■2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです
└('A`)My baby blueのようです
└Part1
- 2 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 21:28:46 ID:bWGfUuhw0
視界は良好。
下を覗けば何とか諸島が広がってる。
俺はその中の小島の一つに、居座っていた。
('∀`)「いい天気だ」
雲がない日のフライトってのは堪らなく気分が爽快だ。
勿論雲のある日にもまた別の良さがあるが、こういうのは比べるような物じゃない。
('A`)「降りるか」
機首を下げて、スロットル・ダウン。
念のため油圧をチェック。
何も問題はない。
こういうの、なんて言うんだっけか。
システムオールグリーン?
- 3 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 21:31:21 ID:bWGfUuhw0
俺は、シートに座り直した。
肩の力を抜いて、歯を食いしばる。
着陸の瞬間ってのは何度やっても慣れないもんだ。
着陸する時の衝撃は意外ときついし。
何より億劫だ。
本当ならずっと飛んでいたいけど、腹が減るからそうもいかない。
地面が目の前まで近づいて来た。
俺は目算で、地上との距離を測る。
着地の瞬間、僅かに機首を上げた。
これは着陸の衝撃を和らげるコツだ。
がたがた揺れながら、浜辺を走る。
俺は降りるたびに、もうこんながたがたはごめんだと思うんだが、結局すぐにまた飛んでしまう。
中々折り合いが難しいところだ。
こうやってふわふわした掴みどころのない、悪く言えば朝秦暮楚とした生き方をした奴が、飛行艇乗りになるんだろう。
いや、逆か。
飛行艇乗りがそうなってしまうんだ。
なんてったって、飛行機乗りは、その身を空に打ち上げた瞬間から、どうしようもないクズに成り果てるんだから。
- 4 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 21:32:19 ID:bWGfUuhw0
('A`)My baby blueのようです
.
- 6 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 21:33:09 ID:bWGfUuhw0
俺は、宿屋の個室にいた。
目の前には依頼主であろう老貴族がいる。
何の因果か、ちょうど着陸直後に来た電信を頼りにここまで来たというわけだ。
/ ,' 3「あの子を頼む」
俺が、腰掛けるより早くこいつは言った。
あの子、というのは隣室にいる少女の事だろう。
さっきちらっと見たけれど、まだ十歳にも満たないんじゃないか。
('A`)「俺は確かに何でもやるが、本業は運び屋であって幼稚園とは違うぞ」
俺は、言った。
直感で分かる。
この依頼はめんどくさい。
- 7 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 21:33:59 ID:bWGfUuhw0
/ ,' 3「引き受けては…くれんのか?」
老貴族は、眉根を顰めた。
('A`)「そうは言ってないが……」
内密で輸送とかなら引き受けてもいい。
だけど、頼む、と言われても何をどう頼まれればいいのかが分からないし、虚偽の依頼をされたらたまったもんじゃない。
とりあえずは慎重に進めることにする。
('A`)「まず…一つ目、依頼内容が不明瞭だ。
二つ目、この子の素姓が分からない」
俺はあえて偉そうに言った。
貴族には下手に出るとダメなんだ。
- 8 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/25(日) 21:35:01 ID:bWGfUuhw0
/ ,' 3「この子はデイラントと言って、私の孫だ」
老貴族は言った。
そもそもあんたは誰なんだ。
俺は、思った事をそのまま口にした。
/ ,' 3「あぁ、すまない。私はアラマキ、お主らでも名くらいは聞いたことがあるだろう?」
('A`)「……あぁ」
俺はから返事をした。
一度も聞いた事が無かったが、どうせどこぞの金持ちだろうし、あまり興味は無い。
恐らく民間では有名なんだろう。
ちょいと俗世間から離れている自分には、知る由も無いことだが。
- 9 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/25(日) 21:38:53 ID:bWGfUuhw0
/ ,' 3「それで、依頼内容じゃが…」
アラマキは身を乗り出した。
