■2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです
└(・∀ ・)と兄弟のようです
└前編 七
- 695 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 15:20:17.77 ID:EHpwtljV0
-
翌日は、朝早くからドラゴンに乗り込み、空を楽しむこととなった。
灯南に来る時と違うところといえば、その高度だろう。
(;・∀ ・)「何か、たかくないか?」
以前は海が見え、船が見えた。
しかし、今は海はかろうじて見えるが、船が通っていたとしても気づけない。
(´<_` )「的芽に行くからな」
( ´_ゝ`)「安心しろ。灯南から的芽への海路で、面白いものはない」
('A`)「フネヒトツナイサ」
どうやら、的芽に行く。と、いうことは、またんきが思っている以上に大変なことらしい。
ドラゴンが高く飛んでいるのも、人目につかないようにするという意図があるようだ。
(´<_` )「的芽は灯南と近いが、奴隷の地ともいえる灯南から何者かがやってくることを嫌ってる。
だから、灯南と的芽の間に船が通ることは許されていない」
そもそも、距離だけを考えるならば、奴隷市場はニュー速よりも的芽であるべきだ。
人も多く、交通の便もよい。
ニュー速に括るのは穢れた者が大量に入ってくることを防ぐためだ。
( ´_ゝ`)「どうせ殆どの奴隷は買われて、的芽か宋咲に行くのにな」
カラリと笑うのは兄者だ。
- 698 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 15:23:15.64 ID:EHpwtljV0
- (´<_` )「そう言うな。
お偉いさんは、視界に入っていなきゃ、
この世界に汚物は存在していないと思えるような奴ばかりなんだ」
弟者もフォローをしているようで、酷い言い草だ。
わけがわからず首を傾げるまたんきに、お前はまだわからなくていい。と、二人で告げる。
(´<_` )「的芽ってのはそういうところだ。
だから、灯南から的芽に入るのは難しい。
海岸沿いには馬鹿高い壁が作られてるしな」
見えるころになったら、少しだけ高度を下げようと兄者に提案する。
彼も同じことを考えていたらしく、同意はすぐに貰えた。
( ^ω^)「でも、わるいところばっかりじゃないお」
的芽という地方に悪印象だけを持ったまんたんきに、ブーンが付け加えた。
( ^ω^)「まとめは、くにのちゅうしんだお。
だから、たくさんのものがあって、たのしいところだお」
(・∀ ・)「ちゅうしんかー」
- 700 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 15:25:19.34 ID:EHpwtljV0
- 的芽には国の中心、首都がある。
中心というだけあって、この国で最も栄えている地方だ。
( ´_ゝ`)「一度首都には行くとしよう。
VIP国に住んでるんだ。城を見ていて損はない」
(´<_` )「あの城はこの国を象徴しているからな」
彼らは仕事で幾度となく首都へ入ったことがある。
城下町には金持ちも多く、珍しい物も少なくない。
珍しい物好きの兄者が足を運ばないわけがなかった。
(・∀ ・)「しろか。たのしみだぞー」
('A`)「デモ、スコシキヲツケロ」
(・∀ ・)「何でだ?」
ドクオの言葉に問いを返す。
彼がネガティブで、人の気持ちを萎えさせるようなことを言うのは今に始まったことではないが、
妄想による不安より、現実味のある不安を口にする方が多いので、聞いておくほうが無難だ。
- 703 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 15:27:32.39 ID:EHpwtljV0
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('A`)「コレマデノチホウ、トハ、チガウ」
(´<_` )「オレ達は犯罪者だってこと」
無法地帯と化しているニュー速や、奴隷予備軍ばかりがいる灯南とは違う。
これから向かう先は、法のもとに成り立っている世界だ。
盗賊であり、時には人を殺すこともある流石兄弟は、間違いなく検挙の対象となる。
(;・∀ ・)「じゃあ、どうするんだ?」
コソコソ過ごすくらいならば、自由に歩けるニュー速や灯南にいた方がマシだ。
見てみたい物はあるが、人の目を掻い潜って見ることができるかわからない。
またんきは不安気な目を弟者に向ける。
(´<_` )「大丈夫。オレ達だって、しょっちゅう的芽や宋咲には行ってる」
( ´_ゝ`)「他人の顔なんて、じっと見るもんじゃないしな」
(´<_` )「毎回使ってるブツもあるし」
( ´_ゝ`)「あぁ、またんきの分はついてから用意しよう」
- 705 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 15:29:46.11 ID:EHpwtljV0
-
またんきを除いた全員が、理解し頷いている。
一人だけ仲間はずれなのは気に入らないが、後々にわかることなのだろう。
文句をぐっと飲み込む。
( ´_ゝ`)「……文句があるなら言えよ?」
台詞だけ聞けば、脅しているようにも取れる。
しかし、意味を理解すれば、単純に我慢をするなとうことが言いたいらしい。
(・∀ ・)「べつに、もんくじゃねーよ」
言わなければ気がすまない程のことではない。
少しだけ、拗ねているのだ。
( ^ω^)「ま、まとめにはまだまだおもしろいものがあるお!」
またんきの気持ちを察したブーンが面白いものを並べていく。
ニュー速や灯南とはまったく違う街並み。
甘いお菓子が並ぶ店。
子供達が遊ぶ公園。
その言葉の一つ一つがまたんきを魅了する。
早く行きたい。と、心が急く。
- 710 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 15:31:53.28 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「お前も、ずいぶん素直な顔をするようになったな」
首だけで後ろを覗いていた兄者が笑った。
(・∀ ・)「え?」
( ´_ゝ`)「あまり変わらないが、楽しそうだし、怒るし、不安そうな顔もする」
元より、またんきの表情が気に喰わなくて始めた旅だ。
国中を知っている兄者からしてみれば、どの地方よりもまたんきの変わりようが面白い。
(´<_` )「まずは大笑いして欲しいな」
('A`)「マトメニナラ、オモシロイモノガ、イッパイアル」
( ^ω^)「いっぱいあそぶお!」
(・∀ ・)「……おう!」
誰かと遊んだことなどなかった。
それを想像することすらなかった。
またんきは遊ぶ楽しみを想像し、元気に返事をする。
- 713 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 15:33:42.59 ID:EHpwtljV0
-
しばらくすると、兄者が下を見るように言った。
胸の高鳴りを感じつつ、またんきは指示に従う。
(・∀ ・)「おおー!」
ドラゴンが高度を下げると、下に壁が見えた。
高度を下げたといっても、低空飛行になったわけではない。
それだというのに、壁はよく見えた。それほど高い壁だった。
レンガを積み、接合しできたらしいその壁は、高さもさることながら、厚さもあった。
ちょっとやそっとの衝撃では崩れないだろう。
( ´_ゝ`)「でかいだろ?」
(・∀ ・)「でかい!」
またんきは勢いよく返事をする。
圧倒される。
