■2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです
└(・∀ ・)と兄弟のようです
└後編 一
- 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 11:32:13.42 ID:O5cxbXo50
-
翌日、またんきはオムライス城の城下町にいた。
(*・∀ ・)「すごいぞー!」
流石兄弟達が盗んできた良質の服に身を包み、本物の笑顔を浮かべている。
笑顔以外の表情はまだ見せないが、最も見ていて気持ちの良い表情があるのだから、
急いで別の感情を見せる必要はない。
('A`)「コロブゾー」
(*・∀ ・)「だって! すごいぞー!」
(´<_` )「それだけ褒められれば、オムライス城も嬉しいだろうよ」
興奮しているまたんきの頬は赤い。
顔いっぱいで楽しさと興奮を表しているようだ。
( ´_ゝ`)「これを見れば、オムライスが美味いわけもわかるだろ?」
(*・∀ ・)「おう! これは、うまくないとな!」
- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 11:35:14.49 ID:O5cxbXo50
-
国王が住まうオムライス城。
左右対称の形をしており、左右は低く、中心は高い山型となっている。
壁はレンガで出来ており、赤茶色をしている。
そんな城を包み込んでいるのが、黄色のベールだ。
魔法の力を込めた黄色の薄いベールは、赤茶色の城を優しく包み込む。
山の頂上辺りから中腹にかけて、ベールには赤い刺繍がされていた。
無論、その刺繍にも魔法がこめられている。
赤茶色の中身に、黄色の外側。そこにある赤い色。
その姿は、まさに「オムライス」そのものだ。
もっとも進んだ技術を用い、
もっとも素晴らしい芸術作品に城を仕立て上げる。
国の象徴として、また主が住まう場所として、これ以上に相応しい場所などあるはずがない。
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 11:38:36.78 ID:O5cxbXo50
-
(´<_` )「あのベールは攻撃を跳ね返すためにあるんだ」
(・∀ ・)「うすいぞ?」
(´<_` )「あぁ。だけど、常に最新の魔法をこめて、反射を可能にしているらしい」
(・∀ ・)「まほうってすげー」
またんきはオムライス城を見る。
大きな城の中には、多くの者が住んでいるのだろう。
それらを魔法が守っている。
( ^ω^)「そうだお。まほうはすごいんだお!」
小さな力ではあるが、魔法を使うことのできるブーンが言う。
(・∀ ・)「何で、おれは使えないんだー?」
(´<_` )「盗みの技術を教えてもらいながら、魔法の練習もしような」
(・∀ ・)「うー」
( ´_ゝ`)「ほれ、この顔だ」
(・へ ・)「むー」
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 11:41:17.59 ID:O5cxbXo50
-
('A`)「オムライスジョウモ、ミタシ、ツギハ、ドウスル?」
( ´_ゝ`)「クレープ喰おうぜ!」
そう言うと、誰の返事も聞かずに兄者はクレープ屋へ駆けだした。
( *^ω^)「くれーぷ……」
返事はなかったが、誰も拒否しない。
甘い物が好きな一行だった。
(´<_` )「追いかけないと兄者に全部決められるぞ」
( ^ω^)そ「それはこまるお!」
慌てて兄者を追いかける。
すでに注文は終わっているだろうが、彼に文句をつけるくらいはできるだろう。
何を言ったところで、それならもう一つ食え。と、言われてお終いなのだけれど。
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 11:44:14.53 ID:O5cxbXo50
- (・∀ ・)「おいしいなー」
( *^ω^)「あまーいお」
クレープを食べながら城下町を探索する。
国の中でも一等栄えているこの場所には、様々な施設がある。
食事やファッション、小物に始まり、娯楽施設まで。
実に多様で、実に面白い。
(*・∀ ・)「つぎはどこにいくんだ?」
またんきは未だ興奮冷めやらぬ様子で、視線をあちらこちらに飛ばしている。
その表情は、実に子供らしい笑顔だ。
( ´_ゝ`)「美味しいものも食べたし、パーッと遊ぶか」
(´<_` )「ダーツなんてどうだ?」
('A`)「イロイロスレバイイ」
( ´_ゝ`)「そうだな。しばらくは滞在する予定だし」
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 11:47:41.42 ID:O5cxbXo50
-
(´<_` )「滞在中はずっとそうやっていてもいいかもな」
(*・∀ ・)「あそぶのかー!」
( ^ω^)「またんきも、うれしそうだし、いっぱいあそぶお!」
ブーンは嬉しそうに兄者の周りを飛ぶ。
誰も遊ぶことに関しては反対しない。
この旅も大まかに見れば遊びの範囲内だ。
今さら遊ぶ日数や密度が濃くなったところで、気にする者などいるはずもない。
むしろ、自由気侭に生きる彼らとしても、そうやって過ごす方がずっと自然だ。
( ´_ゝ`)「よし! 遊ぶぞ!」
(*・∀ ・)「おー!」
またんきが軽く跳ねた。
服の裾がふわりと舞う。
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 11:50:19.05 ID:O5cxbXo50
-
遊ぶと決めたらとことんだ。
兄者は目についた建物に片っ端から入っていく。
(・∀ ・)「これは何だ?」
(´<_` )「ダーツだ。こうして――」
( ^ω^)「ないす!」
('A`)「ヒャクテン」
( ´_ゝ`)「ならオレはこうだ!」
(・∀ ・)「ふたつどうじか!」
( ´_ゝ`)「ほれ、またんきもやってみろ」
('A`)「トウゾクニハ、トウテキノウデモ、ヒツヨウダゾ」
(・∀ ・)「なるほど……えい!」
( ^ω^)「はずれー」
(・∀ ・)「もう!」