/ ,' 3「あの子を預かって欲しいんじゃ」
('A`)「期間は?」
俺は尋ねた。
直感で裏があると感じていた。
/ ,' 3「…一週間」
アラマキは先ほど俺に提示した、少女の写真を一瞥し、視線を下に向けた。
嘘を付くつもりなのが、バレバレだ。
('A`)「断る」
/ ;' 3「どうしてかね?金なら積むが」
('A`)「俺は死にたくないんでな、嘘の依頼掴まされるほど平和ボケしてないんだ」
俺は吐き捨てた。
そろそろ痺れを切らして本性を現す頃合いだろう。
そしたら後はさっさと出て、飲みにでも行こう。
だいたいまだ仕事上がりの煙草も吸ってないんだ。
- 10 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 21:41:15 ID:bWGfUuhw0
/ ,' 3「…分かった。二億ベルだそう」
('A`)「何…?」
俺は耳を疑った。
二億ベルって言ったら、俺が一生遊んで暮らしてもまだお釣りが来るくらいだ。
別に金が欲しい訳じゃないが、そこまでして飛行機乗りみたいな下衆に頼む理由って一体なんなんだ。
('A`)「…そのガキ、一体何者だ?」
/ ,' 3「何も無い普通の子供だ。本当にただの可愛い私の孫なんだ…」
アラマキは震えだす。
俺は、そこに確かに孫への愛を感じた。
貴族ってのは、金に目が眩んだどうしようもない奴ばかりだと思っていたが、そうでもないらしい。
だからといって依頼を受ける理由にはならないが。
- 11 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 21:42:41 ID:bWGfUuhw0
('A`)「そんな事は聞いてない。どこに二億ベルも費やして飛行艇乗りなんぞに押し付ける必要があるのかと聞いているんだ」
/ ,' 3「…答えたら、受けてくれると言ってくれ」
('A`)「そりゃ無理だ」
/ ;' 3「くっ…」
商談は不成立。
俺は席を立って、帰ろうとした。
早く煙草を吸って、飯を食いたいところだ。
/ ;- 3「あの子は…適合者なのだ」
(;'A`)「ッ!」
/ ;- 3「だが絶対に軍には渡したくない…」
/ ,; 3「頼む…!あの子を…あの子を連れて逃げてくれ!」
アラマキは俺に対して、膝を折り、頭を下げた。
飛行艇乗りである俺に対してだ。
- 12 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 21:45:09 ID:bWGfUuhw0
('A`;)「…飛行艇乗りに頼む意味が分からない」
俺は窓の外を見ながら言った。
目を合わせたくなかった。
/ ,; 3「飛行艇で逃げなければ、すぐに捕まってしまう」
('A` )「軍に売られる可能性の方が高い」
俺は言った。
そんなつもりなど欠片も無いのに。
/ ,; 3「そうかもしれない。だが飛行艇乗りならば、適合者の痛みが分かると思ったのだ」
勝手なことを言う。
だから貴族は嫌いだ。
自分の事だって、分からない事の方が多いのに。
- 13 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 21:47:13 ID:bWGfUuhw0
('A` )「……知らないのか?実際に人身売買を生業にしてる空賊なんてごまんといるぞ」
/ ;' 3「だがあなたはしていない。そうだろう?」
アラマキは俺の顔をじっと見た。
否が応でも視線を合わされたしまう、そんな瞳だ。
('A`;)「チッ…。ムカつくじじぃだ」
吐き捨てた。
この老貴族、何もかも考えて来ている。
俺はなぜかその事に酷く腹が立った。
- 14 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 21:49:02 ID:bWGfUuhw0
('A`;)「アテはあるのか?」
/ ;' 3「アテ、とは?」
('A`;)「逃げるアテだが…その様子だとなさそうだな…」
/ ;' 3「…申し訳ない」
謝るアラマキに背を向けて俺は考えた。
逃げるアテなら、無くはない。
だけど、出来るなら避けたい場所だ。
というか何で俺は受ける前提で考えてるんだ。
完全にこいつのペースじゃないか。
('A` )「追手は?」
/ ;' 3「恐らく当分は大丈夫だろう。この件はまだほんの一部しか知らない」
- 15 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 21:52:35 ID:bWGfUuhw0
そこで俺は気付く。
('A`)「…なぜ揉み消さない?」