飛行船を始めて見たときは、まだ外の世界というものに慣れていなかった。
感情を上手く感じることもできなかった。
しかし、今は違う。
目の前にある物が胸に直接、突き刺さる。
- 715 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 15:35:46.74 ID:EHpwtljV0
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(・∀ ・)「あれはだれがつくったんだ?」
(´<_` )「オレと兄者が生まれた頃には会っただろうな。
正確にはわからない。考えたこともなかった」
(・∀ ・)「こんなのをつくるヤツは、きっとでかいんだろうな」
( ´_ゝ`)「何らかの技法を使ったのかもしれないぞ」
またんきは想像が掻き立てられた。
見知らぬ技術にせよ、見たこともない生物にせよ、誰もわからぬ今ならば、
どのような答えがあるのかわからない。
わからぬ答えが楽しく思えた。
( ^ω^)「こんど、いっしょにしらべるお」
ブーンが誘う。
またんきは間をおかずに頷いた。
その瞳は輝いている。
- 718 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 15:38:06.73 ID:EHpwtljV0
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('A`)「コレデ、ヒナンカラ、ダレカガヤッテクルノヲ、フセイデルンダ」
どうせ、誰もこれやしないのに。と、目を伏せる。
ニュー速と灯南ほど離れていないとはいえ、やせ細った者が泳いで渡れるほど、したらば海は細くない。
船を作る材料すらない灯南の人間が、どうして的芽へ来ることができるというのだ。
( ´_ゝ`)「不満と鬱憤を抱えた奴は何をするかわからないからな。
お偉いさん方も、その辺りの自覚はあるんだろうよ」
嫌味でも何でもなく、兄者はただ事実を述べる。
底辺の者こそ恐ろしい。
改革を起こそうと奮起するのは、地の底にいる者なのだと、誰もが心の片隅に置いている。
( ^ω^)「みんな、なかよしがいいお」
(´<_` )「そうはいかないのが現実なんだよなぁ」
( ´_ゝ`)「弟者の言うとおり。
だからこそ今を楽しめばいい。
いつ崩れるかわからんものを気にするのも、待ち望むのも馬鹿らしい!」
ドラゴンの横腹を軽く蹴る。
それを合図とした彼は、体の角度を変え、空から地上へと降りて行く。
- 721 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 15:40:27.93 ID:EHpwtljV0
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唐突な方向転換に、兄者以外の全員が驚いた。
弟者は慌ててまたんきを抱きしめ、ドクオはまたんきの髪の毛を掴む。
(´<_`# )「兄者! 危ないと何度言ったらわかる!」
( ´_ゝ`)+「お前を信じてた」
(´<_`# )「他に言いたいことはあるか?」
(;´_ゝ`)「……すみませんでした」
背中越しでもわかる。
冷たい視線だ。ビームにでもなっているのではないかと思えるほどの威力に、兄者は呆気無く降参する。
このやり取りも、今に始まったことではない。
兄者は学習せず、弟者も彼を突き落としたりはしない。
(・∀ ・)「あにじゃは、ばかだなー」
('A`)「セイカイ」
彼らの言葉も、今は流石兄弟に届かない。
- 724 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 15:43:29.92 ID:EHpwtljV0
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いつも通り、ドラゴンは町から少し離れた場所に着陸した。
ニュー速や灯南ほど荒れてはいない土地で、木々も多い。
身を隠すには丁度いいが、着陸には若干手間取る。
( ´_ゝ`)「今日は町で泊まる。飯は自分で取れるな?」
兄者の問にドラゴンは首を動かして答える。
図体のわりに彼はあまり食事を必要としない。
吸血蝙蝠だったころの名残なのか、固形物よりも液体を必要とする性質だった。
( ^ω^)「どらごんもいっしょにいけたらいいのにお……」
それが理想であるのは誰もが思うところだ。
しかし、それが実現することがないこともまた、全員が知っている。
お尋ね者である流石兄弟が連れて歩くには目立ちすぎる。
一目見ただけで、合成によってできた生物であるということがわかるのも不味い。
またんきのように、見た目は一般的であったならば、共に行くことも可能だったのだろうけれど。
ドラゴンも悲しそうな目を五人に向ける。
移動中や、灯やシベリアのような土地ならばともかく、ここで行動を共にすることはできない。
(´<_` )「国を一周したらニュー速でこれでもかというくらい遊ぼう」
(・∀ ・)「いっしょにあそぶのたのしみだぞー」
- 726 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 15:45:39.40 ID:EHpwtljV0
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二人の言葉に、ドラゴンは頷いた。
( ´_ゝ`)「その時はオレが特性のボールでも用意してやるよ」
('A`)「ドラゴンガ、アソベルキョウドノ、ボールカ……」
ちょっとやそっとじゃ見つからないだろう。
市販のゴムボールでは、ドラゴンがくわえただけで破裂する。
(・∀ ・)「たのしみがいっぱいだ」
約束が増えることが嬉しい。
増えれば、比例して楽しみが増える。
( ^ω^)「うれしいかお?」
(・∀ ・)「うれしい。
……うん。うれしい」
感情をまた一つ覚える。
またんきは言葉を反芻し、頷いた。
(´<_` )「そろそろ行くぞ。宿屋を探す必要があるからな」
弟者はドラゴンの背から下ろした荷物の一つを兄者に渡す。
肌触りのいいその荷物は、彼らの身の丈に合っている服だ。
- 728 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 15:47:44.30 ID:EHpwtljV0
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(・∀ ・)「あたらしい服か?」
( ´_ゝ`)「いや、これはこっちに来るときにいつも使ってる服だ」
広げられた服は、素人目にも良い品であることがわかる。
刺繍一つとって見ても美しい。
つけられている装飾品も、下品ではなく、それでいて存在感があった。
(´<_` )「良い物を着てると、誰もオレ達を疑わないのさ」
( ´_ゝ`)「まさか、あんな良い物を着ている人が、盗みなんてするはずない。ってな」
兄者は嘲笑する。
( ´_ゝ`)「盗むからこそ、こういう服を着るんだ」
他人の目を誤魔化すため、また、相手の警戒を解くためには、相手よりも裕福であることを主張すればいい。
誰も自分よりも下の者から金品を奪おうと考えていないと思っているのだ。
(・∀ ・)「おれのはー?」
(´<_` )「明日には用意しよう」
(・∀ ・)「ずーるーいー」
( ´_ゝ`)「ずーるーくーなーいー」
- 729 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 15:50:16.50 ID:EHpwtljV0
- またんきと一悶着あったが、流石兄弟としても早く彼の服を用意しなければならない。
