■2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです
└l从・∀・ノ!リ人と神社のお狐様のようです
- 466 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 23:32:28 ID:gFJcYCG20
- 身寄りを無くし、貰われてきた先は古い神社の家だった。
馴染みの無い土地。馴染みの無い景色。なにもかもが見知らぬものばかり。
優しく接してはくれるものの、自分を引き取った老夫婦はどこか他所他所しかった。
新しい家族とは名ばかり、遠い親戚というだけで面識など皆無に等しい。
仲の良かった友達とも離れ離れになってしまった。
越してきたばかりのこの地に、当然友達などいる筈も無い。
朱色に塗られた鳥居の中心、『流石稲荷神社』と彫り込まれた金看板のその下で
田畑の続く畦道を眺めながら石階段に腰掛ける少女の胸の内は
決して面には出さないが、孤独と淋しさでいっぱいだった。
l从・∀・ノ!リ人
だから。
フと気づいた時には自分を通り過ぎて、鳥居をくぐり抜け境内へと入っていった
同じ年頃の子供の姿を見つけた時、迷わずその後ろを追ったのだ。
友達になれるかな?一緒に遊んでくれないかな?
そんな、縋るような期待を胸に込めて。
l从・∀・ノ!リ人と神社のお狐様のようです
.
- 468 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 23:33:09 ID:gFJcYCG20
- ( _ゝ)「おのこごなら良かったが」
(<_ )「めのこだったか」
( _ゝ)「世継ぎはどうなる?」
(<_ )「婿を宮司にするしかないな」
( _ゝ)「そうだなぁ、それしかないなぁ」
同じ背丈に同じ声、それに、揃いの振袖袴。
唯一違う髪の色を除いて、どこからどこまで鏡写しの2人の子供は
ぼそぼそと、同じ調子で呟きながら同じ歩調で参道を進んでいく。
l从・∀・ノ!リ人「ねーねー」
( _ゝ)(<_ )
2人の子供が同時に振り向く。
こちらを向いたその顔に、少女は文字通り面食らった。
何故なら振り返った2人の顔は、それぞれ
大きな一つ目の描かれた色違いの面で、目元が覆い隠されていたからだ。
- 469 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 23:33:53 ID:gFJcYCG20
- 面に描かれた不気味な一つ目がぎょろり、身長の低い少女を見下す。
( _ゝ)「お、弟者、俺らに話しかけてきたぞ。どうしてだ」
(<_ )「落ち着け兄者。こういう事も稀にある」
( _ゝ)「どうしよう?逃げようか」
(<_ )「このまま逃げ隠れしても無駄だと思うが。
それに、この姿なら大丈夫の筈だ」
少女を置いて、何やらごそごそ相談しだす。
兄者と弟者と呼び合う名前からして、2人はどうやら兄弟らしかった。
l从・∀・ノ!リ人「ねーねー」
Σ( _ゝ)
兄だか弟だか分からないが、そんな2人のうち片方の袖の裾をくいくいと引っ張る。
- 470 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 23:34:37 ID:gFJcYCG20
- l从・∀・ノ!リ人「一緒に遊ぼ!」
(; _ゝ)
(; _ゝ)「あ……あーあーなんも聞こえない。気のせい気のせい」
(<_ ;)「うんうん。聞こえない聞こえない。聞こえないなー」
同じ仕草で露骨に目を天に向け、少女の脇を通り過ぎると
拝殿の方へそそくさと歩み去ろうとする兄弟。
l从・∀・ノ!リ人「待つのじゃ!」
ぎゅ!