貴族なら、それも二億ベルもポンと現ナマで出せるほどの貴族が、たかだか子ども一人くらいもみ消せないはずがない。
/ ;' 3「…デイラントの父親が、許さんだろう」
('A`)「どういう意味だ」
/ ;' 3「父親は、娘がどうなろうとも厭わんだろうということだ」
つまり親父がクズという事か。
俺は妙に納得した。
数秒間、沈黙。
('A` )「まぁどのみち俺には関係ない」
俺は荷物を手に取る。
アラマキをちらりと見て、立ち上がる。
- 16 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 21:54:29 ID:bWGfUuhw0
/ ,' 3「こういう事は言いたくはなかったが…」
不意にアラマキは口を開いた。
俺は立ち止まる。
/ ;' 3「また逃げるのか」
( 'A`)「あ?」
/ ;' 3「一度くらい守りきりたくはないの…」
(#'A`)「黙れ!!!」
俺は壁に拳を打ち付けた。
鈍い音が響く。
('A`#)「…ハナから俺狙いってわけだ」
/ ;' 3「あなたくらいしか頼める人はいない」
こいつは俺がさっき思ったよりもはるかに多くの事を知っていて、計算してここに来ていた。
俺の過去と彼女の今ですら、知っていてもおかしくはない。
- 17 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 21:55:38 ID:bWGfUuhw0
/ ;' 3「受けてくれるのだね?」
('A` #)「…」
俺は、言葉を発せなかった。
喋ると、口がYesと動きそうだったから。
怒りは止まらない。
こんなクソ野郎の顔なんざ見たくもない。
そう思って、口を開こうとした。
いつもみたいに、断るって。
だけど、動かなかった。
('A`#)「……チッ」
もう俺の中では決まってるんだ。
この依頼は、受ける。
- 18 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/25(日) 21:56:59 ID:bWGfUuhw0
('A`#)「あぁ、いいだろう」
俺は言った。
拳は震えて今にも突き出しそうだったが、抑えた。
Be Coolってやつだ。
/ ,- 3「恩に着る…」
('A`)「礼より金だ」
俺は手を出した。
アラマキは頷いて、従者へ目配せした。
忠誠なのか金なのかはともかく、物凄く忠実だな。
身の回りの事なんでもやってくれるんだろう。
俺的には煩わしくてあまり羨ましいとも思わないが。
- 19 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 21:58:04 ID:bWGfUuhw0
扉が再び開いた。
さっきの従者が大きなケースを抱えて入ってきた。
目が覚めたのか、少女も一緒だ。
/ ,' 3「ご苦労」
アラマキは従者を促した。
従者が机にケースを置く。
俺はそれを無言で受け取った。
開けて、中の札束をパラパラめくる。
どうやら偽造はないみたいだ。
二億あるかは、定かじゃないが、もし無くてもこれだけあれば別に構わない。
('A`)「よし、交渉成立だ」
/ ,' 3「任せたぞ」
('A` )「ふん」
いちいち癪に障るじじぃだ、そう思った。
金を渡してさっさと帰らせてくれ。
- 20 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 21:59:15 ID:bWGfUuhw0
俺は従者の持つ契約書にサインした。
その傍で、アラマキは少女と話し始めた。
/ ,' 3「デイラント…。この人の言う事をしっかり守りなさい」
ζ(゚ー゚*ζ「はい、おじいさま」
幼いのに毅然としていて、聡明そうな子だ。
アラマキが溺愛するのも頷ける。
('A`)「…」
俺は、少しだけ同情を禁じ得なかった。
何も知らない少女と、哀しみを押し殺す祖父。
恐らくは二度と会えないのに、マトモな別れすら告げられない。
悲哀小説にしたらちょっとはいいのが書けるだろう。
('A`)「…煙草吸ってくる」
俺は居た堪れない気持ちになって、部屋を出た。
- 21 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/25(日) 22:02:44 ID:bWGfUuhw0
………………………………………………
|・ω・`)「うちは昼はやってないよ」
|と
酒場の扉を少しだけ開けて、店主のショボンは言った。
('A`)「まぁ、入れてくれよ」
(´・ω・`)「…君か」
ショボンは扉を開けて、俺を招き入れた。
デイラントが入る前に扉を閉めようとしたので、俺が止める。