( ´_ゝ`)「はいはい。教えてやるから」
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 11:53:12.27 ID:O5cxbXo50
-
(´<_`* )「ふっふっふ。
ダーツでは負けたが、今回は勝たせてもらった」
(;´_ゝ`)「オレが負けるだと……」
( ^ω^)「おとじゃは、びりやーどがうまいお」
('A`)「アタマヲツカウカラナ」
(・∀ ・)「おとじゃー。こうかー?」
(´<_` )「もう少し腰を落としてみろ」
(・∀ ・)「わかったー」
(;´_ゝ`)「弟者! もう一回だ!」
(´<_`* )「何度でも相手をしてやろうじゃないか!」
( ^ω^)「むだだとおもうおー」
(;´_ゝ`)「オレだって本気を出せばなぁ!」
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 11:56:15.89 ID:O5cxbXo50
- ( ´_ゝ`)「こんな施設もあるんだな……」
( ^ω^)「『ろっくくらいみんぐ』ってかいてるお」
(・∀ ・)「ようは、これをのぼるんだろー?」
('A`)「オレトブーンニハ、カンケイナイナ」
(´<_` )「登ってみるか」
(;・∀ ・)「あぶないぞー」
( ´_ゝ`)「ドラゴンに乗ってる時の方が高いぞ」
(・∀ ・)「あ、そうか」
('A`)「ソレニ、コレクライノボレナイト、トウゾクナンテ、ムリダゾ」
(・∀ ・)「やる! おれ、のぼる!」
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:01:16.39 ID:O5cxbXo50
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('A`)「タイリョクソクテイ、スルゾー」
(´<_` )「兄者に任せとけー」
( ´_ゝ`)「おー」
(;^ω^)「それじゃ、いみないだろうお」
(・∀ ・)「やるぞー」
(´<_` )「無理はするなよ」
(・∀ ・)「わかってる!」
( ´_ゝ`)「いい機会だし、またんきの動きでも観察するか」
(・∀ ・)「はずかしいぞ!」
(´<_` )「気にするな」
('A`)「ムチャナ」
( ^ω^)「きになるだろうお。じょうしきてきにかんがえて」
(・∀ ・)「いくぞー!」
( ´_ゝ`)「予想はしてたが、これ程酷い反復横飛びは始めてだ」
(´<_` )「足元が絡まってるぞ」
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:04:21.46 ID:O5cxbXo50
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数日をかけて、五人は的芽を堪能した。
遊びを知らなかったまたんきは、他の四人よりも楽しんだ。
毎日が笑いの日々だった。
誰かが失敗しては笑い、
誰かが上手くいっては共に手を叩きあった。
( ´_ゝ`)「いやー。遊んだな」
(´<_` )「もう十分だな」
(・∀ ・)「たのしかったぞー」
( ^ω^)「そうさくもきっとたのしいお」
(・∀ ・)「そうなのかー」
一通りの場所で遊んだ五人は、何の変哲もない公園にいた。
芝生があって、滑り台とブランコ、鉄棒にベンチ。それらがあるだけの場所だ。
時間帯がズレているのか、子供の姿はない。
地元の子供と遊ぶのもいい経験になると思っていたのだが、あてが外れた。
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:07:32.13 ID:O5cxbXo50
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(・∀ ・)「そうさくは、どんなばしょなんだ?」
ブランコをこぎながら疑問を投げかける。
(´<_` )「発展途上の地域さ」
( ´_ゝ`)「雷雨が激しい場所でもあるな。
たぶん、国の中でもかなり活気がある場所だな」
公園のベンチに座っている流石兄弟が疑問に答える。
今までとは違い、海を越える必要がないので、地方についての情報を出し惜しみしない。
(・∀ ・)「らいうかー」
('A`)「カミナリト、アメダゾ」
(;・∀ ・)「し、しってるぞ!」
( ^ω^)「あやしいお……」
知らなくてもおかしくはないのだが、またんきが隠そうとするのでからかいたくなる。
ブーンは疑わしげな目を向けてやる。
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:10:16.79 ID:O5cxbXo50
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(;・∀ ・)「うそじゃないぞ!」
ブランコから飛び降りて強く主張する。
( ^ω^)「わかってる。わかってるお」
どうどう。と、またんきを落ち着かせようとするが、その余裕面が彼をまた苛立たせる。
(#・∀ ・)「もー!」
(;^ω^)「おっ?!」
ブーンを捕まえようとまたんきが手を伸ばす。
間一髪のところで避けることに成功したブーンに、また手が伸びる。
(#・∀ ・)「まてー!」
(;^ω^)「まてないおー」
('A`)「カラカウカラ……」
二人の様子をドクオが眺める。
ベンチに座ったままの流石兄弟も、あれは兄弟喧嘩のようなものだろうと傍観を決め込む。
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:13:29.92 ID:O5cxbXo50
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(#・∀ ・)「まて――うぶっ」
公園内を走っていたまたんきが、誰かとぶつかる。
柔らかな腰に顔を埋める形になってしまったまたんきは、慌てて顔を上げた。
(・∀ ・)「ごめんなさい!」
(*:::ー ) ヒュゥ ヒュゥ
(・∀ ・)「……?」
そこにいたのは、耳族の女だった。
