2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです
( ´_ゝ`)双子は竜騎手のようです(´<_` )
  第二話



46 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 21:39:55 ID:fFQDkRWg0
 
 
 
                 年を取る。

                   背が伸びる。

                     それでもまだ。

                       伸ばした手は届かない。


.

47 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 21:40:40 ID:fFQDkRWg0



                  ( ´_ゝ`)双子は竜騎手のようです(´<_` )


                          第二話: 兄は悩む


.

48 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 21:41:55 ID:fFQDkRWg0

 古来より、竜騎手は特別な存在であった。
 人を遥かに凌駕する力を持った飛竜を跪かせ、その背に跨り自由に空を飛ぶ。
 時には神の使いと崇められ、時には魔の下僕として迫害された。


 そして現代。
 竜騎手は、ある程度の資質を持つものであれば誰でも手にすることが出来る「資格」となっている。

 「正竜騎手資格」。
 正式な名称を「第一種飛竜騎乗許可免状」という。
 専門機関で四年の訓練を受け、さらに正竜騎手となって三年以上の者から推薦を受けて審査の候補に上がることができる。

 審査は過去の成績、人格の評価を多方面から見定め与えられる。
 しかし実質は、候補に挙がった時点で受かったのも同然といわれ、現に候補に挙がって落選したものは少ない。

49 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 21:42:51 ID:fFQDkRWg0

 現代の制度、さらに役割として竜騎手は二種類に分けられる。
 まずは正竜騎手。
 手綱を握り、竜に指示を出して操る者たちのことである。
 反射神経や判断力が問われ、舵手というよりは小隊の指揮官と言った方がイメージに近い。

 そしてもう一方。
 正竜騎助手。正式名を「第二種飛竜騎乗許可免状」。
 こちらは正竜騎手の方と異なり、魔法の才能が必要不可欠な資格だ。

 飛竜は翼のみではなく、魔法の力によって空を飛ぶ。
 個体によっては音に並ぶ速度を持つ者もおり、人間がむき出しで彼らに乗ること危険極まりない。

 そこで活躍するのが竜騎助手の扱う補助の魔法。

 飛行時の風から、高低差による気圧の変化から、高速移動時の慣性から竜と騎乗者を守り飛行の手助けをするのだ。
 現代の竜騎手たちが高速飛行や急転回を行うことが出来るのは騎助手がいてこそ。
 実際に指揮権を握る騎手よりも地味な仕事ではあるが、竜を駆る上で彼らの存在は必要不可欠なのである。

51 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 21:43:57 ID:fFQDkRWg0

(・∀ ・) 「……で、負けたわけか」

 未だ日の沈みきらない夕暮れ時。
 場所は先日と同じくVIPの飲み屋『高岡屋』。
 模擬戦を終え、オトジャはいつものように、プギャーとまたんきと共に酒を酌み交わしていた。

 いつもと異なるのは、この場にアニジャがいないということ。
 彼は模擬戦を終えたその足で、行き先も告げずどこかへ去って行った。
 オトジャには何となく見当が着いているが、あえて追うようなことはしない。

(´<_` ) 「強かったよ、ロマネスクとボルトールは。俺もどう戦うべきか何の助言も出来なかった」

( ^Д^) 「あれはバケモンだ。自分らを比べるだけ虚しくなる」

 ボルトールは雷竜と鳥竜を掛け合わせ生まれた飛竜である。
 能力は文句なしに高かったものの、非常に気性が荒く手懐けられる竜騎手は数限られた。
 そんなボルトールがまだ少年だった頃のロマネスに頭を垂れ、背中を差し出したのが彼らの始まり。

 以来、騎助手が変わることこそあれ、一人と一頭は常に一緒に空を翔けてきた。
 故に、養成所に通い始めてから竜に触れた者達とは同期ながらも段違いの経験がある。

 単に竜に触れていた年数で言えばアニジャもオトジャも負けてはいないのだが。

53 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 21:45:08 ID:fFQDkRWg0

( ^Д^)「唯一隙があるとしたら、騎助手のデレだけどよ」

 亜麻井デレ。ロマネスクの相方としては四人目の騎助手。
 成績はそれなりに優秀なものの、騎手と騎竜の性能に比べれば少々劣る。
 無論役目は十分に果たしているため、隙と言ってもあって無いようなものだ

(´<_` )「亜麻井は優秀だよ。ロマネスクの後ろで二年保ってるのがその証拠だ」

(・∀ ・) 「確かに。杉浦の後ろとか一週間耐えられる自信がねえや」

( ^Д^) 「逆に俺は亜麻井が後ろにいたら落ち着かん。手綱と間違っておっぱい掴むかも」

(・∀ ・) 「……俺には、お前ぐらいの馬鹿で丁度ってことだよなぁ」

( ^Д^) 「冗談に対して本気のトーンで返すの止めろ」

 オトジャは自分達の訓練を反芻するので頭が一杯で気付かなかったが、どうやらプギャー達も何かあったらしい。
 いつも無駄に煩いプギャーが妙に表情を翳らせている。

(´<_` )「そっちはどうだったんだ?相手って確か……」

(・∀ ・) 「ニダーとシナーだよ」

(´<_` )「……姑息VS卑怯か」

(・∀ ・) 「おう。何の反論も出来ねえぜ」

54 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 21:45:54 ID:fFQDkRWg0

( ^Д^) 「……チッ」

 ニダー&シナーとは、これまたオトジャたちの同期の騎手だ。
 プギャーたちとは別の方向で面倒な戦術を得意としており、周囲からはやや嫌われている。
 逆に言えば、敵対すると非常に厄介だという優秀さの証でもあるわけだが。

