■2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです
└('A`)My baby blueのようです
└Part2
- 53 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/12/09(日) 19:06:40 ID:h8higNtg0
俺は逃げていた。
彼女を背負って。
何から?
何からだろう。
別に逃げた事に意味なんて無かった。
追われてるわけじゃあない。
辛い事があったわけでもない。
ただ俺たちは運命から逃げたかった。
どう進んだって、目の前には希望が無いから。
どう足掻いたって、避けられないから。
なら全てから逃げるしかなかった。
そうでもしなきゃ、刹那の内に彼女は死んでしまう、そんな気がしていた。
- 54 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/12/09(日) 19:07:22 ID:h8higNtg0
- もう息が切れて来た。
クーを背中に乗せてるせいだ。
車椅子を持って来るべきだったと、後悔する。
川 ゚ -゚)「私は大丈夫だ、ドクオ」
(;'A`)「大丈夫って…ハァハァ……何が」
クーは答えなかった。
代わりに大丈夫、大丈夫と繰り返す。
(;'A`)「結構来たな」
川 ゚ -゚)「うん。ドクオ、降ろして」
(;'A`)「大丈夫なのか?」
川 ゚ -゚)「さっきからそう言ってるだろう?」
(;'A`)「あぁ…そうだったな」
俺はクーに従って、彼女を降ろした。
足元を確かめるように、二三足踏みをして、クーは降り立つ。
眼下には街があって、俺たちはそれをしばし見下ろしていた。
- 55 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/12/09(日) 19:11:20 ID:h8higNtg0
- 俺には夢があった。
夢というには曖昧で、将来性のないものだけれど。
俺は、空を飛びたかった。
あの空を廻る雲みたいに、自由に。
それは、必ずしも不可能な事じゃない。
事実、この大空には飛行船が飛んでいる。
客船、軍艦、様々飛んでいる。
早い話がお金を払って、客船なら客船に乗り込めばいいのかもしれない。
でも、それじゃ自由がない。
客船に乗ったって、その中じゃ俺は有象無象の一人。
蝶のように舞う事も、鷹のように駆けることもままならない。
自由のない空に、意味なんてない。
とどのつまり、俺は自由になりたかった。
何に縛られてるわけでもない。
ただ空の自由が欲しかった。
- 56 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/12/09(日) 19:12:22 ID:h8higNtg0
- 俺がこの話をすると、クーは決まってこう言った。
川 ゚ -゚)「そんなに飛びたいなら飛行艇乗りになればいい」
('A`)「…無茶言うなよ」
病室で静かに背持たれるクーは、この時ばかりは笑顔で、俺に語りかけてきたものだった。
川 ゚ -゚)「なぁ…なんだってこんなとこまで私を背負ってきたんだ」
('A`)「さぁ?」
川 ゚ -゚)「私は一応病人なんだけどな」
('A`)「気分転換になるじゃないか」
川 ゚ -゚)「うん。ちょうどウンザリしてたところだ」
クーははにかんだ。
とても優しい笑顔。
死期が近づいてるなんて、ちっとも信じられない。
- 57 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/12/09(日) 19:16:02 ID:h8higNtg0
- 川 ゚ -゚)「なぁ聞いたよ」
不意にクーは言った。
('A`)「え?」
川 ゚ -゚)「飛行艇のこと」
(;'A`)「ッ!?」
川 ゚ -゚)「諦めるって?」
しばし、沈黙。
互いに対極の事を考えてたように思う。
きっとそうだ。
川 ゚ -゚)「一言でいい。一言でいいから、言って?」
(;'A`)「…何を?」
川 ゚ -゚)「ドクオ」
目で制された。
まるで、愚問はよせ、分かってるだろ、と言わんばかりに。
- 58 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/12/09(日) 19:17:09 ID:h8higNtg0
再び、沈黙。
幾度となく交わした問答だったけど、今日ばかりは全く別のものに感じた。