ボロ布をまとった姿は、的芽では見ることのなかったものだ。
布で隠されていない場所に見える桃色の毛は、旅を続けている流石兄弟以上の有様だった。
(・∀ ・)「どうかしたのかー?」
ボロボロの服も、酷い様子の毛並みもまたんきは気にしない。
ニュー速でも灯南でも似たような者は山のようにいた。
話しかけることや触れることに抵抗はない。
(*:::ー ) ヒュゥ ヒュゥ
だが、返事はない。
喉から掠れるような風の音が聞こえるだけだ。
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:16:28.87 ID:O5cxbXo50
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( ´_ゝ`)「またんき。こっちへきなさい」
(・∀ ・)「どうしたんだー?」
兄者に招かれ、またんきは耳族の女を気にしながらもベンチへ向かう。
(´<_` )「彼女は、もう駄目だ」
(・∀ ・)「だめ?」
またんきは弟者が何故、冷たい目をしているのかがわからなかった。
駄目。と、いう言葉の意味もわからない。
彼は気づいていなかった。
耳族の女は、全身に細かな傷を持っており、その部分は毛が生えていない。
また、目は片方が潰れていた。おそらくは、喉も潰されているのだろう。
声を発しないのがその証拠だ。
彼女がそのような目にあっているわけはすぐにわかる。
首にかけられている首輪は、彼女がもはや耳族ですらない証だ。
爪'ー`)「見つけたよ。愛しの奴隷ちゃん」
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:19:28.28 ID:O5cxbXo50
-
(*:::ー )そ ヒュゥッ
女が後ずさる。
足は震え、歯はかみ合わなくなり鳴っている。
爪'ー`)「どうして逃げるんだ?」
ニヤける面はどこか恐ろしい。
兄者はまたんきの手を引き、近くに引き寄せる。
(´<_` )「またんき、彼女は奴隷だ」
(・∀ ・)「どれい、なのか」
自分がいた立場に、耳族の女がいる。
またんきはあれほど無残な姿にされたことはないけれど。
爪'ー`)「オレは悲しいよ。
せっかく、お前を買ったっていうのにさぁ」
男は煙草をくわえた。
懐からライターを取り出し、火をつける。
爪'ー`)y-「――もう、さよならなんてさ」
- 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:22:55.11 ID:O5cxbXo50
-
ライターが傾く。
すると、炎が一直線に耳族の女へと走る。
(*:::ー ) ヒュ――ッ!
女は背を向けてどうにか逃げようとする。
このままでは死んでしまう。
(;・∀ ・)「あっ……」
またんきが声を零す。
火は真っ直ぐ女へ向かった。
女は逃げられなかった。
(:: ー:::)「――ぁ、ああ――あぁ――!」
火は女に追いつくと、彼女を包み込むような軌道を描き、炎を着火させた。
女の毛は燃え、一瞬で火達磨になる。
掠れた悲鳴が公園に響く。
( ∀ )
またんきはそれを見た。
弟者が視界を手で覆ってくれたが、確かに見た。
そして、いくら視界を隠そうとも、音も臭いも隠せはしない。
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:25:17.87 ID:O5cxbXo50
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長く感じた時間が終わる。。
黒コゲになった女が公園で崩れ落ちる。
もう息はしていない。
(; ∀ )「うっ……」
表情は変わらずとも、吐き気はする。
またんきはその場に膝をついた。彼の傍でブーンも地面に落ちる。
爪'ー`)「あー。ごめんねぇ。嫌なもん見せちゃって」
男がヘラりと笑う。
罪悪感など欠片もないらしい。
( ´_ゝ`)「構わんが、こういうことはお前の敷地内でしてくれないか。フォックスさんよ」
爪'ー`)「オレのこと知ってるんだー」
(´<_` )「有名だからな」
間延びした声に応える。
流石兄弟は表情を少しも変えていない。
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:28:15.11 ID:O5cxbXo50
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フォックスは奴隷の扱いが悪いことで有名だった。
奴隷をどのように使うかは、本人しだいではあるが、今回のように、公共の場で奴隷を殺すこともしょっちゅうだ。
いたぶることを好まない者や、奴隷を見下していない者からすれば、気分の悪い光景だ。
ゆえに、そういった趣味は自身の敷地内でのみさせる。と、いうのが基本的なマナーとされている。
金があるという意味でも、マナーがなっていないという意味でも、フォックスは有名だ。
( ´_ゝ`)「オレの記憶が正しけりゃ、あの奴隷だってまだ一ヶ月経ってないだろ」
爪'ー`)「そうだねー」
軽い返事だ。
先ほど黒くなってしまった奴隷は、またんきを盗み出す前に見た耳族の女だった。
あの時は美しい毛並みを持っていたというのに、何をどうすれば、あのような有様になるというのだ。
もはや加虐趣味ではすまされない。
爪'ー`)「だってさ、使ってみたかったんだ。コレ」
フォックスが手を上げる。
何かを持っているらしいが、認識することができない。
爪*'ー`)「見える? 見えないだろ?」
流石兄弟がフォックスの手の内にある物を見ようとしていることに、彼は楽しげに笑った。
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:31:19.48 ID:O5cxbXo50
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爪*'ー`)「これは極細の糸だ。
細いが、ちょっとのことじゃ切れない。そして軽い。
あの奴隷にはこれを巻きつけておいたのさ。この糸はよく燃えるんだって聞いてたからな!