ニュー速で強奪した服は、それなりの物ではあったが、的芽で着るとなると些か質が悪い。
豪華な服を着ている流石兄弟と共にいるとなればなおさらだ。
(・∀ ・)「ぜったいだぞ」
( ´_ゝ`)「あぁ、絶対だ」
兄者は美しい服をなびかせて約束する。
立ち振る舞いは変わっていないはずなのに、どこか優美さを感じさせる姿だ。
服が変われば印象は変わる。それを兄者は如実に表している。
(´<_` )「まとまったか? なら町へ行くぞ。
ドラゴン、行ってくるな」
ドラゴンの背を軽く叩き、弟者は町へ向かう。
('A`)「ソウダナ」
( ^ω^)「いくおー」
弟者を精霊の二人が追う。
五人が町へ行く姿をドラゴンはじっと見ていた。
- 732 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 15:54:34.91 ID:EHpwtljV0
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(・∀ ・)「……」
町に入り、またんきは始終無言だ。
不機嫌が原因ではない。
(´<_` )「またんき、手を繋ごう」
( ´_ゝ`)「おっ。じゃあ逆はオレが」
両手を流石兄弟と結んで歩く。
同意も拒否も示さず、されるがままだ。
( ^ω^)「だいじょうぶかお……」
('A`)「チュウイリョクサンマン、ダナ」
二人にそう言われてもしかたがない。
またんきは立ち並ぶ家の風景に、目を見開いたままなのだ。
- 735 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 15:57:33.09 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「ずっと地下だったし、今までの地方は廃れてたからな」
( ´_ゝ`)「正真正銘、都会の的芽に驚いてもしかたない」
( ^ω^)「たしかに、ぼくらもはじめはおどろいたけど……」
偶然というべきか、環境から当然というべきなのか、五人全員がニュー速生まれだ。
またんきの正確な生まれはわからないが、物心ついたころからニュー速の地下にいたのだから、
ニュー速生まれといっても間違いではないだろう。
同じ国の、隣の地方にあるとは思えないほど、ニュー速と的芽は違う。
誰しも、的芽に始めて訪れたときは驚いた。
流石兄弟とて、始めは驚き、一日口をきけなかったくらいだ。
('A`)「マタンキ、ハグレナイヨウニナ」
(・∀ ・)「……」
( ´_ゝ`)「駄目だこりゃ」
(´<_` )「しばらくは手をしっかり握っていないとな」
- 738 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 16:00:13.15 ID:EHpwtljV0
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またんきの脳は、周りの風景を認識することで精一杯だった。
今まで見てきた場所とは全く違う。
建物は、無計画に建てられたのではなく、計画的に建てられたことがわかる。
道は自然のままではなく、人が歩きやすいように舗装されていた。
景観を重視しているのか、道の端に立っている木は定期的に剪定されている。
店だって目新しいものばかりだ。
ガラス越しに見える服は布の質から違う。
甘い香りをさせる店もある。生クリーム。と、ブーンが呟いていた。
また、路上で寝ている者がいない。
怒声が聞こえない。
死にそうな者は一人もおらず、誰もが綺麗な服を着ている。
そして、幸福そうに笑っていたり、悩ましげな表情をしている。
色とりどりの人だとでもいえばいいのだろうか。
ニュー速といえば、絶望している者か、怒っている者、見下している者。
種類はあったが、どれもこれも似たような色をした表情であったし、見ていて楽しいものではなかった。
それが的芽ではどうだ。
一日中町を眺めているだけでも飽きないとまたんきは確信する。
- 741 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 16:05:10.18 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「どの宿屋にする?」
(´<_` )「的芽にまでくれば、よっぽど酷いか、高級か、でなけりゃ、どこでも一緒さ」
( ´_ゝ`)「なら、手短に済ませるか」
豪華な服を着る耳族の二人に、彼らと手を繋いでいる質素な服を着た人間の子供。
傍から見れば、奇妙な組み合わせに見えなくもない。
だが、首都である的芽には奇特な者も多くいるので、存外目立つことはなかった。
流石兄弟に手を引かれながらも、またんきは町の様子を眺めている。
宿屋の話や食事の話が出ても、意識がそちらに向くことはない。
( ^ω^)「こんなちょうしでだいじょうぶかお……」
( ´_ゝ`)「大丈夫だって。明日になれば慣れるさ」
目新しいのは最初だけだ。
思わず思考が停止してしまうほどのものならば、収まるのはなおさらに早い。
- 744 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 16:07:59.60 ID:EHpwtljV0
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人の出入りが激しい的芽は、宿屋が豊富だ。
小さな町でも、一、二件の宿屋を見つけることができる。
今回、彼らが選んだ宿屋は、レベルも値段も平々凡々な所だった。
(・∀ ・)「……」
そこでもやはりまたんきは無言を貫く。
清掃が行き届いている宿屋をじっと見る。
板の床ではなく、絨毯が引かれた床。
白い壁にはタペストリーがかかっている。
端には観葉植物が置かれており、窓にかかっているカーテンにはしわ一つない。
('A`)「イクゾー?」
手を引かれても、動くことを忘れていたまたんきに、ドクオは耳もとで声をかける。
返事も驚いた様子もなかったが、言葉を理解することだけはできたらしく、
またんきは緩慢な動作で足を進めていく。
- 747 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 16:09:48.38 ID:EHpwtljV0
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宿屋の奥に進み、部屋へ向かっている最中、またんきはあることに気づいた。
廊下で横に広がって歩くわけにもいかないので、今は兄者がまたんきの手を引いている。
その兄者の前に、もう一人、誰かいる。
女のようだが、見覚えはない。
内心、首を傾げる。
すると、彼女はとある部屋の前で立ち止まり、何かを告げてから兄者に鍵を手渡した。
そしてお辞儀を一度して、またカウンターへと戻って行く。
彼女の言葉がわからなかったのは、声が小さかったからではなく、またんきの意識が声を拾わなかったからだ。
去って行く彼女を見て、またんきは衝撃を受けた。
知識はなかったが、理解はできた。
おそらく、彼女は五人を部屋まで案内してくれたのだ。
ニュー速ではそんなことをしてもらったことがない。
港町の宿屋でさえ、カウンターで鍵を渡して終わりだった。
衝撃的だった。場所が変われば、対応も変わってくる。
灯南と的芽を見比べればわかりそうなものだが、ここにきてまたんきは始めて気づいたのだ。
- 748 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 16:12:24.42 ID:EHpwtljV0