怪訝そうな顔をするショボンを無視して、俺は迎え入れた。
- 22 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/25(日) 22:05:52 ID:bWGfUuhw0
- ('A`)「面倒な事になった」
俺はカウンターに座って言った。
デレは、俺の隣にちょこんと座っている。
(´・ω・`)「見れば分かるさ」
ショボンはデイラントを一瞥した。
そして再び俺を見る。
どこから攫ってきたの?とでも言いたげだ。
ショボンは、カウンターへ歩いていって、何やら作業をし始めた。
開店準備みたいだ。
ζ(゚、゚*ζ「こんにちは。お名前は?」
デイラントが立ち上がり、ショボンに対して言った。
スカートを掴んでふわりと上に上げるアレだ。
やはり貴族ってことで礼儀は正しいらしい。
(´・ω・`)「僕?ショボンだよ」
ショボンはグラスを擦っていた。
それをじっと見詰めて、デイラントは動かない。
- 23 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:07:02 ID:bWGfUuhw0
- ζ(゚、゚*ζ「……」
(´・ω・`)「なんだい?」
ショボンはグラスを拭く手を止めた。
デイラントと睨み合っている。
あぁ、そう言えば俺の時も催促して来たな。
俺は、ショボンに助け舟を出してやる。
('A`)「お前も聞いてやれ」
(´・ω・`)「え?」
('A`)「名前だよ」
一瞬、思案したような顔をして、ショボンはデイラントに向かって、ニッコリ笑った。
(´・ω・`)「これは失礼。お嬢さんは名前はなんていうのかな?」
ζ(゚ー゚*ζ「デイラントよ」
デイラントはニッコリ笑い返した。
とことこと俺の隣に歩いて来ると、再び座り直す。
どうやら満足したらしい。
- 24 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:10:40 ID:bWGfUuhw0
(´・ω・`)「この子、誰?」
('A`)「貴族の娘らしい」
俺たちはなるべくデイラントに聞こえないように話した。
別に聞かれて困るわけじゃないが、一応の気遣いだ。
(´・ω・`)「……おいおい、誘拐じゃないだろうね?流石に貴族は敵に回しちゃあだめだろ」
('A`)「まさか。押し付けられただけだ」
それでも怪訝そうな顔をするショボンに、俺は適合者だと付け加えた。
(´・ω・`)「…せめてもの親の愛ってことか」
('A`)「厳密に言えば祖父だが、一緒に逃げないあたり、貴族らしいな」
俺が言うと、ショボンは肩を竦めた。
- 25 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:12:24 ID:bWGfUuhw0
ζ(゚ー゚*ζ「何のお話?」
デイラントが割って入ってきた。
大人しくてもやっぱり年相応な所はあるのか。
('A`)「秘密の話だ」
ζ(゚ー゚*ζ「私もお話ししたい」
('A`)「また後でな、ガキンチョ」
ζ(゚ー゚*ζ「私、ガキンチョじゃないわ。もう立派なレディーよ」
デイラントは急に澄ました顔をして、背筋を伸ばした。
ζ(゚ー゚*ζ「それに私、デイラントって言う立派な名前があるもの」
('A`)「そりゃ悪かった。だからちーっと黙ってな?賢いレディなら分かるだろ?」
- 26 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:13:35 ID:bWGfUuhw0
ζ(゚ー゚*ζ「むっ。仲間外れは良くないわ」
(´・ω・`)「デイラント。これはね、大事な話なんだ」
ζ(゚ー゚*ζ「大事って…お仕事かしら?」
('A`)「あぁそうだ」
俺は頷いた。
デイラントは、途端につまらなそうな顔をした。
ζ(゚ー゚*ζ「お仕事なら仕方ないわ」
(´・ω・`)「ありがとね」
ショボンは答えて、デイラントの前にグラスを置いた。
オレンジの液体、察するにジュースだ。
デイラントは、目の前のものに一瞬目を輝かせ、平静を装う。
ζ(゚ー゚*ζ「私はもう子供じゃないから気遣いくらい出来るのよ」
デイラントは頷いた。
だけど口が笑おうとしている。
喜びを隠しきれていなかった。
- 27 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:14:57 ID:bWGfUuhw0
(´・ω・`)「貴族の子にしてはえらく素直じゃないか」
ショボンが再び小声で言った。
('A`)「そうみたいだな」
(´・ω・`)「で、僕に何の用だい?」
('A`)「いや、用という用があるわけじゃあないんだが…」