いやー。アレほど燃えるとはな!」
最新の道具を試したいがために、一人の命を奪った。
いや、彼の中では奴隷を一人とは数えないのだろう。
('A`)「……クズガ」
ドクオが吐き捨てた言葉はフォックスに届かない。
彼の脳内は奴隷の死という実験結果でいっぱいだ。
( ´_ゝ`)「あぁ、本当だ。触れてもわからない」
爪*'ー`)「だろ?」
兄者はフォックスに近づき、糸に触れる。
近づいて目をこらして、ようやく細い線が見える程度だ。
重さも何も感じない。
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:34:18.08 ID:O5cxbXo50
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何やら糸の成分について説明してくれるが、学のない兄者にはさっぱり意味がわからない。
あからさまに聞き流しているものの、フォックスはそれで構わないらしく、一人で勝手に話し続けていた。
兄者が糸を眺めようが、またんきを見ようが、彼の口は止まらない。
爪*'ー`)「次はこれを使って、どんなことをしようかなー。
おっと。その前にまたニュー速に使いを出さないとな!」
しばらく話し続けて満足したのだろう。
糸を手繰る動作をし、胸ポケットに糸をしまったように見える。
離れたところにいる弟者には、糸など見えない。
爪*'ー`)「よーし。首を絞めれるかやってみよう!」
誰にそれを試すのかによっては、警察を呼ばれる台詞だ。
ギョッとした顔をされないのは、彼はいつも奴隷に対してそのような行為をおこなっていると知っているからだろう。
フォックスはスキップでもしそうな勢いで公園を出る。
その際、誰かが「ゴミは片付けておけ」と、忠告をしていた。
- 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:37:38.05 ID:O5cxbXo50
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(; ∀ )「何だよ、あれ……」
( ´_ゝ`)「フォックスだ。奴隷をすぐ殺すことで有名な男だ」
(; ∀ )「あの人、何で……」
( ´_ゝ`)「奴隷だからな。しかたない」
(; ∀ )「しかたないって!
そんなの……」
黒コゲになって死んだ。
死後もゴミとして扱われた。
およそ、耳族としての扱いではない。
(´<_` )「またんき。残念だが、これが、オレ達の生きている世界だ」
またんきの背中を撫でる。
暖かい体温が服越しに伝わった。
あの女も、同じ体温を持っていたはずだ。
('A`)「……ウケイレロ」
(; ∀ )「だって……!」
(; ω )「きもちはわかるお」
ブーンが羽根を使い、宙へ浮く。
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:40:36.84 ID:O5cxbXo50
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(; ω )「でも、これがげんじつなんだお」
明るく優しいブーンは心を痛める。
奴隷という存在は生き物としての扱いさえ受けられない。
どれほど嘆いたところで変わらぬ事実だ。
( ´_ゝ`)「お前は元奴隷だ。
だが、今は違う。そうだろ?」
(; ∀ )「でも……」
( ´_ゝ`)「オレ達は国中の奴隷を救うなんてことはできない。
時間も、力も足りない。だから、彼女を助けなかった」
冷たい声だ。
兄者は死んだ女に何の関心も抱いていない。
哀れだとは思っても、涙は流れないし落ち込むこともない。
(´<_` )「……宿屋に戻ろう。
最後の日に、とんでもないものを見ちまったが、
的芽には良い思い出もたくさんあるだろ?」
(; ∀ )「……うん」
どうにか頷けたのは、ほとんど奇跡だった。
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:43:41.87 ID:O5cxbXo50
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気持ちが晴れないままに、またんきは宋咲へ行くこととなった。
陸続きの道のりなので、風景が劇的に変わることはない。
しかし、ドラゴンに乗っているからこそ、よくわかる変化もあった。
(・∀ ・)「くもが黒いぞー」
(´<_` )「あれは雨雲だ。
もう宋咲に入った証拠だな」
雨雲と宋咲の関連がイマイチ理解できない。
またんきがさらなる疑問を口にしようとしたとき、鼻先に水滴があたった。
上を見れば、雨雲から細かな雨が降ってきている。
( ´_ゝ`)「おっと。降ってきたな。
ドラゴンこれからは歩きだ」
(;^ω^)「あめがふったってことは――」
ブーンが不安気に言う。
すると、空が一瞬光った。
光にまたんきが驚く寸前、辺りを激しい音が襲った。
( ;゚ω゚)「うおおお! かみなりがおちたおー!」
('A`)「モチツケ」
( ;゚ω゚)「こんなところにおもちはないお!」
('A`)「ダメダコリャ」
- 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:46:15.62 ID:O5cxbXo50
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雷の音にドラゴンも慌てて地上へ降りる。
茂っている木々が邪魔だったが、構っていられないとばかりに、枝を破壊しながらの着地だった。
細かな枝がまたんきを襲うが、小さな切り傷を作った程度ですんだ。
(;・∀ ・)「何だ、いまのは」
木のおかげで、大方の雨は防がれている。
またんきは上を見上げた。
空は静かに雨だけを落としているが、先ほどはまったく違うものが落ちた。
( ´_ゝ`)「雷だ」
(・∀ ・)「雷、かー」
雷は五属性の中にも入っている属性だ。
またんきも存在は知っていたが、こうして実物を見るのは始めてだった。
光以上に音が印象に残る。今もまだ耳の中であの暴力的なまでの音が響いているように感じる。
(;^ω^)「ぼくはきらいだお」
('A`)「スグ、ビビルモンナ」
ドクオは平気らしく、気落ちしているブーンの頬を突いていた。
(´<_` )「何にせよ、こんな状態で空を飛ぶのは危ない。
ここからは歩きになるぞ」