-
( ^ω^)「べっどー!」
(´<_` )「お前はどうせベッドで寝ないだろ」
('A`)「ダカラコソ! イマ! タンノウスル!」
精霊の二人がベッドへ突進する。
安価なベッドとはいえ、ニュー速のものと比べればすべてがふわふわしている。
( ´_ゝ`)「中々いい部屋だな」
三つのベッドに二つのソファ。
壁には絵画のレプリカが飾られ、備え付けのチェストにはメモ帳が置かれている。
( ^ω^)「ばんごはんはどうするお」
(´<_` )「ここで出してくれるのを食べる」
('A`)「マトメッテ、ナニガトクサンダッタッケ」
( ´_ゝ`)「そりゃ、.オムライスだろ」
(´<_` )「特産ではないだろ……」
- 753 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 16:14:50.45 ID:EHpwtljV0
-
( ´_ゝ`)「そうだ。またんき」
兄者が声をかける。
しかし、部屋の内装に夢中になっているまたんきは返事をしない。
( ^ω^)「まだじかんがかかりそうだお」
( ´_ゝ`)「うむ。しかし、それでは困る」
一瞬、真剣な顔をした兄者は、またんきの肩に手を置いた。
顔を合わせ、左右で色の違う彼の瞳を真っ直ぐに捉える。
( ´_ゝ`)「またんき。オレと弟者、ブーンとドクオは今夜、ちょっと仕事に行ってくる。
お前はここで留守番をしていてくれ」
(・∀ ・)「……え?」
町について始めて言葉を発した。
だが、その声は喜びを表すものではない。
(´<_` )「お前を連れて忍び込むわけにもいくまい」
(;・∀ ・)「な、なんで!」
彼らの言う「仕事」が、盗みであることは重々承知している。
黙っていろと言われれば黙っているし、じっとしていることもできる。
邪魔などしない。
- 756 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 16:16:35.54 ID:EHpwtljV0
- ('A`)「アブナイダロ」
(;・∀ ・)「ドクオもブーンもいくんだろ?」
( ^ω^)「ぼくらは、なれてるお。
あと、ちいさいから、こまわりもきくお」
(´<_` )「二人がいないと、オレの能力も半減するしな」
五属性を使えるとはいえ、相手の隙をつくならば闇と光がある方がいい。
となれば、留守番はまたんきだけとなる。
正論ではあるが、またんきも二つ返事で了承することはできない。
(#・∀ ・)「おれがじゃまなのか!」
(;'A`)「ソウイウワケジャ……」
( ´_ゝ`)「端的に言えばそうなるな」
ドクオのフォローも虚しく、兄者が言いきってしまう。
先ほどまで、好奇心に輝いていたまたんきの瞳に暗い色が落ちる。
- 760 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 16:19:07.55 ID:EHpwtljV0
-
( ´_ゝ`)「お前がどういう特性を持っているのかはまだわからん。
だが、見る限りは人間とそう変わらないだろ」
小さな体。羽根はない。
その姿は、弱い人間の子供にしか見えない。
(´<_` )「耳族のような身体能力も、精霊使いの魔法も、精霊としての力もない。
まして、お前はまだ未成熟な子供だ」
できることは限られてくる。
単純な遊びにならばいくらでも連れて行ってやれるが、今宵は遊びに出かけるわけではない。
向かう先は金持ちの屋敷で、そこで行われることは、まごうことなき犯罪だ。
失敗の可能性は一つでも減らしておきたい。
また、どのような罠があるかわからぬ場所に幼い者を連れていくのは良心が咎める。
(・∀ ・)「でも!」
( ´_ゝ`)「すぐに戻るさ」
(・∀ ・)「……」
またんきは唇を噛む。
好きに生きろと言った兄者がまたんきを止める。
矛盾というよりは、またんきの願い以上に兄者は己の願いを優先させているだけだ。
彼もまた、好きに生きている。
- 764 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 16:21:52.01 ID:EHpwtljV0
- (・∀ ・)「…………わかった」
何を言っても無駄だ。
諦めることが上手いまたんきはうなだれるように頷いた。
(´<_` )「すまんな。
月が沈み始める頃には戻ってくる」
頭を撫でようとした弟者の手をまたんきは払う。
腹が立っていることを体全体で表現している。
それを見ている兄者は笑う。
どうみても子供としか見えない行動だ。
地下で育っても、ハーフでも、子供のすることは変わらない。
( ^ω^)「あにじゃが、にゅーそくでとったおかねを、ばらまかなきゃ、こうはならなかったお……」
港町で取ったお金は全て海へ出る前にばらまかれた。
町から出る際、路地裏を通りながら札を振りまいていく姿は、ブーンが好むものではあるが、
悲しげなまたんきの背中をみていると、あれが正解だったともろ手を上げる気になれない。
- 768 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 16:23:52.22 ID:EHpwtljV0
-
( ´_ゝ`)「現地調達できるんだから、持っておく必要ないだろ」
(;'A`)「ゲンチチョウタツッテ……」
問題のないように思われる言い回しを使っているが、
兄者にとっては誰が持っている金も関係なく、そこいらに落ちている金と同意義だということに他ならない。
流石のドクオもどん引きだ。思考回路はともかく、それを堂々と口にしてしまう辺りに。
(´<_` )「ほーら。またんき、そういうときの顔はこれだぞ」
(・へ ・)
屈んだ弟者がまたんきの口角を下げる。
鬱陶しそうに手を払われては、また手を伸ばすの繰り返しだ。
(;^ω^)「そろそろ、ほんかくてきにおこられるお」
(´<_` )「いや、何か楽しくて」
(#・へ ・)
(´<_`;)「うおっと」
突如、またんきが牙を向く。
寸前のところで手を引いた弟者はブーンを見る。
( ^ω^)「だから言ったんだお」
(´<_` )「まさかすぎるだろ……」
- 771 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 16:26:05.81 ID:EHpwtljV0
-
またんきの機嫌は、夕飯時にもなおっていなかった。
町についたときとは違う理由で口を閉ざしている。
( ´_ゝ`)「そんな顔してたら、せっかくの飯が台無しだぞ?」
五人の前にはオムライスが並んでいる。
一口にオムライスとは言っても、その種類は様々だ。
プレーンなものから、チーズがかかっているもの、中のご飯にキノコが入っているもの。
オムライスが持つ無限の可能性が、五人のテーブルには集約されている。
( ^ω^)「まとめのおむらいすはおいしいんだお」
('A`)「ナンツッテモ、クニノショウチョウダカラナ」
特別に用意してもらった小さなスプーンを手に二人が言う。
またんきは不機嫌な顔はそのままに、オムライスへ視線を落とす。
( ^ω^)「おいしいお」
迷うまたんきを放って、弟者と兄者はオムライスに口をつけ始める。
欠けたオムライスから、とろりとタマゴが垂れる。
(・∀ ・)「……」
どれだけ拗ねていても、怒っていても、腹は減る。
またんきはオムライスの誘惑に負けた。
- 774 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 16:28:55.49 ID:EHpwtljV0
-
(・∀ ・)「……おいしい」
またんきのオムライスはプレーンだった。