なんだかお互いに切羽詰まっているような感じで、余裕がない。
( A )「…」
俺は迷っている。
最近になってその事に気付いた。
クーが俺に言葉を掛ける度、心に刃が突き立った。
醜い。
クーを犠牲にするなんて、あり得ないことだ。
俺が飛ぶ空は、あくまでクーがいてこそ成り立つのに。
なのに、心の何処かで少しだけ、ほんの少しだけそれを許容する自分がいる。
俺の胸内に燻るのは、嫌悪。
自分を殺してしまいたかった。
- 59 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/12/09(日) 19:18:15 ID:h8higNtg0
川 ゚ -゚)「一言でいいんだ。そしたら私がドクオを飛ばせてあげる」
この言葉だ。
もう聞きたくなかった。
( A )「…ごめん」
俺は、ずっと顔を下に向けていた。
目を合わせる事がこんなに難しいなんて、思わなかった。
川 ゚ -゚)「私の事は気にしなくていい」
( A )「…そんなこと出来るわけないだろ」
なおもクーは食い下がる。
川 ゚ -゚)「私がやりたいん…」
(;'A`)「クー、俺は!!!!」
叫ぶ。
我に返って、消沈。
(; A )「俺は…」
(; A )「…お前と飛びたいんだよ……」
唇が乾く。
強張っている。
クーの手が、俺の頬に触れていた。
- 60 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/12/09(日) 19:19:37 ID:h8higNtg0
と、ここまで話して、俺はデイラントが眠りに落ちている事に気付いた。
無理もない。
子供からしたら退屈で、眠くなる話だっただろう。
結果として、ただ独り言を呟いていただけになりはしたが、俺自身色々回顧して懐かしくも感じたので、まぁいいとする。
('A`)「…どうすっかなぁ」
俺は嘆息した。
勢いでここまで来たけれど、結局俺はどうしたいんだ。
少し考えて、結論に辿り着く。
曖昧で、結論とは言い難いけど。
俺は納得が欲しかった。
全てを教えて、逃げるならしっかりと別れを告げて、欲しいんだ。
逃げないならそれもいいだろう。
それは俺の関与するところじゃない。
つまり、インフォームドコンセント。
全てを知った上で、納得してほしかった。
そう、クーのように。
そしたらきっと結末がどうあっても、きちんと終われる。
あのまま逃げたとしたら、俺の中にはきっと妙なモヤモヤが残っていただろう。
('A`)「何かあったら頼むぞ、クー」
聞こえちゃいないだろうけど、俺は言った。
なんだか無性に言いたくなったんだ。
- 61 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/12/09(日) 19:21:20 ID:h8higNtg0
- ………………………………………………
(´・ω・`)「それで帰ってきたの」
('A`)「…何か言いたげじゃねぇか」
(´・ω・`)「そんなつもりはないさ」
ただここまで予想が的中するなんて、とショボンは俺にノートを突き付けた。
昨日の日付のページに「ドクオが帰ってくるに500ベル」そう書いてあった。
('A`)「ケッ。金の亡者め」
俺はタバコに火をつけた。
(´・ω・`)「何か食べるかい?」
( 'A`)y━・~~ 「あぁ、適当に頼む」
俺は答える。
でもあんまり空腹ではなかった。
- 62 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/12/09(日) 19:22:49 ID:h8higNtg0
それよりも隣の部屋の状況はどうなってるのかが知りたい。
状況って言ったって何か大事があってるわけでもない。
だけどやっぱり俺が発端でもあるから、無関心じゃいられない。
(´・ω・`)「気になるかい?」
( 'A`)y━・~~ 「まぁ…な」
(´・ω・`)「それで?どうするの?」
( 'A`)y━・~~ 「何がだ?」
俺は聞き返す。
(´・ω・`)「あの子の今後に決まってるだろロリコン」
(;'A`)「その言い方はやめろ」
- 63 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/12/09(日) 19:45:43 ID:h8higNtg0
(´・ω・`)「まさか、あいつが決めることだ、とかクッサい事言うつもりじゃないだろうね」
ショボンは俺の言葉など意にも介さず言った。