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:49:02.68 ID:O5cxbXo50
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ドラゴンが申し訳なさそうにしているが、雷は自然現象だ。
彼にどうこうできる問題ではない。
( ´_ゝ`)「オレの記憶が正しければ、この方向に町があったはずだ」
この雨の中、野宿は勘弁したいところ。
兄者は最も近い町を頭の中で叩きだす。
(´<_` )「しかし、宋咲は変動の激しい地方でもある。
念のため確かめるか」
流石兄弟はお互いを見る。
彼らが全速力で走れば、それほど時間はかからずにすむだろう。
ただし、弟者の体力が心配ではあるが。
('A`)「オトジャハ、ノコッタラ?」
(´<_` )「そういうわけにもいくまい。
大丈夫だろうけど、何があるかわからんからな」
( ´_ゝ`)「いやー。兄思いの弟で本当に助かるわー」
(´<_` )「例えば、町で兄者が遊び呆けてるなんてことがあったら困るだろ?」
(;´_ゝ`)「ツンデレ? ねえ、ツンデレだよね? 本気では思ってないよね?」
- 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:52:16.98 ID:O5cxbXo50
-
(・∀ ・)「おれはるすばんかー?」
声に元気がない。
( ´_ゝ`)「盗みに行くわけじゃないから、すぐに戻るさ。
だが、お前が嫌だって言うなら、行かない」
(・∀ ・)「…………行ったほうが、いいのか?」
(´<_` )「絶対というわけではないさ。
変動がある宋咲といえど、町一つ消えるなんてそうそうないことだし」
(・∀ ・)「そうかー」
またんきは顔を俯けて少し考える。
元気がないのは、何も置いて行かれるという心配だけではない。
(・∀ ・)「……すぐかえってくるんだぞー」
( ´_ゝ`)「把握した」
(´<_` )「じゃあ、行って来る」
('A`)ノシ「イッテラ」
(;^ω^)「はやくしてくれお? かみなりがおちちゃうお」
- 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:55:45.29 ID:O5cxbXo50
-
走る流石兄弟を見送り、またんきはドラゴンによりかかる。
降っている雨は、彼の心の靄を払いはしない。
('A`)「ドウシタ?」
今にもため息をつきそうなまたんきの近くにやって来る。
ドクオが乗った肩と反対の肩にブーンが乗った。
(・∀ ・)「……どれいって、ごみなのか?」
またんきの脳裏には、黒コゲになった奴隷の姿が鮮明に残っている。
あの掠れた叫び声も忘れることはないだろう。
そして、死した彼女がゴミ扱いをされたこと。
兄者も弟者もそれを咎める素振りさえなかったこと。
どれもこれも、彼の中に強くこびりついている。
元奴隷であるまたんきには、思うところがあった。
今さら流石兄弟を疑うようなマネはしない。
彼らはハーフであるまたんきを手放さないし、一度内側へ入れれば守ってくれる。
それくらいはわかっていた。
けれど忘れられない。
灯南でも見たあの冷たい目。
宋咲では手を差し伸べることもなければ、声をかけることもなかった。
- 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:58:13.74 ID:O5cxbXo50
-
( ^ω^)「ぼくも、はじめはとまどったお」
暗い雰囲気の三人を、ドラゴンが心配そうに見つめている。
( ^ω^)「あにじゃも、おとじゃも、ぼくやどくおにはやさしかったお。
でも、ほかのひとにはぜんぜんだったお」
それは、またんきが的芽で見た光景とほとんど変わらない。
目の前で誰かが飢え死にしても、殺されても、表情一つ変えないのだ。
生まれたときから、そんな風景が当たり前だったとしても、そう簡単に無関心にはなれないはずだ。
( ^ω^)「だけど、ぼくらをいじめたことはなかったお」
('A`)「ソレドコロカ、オレタチガ、ツカマリソウニナッタトキハ、ホンキデオコッテクレタ」
他人はその他大勢であり、死のうが苦しもうが気にしない。
その反面、仲間が唯一であり、傷ついた姿を見ることさえ厭う。
流石兄弟が持つ二面性は、恐ろしくもあったが、頼もしくもあったのだ。
( ^ω^)「めんどうごとに、まきこまれなければ、おかねをまいたり、ごはんをあげたりはするんだお」
他者を助けるのが嫌なわけでない。
また、一人助けたところで。と、思っているわけでもない。
兄者の、そして彼自身は無意識だろうけれど弟者も、行動原理は興味の有無だ。
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 13:01:30.68 ID:O5cxbXo50
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('A`)「ギコガ、ドレイヲナクシタイッテ、イッタラ、ソウナレバイイナ。ッテ、イウンダ」
( ^ω^)「だお。
あにじゃも、おとじゃも、どれいせいどなんて、なくなればいいとはおもってるんだお」
(・∀ ・)「でも、どれいはごみだって。ひていしなかった。
おもってるんだ。おれは、もうどれいじゃないけど、ほんとうなら、ごみだったんだ」
奴隷であること、実験体であること。
それらに嫌気が差したことはあるが、劣等感の元になったことはなかった。
しかし、ゴミだという言葉を聞き、それを流石兄弟が否定しなかった。
そんな簡単なことで、奴隷という過去は膿み始める。
(・∀ ・)「ハーフじゃなかったら、ほんとうに、ただのごみだったんだ」
涙は流さない。
国を回り始めてからは、一度も流していない。
けれど、またんきの声は震えていた。
(・∀ ・)「どれいなんて、ごみなんだ……」
雨が強くなる。
またんきの代わりに泣いているようだ。
- 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 13:04:15.09 ID:O5cxbXo50
-
( ^ω^)「ちがうお」
雨の音に負けない強さで言う。
またんきが顔を上げ、ブーンを見た。
('A`)「アア、チガウネ」
次はドクオを見る。
二人は呆れたような顔をしていた。
心なしか、ドラゴンも呆れているように見える。
( ^ω^)「またんきは、ごみにごはんをあげるかお?