( ^Д^) 「この俺が、姑息で遅れを取るとは……」

(´<_` )「確かに、お前らの戦法とは相性悪いかも知れんな」

( ^Д^) 「ああ。本当に最悪だったぜ」

(・∀ ・) 「俺も、自分達の戦術があんなに他人をイライラさせるもんだとは思わなかった」

(´<_` )「それは、ニダー達にGJだな」

 オトジャは隣のテーブルを拭いていたワタナベにビールを三つ注文。
 残っていた分を一気に飲み干す。

 冷静な顔をしてはいるが、今日の負けはオトジャにとってもかなりの屈辱だった。
 酒を飲まずにはいられない。

55 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 21:46:37 ID:fFQDkRWg0

(・∀ ・) 「ったく、不安になるぜ。こんなんで、正竜騎手になれんのかね」

( ^Д^) 「なるしかねえだろ。ネ竜祭まではまだ時間あるし、特訓だ特訓!」

(・∀ ・) 「俺は時々お前の脳みそが羨ましくなるよ」

 運ばれてきたビールを、三人で器をぶつけ合い呷る。
 丁度いい温さで、香りと炭酸の痺れがたまらない。
 僅かではあるが浮遊感が沸いてきており、少しずつ気分も良くなってきていた。

( ^Д^) 「たーっっく、あのバカも一人でゴチャゴチャ考えてねえで来て飲みゃあいいのによ」

(・∀ ・) 「同じ馬鹿でもアニジャはちっとデリケートだからな。お前は扱いやすくていいよ」

( ^Д^)+ 「褒めるなよ相棒。照れるわ」

(・∀ ・)

(´<_` )「ま、飲もう。今日は奢りだ」

( ^Д^) 「いいのか?」

(´<_` )「兄者が財布忘れていったからな。結構入ってるし平気だろ」

(・∀ ・) (酷い)

( ^Д^) (これの兄にはなりたくない)

  **  **  **

56 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 21:47:51 ID:fFQDkRWg0

 VIPの外れ、小高い丘の上。
 西の空には熟れた柿のような太陽がぼんやりと浮かんでいる。

 地面には、朱色をぽっかりとくり貫いた黒い影。
 今の心境に似合い、どこか情けなさがにじみ出ていた。

( ´_ゝ`)「……」

 アニジャは地面に座り込んだまま、目の前の十字架を睨んでいた。
 その下には、彼の両親が眠っている、ということになっている。

 竜騎手だった両親は、とある任務に出て突然消息を絶った。
 どんな内容だったのかアニジャ達は知らないが、とても危険な任務だったのだと聞いている。

 同じ任務に就いた他の竜騎手や傭兵達は全て死体で見つかった。
 遺体すら見つからなかったのは父と母のただ二人。
 状況から死亡したという結論が下され、棺だけがこの十字架の下に埋められている。

( ´_ゝ`)「……」

 当時こそ、あの屈強な母とキレ者の父が死ぬはずないと意地を張っていた。
 しかし、生きていたならば何故帰ってこないのか。
 その疑問に悩み続け、数年前になってやっと、彼らがもうこの世にいないと決着を付けた。

57 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 21:49:01 ID:fFQDkRWg0

( ´_ゝ`)「情けない息子だと思うか?」

 どこにもいない母に尋ねる。
 この場に居れば無言の正拳一撃で終わりそうだが、弱い風が頬を撫でるばかり。
 答えを期待していなかったとはいえ、呟いてしまった自分に呆れが出る。

( ´_ゝ`)「リュウジャは、かなり大きくなったよ。つっても、まだまだ大きくなるだろうけど」

 アニジャとオトジャの竜、リュウジャは、父と母の竜の血を継いでいる。
 生まれたのは、アニジャ達が9歳の時だ。
 以来、厩務員である叔父に世話をしてもらいながら共に育ってきた。
 もう一人の兄弟と言っても過言では無い。

( ´_ゝ`)「……」

 日がさらに傾き、空に濃い藍色が混ざり始めた。
 丘の上にあるこの墓地は周囲に明かりになるものが無いため夜になると真っ暗だ。
 月明かりがあれば十分ではあるが、流石に気味が悪い。

( ´_ゝ`)「……?」

 そろそろ帰ろうかと腰を上げたところで、飛竜の羽音が聞えてきた。
 南の空を見やると比較的小柄な竜がが丘の墓地に向かって飛んでくるのが見える。

58 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 21:49:53 ID:fFQDkRWg0

( ´_ゝ`)「……ジョルジュ?」

 西日の中で分りにくいが、教官のジョルジュ長岡とその騎竜エートンである。
 エートンはリュウジャと同じく前足が翼と一体化した飛竜だ。
 腹や足こそ竜らしい鱗に覆われているが、全身が羽毛に包まれ嘴を持つため遠目には巨大な猛禽類に見える。

 ちなみに、リュウジャやエートン達のように前足と翼が一体の飛竜を鳥竜型。
 ボルトールのように四足を持った上で背中に翼を持つ飛竜を獣竜型と呼ぶ。
  _
( ゚∀゚) 「やっぱりここだったか」

 軽やかに着地したエートンの背中からジョルジュが飛び降りた。
 見たところ、助手も妖精も連れずに来たらしい。

( ´_ゝ`)「どうしたんだ?」
  _
( ゚∀゚) 「お前にちょっと話があってな」

 彼はいわば母の弟子のようなもので昔から親交がある。
 養成所でこそキッチリ立場をわきまえているが、感覚としては近所のあんちゃんに近い。
 だから個人的に話すことは珍しくなく共に酒を飲むことも多かった。
  _
( ゚∀゚) 「まあ、乗れ。じき暗くなるし、送りながら話すよ」

 言われるまま、エートンの背中に乗った。
 鞍越しにも羽毛の柔らかさが伝わってくる。

59 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 21:50:49 ID:fFQDkRWg0
  _
( ゚∀゚) 「しっかり鞍に掴まっておけよ」

 言われたとおり鞍から生えた助手用のハンドルを握る。
 前ではジョルジュが手綱を握り、離陸の準備に入っていた。

 そういえば、誰かの後ろに乗るのは久しぶりだな、とその逞しい背中を眺めながら胸中で呟く。

 エートンの体が、羽ばたきと共にふわりと浮き上がる。
 飛行魔法を併用することによる、安定感のある浮遊。
 そのままやや滑空する形でエートンは進み始めた。

 助手なしのため、風がモロに肌を撫でる。
 少々寒く感じはするが、むしろ、飛んでいる実感があって心地よい。

 夜に染まりかけの空はまるで水の奥底のように不思議な透明感を持っていた。
 風にはためく襟を押さえながら、地平線が空に生み出した夜と夕の境を目でなぞる。
  _
( ゚∀゚) 「シャーミン教官に聞いた。杉浦にこっぴどくやられたらしいな」
  _
( ゚∀゚) 「彼が庇いに入らなかったら、消し炭になるところだったんだって?」