そして概ね俺の思考を言い当てている。
なんだか癪だ。
(´・ω・`)「もしかしなくても図星?」
( 'A`)y━・~~ 「…いや、多分そんな事いう必要もねーよ」
(´・ω・`)「え?」
( 'A`)y━・~~ 「今度は自分で決めるさ。逃げるってな」
(;´・ω・`)「うわぁ……」
ショボンはあからさまに顔をしかめて見せた。
我ながら確かに臭かったように思う。
- 64 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/12/09(日) 19:46:32 ID:h8higNtg0
( 'A`)y━・~~ 「…」
(´・ω・`)「君、そんな事平気で言えるようになったらもうおっさんだよ」
( 'A`)y━・~~ 「あぁ。なんせ"おじ様"だからな」
俺は言った。
初めておじ様と言われた時は、かなり面食らったものだ。
あの年の子供からすれば俺ももう年なんだなぁと染み染み。
- 65 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/12/09(日) 19:48:23 ID:h8higNtg0
扉が開く。
店舗の入り口側じゃなくて、カウンター裏の扉。
アラマキと、手を引かれたデイラントが出てきた。
俺は煙草を揉み消した。
('A`)「もういいのか」
ζ(-、-*ζ「……うん」
目が赤い。
やっぱり泣いてたんだろうか。
/ ,' 3「これかr…」
('A`)「あんたは黙っててくれ」
/ ,' 3「っ…」
- 66 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/12/09(日) 19:50:20 ID:h8higNtg0
俺は、隣の椅子を叩いた。
昨日の朝も、ここに座っていたっけ。
('A`)「デイラント、ここに座れ」
ζ(゚ー゚*ζ「うん」
デイラントはおとなしく座った。
ショボンが気を利かせたのかなんなのか、視界からフェードアウトしていく。
('A`)「お前がどういう立場にあるのか、分かったか?」
コクリ、とデイラントは頷く。
('A`)「どうするか、決めたか?」
再び首肯。
決意に満ちたとは言い難いけど、少なくとも情けない目はしていなかった。
しっかり自分で結論を出せたらしい。
本当に聡明で気丈な子供だ。
心から、そう思った。
- 67 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/12/09(日) 19:51:33 ID:h8higNtg0
('A`)「どうするか言ってみろ」
俺は尋ねた。
ζ(゚ー゚*ζ「…行く」
('A`)「あ?」
ボソボソ喋るので、あまり聞き取れない。
俺は聞き返した。
ζ(゚ー゚*ζ「おじ様と一緒に行く」
今度はハッキリと答えた。
('A`)「そうか」
俺はデイラントの頭をポンと触った。
滑らかな髪だ。
- 68 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/12/09(日) 19:52:49 ID:h8higNtg0
('A`)「ショボン」
(´・ω・`)「なんだい?」
('A`)「迷惑かけた」
(´・ω・`)「ホントだよ全く…」
言いつつショボンは籠を突き出す。
昨日、出立の時に貰ったのと同じものだ。
('A`)「ありがとよ」
俺はコインを代わりに渡す。
(´・ω・`)「毎度あり~」
最後まで金は受け取るあたりショボンらしい。
- 69 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/12/09(日) 19:54:11 ID:h8higNtg0
('A`)「さて」
/ ,' 3「…私ならもういい。別れは済んだ」
察したようにアラマキは言った。
なんだか酷くやつれて見える。
('A`)「本当にいいのか?」
ζ(-、-*ζ「…」
二人とも返事をしなかった。
面倒な奴らだ。
('A`)「外で待ってるぞ」
俺は言った。
だけど、俺が外に出るより早くデイラントが俺の手を握る。
- 71 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/12/09(日) 19:55:10 ID:h8higNtg0
('A`)「…どうした?」
ζ(゚ー゚*ζ「もう、大丈夫よ」
俺は振り返り、アラマキを見る。
俯いている。
('A`)「…本当にいいんだな?」