ふくや、おかねをあげるかお?」
('A`)「ゴミガ、カラダニクッツイタラ、ハラッテヤルダロ?」
( ^ω^)「でも、あにじゃもおとじゃも、どれいやうえたひとに、ごはんやふく、おかねをあげるお」
('A`)「スガッテキタラ、ソットハナスコトハアッテモ、オイハラウコトハナイ」
行動の一つ一つが、対人に対するものだ。
ゴミと人は違う。
人には意思があって、命がある。
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 13:07:26.81 ID:O5cxbXo50
-
(・∀ ・)「でも、だったら……」
( ^ω^)「ごみじゃない。でも、めんどうだったり、どうでもよかったりはするんだお」
('A`)「ムカンシン」
( ^ω^)「そう。でも、それだけだお。
ふたりは、どれいをみくだしたりしてないお」
同じ生き物であることを認めていることと、無関心とは矛盾しない。
流石兄弟は、間違いなく人を人として認めている。
どのようなことがあったとしても、奴隷をフォックスのように扱いはしないだろう。
(・∀ ・)「それでも、あんまりだ」
女の悲鳴が聞こえる。
いつまでも残る声だ。
('A`)「ソウカモシレナイ」
( ^ω^)「たすけられたかもしれない。
そのかんがえは、もちろんそうだお。またんきはまちがってないお」
遠くの方で雷が落ちた。
ブーンは一瞬、体を硬くしたが、すぐに力を抜く。
ずいぶんと距離があるようなので心配は必要ない。
- 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 13:10:26.19 ID:O5cxbXo50
-
('A`)「オマエハ、ジユウダ」
(・∀ ・)「何を、いまさら」
( ^ω^)「だから、すきにしていいんだお」
雨が強くなる。
町を確認しに行った流石兄弟は無事に帰ってくるのだろうか。
(・∀ ・)「どういういみだよ」
( ^ω^)「にげてもいいお。とうぞくになんて、ならなくてもいいお。
ねがえば。ほんきでねがえば、あにじゃはかなえてくれるお」
泣かせてやるとは言っていたが、またんきが本気で離れたいといえば、許すだろう。
一度、内側に入った子供だ。身内に甘い兄者が許さないはずがない。
('A`)「イヤナラ、ナットクデキナイナラ。
イッテモイイ」
( ^ω^)「もちろん、あにじゃやおとじゃに、じかだんぱんするのもいいお。
でも、ふたりはぜったいにかわらないお」
ブーンは苦笑している。
今までに、彼らの考え方を変えることができたことなどないのだ。
- 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 13:13:23.18 ID:O5cxbXo50
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人の考え方を変えるのは難しい。
奴隷をゴミのように見ていないだけ、マシだというべきだろう。
またんきは口を閉ざした。
('A`)「オマエハ、アニジャトオトジャガ、キライカ?」
(・∀ ・)「……きらい、じゃない」
首を横に振る。
冷たい目は怖いが、優しく抱きしめてくれることを知っている。
盗みの技術を教えてやると言った兄者は好きだ。
物事を教えてくれる弟者は好きだ。
(・∀ ・)「ただ……。あのひとを、わすれられない」
すぐ近くにいた、生きた耳族。
悲鳴を上げて、死んだ耳族。
忘れられるはずがない。
( ^ω^)「なら、いまはそれだけでいいんじゃないかお」
(・∀ ・)「いいのか?
何かしたほうがいいんじゃないか?
