ζ(゚、 ゚*ζ「ボルトールは傷の修復自体は殆ど済んでます。鱗や甲殻の修復はもう少しかかりますけど」
( ´_ゝ`)「そっかぁ……」
(´<_` )「……何か、良からぬ事企んでるだろ?」
( ´_ゝ`)「どうせなら、競争しようぜ」
( ФωФ)「は?」(´<_` )ζ(゚ー゚*ζ
** ** **
- 306 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/27(火) 00:00:40 ID:tq7DxDWw0
l从‐、 ‐ノ!リ人 「アニ兄者……オト兄者……心配なのじゃ……」
∬;´_ゝ`) 「ほら、一応無事だって連絡はあったんだから、そんなに落ち込まないの」
l从・、 ・ノ!リ人 「だって、もう一時間以上たったのに、目を覚ましたって連絡すらないのじゃ……」
∬;´_ゝ`) 「そらそうだけど……」
最終戦が引き分けという劇的な最後を迎えてから、一時間半ほど立った広場。
竜騎武闘の為の設置は既に取り払われ、変わりに出てきたステージの上で民族舞踊が披露されている。
それなりに人は残っているが、やはり竜騎武闘程の賑わいはない。
イモジャが座り込んでいるのは、広場を少し外れたところにある祭の運営の本拠となっているテントの前だ。
衛兵が並び、近くには仮設の厩舎や診察所もある、祭りの心臓部である。
∬;´_ゝ`) 「ほらもう、せっかく写真機持って来たんだから、踊ってるお姉さんのお尻見に行こう」
l从・、 ・ノ!リ人 「お尻は魅力的だけどここにいるのじゃ。いち早く兄者達の無事を確認したいのじゃ」
∬;´_ゝ`) 「そんなこと言ったって、本部には関係者以外は入れないんだから……」
ぐずるイモジャの扱いに困っているアネジャの目の前に、一人の男が通りかかる。
初めて見るが、どこかで見たような……。
- 307 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/27(火) 00:01:34 ID:tq7DxDWw0
∬;´_ゝ`) 「あ、メメメオンに乗ってた人!」
( ^Д^)+ 「ん?なんだ?俺のファンか?」
メメメオンの騎手、プギャーだ。
手には屋台で買ったと思しき食料品の類を抱えて、診療所へ入るところだった。
声をかけられ振り向いて、アネジャの顔を見て硬直する。
( ^Д^) 「……アニジャが。女になった、だと?」
∬;´_ゝ`) 「久々の反応!その話は後でいいわ。貴方騎手候補生よね?本部に入ったり出来る?」
( ^Д^)+ 「ん?まあ俺クラスになると本部とか顔パスだけど」
その返事を聞いてイモジャが激しく顔を上げる。
目には涙を蓄え、プギャーを見つめる。
( ^Д^)+ 「どうしたお嬢ちゃん。俺に惚れても辛い思いするだけだぞ」
l从・∀・。ノ!リ人 「お願いがあるのじゃ!卑怯の人!」
( ^Д^) 「うん。そこまで俺を知ってるならせめて名前で呼ぼうか」
- 309 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/27(火) 00:04:06 ID:tq7DxDWw0
( ^Д^) 「なるほど、そういうことか」
要領を得ないイモジャの代わりにアネジャが事情を説明するとプギャーはあっさりと承諾した。
屈んでイモジャの目線にあわせ、イモジャの頭を優しく撫でる。
( ^Д^) 「安心しな嬢ちゃん。俺がちゃんと聞いてきてやるよ」
l从・∀・*ノ!リ人 「アリガトウなのじゃプギャーちゃん!」
( ^Д^) 「いいってことよ。いいか、帰ったら友達に「プギャーはイケメン」って言うんだぞ」
l从・∀・*ノ!リ人 「分ったのじゃ!プギャーちゃんはイケメンなのじゃ!」
それだけイモジャに刷り込むとプギャーはテントへ入って行った。
顔パス、というより祭りの係員が山ほどいることを利用し、係員の振りをしながら入ったという感じだ。
少し待っていると「関係者以外は立ち入り禁止」的なことを説教されながらも颯爽と飛び出してきた。
l从・∀・*ノ!リ人 「イケメンちゃんどうだったのじゃ?」
( ^Д^) 「いや、なんか」
∬´_ゝ`) 「やっぱりダメだった?」
( ^Д^) 「違う、もう目を覚まして、こっちに向かってるって」
∬´_ゝ`) 「え?」 l从・∀・ノ!リ人
** ** **
- 311 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/27(火) 00:05:45 ID:tq7DxDWw0
( ´_ゝ`)「なー、杉浦!こうやって空を飛ぶのも悪くないな!」