 風に負けないよう、大きな声でジョルジュが言う。
 アニジャは返事を返せず、藍色の天幕に星を探していた。
  _
( ゚∀゚) 「分ってるとは思うが、竜騎手は戦うだけが仕事じゃない」

 ジョルジュの言いたいことは何となく予想がついた。
 彼らしいというか、なんと言うか。
 絶妙にアニジャの悩みを突いてくる。

60 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 21:51:30 ID:fFQDkRWg0
  _
( ゚∀゚) 「そもそも、リュウジャは戦闘向きの竜じゃない。いくら火竜の血をついでいても、な」

( ´_ゝ`)「……」
  _
( ゚∀゚) 「同じ鳥竜や、特殊性に重きを置いた竜ならまだしも、ボルトールのようなバリバリの戦闘型は無理だ」

 そう。
 魔法によって大型の竜も空を飛ぶこと出来る現状、飛行に特化した鳥竜型は戦闘においては非常に不利だ。
 中には強力な魔法で火力を補っているものもいるが、リュウジャは違う。
 昔から、戦闘には向かないと散々言われてきていた。
  _
( ゚∀゚) 「お前達の研修の報告書を見た。輸送や捜索任務の評価はすこぶる高い」
  _
( ゚∀゚) 「その方面に向かう気があるなら、俺から推薦を出してやれる」

 余程重いものでない限り、リュウジャは運搬などの仕事は軽々とこなす。
 小回りが利くためその方面で働けば確かに重宝されるだろう。
  _
( ゚∀゚) 「お前は十分に優秀な竜騎手だ。それを、みすみす落第させるようなことはしたくない」

( ´_ゝ`)「俺も、落第はしたくないな」
  _
( ゚∀゚) 「……すまん。こんな脅すような言い方しか出来なくて」

( ´_ゝ`)「いいんだ。ありがとう、ジョルジュ」
  _
( ゚∀゚) 「……」

61 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 21:52:42 ID:fFQDkRWg0
  _
( ゚∀゚) 「明日、運送の研修が入っていたな。それが終わってからでいい。お前なりの考えを聞かせてくれ」

 宿舎に着きアニジャを降ろすと、それだけ言ってジョルジュは去っていった。

 そうか。竜騎武闘の申し込みは明後日の午前中までだったな、とジョルジュが態々来た理由を理解し、納得する。
 ジョルジュはアニジャたちを竜騎武闘に出させたくないのだ。
 無論、意地悪ではない。
 養成所での成績の芳しくないアニジャが出るのは危険だと、身を案じてくれているのだ。

 部屋に入ることもせず、ぼんやりとしていると、近づいてくる足音に気付いた。
 オトジャだ。顔はまだ見えないが、気配と足音が間違いない。

(´<_` )「兄者?何してるんだ?」

( ´_ゝ`)「オトジャ、話があるんだ」

(´<_` )「……皆まで言わなくていい。何だかんだ言って俺達は双子だからな。言わなくても何となく分る」

( ´_ゝ`)「……」

(´<_` )「財布の中身は確かに使ったが、ちゃんと半分は残してある。だからそんなに怒るな」

( ´_ゝ`)「……えっ?」

(´<_` )「えっ?」

  **  **  **

62 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 21:53:42 ID:fFQDkRWg0

 気持のいい快晴であった。
 空は高く、時折小さな雲が泳いでゆく。
 あそこまで行けたらさぞ爽快だろうな、と小さく息を吐いた。

(´<_` )「兄者、準備はいいぞ」

( ´_ゝ`)「ああ。今行く」

 今日は、実際に任務を受けての研修である。
 正竜騎手である上官の監督の下、迅速に荷物を運搬するのが今回の仕事だ。

 結局、金の話で揉めたせいでアニジャとオトジャの間で相談がなされることは無かった。
 喧嘩自体は一晩寝れば仲直りではあるが、いざタイミングを逃すと非常に切り出しにくい話題でもある。
 実際のところ成績優秀なオトジャは単体で引く手数多であり。その引け目が余計にアニジャの気持を拗らせていた。

( ´_ゝ`)(……俺もいい加減、決めないとな)

 荷物を鞍に括り付けリュウジャの背に乗る。
 首を撫でてやると咽を鳴らして喜んだ。
 戦闘が無いと分っているのか、模擬戦訓練よりもリラックスしている。

( ´_ゝ`)(……リュウジャも、本当は無理に戦いたくなんか無いのかな)

(´<_` )「どうした?」

( ´_ゝ`)「いや、なんでもない」

63 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 21:54:44 ID:fFQDkRWg0

(゚、゚トソン 「では、サスガ班も向かってください。何か問題があった場合は妖精を通し私に判断を仰ぐこと」

 候補生達の研修が頻繁な時期になると多くの正竜騎手が監督として駆り出される。
 今回アニジャたちを担当する都村トソンもその一人。
 年齢は4歳ほどしか変わらないが、優秀な人物だと聞いていた。

 任務中、監督のトソンが着いてくるわけではない。
 同時に複数の竜騎手たちを担当しているため、拠点となるVIPに待機し問題が起きた場合にのみ駆けつけるのだ。
 運搬系の仕事を中心に働いているトソンの話を聞いてみたかったアニジャとしては、少々残念ではある。

( ´_ゝ`)(ま、早めに終わらせて、時間作るか)

 前日にジョルジュに言われたことを思い出す。
 竜騎手と一口に言ってもその仕事は様々だ。
 戦闘の関わる危険な任務から、そうでない安全な任務まで幅広い。

 故に、本人が希望する業種によって推薦がもらえるか否かは大きく変わる。
 明確な制度として成り立っているわけではないが、竜騎手になるためには大きなポイントなのだ。

( ´_ゝ`)「なあ、オトジャ。俺は空を飛ぶのが好きだ」

(´<_` )「……?態々言わなくても知ってるぞ」

( ´_ゝ`)「いっそ、こういう仕事でやっていくのも、いいのかな」

(´<_` )「……」

65 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 21:55:35 ID:fFQDkRWg0

 リュウジャは、その機動力を遺憾なく発揮し、テキパキと仕事をこなしていった。
 もともと飛ぶのが好きなこともあり、長距離を渡ることに疲労よりも楽しみを覚えている。
 短い距離での郵送に不満の鳴き声を上げるほどだ。