シンプルだが、それゆえにタマゴやご飯の味が直に伝わってくる。
('A`)「ダロ?」
(´<_` )「オムライスが不味い店なんて、的芽にはないぞ」
( ´_ゝ`)「反逆罪に問われてもしかたないからな」
冗談口調で言うが、反逆罪という言葉が出るには、相応の事情があるのだろう。
ドクオもオムライスが国の象徴だと言っていた。
腹立たしさと好奇心を天秤にかける。
(・∀ ・)「なんで、オムライスがまずいとだめなんだ?」
天秤は傾いた。好奇心の方が重かった。
- 777 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 16:30:45.27 ID:EHpwtljV0
-
待ってましたとでも言いたげに、兄者が口角を上げる。
( ´_ゝ`)「この国の王様がどこにいるか知ってるか?」
(・∀ ・)「しらんぞ」
物語の中では、王様は城にいる。と、だけかかれていた。
それがどこにあるのかなど、またんきが知っているはずがない。
(´<_` )「この国の中心、首都。そこにあるオムライス城だ」
(・∀ ・)「オムライス……」
( ´_ゝ`)「そう。オムライスだ。
料理が先か、城が先かは知らんが……まあ、料理が先だろうな」
('A`)「オムライスジョウハ、スゴイゾ」
(・∀ ・)「あのかべよりもか?」
( ^ω^)「すごいお!」
(・∀ ・)「みてみたいぞ!」
またんきの瞳に光が入る。
- 779 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 16:33:32.39 ID:EHpwtljV0
- ( ´_ゝ`)「なら、明日は城を見に行こう。
ドラゴンの背に乗れば、小一時間で着く距離だ」
(´<_` )「この国に生きてる者なら、一度は見ておかないとな」
明日、話に聞いたオムライス城が見れる。
またんきの心はそれだけで楽しく踊る。
笑みを浮かべながら食べるオムライスはさらに美味しい。
口の中でバラける米も、舌先で感じるケチャップの味も、誰が食べたとしても美味いとしか言えないものだ。
( ^ω^)「こっちもひとくちたべるかお?」
(・∀ ・)「食べる!」
ビーフシチューがかけられたオムライスを食べる。
先ほどのものとはまったく違う味。しかし、これも美味しい。
(´<_` )「機嫌、なおったみたいだな」
( ´_ゝ`)「いや……。あれは、忘れてるだけだろ」
舌鼓を打っているまたんきを前に、二人は小声で言葉を交わす。
一時のことにせよ、食事は笑顔であるべきだ。
流石兄弟は余計なことを言わぬように、己のオムライスを口に入れた。
- 782 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 16:36:17.59 ID:EHpwtljV0
-
(・∀ ・)「……」
夜、人々が寝始める時間。
またんきは部屋の中で腕を組んでいた。
(´<_`;)「すぐ帰ってくるって」
困り顔で弟者が言うものの、またんきは彼の顔を見ようとさえしない。
そっぽを向いて、ご機嫌斜めだ。
( ´_ゝ`)「いくら言ってもしかたないだろ。
さっさと行って、さっさと帰ってくるのが一番だ」
('A`)「マァ、ソウダロウナ」
頭ではわかっていても、実行に移すのは難しい。
兄者に言われて腰を上げた弟者と違い、ブーンは未だにまたんきの周りを飛んでいる。
('A`)「ブーン、イコウゼ」
(;^ω^)「で、でも……」
- 784 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 16:39:07.33 ID:EHpwtljV0
-
(´<_` )「心配だが、オレ達と行くより、ここにいる方がずっと安全だろ?」
( ^ω^)「お……」
( ´_ゝ`)「よし。行こう」
(;^ω^)「へんじしてないおー」
ブーンの返事を待たずして、兄者は部屋を出る。
一瞬、迷ったが、ブーンも後を追う。
兄者の言うとおり、宿屋は安全だ。それも、的芽ともなれば治安もいい。
わざわざ犯罪行為の現場に連れて行く必要はまったくない。
今は拗ねているが、帰ってきてから機嫌をとれば問題ないだろう。
明日も楽しく、好奇心がくすぐられる一日になるのだから、いつまでも拗ねてはいられないはずだ。
最後に弟者が部屋を出て、扉が閉まる。
その音は、静かな部屋に重く響いた。
- 786 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 16:41:31.01 ID:EHpwtljV0
-
( ´_ゝ`)「よっ」
高い塀から地面へ着地する。
兄者の隣に弟者が降りるが、彼も音をたてない。
(´<_` )「今回の目標確認」
( ´_ゝ`)「金品」
( ^ω^)「ふく」
('A`)「イジョウ」
(´<_` )「オーケー。じゃあ、進むぞ」
流石兄弟が駆ける。
目的の屋敷はこの町の中で一番大きなものだ。
犬が何匹かいたので、口を縄で縛らせてもらった。
( ´_ゝ`)「さて、選択肢を提示しよう。
その一、窓を割る。
その二、鍵が開いている場所を探す。
その三、窓を溶かす」
(´<_` )「その四、ピッキングで。
というか、その三はどうやって実行するつもりだったんだ」
- 787 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 16:44:23.55 ID:EHpwtljV0
-
( ´_ゝ`)「そりゃ、お前の魔法で」
(´<_` )「ニュー速から離れてるし、火力が足りん」
そう言いつつ、兄者にピッキングの道具を渡す。
玄関の鍵を慣れた手つきで弄る。
( ^ω^)「どうだお?」
( ´_ゝ`)「この兄者様に、不可能はない。と、何度言わせれば気がすむ?」
不敵な笑みを浮かべ、ノブを回す。
('A`)「サスガダナ」
( ´_ゝ`)b「だろ?」
扉は何の障害もなく、四人を受け入れた。
屋敷の主人から使用人に至るまで眠りについているらしく、中は暗い。
- 791 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 16:46:16.70 ID:EHpwtljV0
-
( ^ω^)「ひかり、いるかお?」
(´<_` )「いや、今はいい」
小さな明かりでも、屋敷の者にばれてしまう可能性がある。
バレたところで盗みを止めるつもりはないが、殺人強盗よりは、ただの盗みの方が楽しい。
('A`)「ジャア、オレノデバンダナ」
ドクオが弟者の前に出る。
(´<_` )「そうだ。頼むぞ」
('A`)「マカセロ。
……トハイッテモ、ジュモンヲトナエルノモ、マホウヲツカウノモ、オトジャダケドナ」
(´<_` )「闇の精霊、ドクオと契約せし我が命ず。
光のない屋敷の闇よ、漂う闇よ。
この屋敷を我に伝えよ」
この魔法の不便なところは、膨大な集中力を必要とする他、使用する闇が精霊使いのすぐ近くになければならない点だ。
遠方からでも使うことができれば、あらかじめ探っておくことも可能だろうに。
( ´_ゝ`)「そんなに範囲を広げて大丈夫か?」
('A`)「タブン、イマハキコエテナイ」
( ´_ゝ`)「あー。だろうなー」
- 792 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 16:48:40.52 ID:EHpwtljV0
-
扉の罠を見るのとはわけが違う。
広い屋敷の見取り図や内装が、頭の中に直接叩きこまれていくのだ。
歯も食いしばりたくなる。
( ´_ゝ`)「……罠はなさそうだな」
辺りに軽く触れて呟く。
何かあったときのことは考えていない。
( ^ω^)「ふつうのおやしきだからおね」
