2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです
水鏡のようです



318 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 01:24:53 ID:KYcBleX20


水鏡のようです




帰り道偶然、彼女に会った。

彼女は僕をじっと見た。僕も彼女をじっと見た。彼女の瞳が揺らいでいた。
彼女は僕の幼馴染みだ。ずっと一緒で、ずっと仲良しで、これからもそうだと思っていた、僕の幼馴染みだ。
この間――ひとつき前から、なぜか急に、喋ってくれなくなってしまったけれど。

彼女が踵を返して逃げようとしたので、僕は慌てて呼び止めた。

待ってお、ちょっとでいいから。

彼女は返事をしなかったけれど、僕に背を向けたまま立ち止まった。
僕はそれが返事だと思って、彼女に近づいた。面と向かうのは気恥ずかしくて、なんとなく、彼女と背中合わせになった。
何から話そうと思って下を向くと、足元の水溜まりが目に入った。雨上がりできらきらした空を鏡みたいに映している。

319 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 01:25:39 ID:KYcBleX20

いい天気だおね。

僕が水鏡を見ながら言うと、彼女は、

なに言ってるの。まだ曇ってるわ。

とちいさく言った。返事をしてくれたのが嬉しかった。
今なら聞けると思って、僕は言った。

どうして最近、話してくれないんだお?

彼女は何も言わなかった。

ちょっと悲しいお。僕、なにかしちゃったかお?

彼女は何も言わなかった。

320 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 01:26:46 ID:KYcBleX20

いたたまれない気持ちになって、視線を下げたまま彷徨わすと、彼女の向かい側にも、水鏡を見つけた。



そこにはうつむいた彼女が映っている。悲しそうな顔だ。髪が反射して金色に見える。

……まだ、分からないの?

映っている彼女の唇が動いた。

え?

まだ思い出さないの?

水鏡のなかの彼女が首を降った。巻き毛が揺れて金色に光った。

まだ思い出さないの?

なにを言ってるんだお、ツン――。

321 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 01:27:42 ID:KYcBleX20


「ツンはもういない!」


彼女の声が響いた。
水鏡の中で彼女の姿が揺れて、彼女――の妹の姿に、なった。

(;^ω^)「えっ――」

ζ(゚、゚ζ「……もう、お姉ちゃんはいません」

(;^ω^)「な、なにを言ってるんだお、」

ζ(゚、゚ζ「記憶を隠して忘れても、なかったことにはなりません。お姉ちゃんはもう、いないんです」

(;^ω^)「どういう、ことだお――?」

ζ(゚、゚ζ「……お姉ちゃんは、ひとつき前に、事故に遭いました」

(;^ω^)「じ、こ……?」

322 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 01:28:27 ID:KYcBleX20

ひとつき前。ツンが話してくれなくなって、
違う、ツンは、
ツン?

「……やっと、思い出したんですね」

僕は、膝から崩れ落ちた。手が水鏡にぶつかって、鏡面が歪んだ。
僕は全てを思い出した。

( ;ω;)「ツン……」

ひとつき前、ツンは。
事故に、遭って。
最期に見たツンは、冷たくて、話しかけても、返事なんてくれなかった。

323 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 01:29:09 ID:KYcBleX20

( ;ω;)「ツン……ツン……!」

水鏡には、ひどい顔をした僕だけが映っていた。
涙が目から零れて、鏡面が揺らいだ。

揺らいだ中に、金色が映った。

「もう私のことは忘れて、幸せに生きて」

( ;ω;)「!?ツン――」

顔をあげても、だれもいなかった。
立ち上がって周りを見回しても、だれもいなかった。

324 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 01:29:49 ID:KYcBleX20


僕はツンの家に行った。
彼女が大好きだったケーキを持って。
ちゃんと、ツンにお別れを言いに来たのだ。

チャイムを鳴らすとドアから、まだ幼稚園児の、ツンの可愛らしい妹が顔を出して、お兄ちゃん久しぶり、と言った。



おわり



支援イラスト 同スレ>>610より


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