( ´_ゝ`)「大丈夫かリュウジャ?思ったより早いペースで終われそうだし、少し休憩も出来るぞ」

 アニジャの問いかけにリュウジャは甲高い声で応じる。
 元気はまだまだ一杯でもっと飛びたいとすら思っているようだ。

 念のため一つの仕事が終わったところで昼食を兼ねた休憩を挟む。
 それでも、予定の時間より一時間以上早く最後の荷物の受け渡しを終えた。
 
(´<_` )「何も無くてよかったな」

( ´_ゝ`)「ああ。トソンさんに連絡して、さっさと帰ろう」

 鞍に跨がろうとすると、ドクオの方から顔を出した。
 左目が光っている。他の妖精から通信が着ている合図だ。

('A`) 「都村正竜騎手から、通信」

( ´_ゝ`)「繋いでくれ」

 リュウジャに乗り、安全索をベルトに繋いで、通信を受ける。

66 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 21:56:34 ID:fFQDkRWg0

('A`) 『こちら、都村です。サスガ(兄)君、聞えますか』

( ´_ゝ`)「サスガです。どうしました?」

('A`) 『緊急で仕事が一つ入ったのですが、そちらの状況はどうでしょう?』

( ´_ゝ`)「最後の荷物を運び終わったところですね。後一つなら大丈夫ですよ」

('A`) 『噂どおり早いですね。早漏ですね。今とても余計なことを言いました。忘れてください』

( ´_ゝ`)

('A`)

('A`) 『…では、もう一つ運搬をお願いします。必要な情報は妖精に送信しておきますのでそちらを参照してください」

( ´_ゝ`)「分りました」

('A`) 『では、お気をつけて』

('A`) 「……通信終了」

( ´_ゝ`)「俺って早漏なのかな」

(´<_` )「知るか。自分で判断しろ」

67 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 21:57:42 ID:fFQDkRWg0

 ドクオに送られてきた情報を確認する。
 荷物の受け取り先は現在地のラウンジから西へ数キロ飛んだ地点にある小さな村。
 そこから国の外れシベリアへと小包を運ぶ。
 特別何でもない、簡単な仕事だ。

( ´_ゝ`)「どっかの誰かのせいで金欠だから、お仕事が増えるのは助かるなあ」

(´<_` )「まったくだな」

 リュウジャで飛べば数分で目的地に到着。
 簡単な手続きを済ませて荷物を受け取り再び空へ。

( ´_ゝ`)「ドクオ、リュウジャの魔力の残量は?」

('A`) 「72%。今日くらいのペースなら半永久的に飛んでいられる」

( ´_ゝ`)「俺の痔が悪化するから半永久は止めよう」

('A`) 「ボラギノールを注文しますか?」

( ´_ゝ`)「まだ残ってるからいい」

( ^ω^)「中にちゅーっと?」

( ´_ゝ`)「外にさーっとの方だ」

68 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 21:58:39 ID:fFQDkRWg0

(´<_` )「集中しろ。蹴落とすぞ」

 シベリアは山岳地帯のため天候がコロコロと変わる。
 VIPからの距離もあるため何かあったとしてもトソンが駆けつけるにはかなりの時間がかかるだろう。

 そして、そういう状況でこそ起きてしまうのだ。
 トラブルというものは。

( ^ω^)「……!前方から高速で接近する機影確認!魔力の性質からして、飛竜だお!」

(´<_` )「兄者」

( ´_ゝ`)「分ってる。ブーン、目的が知りたい。感知した情報をドクオに送ってくれ。ドクオはそれを元に検索」

( ^ω^)「おっけーだお」

('A`) 「おk」

 妖精二匹に指示を出すと、アニジャは予定していた経路を大きく外れ、上昇した。
 単なる偶然で向かってきているのか、リュウジャを目的に進んできているのかを判断するためだ。

 厄介なことに相手も軌道を変え上昇。間違いなくこちらに狙いをつけている。

69 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 21:59:31 ID:fFQDkRWg0

('A`) 「検索完了。約98%の確率で、指名手配中の違法竜騎手「フォックス」及び騎竜「犬神行部(イヌガミギョウブ)」。」

( ´_ゝ`)「……崩れの盗賊か」

(´<_` )「目視で確認した。間違いなくそいつだ」

('A`) 「『犬神行部:獣竜型。近距離戦を得意とするタイプ。幻術系魔法に適性アリ』」

(´<_` )「間違いなく接近してくるな。どうする?」

( ´_ゝ`)「ドクオ、トソンさんに通信」

('A`) 「了解」

('A`) 『……こちら都村。どうしました?』

 ドクオ越しに聞えるトソンの声は、どこか焦りを孕んでいた。
 嫌な予感がしたがアニジャはドクオを鷲づかみにし、口元に引き寄せる。

70 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 22:00:12 ID:fFQDkRWg0

( ´_ゝ`)「指名手配中の「フォックス」に絡まれました。指示を」

)'A`) 『……ッ。こちらは今、別の賊との戦闘中ですぐには向かえません』

)'A`) 『援軍の要請はしておきますが……派k……ぅ5ふ…………』

('A`) 「ノイズにより通信断絶。敵騎妖精から妨害を受けている模様」

(´<_` )「どうするんだ?」

( ´_ゝ`)「……」

 手綱を握り締め、アニジャは頭を回転させた。
 違法騎手の多くは能力は高くとも、人間性に問題があったために正竜騎手になることが出来ず道を外れたものが多い。
 今回追跡してきているフォックスもその口だ。