厳重に隠さなければならない何かがあるわけではない。
無論、金品が盗まれるのは困りものだが、そのための番犬と錠だ。
('A`)「チョット、ミマワリシテコヨウカ?」
( ´_ゝ`)「バレるなよ」
('A`)「マカセロ」
闇の精霊であるドクオは暗闇でも目が利く。
体も小さく、闇に紛れる色合いをしているので、兄者やブーンよりも他者にバレる確率が低い。
- 795 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 16:50:47.68 ID:EHpwtljV0
-
扉が閉まっているところは入れないが、それ以外の場所をぐるりと見て回る。
極普通の上流家庭のようだ。
流石兄弟に目をつけられたのは、不運でしかない。
('A`)「オワッタ?」
( ´_ゝ`)「そろそろじゃないかと。
そっちはどうだ?」
('A`)「トクニナニモ。
スミズミマデ、キレイダッタ」
( ^ω^)「かせいふさんが、がんばってるんだお」
(´<_`;)「把握しきれたぞ」
( ´_ゝ`)「お疲れー」
疲れ切ったような声が闇に溶ける。
行き当たりばったりでの行動をしても、兄者は乗り切る自信がある。
弟者もそれができると信じている。
しかし、心配性の弟者が石橋を叩くというのならば、兄者はそれを止めない。
自分は弟に、労わりの言葉をかけるだけでいいと思っている。
- 800 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 16:52:58.44 ID:EHpwtljV0
-
(´<_` )「金目の物は一階の奥。
衣装部屋は二階だ」
( ´_ゝ`)「手分けするか?」
( ^ω^)「そのほうが、はやくかえれるお」
('A`)「マタンキガ、マッテルシナ」
満場一致で可決する。
残る問題は、どのように分かれ、どこに行くかだ。
(´<_` )「ブーンはオレときてくれ。
オレとお前がいれば、明かりを出すことができる。
兄者はドクオの目を頼りに進んでくれ」
( ´_ゝ`)「把握した」
( ^ω^)「じゃあ、ぼくとおとじゃは、どこにいくお?」
弟者は少し考える。
(´<_` )「……兄者は金目の物を頼む」
( ´_ゝ`)「それは構わないが、その間は何だ。その間は」
- 802 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 16:54:39.82 ID:EHpwtljV0
- (´<_` )「いや……。
兄者はとんでもない服を持ってきそうだな。と……」
( ´_ゝ`)「オレのセンスに文句をつけるのか」
(´<_` )「そうじゃなくて、面白い服があったら、そっちを優先しそうだ」
( ´_ゝ`)「……」
( ^ω^)「ひていできないんだおね」
('A`)「マチガイナイナ」
( ´_ゝ`)「さて、素晴らしい宝石でも探そうか」
かくして、チーム編成と目的地が決定した。
- 804 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 16:56:58.12 ID:EHpwtljV0
-
弟者は手短に金目の物が集まっている場所を告げる。
人の気配がない場所ではあったが、扉を二枚ほど抜けなければならない。
音をたてるなど、初歩的なミスを兄者がするとは思えないが、念のために注意しておく。
( ´_ゝ`)「大丈夫だって。
んじゃ、また後で」
兄者は音もたてずに去って行く。
見えはしないが、おそらくは彼が向かっているであろう方を向いていた弟者は、少しの間を置いてからその場を去る。
向かう先は二階の衣裳部屋だ。
魔法で知ったこの屋敷の見取り図を頼りに歩く。
( ^ω^)「ひかりはいいのかお?」
(´<_` )「衣裳部屋で少し使うが、それ以外は極力使いたくない」
ドクオのように闇の中でもよく見える目をブーンは持っていない。
下手に飛ぶのも危ないので、弟者の肩の上に乗っている。
静かな屋敷で活動しているのは、自分だけなのではないかと思うほど、そこは静かだった。
一階には兄者がいるのだが、物音は聞こえない。
仮に、屋敷の者の意識が眠りから浮上したところで、まさか盗人が入っているとは思わないだろう。
- 808 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 16:59:13.56 ID:EHpwtljV0
- 無駄に長い廊下は、金持ちの特権だ。
弟者は階段からの歩数を慎重に数える。
(´<_` )「――確か、ここのはずだ」
壁に手をつく。
手を横にずらしていくと、壁とは違う材質に触れる。おそらくは扉だ。
扉の辺りを探れば冷たいノブがあたる。
(´<_` )「光の精霊、ブーンと契約せし我が命ず。
彼が作り出す光よ、闇夜を薄く照らせ。
一筋の光で導け」
いつか出した光の玉とは違い、一筋の光が現れる。
弟者はその光をわずかに開けた扉の隙間に差し込む。
( ^ω^)「……いしょうべや、だお」
(´<_` )「よし。入るぞ」
間違いでないことを確認すると、光を消して素早く部屋の中に身を入れた。
- 811 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 17:00:56.26 ID:EHpwtljV0
-
(´<_` )「光の精霊、ブーンと契約せし我が命ず。
彼が作り出す光よ、闇夜を薄く照らせ。
闇に呑まれた我らを救え」
再び呪文を唱える。
今度は、光の玉が出現した。ただし、その光は淡く、二歩も離れれば闇が待っている。
( ^ω^)「なんちゃく、くらい、さがすお?」
(´<_` )「二、三でいいだろ。多くても邪魔になるだけだ」
( ^ω^)「りょうかいお」
(´<_`;)「あ、待て」
「あー。みえないおー」
(´<_`;)「だと思った。
何で手分けしようとしたんだ」
(;^ω^)「つい……」
- 813 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 17:02:58.32 ID:EHpwtljV0
- 衣裳部屋には様々な服がかけられている。
装飾の少ないものから、それほどついていては満足に動けないのではないかと疑うようなものまである。
弟者とブーンが狙うのは、前者だ。
さらにいうならば、子供用の服。
( ^ω^)「このあたりは、おとなよう、だおね」
(´<_` )「子供用はどこかなっと」
この屋敷に子供がいるのはわかっている。
どこかに小さな服があるはずだ。
仕事の早い兄者との待ち合わせもある。
あまり時間をかけているわけにもいかない。
わずかな光を頼りに、服の大きさを見分ける。
数多くあるであろう子供服の中から、二、三着を選ぶ必要もある。
一分一秒の時間が惜しい。
- 816 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 17:04:41.13 ID:EHpwtljV0
-
( ^ω^)「あったお!」
(´<_` )「本当だ。
……中々に多いな」
大人のもの程ではないが、子供服の数も膨大だ。
やはり目が止まるのは煌びやかな装飾品がつけられた服だが、それは今回の趣旨に合わない。
豪勢なその服を押しのけるようにして、弟者は自分がイメージするようなものに近い服を探す。
邪魔な装飾はなく、無駄に金持ち臭くない物。
できることならば、子供らしい色合いがいい。
子供らしく笑い、泣き、怒ることが似合うように。
(´<_` )「まったく……。
どうして金持ちってのは、こうも服が多いのかね」
布の海をさまよっているような感覚に、弟者は毒を吐く。
目の前にある布をすべて燃やすことができれば、どれほどスッキリするだろうか。