俺は時計を見る。
時刻は既に一時を回っている。
そういえば結局何も食べてない。
('A`)「とりあえず、酒を頼む」
(´・ω・`)「…君、緊張感ないね」
('A`)「まぁそう言うな。今日中には発つつもりなんだ」
(´・ω・`)「いいね。駆け落ちみたいだ」
('A`)「バカ言え」
- 28 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:15:46 ID:bWGfUuhw0
(´・ω・`)「ははは。はいビール」
ショボンは俺に銀のジョッキを差し出す。
中には並々と注がれたビール。
ようやく、といった感じだ。
('A`)「さっきも言ったが、今日中に発つ」
俺はジョッキに口を付ける。
冷たい感覚が喉を通り過ぎた。
(´・ω・`)「うん、それで?」
('A`)「俺への仕事の依頼、全部切っといてくれ」
(´・ω・`)「無期限?」
('A`)「無期限」
(´・ω・`)「そう」
ショボンはそう、一言だけ言った。
後ろの棚から何やら取り出して、書き込み始める。
- 29 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:17:32 ID:bWGfUuhw0
俺が生計を立てていけるのは、ひとえにショボンのおかげだ。
いわゆる依頼の中継みたいなことを引き受けてくれているのだ。
おそらく今書いてるのはその帳簿みたいなものだろう。
('A`)「ま、しばしの別れってやつだ」
(´・ω・`)「僕としては君でもう少し稼ぎたかったんだけど…」
ショボンは憎まれ口を叩く。
こいつは昔からこういうやつだ。
湿っぽい別れなんてない、ドライな関係。
('A`)「なんなら違約金でもやろうか?」
(*´・ω・`)「ホントかい!?」
ショボンは顔をほころばせて見せた。
これもこいつの性分で、それゆえに飛行艇乗りなんて輩とのビジネスも引き受けているわけだ。
- 30 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/25(日) 22:20:42 ID:bWGfUuhw0
ζ(゚ー゚*ζ「ねぇねぇ。いやくきんって何かしら?」
('A`)「…あー、約束破ってごめんなさいって事だ」
ζ(゚ー゚*ζ「それでお金を払うの?」
('A`)「まぁそんなようなもんだ」
俺は答える。
正直相手をするのが面倒だった。
今更だけど、俺はお喋りな子供が苦手なんだ。
あれは何これは何と矢継ぎ早に質問してくるし、なにより遠慮がない。
その点こいつは、割り合い静かだし礼儀正しいから、好感が持てる。
ちょっと質問は多いけれど。
- 31 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:22:09 ID:bWGfUuhw0
- ζ(゚、゚*ζ「ダメよお金で解決しちゃ。ちゃんと謝らなきゃダメなんだから」
デイラントは憤慨している。
まさか貴族に金で解決するなと言われるとは。
('A`)「だそうだ。さっきの話は無しで」
(;´・ω・`)「え?」
('A`)「申し訳ない、ショボン」
(;´・ω・`)「おいおい冗談だろう?」
('A`)「おい、ショボンが許してくれねーよ。なんとかしてくれ」
俺はデイラントに対して冗談混じりに言った。
ちらりと見ると、ショボンは本当に落胆した表情。
別に払っても構わないんだけど、払わない方が面白そうだ。
ζ(゚ー゚*ζ「ほら、おじ様もちゃんと謝ってるのだから許してあげましょう?」
(;´・ω・`)「う…」
ζ(゚ー゚*ζ「ね?」
(;´・ω・`)「…悪かったよ」
ζ(^ー^*ζ「ですって、おじ様!」
('∀`)「おうおう、ありがてぇな」
ショボンは恨めしそうに俺を見ている。
その姿がなんだが妙に面白くて、俺は笑った。
- 32 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:23:38 ID:bWGfUuhw0
………………………………………………
('A`)「いいか、俺が今から言うことを絶対に守れ」
ζ(゚、゚*ζ「…う、うん」
俺はデイラントを抱き上げた。
飛行艇の翼の上に乗せる。
普段、大きな貨物を入れたりするところに、無理矢理シートを据え付け、デイラントはそこに座らせた。
無理矢理と言っても、構造上何ら問題はない。
ただ子供じゃなきゃかなり狭いだろうというだけだ。
('A`)「動き始めたら俺がいいって言うまで口を開けるな、歯を食いしばれ。手を離すな。暴れるな」
ζ(゚ー゚*ζ「分かったわ」
デイラントの返事を待たずに俺はシートベルトに手をやった。