 犯罪者であることを除けば経験も実力も正竜騎手とほぼ同等。
 その上騎竜は戦闘を得意とするタイプだ。
 まともに考えれば、アニジャたちが敵う相手ではない。

 が。

72 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 22:01:28 ID:fFQDkRWg0

( ´_ゝ`)「…………戦おう」

(´<_` )「本気か」

( ´_ゝ`)「本気だ」

(´<_` )「……流石だな。いいぞ、付き合おう」

 アニジャは頭を振って敵影を直接確認。
 目測で300弱ほど。まだ火球の範囲内ではない。

(´<_` )「戦闘用防壁展開完了。耐慣性コントロール安定。抗幻術チャフ準備」

( ´_ゝ`)「高度を下げる。ブーン、距離が150を超えたら合図。同時に反転、こちらから仕掛けるぞ」

( ^ω^)「了解だお」

 リュウジャが興奮気味の嘶きを上げた。
 疲れを感じさせず、力強く翼を広げる。
 指示通りに頭を下げ、やや右へ旋回しながら緩やかに下降を開始。
 敵は距離のみを詰め、高度を下げる気配はない。

 やはり上を取りに来た。
 アニジャは唸りを溜めるリュウジャを踵で撫でて落ち着かせる。
 まだだ。慎重にタイミングを狙わなければならない。

73 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 22:02:22 ID:fFQDkRWg0

( ^ω^)「……距離150!」

 ブーンの叫びと同時にリュウジャが急ブレーキ。
 飛行魔法の出力を全開にし方向転換。間髪おかず敵竜に向かって高速で羽ばたいた。

 オトジャの張った防壁が風圧で削れるほどの加速。
 敵は反応したが逃げる様子はなく、ただ減速した。
 迎え撃つつもりだ。

( ^ω^)「魔力反応!」

(;'A`) 「パターン解析。幻術!」

( ´_ゝ`)「リュウジャ、撃て!発動させるな」

 滞空する相手に向かって、火球による砲撃。
 狸に翼を生やしたようなその竜は、容易く回避してみせる。

 逆に、緑色の魔力を空中に生み出し、刃を作り出した。
 広い範囲に拡散したそれが、リュウジャへと放たれる。

 アニジャは最初の一撃を軽く回避し、わざと防壁を掠らせた。
 金斬り音を上げ防壁が削られる。
 貫通する威力ではないが連続で受けるのは危険だ。
 出来うる限り食らいたくは無い。

74 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 22:03:30 ID:fFQDkRWg0

( ´_ゝ`)「相殺!」

 リュウジャが咆哮と共に火球を吐き出した。
 複数の刃を飲み込み爆発する。
 熱波がリュウジャにも襲い掛かるが、覚悟の上のため怯まずに直進。
 爆発の衝撃で他の刃の軌道が変わった僅かな隙間を強引に駆け抜ける。

爪'ー`)y‐ 「……!やるねえ!」

 相手の騎手が見えた。
 ニット帽から長い髪を靡かせる男。
 妖精らしい光は見えたが、騎助手の姿は無い。
 恐らく自分自身で魔法を扱うハイブリッドタイプの騎手だ。

( ´_ゝ`)「抜けろ!」

爪'ー`)y‐ 「こいこい」

 攻撃の雨を抜けそのまま敵竜の脇を押し通る。
 予想されていたのか、抜けてすぐに追尾された。

( ;´_ゝ`)「……?!不味い!」

(´<_` )「焦るなアニジャ!」

 一瞬の交差で、幻術に嵌められた感覚があった。
 視界に歪み等は無いが、目の前の風景と理解している脳に不気味なズレを感じる。

75 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 22:04:32 ID:fFQDkRWg0

 オトジャが発動した抗幻術のチャフにより、脳の明晰がやや戻ってきた。
 しかし、どこまで影響されているのかが定かでないため、不気味さが振り払えない。

( ;´_ゝ`)「クッソ」

 突然目の前に岩山が現われた。
 剣の様に尖ったそれを反射的にかわすが、掠めたはずの防壁には何の影響も無い。
 幻術だ。思いの外強力な術に嵌められている。

( ;´_ゝ`)「ブーン、レーダーは無事か?」

( *^ω^)

( ;´_ゝ`)「ブーン!」

( *^ω^)「ふひひ……僕もツンちゃんが大好きだお……!」

 ブーンは幻術に侵され脳みそにお花を生やしていた。
 答えを貰うまでも無く、探知がまともに機能していないのが分る。
 オトジャが右手を勢い良く伸ばし、ブーンの頭をもぎ取るような動きで捕まえ、そのまま握り締めた。

) ゚ω゚( 「いででででで!死ぬ!妖精死なないけど死ぬ!」

(´<_` )「目が覚めたか?」

(ヽ^ω^)「おかげさまだお。後で死ね」

77 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 22:05:22 ID:fFQDkRWg0

( ^ω^)「レーダー自体は機能しているけど、これが正しいかはちょっと分らないお」

(´<_` )「プギャーたちより厄介だな」

( ;´_ゝ`)「ホントにな。カブトムシが目に突き刺さって落竜して欲しい」

 上昇し、岩山を避けた。
 敵本体から距離を取れば幻術自体も破れるはずだ。

 しかし、相手も簡単にはやらせてくれない。

 突然目の前に現われる、ボルトール。
 角が輝き例の魔法を放つ直前だ。

( ;´_ゝ`)「!?」

 偽者であるとわかっていても、つい反応してしまう。
 手綱を引き急ブレーキ。
 すぐにボルトールの姿が揺らぐが、その時既にフォックスと犬神行部が背後まで迫っていた。