Σ(; _ゝ)「「ぎゃっ!」」(<_ ;)そ
咄嗟に伸ばした左右の手が、もふもふした感触の“何か”を掴んだ。
l从・∀・ノ!リ人「のじゃ?」
細やかな毛の手触り。
掴んだ手元をよく見てみると、その”何か”は兄弟の尻の辺りから伸びている。
ふさふさで、仄かに暖かく、手の下でもにょもにょと動く。
それは、先程までは確かに存在しなかった筈の―――獣の尻尾だった。
- 472 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 23:35:17 ID:gFJcYCG20
- (; _ゝ)「あわわわ……どどどうしよう弟者、尻尾がちぎられる!!」
(<_ ;)「おおおおちけつ兄者、完璧に隠した筈なのに何故ばれた!?」
途端慌てふためく兄者と弟者。
尻尾を掴んだまま、さらによくよく目を凝らしてみると
そんな2人の頭にはひょっこりと、獣の耳らしきものまで生えてきた。
l从・∀・ノ!リ人「お耳も生えてきたのじゃ」
(; _ゝ)「「わあああああっ!!」」(<_ ;)
頭を抑え、ますますパニックに陥る兄弟。
獣の耳と尾を生やし哀れな悲鳴をあげる、可笑しな2人の姿を見て少女は首を傾げた。
l从・∀・ノ!リ人「猫さんなのじゃ?」
(; _ゝ)「違う!狐だ!」
l从・∀・ノ!リ人「きつね?」
(<_ ;)「ちょ、兄者おま」
l从・∀・ノ!リ人「……狐さんが人に化けてるのじゃ?」
Σ(; _ゝ)「ぎくぅ!何故バレた!?」
(<_ ;)「馬鹿なのか兄者は?」
- 473 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 23:35:57 ID:gFJcYCG20
- l从・∀・ノ!リ人「狐が化けるって話、本当だったのじゃ……」
(; _ゝ)「むうう……だ、だが、俺らをそこらの野良狐と一緒にしてくれるなよ!」
(<_ ;)「どこまで開き直る気だ兄者」
( _ゝ)「我ら兄弟は他でも無い!此処流石稲荷神社に奉られた
辰狐王菩薩様にお仕えする神聖なる使わs……フゴッ」
そこまで一気に語ったところで、すかさず弟者の手がその口を塞いだ。
l从・∀・ノ!リ人「?」
⊂(<_ ;)「そこまで名乗る必要は無いだろ。もう行くぞ兄者」
(; _ゝ)「むう……そ、そうだな。行こう弟者」
l从・∀・ノ!リ人「待つのじゃー!」ギュッ!
(; _ゝ)「「ぎゃー!!」」(<_ ;)
踵を返し、さっさと歩み去ろうとする兄弟の尻尾を再び掴む。
愛らしい外見に反して、小さな少女の力は意外にも強かった。
思わず後方へ引っ張られバランスを崩した2人は、兄弟仲良く地面へと雪崩れこむ形となる。
- 474 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 23:36:37 ID:gFJcYCG20
- (; _ゝ)「なんなんだお前はー!」
(<_ ;)「離せー!」
l从・∀・ノ!リ人「狐さん達、お友達になってほしいのじゃ!」
(; _ゝ)「……え?」
l从・∀・ノ!リ人「遊び相手がいなくてつまんなかったのじゃ。
だから、一緒に遊んでほしいのじゃ!」
虚を突かれた兄弟は、きょとんとした様子で互いの顔を見合わせた。
l从・∀・ノ!リ人「一緒に遊ぼ!」
少女のきらきら輝く真っ直ぐな瞳に見つめられ、兄の方は何か考えるように押し黙る。
( _ゝ)「……」
(<_ ;)「兄者?」
そして数秒後、仄かに頬を紅くさせニヤッと牙を覗かせた。
(* _ゝ)「そ、そんなに言うなら仕方が無い……遊んであげてもいいんだからねっ!」
(<_ ;)「兄者!?」
l从・∀・*ノ!リ人「わーい!」
- 475 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 23:37:28 ID:gFJcYCG20
- (* _ゝ)「俺らも正直退屈だったからな。遊びに行くぞ、弟者も来い!」
(<_ ;)「いや駄目だろ。稲荷神様に怒られるぞ」
( _ゝ)「いいじゃん俺遊びたい。今出かけてるし大丈夫だろ」
(<_ ;)「あのなぁ……」
l从・∀・*ノ!リ人「遊ぶのじゃ遊ぶのじゃー!」
能天気な兄と違い真面目な弟者は渋る様子を見せたが、そこはやはりまだ子供。