- 33 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:24:33 ID:bWGfUuhw0
('A`)「これ、苦しいかもしれねーが我慢しろ」
そう言って、俺はシートベルトを締めた。
デイラントは身動きが取りづらそうに、モゾモゾ動いた。
少し気の毒だが仕方ない。
途中で落っこちるよりかよっぽどマシだろう。
('A`)「じゃあ、出るぞ」
ζ(゚ー゚*ζ「えぇ」
('A`)「…怖いのか?」
ζ(゚、゚;ζ「そんなことないわ!」
('A`)「目瞑ってな」
俺はスロットルを握って、操縦桿を確かめた。
- 34 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/25(日) 22:25:50 ID:bWGfUuhw0
案外、デイラントは騒ぐことをしなかった。
俺の言いつけを守っていたのか、単にビビって声も出なかっただけなのかは、後ろを見ていなかったから分からないが、多分前者だ。
空はもう暗みかけている。
ずっと飛んでいたわけじゃない。
むしろまだ一時間程度しか経っていない。
なのにこんなに暗いのは、単に念のため明るいうちのフライトは避けようと思ったからだ。
ζ(゚ー゚*ζ「ねぇおじ様」
('A`)「どうした」
ζ(゚ー゚*ζ「ここ、よく見たら何か書いてあるわ」
俺は後ろを振り向いた。
デイラントがシートに潜り込んでいる。
- 35 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:28:00 ID:bWGfUuhw0
('A`)「あぁそれな」
ζ(゚ー゚*ζ「どういう意味?」
('A`)「常に冷静にってことだ」
ζ(゚、゚*ζ「ふぅん。よく分からないわ」
('A`)「……」
俺は押し黙った。
それからは特に会話もなくて、一時経つと、後ろから規則正しい呼吸が聞こえて来た。
よくあんな狭いとこで寝れるもんだ。
恐らく飛行艇に乗ったのは初めてだろうし、その上見知らぬ男と二人きりだ。
肝が座っているのか単に頭が悪いのか。
きっとその両方だろう。
さぁどの辺りまで行こうか。
とりあえずは諸島が、出来れば陸地が見えなくなるくらいまでは飛ぼうか。
なんて考えて、首を振る。
('A`)「……なんでこんなことやってんだか…」
呟いたけれど、飛行艇は進路を変えなかった。
- 36 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:28:40 ID:bWGfUuhw0
- やはり朝ともなると、海上はやっぱり寒くて、俺は毛布をかけてやった。
念のため言っとくが、操縦しながらじゃない。
今は海上に飛行艇を下ろしていて、つまり俺たちは見渡す限り水しかない場所にポツンと浮かんでいる。
と言っても陸地からそんなに遠くないところではあるが。
ζ(-、-q*ζ「ここ、どこ?」
デイラントが目を擦りながら言った。
('A`)「どこだろうなぁ」
俺は適当に返した。
海の上なんだからどうしようもない。
ζ(゚、゚*ζ「うわぁ!お水が一杯!」
('A`)「そりゃ海だからな」
まさか海を見たことがないんだろうか。
別に内陸にいたわけじゃないんだからいくらでも機会はあっただろうに。
- 37 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:29:34 ID:bWGfUuhw0
ζ(゚ー゚*ζ「これが海なのね!」
('A`)「見たことないのか?」
ζ(゚ー゚*ζ「うん!ほんとはね、お家を出るのも初めてなの」
('A`)「かーちゃんがダメって言うのか?」
ζ(゚ー゚*ζ「ううん。お父様よ」
('A`)「そうか」
家を出るのは危ないと言って出してくれなかったらしい。
時折祖父がこっそりと庭へ出してくれるから、その時はとても楽しいのだと、そう言った。
俺は家の窓から空を眺める様を想像し、吐き気がした。
ζ(^ワ^*ζ「だからね、私昨日からとっても楽しいわ!」
デイラントは、これ以上ないほど眩しい笑顔を見せた。
('A`)「そりゃ良かった」
俺は返事をした。
笑うつもりはなかったけど、少し口角が上がった。
- 38 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:30:38 ID:bWGfUuhw0
多分俺は、この少女に早くも情を抱き始めていた。
素直だし、従順で嫌味がない。
貴族の娘とは思えないほどだ。
だけどこの感情が本物なのか、ただ適合性を持つが故の単なる代用であり慰みなのか俺は判断しかねていた。