( ;´_ゝ`)「チィッ!」

 振り下ろされた前足の一撃を前方へ下降しギリギリでかわす。
 体勢を立て直し向き直るもそこに犬神行部の姿は無い。

78 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 22:06:48 ID:fFQDkRWg0

爪'ー`)y‐ 「こっちこっち」

 左から声。
 反応し振り向くと、犬神行部が犬のような大口を開き、リュウジャの翼に迫っていた。
 あわてて回避を指示してから気付く。
 これも幻術。

爪'ー`)y‐ 「ひゃっはー!!」

 本体は逆に居た。
 右の前足を悠々と振り上げ、騎乗しているアニジャ達に向かって爪で襲い掛かる。

(´<_`; )「くぅ!」

 回避の間に合うタイミングでは無かった。
 オトジャが咄嗟に防壁を強化したが、大きく抉られ衝撃がリュウジャを襲う。
 よろけて体勢を崩したところへ、さらに逆の爪。

 飛行魔法を解除し落下することで直撃だけは免れたが、防壁は完全に破壊されてしまった。
 すぐさまオトジャが張り直すも、攻撃を防ぐだけの強度には至っていない。

爪'ー`)y‐ 「いっただきィ!」

( ;´_ゝ`)「させるか!」

79 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 22:07:36 ID:fFQDkRWg0

 一瞬の判断だった。
 犬神行部が攻撃魔法を発動するまでの極僅かの隙にアニジャはリュウジャへ急降下の指示を出す。

 落下よりも早く、岩山に向かって飛翔。
 追う形で迫る魔力の刃を大きく左に逸れてかわした。

 そのまま軌道を修正し、U字を描く形で上昇に移る。
 犬神行部はしつこく追跡。
 幻術によるフェイクの攻撃を乱発し、リュウジャに安定した飛行を許さない。

(´<_` )「アニジャ、相手が悪すぎる。任務の遂行を優先して一旦逃げよう!」

( ;´_ゝ`)「……」

 オトジャの意見は正しい。
 戦ってみて痛感する。
 たとえ無認可の違法な竜騎手であっても、フォックスは強い。

 このまま戦い続けるのは愚策である。
 だが、それを分った上でアニジャは逃走を選ばなかった。

( ;´_ゝ`)「……この幻術にかかった状態じゃ、どっちにしろ逃げ切れない」

 竜騎手と騎竜にとって障害物は最も注意すべきものだ。
 故に、フォックスの隙を突くようなピンポイントでの幻術攻撃に対する反応をどうしても押さえ込めない。
 リュウジャも同様の幻が見えているため、騎手の反射的な間違いが、そのまま行動に繋がってしまう。
 幻術を何とか破らなければ逃げるも勝つもないのだ。

80 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 22:08:47 ID:fFQDkRWg0

( ;´_ゝ`)「もう少しだけ、俺の意地に付き合ってくれ」

(´<_` )「……昨日の件、帳消しな」

( ;´_ゝ`)「半分で手を打とう!」

 手綱を思いっきり引き右上方へと進路を変える。
 そして目を瞑り、風の音だけに集中した。

( ;´_ゝ`)「リュウジャ、目をつぶれ、俺を信じろ」

 リュウジャは迷うことなく瞼を閉じた。
 少なくとも上空ならば障害物に当たることは無い。
 安心して(実際はとても怖いが)全開速度を出せる。

( ;´_ゝ`)(これでも多分、引き離せない。流石のリュウジャも視覚を閉ざして全開には出来てないしな)

( ;´_ゝ`)(考えろ。どうすれば、アイツに一泡吹かせられる?)

 オトジャは、自分に見える幻術を出来る限り無視し、防壁と飛行の補助にのみ集中した。
 こういった場面ではアニジャの閃きに期待するしかない。
 その間、出来うる限りのサポートをするのが彼の仕事だ。

81 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 22:09:35 ID:fFQDkRWg0

( ;´_ゝ`)(考えろ考えろ考えろ、俺が向こうの立場だったとして、どう仕留めようとする?)

 犬神行部の放った本物の魔法攻撃が数発防壁を抜けリュウジャの翼と足を掠めた。
 防壁の分威力が軽減されていたため大した傷には至らないが、体が大きく揺れる。

 フォックスはアニジャとリュウジャが目を閉じていることに気付いていた。
 同じ対処方を取るものは過去に多く居たため、その飛び方を見ていれば簡単に分る。
 だから、じわじわと責めるのだ。
 目を閉じていることの恐怖を限界まで高め、性能を減退させるために。

 激しく続く攻撃に、リュウジャの身体には傷が増えてゆく。
 オトジャの粘りもあって致命傷だけは避けているが限界は近い。
 リュウジャの咽からは、言いようの無い恐怖に耐えるうめきが延々と続いていた。

( ;´_ゝ`)(このままじゃ、みんなやられる、まずい、まずい、まずい!)

爪'ー`)y‐ (そろそろ限界か?行部の幻術越しに精神の乱れがビンビン伝わってくるぜ)

 頃合を悟ったフォックスは、犬神行部に大技の指示を与えた。
 行部はその指示に従い、魔力を羽に集中させてゆく。

82 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 22:11:51 ID:fFQDkRWg0

( ^ω^)「高魔力反応!強いのが来るお!」

(´<_`; )「兄者!」

(;'A`) 「計算完了。オトジャの防壁じゃ、耐えられない」

( ;´_ゝ`)「……ッ!」

 アニジャの中で何かが切れた。
 手綱を大きく右に引き、軌道を変える。
 踵でリュウジャの鱗をさすり、目を閉じろという指示を解除。

(´<_`; )「どうする気だ」

( ;´_ゝ`)「……」

 オトジャの声にアニジャは一切反応しない。
 空ろな目で無心に手綱を捌いている。

爪'ー`)y‐ (……なんだ?立て直したのか?)

 動きの変わったリュウジャを警戒し、フォックスは攻撃を中止させた。
 変わりに幻術によるデコイを目の前に出現させる。
 アニジャは馬鹿正直に反応し舵を切った。
 それを見て、フォックスは「目を閉じる恐怖が幻術への警戒に勝ったのだ」と悟る。

83 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 22:13:36 ID:fFQDkRWg0

爪'ー`)y‐ 「なら、こっちの必勝パターンで行かせて貰うぜ」

 アニジャのデコイに対する反応は目を閉じる前よりも大きく敏感になっていた。
 視覚を封じていた反動だ。
 何をどうしていいかわからない迷いは、幻術にとって恰好の状態である。

( ;´_ゝ`)「……ッ!」

(´<_`; )(ここで急転?!血迷ったか?!)