すっかりその気になってはしゃぐ兄と、嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねる少女を前に
自身も遊びたい欲求には勝てなかった。
(<_ *)「ま……いっか!仕方無い、日が暮れるまでだよ」
l从・∀・*ノ!リ人「やったー!」
(* _ゝ)「決まり!行くぞー」
一番に走り出した兄者を先頭に、3人は次々鳥居をくぐる。
その日は日が沈むまで、近所の公園や森で兄弟と遊んだ。
狐の兄弟は、人に見られても良いようになのか
最初のように尻尾と耳を隠し始終人間の子供の姿をしていたが
それでも時折は、沈みゆく夕日に照らされてうっすらとその輪郭が朧見えるのだった。
鬼ごっこにかくれんぼ。
兄弟は走るのが早かったが、かくれんぼは少女の方が得意だった。
1人ぼっちの心細さは何時の間にか消え去り、笑顔と喜びで彩られていく。
新しい家に貰われてきて、初めて寂しさを忘れた日だった。
- 476 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 23:38:08 ID:gFJcYCG20
カァー カァー
3人仲良く手を繋いで歩く、影の差した田舎道。
充分遊び駆け回ったあと、もう暗くなるからと、神社までの道のりを辿る。
その途中、少女はフと立ち止まって
自分を間にして歩く兄弟に疑問を投げかけた。
l从・∀・ノ!リ人「兄者、弟者」
( _ゝ)「ん?」
(<_ )「なんだ?」
l从・∀・ノ!リ人「2人とも、どうしてそんなお面をつけてるのじゃ?」
( _ゝ)「む……」
(<_ )「……」
l从・∀・ノ!リ人「お顔を見せてほしいのじゃ」
純心な少女の願いに、2人は暫し口を噤んだ。
- 477 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 23:38:48 ID:gFJcYCG20
- l从・∀・ノ!リ人「……駄目なのじゃ?」
―――だが、それも束の間のこと。
結んだ口元を崩し、柔らかな笑みを浮かべる。
( _ゝ)「……じゃあ、友達になった証!」
(<_ )「……そうだな。
尻尾と耳は隠せても、こればかりは化けきれないから面で隠してたけど……」
( _ゝ)「友達だから、特別だ」
そう言って笑い、二人同時に同じ仕草で面をめくった。
沈みゆく日の光に照らされて、細く煌く金色の輪。
少女は思わず、あっと息を呑む。
仮面の下から現れた、金の光を宿して輝く黒曜石のような瞳は
人では無い―――正真正銘、獣のそれであった。
眩いその煌きを受けて、瞬きをしたほんの数秒後
既に2人の姿は目の前から消えていた。
遠く、楽しげな笑い声が風に乗って聞こえてくる。
- 478 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 23:39:31 ID:gFJcYCG20
- 何時の間にあの長い石階段を登ったのだろう。
手を繋ぎ、赤く聳える鳥居をくぐる2人の後ろ姿を見つけて
取り残された少女もまた階段を駆け上がり、兄弟の後を追った。
l从・∀・ノ!リ人「……あれ……、兄者?弟者?」
息を切らしつつ、きょろきょろと辺りを見渡すも2人の姿は無い。
その代わり、少女の視界に2つの影が飛び込んできた。
左は巻物、右は球。それぞれを口に銜えて鎮座する、一対の狐の石像が
拝殿を背にして静かに佇み、兄弟の代わりに少女を迎え入れた。
l从・∀・ノ!リ人「……」
狐の像を見上げる彼女の元へ、1人の人影が近づいてくる。
('、ヽ`*川「はーちゃん?もう夕ご飯の時間だよ」
l从・∀・ノ!リ人「あ、……おかあ、さん」
('、ヽ`*川「……体冷えたでしょ。早くお入んなさい」
そう言って養母は、ぽつんと佇む少女に向けてそっと手を差し出した。
少女は一瞬戸惑いを見せつつも、その手をしっかりと握る。
昔から知っている、温もりとは違うけれど。
手から伝わる体温は暖かく、そして、紛れも無い優しさが込められていた。
- 479 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 23:40:47 ID:gFJcYCG20
- …………………………………………………
………………………………
…………………..