(;^ω^)「めがすわってるお……」
危ない雰囲気を感じ取ったブーンは、服探しのスピードを速めた。
- 819 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 17:06:42.22 ID:EHpwtljV0
-
( ^ω^)「お?」
小さなブーンの手が触れた服。
肌触りは他の服と同じく良い。
色は、見えにくいがオレンジだろう。
羽ばたき、どうにか掴んだ服を引きずり出そうとする。
(´<_` )「いいのがあったか?」
必死な顔をしているブーンに気づいた弟者が、あっさりと彼が掴んでいた服を抜き取る。
(´<_` )「……お手柄だ」
弟者が口角を上げる。
彼の手の中にある服は、無駄な装飾がなく、しかし、目を凝らせば質の良い物であることがはっきりとわかるものだった。
サイズもまたんきに合うに違いない。
( *^ω^)「もういっちゃくも、ぼくがさがすお!」
褒められたことに気を良くしたブーンは、再び布の海へ入り込む。
目指すは、先ほどの服と似た傾向の服だ。
- 821 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 17:09:13.19 ID:EHpwtljV0
-
一方、兄者はドクオの目を頼りに屋敷を歩いていた。
('A`)「オトジャタチ、ダイジョウブカナ」
( ´_ゝ`)「何を心配してるんだ。
弟者ほど慎重な耳族はいないぞ」
('A`)「ソリャソウダケド」
耳族の多くは、その時を生きる。
弟者は生まれたときから、兄者という飛び抜けた無鉄砲が傍にいたから、あれほど慎重な者になったのだろう。
いつかストレスで毛が抜けてしまうのではないだろうか。と、ドクオは密かに心配していたりする。
( ´_ゝ`)「で、そろそろか?」
('A`)「ソコカラニホ。トビラガアル」
二歩を慎重に歩き、兄者はノブを回す。
小さなドクオが通れるだけの隙間を開ける。
('A`)「マッテテナ」
ドクオが扉の内側に入る。
兄者はじっと息を潜めて待機していた。
- 823 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 17:11:54.39 ID:EHpwtljV0
-
('A`)「ウン」
素早く移動する。
広い廊下なので、物にぶつかる心配があまりない。
静かに進んでいると、前方から音がした。
( ´_ゝ`)「ドクオ、上だ」
小声で指示すると、兄者は跳躍した。
自らの羽で天井近くまで昇ったドクオの隣に、兄者は身を置く。
天井にナイフを突き立て、重力に逆らったのだ。
頭に血が上るが、それを気にしていては盗賊は務まらない。
しばらくじっとする。
緊張感が体中を支配し、兄者は思わずニヤける。
再び、扉が開く音と閉まる音がして、兄者は天井からナイフを抜いた。
( ´_ゝ`)「さぁ、進もう」
どうやら、音の主は用を足しに行っただけのようだった。
またしばらくは眠りについているだろう。
- 824 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 17:14:24.31 ID:EHpwtljV0
-
('A`)「ココ」
( ´_ゝ`)「よーし。鍵は……ないな」
兄者はノブを回し、部屋の中に身を滑り込ませる。
( ´_ゝ`)「闇に目が慣れてきたとはいえ、近づかないと見えん。
ドクオ、適当に見繕ってくれ」
そう言って、空の袋を手渡した。
('A`)「ハアクシタ」
金の匂いに鼻をひくつかせながら、兄者は辺りを物色する。
手に触れる金属に顔を近づければ、それがどのような物なのかわかった。
金であったり、宝石であったり。
ここにあるものは、装飾品の類のようだ。
ついでに金庫でもないものかと、また手をさまよわせる。
- 826 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 17:16:45.35 ID:EHpwtljV0
-
('A`)「イレタゾ」
手渡された袋にルビーやサファイア、ダイアモンドをあしらえた装飾品をたっぷり詰め込んだ。
ドクオに誘導されて兄者が袋に触れる。
( ´_ゝ`)「良い物ばかりだ。
お前も目が肥えてきたな」
('A`)「イッショニ、シゴトヲシテレバナ」
当然だと言いたげに、しかし胸を張って答える。
兄者は闇の中でどうにか確認した装飾品を袋に戻す。
それを腰のベルトにつけ、ドクオを招く。
('A`)「ドウシタ?」
( ´_ゝ`)「金庫」
兄者は楽しげに笑い、壁に隠されていた黒い箱を撫でる。
中身は開けてからのお楽しみ。しかし、ハズレはない。
- 829 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 17:19:05.38 ID:EHpwtljV0
- 本来の目的は金ではない。しかし、貰える物は貰っておきたい。
兄者はダイアル式の鍵に手を伸ばす。
('A`)「ジカンガ、アマリナイゾ」
( ´_ゝ`)「兄者様を信じろ」
金庫に耳をあて、集中力を高める。
弟者もそうだが、兄者も集中すると周りの音を遮断する傾向にある。
こうなってしまっては止められない。
('A`)「アトデ、オコラレテモ、シラナイゾ」
ドクオはため息をつきながら、近くの机に腰を下ろした。
静かな空間は闇に支配されている。
ドクオの目が暗さに弱ければ、今頃一人っきりの気分を味わうところだっただろう。
わずかな音も聞き逃さないためか、今の兄者は呼吸の音さえ潜めている。
待っているドクオの耳には何も聞こえないが、兄者には金庫の鍵が少しずつ開いている音が聞こえているのだ。
- 833 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 17:21:18.46 ID:EHpwtljV0
-
( ´_ゝ`)「――開いた」
楽しげな声だ。
ドクオは机から離れ、金庫の中身を覗く。
( ´_ゝ`)「現金か。
契約書もあるが……こっちはいいや」
現金だけを掴み、装飾品が入っている袋とは別の袋に詰める。
金に対する敬意など微塵もない乱暴な手つきだ。
('A`)「モドロウ」
( ´_ゝ`)「そうだな。
あまりにも遅いと、弟者の説教が長くなる」
('A`)「セッキョウヲ、ウケルコトガ、ゼンテイカ」
無駄な時間を使った自覚はあるのだろう。
反省はしていないようだが、その辺りのことは弟者に任せるべきだろうとドクオは判断した。
- 834 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 17:22:59.34 ID:EHpwtljV0
-
別れた場所に兄者が戻ると、そこには既に弟者とブーンがいた。
彼らを始めに見つけたのはやはりドクオだった。
('A`)「オソカッタカ?」
(´<_` )「ちょっとな。
どうせ、兄者が余計なことをしたんだろ。すまんなドクオ」
弟者にはお見通しのようだ。
ドクオの後を追ってきていた兄者は肩をすくめる。
( ´_ゝ`)「余計なことじゃないぞ。現金だ」
(´<_` )「詳しい言い訳と説教は帰ってからにしてやろう」
説教をすることは確定したらしい。
兄者はうなだれ、四人はドクオを先頭に屋敷を出た。
庭にいた犬の口はそのままに、来たときと同じく塀を越えて外へ出る。
- 837 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 17:25:13.53 ID:EHpwtljV0
-
(´<_` )「時間をかけたんだ。上手くいったんだろうな?」
( ´_ゝ`)「あったりまえ!