 アニジャは突然手綱を引き、リュウジャを反転させた。
 追ってくる犬神行部と向かい合う形である。
 そのまま、突進し、慣性を利用した尻尾のなぎ払いを放つ。

 犬神行部はこれを急上昇で難なく回避。
 同時に幻術を強め死角に回り込む。
 これでもう、リュウジャに騎乗している者たちは犬神行部の居場所は分らない。

 フォックスは行部の右肩の毛を引っ張り、噛みつきを命じる。
 幻術に踊らされるリュウジャは、無防備な腹を隠す余裕も無い。
 犬神行部は悠々と、その腹に向かって顎を開いた。


( ゚_ゝ )「そこだ」

84 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 22:14:34 ID:fFQDkRWg0

爪;'ー`)y‐ 「!?」

 フォックスは反射的に手綱を引いていた。
 振り返り様、高速で振り払われたリュウジャの翼手が、僅かに犬神行部の鼻先を掠める。

爪;'ー`)y‐ (俺の動きを、読んだだと?)

( ´_ゝ`)

 アニジャの目は真っ直ぐにフォックスを見据えていた。
 先ほどまであった動揺が一切消えているように見える。

 気味が悪い。
 直感的にそう思った。
 今まで落としてきた竜騎手たちとは、違う反応だ。

爪'ー`)y‐ 「小僧が、舐めんじゃねえぞ」

 噛み殺すように呟き、フォックスは幻と共にリュウジャに襲い掛かる。
 一撃目はかわされるのが前提の実体を持ったフェイク。
 決め手は、回避後に視野が狭まるのを利用し姿を隠してからの、必殺の一撃だ。

 しかし。

85 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 22:15:36 ID:fFQDkRWg0

爪;'ー`)y‐ (また読んだだと?!)

 リュウジャは完全な死角にいた行部に対し、尻尾を振り回しカウンターを放った。
 防壁によって行部の本体にまではたどり着かなかったが、フォックスの額には粘度の高い汗が滲む。
 今回は裏の裏のさらに裏をかいたはず。偶然で合わせられるものでは無いはずだ。

( ´_ゝ`)「早く来いよ」

爪;'ー`)y‐「あん?」

( ´_ゝ`)「アンタは、強い。だからこそ、最善手を計算すれば自ずとどこから仕掛けてくるか簡単に分る」

( ´_ゝ`)「もう、奇襲は食わないよ」

爪;'ー`)y‐「クソガキが……」

 現に二度奇襲に反撃を合わせたアニジャの言葉には信憑性があった。
 偶々で片付けるにはあまりに怖い現実だ。
 Be cool 。意地になるな。落ち着け。
 フォックスは頭に上りかけた血を深呼吸と共に押し下げる。

 奇襲がダメなら正面から仕掛ける。
 安全性は少し欠けるが、鳥竜型の竜とまともに戦って負けるわけが無い。

86 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 22:16:49 ID:fFQDkRWg0

 念のため幻術は解かず、フォックスはリュウジャに仕掛けた。
 同時にデコイを見せ、リュウジャの意識を散らして隙を作る。
 しかし、振りかぶった前足は虚しく空を裂いた。

( ´_ゝ`)

 距離を取りながらリュウジャの背中から身を乗り出したアニジャは冷ややかな目でフォックスを見る。
 あざけるような冷たい目だ。

爪#'ー`)y‐ 「小僧!調子に乗るんじゃねえぞ!」

 フォックスが激昂した。
 彼にあった竜騎手としてのプライドが著しく傷つけられたのだ。

 犬神行部は先ほど中断した魔法を再び発動。
 緑色の魔力が翼に集まり、一回り大きく見せる。

爪#'ー`)y‐ 「そっちがその気なら、こっちも遠慮せずにやってやるよ!」

 犬神行部が羽ばたいた。
 同時に、翼に集まっていた魔力が煌き、体の前部を覆ってゆく。
 魔力の鎧を盾に、犬神行部は最高の速度でリュウジャに突進した。

 対し、リュウジャも同じく防壁を極限まで強化し、突進で迎え撃つ。

87 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 22:18:12 ID:fFQDkRWg0

( ´_ゝ`)「決めるぞ、リュウジャ」

 アニジャは姿勢を低くし、手綱を強く握る。
 後ろにしがみ付くオトジャは防壁に全神経を集中していた。

 リュウジャは三発の火球を放つ。
 魔力に守られる犬神行部は一切怯まず突き進み火球を打ち砕いた。
 舞い散る爆炎で視界が狭まると同時に、リュウジャの防壁と正面衝突。

爪'ー`)y‐ (決まった)

 行部の必殺技でもあるこの突進は、軽々と防壁を砕く。
 これで、その奥にいる竜もおしまいである。

 しかし。

 絡み付く炎が消えたその視線の先にリュウジャの姿は無い。
 変わりに、大きな影が一瞬犬神行部の背中を撫でる。

 リュウジャは、行部の後ろに回り込んでいた。
 あらゆる防御を行う暇も無くその口から放たれた火球が、犬神行部の背中に撃ち込まれる。

88 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 22:19:35 ID:fFQDkRWg0

 一発。さらに一発。さらにさらにもう一発。
 拡散する熱波が爆発の連続によって歪んだ波紋を描く。
 連続の使用限度である六発目は撃たずに、リュウジャは犬神行部から距離を取った。

 突進しながら火球を放ち視界を封じてからの回り込み。
 機動力が売りのリュウジャだからこそできる芸当だ。
 ロマネスクとボルトールに破られはしたものの、相手の虚を上手く突けば十分に通用する。

 黒煙を上げる犬神行部をアニジャ達は緊張と共に見下ろした。
 通常であれば二発で済ますところを五発まで打ち込んだのは、行部が翼を畳み騎手を二発目以降の火球から守ったからである。
 せめて騎手が気絶していてくれればいいのだが。

爪#'ー`)y‐ 「くっそ、よくも、やりやがったな」

 そう簡単にはいかないらしい。
 突進の際の魔力が残っていた犬神行部の翼は見事に騎手を守りきっていたのだ。
 変わりに、骨が覗くほどの損傷をし、翼としての機能は既に無くなっている。

 いくら飛行魔法を使って飛べるとは言え、翼は重要な器官。
 有るのと無いのとでは機動力に大きな差が出る。

爪#'ー`)y‐ 「まだだ、まだ俺達には幻術が……!」
  _
(  ∀ ) 「いいや、もう終わりだよ」

89 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 22:21:18 ID:fFQDkRWg0

( ^ω^)「!?」

 フォックスはもちろんのこと、アニジャもオトジャもドクオも驚いた。
 何より、感知タイプの妖精であるブーンが、最も驚いていたかも知れない。
 一瞬過ぎ去った黒い風が犬神行部の上部を過ぎ去り、その背からフォックスを攫っていったのだ。