もっと、何か……」
- 59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 13:16:36.59 ID:O5cxbXo50
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('A`)「オボエテテモラエテ、アノヒトモ、ウレシイダロウサ」
( ^ω^)「あにじゃも、おとじゃも、おなじになれとはいわないお」
仲間だとは言う。しかし、同じような考えを持てとは言わない。
忠告をすることはあっても、押しつけることはしない。
盗みに心を痛めるブーンのことも受け入れてくれる。
できないことを認めてくれる。
('A`)「イインダ。スキニカンガエロ」
(・∀ ・)「……すきに」
またんきは空を見上げる。
暗くて、青空なんて欠片も見えやしない。
何かを吹っ切るには、これ以上ないほど最悪のシチュエーションだ。
いつか、またんきが大人になって力を得たとき、奴隷を助けようとしても流石兄弟は止めはしないだろう。
手助けをしてくれるかもしれない。傍観しているかもしれない
けれど、それを咎めることはしない。
( ^ω^)「らくにいきるお。すきにいきるお。
それをはじめにねがったのは、あにじゃなんだから」
- 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 13:19:32.39 ID:O5cxbXo50
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しばらくして、兄者と弟者が帰ってきた。
二人とも雨に濡れ、毛から水が滴っている。
( ´_ゝ`)「やっぱりあったぞ」
(´<_` )「宿もとっておいた」
二人はドラゴンの背から、大きなビニールシートを取り出す。
互いに両端を持ち、腕を上げる。
( ´_ゝ`)「またんき、ここに入れ」
流石兄弟によって作られたのは屋根だった。
二人の間に入れば、雨は入ってこない。
幼いまたんきが風邪をひかぬように考えてくれたのだ。
(・∀ ・)「……ありがとう」
(´<_` )「どういたしまして」
またんきは素直に礼を言う。
作られた屋根の下に入り、雨から守られる。
- 63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 13:22:34.51 ID:O5cxbXo50
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強い雨の中を五人が歩く。その隣をドラゴンが歩いているのは、何だか新鮮だった。
それぞれ違う足音の中に、一際大きくゆっくりな音がしている。
彼の鱗は雨などに負けることはないようで、むしろシャワーを浴びているのだと言わんばかりだ。
(・∀ ・)「なぁ」
( ´_ゝ`)「どうした?」
水溜りに足を入れ、靴に泥をつけながら口を開く。
(・∀ ・)「おれ、やっぱり、うけいれられない」
雨が降る。
ビニールに落ちた雨が音をたてる。
三人とドラゴンはぬかるんだ地面を踏み、前へ進んでいく。
ブーンとドクオは黙って飛んでいた。
( ´_ゝ`)「そうか」
(・∀ ・)「うん」
- 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 13:25:38.67 ID:O5cxbXo50
-
雨の音と、歩く音だけが聞こえる。
時折、雷の音が聞こえたが、何処か遠くの話だ。
( ´_ゝ`)「それが、普通なんだろうな」
生まれながらの犯罪者でも、闇属性の精霊でもない。
極普通の者が持つべき感情。
兄者にも、弟者にもない気持ちをまたんきは持っている。
(´<_` )「辛いぞ」
(・∀ ・)「つらいって、すこしわかったぞ」
始めはわからなかった感情が、段々とわかってくる。
それは嬉しくもあったし、悲しくもあった。
(・∀ ・)「あのひとが死んだとき、つらかった」
またんきは胸の辺りを握る。
強く握ったため、服にしわができた。
(・∀ ・)「でも、きっと、このつらい、からは、にげられないんだ」
- 65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 13:28:19.81 ID:O5cxbXo50
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好きに生きてもいいと言われ、またんきは考えた。
本当にしたいこととは何か。
逃げることか、解決することか。
流石兄弟は逃げることも肯定する。
またんきにとって、自由は辛く、迷うものではなかった。
いつでも、後ろに支えてくれる人がいれば、自由も責任も恐ろしくはない。
だから、またんきは自分の心に真っ直ぐ向きあうことができた。
どのような道を選んだとしても、後ろには流石兄弟や、ブーン、ドクオにドラゴンがいてくれる。
( ´_ゝ`)「……お前は強いな」
兄者は頬を緩めた。
ビニールシートを持っていなければ、またんきの頭を撫でていただろう。
(´<_` )「向きあうことにしたんだな」
(・∀ ・)「だって、わすれられないし、わすれたくないんだ」
助けられるとは思っていない。
手を差し伸べることが絶対的な善だとも思っていない。
行動して何かが変わるわけでもない。
だから、目の前の人を救ってみたい。
辛くて不平等な現実を黙って受け入れたくない。
- 66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 13:31:23.48 ID:O5cxbXo50
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( ´_ゝ`)「そうか。お前の選んだ道だ。しっかり進め」
(・∀ ・)「うん」
(´<_` )「ところで、他人を救いたいって気持ちと、盗賊になりたいって気持ちは矛盾しないのか?」
(・∀ ・)「え?」
('A`)「ブーンハ、イツモ、ヌスミマエハオチコムナ」
( ^ω^)「ふつうのぬすみはちょっと、にがてだお」
(・∀ ・)「えっと……。えっと……?」
またんきは首を傾げる。
他者を救いたいという気持ちはある。
しかし、言われてみれば、他人の物を盗むというのは、誰かを傷つけることにも繋がる。
まだ話にしか聞いたことがないが、流石兄弟は殺しもしているらしい。
教わる技術にも、そういったことは絡んでくるだろう。
(;・∀ ・)「む、むじゅんしない!」
散々頭を悩ませて結論を出す。
些か力のない声ではあったが。
- 69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 13:34:30.97 ID:O5cxbXo50
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(;・∀ ・)「おかねをいっぱいもってるヤツからとる!