ただ、俺は紛れもなく同情も感じていた。
生まれてこの方家に缶詰だったこと。
適合者であること。
その他全てに対して俺は下卑た同情、あるいは憐憫すらも抱いていた。
例えるなら…そう、捨て猫だ。
捨て猫を拾って来た子供の心境に似たようなものを俺は感じているんだ。
- 39 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:31:21 ID:bWGfUuhw0
ζ(゚ー゚*ζ「海って大きな池みたいなものかしら?」
俺は我に返った。
見ると、デイラントは未だに海を眺めていた。
('A`)「知らないのか?海ってのは甘いんだ」
俺は考えるのをやめた。
こうやって会話をするのも悪くない。
ζ(゚、゚*ζ「えぇっ。そうなの…?」
('A`)「おう、舐めてみりゃ分かるぞ」
ζ(゚、゚*ζ「……」
デイラントは、迷いながらも海水に手を入れた。
素直というか馬鹿正直というか。
とにかくからかいがいはあるみたいだ。
俺は抑えきれなくなって、吹き出す。
- 178 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/01/03(木) 11:21:24 ID:/Bu0Wt6.0
ζ(x、x;ζ「〜〜〜ッ!!…かひゃい!!」
('∀`)「冗談だ」
ζ(゚ー゚;ζ「騙したのね!」
典型的な"塩っぱい顔"をデイラントはした。
俺はまだ笑っていた。
からかいがいのある奴だ。
( 'A`)っ∪「まぁそう怒るなよ」
俺は水筒を差し出す。
ちゃんと正真正銘水だ。
ζ(゚ー゚*ζ「…もう騙されないんだから」
('A`)「ただの水だ」
俺は水筒に口をつける。
喉は潤うが、ビールには遠く及ばない。
デイラントはそれを見ると、俺から水筒を受け取り、口をつけた。
恐る恐るといった様子だったが、ただの水だと分かるとゴクゴクと飲んでいた。
- 40 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:32:53 ID:bWGfUuhw0
ζ(゚ー゚*ζ「ねぇおじ様、私お腹空いたわ」
('A`)「おう、待ってろ」
俺は操縦席に顔を潜り込ませた。
シートの下が格納庫になっているのだ。
と言ってもあまり大きいものじゃなくて、せいぜい手荷物程度しか入らないが。
('A`)「ほらよ」
俺は中から籠に入ったバゲットを取り出す。
籠には他にもバゲットに挟む具材が入っている。
勿論俺が作ったんじゃない。
ショボン手製の特別美味しいやつだ。
ζ(゚ー゚*ζ「わぁ!サンドイッチね!」
('A`)「おう、美味いぞ」
- 41 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:35:21 ID:bWGfUuhw0
俺は操縦席席を上がって、翼の上に腰掛けた。
催促されたので、デイラントも抱えてやる。
いつも一人で座る、俺の特等席だったのだけれど、あまり抵抗は無かった。
適当に色々挟んで、デイラントに渡す。
昨日は野菜も選り好みせずに食べていたし、好き嫌いに関しては問題ないだろう。
('A`)「それ食ったらまた飛ぶぞ」
俺はバゲットを口に突っ込む。
新鮮な野菜が入ってないのは残念だが、相変わらず美味い。
ζ(゚ー゚*ζ「これ、とっても美味しいわ!おじ様が作ったの?」
('A`)「んなわけあるか。ショボンだ」
ζ(゚ー゚*ζ「ショボンさんって凄いのね」
( 'A`)「あぁ、間違いねぇな」
俺はもう一口を食べながら言った。
籠の中にあったコーヒーも飲んだ。
- 42 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:36:37 ID:bWGfUuhw0
ζ(゚ー゚*ζ「私、帰ったらまた会いに行きたいわ!」
('A`)「…ッ!」
俺は、水平線を見た。
結構長いこと飛んだから、ひたすらに海が続く。
今この世界には、俺たち二人で。
その他にはもう誰もいない。
きっとここから真っ直ぐ飛べば、誰かがいる。
俺の知人も。
俺はそのために飛んでいるのだから。
だけど、もう、後ろに飛ぶ事はないんだ。
ここから先の記憶が、後ろの記憶を上から上から塗り替えていく。
ショボンもアラマキも、デイラントの両親も全て過去になる。
なかった事になるわけじゃないけど、少なくともこれからはもう、無い。
飛ぶってのはそういう事だ。
それをデイラントは知らない。
それどころかデイラントは自分がどういう存在なのか、自分がどういう状況に置かれているのか、それすらも分かっていないだろう。
きっと知らないおっさんとの遠足ぐらいにしか思っていないはずだ。
それでいいのか?