( ^ω^)「……そんな、僕が気付かないなんて、ありえないお……」

( ´_ゝ`)「あれは……」

(´<_` )「ああ、ジョルジュと、エートンだ」

 黒い風、エートンはすぐさま旋回し戻ってきた。
 その後ろ足にはフォックスをガッチリと掴んでいる。
 何の守りも無く高速移動したため、フォックスは色んなところから色んなものを垂らしながら気絶していた。

( ゚д゚ ) 「一応、間に合ったようだな。無事か、二人とも」

 エートンの背中、ジョルジュの後ろに跨るのは騎助手のミルナ教官。
 正式ではないが養成所のプログラム上ではジョルジュの相棒を務めている。

( ´_ゝ`)「一応、俺達は無事です」

(´<_` )「というか、ほぼ俺達の勝ちだったんだが」

( ゚д゚ ) 「そう言うな。お前達の手柄なのは、俺達が十分理解している」

90 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 22:22:30 ID:fFQDkRWg0
  _
( ゚∀゚) 「トソンの応援要請が入ったときに、最も早く着けるのが俺達だったんだ」

( ゚д゚ ) 「詳しい位置が分らかったたから見つけるのが遅くなってしまったが、無事でよかったよ」

 近隣の安全な場所に犬神行部を誘導し降ろしてから、二人の教官は簡潔にそう告げた。
 ジャミングにより通信が途絶えた後、トソンはちゃんと要請を出してくれていたらしい。
  _
( ゚∀゚) 「しかし、よく勝てたもんだ。コイツは中々掴まらなくて俺達も手を焼いてたんだぞ」

(´<_` )「舐められてたからでしょうね。形勢が逆転した時点で逃げなかったのは、安いプライドのせいだと」

( ゚д゚ ) 「確かに、俺達でも候補生に負けるとなったら意地にはなるな」

 過酷な飛行を続けたリュウジャたちを一旦休ませるため、すぐに飛び立つことはせず休憩を取っていた。
 フォックスは縄で縛った上に大きな麻袋にしまってある。
 ダメージの大きな犬神行部は暴れること無く、鎮静剤を打たれ大人しくしていた。
 直に行部を輸送できる大型の飛竜が来るはずだ。
 とりあえずそれまでは休憩である。

(´<_` )「しかし、良く敵の思考が、読めたな。長らく一緒に乗ってるがそんなこと出来るとは知らなかったぞ」

( ´_ゝ`)「ああ、あれ?殆どハッタリ」

(´<_` )「……はぁ?」

91 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 22:23:29 ID:fFQDkRWg0

( ´_ゝ`)「本当に読めてたのは、二発目までだよ。それも半分勘だったし」

(´<_` )「じゃあ」

( ´_ゝ`)「うん。もしあのまま幻術で来られたら負けた。三発目を見定める自信は無かったからな」

 流石のオトジャも開いた口が塞がらなかった。
 「そこだ(ドヤァ」も「早く来いよ(キリッ」も相手を騙すための強がり。
 犬神行部にも負けず劣らずの狸っぷりである。

(´<_` )「本当に、流石だな兄者」

( *´_ゝ`)「だろ?」

 少しして、騎竜を移送するための飛竜が到着した。
 体格はリュウジャの三倍程度。
 腕力と飛行魔法の出力が優れている巨竜である。
  _
( ゚∀゚) 「じゃあ、俺達はこいつらを護送する。そっちは本来の任務、ちゃんと済ませろよ」

(´<_` )「もちろんだ」

( ´_ゝ`)「ジョルジュ」
  _
( ゚∀゚) 「……勤務中は教官と呼べ。どうした」

92 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 22:25:50 ID:fFQDkRWg0

( ´_ゝ`)「やっぱ俺、竜騎武闘でるよ。手続きしといて」
  _
( ゚∀゚) 「……いいのか?」

( ´_ゝ`)「うん。やっぱ俺、逃げたくないや」
  _
( ゚∀゚) 「分った。俺も、任務ほっぽって指名手配犯と戦闘する奴を運送部に推薦するのはどうかと悩んでたところだ」

( ´_ゝ`)「あとさ……」

 幾らかの会話を終えジョルジュたちは去っていった。
 アニジャたちもリュウジャに跨り、任務の遂行に移る。
 受けた傷はオトジャが応急処置を済ませており、飛ぶくらいにはほとんど支障が無い。

(´<_` )「……また余計なことでぐちゃぐちゃ悩んでたのか」

( ´_ゝ`)「繊細だからな。ガラスのハート」

(´<_` )「いっそ割れてしまえ」

( ´_ゝ`)「俺のハートの皹が入っているとすれば主にオトジャのせい」

('A`) 「アロンアルファを注文しますか?」

( ´_ゝ`)「いりません」

93 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 22:27:48 ID:fFQDkRWg0

 リュウジャは、戦闘の疲れをほとんど見せず、悠々と空を昇った。
 羽ばたきは力強く、嘶きは心地よく響く。

( ´_ゝ`)「やっぱさー、俺飛ぶの好きなんだよ。なんかこう、ギリギリのところをさ」

(´<_` )「……」

( ´_ゝ`)「負けると悔しいし、嫌になるけど」

(´<_` )「何言ってる。そんなもん皆一緒だ」

 空の青に赤が混じり、徐々に黄味を帯び始めている。
 リュウジャはその桃色の翼幕を心地よさそうに風に靡かせ滑空した。

( ´_ゝ`)「勝とうな、ネ竜祭」

(´<_` )「もちろんだ。負けたら蹴り落とすぞ」

( ^ω^)b ('A`)b ←何かよく分らないがサポートは任せろ、という顔。

 リュウジャも嘶きを一つ。
 楽しげに身体を揺さぶりアニジャに答えた。

 太陽が徐々に地平線へ降りてゆく。
 空を行く彼らの姿はその光を浴びて、何よりも赤く、燦然と輝いていた。



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