装飾品と現金。金庫は閉じてもう一度隠したから、いつ気づくかはわからんが、
これだけ盗めば、服の二着や三着、気にもならないだろうよ」
宿屋への道を歩きながら二人は言葉を交わす。
もう真夜中なので、誰も町を歩いていない。
的芽にある町の多くは、夜になれば人っ子一人いなくなる傾向にあった。
彼らはそれを知っているからこそ、盗みの話を気兼ねなくする。
また、弟者は盗んだ服を平然と手にしたまま歩いている。
(´<_` )「なら、誰かがこの服を着ていても、気にならんだろうな」
( ´_ゝ`)「そうさ。誰も服なんて見ていない」
('A`)「マタンキ、ヨロコブカナ」
( ^ω^)「あした、またんきがおきるのが、たのしみだお」
子供は寝る時間だ。
近頃は規則正しい生活をしているまたんきは、今頃眠りの底だろう。
ブーンは明日に心をときめかせる。
- 838 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 17:27:46.10 ID:EHpwtljV0
-
宿屋に戻った四人は、静かに己達の部屋へ向かう。
誰かに見つかれば、こんな時間に何処へ行っていたのかを問い詰められてしまう。
手や腰にある盗品を見られれば、言い逃れはできない。
屋敷に入ったときと同じくらいの緊張感を持って歩く。
幸い、ボロい建物ではないので、足音はたたない。
( ´_ゝ`)「静かにな」
兄者が人差し指を口に当てる。
眠っているであろうまたんきに対する配慮だ。
('A`)「ナンカ、ヤシキニイルトキヨリ、キヲツカッテルナ」
屋敷の者など、起きたところで口を封じてしまえばお終いなところがある。
けれど、またんきの場合はそうするわけにはいかない。
穏やかな眠りを妨げるなどもってのほかだ。
仲間には甘いところがある兄者だが、それにしてもまたんきには甘い。
やはり子供であるというところが大きいのだろうか。
弟者は苦笑いを浮かべながら、そっと扉を開けた。
- 842 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 17:32:13.86 ID:EHpwtljV0
-
(´<_`;)「うおっ?!」
弟者が後ろによろける。
( ´_ゝ`)「どうした――。
またんき?」
兄者が首を傾げる。
よろけた弟者の腰には、またんきがしがみついている。
どうやら寝ていなかったようだ。
( ^ω^)「どうしたんだお? なにかあったのかお?」
('A`)「コワイユメデモ、ミタノカ?」
口々に疑問を投げかける。
しかし、またんきは弟者の腹に顔を埋めたまま首を横に振るばかりだ。
(´<_`;)「ひとまず、部屋に入ろう。な?
お前に土産もあるんだ」
またんきの肩を掴み、そう言うと、彼は渋々弟者から離れた。
泣いているのではないかと思っていたのだが、離れた顔はいつも通りだった。
- 846 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 17:34:08.00 ID:EHpwtljV0
-
(´<_` )「それで、どうしたんだ?」
(・∀ ・)「……」
部屋の扉を閉めて問いかける。
またんきは黙したままだ。
機嫌が悪いようには感じられない。
('A`)「ホレ、オマエノ、フク、ダゾ」
ドクオが盗ってきた服を少しだけ持ち上げる。
流れるような布は美しい。
(・∀ ・)「……」
けれど、またんきは何も話さない。
笑みを崩さずに沈黙を保っている。
彼一人で部屋の空気が重くなることはないが、ブーンなどはいたたまれない気持ちになってしまう。
( ´_ゝ`)「言わないとわからんぞ。
早く言え。じゃないと、オレは寝るぞ」
(;^ω^)「あにじゃ……」
(´<_`;)「流石だな……」
甘いとはいえ、兄者は兄者だった。
- 848 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 17:36:45.78 ID:EHpwtljV0
-
(・∀ ・)「……おれ、きめたぞ」
( ´_ゝ`)「何をだ?」
ようやく口を開いたまたんきは、鋭い目を兄者に向けた。
(・∀ ・)「おれもとうぞくになる。
まほうも使えて、ぬすみだってりっぱにできる。
そんなとうぞくになるぞ!」
置いていかれたのがよっぽど悔しかったらしい。
またんきはハッキリと意見を主張した。
兄者は元々またんきを盗賊にするつもりでいた。
彼が強く他を望むのならばともかく、そうでない限りは共にいるのだ。
同じ仕事をするのが自然というものだろう。
( ´_ゝ`)「またんき」
(・∀ ・)「何だ」
しかし、こうもハッキリと主張されれば、喜びも生まれる。
結びつきが強くなっていることが、目に見えてわかる。
- 850 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 17:39:04.50 ID:EHpwtljV0
-
( ´_ゝ`)「置いていかれたのが、そんなに嫌だったのか」
(・∀ ・)「おう」
( ´_ゝ`)「そうか。わかった」
兄者は盗んだ装飾品と、現金をベッドの上にバラ撒く。
暗闇ではわかりにくかったが、盗んできた品はどれもまばゆい輝きを持っていた。
( ´_ゝ`)「国を回り終わるまで、これで過ごそう!」
その言葉に弟者が驚く。
金は使うもので、消え去るものとしている兄者が、しばらく金を持つというのだ。
( ´_ゝ`)「お前と一緒に盗みに行く。
それまでは金に困ってもスリしかしない」
(・∀ ・)「いかないのか……?」
( ´_ゝ`)「あぁ! 旅すがら盗みの方法や体作りを教えてやる。
そんで、ニュー速でデビューだ! それまで、盗みには入らない」
(*・∀ ・)「うそじゃないだろうな!」
またんきが笑う。
楽しそうに、嬉しそうに。
心の底から。
- 851 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 17:41:51.60 ID:EHpwtljV0
-
(´<_` )「――あ」
子供みたいだ。
そう思って、すぐに考えを打ち消す。
またんきは子供だ。
( *´_ゝ`)「またんき!」
(;・∀ ・)「うわ!」
兄者がまたんきを抱き上げる。
( *´_ゝ`)「笑ったな? 心から、笑ったな?」
(;・∀ ・)「しらないぞー」
( *´_ゝ`)「いーや。オレは見た。
弟者も見ただろ?」
(´<_` )「見たぞ。アレは、笑顔だった」
( ^ω^)「わらってたお」
('A`)「ハジメテミタ」
- 854 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 17:43:56.93 ID:EHpwtljV0
- 作り物の笑顔ではない。
本当に嬉しいから、自分が笑いたいから笑った顔だ。
( *´_ゝ`)「よしよし。一歩前進だな!
なら、今日は前進を祝して一緒に寝るぞ!」
(;・∀ ・)「まえ、いっしょにねるって、いわないっていってたくせに!」
( *´_ゝ`)「知らん。知らん。
ほら、弟者もドクオもブーンも寝るぞ。
明日は新しい服を着て、オムライス城に行くんだからな!」
またんきを抱えたまま、兄者は何も乗っていないベッドにもぐりこむ。
(´<_`;)「オレはともかく、こんな密着した状態だと、
ドクオとブーンは潰れるぞ」
弟者もベッドに入る。
いつも通り、またんきを挟みこむ形だ。
(;^ω^)「つぶされるのはこまるお」
('A`)「チカクデネルワ……」
- 855 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 17:45:05.16 ID:EHpwtljV0
- (・∀ ・)「……あにじゃ」
( ´_ゝ`)「ん?」
ベッドの中で、またんきが小さな声を出す。
(・∀ ・)「さっきいってたの、ほんとうか?」
( ´_ゝ`)「盗みに入らないのも、技術を教えてやるのも、本当だ」
(*・∀ ・)「そっか」
(´<_` )「二人とも、さっさと寝ろよー」
( ´_ゝ`)「はーい。弟者せんせー」
(・∀ ・)「ねるぞー」
(-∀ -)
笑えたことが嬉しかった。
笑顔を他の皆が喜んでくれたことが嬉しかった。
【後編】へ続く
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