ζ(-、-*ζ「えぇ。私、もう子供じゃないもの」
こんな時くらい、大人ぶらなくたって誰も何も言わないのに。
俺は、そう言いかけて、やめた。
ζ(゚ー゚*ζ「さようならお祖父様。お元気で」
/ ;' 3「……あぁ、さようなら」
('A`)「…」
( A )「ケッ。ガキンチョが」
デイラントの精一杯の強がりなんだ。
きっと、そうだ。
デイラントは、俺が思っている以上に大人だった。
- 72 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/12/09(日) 19:56:17 ID:h8higNtg0
デレ、それが過去を捨てた彼女の新しい名前。
デイラントから捩ったのだが、我ながらセンスがある。
だけど操縦してる間、いや陸で何かをしている時も、俺はその名を呼ぶことはなかった。
深い意味は無かった。
元々ガキンチョと呼ぶことの方が多かったし、名前を呼ぶ機会もあまりなかった気がする。
強いて言うなら、俺自身慣れていなかったのも知れない。
デレ、あえてこう呼ぶ、と出会ってから既に幾ばくかの月日が立っていた。
其の間ずっと俺たちは飛び続けた。
意外だったのは、デレが一度も飛行艇に対して嫌悪感を露わにしなかったこと。
そして、いつまでも暗く沈んでないでいてくれたことだ。
これが俺にとってはとても救いであったし、同時に好意を抱く要因でもあった。
- 73 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/12/09(日) 19:57:18 ID:h8higNtg0
記憶よりも大きな邸宅の前。
俺はデレの手を引いて佇んでいた。
ζ(゚、゚*ζ「おじ様?開けないのかしら?」
('A`)「…今開けるさ」
俺はかれこれ数分は扉の前で立ち往生していた。
まるで不審者だけど、中々決心がつかない。
ζ(゚ー゚*ζ「お母様に怒られるのが怖いの?」
('A`)「なんだそりゃ」
ζ(゚、゚*ζ「だっておじ様ったら、ずーっと中に入ろうとしないじゃない」
('A`)「あぁ、まぁ…な」
親じゃあないが、あながち間違いじゃない気もする。
俺はただ単にどういう顔で再会したらいいかが分からなかった。
つまり、合わせる顔がないんだ。
- 74 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/12/09(日) 19:59:00 ID:h8higNtg0
ζ(゚ー゚*ζ「ここはおじ様のお家?」
('A`)「いや…」
ζ(゚、゚*ζ「違うの?じゃあそこのボタンを押せばいいじゃない」
簡単に言ってくれる。
それが出来ないからこんなに寒い中突っ立っているってのに。
ζ(゚ー゚*ζ「ほら、ぴんぽーんって。ね?」
(;'A`)「あ、おい!」
俺が止める暇も無く、デレは背伸びをして、インターホンを押した。
すると数秒と経たず中から人が出てきた。
その時俺はいきなりドアを開けてしまうなんて不用心だな、なんて他人事のように考えていた。
多分焦りで頭がどうかしてたんだろう。
- 75 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/12/09(日) 20:03:37 ID:h8higNtg0
中から出てきたのは、金髪の女性。
デレと同じような髪の色をしている。
随分と老けてはいたけど、概ね俺の想像通りで、さっきの焦りはどこかへ飛んで行ってしまった。
ξ゚听)ξ「……どちら様?」
('A`)「よう、ツン」
ξ゚听)ξ「え…もしかしてあんたドクオ?」
('A`)「おう」
俺は答える。
思ったよりも淀みなく極自然に返事が出来た。
- 76 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/12/09(日) 20:04:57 ID:h8higNtg0
ξ゚听)ξ「…帰ってきたの?」
('A`)「ちょっと所用でな」
ξ*゚听)ξ「久しぶりじゃない!どこ行ってたのよ!!」
(;'A`)「え?」
ξ*゚听)ξ「十年以上連絡もしてくれなかったじゃない!」
思っていた反応と、対極だ。
俺の想像では、きっと口も聞いてもらえないだろうと思っていたから。
俺がこの地を離れた時、二人には俺の、いや俺たちの思想が理解して貰えなかったのだ。
その件に関しては、俺は仕方ないと思っている。
俺自身当時は納得していなかったし、泣きの選択だったからだ。