本当にこのまま、当事者からしたら半ば拉致のような事をして、いいんだろうか。
俺は、また迷う。
- 43 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:37:58 ID:bWGfUuhw0
- ζ(゚ー゚*ζ「おじ様?」
デイラントが、俺の顔を覗き込んで来た。
何でもない、と弁明する。
少し、沈黙。
('A`)「父ちゃんと母ちゃんは好きか?」
迷った挙句、俺は当たり障りのない事を聞いた。
ζ(゚、゚*ζ「…お母様は、分からないわ。会ったことないもの。お父様も全然構ってくれないからあんまり」
('A`)「そうか、やなこと聞いちまって悪かったな」
落ち込んだ様子はなかったが、謝った。
この年で親の愛を知らないのか。
貴族は、やっぱり好きになれないと、そう思った。
- 44 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:38:56 ID:bWGfUuhw0
ζ(゚ー゚*ζ「でもおじいさまは好きよ!一杯遊んでくれるもの」
にっこりとデイラントは笑った。
惹き込まれてしまう、いい笑顔だ。
だからこそ直視できない。
('A`)「寂しくないのか?」
ζ(゚、゚*ζ「どうして?」
('A`)「いや…」
ζ(^ー^ζ「昨日会ったばっかりだもの。私そこまで子どもじゃないわ」
('A`)「…けっ。ガキンチョが何言ってやがる」
ζ(゚、゚*ζ「私、ガキンチョじゃない!」
屈託のない笑顔は、逆に俺を決心させた。
- 45 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:39:38 ID:bWGfUuhw0
('A`)「じいさんは好きか?」
ζ(゚ー゚*ζ「うん!」
('A`)「じいさんが死んだら、悲しいか?」
('A`)「会えなくなったら、悲しいか?」
俺は矢継ぎ早に質問した。
ポカンした表情だけど、気にしない。
('A`)「いいか?お前はもうじいさんには会えないんだ。元いた所には、帰れない」
('A`)「お前はあそこにいると、酷い目に合う。死ぬよりよっぽど辛いことだ」
('A`)「だからじいさんはお前を俺に託した。どっか遠くに逃げてくれってな」
ζ(゚、゚*ζ「……分からないわ」
俺は、二度は言わなかった。
意味は分かってなくても、何となくは伝わったと思う。
('A`)「だから、選ばせてやる」
- 46 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:40:59 ID:bWGfUuhw0
- とても酷だ。
多分俺はとんでもなく下衆な事をしている。
こんなの、年端もいかない少女に伝えることじゃない。
だからってどうすりゃいい。
俺には隠し通すことなんて出来ない。
('A`)「帰って死んじまうか、このままじいさんとずっと会えないままかどっちか選べ」
ζ(゚、゚*ζ「私…死んじゃうの?」
('A`)「死なねえ。俺が守ってやる」
ζ(゚、゚;ζ「わかんない…全然わかんないわ」
何を言ってるか自分でも分からない。
たった数時間でここまでこいつに入れ込む理由が分からない。
俺もこいつも分からないことだらけだ。
('A`)「分かった。聞き方を変える。じいさんに会いたいか?」
デイラントは困ったような顔で、小さく頷く。
戻る理由は、それだけで充分だった。
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