できるだけ、ひとはころさない!」
( ´_ゝ`)「ま、その辺りはおいおい自分で線を引いていけばいいさ」
今回のことも、目の前で現実を見たからこそ出すことができた結論だ。
未来の、それも、そういった事態に直面するのかどうかもわからない段階で、頭を必要以上に悩ませることはない。
兄者の言葉にまたんきは一息つく。
元よりそれほど回転が早い頭ではない。
すぐに答えを出すことなどできはしないのだ。
('∀`)「マタンキガ、リッパナトウゾクニナッタラ、アニジャヤオトジャガ、イナクナッテモ、オレガテツダッテヤルヨ」
(・∀ ・)「ほんとうか? やくそくだぞー!」
('∀`)「ナレタラナ」
(#・∀ ・)「ばかにしたなー!」
( ^ω^)「またんき、おくちはこうだお」
(#・へ ・)「もー!」
ブーンが手を大きく広げてまたんきの口角を下げる。
不満気にまたんきが声をもらすが、周りは笑うばかりだ。
- 70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 13:37:26.79 ID:O5cxbXo50
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狭い空間ではあるが、兄者と弟者によって作られている屋根の下で精霊の二人とまたんきは暴れる。
水がはねてズボンを汚しているが、気づいてさえいないようだ。
( ´_ゝ`)「子供は元気でいいねぇ」
(´<_` )「オレ達は風邪をひきそうだ」
弟者が小さなくしゃみをする。
雨に濡れた上に、宋咲は少々寒い気候にある地方だ。体はすっかり冷え切ってしまっていた。
宿屋についたら、風呂に入る算段を脳内でつける。
( ´_ゝ`)「しっかし、あの町もずいぶん完成してきてたな」
(´<_` )「店もいくつかできてた」
( ´_ゝ`)「今日は特に酷い雨だから、誰もいなかったが、明日は晴れるだろうなぁ」
(´<_` )「……あぁ、そうだな」
二人の会話は隠されているわけではなかったのだが、楽しげにしているまたんきの耳にはは入らなかった。
- 71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 13:40:22.92 ID:O5cxbXo50
-
途中、大きな雷の音にブーンが逃げ出したことを除けば、無事に宿屋に着くことができた。
ドラゴンとはいつも通り、町の近くでわかれた。
( ´_ゝ`)「あー。さむかった」
(・∀ ・)「なあ、このまち、へんだぞ」
(´<_` )「ん? 何でだ?」
またんきが弟者の服の裾を引っ張る。
一応、宿屋の者に聞こえぬようにと思っているのか、声は小さい。
(・∀ ・)「だって、ぼうだけのたてものがあるぞ」
町に入ったまたんきが真っ先に思ったことだった。
普通の建物もあるのだが、所々に棒だけで構成されているものがあった。
形からすれば、建物なのだろうけれど、人が住めるとは思えない。
雨や雷のせいで見間違えたわけではない。
またんきはハッキリと不可思議なそれを確認していた。
(´<_` )「それは建ててる途中のものだ」
(・∀ ・)「とちゅう?」
- 72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 13:43:26.38 ID:O5cxbXo50
-
まさか建物が生えてくるとは思っていないが、出来上がる過程というのは想像できない。
意味はわかれど、疑問は多い。
( ^ω^)「そうさくは、はってんとじょうのくにだって、おしえたお?」
('A`)「ダカラ、ケンチクトチュウノモノモ、ワンサカアルノサ」
(・∀ ・)「あんなのがたくさんあるのか?!」
( ´_ゝ`)「あるぞー。この町はずいぶん完成してきてるが、他の町へ行けば、まだ砂利しかないような場所もある」
何もない地方も、何でもある地方も見たまたんきだが、できる途中を見るのは始めてだ。
完成されているものとは違う魅力がそこにはある。
部屋にある窓から外を覗く。
雨がガラスにあたり、まばらな模様を作っている。
(・∀ ・)「あ、光った」
( ^ω^)「おっ」
雷が落ちる。
そこそこ近い距離のようだ。
(; ω )「――っ!」
- 73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 13:46:23.49 ID:O5cxbXo50
-
ブーンは慌ててベッドの中にもぐりこむ。
この先も、雷に慣れることは一生ないのだろう。
怯えているブーンを横目に、弟者が風呂に入り、兄者が次に入る。
結局、またんきが風呂から上がるまで、ブーンは布団から出てこなかった。
(・∀ ・)「ブーンは、ほんとうに雷がきらいなんだなー」
(;^ω^)「びっくりするんだお……。
ひかりはともかく、おとが……」
('A`)「ビビリメ」
( ´_ゝ`)「明日には雷も過ぎ去ってるさ。
今夜は我慢だな」
( ´ω`)「おー」
ブーンは力なく返事をした。
雨は勢いを増して窓に攻撃をしている。
またすぐにでも雷がなりそうな様子だ。
(・∀ ・)「そうさくにくるのは、たのしみっていってたのになー」
宋咲について説明してくれているときのブーンは楽しそうだった。
これほど雷が怖いのならば、宋咲は恐ろしい場所にしかならないのではないかと思う。
- 75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 13:49:26.14 ID:O5cxbXo50
-
(´<_` )「宋咲だって、年がら年中雷が鳴ってるわけじゃないぞ。
ちょっとばかし発生率が高いだけだ」
( ´ω`)「ぼくだって、かみなりがなってないそうさくはすきだお……」
またんきは、宋咲に来て一日目から雷雨に見舞われたので、この地方ではそれが当然なのかと勘違いしていた。
どうやら他の地方に比べれば雷雨はよく発生するが、毎日というわけではないらしい。
むしろ、一日目から雷雨に見舞われたまたんきの方が珍しいのかもしれない。
( ´_ゝ`)「雷が怖い気持ちもわからなくはないがな」
('A`)「タシカ、ソウサクノハッテンガ、オクレテルノハ、ソコガカンケイシテルンダッケ?」
(´<_` )「強い雨と雷が作業の邪魔をするんだよな。
川が決壊することもあるみたいだし」
ただ、流石兄弟が宋咲へ始めてやって来たころには、何らかの対策が打たれ、
誰もが自然の脅威を気にせずに町の建設に勤しんでいた。
その姿はまるで、いつどこに雷雨が発生するのかがわかっているようだった。
(・∀ ・)「あんなのがいっぱいあって、まちができるのかー」
またんきは棒だけの建物を思い浮かべる。
( ´_ゝ`)「その辺りは、明日になればもっとよくわかるさ」
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