だから、俺はこんな待遇を受けるはずがないのに。
理解出来なかった。
- 77 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/12/09(日) 20:06:34 ID:h8higNtg0
ξ゚听)ξ「…あら?その子は?」
ツンがデレの方を見て言った。
('A`)「あ、あぁ。こいつはデ…」
言いかけて、止めた。
なんとなくデレ、という名前を言葉に出すのが躊躇われたのだ。
代わりにデレが答える。
デイラントです、と。
当然と言えば当然だ。
名を決めた時から、一度も呼ばずに結構な月日が経っている。
忘れてたっておかしくない。
だけど、なんとなく気になった。
もしかしたら、デレの、デイラントのたった一つの意地なんじゃないか。
名前だけは忘れたくないっていう、最後の抵抗なんじゃないか。
なんて事を考えた。
- 78 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/12/09(日) 20:07:47 ID:h8higNtg0
ξ゚听)ξ「もしかして…あんたの子供!?」
(;'A`)「ちげーよ」
即座に否定。
(;'A`)「こいつはただ預かってるだけで…」
「ツーン、何かあったお?」
俺の声は遮られる。
ひどく懐かしい声だった。
やがて、奥から男が出てくる。
今度こそ俺の想像通りの容貌。
懐かしくて思わず、笑みが零れそうになった。
- 79 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/12/09(日) 20:10:15 ID:h8higNtg0
( ^ω^)「いきなり叫んでどうしたおー?」
男は喋りながら俺の目の前まで来た。
ツンにしか目がいってないらしい。
声は出ない。
ただ、直後に目が合って。
それでも声が出なかった。
俺は昔の面影を一つ一つ照らし合わせて。
寸分のズレもない事に喜ぶ。
あぁそうだ。
こいつはブーンだ。
ずっと、ずっと俺の親友だった。
- 80 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/12/09(日) 20:11:08 ID:h8higNtg0
( ^ω^)「……ドクオ…かお?」
('A`)「おう。ブーン」
俺は答える。
そして次の瞬間、頬に衝撃が走り、吹き飛んだ。
背中から石段に叩きつけられる。
鈍痛?
それさえもよく分からない。
頭の上で、ツンとデレの悲鳴らしきものが聞こえる。
(#)"A`)「いってぇ…」
( ω )「……帰れお」
覚悟はしていたつもりだ。
それこそ殺意を向けられることだってあり得なくはないと、そう思ってここまで来た。
だけど、ブーンの拳はそのどれよりも重くて、痛かった。
俺とブーンは、親友だった。
そう、文字通り"だった"んだ。
少なくとも、互いに無二だと言い合えるくらいには。
- 81 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/12/09(日) 20:19:38 ID:h8higNtg0
あれから、飛行艇には乗ってない。
あれからというのは、こちらに来てから、つまりブーンと再会してからだ。
なんとなくこの地で飛ぶことに引け目を感じていたんだ。
ブーンに対してなのかクーに対してなのかすらわからない漠然としたもので、未だに解決の糸口が掴めずにいる。
あの後俺は予定通り、ツンにデレを預けた。
デレも最初はかなり渋っていたようだったが、ツンの持ち前の明るさですぐ懐いたようだった。
まぁそうなると思って信頼していたから預けたわけだけど。
- 82 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/12/09(日) 20:22:55 ID:h8higNtg0
俺は近隣に部屋を間借りして、暮らしていた。
飛行艇は港に繋いでいる。
どうせ俺以外には乗れやしないし、犯罪なんて起こりようもないくらい田舎だから大丈夫だろう。
ζ(゚ー゚*ζ「ねぇおじ様」
( 'A`)y━・~~ 「どうした?」
俺は飛行艇の機関部を覗きながら言った。
飛ばないと言っても毎日のメンテナンスは欠かさない。
ζ(゚、゚*ζ「いつも何を食べているの?」
デレは俺の顔、恐らく煙草を、指差した。
( 'A`)y━・~~ 「ん?臭いか?」
ζ(゚ー゚*ζ「いいえ、お外だからあんまり匂わないわ」
そうじゃなくて、とデレは続ける。