…………
l从・∀・ノ!リ人「兄者達ー、かけっこするのじゃ!」
―――あれから時は流れ。
幼かった少女は神社の娘として逞しく成長し、めでたく一人の男性と結ばれた。
今は、結婚と共に宮司の務めを引き継ぐことを受け入れてくれた夫と共に
立派に流石稲荷神社を継ぎ、守り続けている。
(;´_ゝ`)「おいおい、そんなに走ると危ないぞ妹者!」
(´<_` )「転んだりしたら大変だ。もっとおしとやかな遊びにしよう妹者」
愛らしい笑顔で参道を駆ける巫女装束の少女。
そしてそんな少女と戯れる、双子の白狐が二匹。
成長した彼らは、もう人の姿に化けてはいない。
l从・∀・ノ!リ人「レース優勝者には景品も用意されているのじゃ」
( ´_ゝ`)「ほほう」
(´<_` )「してその景品とは」
l从・∀・ノ!リ人「勝った方に油揚げ一枚多くあげるのじゃ!」
( ´_ゝ`)「「のった!!」」(´<_` )
l从・∀・ノ!リ人「妹者が勝ったら、妹者の言うこと一日なんでも聞くのじゃー」
- 480 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 23:41:51 ID:gFJcYCG20
- 数年前に結ばれた、優しく頼もしい夫との間には
めでたいことに元気な女の子を授かった。
ずっと前から既に家族同然であった狐の兄弟に因んで、妹者と名付けられた神社の一人娘は
結われた髪に光る和鈴をちりんちりんと鳴らしながら、今日も元気に走り回っている。
l从・∀・ノ!リ人「よーい、どん!なのじゃ!」
( ´_ゝ`)「手加減しないぞ妹者!」
(´<_` )「流石兄者大人気ない。だがこればかりは譲れんな」
l从・∀・ノ!リ人ノ□サッ
「ここで秘密道具!あ〜ぶ〜ら〜あ〜げ〜(大山の●代ヴォイス)」
(*´_ゝ`)「「もらったあああああ!!!」」(´<_`*)
迷わず、パック入りの油揚げに突っ込む二匹。
レースそっちのけで油揚げ強奪戦を始めた兄弟を尻目に
長い石階段をトントンと降りきって、地面に着地した妹者は余裕のVサインを掲げた。
l从・∀・ノ!リ人v「妹者の勝ちーなのじゃ!」
- 481 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 23:42:31 ID:gFJcYCG20
- (#´_ゝ`)「ずるいぞ弟者!ここは俺に譲るべきだ!」
(´<_,` )「先に取ったもん勝ちですー。一足とろかったな兄者!」
(#´_ゝ`)「キー!怒るよ!お兄ちゃん怒っちゃうよ!!喰らえ!妖術・狐火…」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「あんた達、それ以上喧嘩するなら毛皮剥いで冬用のコートにするよ」
(;´_ゝ`)「「!!?」」(´<_`;)
もつれ合う狐達の上に巨大な影が落ちる。
やたら逞しい体格に清楚な和服を着こなした、屈強な女性が二匹の傍らに聳え立っていた。
そしてその右手には、ぎらりと光る一丁の刃物。
兄弟は元々白い毛並みを更に青白くさせて震え上がった。
(;´_ゝ`)「ひいいぃ!!すいませんもう止めますどうか命だけはお助けを!!!」
(´<_`;)「毛皮反対!!だめ、絶対!!!」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「分かれば良し」
実際は、境内の庭木を手入れしている途中だった為それに使用していた剪定鋏なのだが
その女性が纏う常人離れした威圧感の恐ろしさと相まって
先程の毛皮狩り発言が洒落にならない雰囲気を醸し出している。
- 482 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 23:43:19 ID:gFJcYCG20
- (;´_ゝ`)「うう……っ昔はあんなに愛らしい娘子だったというのに……」
(´<_`;)「一体どこで異次元の穴に落っこちてしまったんだ……」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「な ん か 言 っ た か い」
(;´_ゝ`)「「ぎゃああああああ!!!」」(´<_`;)
二重に響く哀れな絶叫。
それを遠くに聞きながら、参道の落ち葉を箒で掃いていた宮司はのほほんと呟いた。
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「いやー、今日も平和だなぁ」
l从・∀・ノ!リ人「父者、父者」
くいくい。
袖を引かれて視線を下げれば、最愛の一人娘が円らな瞳でこちらを見上げている。
- 483 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 23:43:59 ID:gFJcYCG20
- 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「おや妹者。どうした?」
l从・∀・ノ!リ人「あのね、兄者達借りてってもいいのじゃ?」
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「うん?どこか出かけるのかい?」
l从・∀・ノ!リ人「妹者が勝ったから、今日は一日中兄者達に遊んでもらうのじゃ!」
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「そっかそっか。じゃあ思いっきり遊んでおいで」
l从・∀・*ノ!リ人「うん!」
嬉しそうに返事を一声、赤い下駄をからから鳴らして石畳を駆けて行く。
柔らかい秋の日差しと紅葉に彩られて
今日も流石稲荷神社は明るく賑やかです。
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