( ФωФ)「ふん、貴様に言われんでも知っているわ」
空を駆けるのは心地がいい。
日が傾き、熟れかけの柑橘のようなグラデーションの空は透明な匂いがする。
( ´_ゝ`)「いいか?先に着いたほうが勝ちだからな」
( ФωФ)「是非も無し!」
(´<_` )「…ったく、こんなんで決めるのかね」
ζ(´ー`;*ζ「まあ、いいんじゃないですか?もう戦うだけの余裕は無いし、これなら問題もないし」
( ´_ゝ`)「オトジャ!ちゃんと魔法張ってくれ、鞍無いから辛い」
(´<_` )「俺の脳に死ねと」
落下の際に壊れてしまった騎乗具。
今四人はそれぞれ裸の竜に跨っていた。
大きなボルトールはともかく、小柄なリュウジャは鞍と鐙が無いと少々乗りずらい。
オトジャは翼の根元の胴を足ではさみ、アニジャはリュウジャの首に抱きついて飛んでいた。
妖精の二匹も羽を広げて自由飛行している。
ドクオの方は速度について来れず、リュウジャの頭にしがみ付いていたが。
- 313 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/27(火) 00:07:41 ID:tq7DxDWw0
( ´_ゝ`)「杉浦!正竜騎手になれたら、もっと勝負しよう」
( ФωФ)「む?」
( ´_ゝ`)「何もガチンコって訳じゃないんだ。ただ、竜騎手としてさ」
( ФωФ)「……良いであろう。我輩も、勝負はつけたいと思っていた」
( ´_ゝ`)「他の竜騎手もさ、みんなで。どいつもこいつも空と竜が好きな馬鹿ばっかだろ?」
( ФωФ)「ふん、貴様に馬鹿といわれたら、溜まらんであるな」
ζ(゚、 ゚*ζ「なんか、いつの間にか仲良くなっちゃって」
(´<_` )「……馬鹿同士気が合ったのかもな」
( ФωФ)「貴様とサスガ弟も、随分仲良くなったようであるな、デレ」
ζ(゚、 ゚;*ζ「フォヴォォォ?!」
( ФωФ)( ´_ゝ`)(フォヴォォォ?)(´<_` )
- 314 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/27(火) 00:09:37 ID:tq7DxDWw0
四人の目に目的の街、VIPが見えた。
それまで並んでいた二竜の騎手が、目を合わせる。
( ´_ゝ`)「よーし、ドクオ、ブーン、置いてかれるなよ」
( ^ω^)「おっおー!」
(;'A`) 「ちょ、おれ、飛ぶの苦手」
リュウジャが羽を広げ、滑空の勢いで加速する。
ボルトールも続くが、やや出遅れた。
( *´_ゝ`)「いっけえええ!」
目的地はVIPの広場。
未だ人が残り催しを見物しているそこへ。
気付いた人々が驚いた目を向ける。
群集の中に妹を見つけた。
まだ幼い、小柄な身体で一生懸命こちらに手を振っている。
隣にいるのはプギャーだ。
何か妙にイモジャが懐いているのは気のせいだろうか。
- 315 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/27(火) 00:11:21 ID:tq7DxDWw0
( ´_ゝ`)「よーし、降りるぞ!」
風は良好。
日差し柔らか。
( ^ω^)「着地目標地点安全確認」
試合には勝てなかった。
でも不思議と満たされる感覚がある。
(;'A`) 「あ、あばばばば!妖精用、騎乗鞍、ください!」
どこまでも続く青の広さ。
羽ばたけば羽ばたくほど思い知る高さ。
(´<_`; )「ったく、なんだかしまらないな、俺達」
いくら手を広げても小さい自分。
いくら飛び上がっても届かない掌。
( *´_ゝ`)「ははっ!まあ、流石俺達ってことで!」
リュウジャが楽しげに、一つ嘶きを上げる。
- 316 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/27(火) 00:12:54 ID:tq7DxDWw0
それでも、飛ぶことは止めない。
辛くとも、虚しくとも。
絶対に飛び続けるだろう。
空が白いから。
空が青いから。
空が赤いから。
空が黒いから。
なんかよくわかんないけど、とりあえず空が好きだから。
そして、何より二人は、竜の友。
竜騎手なのだから。
- 317 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/27(火) 00:15:35 ID:tq7DxDWw0
( ´_ゝ`)双子は竜騎手のようです(´<_` )
お わ り
.
<<<第五話 ◆ あとがき>>>
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