ζ(゚ー゚*ζ「それ、私も食べてみたいの!」
- 83 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/12/09(日) 20:25:01 ID:h8higNtg0
('A`)「ダメだ」
ζ(゚、゚*ζ「どうして?」
俺は煙草を捨てた。
海水が消火してくれる。
('A`)「これはな、食べ物じゃねぇんだ」
ζ(゚、゚*ζ「でもいっつも咥えてるわ」
('A`)「煙草っつってな、煙を吸ってんだよ」
ζ(゚、゚*ζ「ケムリってあのケムリ?燃えると出てくる?」
('A`)「あぁ」
- 84 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/12/09(日) 20:26:26 ID:h8higNtg0
ζ(゚ー゚*ζ「うぇー」
デレは顔をしかめる。
最近は、感情表現が豊かになった気がする。
感情が希薄だったわけじゃないけど、当初はぎこちなかったものだ。
多分緊張がなくなったんだろう。
('A`)「ガキンチョには分かるまい」
ζ(゚、゚*ζ「むっ!またそうやって子供扱いして!」
ζ(゚、゚*ζ「私はもう大人よ!」
('A`)「ライターの使い方も分からんくせに」
デレは黙る。
思案しているような顔。
反論材料でも探しているんだろうか。
- 85 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/12/09(日) 20:27:25 ID:h8higNtg0
ζ(゚ー゚*ζ「私も吸うわ!」
('A`)「だめだっつってんだろ」
しがみついて胸ポケットの煙草の箱を取ろうとするデレを引き剥がす。
だけど、いつもならここで食い下がるのに今日は妙に食い下がってきた。
(;'A`)「待て待て!離せ!」
ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ頂戴?」
俺はもう一度ダメだと念押しして、煙草を内ポケットに入れ直した。
デレは諦めて俺から離れる。
- 86 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/12/09(日) 20:49:05 ID:h8higNtg0
(;'A`)「ったくなんなんだ。腹でも減ったのか?」
俺は聞いた。
ζ(゚ー゚*ζ「だって…吸えたら大人なのでしょ?」
('A`)「あのなぁ…」
俺は頭を掻く。
素直というかなんというか…。
とにかくデレは一刻も早く大人になりたいらしい。
まるで昔の俺みたいだな、そう思った。
('A`)「よし分かった」
('A`)「あっちの公園に確か鉄棒あるだろ?」
俺は指差す。
ちょうどブーンの家の近くに公園があったはずだ。
- 87 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/12/09(日) 20:53:53 ID:h8higNtg0
- ζ(゚、゚*ζ「えぇ。ツンちゃんと時々行くから知ってるわ」
('A`)「あれで逆上がり出来たら大人って認めてやるよ」
ζ(゚ー゚*ζ「本当!?」
('A`)「出来たら、な」
ζ(゚ー゚*ζ「早く行きましょう!」
デレが俺の手を握った。
次いで駆け出そうとする。
(;'A`)「おい…!落ちるからから離せ」
ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ降りましょう?」
俺は渋々降りた。
いつもなら、突っ返すところだがたまには付き合ってやろう。
- 88 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/12/09(日) 20:56:03 ID:h8higNtg0
ζ(゚、゚*ζ「…来てくれるの?」
流石に驚いたみたいだ。
少し邪険にし過ぎていたかも、と反省。
でも毎日のように来られたら、結構うっとおしいものだ。
大人しくツン達と遊んでればいいものを。
('A`)「なんだ、来なくていいのか?」
ζ(^ー^*ζ「ううん!行きましょう!」
俺はもう一度煙草に火をつけた。
大人ってなんだろうか。
自立か、精神の成熟か。
イマイチ定義はハッキリしていなさそうだ。
ただ言えるのは、煙草は吸えるけれど、どうやら俺はまだ大人にはなれていないらしい。
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